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シナリオ詳細

<祓い屋>記憶の夢路

完了

参加者 : 35 人

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オープニング


「妖刀、無限廻廊の本霊は――『廻の中』にある」

 赤く炎の揺らめきを見せる『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)の瞳。
 それを真正面から受けて、湖潤・仁巳と煌星 夜空は息を飲んだ。
 燈堂本邸の和リビングに集められた門下生に暁月は告げる。本霊の在処を。
「廻さんの中?」
 どうしてと視線を返す夜空から逃げるように暁月は瞳を僅かに伏せる。
「死にかけた廻を救うために必要だったんだよ」

 練達国再現性東京『希望ヶ浜』地区――
 希望ヶ浜はファンタジー世界である無辜なる混沌でも特に異質な場所である。
 自分達の故郷である『現代日本を模した揺り籠の中』に棲まう人々が居る場所なのだ。
 祓い屋『燈堂一門』はその希望ヶ浜に出現する悪性怪異<夜妖>を倒す事を生業とした集団である。
 特に夜妖憑きとなった人を祓うから祓い屋と呼ばれていた。
 暁月はその燈堂一門の当主である。

 かつて、宿敵『獏馬』を追いかけていた暁月は千載一遇のチャンスを逃した。
 戦闘の最中にやってきた『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)を『殺す』事が出来なかったのだ。
「暁月さんが廻さんを斬ったんですか?」
「正しくは一瞬で殺す事が出来ず、重傷を負わせてしまった。一瞬の迷いがあったのかもしれない」
「そんな……」
 仁巳の隣に居た剣崎・双葉は首を振って疑問を呈する。暁月が廻を斬れなかったのは、迷いがあったからではない。
 暁月の剣は一般人を斬れぬほど、なまくらではない。身近に居る門下生だからこそ分かる。
 では何故と根本に立ち返る。
 三妖たる白銀、牡丹、黒曜は静かに暁月の言葉に耳を傾けていた。

 廻はウォーカーだ。運命に愛されし特異運命座標。
 つまり、暁月の一瞬の迷いが生じたから殺す事が出来なかった訳では無いと仁巳は暁月の羽織を掴む。
「暁月さん、廻が重傷を負ったのは暁月さんのせいじゃないわ。それにその後、暁月さんは廻を助けたじゃない。私が羨ましく思う程に特別扱いした」
「助けた……か」
 暁月は己の膝に置いた手に力を込める。
「私が廻を斬った時に命を繋ぐ為、あまねは廻の記憶と生命力を必要とした。しかし、私自身の生命力を委譲するには媒介が必要だったんだ」
「それが無限廻廊の本霊なんですね」
 湖潤・狸尾は明かされる事実を受け止め瞳を上げた。
「ああ、廻を『擬似的な鞘』にすることで、私の生命力を注ぎやすくした。でも、突然膨大な力を移すことは出来ないからね。少しずつ刻んだ。私が居なければ生きて行けないのだと、服従と依存を刻んだんだ」
 これを『助けた』というのかと、何度自分に問いかけただろうか。

 しかし、副次的に獏馬の片割れである、あまねを生き餌にする事を思いついた。
 あまねの依代である廻を餌にして、獏馬をおびき寄せたのだ。
 当時、龍成が夢の中で廻の記憶を見つけられなかったのは本霊の守りがあったから。
 しゅうは朧気に感じるそれを『呪い』だと称したけれど。
 何を取っても、己の責が重くのし掛るのだと暁月は眉を寄せる。

 それでも、自分から外へ羽ばたこうとしている廻の背を押す事は出来るだろうから。
「だからね皆に覚えていて欲しい。廻の中から本霊を奪う事は、絶対にあってはならない」
「でも、それじゃあ暁月さんが……っ!」
「ごめんね仁巳。心配掛けてしまって。でも、廻の命を誰かに奪われてはならない」
 必ず護って欲しい。お願いだと暁月は門下生達に懇願する。

 本霊を廻に与えたこと、獏馬を燈堂の地に呼び寄せたこと、何度も危ない橋を渡ってきた。
 多くの命を救うためならば捨て置くべき者達を何度も拾い上げてしまった。
 昔は斬り捨てる事が出来た筈なのにと暁月は緩く首を振った。


「夢の中に行きたいってどういう事だ?」
 燈堂家の和リビングに集まったイレギュラーズに『刃魔』澄原 龍成(p3n000215)は首を傾げた。
「しゅう君が言うには、暁月さんや廻君の記憶が見られるって話しなんだけどぉ」
 ピンク色の髪を揺らしアーリア・スピリッツ(p3p004400)が座布団の上に座る。
「それってどういう所なんだ? 安全性とか」
 アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は獏馬の成れの果て――しゅうの斜め向かいに腰を下ろした。

「夢の廻廊。夜を駆けるナイトメアが棲まう場所」
 しゅうは紫銀の瞳を細め恋屍・愛無(p3p007296)へと向き直る。じっと『息子』を見つめる愛無に口角を上げるしゅう。
「安心してよ。僕達にはもう夢から侵食するだけの力は無い。でも、過去に起きた事を渡る事は出来るし、夢の案内人としては頼りになると思うよ」
「だが、それは負担が掛かるのではないのかね」
 愛無の言葉にぬいぐるみ姿のあまねを抱き上げたしゅうは視線を落し眉を下げる。
「大丈夫だよ。そこまで無茶はしない。それにね、僕達がしてきた事を償わせてほしいんだ。でも、夢の中で戦いになると太刀打ち出来ないかも、ごめん」
 強大な力を持っていた『獏馬』ならば他人を夢に誘うなど小指の先で出来る事だ。
 されど、力を失った今のしゅうとあまねでは、夢の中の安全を保障することは出来ない。
「そこは任せてくれたまえよ。荒事は得意ゆえに」
 愛無は素直に頼ってくれたしゅうの頭をゆっくりと撫でる。

「夢の中につれて行く事は簡単なんだけど、良く無い気配がするんだ」
「もしかして、この前戦った『黒闇鴉』とか……?」
 しゅうの向かいに座ったリア・クォーツ(p3p004937)は先日の夜妖との戦いを思い出す。
 真っ黒な鴉のカタチをした大量の夜妖が一人の男性に掬っていた。
「分からない。でも、進むときは十分注意してほしい。僕達のテリトリーだからって悪い奴が来ないとは限らないからね」
「悪い奴って、他の夜妖が来るのでしょうか」
 メイメイ・ルー(p3p004460)はしゅうに抱えられたあまねを撫でながら視線を上げる。
「夢の中って通り道だったり、過去の思い出が混ざったりしちゃうんだ。だから、もしかしたら誰かの夢に引っ張られて怖いオバケに追いかけられたりするかも」
「それは何とも興味深い」
 紫桜(p3p010150)は口の端を上げてくつくつと笑った。

「まあ、でもよ。もし戦闘になったりしたら俺が何とかするから安心しろよ」
 刀を軽く取り出した咲々宮 幻介(p3p001387)は「それよりも」と身を乗り出す。
「自分の記憶も出て来たりするのか」
「幻介が見たいと思うなら、出てくるかもね」
「そりゃ、見たくねぇな」
 昔の自分と対峙したり、思い出すなんてまっぴら御免だと幻介は足を組み直した。

「ふふ、テリトリーの中には夢石ってのが浮かんでる。これを触れば、夢を通して整理した記憶が断片的に空間に広がるんだ」
「触らなければ他の人には見られない?」
 眞田(p3p008414)は赤茶の瞳をしゅうに向ける。誰だって触れられたく無い過去があるものだ。
「うん。大丈夫。夢石に触れなければ出てこないよ。それに夢石は本人が知られたくないと思っている場合は探しにくいし見つけても開かない時がある。だから安心してほしい」
 夢の廻廊に浮かぶのは『語っても良い』と思えるものだけ。
 絶対に触れられたく無いものは見つける事すら困難だ。

「でも、知りたいんだ」
 ヴェルグリーズ(p3p008566)は覚悟を持って拳を握りしめる。
 夢の中で探したいのは『暁月と廻の記憶』だ。
 それは勝手にのぞき見る事になるであろう過去。
「傷つける事になっても、それでも生きて笑い合える日が来て欲しいと願うから」
 手を伸ばさなかったが為に目の前で失った人が居る。
 その後悔はヴェルグリーズに深く刻まれていた。だから失わない為に傷つける。剣である自分はそうすることしか出来ないのだと、責を負う覚悟がヴェルグリーズにはあった。
「まあ、そんなに気負わなくてもいいと思うよ。本当に知られたくない事は夢石にならない」
 何時になく感情を露わにするヴェルグリーズに星穹(p3p008330)も真剣な表情でしゅうを見つめる。

 浅蔵 竜真(p3p008541)は「暁月と廻の記憶じゃなくても見られるか」と問うた。
「それって、晴陽の記憶ってこと? うーん、直接『夢の廻廊』に入らない――つまり竜真本人ではなく、この燈堂の地に居ない人の記憶は難しい」
「あれだな。此処に集まった奴か燈堂に住んでないと渡れないって事か」
 國定 天川(p3p010201)の言葉にしゅうは頷く。
「僕がもっと力があった時は関係無く渡れたんだけど。『双別の軛』で力を失ったからね。まあ、龍成の思い出の中に居る晴陽なら見られるかもね……思い出補正って別人みたいになるけど」
「ああ……成程な」
 龍成の思い出の中の晴陽を本人に語った所で、「そうだったでしょうか」と首を傾げられる可能性があるということだ。

「じゃあ、とりあえず行こうよ」
 ハンス・キングスレー(p3p008418)は物は試しと『夢の廻廊』へ。夢の中へ落ちていく。

 ――――
 ――

『廻君は呪われてる、なんて言ってまで……キミは彼の側に居たいんだねぇ』
 夢石に触れれば、シルキィ(p3p008115)の声が真っ暗な空間に響く。
 これはまだ敵対していた『獏馬』へと投げかけられた言葉だ。
『呪われてるというのはあながち嘘じゃないよ』
 どういう事だと問いかけるシルキィへ獏馬は廻にかなり強力な『封呪』が掛けられていると語る。
 龍成が廻の中の記憶を探しても見つからなかったのは副次的なもの。
『暁月にとって……いや、『燈堂』にとって、他人に知られたくないものが廻の中にあるんだろうね』
 だからしゅうは廻に呪いが掛けられていると感じていた。
 龍成がそれを信じ、暁月から廻を『救おう』と画策したのは丁度一年前のバレンタインだった。

 廻の為に、己の命を省みなかった龍成。
 命の重さを知っているのにだ。それを許せなかったのはボディ・ダクレ(p3p008384)だ。
『だから歯を食いしばれ、澄原龍成。貴方のそのふざけた歪み、壊してやるッ──!!!!』
 膨大なエラーを吐きながら叩きつけられたボディの拳に、ようやく龍成は前を向いた。
 本当に生きて欲しいと言われるなんて思ってもみなかったのだ。
 イレギュラーズはその思い込みごと、龍成の過ちを打ち砕いた。

「懐かしいですね……」
 ボディは戦いの思い出を反芻するように夢石を撫でる。
 ふと、視線を上げれば見知った顔と目が合った。
「これは、廻様?」
 座敷牢の中に閉じ込められている廻の姿が石の中に映り込んだ――


 薄暗い畳の上で意識が浮上するのを燈堂廻は感じる。
「ここは……」
 上半身を起こしぐるりと辺りを見渡せば、道場ぐらいの広さに畳が敷き詰められているのが分かった。
「ああ、そうか」
 廻はふと思い出したように此処で寝ている理由を思い出す。
 一週間ほど前に大怪我をして、燈堂暁月という人に助けて貰ったらしい。
 それ以前の記憶が無い廻にとって、彼が本当の事を言っているのか嘘をついているのかは分からないが、重傷を追った時に、自分は悪い妖怪に取り憑かれたのだという。
 失われた記憶は廻自身の事が多いらしく、一般的な知識は残っていた。
 けれど、その知識の中では妖怪に取り憑かれる事があるという世界観には生きていなかったように思う。
「君は危険なのかな……?」
 取り憑かれるとかは置いといて、実際に存在はするらしい。
 廻は傍らに現れたぬいぐるみの妖怪――あまねと名付けた――を抱き上げる。
「暁月がそう言ってた?」
「そうなんだ。暁月さんが危険だって。僕にはあまねが危ない感じには見えないけど……あ、もう眠くなってきたかな?」
 うつらうつらするあまねを廻は抱きしめてゆっくりと揺らした。

 あまねは廻の生命力を糧に生きて居る夜妖だ。
 だから、生命力が少なくなるとこうして深い眠りにつく。
「君も僕の命を守るためなんだよね。暁月さんも僕を生かそうとしてくれてる」
 暁月は廻の為に己の生命力を分け与える。そうする事によってあまねと共存できるようになるのだと、自分の命が削れるのも厭わず尽くしてくれた暁月に相当な恩を廻は感じていた。

 だから、こうして――『鎖に繋がれ座敷牢に閉じ込められて』いたとしても。
 仕方の無い事だと思っていた。

「暁月さんは優しいけどちょっと怖い時もある。一瞬だけ悲しそうな怒ったような表情を見せるんだ。そういう時は決まって八つ当たりをされる。本人が八つ当たりをしたと謝ってくるから多分そうなんだろうな」
 けれど、廻は自分が辛い思いをするより、暁月さんが悲しそうな顔をする方が嫌なのだと首を振る。
「だから僕は抵抗もしない。暁月さんが収まるまでじっと耐えて、そして抱きしめる。大丈夫ですよって抱きしめるんだ」

 それにねと廻は眠ってしまったあまねに語りかける。
「僕は暁月さんよりもっと怖い存在を知ってる。暁月さんが居ないとき、あまねも影に入って深く眠ってしまった時を見計らってアレはやってくる。アレが来る時は決まって灯りが全部消えて真っ暗になるんだ」
 廻はあまねをぎゅうと抱きしめて震える身体を押さえた。
 座敷牢の奥の扉から其れはやってきて、地を這うような音と共に廻をきつく締め上げる。
 泣いたって叫んだって誰も来てくれない。
 首を絞められて腕や足も全く動かせなくなって苦しさと恐怖で意識を失う。
 意識を取り戻すと何も無かったかのように痛みも締め後も無くなるのだ。
「だから僕は真っ暗が怖くて仕方が無いんだよ」

 ――――
 ――

『夢の廻廊』の中に浮かぶ夢石に触れたシルキィは当時の廻の姿に涙を浮かべる。
 もし、夜妖の性質が強く出ていれば、この暗い座敷牢から出られない未来もあったのかもしれない。
 暁月が自分の生命力を惜しみなく注いだから安定したのだろう。
 当時の彼らの関係性が歪であったとしても、今はイレギュラーズと出会い好転している。
 雁字搦めの、堂々巡りだった輪が、ゆっくりと解けているのだ。
 だから、この夢の廻廊を進んで行く事で何か道筋が見えてくるかも知れない。
 シルキィは座敷牢の中の廻に「大丈夫だよ。もうすぐ太陽の下で笑えるから」と声を掛けてから、更に奥へと進んでいく。

 次に見えて来たのは、暁月の慟哭。
 失敗したと嘆く傍らに、赤く染まる廻が横たわっていた。
 血を啜り街灯を反射する刀は、本物の妖刀無限廻廊なのだろう。
 暁月と廻が初めて出会った時点では、まだ本霊が握られていた。
 この記憶を覗いていいのだろうかとアーリアは躊躇う。
 知らねばならぬ事とはいえ、記憶を暴くのには抵抗があるのだ。
「アーリアさん、俺が見るよ」
 辛いのなら目を瞑っていいのだとヴェルグリーズは微笑む。
「いいえ……大丈夫。この夢に入った時に覚悟はしていたもの」
 アーリアは緑瞳に覚悟を宿し、夢石へとそっと触れた――


 温かな陽気が差し込む燈堂家の縁側を子供の足音が駆け抜けて行く。
「あ、まっぇ、エうッ!」
 ドスンという大きな音と共に幼児の泣き声が聞こえて来た。
 額を赤くして泣き叫ぶのは、猫耳尻尾を生やした幼い廻だった。
「ぅアアァァーッ!」
「ほらほら、頭を打ったのかの廻は。大丈夫かえ?」
 慣れた手つきで幼児化した廻を抱き上げたのは『守狐』牡丹だ。
 彼女は燈堂に棲まう子供達の世話係でもあるから、こういったことは日常茶飯事なのだろう。

「わわ、廻さんはどうして小さくなってしまったんでしょうか」
 エル・エ・ルーエ(p3p008216)は隣に居た笹木 花丸(p3p008689)へ振り向く。
「花丸ちゃんこの夜妖知ってる気がする! 前小さくなった事あるもん!」
 両手を頭の上に置いて耳の形を作る花丸。
「ああ、そうですね。あの時ですか」
 夜妖の子供達と一緒に、小さくなって一日中遊んだのだ。
「ボディさん、兎耳生えてたよねぇ」
 屍機の身体に、可愛く生えた兎耳と変身のエフェクトは忘れていないとシルキィは微笑む。
「そうなんですね。暁月先生の少年姿も見られるんでしょうか?」
 時尾 鈴(p3p009655)がくるりと振り返り暁月を見上げた。
「私達も小さくなれるのかな?」
 小首を傾げたシキ・ナイトアッシュ(p3p000229)の元に廻を抱えた牡丹がやってくる。
「そうじゃの。なれると思うぞ。お主はどんな耳が生えるのかの?」
「かぁい、ね?」
 抱っこされたままの廻が自分の猫しっぽを引っ張りながら、シキへと笑みを浮かべた。

「ボびぃ!」
「おやおや。龍成、貴方も小さくなってしまったのですか」
 小さくなって狼耳が生えた龍成を持ち上げるボディ。
「ははぁ……これは、龍成氏。写真をいっぱい撮らないとね」
「やめぉ! やめぇー! めー!」
 星影 昼顔(p3p009259)がaPhoneを構えるのを顔を真っ赤にしてボディの腕の中で駄々を捏ねる龍成。
「じゃあ、ここは俺が」
 ラクリマ・イース(p3p004247)は最近、ようやく覚えたカメラで幼児化した龍成を写真に収める。
「ああ~!! りゃくりま! めーー!」
「おうおう、いっちょ前に抵抗するじゃねぇか。減るもんじゃないし、ちょっとは良いだろ」
 レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は龍成の頬をむにむにとしながら良い笑顔で応えた。その様子を眺めるイーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は幸せそうに微笑む。

「しゅみれ……あい、あげゆ」
「あら、お花ですか?」
 小さな手で周藤日向が差し出した花をすみれ(p3p009752)が受け取った。
 すみれの笑顔に、日向は尻尾をぶんぶんと振り回して喜ぶ。
「白雪さんは……いつも通り?」
「にゃーお」
 祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は縁側で陽光を浴びながら白雪を膝に乗せた。

 空を見上げれば欠けた青空が広がる。
 R.O.Oの事件にドラゴンの来襲、色々とあったけれど。
 少しずつ日常を取り戻しているこの場所に、ゆったりとした時間が流れるのが好きだなと思った。

GMコメント

 もみじです。今回は『のんびり回』になります。

 祓い屋第二部、二話『記憶の夢路』です。
 過去の記憶や思い出を読み解き、物語をより深く味わう回です。
 ついでに、花見や幼児化したり出来ます。
 つまり、比較的『ゆったりした回』です。たまにはのんびり。

※長編はリプレイ公開時プレイングが非表示になります。
 なので、思う存分のびのびと物語を楽しんでいきましょう!

●はじめに
 後述のパートごとに分れています。

・1つだけでも、2つ、3つ選んでもOK。
・行動は絞った方がその場の描写は多くなります。
・明確な目的が無い場合は【1】花見か【3】幼児化して夜妖と遊ぶがおすすめです。

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【1】燈堂家で花見(イベント)

●目的
・花見を楽しむ
・燈堂家に関わる情報を調査する

●ロケーション
・希望ヶ浜の燈堂家。
 大きな和風旅館のような佇まいです。
 門下生が生活する南棟、東棟、訓練場がある西棟。
 とても広い中庭は四季折々の草花が見られます。
 北の本邸には和リビング、暁月や白銀、黒曜の部屋があります。
 離れには廻、シルキィ、愛無、龍成、ボディの部屋があります。
 本邸の地下には座敷牢と、そこから続く階段があり、無限廻廊の座へと繋がっています。

●出来る事
【1】燈堂家で花見など
○花見
・戦闘は無し。ゆっくりイベントを楽しみたい人向け。
・中庭では梅の花や山茶花、水仙、福寿草、パンジーなどが咲いています。
・和リビングでは白銀や牡丹が作った家庭料理が楽しめます。

○調査
 燈堂家を散策調査したり、NPCから情報を聞き出したり出来ます。
(調査したり、聞き出した情報は今後の展開に関わる場合があります)

・ダイレクトアタック(本人や、住んでる夜妖に情報を聞く/情報を得られる可能性は低い)
・本家筋(情報の信憑性は高いが、断片的)
・繰切(情報の信憑性も得られる可能性も未知数/侵食の恐れあり)

●NPC、関係者
・『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)
・『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)
・『刃魔』澄原 龍成(p3n000215)
・『獏馬』しゅう、あまね
・『三妖』牡丹、白銀、黒曜
・『双猫』白雪、黒夢
・『燈堂門下生』湖潤・狸尾、湖潤・仁巳、煌星 夜空、剣崎・双葉
・『本家筋』深道佐智子、深道和輝、深道夕夏、深道朝比奈、周藤夜見、周藤日向

・繰切(分体)
 燈堂家地下に封印されている真性怪異の分体。
 運が良ければ、出て来ています。(暁月や本家筋の前には現れません)

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【2】記憶の夢路(戦闘の有無はどちらでもOK)

●目的
・『夢の廻廊』を散歩
・戦闘になれば相手を倒す
・燈堂家に関わる情報を調査する

●ロケーション
 夢の廻廊と呼ばれる獏馬のテリトリーです。
 ふんわりとした夢心地で何処へでも行くことが出来ます。
 獏馬のサポートがあるので迷ったりはしません。
 自分や燈堂家に関わる人々の過去の記憶を垣間見る事が出来ます。
 他人の記憶を勝手に見る事になるので、覚悟は必要です。

●出来る事
・物語を深く楽しみたい方向け。
・夢石に触れて、燈堂家に関わる人々の過去を見る事が出来ます。
 夢として整理されたものなので、少し違っていたりする可能性があります。
 また、絶対に見せたくないと本人が思っているものは見る事が出来ません。

・自分の過去を見る事も出来ます。
 夢を見る中で、過去の自分と戦ってみたり、獏馬や龍成と戦ってみたり出来ます。
 がっつり戦闘よりもキャラクターの心情を動かす楽しみ方がおすすめです。

●NPC
 しゅうとあまねが道案内をしてくれますので安心です。
 他のNPCは居ませんが、龍成のみ連れて行く選択が出来ます。

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【3】夜妖のせいで幼児化したしケモ耳だって生える(イベント)

●目的
・夜妖と遊ぶ

●ロケーション
・希望ヶ浜の燈堂家。
 大きな和風旅館のような佇まいです。
 門下生が生活する南棟、東棟、訓練場がある西棟。
 とても広い中庭は四季折々の草花が見られます。
 北の本邸には和リビング、暁月や白銀、黒曜の部屋があります。
 離れには廻、シルキィ、愛無、龍成、ボディの部屋があります。
 本邸の地下には座敷牢と、そこから続く階段があり、無限廻廊の座へと繋がっています。

●出来る事
・幼児化してケモ耳が生えます(何の耳かは自由)
・夜妖と同じような幼さになることで、一緒に遊んでいる感があります。
・一緒に遊ぶと夜妖は喜んで、自然と消えていきます。
・子供達のお守りをしても構いません

●NPC、関係者
○澄原龍成
 元、獏馬憑きの青年です。
 紆余曲折あり、今は燈堂家の離れでボディと住んでいます。
 幼児化しました。狼耳が生えた幼児です。
 記憶はありますが、言葉が上手く出てこなかったりして癇癪を起こします。

○燈堂 廻
 幼児化して猫耳しっぽが生えています。
 記憶はありますが、言葉が上手く出てこなかったりして泣いちゃうかも。
 今回は元気に走り回っています。甘えん坊で手を繋いだりぎゅうってしてくる。

○周藤日向
 深道和輝、深道夕夏の実の弟です。
 周藤家に養子に出されました。
 狐耳で幼児化しています。
 記憶はありますが、言葉が上手く出てこなかったりして泣いちゃうかも。

○燈堂 暁月
 幼児達のお守りをしています。
 イレギュラーズが一緒に遊ぶ事を望めば少年~幼児になるでしょう。
 子供の頃は少しツンツンしているかも。

○その他関係者もいます。
 門下生や燈堂の住人、本家筋など。

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●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

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以下は物語をより楽しみたい方向け。

●祓い屋とは
 練達希望ヶ浜の一区画にある燈堂一門。夜妖憑き専門の戦闘集団です。
 夜妖憑きを祓うから『祓い屋』と呼ばれています。

●封呪『無限廻廊』
 燈堂家の地下には封呪『無限廻廊』という巨大な封印があります。
 真性怪異『繰切』を封じているものです。
 燈堂家はその無限廻廊を守護する役割があります。
 無限廻廊が壊れると、繰切が復活して、何千人もの命が失われると言われています。
 暁月の精神不安により封呪に綻びが見られます。

●真性怪異『繰切』
 燈堂家の地下に鎮座する蛇神です。水神でもあり、病毒の神でもあります。
 その前身は『クロウ・クルァク』だと推察されています。
 クロウ・クルァク時代よりも信仰は薄れていますが、無限廻廊を簡単に突破できる程の力は残っているだろうと目されています。
 では、何故留まり続けるのか。それは謎に包まれています。
 留まる代わりに廻を巫女に置き、月に一度の満月の夜に『月祈の儀』を執り行っています。

●月祈の儀
 無限廻廊が綻んでいても、繰切が暴れ出さない為の契約です。
 月に一度の満月の夜、燈堂家の地下に降りて廻を人身御供として捧げます。
 試練と称して苦痛を与え、そのもがき苦しむ様子を愉しんでいます。

 暁月の精神不安の原因でもあります。

●これまでのお話
 燈堂家特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/toudou

  • <祓い屋>記憶の夢路完了
  • GM名もみじ
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月14日 22時05分
  • 参加人数35/35人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 35 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(35人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ラズワルド(p3p000622)
あたたかな音
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
エル・エ・ルーエ(p3p008216)
小さな願い
星穹(p3p008330)
約束の瓊盾
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
眞田(p3p008414)
輝く赤き星
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
浅蔵 竜真(p3p008541)
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ジュリエット・フォーサイス(p3p008823)
翠迅の守護
星影 昼顔(p3p009259)
陽の宝物
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
祈光のシュネー
すみれ(p3p009752)
薄紫の花香
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
紫桜(p3p010150)
これからの日々
國定 天川(p3p010201)
決意の復讐者
メリッサ エンフィールド(p3p010291)
純真無垢

リプレイ

●咲き誇る花を仰ぎ見て

 白い梅の花びらが視界をと通り過ぎて行く。
 顔を上げれば、澄み渡る空の青さが飛び込んで来て、春の陽気に気分も高揚した。

『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)は中庭に珍しい人影を見つけ手を振る。
 パンダのフードを被った葛城春泥という練達の研究員。
「葛城先生が燈堂にいらっしゃるなんて初めてではりませんか?」
「やあ、暁月君。久しぶりだねぇ。元気にしていたかい?」
 春泥は燈堂の本家、深道と懇意にしている『相談役』だ。
 暁月の祖母佐智子が幼い頃には既に彼女を先生と呼んでいたというから、深道とは関わりが深く、暁月も幼少の時期には彼女に様々な知見を教えて貰った。だから、深道には彼女を『先生』と慕う者も多い。
「この通り」
「そうかい。僕も『教え子』が弱ってしまうのは見たくないからね」
「先生の所にまで話しが上がっていますか。心配をお掛けして申し訳ございません」
 暁月の精神不安、並びに封呪無限廻廊の綻びは、相談役である春泥にも伝わっているのだろう。
 春泥は暁月に一歩近寄り――『肩に手を置いた』。
「教え子の心配をするのは先生の役目だろう?」
「ありがとうございます。お茶でも飲みながらゆっくり話しでもしましょうか」
 中庭にある茶屋へと視線を上げる暁月に、春泥は目を細める。
「そうだね。今日は君達の様子を見に来たんだ。他の子とも話してみたいな、廻君とか龍成君とか、ね」
「彼らにも挨拶をさせましょう。丁度、廻が彼処に居るので」
 暁月は『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)の名を呼び手招きをした。
「廻、紹介しよう。彼女は深道の相談役、葛城先生だ。茶屋に案内してもらえるかな」
「初めまして、燈堂廻です。よろしくお願いします」
「君が廻君か。とても興味深い……よろしくね、廻君」
 春泥は笑顔で廻の肩に手を置く。親しげに、和やかに、祝い、呪い。
 芽吹く種を楽しみにするように――

 ――――
 ――

「\お花見の時間だーっ!/」
 突抜ける『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)の声が燈堂家の中庭に響く。
「すごい……色んな花が咲いてます!」
 花丸の声にこくこくと頷くのは『純真無垢』メリッサ エンフィールド(p3p010291)だ。
 初めて見る花も沢山あって見ているだけでもワクワクすると溢れんばかりの笑顔を見せるメリッサ。
 濃いピンク色の山茶花や紫色をした水仙。目に映る花々に目を細める。
「あれ? あっちの方がなんだか賑やかですね。獣種の子供たちが遊んでるんでしょうか? ちょっと様子を見に行ってみましょう」
 子供達の声がする方へ走っていくメリッサの背を見つめ花丸は楽しそうだと笑みを零す。

 ここに来るまでに何人かと会ったけれど、夢の廻廊がどうとかいう難しい話しは花丸が踏み込んでいいものか分からなかったから。
「……そっちは皆に任せて、花丸ちゃんは皆が手を貸して欲しいって時に、手を貸すくらいが丁度いいって思うんだ。ねっ、黒夢さん」
 花丸の隣には燈堂家の情報屋、黒猫の魔法使い黒夢が歩いて居る。
「そうですね。花丸さんらしくて私は好きですよ」
「えへへ、なじみさんじゃないけど花丸ちゃんも少しは馴染めてきたかな? ――なんちゃって」
 そんな事より花見だと花丸は中庭に出て来ていた暁月に手を振った。
「お正月に続いてお花見の招待ありがとう御座いまっす!」
「こちらこそ来てくれてありがとう」
「それにしても先生のお家って凄いよね。お花見ーって言ったら名所にお出掛けしてーって感じなのに、先生のお家はこんなに綺麗な梅の花が見れるんだもんっ!」
 花丸の陽気な声に暁月は顔を綻ばせる。
「この庭は人に害を為さない怪異や夜妖憑きの子が管理してるんだよ。庭師のお仕事だね」
 行く宛のない弱き者の受け皿としても燈堂家は機能しているのだ。

「梅の花が終わったら今度は桜かな? ねっ、黒夢さん。このお家って桜の花も植えられてるの?」
「ええ、ありますよ。もっと温かくなれば大きな桜の木が満開になります。あと、白銀さんや牡丹さんの作ったご飯があれば完璧ですね?」
「いやいや、ご飯に釣られてるわけじゃないよ!?」
 慌てて手を振る花丸に黒夢は饅頭を差し出す。
「これとても美味しいんです」
「あ、ホントだ美味しいーっ! ……って、ハッ!? もーっ、美味しいもので釣ろうなんてちょっとズルいと思うっ!」
 花丸は「でもそれだけじゃない」と黒夢と暁月に向き直る。
「先生も、廻さん達も。こうしてお呼ばれする度に大変な事になってるでしょ? だからこそ、日常を大切にして欲しいなって。私達がこうして戦ってられるのは陽だまりが、帰るべき日常があるからだから」

『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は燈堂家の中庭で廻の姿を見つけ駆け寄った。
 以前会った時に「いっぱいお喋りしたい」と廻が言ってくれたから。
「約束を果たすのに時間がかかったけど、よかったらお話しよう」
「シキさん! 来てくれたんですね」
 売れそうな廻の隣に座り、中庭に咲く花を二人で眺める。
 調査や情報を聞き出すなんてのは脇に置いて、シキはこの穏やかな時間を廻と過ごしたいと思ったのだ。
 今は只、廻の力になりたいと思った自分の心を大切にしたい。
 だから――
「ねぇ廻くん、私と友達になってくれないかな」
 アクアマリンの瞳でシキは廻を見つめる。それはシキにとって決意と誓いの言葉だ。
「はい! 喜んで!」
 笑顔と共に訪れた言葉にシキは顔を綻ばせた。

 ゆったりした足取りで燈堂家の砂利道を歩く『流転の綿雲』ラズワルド(p3p000622)は中庭の花に視線を移した。調査という程でもないけれど、廻の様子は気になるし、この屋敷は探検し甲斐がありそうだから。
「何かあった時に知っておいた方が面倒がないよねぇ。お昼寝スポットとか……」
 繰切という神様にも会ってみたいと廻に伝えれば「居るかなぁ?」と首を傾げた彼の影から、小さな子供が出てくる。灰色の身体に目隠しをしている『普通』ではない子供。
「廻くん、何かでてきたよ?」
「あ、居た。この方が繰切様です」
「随分と小さいね? 蛇なんだっけ? 廻くんがお世話になってるねぇ」
 ふにゃりと手を出したラズワルドの手を握り、口の端を上げる繰切分体。
「ふふ、白い髪に美しい顔だな」
 まじまじと見上げてくる繰切に「お邪魔してるよ」と目を細めるラズワルド。
「まあゆっくりしてゆくが良い」
 踵を返し廻の後ろに回り込んだ繰切はそのまま跡形もなく消えた。
「いつもあんな感じで出てくるのかな?」
「そうですね。呼ぶと来てくれたり、来なかったり。いつの間にか後ろに居たり、急に消えたり」
 神出鬼没で気まぐれ。神様らしいとラズワルドは瞳を伏せる。

 縁側に座った廻の隣。猫の様にころんと転がったラズワルドが、廻の膝の上に頭を置いた。
 廻の顔を見上げその頬に指を這わすラズワルド。
「僕はねぇ、廻くん、誰かに知りたいと思われるのはめんどくさいなぁって思ってた。たいていそう言うヤツは何かを期待してくるからねぇ。それにロクな目に遭ってこなかったし」
 ラズワルドの言葉に耳を傾けるように、廻は彼の髪をゆっくりと撫でる。
 語って聞かせる面白い話しも無いし、誰と出会い別れたかはラズワルドだけのもの。それでも、廻の事は知りたいと思ったのだ。それが自分自身不思議でならないのだと唇に乗せる。
「ねぇ、勝手に記憶を覗かれるなんてヤじゃない?」
「そうですね。昔、龍成と敵同士だった時に掴まって、無理矢理暴かれた事があります。その時は本当に嫌でした。でも、まあ……今は友達ですし見られても気にしないですね。ちょっと恥ずかしいですけど」
 ラズワルドの思った通り廻は『構わない』と笑う。されど、自分だけ一方的に知る事はフェアじゃないからとこれから夢の中に行くのだと廻に告げた。
「夢の中に?」
「うん。僕はこれから君の記憶を見に行くから……代わりにもし僕のことを知りたいって言うなら、聞かせてあげてもイイよ? 特別に」
「はい。教えて下さい。ラズワルドさんのこと」
 友達として真摯に向き合いたいから。朗らかな春の陽気と笑顔を乗せて。

「寒い雪の季節が過ぎて、もう……花が咲く。春の季節、なんだね」
 春は温かな日差しが心地よくて好きだと『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)は顔を綻ばせる。
 されど、微睡みの中で見る夢が幸せだとは限らないから。夢路に惑うのはまだその時じゃないと、チックは燈堂家の敷地をあるいていた。
「燈堂の人達の事、もっと知れたらと……思う。ねえ、"かみさま"」
 以前この燈堂で会った目隠しの子供。彼は『繰切』というこの地に奉られている神様らしい。
「皆がいる……所、だと。居づらいの、かな」
 チックは人気の無い百花園まで足を伸ばしていた。
「繰切……?」
「何だ、この前の子供ではないか」
 名を呼んだ瞬間、後ろに現れた繰切分体にチックは肩を跳ねさせる。
「この前と……違う?」
「ああ。そうだな。一応人間の大人サイズだが」
 今は暁月より少し大きいぐらいだが、本来は2mを軽々と越える大きさらしい。
「……もし、良ければ。一緒にお花見、してみない? この家に咲く……お花、凄く綺麗……だから」
「おう、構わぬぞ。だが、我は人にとって毒ぞ。それは胆に命じよ」
 真性怪異は傍に寄るだけで侵食されるものだ。
「でも、おれは……あなたについて、知らない事が多い。だから、話してみたいと……思った。繰切は……この家に留まる、していて。どう、思ってる?」
「どうとは?」
「楽しい、とか。嫌だな……とか。些細な事でも……良いから」
 チックの問いかけに「ふむ」と顎に手を当てる繰切。
「廻を玩具にしている時は楽しいぞ。泣き叫んだり怖がったり」
「え……、廻に痛い事してる?」
 恐る恐る視線を上げるチックに繰切は口の端を上げる。
「最近はお主の仲間の紫桜という者が『優しくしろ』というのでな。そうしてやったら、もっと楽しい表情が見られたから、痛い事だけではない。……あと、嫌な事だったか。最近本家筋が家に滞在している事が多いから迂闊に出歩けなくなってしまった。見つかると面倒だからな」
 怖そうで優しそう。神様はそういう全てを内包しているのかもしれないとチックは思い馳せた。
『淡き白糖のシュネーバル』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は中庭のベンチでのんびりと花を見つめる。
 隣には祝音の友人である猫の白雪がちょこんと足を揃えて座っていた。
「白雪さん、僕は君とお話ししたい……です。みゃー。燈堂家の事とか……聞いても、いい?」
「にゃーぉ……まあ、僕ウォーカーだから、普通に喋れるよ」
 祝音は突然喋り出した友人にくるりと振り返る。
「えっ、そうなの?」
「うん、元々猫だからにゃーぉって言ってる方が楽だからね。祝音が話したいなら特別に、ね?」
 動物疎通がなくとも喋れたのかと、新たな友人の一面が知れて嬉しくなる祝音。
「燈堂の事だったね……じゃあ、僕と兄さんが来た時の話しから……」

 周藤日向は『薄紫の花香』すみれ(p3p009752)を連れて燈堂の中庭を散歩していた。
「先の依頼では色々ありましたが、こうして春の訪れを共に楽しめるなら何よりというもの」
「すみれと一緒にお花見できて嬉しいよ」
 笑顔を向けてくる日向にすみれも笑みを零す。
「日向様はここへ無限廻廊の綻び――暁月様の精神疲労の原因を見つけて、取り除くためにいらしたのですよね? 廻様をその一因とみて夕夏様は立ち向かわれたわけですけれど……斬りたくない、というのが今のあなたの本心で」
 子供が背負うにしては重すぎるもの、それを思えばこそすみれは少年に手を差し伸べずにはいられない。
「一人で悩まずに二人で悩めば重さも半分になるはず。廻様を斬る以外の方法を考えましょう。正直具体策はまだ思いつきませんが……そうすれば深道の子でありながら自らの願いも叶えられる、そうでしょう?」
「すみれ……ぅ、う」
 自分が背負うべき重荷を、すみれも一緒に背負うと言ってくれる。その優しさが日向には染み渡る。
 涙をぐしぐしと拭う日向の頭を撫でて。
「季節が移ろうように人のきもちだって時間が経てば大抵変わるものです。人を殺さず、生かす選択ができるようになったのです。日向様の成長を喜ばしく思いますよ」
 すみれは少年を包み込む様に抱きしめる。
「また来年も、ここで。笑顔でお花見しましょうね!」
「うん。うん……!」
 すみれに包まれながら日向は笑顔で和やかに笑った。

「しゅう、今日のクッキーはどうかな? 龍成も良かったら食べてね」
 こてりと首を傾げた『諦めぬ心』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は友人のしゅうと『刃魔』澄原 龍成(p3n000215)へと視線を向ける。
「うん、美味しいよ。イーハトーヴはお菓子を作るのがうまいんだね」
「チーズ味だからお酒にも合うと思うよ、現在進行形で合ってる! え? あはは、オフィーリアったらもう怒ってるー!」
 イーハトーヴと腕の中のオフィーリアとのやり取りを微笑ましく見つめるしゅう。
「いいな。二人はいつも仲良しなんだね」
「そうだね。俺とオフィーリアは仲良しだよ。あっ、ねえねえ、写真撮ってもいい? アデプト・フォンもだいぶ使いこなせるようになったんだよ」
 カメラを構え四人で写真に写り込めば、自然と笑顔が溢れ出す。
「君達と出会ってからもう1年以上経つんだねぇ」
「早いよね」
「俺ね、まだ仲良しじゃなかった頃から、君達の、大切な相手を想う心が好きだった。だから、こうやって一緒に過ごせるようになってすごく嬉しいんだ。これからも、いっぱい一緒に遊んでね!」
 勿論だと笑ってみせるしゅうと龍成にイーハトーヴの頬が高揚した。
「そうだ! ねえ、また一緒に遊びに行こうねって約束してくれたでしょ? 計画立てようよ、計画! なんかこう……すっごーいやつ!」
 楽しげな声を上げるイーハトーヴに、「じゃあ、海とかキャンプ?」「カラオケも割と良いぞ」なんてはしゃぎ合う二人。

『刺し穿つ霊剣』浅蔵 竜真(p3p008541)は離れに居る龍成の元へ来ていた。
「やあ、龍成。ちょっといいか。実は少し聞かせて欲しいことがあってな」
「んー? どうした?」
 スマホを畳の上に置いた龍成は竜真の姿に首を傾げる。
「龍成や晴陽さん、水夜子がまだ幼い頃の澄原の家……まあ有り体に言えば、思い出とかあるかと思って。他人に話すのはいい気分じゃないかもしれない。そうだったら謝るし、やめておく。けどもしよかったら、知りたいんだ」
「ふうん? 何でまた?」
 コップをもう一つ用意した龍成は大きいペットボトルから炭酸ジュースを注ぎ竜真に手渡した。
「あー……まあその、そうだな。気になってるんだ。晴陽さんのこと。これがどういう感情なのかは、俺自身にもわからない。でも最近はとくに、晴陽さんのことを知りたいって思う。もちろん彼女だけじゃない。龍成のことも水夜子のことも。今のお前とはなんとなくだけど、仲良くできそうだしな」
 龍成は「成程」と竜真を射貫くように紫の瞳で見据える。
「姉貴とは小せぇ頃からあんま仲良くなかったからな。水夜子も従姉妹だしたまに家に来る時に見かける位で話さなかった。姉貴の事を知りたい気持ちは自由だと思うけど。俺に聞くのはアンフェアだろ? ちゃんと直接聞けよ」
 龍成は竜真のしかめっ面の眉間を指でぐいぐいと押した。
「なあ、お前に姉か妹が居たとして、私生活の事を好意を寄せてる男に喋らねーだろ? それも勝手に。許可無く。おんなじだ。まあ、だから。姉貴に直接行ってこいよ」
 後ろに回り込んだ龍成は竜真の背中を笑顔でバンバンと叩く。
 姉には姉の自分には自分の交友関係があり、心配こそすれ、勝手に彼女が話していない事を漏らすのは信条に反するものだ。だから龍成は直接対峙しろと竜真の背を押す。


 中庭の自分の元へとやってきた『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)と『星雛鳥』星穹(p3p008330)を目を細め快く迎え入れる暁月。
「やあ、いらっしゃい。星穹ちゃんにヴェルグリーズ。何か本邸に皆、集まってるみたいだけど私と廻は来ないでと言われていてね。この家の主なのに寂しい話しだよ」
 くすりと笑った暁月には子供達が楽しげな事をしようとしていると大らかに構えている様子が見える。
 ヴェルグリーズと星穹は暁月に何も告げず、事を成したい訳では無いと、話しを通すために此処へ来た。

「廻殿と無限廻廊の本霊については聞いたよ。実は俺はキミを救えるなら犠牲は厭わないと思っていた。それこそ無限廻廊を奪って燈堂の当主の座を降ろさせるとかそういうことも含めてね」
「おや、物騒だね」
 肩を竦める暁月の瞳に切ない色が浮かぶのをヴェルグリーズは感じる。
「ただ、その過程で廻殿の命が脅かされるとなれば話が変わる。彼を失えばキミは深く傷つくだろう、それこそ再起不能な程に」
「……」
「それじゃあ意味が無いんだ、俺はキミにも廻殿にも笑っていてほしい。俺は出会った人の日常を守りたいだけなんだ」
 暁月に生きて欲しい。それを贅沢な願いだと思いたくない。そうヴェルグリーズと星穹は想う。
「……私は。私達は。随分と弱くなってしまったようです。暁月様と出会ったことで、少しずつ変わってしまった。この場所が大切です。失いたくない。今も。明日も。その先も。貴方と私が友達である為にその痛みを分かち合いたいし、何より解りたい」
 ただ『物』として悠久の時を過ごす剣、記憶を無くした盾。
 自分達を『普通の人間』だとは到底思っていない二人が。
 故に『強く在れる』のだと思っていた二人が。
 暁月という脆く儚い存在に触れて、それを救えぬ現状に歯がゆさを覚える程、変わってしまった。
「貴方が救えず奪った命の分まで生きなければなりません。私も、貴方も。其れは責任です。奪い、殺すのならば、憶えて、背負わなくてはいけません。最期迄、生きようと抗った命があったことを」
「ああ、そうだね。星穹の言うとおりだ」
 星穹とヴェルグリーズは暁月の目をしっかりと見据える。
「……どうか嫌ってください。貴方の為と謳って、貴方の記憶を覗く私を。私達を」
「今、俺達に出来る事を探す。迷いはあるけれど、進むしかないと思ってる」
 この判断が正しいのかヴェルグリーズには迷いがある。
 それを星穹は分かった上で暁月に一礼し踵を返した。
「――行きましょう、ヴェルグリーズ。何時だって私達は奇跡を掴んできた。諦めるのは何時だって出来るけれど、私達にそんな選択肢は無い。そうでしょう、相棒?」
「ああ、そうだね」
 頼もしい相棒と共にヴェルグリーズは本邸へと向かう。

『月花銀閃』久住・舞花(p3p005056)は半年ぶりの燈堂家を注意深く見て回る。
 前に来たのは『建国さん』の一件。どのような変化があったのか気になっていたからだ。
「こんにちわ、暁月さん。封印の様子が気になりまして、様子を見に来させていただきました」
「おや、舞花君。久しぶりだね。気に掛けてくれてありがとう」
「このあたりは竜の被害は少なかったですか」
「ああそうだね。その為の神様ではあるからね、一応」
 この地に奉られた神は、暁月達を苦しめる反面、外界の不浄から守っているのだろう。

「……暁月先生。ご気分は如何ですか?」
 花吹雪が駆け抜けたあと『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)は暁月の隣に座った。
 聞こえてくる暁月の旋律は、以前より酷いもので。何か別の音さえ混ざっているように聞こえる。
「暁月さん、あたしにはクオリアってギフトがあるのです。あたし以外の人の内にある感情を、旋律として聴きとる事ができる権能です」
「それは、すごいギフトだね」
 日本酒を煽った暁月はリアに視線を向ける。
「これがまた良くも悪くもあって、例えば外向きには笑顔なのに、本当は無理している人とか、そういうのがなんとなく分かっちゃったりするのよ」
「最強じゃないか。精神科医とか向いてるんじゃ?」
 暁月の言葉。誤魔化すというかこれは生来の気質による物言いなのかもしれない。
「いいですか、暁月さん。貴方は燈堂一門の大黒柱ですよね? 背負う者、護る者が居る以上、貴方は誰よりも苦悩し、歯を食いしばって耐えなければならない時も多いのだと思います」
 頷く暁月にリアは言葉を重ねる。
「でも、暁月さんが頑張れば全部解決なんて絶対しませんからね! 蝋燭の様に揺れ動く火のような不安定な旋律しているんですもの、このままだといつか絶対ぶっ倒れますよ!」
 食い入るように声を荒らげるリアに対し、暁月は少し驚いたような表情を見せた。
「優しいんだね、リア君は……まあ、実際の所、何も出来ない自分に焦燥感が募るよね。導かねばならぬ立場であるのに迷っているなんて先導者として面目ない」
「……まぁ、あたしから深く詮索するつもりはありません。が、これから再現性東京に来る時はちょくちょく顔を見に来ますから。言っておきますけど、隠れても無駄ですよ。姿は隠せても、旋律は隠せませんし、貴方の音色はもう覚えましたし」
 早口で捲し立てるリアに暁月は両手を挙げて降参のポーズを取る。
「可愛い女の子が心配してくれているのですから、喜んだらどうですか?」
「ふふふ、君は困ってる人をほおっておけないんだね。私よりももっと積極的に救おうとする。今の私にはリア君はとても眩しい光に見えるよ。心配してくれてありがとうね」
「兎に角、ぶっ倒れる様な事になる前に、あたし達をドンドン頼ってくださいね。約束ですよ!」
 華やぐ光のようなリアとの約束を交し、彼女の優しさに目を細める暁月。

『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は折角呼ばれたのだからと中庭に咲き誇る花々を愛でる。
「花見酒……に美味しい料理。最高だな」
 ブレンダは暁月の元へと歩み寄り咲いている花について尋ねる。
「春の花ではあるが何か意味があるのだろうか? 確か……山茶花の花言葉が『困難に打ち克つ』、福寿草が『幸せを招く』だったか?」
 ブレンダと共に酒を飲み交わす暁月は「よく知っているね」と笑みを零す。
「特に希望があるわけじゃないんだけど、その四季の花々を百花園で育ているんだよ。専属の庭師が居てね。彼らは夜妖憑きや力を持たない夜妖だ。そういう弱き者の拠り所でもあるんだよこの燈堂は」
「そうなんだな」
 この燈堂と関わりのある者達は、暁月達を救う為に手がかりを探しているらしい。
 ブレンダはせいぜい暁月と学園で同僚という程度。まだ深入りするような関係ではないのだ。
 だから。
「ゆっくり花を見させてもらおう。弱き者達が丁寧に心を込めた花々だ。ここだけでなく中庭の至る所に咲いているのだろう?」
「そうだね。ゆっくり見ていくと良い」
 暁月の元を離れ中庭の遊歩道を歩くブレンダ。
「きっとこの燈堂家という家の中で私の知らない様々な事情と思惑が行き交っているのだろう。譲れない誰かの想い、守りたいもの。そういうものがたくさんある」
 赤い梅の花の香りを楽しむブレンダは自分の中にある誠実なる心を深く掴む。
「ああ、そうだ。私は誰かのそういうものを守りたいから剣を取ったのだ。だから私のすることは決まっている。必要な時にこの剣を振るう。この身をただ一振りの剣にして敵を斬る。ただそれだけだ」
 関わりが薄いなんていうのは些細な事で、救いを求める声があるならば手を差し伸べるまで。
「私のやるべき事はきまったな」
 揺るぎなき正義の剣。それがブレンダの在り方だ。

「ふぅ……」
 宴の席で花を見上げた『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は立て続けに起きた事件を思い返していた。多忙を極めた日々にようやく訪れた休日。
 じんわりと広がる多幸感にムサシは息を吸い込む。
「と、のんびりしてるのもいいでありますけど」
 此処に来た理由は燈堂の人々に聞きたい事があったからだ。
 以前戦った黒い夜妖。希望ヶ浜に来たばかりのムサシは詳しくないけれど、それでもあれだけの数が現れることは『おかしい』と感じてしまう。
「自分以上に詳しい祓い屋の方々、特に経験の長い暁月さんか、本家筋の方々にお聞きできればいいでありますが……」
 ムサシは原因があるならば、それを断ち切りたいと周囲を見渡し暁月の姿を捉える。
「暁月さん」
「やあ、ムサシ君。この前はありがとうね」
 和やかに笑う暁月の顔色が以前より優れないような気がして、ムサシは焦りを覚えた。
「自分は召喚されてまだ数ヶ月で、祓い屋の戦いにもこの前、初めてご一緒させていただいたばかりであります。それでも……」
 ムサシはぎゅっと拳を握りしめる。
「……それでも、自分はヒーローを名乗る者の端くれであります」
 暁月と対峙していると何故だか歯がゆさがこみ上がった。
「だから……一人で何もかもを抱え込まないで。どうしようもなくなったときは助けを呼んでください」
 絞り出した言葉は暁月に届くのだろうか。こんなにも壊れそうな人を前にムサシは純粋な恐怖を覚える。
「イレギュラーズの皆さんもいますし……自分に出来ることであれば、どこからでも飛んで駆けつけるでありますから!」
 だからこそ、言葉を掛けずにはいられない。
 この手がもしかしたら救いの一欠片になるかもしれないと思うから。
「ああ、ありがとうムサシ君。頼りにしてるよ」
 儚く微笑んだ暁月の首筋からうなじに掛けて、何か黒い入墨のようなものがあるのにムサシは気付く。
 以前現れた黒い夜妖を連想させるその印。前はこんなものあっただろうか。そもそも目立つ場所に入墨を入れるような人には見えなかった。
 もう一度よく見ようと目を凝らせば、黒い印は這うように暁月の背中へと潜っていった。
「え?」
「どうしたんだい?」
 この場で服を脱げと言う訳にも行かず、ムサシは何でも無いと首を横に振る。
 ――呪いという言葉がムサシの脳裏に過った。

「花見、か……。何年振りだ。花見なんぞするのは……」
 小さく呟いた『求道の復讐者』國定 天川(p3p010201)は色づく花を仰ぎ見る。
「よぉ。暁月。やってるか? この間は付き合ってくれてありがとよ。俺は花って柄じゃあないが、こういうのも悪くねぇな。まぁ飲もうぜ。龍成や廻はどうしてる?」
「来てくれてありがとう天川。二人ともその辺に居るんじゃないかな」
 天川が宴の席を見渡せば、龍成と廻の姿が見え、それを手招きで呼び寄せた。
「こんにちは、天川さん」
「んだよ、おっさんも来てたのか」
「おう、話しを聞きたくてな」
 龍成や廻の話を酒のつまみにでも聞かせてくれと天川は龍成達に笑いかける。
「話したくなきゃ話さなくていいぜ。この街で仕事して食っていくって腹は括ったんでな。情報はあるにこしたことはねぇだろ? 聞きたい理由はそれくらいだ」
「えー、そうだな。じゃあ龍成が廻に一目惚れした話しとかする?」
 にやりと笑った暁月に天川が食いついて、龍成が「いつの話しだ」と顔を赤くして叫んだ。
 獏馬に憑かれた龍成が廻を攫い、紆余曲折あってこうして同じ家に住み酒を飲み交わす仲になった。その来歴を語る暁月の話しを天川は何も言わず聞き入る。

「こんな場で仕事みてぇな話ばかり悪かったな。また今度飲みに行こうぜ。俺の行く店は静かなとこばっかりだからよ、若者にゃちとつまらんとは思うがな! ははは! 龍成は今度彼女? 紹介してくれよ! んじゃあな!」
「おっさん! ボディは彼女じゃねぇよ!」
「ボディ君って言って無いよ龍成」
 暁月がしたり顔で微笑むのに、顔を両手で覆い背を丸める龍成。
 天川はそんな彼らの声に背を向けて煙草に火を付けた。
「ふぅ……。良い連中だ。何事もなけりゃいいがな」
 紫煙が空に立ちのぼるのを天川の視線が追いかけた。

「廻くーん、お久ー」
 中庭のベンチに座っていた廻に手を振るのは『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)だった。
「お久しぶりです茄子子さん」
 近頃はROOの事件や竜の来襲の後始末で各地と飛び回っていた茄子子。
「ようやく落ち着いてきたところ。会長頑張ったから半年くらい遊んでてもいんじゃないかなと思う」
「大変だったんですね」
 早口で近況を捲し立てた茄子子に廻はお茶を淹れる。
 ごくごくとお茶を飲み干した茄子子は「あ、廻くんはなんか話したいこととかないの?」と向き直った。
「会長話聞くよ。やだなぁ、友達じゃん。友達だよね?」
「えっ、はい! お友達ですよ?」
 焦ったように頷く廻によかったと笑顔を見せる茄子子は、その次の瞬間には辺りを見渡すように視線を流している。繰切はいないのかと問いかける茄子子に廻は彼女の後を指差した。
 そこにはいつの間にか現れた繰切の分体が腰に手を当てている。
「ああ、キミが繰切くん? お招き頂きありがとう。会長は会長だよ。羽衣教会っていう宗教の会長」
 ぶんぶんと握手を交す茄子子は分体といえど身長の高い繰切を見上げる。
「いやね、いち宗教家として、一度かみさまって奴と話してみたかったんだ。個人的に追ってる真性怪異もいるし。あ……いや、宗教っていっても神様を信仰してる訳じゃないからね。別に羽衣教会以外は邪教だとか言うつもりも無いし」
「信仰していないのか? 自らの神を?」
 目の前の宗教家に繰切は首を傾げる。
「なんなら、キミも羽衣教会入信しない? ほら、蛇に翼とかかっこよくない? 会長もキミのこと信仰するからさ。だめ?」
「話しがあっちに行ったり、こっちに行ったり忙しないヤツだな」
 茄子子のマイペースなトークに困惑している繰切に、廻はくすりと笑みを零した。
「……まぁ、悪いけど羽衣教会はここ希望ヶ浜にももっと広めていく予定だからね。これから信仰はもっと薄れていくよ。そうならないようにも、ちゃんと人間には優しくしといた方がいいよ。人間ってやつは、優しくすると直ぐにしっぽ振っちゃうような愚かな奴らだからね」
「それは、この所よく実感しておる。この廻も少し優しくすれば甘えるようになったのだ」
 繰切は廻を掴んで膝の上に乗せる。人間が猫を撫でる様に愛玩する姿に茄子子は頷いた。
「ならその調子で優しくするといいよ。よし、余計なことも言えたし戻ろっと。じゃあね」
 嵐のように言葉を並べた茄子子の背を見つめ、繰切は「面白い奴だのう」と呟く。
 されど、恐怖は感じなくとも真性怪異の侵食は、否応が無しに茄子子を蝕むのだ。

「本家が動きを見せ繰切君の動きも活発化している」
 顎に手を置いた『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)は燈堂の中庭をゆっくりと歩いていた。
「この状況と夢渡。現状を打破する一手に成り得るか。現状では暁月君が立ち直るのがベターだろうが」
 愛無はこの家の主の顔を思い浮かべる。愛無がこの家に棲まうようになってからというもの憂い顔ばかり気になってしまう。
「繰切打破や廻君を代替とする事は現実的ではないか、現状の先延ばし。最悪、もっと深刻な事態を招きそうではある」
 やれやれと溜息を吐いた愛無は「人の心は面倒だ」と言葉に乗せた。
「だが是非もない。そうでなければ僕も人に惹かれはすまい」
 怪生物たる愛無が人の傍に居るのは、その心に強く惹かれるから。
 守りたい喰らいたい。その情動は小さき人の行動に大きく左右されてしまう。

 ――朝倉詩織。

 燈堂に住まう者。そして暁月の心の多くを占めるのは恐らく彼女だろうと愛無は思い馳せる。
 彼女の死から目をそらすべきではないとも。
 愛無がその身に宿す夜妖――獏馬。燈堂の宿敵。暁月にとっての恋人の仇。
「彼女と同じ時を過ごし、暁月君が知らない彼女を知っていそうな者だ。それは彼らにとっても「傷」なのかもしれないが。傷が深いほど傷から目をそらしていては傷は治らないのだから」
 暁月にとっても、しゅうにとっても詩織の死は『傷』なのだろう。
「だがそこに「燈堂」とは違う視点もあったのではないだろうか。ゆえに僕はそれを知りたいと思う。詩織君が、しゅうと過ごす中で何を思ったのか。何を願ったのか。しゅうは何を思ったのか。何を願ったのか。それを知りたいと思う」
 愛無の前にしゅうが現れる。その名を付けた愛無は彼の親。
「しゅうを「子」と思うならば、僕も其処から目をそらすべきではないと思うゆえに」
「愛無……」
 ゆっくりと花弁が二人の間を流れていく。
「僕が支えねばと思うゆえに。彼女に憑いた時。彼女と過ごした時。そして彼女が斬られた時。詩織君の事を話してほしい。そしてしゅうが何を思ったのか話してほしい」
「面白い話しじゃないと思うけど……」

 ただ、残ったものは。
 誰も救われず。傷付け合い。捩れてしまった。その事実だけ――

「これは僕の罪。詩織の一番になれなかった哀れな夜妖の負け惜しみの話しだよ……僕は誰かの一番にはなれないんだ」
 詩織も龍成も別の誰かを選んで、離れていってしまう。
「でも、愛無は一緒に居てくれるから、大好きだよ」
 愛無はそっと『子』を抱きしめ傍に寄り添っていた。

「えへへ……こうして皆で集まれると、頑張ったんだなって感じがするよねぇ」
 ペリドット色の目を細めた『繋ぐ者』シルキィ(p3p008115)は隣に立つ深道夕夏へと視線を向ける。
 話し合うと言ったからには彼女との対話は必要だと思うから。
「あの時はごめんねぇ、戦ってでも止めるしかなかったから……」
「いや、大丈夫。こちらこそごめんなさい。私も何であんな風になってしまったか分からないし、止めてくれて助かったわ」
「わたしが燈堂の家に関わり出したのは最近の事だけれど、それでもわたしはみんなの事が大好き。だから誰の犠牲も出したくはない。決して簡単じゃないのかもしれないけれど」
 シルキィは夕夏に手を差し出して真摯に目を見つめる。
「こうして話し合って、協力し合って。皆で考えて、少しずつでも良い方向に向かっていければって思う。だから……夕夏さんも力を貸してくれないかなぁ?」
「許してくれるの? 私は廻を刺したのよ?」
 夕夏の手を取ったシルキィは「大丈夫」と瞳を伏せた。
「廻君が夕夏さんの事を許すなら、わたしとキミは何の蟠りも無いんだよ。だから、今度一緒に皆で晩ご飯食べようねぇ」
 極力、夕夏は廻と会わないように食事も部屋で取っていたから。
 今度からは本邸の和リビングで一緒にとシルキィは微笑んだ。


 舞花は本邸の地下へ続く階段を降りていた。
「半年前の時点では、成程と見て解る位に封印が綻びていた」
 あれから半年。先月の時点でもう目に見えて綻びが確認されたと舞花は聞き及んでいた。
「大人しくしているだけでこれなのだから、その気になれば何時でも破れるのでしょう……」
 僅かに瞳を伏せて先程会った暁月の顔を思い浮かべる。
 彼の様子を見る限り、半年前から悪くはなっていても、改善はしていないだろう事が分かる。
「……まあ、それはそう。時間で解決するような良くなる要素等無いのだから、当たり前ね」
 階段を降りきって、無限廻廊の座へと至る舞花。
「廻君、本家、無限廻廊……暁月さん自身の心境の問題も含めて。多分、もうそんなに時間の猶予は残されて無いのでしょうね」
 舞花は灯りをつけて無限廻廊を見渡す。
「これは……酷い」
 そこに張られた呪符は『真っ黒』になって、半数ほどが剥がれ落ちていたのだ。
「封印の体を既に成していない……それにしても」
 舞花は封印の扉へと視線を上げる。繰切の前身は『クロウ・クルァク』だ。ヴィーザル地方の報告書でも聞いた事のある名前。
「神なる存在が真性怪異と同様のものを差しているのなら、信仰によって生まれ、信仰によって成り立つモノなのでしょう。少なくとも、此処に留まる限り繰切を認識して抱く畏れを繰切は得続ける事が出来る、という意味はある」
 信仰の数が多くなればなる程、神の力は大きくなる。
 舞花の仮説は紛うこと無き真実だ。
 豊穣の地に君臨する四神が希望ヶ浜に来れば『真性怪異』と名を変えるだろう。
 邪神であろうが善神であろうが人知の及ばぬものを真性怪異と呼ぶのだから。
「廻君の事も含め単純に現状に益を見出している可能性もあるけれど、或いは視えていない理由もあり得る
例えば……そもそもこの地に繰切が居た理由、とか」
「砂の国を追われたからだな」
 背後から突然聞こえた声に舞花は驚愕して振り返る。そこには目隠しをした灰肌の男が立っていた。
 人間の形を取っているがその中身は怪異と解る。目隠しはその強すぎる蛇眼を隠す為なのだろう。
「貴方が繰切ですか」
「ああ、そうだとも。我の過去が知りたければ夢に行き、好きな物を見てくるが良い」
 口角を上げた繰切を目視した瞬間、舞花は和リビングへと戻されていた。
 この燈堂の敷地は繰切の領域。舞花を地上へ送ることなど造作も無いことなのだろう。

「あれ、舞花?」
 視線を上げればクッキーを食べている龍成と目が会い「こんにちは」と挨拶をする舞花。
 丁度龍成の様子も見たかった所だと笑みを零す。
「……何はともあれ、無事なようで何より」
 ROOでは龍成にしろ龍二……彼のパラディーゾにしろ色々とあったけれど。
「先日の一件では澄原先生が怪我をしたと聞いたけれど、今も忙しくしているとも聞いたから……まあ、大丈夫なのかしらね?」
「怪我は治ったみたいだな。心配してくれてありがとよ」
 龍成は心優しい姉貴分ににっかりと笑った。

『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は広い燈堂の敷地を探検していた。
「前も思ったけど大きなおうちね! あ、リチェ! そのお花は食べちゃだめだよ!」
 相棒のリチェルカーレを持ち上げてキルシェは最後の探索地、本邸へと足を踏み入れる。
「あら? 地下もあるのね。リチェ、見に行ってみよう!」
 長い地下への階段を降りた先に居た男に声を掛けるキルシェ。
「あら、お兄さんもこの家の人? ルシェはキルシェです! こっちはリチェ! 今日はおうち探検させて貰っています!」
「おう、我が名は繰切。この地に奉られている神だ」
 腕を組んでキルシェに向き直った繰切。
「お兄さんは繰切お兄さんって言うのね! 宜しくお願いします!」
 ぺこりとキルシェとリチェは頭を下げる。
「繰切お兄さんはここで何してるの? お花見参加しないの?」
「今日は来客が多いからな。相手をしてやっているのだ」
「ふぅん? 意外と優しいのね。ルシェもご飯貰ったけど美味しかったわ! あ、そうだ。お花見弁当って言うのじゃないけど、ルシェのおやつならあるから一緒に食べましょう!」
 キルシェは鞄の中からチョコとフィナンシェを取り出す。

「じゃぁ繰切お兄さんはずっとここにいるの? 寂しくない?」
「まあ、本体は動けぬが。お主の前に居るのも分体だからな。分体は敷地内なら自由に歩けるぞ」
「そうなの? ルシェはたまーに誰か来てくれるぐらいなら凄く寂しいわ! あ、ルシェまた遊びに来て良いかしら? 毎日とかは無理だけど、月に何回かこうやって一緒にお菓子食べてお話しましょう!」
 無限廻廊の座の壁にキルシェの陽気な子が反響する。
「蛇ちゃんもまた遊びましょうね!」
「騒がしいヤツだのう。ほら、用が済んだなら戻るが良い。我と共に居ると侵食されるぞ」
「はぁい!」
 その辺りにわさわさ居る蛇にも手を振って、キルシェはリチェルカーレと共に地下から陽の当たる場所へ戻っていく。
 代わりにやってきたのは『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)だ。
 レイチェルが此処へきた理由。それはROOで繰切の前身であるクロウ・クルァクに会った事があるから。
「だから、此方の世界の奴にも個人的な興味がある」
 吸血鬼としての力を解放し、影に溶け込むように気配を消してレイチェルは無限廻廊の座へやってきた。
「おい、『繰切』。此処に居るんだろう、出てこいよ」
「本当に、今日は来客が多いな」
 レイチェルの前に現れた繰切の分体は「歓迎するぞ」とニヤリと笑う。
「燈堂家とか関係ねぇ。俺は深い関わりはないしな。俺は単に、お前の──蛇神の話を知りたいだけだ」
 本来ならばこの封呪『無限廻廊』なんて簡単に突破できるのだろう。
 しかし、それでも此処に留まっている理由。
「巫女を愛しているんだろう? ただ、人との関わりが下手なだけで」
「そうだな。愛しているぞ。我に身を捧げた巫女を全て覚えている。その命尽きるまで愛を注いだ。今代の巫女とて我なりの愛で方をしている。苦痛をに歪む顔を見たいと思うのは我なりの愛玩であるぞ。それに近頃は優しく寵愛することもある。すると好い声で鳴く」
 くつくつと笑う繰切にレイチェルは、人ならざる者の侵食を感じる。

『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)は繰切を探していた。
「エルは、小さなおにぎりとお料理のおかずも、お弁当箱に、つめました」
 準備は万端だと以前、繰切に会った蔵へと向かうエル。
「あ、繰切さん。一緒にお弁当をたべましょう」
「おう、エルか。良いぞ」
 繰切と一緒におにぎりを頬張る。これが大好きなのだとエルは告げて「繰切さんは、どうですか?」と問いかければ、一口食んで蛇神はニヤリと笑った。
「うまいぞ」
「新しく、楽しい事や美味しい事、増える事は、とっても素敵な事だって、エルは思います」
 ぱくりと食べて咀嚼し、飲み込んでからエルは頷く。
「なのでエルは、繰切さんも、このお家の皆さんも、辛い事や、寂しい事、だけじゃなくて、素敵で幸せな事が、もっと増える、お手伝いが、したいです。お話が出来ずに、さよならをしてしまうのは、とっても辛いこと、ですから」
「ふむ。エルは欲張りなのだな。その小さな身体で大きな夢を描いておる」
 エルの頭を撫でた繰切は「駄目なことではないがな」と言葉に乗せる。
「クロウ・クルァクさんと信者さんみたいに、与えすぎて、求めすぎる、関わりも。今の繰切さんと廻さん達のように、意地悪しすぎて、恐ろしがられる、関わりも。いつか壊れて、どちらも辛くなるって、エルは思いました」
 真性怪異とは言葉を交すだけで侵食を伴う、人知を超えた存在。その蛇神へ真剣に向き合うエル。
「もしも、お互いを大切にして、真っ直ぐお話をして、ほっこり過ごせる、そんな関わりなら、壊れないし、今よりも楽しいし、繰切さんも、寂しくないって、エルは思いましたけれど、どうでしょうか?」
「ふむ……お主の言いたい事は分かった。紫桜にもアドバイスを貰ったから、この前少し廻に優しくしてみたのだが」
 優しくしてみたという言葉にエルは目を輝かせる。
「少し懐いた。儀式の時は怯えはするが、撫でたり甘やかしたりしてやると僅かに微笑む事もある。あと、よく分体の方の我を呼び出すようになったのう。力が抑えられてある分、怖くないのだろうな」
「仲良くなったということですね!?」
 よかったと笑みを零すエルに「そうかもしれぬな」と繰切は口の端を上げた。
「我が優しくあれたのは、お主や紫桜、他のイレギュラーズのお陰なのだろうな」
 繰切に対する信仰の形が少しずつ変わってきている。ほんの僅かの変化ではあるが、以前よりも。
 その言葉を聞いたエルは頬を染めて顔を綻ばせた。

『Utraque unum』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はめちゃめちゃ長い名称の春のフラペチーノを廻に手渡してから、白銀におにぎりを握ってもらう。廻を伴い座敷牢へ降りて行けば待ち構えていたように繰切の分体が座布団の上に座っていた。
「よく来たな。アーマデル。我に会いたかったのだろう? それで何用だ?」
「繰切殿の……ここ(練達)に来てからの思い出話とか、聞いてみたいと思った」
「ふむ。それはお主、夢の中へ見に行くのだろう? 許可してやるから存分に見てこい」
 イレギュラーズがこの燈堂へ集まった理由すら繰切は知っているのだろう。

 アーマデルは襟を正して繰切へと向きなおった。
「……俺にも大事なものがあり、その『いちばんめ』は何にも代え難い。俺の守神(一翼の蛇)の加護は魂に刻まれたもの、魂を砕きでもしない限り失う事は無い。故に繰切殿のお眼鏡に叶うかはわからないが……俺でも巫女ができるだろうか?」
「アーマデルよ。弱気な気持ちでそれを望むか? 侵食はお主を蝕むぞ?」
 目を瞠るアーマデルは緩く首を振った。繰切の事は『隣の神様』のような認識であるが、友人の廻の負担を軽減してやりたい。そして、人間臭い蛇神に親しみを覚えているから。
「ある程度の侵食は止むを得まい、神に共振する程にヒトから離れてゆくものなのは理解している」
「アーマデルさん……っ」
 廻は友人の袖を引く。その負荷をアーマデルに背負わせるわけには行かないと涙を浮かべた。
「良いぞ、アーマデルお主を我が巫女と認めよう。その方が面白いからのう」
「繰切様、何故……」
 眉を下げて首を振り、恐る恐る繰切の腕を掴む廻。
「我の前身であるクロウ・クルァクの壺を託されたこと、最後の巫女と似ていること。其れは巫女たる素質がある証だ。だがアーマデルよ、こうされる事を理解しておるな?」
 口角を上げた繰切は廻を羽交い締めにし、首筋を容赦無く噛んだ。痛みにびくりと震えた廻の肢体は、諦念からだらりと垂れ下がる。無慈悲な牙も人の身に余る逸楽も全て受入れ無ければならない。
 それが『繰切と廻』の間の契約。本巫女ではないアーマデルと繰切の間には廻ほどの負荷は無いだろう。アーマデルがそれを望まぬ限り。廻と同等の負荷を望むのでれば――
「覚悟しろ、アーマデル。我の巫女は脆くあっては務まらぬぞ」
 首元から流れる血を押さえて蹲る廻は身体中に回る毒熱に息を吐く。ぐらぐらと揺れる視界。
 巻き込んでしまったと廻が涙を流せば、それは違うとアーマデルは首を振った。
「俺が望んだことだ。同じ痛みを共有し負担を軽減できればいいと思った」
「アーマデルさん……」
 友人の優しさに大粒の涙を零した廻は彼をぎゅっと抱きしめて、毒熱に意識を手放した。

 繰切の分体の前へ『羅刹観音』紫桜(p3p010150)は手を広げる。
「俺は君のこと知りたいし、君の気持ち聞きたいなあ。それ以外にも色々聞かせてよ。重要な事でも例えば好みの子とか味とか他愛ない事でもさ」
「何故そのような事を聞くのだ?」
「え? 俺は君に寄り添ってみたいと思ってるから。俺が君の傍にいたいと思うから。俺の欲の為に君を欲しているんだ。だから俺に教えて。君の全てじゃなくてもいいから。だから傍にいさせて。君に侵されても構わないから」
 くつくつと繰切の地の底から這うような笑い声が聞こえる。
「我は人間ではない。真性怪異と呼ばれる者ぞ? お主が元々神であろうとも、この世界では人間の枠に収まっておるだろう? それが不用意に我へ触れるというのならば、狂気に陥るか然もなくば死ぞ」
「……ふふ、なんて。ちょっと気障っぽかったかい? 君とお近付きになりたいから、頑張って口説いてるんだよ。君が絆されるか分からないけどね」
 いつの間にか現れた巨大なソファにどさりと腰を下ろす繰切。
「のう、紫桜よ。我を口説きたいのならば、予防線など張るでない。求められるならば悪い気はせぬが、『なんて』などと掌を返されるのは好まぬな。真正面から向き合わず我が口説けるとでも?」
 黒蛇が出してきた酒瓶を手に取り、二つのグラスに注ぐ繰切。
「まあ、今日は気分が良い。お主の話しぐらい聞いてやろう」
「ふふ。ありがとう……じゃあこの前のアドバイスどうだった?」
 紫桜は以前繰切に廻へ優しくしてみては、というのを持ちかけた事がある。
「あれか。中々好かったぞ。前は絹を裂くような叫声だったが、ねだる様な好い声で鳴くようになった」
 繰切を愉しませるという月祈の儀の契約には大いに役立ったということだ。
「じゃあ、本霊事件? があるんだっけ。誰が犠牲になるとかならないとかそういう……。まあ、それは人間側の事情だろう。繰切的にはどう思ってるの?」
 グラスを傾ける紫桜は視線を繰切へと流す。
「誰が犠牲になるかなど、我には些末な事だがな。巫女を誰かの手によって失うのは腸が煮えくりかえるだろうな。己の寵愛する玩具が壊されるのは我慢ならぬだろう?」
「自分の手なら良いんだ?」
「我が自ら喰らうなら問題なかろう? 共に在りたいと願い、喰いたくなったら喰うぞ」
 羨ましいなと紫桜は酒をゆっくりと煽った。じわりじわりと侵食は紫桜を包む。それが心地よいと思えばこそ、繰切の巫女たる廻はその胎に、何れだけの侵食(あい)を孕んでいるのだろうと想念する。

●猫耳は夜妖の仕業

 燈堂の和リビングには子供達のはしゃぐ声が響いていた。
「んん?? んん??? なんでわたしがちっちゃく!」
 頭の上に生えたウサ耳を押さえた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は混乱したように周囲を見渡す。
「あ、あかつきさんどこぉ……へぁ!?」
 ツンとした表情の幼い暁月を見つけ驚嘆の声を上げるアーリア。
 暁月少年の袖をぐいぐいと引っ張って遊ぼうと( ・◡・*)顔のぬいぐるみを押しつける。
 このぬいぐるみ胴体を押すと「ふふっ」と鳴く。
「あー、もうわかったから、ほっぺひっぱらんといてぇ」
「にーうにーう!」
 お互いこの記憶が戻れば悶絶間違いなしだが、今は微笑ましい幼女と少年であった。尊。
「あれれ? 私の頭の上が変な感じに……あっ! 猫の耳が生えてます!」
 メリッサは「これはいったいどういうこと」とその場でくるくると耳を押さえながら慌てる。
「つまりヒーローの出番でありますね!!!!!」
 ムサシの声が和リビングに響き渡る。
 華麗なBGMとゴージャスでカラフルなリボンがムサシの身体を包み、光が弾ければ猫耳がついた愛らしい幼児の姿が参上する。
「ここはこのムサシライダーにおまかせ、です!」
 格好いいポーズと共に愛らしい姿をしたムサシがメリッサに夜妖の仕業だと宣言する。
「なるほど、これが夜妖の力ですか……初めて体験しましたがすごいですね。でも危害を加えられる様子は感じませんし、この際ですからみんなで遊んで楽しんじゃいましょう」
 メリッサはアーリアと遊んでいる暁月の元へ駆けていき、仲間に入れてほしい声を掛けた。
「あ、あのよかったら。皆で一緒にあそびませんか遊ぶ人数が多い方がきっと楽しいですから、迷惑じゃなければ是非一緒に遊んでほしいです!」
「うん、いいよ」
「きゃー♪」
 何をして遊ぼうかとメリッサが問えば、ムサシが鬼ごっこと手を上げる。アーリアと暁月は嬉しそうに駆け出してそれをメリッサが追いかけた。
「よーし、みんな子供になっていますし条件は互角のはずです! 負けませんよー!」

 メリッサたちが駆け抜けていくのを視線で追いかけたのは『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)だ。
「Whhh?? わーーー?? どうなってるのーーー!?」
 耳が生え小さくなる夜妖の力。正にワンダフルでパーフェクトな能力。オレンジ色のまあるいオブジェクトが満足げに「ふふっ」という姿が目に浮かぶとリュコスは思う。
 でも、リュコスは元々愛らしいケモ耳幼児だ。しょんぼりしている姿も最高に可愛い。
「しょうがないから、みんなまとめて遊ぼう! 今日だけはぼくが上の子だよ! 夜妖も小さくなった人たちも、どーんとこい! あ、龍成! ふふーん、今の大きさだとぼくの方がかてちゃうかも?」
 リュコスは小さくなった狼耳の龍成を見つけて胸を張った。
「にゃんだとーぉ!」
「ひゃー♪」
 龍成はリュコスを一生懸命追いかけるも、幼児の走る速度では追いつけない。
 走り疲れてばたりと倒れる龍成の元へやってきたのは、『紫香に包まれて』ボディ・ダクレ(p3p008384)だ。龍成が子供になったからお守りでもと考えたボディだが。そうは問屋が卸さない。ぴかぴかのりぼんがシャララとボディを包む。
「わたしも。あたまもいっしょにちいさくなってます。しかもまたうさぎみみではないですか。うーん」
 夜妖を祓うためにもこの任務は必要。仕方がないのである!
「よーしかけっこですかけっこ。りゅーせーとにわではしってきます。はやいほうがかち」
「にゃにおー! まてー! ぼびー!」
「ふふふわたしははやいでsうわー、ずっこけました。しかもあたまがおもくておきあがれません。りゅーせーたすけてください。もちあげてください」
 顔面から転んだボディを慌てて抱き起こす龍成。一生懸命子供の力で助け起こした龍成の狼耳をむんずと掴んだボディは、ふわふわの触り心地にうっとりとした顔を表示させる。
 龍成はお返しにとばかりにボディのうさ耳をもふもふと触った。
 お互いの耳を触り合う擽ったさにころころと笑う二人。

「あらあら、素敵なお花を選んでくれましたね!」
「えへへ」
 すみれは日向が差し出した薄紫色の花を見つめ笑みを零す。
「日向様から頂いた宝物です、押し花にして綺麗な形でとっておきましょう」
 尻尾をぶんぶんと振り回す日向が目を輝かせ、大きく頷いた。
 やはり子供は可愛いと、走り回る小さな影を見遣るすみれ。
「元々日向様は育ち盛りの身でこれから私の背を超すのかなと思うこともあったのですが……まさかより幼い姿を見られるとは」
 すみれは日向の頭を撫でて「よいしょ」と自分も小さくなり狐耳を生やす。
「こぉして、わたしもちいさくなって、ぎゅってして、だいじょうぶ。ことばでなくとも、こころでわかります。ずっと、そばにおりますよ!」
「しゅみれ……」
 小さな幼子の姿で抱きしめ合うふたり。日向はすみれの優しさに安堵してうれし涙を零した。
『Re'drum'er』眞田(p3p008414)は小さくなった猫耳の廻の前にパーカーの紐を垂らす。
「にゃ!」
「ほーら、おいで」
 紐に釣られて飛び込んだ廻を掴まえた眞田は、ふくふくのお腹に顔を埋めて擽った。
「きゃぁ! にゃぁ!? にゃぁあ! ぁああ!」
 擽られすぎて笑いすぎて酸欠の涙目になってくる廻に眞田はやり過ぎたと子猫を抱きしめる。
「アハハ! ごめん、ちょっと意地悪したね。よしよし、廻君。泣かない泣かない」
「うぅ……まだしゃん」
 眞田の胸に顔を埋め、甘える廻の頭を眞田は優しく撫でた。幼い廻にいつもより子供扱いしてしまう。
 その様子を見ていた紫桜の耳には猫耳が生えている。少し横に垂れ気味が可愛らしい。
「暁月さん……廻君とおててつないでいっしょにあそぼ」
 廻の手を引いて暁月の前に来た紫桜。暁月はこくりと頷いて廻の手を握った。
 折角の不思議な夜妖の仕業なのだから、大人だからとかそういうのは忘れて一緒にはしゃごうと紫桜は暁月と廻に笑いかける。
 モル耳の生えた二歳児になったのはキルシェだ。
「ちちゃ! りちぇおっき!」
 いつもより大きく見えるリチェルカーレに抱きつくキルシェ。
「めーちゃも、ぎゅーすぅの? ぎゅー!」
「すうー! あかちゅきさも……」
 キルシェと同じように廻は暁月の手を引っ張って一緒に、美味しい草を食べているリチェルカーレに抱きつ「ぎゅっぎゅしゃーあせなの!」
「ねー!」
 猫耳を生やしたチックはうずうずとその様子を見つめる。
 本当はリチェルカーレのもふもふに飛び込みたいけれど、自分は皆のお守りをしないといけない。
 灰色のもこもこの翼をぱたぱたさせて、我慢しているチック。
「だって、おれはおにいちゃん……だから。ね」
「ん。ちっくしゃも……おいぇ」
 廻はチックの手を引いてリチェルカーレのお腹に誘う。
「あら、あら……なんて、なんて可愛らしい……!」
 幼児になった廻達を見て目を輝かせるのは『白ひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)だ。
「みなさま、こんな時代もあったのです、ね」
 廻や龍成のもふもふな耳を優しく撫でるメイメイ。
「えへへ、一緒に遊びましょう……あれ? ……めぇ!? わ、わ、わたしまで小さく……!」
「いっしょ、ね」
 小さくなったメイメイの手を引いて、廻はリチェルカーレのお腹が気持ちいい事を教える。
「もふもふ」
「あい、もふもふ」
 メイメイと廻は幸せそうに笑い合った。

「――白き森の神が俺に告げている、このカメラで幼児化した人たちを撮影していけと……」
 無駄に格好いいポーズでカメラを構えた『守る者』ラクリマ・イース(p3p004247)は。
「白き森のかみ……白……あれ? 何故か神がオレンジに見え、うっ!」と頭を抱え込んだ。
 アーリアの持つ( ・?・*)人形が押してもないのに「ふふっ」と声を上げる。
「と言う事で幼児化した人たちを記念に撮影していくのです、拒否権はない」
「りゃくりまー!?」
 パシャパシャとシャターを切るラクリマに龍成が叫びを上げた。
「まあまあ、せっかくなので思い出と言う事で。みなさんとても可愛らしいのですよ。ふふふふふ」
 ラクリマの微笑み。アーリアのオレンジ色の人形からしきりに「ふふっ」と声が聞こえ。ついには泣き出してしまう幼児アーリアを暁月がよしよしと頭を撫でる。
 その光景を写真に収めるラクリマ。
「あ、怪しい物ではないのです! 俺はショタコンでもロリコンでもないで安心してください。どちらかと言えば年上の方が好きです。聞いてない? 知ってる」
 なるほど年上好き。ここメモしました。
 でも、夜妖の力は強大でラクリマを幼児に変え、後ろでは「アアッ!」ともみじ人形が奇声を上げる。
「勿論、幼児化しても耳生えても撮影は止めぬのですよ! 体が小さくなっても。手が小さくなっても。カメラはもてる問題はないのです!」
「ひゃわわ。エュも、ちいちゃく、なりましたぁ」
 自分の名前も言えぬほど幼児化したエルの舌っ足らずの喋り。可愛い。
「りゅーしぇーしゃんも、ちっちゃい、でしゅ、ね」
 エルは龍成の耳を引っ張ったり噛んだりしている。ラクリマのカメラは容赦無く愛らしい姿を捉えた。
「みなしゃん、おしゃしん、ごいっしょ、はいぽーじゅ、でしゅよ」
「取った写真はご本人と関係者にちゃんと送信しておきましょうかね! 俺の家族に送るととてもとてもややこしい事になって永遠に深緑から出してもらえないフラグが立ちそうなので遠慮しておくのです」
 その実家は今えらい事になっているが、それはさて起き。
「龍成氏……凄く可愛らしくなって……」
 ラクリマに習ってカメラを構えるのは『陽の宝物』星影 昼顔(p3p009259)だ。
「セチア氏もカメラ貸すから撮影しない?」
 昼顔は一緒に連れてきたセチアにカメラを手渡す。
「後ね。出来るなら写真、澄原先生に渡して欲しいなと……多分面白い事になると思うから」
 こくりと頷いたセチアの後ろからレイチェルが顔を覗かせる。
「面白い事になってるじゃねぇか。俺も龍成を弄りに……じゃなくて、大丈夫か様子を見にきたぜ」
「いじりにっていった!?」
 レイチェルの言葉に思わずツッコミを入れる龍成。
「ほら、可愛い弟分の事が心配だからなァ。レイチェルせんせーが来てやったぞ、と!」
 随分と愛らしい姿になった弟分を抱き上げて、レイチェルはふさふさの狼耳を撫でる。
「おお、本当に狼の耳だ……これはどうだ?」
 狼耳にふぅと息を吹きかけたレイチェルに腕の中の龍成はびくりと跳ねた。
「ぎゃああ!?」
「……うお!?」
 龍成の叫び声と共に、小さくなったレイチェルがコロンコロンと転がって行く。
「おれもガキになるなんてきいてねぇぞ!!」
 ぶかぶかの外套の中から出て来たのは、愛らしい狼耳が生えたレイチェルだった。
「あ、でもこれ夜妖と遊ばないと元に戻れないのですよね? 流石に小さいままでは困るので何か遊ばなければ……うーん。この家、すごく広いのでかくれんぼとか良さそうかな? かくれんぼするのです!」
 ラクリマの声にメリッサとリュコスがこっちだと手を上げる。

「白雪さんは……いつも通り?」
 祝音は白雪を膝に乗せてうずうずとしていた。
 自分にも生えないかなと思った矢先、ふわっと頭の上に柔らかな気配。
「にゃ! はえた!」
「にゃーお」
「しっぽ、ない……? しらゆきさん…いっしょに、あそぶ? みゃー」
 白雪がいつもより大きく見えて、嬉しそうにその背に抱きつく祝音。
 友人が転がらないように、白雪は丸まって祝音を抱き込んだ。
「ふわふわ、かわいい。しらゆきさんたち、ねこさんたち、みんな……だいすき」
 これから先の不安が祝音の心を揺さぶる。けれど、どんな状況でも癒してあげたいと願うのだ。
 祝音と白雪が微睡んでいるのを見てエルも眠気に襲われる。
「おばーしゃまぁ、エュは、ねむねむ、でしゅ」
「ふふふ、トントンしてあげましょうね」
 エルの背を優しく叩く佐智子の手。エルはとろんと瞼を落した。
「おばーしゃまが、エュの、ほんとうの、おばーしゃま、だったら……うにゅぅ、すぅ」

「あれ? ぼくも、ちいしゃいなっちゃた? おふぃーりゃ、どーしよ、こあいよぉ……」
 イーハトーヴはオフィーリアを抱きしめ部屋の隅でぷるぷると震える。
 ここに怖い人は居ないとオフィーリアに慰められても、身体がどうしても強張ってしまう。
 だからこうして部屋の隅に蹲っているのだ。
 本当は夜妖と遊ばなければいけない。そういうお仕事だから。
「うう……でも」
 このままじっとしていたい。動きたくない。もう痛いのは嫌だから。
 楽しそうな声が部屋に響く。友達と遊ぶ事がこんなにも億劫で辛い事だったなんて忘れていた。
「どうしよう」
 ぽろぽろと大粒の涙がイーハトーヴの瞳から零れ落ちる。
 止めたくても止まらない。また殴られてしまう。
 龍成と呼べば来てくれるだろうか。呼んでもいいのだろうか。わからない、怖い。
 イーハトーヴは幼い頃の思考の波に引っ張られる。
「どぅしあ? イーハトーぅ?」
 床に蹲る自分に視線を合わせるように寝転んだのは龍成だ。
「ぁ……」
「こあい? だいじょーぶ。だーいじょぶ」
 ふわりとイーハトーヴを包み込むぬくもり。龍成がぎゅうとイーハトーヴを抱きしめる。
 寂しくないよと言ってくれたから、今度は嬉し涙がイーハトーヴの瞳から零れ落ちた。

『淑女の心得』ジュリエット・フォン・イーリス(p3p008823)は白いうさ耳を生やし中庭を散歩していた。
 長い髪はそのままに、僅かに眉を下げてしょんぼりした顔。
「勘違いってなんでしゅかね……」
 グラオ・クローネの日に大切な人から言われた言葉が妙に引っかかっていたのだ。
 この気持ちは勘違いなどでは無いというのに。伝わらなかったという事なのだろうか。
 悶々と嫌な考えがよぎりジュリエットは首をぶんぶんと振った。
「でもここで考えても仕方ないでしゅよね! 遊びましょう」
 幼児化したせいで景色が変わって見える。広い中庭が大草原のように見えた。
「私、かくれんぼとくいでしゅよ」
 廻と眞田が隠れん坊している所へ一緒に混ぜてもらうジュリエット。
「ふふ、ここなら見つからないでしゅね」
「ジュリエットしゃ、みぃちゅけー!」
「ふにゃー!?」
 大きめの植木鉢の後ろに隠れたというのに、どうして見つかったのだと困惑するジュリエット。マリアンヌからはこれで隠れられたのに。頭の上でうさ耳がぴこぴこと揺れる。

「暁月しゃん、おにわのお花すこしくらさいましぇんか?」
 ジュリエットは上手く発音できない口元を覆い頬を赤く染めた。しょんぼりとうさ耳が垂れ下がる。
「うん。いいよ」
 そんな愛らしい幼女に暁月は快諾し、それを聞いたジュリエットは笑顔を綻ばせた。
 夜妖達に花冠の作り方を教えるジュリエット。シロツメクサを夜妖達とガーベラは暁月に渡す。
「おはな、ありあとございましゅ。あげましゅ。暁月しゃんが元気に笑えますように」
 小さなジュリエットが背伸びをして暁月の頭に花冠を乗せた。
「ふふ、ありがと」
 無理をしているであろう暁月が少しでも安らげますようにと感謝を込めて。

 メイメイとジュリエットは自分の中から消えて行く夜妖の気配を感じる。
 沢山あそんで、素敵な贈り物を交換しあって。満足して旅立って行く。
「ありがとう、またね」
「ばいばい」
 こんな夜妖ならばいつでも歓迎したいと二人は思う。
 されど、別の夜妖が来てしまうかもしれない不安に胸が締め付けられた。
「気を付け無ければなりませんね」
「はい」
 願わくば、何事も無く日々が続きますように。

●夢の廻廊

 セチアを連れて来た昼顔にしゅうは「気を付けてね」と眉を下げた。
 もしもの戦闘の時に傷付く可能性が高いのは戦えないセチアだからだ。
 リュコスはしゅうの後ろから顔を覗かせる。
 獏馬と龍成が現れてからイレギュラーズとして偶然祓い屋に関わる事になったリュコスは、まだ彼らの事を全然知らない。
「ぼくってクレバー」
 だから、この夢の廻廊に入って燈堂家の事を知りたいと思ったのだ。
「これで燈堂家のことがいろいろわかるはず……むむん」
 リュコスは軽い気持ちで此処に来たわけでは無い。
 世の中には悲しい事や辛い事が沢山ある。リュコスとてそんな思いをしてきたのだ。
 マクロな視点から見れば、些細なこと、よくある事なのかもしれない。それはリュコスも分かっている。
「でも、「痛い」がどういうことかわかる気持ちが誰かを「痛み」から助けようとする気持ちになるなら。ぼくはその痛みものみこんで、少しでも助けになりたい!」
 だから進むのだとリュコスはしゅうの後ろから一歩前にあゆみ出た。
「夢の回廊……とんでもねぇオカルトだな。だが事実なんだろう。獏馬だったか? 案内頼む」
「ちょっとね、廻の過去の記憶を覗きに行きたい。サポートを頼めるかい、獏馬」
 天川とシキの言葉にしゅうとあまねは「任せてよ」と笑みを零す。

「廻さまの過去、暁月さまの過去。わたしなんかが、触れていいモノかは悩みます、が」
 メイメイは不安げに瞳を揺らし、心を落ち着かせる為に深呼吸する。
「大切な燈堂家のみなさまのために、出来ることがないか、探しに行きたいと思います」
 メイメイの言葉に祝音も頷いた。
「燈堂家の……廻さんや暁月さん達の記憶を、僕も見る。……どんなに辛い記憶でも、知らなければいけない事はあるから」
 祝音は白雪と一緒に夢の廻廊を歩いて行く。
 廻が知っていること、知らないこと。異なる視点の情報を得られる機会だ。
「白雪さんの記憶はあるかな。何かを見聞きしたのかな……?」
「にゃー」
 祝音に尻尾を立てて歩いていた白雪が一つの夢石の前で立ち止まる。
「これは、白雪さんの夢石かな?」
 二人一緒に触れると、空間に白雪が廻の布団の傍で寝ている姿が広がった。
 月祈の儀の後、数日間廻は真性怪異からの侵食に苦しむのだ。
『――繰切の侵食を受けた者は夜妖を引き寄せやすい』
 だからこうして白雪は廻の傍で寄ってくる小さな夜妖を倒していたのだ。
「成程、な」
 アーマデルとボディはその情報を心に留め置く。
「白雪さんは優しいね」
「にゃーお」
 祝音の足下にすり寄った白雪は少年の足に尻尾を絡ませた。

「僕も……僕自身の記憶を1つ、見る。一緒に見てくれる? 白雪さん」
「にゃー」
「僕自身も朧気ではっきり思い出せないんだけど、実際起きた事と同じか異なるかわからないけど構わない。これが……僕の恐怖、思い出さないといけない事だから。でも、ちょっと勇気が無いんだ。だから、一緒に見てくれるとうれしいな」
 祝音一人だけでは目を瞑ってしまうかもしれないけれど。白雪と一緒なら立っていられる。
 広がるは冬の木枯らしが窓に吹き付けるショッピングセンター。
 家族と一緒に和やかに買い物をしていた最中だ。
 突然祝音の身体を襲った熱感。
 照明が弾けた暗がりの中、遠くに見えるのは今まで前を歩いていたであろう、人の肉塊。千切れて壁に赤い血を晒していた。
 振り返り、目の前の親しい誰かの名を呼んで。されど、一向に血は止まってくれなかった。
 怖くて苦しくて。逃げ出したい祝音の記憶。

 ――――
 ――

「おや、挨拶しに来たのだけれど、皆寝ているねぇ」
 本邸の和リビングへ一人でやってきた葛城春泥は、夢の中へ落ちていった子供達を見つめ笑みを零す。
「ふぅむ? 彼が龍成君かな? ピアスを沢山着けたタトゥーのある子」
 モニター頭の大男(ボディ)の隣で丸くなって寝ている龍成の肩に指を這わせる春泥。
 にたりと笑みを零し龍成に『呪い』を施す。
「おっと……」
 眠っている筈のボディの腕が春泥の手を払うように動いた。
「ふふ、防衛本能ってやつかな。まあ、どうなるか楽しみにしていようか」
 覆い被さるように龍成を抱き込んだボディを春泥は愉しげに見つめた。


 夢の中を進む『刀身不屈』咲々宮 幻介(p3p001387)は浮かない顔をしていた。
「暁月達の過去、か……話に聞いただけだし、気にならないといえば嘘になるが」
 正直な所かなり気が進まない。本人から聞くならともかく直接記憶を見ることが。
 されど夜妖の気配もあるらしい場所に子供達だけ送るわけにはいかないと着いて来たのだ。
「ぶははははっ!」
『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は燈堂家の事はよく解らないがと辛気くさい空気を吹き飛ばすように声を上げる。
「フッ……音呂木にずぶずぶの私ちゃんがさりげなく力添えしてやるのも仕事の一つってもんよ」
「しかし、過去を見れる夢の回廊ねぇ?」
「限定的に記憶から人物再現するとかはあったけど。夢として過去を見れるとはねぇ。映画とか繰り返し見放題じゃね? ダメか! がはは!」
 幻介は隣で笑う友人の陽気さに何だか助けられている気がした。
「まあ、私ちゃんには燈堂家の情報は見当がつかん。少なくとも廻っち視点では闇深部分は見れそうだけど、そこは親しい子にそれとなく任せるぜ」
 秋奈は周囲を見渡してからくるりとあまねに振り返る。
「……というわけで、分かりやすそうな浅い部分を見ていくか!」
 わかりやすいのは出会いの部分だろうか。垣間見える夢の記憶に頭を傾げる秋奈。
「うぬうぬ。この頭脳はフル回転でもうまく整理がつかないから、この考察はえらいひとに任せるとして」
 秋奈は隣の幻介が刀の柄尻で夢石を小突くの見つめた。
「嫌な事を思い出しちまうな……え? ちょっと待て、もしかして響命の記憶も見れたり……おい響命、今すぐ思い出すのをやめろ!!」
「ちょっ、幻介!? この夢は……にゃんですとう!?」

 広がるのは幻介が元いた世界。
 江戸の昔、戦乱が収まり天下泰平が訪れたばかりの世。
 穏やかな暮らしの裏、悪を斬り混迷を納める……始末人と呼ばれる汚れ仕事を請け負う男女の記憶。
 数多の血を浴びた先、待っていたのは……陰謀の中での死別。

「……あの時、俺が早く気付いていれば。もっと強ければ……そもそも、俺と出会わなければ!」
 幻介の慟哭が空間に響き渡る。
「うろたえるな幻介! 大丈夫。しっかり深呼吸しな!人間やればできるもんだぜ!」
 記憶に引き摺られ、幻介は苦悩するように一歩後退る。
「あんな所で死ぬ事は無かった、俺が弱かったせいで……俺のせいで!」
「なんだよその弱気な反応。劇場版か? 自虐が過ぎるー! でもめっちゃウケるー!」
 秋奈は幻介へ手を差し伸べて叫んだ。
「ほら、手ぇ出して!全力ダッシュでいくぞ!」

 はぁと息を吐いた幻介は別に隠してたわけではないと首を振る。
「……もう過去の事だって割り切れたと思ったんだがな。まだ、こんな……こんなにも、やりきれねえ気持ちになるんだからよ」
 今夜は夢見が悪そうだと口の端を上げた幻介の背をバシンと叩く秋奈。
「今の私ちゃんは見ての通り、とびきりのぽんこつだが……絆ってやつは、時に精神的にも仲間を救うものらしいぜ?」
「つまらねえ過去を見せた詫びだ、サポートすっから好きに暴れていいぞ秋奈!」
 刀を抜き去り、敵へと視線を上げる幻介。そんな友人に秋奈は「おう!」と応えた。

「私は正直、祓い屋の事情に明るくはないんだ。むしろ周りに比べれば疎い方だろうね」
「そうなのか?」
 シキの隣で首を傾げたのは『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)だ。
 何かに呼ばれるようにここまでやってきたらしい。最初はシキを追いかけていたはずなのに。
「まあ、敵が出て来たら任せろ」
「うん。いざとなれば頼りにしてるよ」
 心配性で過保護なシキの愛しい風はにっかりと少女に微笑んだ。

「前に、瞳の色がとても綺麗だと言ってくれたんだ廻が。だから心配してる」
 君の痛みを知りたい。
 君の心に触れたい。
 君のことをもっと教えてほしい。
「そしたら私を友達と呼んでくれた廻に報いることができるだろうか。廻の力に、なれるだろうか」
 見せたくない記憶まで無理に覗くつもりはないけれど、見られる範囲で深く深く記憶を見たいとシキは願うのだ。望むのは繰切についてだろうか。他の仲間と共に夢石の記憶を垣間見るシキ。

「ま、俺はあんまこうドラマ的なのを見ても感動とか共感とか別にしねー事も多いんだけどさ。そういう立場から何か言わなきゃいけねー時とか、事ってのもあるかもしんないし」
 友人であるシキの事を思えばこそ、誰かに辛い選択を迫る悪役が必要ならば、その役目は自分なのだろうとサンディは覚悟を決める。
「でもなぁ、ちょっとだけ、まぁ、思うんだよな。檻なんて、籠なんて、壊してこそだぜ」
 廻が座敷牢の中で虚ろな目をしているのを見遣りサンディは呟いた。
「まぁ無計画に飛び出してすぐ倒れちゃ世話ねーけど、それだってまぁアリはアリだ。イカロスだって落ちて死んだけど、飛ばないよりはずっといい」
 座敷牢の檻に手を置いて、サンディは過去の廻へ言葉を投げる。
「ま、だから死ねとは言わねーさ。流石にな。ただ、どうなんだろうな。抑え込んでるものは何か、本当に大事なものは何か。もしそれがあるなら、それを掴むために必要なものが何か」
 何か掴めるのならば行幸だとサンディは手当たり次第に夢石を突いていく。
「跳びたいって願うガキは、飛ばしてやるのが「サンディ」の務めってやつだ」

 繰切の記憶もこの空間には浮かんでいた。
 ボディとアーマデル、シキは侵食の負荷を覚悟で『神』の記憶をのぞき見る。
 他人の記憶を覗く事に躊躇いもあるけれど――『黒蛇が深道の白蛇を食らった』ことについて知りたいと思ったのだ。繰切から直々に此処へ呼ばれた舞花も同じように覗き込む。
「この地にて巡って捩れ、縺れて廻る縁は、そこがそもそもの起点のような気がして」
「確かに、砂の国にいたクロウ・クルァクが此処へ来て、どう『繰切』になったのか気になります」
 リュコスは二人の言葉にこくりと頷き、天川も興味深そうに神の記憶を垣間見ようと覗き込んだ。
「勿論、暁月殿の件はまた別の起点があるのだろうが。繰切殿と無限廻廊、繰切殿がここに留まる訳は、そこにあるのだろう。黒蛇と白蛇が戦ったのも、何が原因であったのではないか、と」
 アーマデルには分からない気持ちの動きなのかもしれないし、そうせざるおえない理由があったのかもしれないと口を引き結ぶ。
「俺は弾正が離れていくかもしれない、と惑う時。戦ってでも引き止めるだろうか……」
 呟いて、決闘まがいの事をしたことがあったと思い出したアーマデル。
「『キリ』殿の記憶は流石に視れないだろうか。繰切殿に吸収されたなら……いや、流石にそこへ踏み入るのは不作法が過ぎるな」
 アーマデルはROOで見た『クル』と『キリ』を思い出し緩く瞳を伏せた。


「イイ女は、触れて欲しくない所には触れないの」
 アーリアはグラオ・クローネで暁月にそう告げた。それは嘘じゃない。
「でも、私はイイ女になりたいだけの我儘な女みたい」
 自嘲するように目を細めたアーリアは、ぐっと唇を噛みしめる。
 気遣いと気掛かり。一歩引いた知人程度ならばこんなに悩んだりしていない。
 アーリアにとって暁月は親しい友人なのだ。その友人の困難に手を差し伸べたいと思うのは何も不思議な事では無い。だから、暁月の記憶を覗く。
「だって嫌なんだもの、暁月さんの眉間の皴も、溜息も、あんなに辛そうな顔も。でも、暁月さんの大事なもの――廻くんを失ってしまうのも嫌。私が見ていた二人は確かに『家族』よ」

 絶対に、二人共を失わせない。
 傷付いたって、傷付けたって。
 放してなんかあげないんだから!

 アーリアと竜真、天川は夢石を探す。
 彼らが知りたいと願ったのは、まだ未熟だった暁月の姿。
「暁月さんと、詩織さんと、晴陽さんと――もう一人の日常。だって知りたいじゃない、どんな風に笑って、どんな風に日常を過ごしていたか」
「ああ。どうして夜妖に憑かれてしまったのか。どんな夜妖が憑いてしまったのか」
 深くは探れなくていいと竜真は紡ぐ。されど、少しでも繋がる情報が欲しい。
「記憶を覗き見て全部知ろうなんて馬鹿すぎるしな。そういうことは、いつか本人の口から語ってもらえたらいいと思う。それに屋敷で廻が襲われたあの日。暁月さんは自分が『未熟だった』から、晴陽さんか彼女の親友か、どちらかしか祓えなかったと言った。……暁月さんの腕がどれほどなのか、今しか知らない。でも、もしかするとその夜妖を祓えていない可能性だって、ゼロじゃないんだ」
 竜真とアーリア、天川は学生服を着た暁月が映る夢石に触れた。

 それは、燈堂の当主として強く在らねばならないと律する暁月にとって、楽しい日々だっただろう。
 同じ学ランに身を包んだクラスメイトと他愛の無い日々を過ごす。
 自分に課された使命なんて知らない友達と笑い合う度に、胸が掻きむしられた。
 ただ、日常が幸せだった。
 詩織がいて、彼女が可愛がっていた後輩たち。

 桜の木の下で、暁月は晴陽の親友を斬った。
 紺色のショートカットの少女だ。
 何故斬ったのか、どんな夜妖だったのか。
 その問いは、桜の花弁と紺色の髪をした少女の口元がニィと歪んで――
 掻き消すように脳内へこびりつく。

 何かの干渉があるのかアーリアと竜真には分からなかったが、少女の口元だけが視界を塗りつぶした。
 暁月を見遣れば平然とした顔をしているのが分かる。
 平然すぎて、逆に不自然な程。
 虚勢を張っているのだろうか。
 されど、内面は苦しんでいるのがアーリアには見て取れた。
「全然、大丈夫に見えないわよ」
 桜の花吹雪にアーリアの声が霧散する。

「次は……」
 ボディは竜真達と共に次の暁月の記憶を探る。
 断片的に聞いている事もあるけれど、届いていない情報も沢山あるからとメイメイはしっかりとその目に焼き付ける。
「たくさんあるので、直接触れて、出来る限り受け止めていきたいと思っています」
 他人の記憶を見る事はメイメイにとって単純に恐怖である。それでも、『今』を、『未来』を、変えていくための手がかりが欲しいから。
「ええ。暁月様も廻様も助ける為に何だってやってみせましょうとも」
 正直な所ボディにはどんな情報が有用なのか判断しづらい所が在る。
「やはり、三年前のこと……でしょうか」
「詩織さんを斬らなくてはいけなくなった時、ね」
 アーリアはこの記憶は愛無が知りたがっていたものだと想念した。
「はい。暁月様関連で見つけた夢石を三年前の事件中心に可能な限り探り記憶を検分します。他の皆様が狙いをつけてない記憶から何か良い情報が出てくるかも、しれませんしね」
 ボディは暁月が詩織と共に映っている夢石に触れる。

『もう! 禁煙したんじゃなかったっけ? 門下生の子供達居るんだから、止めなさいよ』
 暁月が火をつけようと手にした煙草を詩織が後ろから奪い取った。
 詩織は暁月が煙草を吸うのをよく思っていなかったのだろう。
 暁月とて、詩織がこうして止めてくれるのを待って居るような雰囲気をアーリアは感じ取る。

 ザァと、暗闇が空間を覆った。
 場面は移り変わり、詩織が壊れて行く様子が描き出される。
 叫んで暴れて、辛そうに涙を流している詩織を、暁月が幾度となく取り押さえた。

 中庭で悲しげに笑う詩織の顔が浮かび上がる。
 彼女の腕の中には門下生の仁巳が居た。喉元に短刀を突きつけられ怯えている。
『はやく、私を殺して暁月。もう、駄目なのよ。正気を保っていられない……『この子』も殺せない。私にはこの子が可哀想に思えてならない』
『何を言ってるんだ詩織。君の中にいるそれは夜妖だ』
 自分が他人を害する事に耐えきれない。それでも自分の中にいる夜妖――獏馬を殺す事が出来ないと嘆く詩織。優しくて面倒見が良い彼女が、魅入られてしまった存在は夢を移ろう『ナイトメア』だ。
『詩織さん、もう止めて』
『ごめんね仁巳。ごめんね……』
 仁巳の首に当てられた短刀がゆっくりと食い込んでいく。
 暁月に次ぐ実力を持った詩織の力で殺そうとすれば、一瞬で子供(仁巳)の首は落ちる。それだけはあってはならない。

『解呪顕現――妖刀『無限廻廊』』
 鞘から解き放つは、赤き光を帯びた妖刀無限廻廊の本霊だ。
『燈光の陰りは濃く深く。我、振るうは闇を覆す閃光――銀影の迅!!!!』
 慟哭が響く。自らの手で最愛の人を斬った、嘆きの声。
 この記憶は暁月にとって大切なものなのだろう。忘れ得ぬ記憶をアーリアは胸に刻む。
 無限廻廊の力を間近で見る事が、いつかの戦いに生きるはずだから。

 天川もアーリアと同じように奥歯を噛みしめた。
 燈堂家の情報を得たい理由、それはビジネス目的だった。されど、暁月達と交流するなかで純粋に力になってやりたいと思ってしまったのだ。
 天川には葛藤があった。後悔していないとはいえ、人殺しの自分が他人の過去をのぞき見、あまつさえ力になってやりたい等と思うことが許されるのか。
 この目の前に広がる暁月の記憶を見るまでそう思っていたのだ。
「いや……。だからこそだ……。もう俺に失う物なんてねぇじゃねぇか。それならせめて、誰かの力になってやりたい」
 暁月の記憶と重なるように天川の過去が脳裏に過る。
 畜生と天川は唸るように吐き出した。
「まだ残ってたのか……。もう燃え尽きたと思ってたんだがな」
 終わった過去。黒い炎は燻っているけれど、それを掻き消すように天川は手を横に振った。
「それよりもあいつらだ。何かあるとは思ってたが、暁月よ……お前さんは」
 苦い顔をして、暁月の慟哭が木霊する空間を睨み付ける天川。
「……決めたぜ。俺は燈堂、澄原、この希望が浜の平穏の為に戦おう。小さい世界かもしれねぇ。だが俺には十分にすぎる」
 この手で守りたいのだと天川は拳を握りしめた。

 更に深く暁月の記憶に潜るのはヴェルグリーズと星穹だ。
「暁月殿が自分から話さないものを無理に暴くのは本意ではないけれど。彼等を救う為ならどんな手段でも使う、そう決めたから」
「ええ。もし暁月様の負担を分かち合えるなら――彼が刀憑きであるならば、私もそうなればいい。彼が奮う刀が分霊であるならば、私も分霊を宿せる器になればいい。足りないのは手段と方法だけ。其れを知る術が此処にある。命なんて惜しくはない。私達にだって、覚悟は出来ている」
 星穹は胸元で指をぎゅっと握りしめた。
「貴方が笑える日々が一日でも多く伸びるのならば。そんな細やかな願いを、否定させたりはしない。
 だから、絶対に暁月様を死なせない」
 何が見えようとも受け止めてみせると、ヴェルグリーズと星穹は夢石に触れる。
 この選択が正しいかなんて分からない。それでも星穹は走り続けるのだ。
 暁月の運命を変えるために。

 ――辛く長い夜でも。貴方が夜に迷わぬように。
 貴方の燈籠が潰えぬように。貴方が前を向けるように。貴方が幸せであるように。
 星穹は祈り続ける。
「喩え私が記憶を失うとしても。今日抱えている此の願いのせいでいつか酷く苦しんだとしても。私達は絶対に、今の選択を悔いたりはしない。だって、間違いなんかじゃないでしょう?」
 星穹はヴェルグリーズに手を開く。
「ヴェルグリーズ、私の剣。貴方の力を貸してください。困難を、そして苦しみの因果を此処で絶つ為に」
「ああ。行こう」
 暁月の幼少時の過去を二人は見つめた。


「わたしの記憶も夢石になってるんだねぇ……不思議な話だよねぇ。けれど、わたしは廻君の記憶をもっと見たい。覗き見るような型になって、申し訳ないけれどねぇ」
 シルキィが望んだのは座敷牢に居た廻の記憶。
 暁月と出会ったばかりの廻の様子をもっと見る事が出来れば、無限廻廊の事を知る事ができるかもしれないと考えたのだ。同じようにヴェルグリーズと星穹も無限廻廊の情報を得ようと辺りを見渡す。
 廻の痛みを知るためシキとサンディもこの場に映し出される光景に視線を向けた。
「無限廻廊だって夜妖の一種と仮定すればこの燈堂の敷地内にいる者に違いないだろう? 彼がこれまで見てきた燈堂の記憶を見れば何かわかることもあるかと思ってね」
「うん。わたしもそう思ったんだよぉ」

 暁月が無限廻廊の本霊を廻へと渡した理由。
 それは、獏馬との戦いの最中、廻を斬ってしまった事に由来する。
 廻の命を繋ぐ為、獏馬の尻尾――後にあまねと呼ばれる――が『廻の記憶』と『妖刀の力』を欲したのだ。 記憶はあまねの中に取り込まれ、空っぽの器を鞘に見立てて、無限廻廊を命を繋ぐ刀としたのだ。
 その妖刀に力を注げるのは暁月だけ。毎夜、暁月は廻に生命力を注いだ。それは、暁月にとっても命がけの日々だっただろう。夜妖としての性質が強くなった廻と戦い、無理矢理に身体へ服従を刻んだ日もある。

 シルキィとヴェルグリーズは力を使い果たし横たわる廻にそっと触れる。
 廻の中にある無限廻廊の記憶を見る事が出来ないかと思ったのだ。
 メイメイはぐったりして動かない廻の頭をそっとなでた。記憶は再生されるだけなのだとしても、こうしていたいと思ったからだ。
 シルキィは廻の手を取り指を絡ませた。

 刀の来歴は長く、深くは辿れない。本来の持ち主である暁月であれば可能かもしれないが、明確な意思の疎通は難いのだろう。されど、僅かに見えたものがある。
 この時はまだ、廻と無限廻廊の間で拒絶反応ともいえるものがあった。だから夜妖の性質に偏る事も多かったのだろう。暁月と廻。双方がお互いに歩み寄り理解したからこそ『今の廻』に成る事ができた。

 シルキィはぬいぐるみ姿のあまねを持ち上げて耳元で問いかける。
「本人が絶対に見せたくない記憶はみられなくても、本人が存在そのものを忘れている記憶は見られたりするのかなぁ?」
 断片的でもいい。廻がなくした記憶を見る事はできるのかとあまねを抱きしめた。
 あまねはシルキィにこっそりと夢石を渡す。それは触れても何も映し出さない。けれど、大事なものだというのは感じ取れる。

「廻くんが今の廻くんになるまでの経緯を知りたいかなぁ」
 ラズワルドは辺りに浮かぶ夢石を覗き込んで「ザンネンながら僕はなぁんにも知らないからさぁ」としゅうに振り返った。
「もっと自己主張してる廻くんとか見たいなぁ」
 覗き込んだ夢石には、アーリアと暁月の三人でコタツに入りながらお酒を離さない廻が映り込んでいた。
 シキは見た事の無い廻の姿に目を細め、リュコスはこてりと首を傾げる。
「まあ、お酒飲むとちょっと頑固にはなるかもねぇ?」
「燈堂君は意外と絡み酒だから」
 くすりとラズワルドと眞田は微笑んだ。
 ラズワルドは「そうだ」と己のギフトを思い出す。
 鼓動を聞き分ける耳は廻の心音を正確に受け止めた。
「廻くんのいろんな心音を知ってるから、違和感くらいには気づけるかもねぇ。一緒にお酒飲んでごろごろした仲だからさぁ……っとお?」
 自分の足を踏んで蹌踉けたラズワルドは傍にあった夢石に触れる。
 視界の隅に『誰か』が横切ったような気がした。懐かしいような見たかったような哀愁を孕んだいろ。
 それを見なかったことにして、ラズワルドはボディ達の元へ駆けていった。

「……本人にとって嫌な記憶でしたら心苦しくなりますが、致し方なしです」
 ボディは視線を上げて、廻の記憶の中に居る彼の身体を這い回るものを見遣る。
 何か会話があったのだろうかと逡巡するが言葉は無く。それ故に、廻の恐怖は膨れ上がったのだろう。
 昼顔とボディの予想通り、これは『繰切』だ。
「しかし何故こうも早く廻様に来たのでしょう? 廻様に本霊があるからなのでしょうか」
「神様は、きまぐれと、聞きます」
 ボディの声にメイメイが眉を下げて心配そうに目の前の光景を見つめる。
 身体中を締め付ける黒いものに、苦しげな声を漏らす廻。頬や皮膚の薄い部分は赤く染まり、身体中から玉の汗が滴る。廻の瞳から大粒の涙が溢れ落ちた。

 昼顔は躊躇いなく廻の身体を這うものに『解析』を試みる。
 瞬間――
 シキとサンディはそこから距離を取った。異様な気配が空間に広がったからだ。
 ヴェルグリーズと星穹が背中合わせに周囲を警戒する。アーマデルと眞田は全身が否応なく危険だと知らせてくるのに息を吐き、天川と竜真は用心深く獏馬達を自分の背に隠した。
「何なんだ、これ」
 幻介の言葉に秋奈が「かなりヤバイ感じがする」と構えた剣を握り閉める。
 シルキィは祝音とラズワルドを庇うように手を広げた。

「く……っ!?」
 昼顔の苦しげな声が空間に響く。
 ドロリとした息苦しさに昼顔の身体が囚われたのだ。
「どうしたの!?」
 アーリアが昼顔に声を掛けるも、昼顔は何かに纏わり付かれたように胸を掻きむしる。
 単純な『攻撃』ではない。不可解な状況にメイメイとリュコスが震える。
「は……っ、クソッ!」
「苦しい、息ができま、せ」
 昼顔の傍に居た龍成とセチアはその場に蹲り、苦しげに肩で息をしている。
「龍成!?」
 ボディの声が微かに龍成の耳に届いた。

 危険。
 危殆。
 危難。
 危機。

 ……深刻で重大な瑕疵を負う。
 不可侵であり、絶対的な暗黒領域。

 死の予感。
 全身に怖気が走る。
 今すぐ逃げないと。
 死んでしまう。
 殺されてしまう。

 自我の。
 境界線が。
 不明瞭になる。
 自分が自分でなくなってしまう。

 忌避すべきだと。
 本能が、警告を上げる。
「いやアアアアアアアア!!!!!」
 セチアの絶叫が聞こえた。


 ――――――これは『真性怪異』の侵食だ。


 提示された選択肢の中で、最も危険なカードを自ら選んだ昼顔。
 夢の中といえど、それは『真性怪異』。
 人知を超えた存在を解析するというのは、底なしの沼に飛び込むようなものだ。
 吐き気を催す侵食が昼顔を襲う。それでも回復の手を止めるつもりは毛頭無い。
「僕、ずっと思ってた事があるんだ。竜二氏は自分を犠牲に皆を守ってくれた。僕はそれを肯定するべきなんだって。どれだけ傷ついても大丈夫倒れにくくなったから! 大丈夫……ちゃんと守るから」
 血を吐きながらも侵食を受け続ける昼顔。
「もし僕が死んでも立派であったと、よくやったって言ってくれるでしょ? 少なくとも竜二氏は。
 ――見て、龍成氏! 僕だって竜二氏みたいに皆を守れるんだ!」
 黒く染まって行く昼顔の誇らしげな笑顔に、龍成は必死に手を伸ばす。
 繰切の侵食は昼顔だけではない。傍に居た龍成とセチアも含めて黒い沼に沈んで行く。

 ――ピ、ピ、ピ
 規則正しい電子音が昼顔の耳に届いた。
 顔を上げればガラス越しに病室が見える。二つのベッドの片方にはセチアが。もう片方には龍成が沢山の管に繋がれていた。二人とも蒼白で今にも死にそうな顔をしている。
 心電図の音が乱れ、晴陽が龍成の名を呼び続ける声が聞こえた。
 電子音が無情に「ピーッ」と鳴り響く。龍成とセチアの心臓が止まった事を知らせる音だった。

「何やっとるんじゃあああ――――!」
 突然、空間が割れて少女の声が響き渡る。
 龍成が青い顔でがばっと畳の上から起き上がれば、そこは見慣れた燈堂家の和リビングだった。
 視線を上げれば胸ぐらを掴む牡丹の姿。両頬が痛いのは牡丹が張り手を打ったからだろう。
「えっ、俺今死んでた?」
「この大馬鹿者! 何ぞ『得体の知れない誰かが入り込んだ』嫌な予感がすると思うて来てみれば、皆寝ておるし、特にお主と昼顔とそこの少女は本当に死んでしまうかと思うたわ! 何をしとるんじゃ! 妾を泣かせる気か! 心配させよって!!!!」
 息も絶え絶えに叫ぶ牡丹の様子から焦りが見える。
 手はぶるぶると震え、事態が思った以上に深刻だった事を物語っていた。
 龍成は彼女の頭を撫でて「すまねぇ」と素直に謝る。
「まあでも、何か分かったんだろ?」
「そうだね。あの黒い蛇みたいなものはやっぱり繰切だった。いまよりもっと悪性が濃く出ていた」
 昼顔は胸に残る嫌な侵食の感触を思い出し眉を寄せる。

「そんなのに苦しめられたら、暗闇も怖くなるよね」
 眞田は暗闇を怖がる親友に思いを馳せた。
 夢の中で見た自分の記憶は優等生だった頃のもの。目の前に現れた十年前の自分に少し驚いたのだ。
 第一ボタンまで止めて髪も染めていないイエスマンの委員長タイプ。
 親の言いなりだった頃の記憶。何の変化もないつまらない日々。
 そんな風に生きていたって、良い事なんて一つも無かった。
「……そうだよ、いい子に生きたっていい事ないんだ」
 ぐっと拳を握る眞田はこの目で見てきたものを思い返す。

 ――なぁ、燈堂君。俺は君のホントのところを何も知らない。存在が大きくなるのが嫌だったから避けてたんだ。でももうとっくに無視できてない。……誰かのために辛い目に遭ってて、それでいいのか?

 眞田が選んだのは『月祈の義』で何があったのか。廻の記憶を辿り無限廻廊の座を降りていく。
 明らかにこの儀式は廻の心と身体を蝕んでいるからだ。
「あーあ、面倒事はごめんなんだけどな!」
 記憶を見るという事は、背負うということ。廻の痛みと苦しみを分かつということ。
 大事な友人の為なら、辛くとも我慢しようと思っていたのに。

「……っくそ。あんな事」
 眞田は怒りに任せて畳を打った。
 月祈の儀で行われる廻への仕打ちは、酷いものだった。
 少しでも廻の痛みを知ろうと、その痛みを除く糸口を見つけられたらいいと思っていた。
 けれど、苦痛に泣き叫ぶ廻は目を覆いたくなるような声を上げて、それでも必死に耐えていたのだ。
 ――暁月さんの為。皆の為。それが僕の存在理由。
「そんなの、君が背負うものじゃ、ないだろ!」
 眞田の怒りを孕んだ声が和リビングに響いた。

 ――――
 ――

 黒い虚ろが暁月の背に広がる。
 蝕まれる。
 綻んだ糸が、引き延ばされた一糸が、ぷつりと切れた――

成否

成功

MVP

ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官

状態異常

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)[重傷]
灰想繰切
星影 昼顔(p3p009259)[重傷]
陽の宝物
紫桜(p3p010150)[重傷]
これからの日々

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 夢の廻廊を経て、より物語は加速していきます。
 MVPは物語の手がかりを掴んだ方へ。

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