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シナリオ詳細

<Jabberwock>炎禍の亜竜

完了

参加者 : 50 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ROO事件がようやっと幕を下ろし、練達という国家はマザーことクラリス――と、その兄妹機にあたるクリストの下で平穏への舵を切りつつあった。
 そんな練達は今、間を置かずして再度の脅威にさらされつつある。
 ジャバーウォック――それは『怪竜』とも呼ばれる竜種。
 練達が長年に渡ってその動向を観測し続けてきた、黒い身体に長い舌、緑翼の怪物。
 その存在は、ROOでの騒動が生じている最中に観測からロストしてしまっていた。
 だが、その存在が今、『明確なる意図を以って練達めがけて襲来している』。
 非常に近しい位置にまで接近を許してしまっていた練達は、不調なマザー及びクリストのバックアップ体制のもと迎撃に当たる。
 なぜ竜種が突如として――それも明確なる意思を以って、最悪とも取れるタイミングで襲来したのか。
 その理由は今のところ明らかならず。
 けれど、もたもたしていれば、あっという間に竜の蹂躙を受けるだろう。
 ――ローレットに、手を貸してほしいと伝えられたのは当然の如き結論であった。


 ウゥゥゥ――――ウゥゥゥ――――
 けたたましい警戒音が響き渡る。
 再現性東京――そこは言わずと知れた『地球』から訪れた人々の仮初のゆりかごである。
 佐伯操をトップとする実践の塔に存在するそこは、普段であれば『非日常』などあり得ざるもの。
 ――『外から来るワイバーンの群れ』なんぞ、ファンタジーの極みたる事象は存在しえないのだ。
『現在、再現性東京は厳戒体制に移行しております。
 市民の皆様は、落ち着いて案内に従いシェルターへ向かってください。
 繰り返します。現在、再現性東京は厳戒体制に移行しております。
 市民の皆様は、落ち着いて案内に従いシェルターへ向かってください』
 繰り返されるアナウンスは、民衆へ落ち着くよう訴えかける。
「なんなんだよ、なんだよ、あれ!」
 引きつった声を上げる青年男性の姿も。
「ママぁー! ママぁー! どこぉぉぉうぁぁあああぁ」
「愛ちゃん! こっちよ!」
 母娘の絶叫が響き渡る。

 繰り返される避難指示と、怯える人々――それを誘導するロボットたち。
 だがそんな風に怯えつつも、アナウンスに従っていく人々の姿なんていうのは、非常に可愛らしいものだ。
 たとえばそれはあるショッピングモールの出来事。
 ロボットたちの護衛に守られながら、ショッピングモールからは保存の効く食料や着衣の類が続々と搬出されていた。
 シェルターへの物資移送を目的としたその一段へ、人々が襲い掛かる。
「くそっ! くそっ! 俺達が食えなくなっても良いってのかよ!」
「暖かい服を! 暖かい服を頂戴!」
『危険です。離れてください。危険です。離れてください。
 当輸送車は○○区画第一から第三シェルターへ物資を搬入いたします』
「そんなことよりこっちを優先してよ! 何のためにここまで来たのぉぉ」
 発狂する者、自己本位に暴徒と化す者。
 一度、揺籠(にちじょう)の終わりを見て、タガノ外れた者達による混乱が波及する。

 けたたましいアラーム音、警告と要請のアナウンス。
 騒めく人々の喧騒――それらの纏わりつく音の一切を無視して、再現性東京を『前線に向かって歩く人影』がある。
「面倒事を避けるのなら、素直に避難すべきなのだろうな」
 見上げるは、ドームの空。
 かりそめのゆりかごの向こう側より迫る、巨大なる怪物。
 その姿を紫の瞳でもって真っすぐに見て、女は涼しい顔で本性を見せる。
 その背中に純白の翼が広がる。
「お前達のような世界規模の強者と刃を交える機会など、そうそうはないだろうな」
 ブロンドの髪が、風に煽られた。
「――互いに邪魔しなければ、それでいいだろう。
 目指すは、やはり大物か」
 その瞳は迫りくるワイバーンの群の奥、一回り大きなワイバーンを見つけ――一気に走り出す。


「――どれだけのお金がいるのかしらね!」
 対再現性東京方面最前線の一つ――並び立つ高層ビルの屋上で電卓を弾くのは篠宮 ささらである。
 ずらりと並ぶはたくさんのドローンと、多くの重火器類。
 それらの重火器は迎撃用のアンドロイドの装備として配備されつつある。
 それらの兵器は、希望ヶ浜学園の高等部に所属する一方で、同業者やローレットへと武器を配備する商人としての顔を持つ彼女の商品の数々だ。
「ん~、難しそうっすね。でも、ここで学園も含める練達が滅んじゃったら、元より商売も何もないっすよ」
 棒付きキャンディを口に含めて言葉を交わす少女が2人。
 もう片方の佐熊 凛桜(p3n000220)は、ささらから軽くため息を吐かれつつ。
「先輩たちももうすぐ到着する予定っす。
 その前に、ある程度の準備を進めておくっすよ!」
「そうね、ここは私の商品がどれぐらい強力なのかを見せるってことで手を打つと考えるべきね」
 そういうや、ささらは屋上に設置されようとしている機関砲の様子を確かめに駆けだした。
「あたしも、術式の最終準備しとかないとっすね」
 そういうや、凛桜もそそくさと準備を始めた。


 慌てふためき、恐慌に陥る者、この世の終わりだとばかりに騒ぎ立てる者、粛々とシェルターに隠れようとする者。
 多種多様、十人十色の有様を、映し出されたホログラム式のスクリーンで君達は見ていた。
 そこは、再現性東京の外縁部。
「――とまぁ、『再現性東京』は大パニックっすね。
 うちらのところは仮初の平和、『異常や異能から目を背けている』わけっすから。
 『ちょっと前のアレでの混乱も収まりきらぬうちに!?』ってなわけっす」
 神妙な面持ちで凛桜は棒付きキャンディを個包装から取り出した。
「というか、あたしもちょっと……いやだいぶ? すごく? びっくりしてるんっすけども。
 それよりっす。あの化け物への防衛戦、それが先輩方に手伝ってほしいことなわけっす」
 そう言った凛桜は視線を周囲に見やる。
 同じように見れば、高層ビル群の屋上へと設置されている複数のドローン兵器やロボット、対空機関砲が目に留まるだろう。
 とはいえ、それらの数は向かってくる『怪竜』はおろか、ワイバーンやらワームやらへの迎撃に使うにしては、明らかに数が心もとない。
「あれらの兵器は先輩たちへの支援になるわけっすけど、見ての通り、ぶっちゃけ心もとないわけっす。
 前回の事件から日を置いてないってのもあって、十全の体制で各所に配置するのは無理……ってわけっすね。
 ――なんで、先輩たちがやるべきことは唯一つ。
 あたしたちに向かってくる亜竜――仮称、『炎禍の亜竜』ワグローブを最低でも撃退する事っす。
 先輩たちはROOで竜やら亜竜と戦った人もいると思うっす。
 くれぐれも無理は禁物っすよ、下手すれば……なんで」
 忠告を残して、凛桜が押し黙る。
 そして――訪れた静寂を叩き割るように、亜竜の鳴き声が鳴り響いた。
「そこで、佐伯研究所の一部署は急ピッチで術式を組んだっす。
 まぁ、頑張ったんっすけど十全じゃないんで、気持ち程度、っすけど。
 多少の支援なら出来るっす」
 そう言うと、彼女は床を軽くとんとんと踏む。
 下を見ればビルにはなにやら淡く光るラインが引かれ、遠目に見るとそれが術式の類であることが分かった。

GMコメント

こんばんは、春野紅葉です。
<Jabberwock>連動レイド、よろしくお願いします。

●ご注意
 グループで参加される場合は【グループタグ】を、お仲間で参加の場合はIDをご記載ください。
 また、どの戦場に行くかの指定を冒頭にお願いします。

==例==
【A】
佐熊 凛桜(p3n000220)

先輩たちを支えるっす!


●オーダー
【1】『炎禍の亜竜』ワグローブの撃退または撃破
【2】再現性東京の防衛
【3】ワイバーンの討伐

●フィールド
 再現性東京の外縁部、人気などは皆様を除いて一切ありません。
 建てられた建築物などは再現性東京に暮らす人々のために用意された『遠くの景色』でしかありません。
 人々に立ち入られることなどはないため、思いっきり戦ってください。

●エネミー
・『炎禍の亜竜』ワグローブ
 最重要迎撃対象。周囲に炎と風をまき散らす、当シナリオ中、最大サイズの亜竜です。
 他のワイバーンよりも一回りはでかいので、どこからでも見つけることができます。
 所詮は亜竜、されど亜竜。非常に強靭な肉体と、巨大な翼、竜に近しい顔をもちます。
 前足ないし腕はなく、それのあるべき場所に巨大な翼が生えているタイプ。

 基本、常に飛行状態にありますが、これはあくまでユニット特性です。
 近接以下のレンジのスキルでも攻撃時に思いっきり跳躍する、などして普通に攻撃できます。

 ほぼ全てのステータスが異常に高く、中でも体躯に違わぬ尋常じゃなく豊富なHP
 堅牢な防御技術と抵抗力、各攻撃力は脅威的です。

 皆さんとの交戦開始から数ターンは『回避行動を全くとらない』特徴があります。
 下位存在とはいえ、覇竜の生き物としてのプライドないし傲慢さゆえか。
 皆さんの事をなめてかかってます。
 寧ろ舐められてるうちに叩き潰して鼻をへし折ってやりましょう。

 業火(A):辺り一帯めがけて、口から炎を放射します
 神超扇or神超貫 【万能】【業炎】【炎獄】【紅焔】

 業炎球(A):炎の球体を吐き出します
 神超域 【業炎】【炎獄】【紅焔】

 羽ばたき(A):強く羽ばたいて風を起こし、対象を足止めすると共に吹き飛ばします
 神中扇 【万能】【飛】【重圧】【崩れ】【懊悩】【停滞】【※延焼】
※延焼:【火炎系列】BSによる減少固定値+100(例:業炎=HP400+最大値の1%)

 突撃(A):その体躯を用いる突撃は、それだけで脅威となりうるのです
 物超貫 【万能】【移】【体勢不利】【恍惚】

 炎禍の亜竜(P):【通常攻撃:レンジ2、扇】【マーク、ブロック要3】【HP70%未満まで回避不可】【※共喰い】
 ※共喰い:主行動を消費して近接範囲のワイバーン1体を代償にHPAP中回復

・『毒霧亜竜』ウェネーヌム×5
 全身から猛毒を滴らせるワイバーンです。
 サイズ感はワイバーン以上、ワグローブ未満。

 毒液(A):自身の体内にある猛毒の体液を口腔に集束させ、吐き出します。
 神遠単 【致死毒】【廃滅】【呪縛】

 毒震(A):自身の身体を揺らして攻撃すると共に猛毒を振りまきます。
 物自域 【致死毒】【廃滅】【呪縛】

・ワイバーン×???
 竜のような体に、前足の代わりに翼を持った、一般的なワイバーンです
『炎禍の亜竜』ワグローブに比べると数段劣りますが、それでも驚異的な存在です
 単体の脅威度に劣る分、その連携力には目を見張るものがあります
 反応、防技、攻撃力が高め。

噛みつき(A):対象の下まで降下し、捕食せんと食らいつきます
物遠単 【移】【流血】【失血】

叩きつけ(A):対象を握って空へと舞い上がり、そのまま落とします
物遠単 【移】【体勢不利】

火炎球(A):対象に向けて炎球を放射します
神遠単 【火炎】【業炎】

飛行生物(P):常時飛行。飛行ペナルティがない代わり、地上での行動が制限されます

●戦場
【A】ワイバーン討滅戦
 ワイバーンとの戦いに集中します
 やや危険な戦場です
 『炎禍の亜竜』ワグローブが撃退された場合、ワイバーンたちも撤退します
エネミーはワイバーンと『毒亜竜』ウェネーヌムです。


【B】『炎禍の亜竜』ワグローブ撃退戦
 『炎禍の亜竜』ワグローブを撃退します
 当シナリオ中、最も危険な戦場です
 エネミーは『炎禍の亜竜』ワグローブを主体に時々ワイバーンです

【C】後方支援
 オープニング中に皆さんがいたビルの上など。
 ここでは対空機関砲による対空砲撃も可能な他、後述の回復術式が発動中です

・対ワイバーン防衛術式
 ROOでの覇竜にて行われた対ワイバーン戦の情報から急ピッチで作成された術式です
 当シナリオにて戦闘中のイレギュラーズは毎ターンHPAP最大値の5%を回復します
 また、この効果は【C】に 一時的に撤退している間のみ10%になりますが、
 術式(正確には術式を構成するビルなど)に耐久力があります
 ここまで攻め込んで攻撃を受けた場合、術式はあっという間に消し飛びます。
 じり貧になり、敗北へと転げ落ちていく可能性が高いです。


●友軍
・セレスティ・クリスフィード
 スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)さんの関係者
 この世界の生態系の頂点――からちょいと下の亜竜と戦う数少ない機会とみて姿を見せた『神田の女王』
 【B】にて一緒に戦ってくれますが、あまり指示を聞いてくれるとは限りません。
 好きにやらせてあげましょう。

・篠宮 ささら
 笹木 花丸(p3p008689)さんの関係者。
 希望ヶ浜学園高等部に所属し、夜妖退治をする一方で武器商人の顔も持つ旅人。
 今回は【C】に配備される武器やドローン、ロボットなどを集めてくれました。
 基本は【C】にて弾薬の補充やらドローンの補充やらを行なっているので、前線には出ないと思われます。

・佐熊 凛桜
 希望ヶ浜学園の高等部に所属する女子高生、イレギュラーズ。
 分かりやすい殴りヒーラー。【A】なり【B】なりで使い倒してあげてください。

・防衛用アンドロイド×30
 人型の防衛用アンドロイドです。
 基本的にはワイバーン戦に投入されたり、機関砲の砲手を務めたりします。
 なお、『イレギュラーズの指示があればそれを優先する』ようプログラムされています。
 何か指示がある場合はお願いします。

・ドローン×20
 ドローンです。空を飛んで戦況の把握、伝達、空中からの砲撃支援を行ないます。
 なお、『イレギュラーズの指示があればそれを優先する』ようプログラムされています。
 何か指示がある場合はお願いします。

・佐伯 操(p3n000225)
 言わずと知れた実践の塔の塔主。
 急ピッチで防衛術式を組んでくれました。
 手広く色々やっているので、現場にはいません。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●決戦シナリオの注意
 当シナリオは『決戦シナリオ』です。
<Jabberwock>の決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(EXシナリオとは同時参加出来ます)
 どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。

  • <Jabberwock>炎禍の亜竜完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別決戦
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年01月31日 22時10分
  • 参加人数50/50人
  • 相談5日
  • 参加費50RC

参加者 : 50 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(50人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
那木口・葵(p3p000514)
布合わせ
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
ライセル(p3p002845)
Dáinsleif
那須 与一(p3p003103)
紫苑忠狼
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
リーゼロッテ=ブロスフェルト(p3p003929)
リトルリトルウィッチ
シュリエ(p3p004298)
リグレットドール
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
イースリー・ノース(p3p005030)
人護知能
ライム マスカット(p3p005059)
グリーンスライムサキュバス
カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)
グレイガーデン
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
レニンスカヤ・チュレンコフ・ウサビッチ(p3p006499)
恩義のために
河鳲 響子(p3p006543)
天を駆ける狗
アクア・フィーリス(p3p006784)
妖怪奈落落とし
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
リック・ウィッド(p3p007033)
ウォーシャーク
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
アンジェラ(p3p007241)
働き人
マリリン・ラーン(p3p007380)
氷の輝き
クリスハイト・セフィーリア(p3p007781)
リサ・ディーラング(p3p008016)
特異運命座標
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
雨紅(p3p008287)
愛星
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
夜式・十七号(p3p008363)
蒼き燕
蛇蛇 双弥(p3p008441)
医神の双蛇
浅蔵 竜真(p3p008541)
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
花榮・しきみ(p3p008719)
お姉様の鮫
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
彼方への祈り
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
葛籠 檻(p3p009493)
蛇蠱の傍
アンケル・ユルドゥズ(p3p009578)
ギャングバスター
シャオ・ハナ・ハカセ(p3p009730)
花吐かせ
囲 飛呂(p3p010030)
君の為に
エア(p3p010085)
白虹の少女
イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)
生来必殺
プラハ・ユズハ・ハッセルバッハ(p3p010206)
想い、花ひらく
猪市 きゐこ(p3p010262)
炎熱百計

リプレイ

●落ち行く亜竜
 落ちていく。落ちていく。
 大空を舞う数多のワイバーンが撃ち落とされ、抉り取られては地上へと滑落する。
 再現性東京――『実践の塔』に内包されたその地の防衛戦。
 イレギュラーズ達による猛反撃を受けたワイバーンはその数をやや減らしつつあった。
 思わぬ反撃を受けたことに怯んだか、或いは警戒でもしたというのか。
 目の前を行くワイバーンの勢いは落ちていきつつあった。
 その様子を最初に把握したのは最前線ではなく、広報から全体を見渡していた面々だ。
「ROOでやらなきゃいけないことがあるんだ、竜に邪魔されてたまるか!」
 血色の鎌――自分自身の出力を最大に。
 サイズは鮮血の陣を描き仲間達の守りを支えている。
「――手数が足りてないんだ、機械でもなんでも、フルで働いてもらうぞ!」
 鮮血の魔方陣より描き出された術式は、周囲にいるアンドロイドに接続。
 同時に操作されたアンドロイドたちの対空機関砲が未だ数の多いワイバーンの右翼あたりを一掃するように弾幕を描く。
「いいわね。ガンガン使ってくれいいよ。実践の塔にお金は後で請求するもの!」
 砲撃をアンドロイドやドローン、対空機関砲の砲撃を眺めるささらも、カバンから取り出したライフルでワイバーンの翼をぶち抜いていく。
「ええ、そうです。ここは通しません!」
 葵が戦場に構築した式は鮮やかな光を放ち、仲間達へと加護を為している。
 ぬいぐるみに後方の視線を任せ、葵はその時を待っていた。
「今なら――」
 刹那――葵はビルの壁面にあらかじめ設置しておいた式に魔力を通した。
 一斉に放たれた晶槍が戦場を覆いながらワイバーンへと殺到していく。
 被膜を貫き、風穴の開いたワイバーンが地面へと落ちていった。
 戦場から零れ出た炎球が後方のビル群へ向けて降り注ぐ。
 しかしながらそれらはビル群へと傷をつけることはかなわない。
「どれだけ文明を発展させても、強大な自然には対応するだけで手一杯となる事はあるものです。
 それでも人類の文明とはその自然の中での生存手段。……さぁ命を守りましょう」
 イースリーが構築した保護結界は余波として迫るワイバーンの攻撃を防ぎ切っていた。
 それは気休めにしかならないのかもしれない。
「それでも、細やかな差異も積み重ねることで大きなものになりましょう」
(リヴァイアサンより弱いとはいえ、竜と戦うってのは英雄レベルだよな……)
 戦場を覆いつくすようなワイバーンの群れは、束になってもあの海龍には及ぶまい。
「おまえら、前線で戦う奴らがやられないように、全力で行くぜ!」
 リックの告げたそれはビルの上から支援するアンドロイドたちへの叱咤であった。
 だが、その実は自分へ向けたモノでもあろう。
 不滅のタクトを振り抜いて描く波濤の戦術が仲間達へ更なる加護を齎していく。
 プラハはその美しき金色の瞳を以って遠く空を見る。
 自分は前線に行くには少しばかり力不足だと、そう思う彼女であるが。
「真実に生きる人々のために真実は勝つ……」
 父が良く口にしていた言葉。
「だから、私達は――勝つのです」
 鮮やかな光を放つ魔道具で構築するのは最適解を導き出す魔性の号令。
「誰かを守る私達の戦いが、真実に生きる人々のためでない――そんなはずはないのです」
 それは導かれるように、最もいい未来を目指して術式はかがやく。
「うーじゃす!」
 複数の画面に同時に目を通しながら、そう叫ぶのはレニンスカヤ。
 軽やかな足取りで跳躍して、まさに兎のような軽やかさで戦場を疾走すれば、そのまま怪我を負って後退しようとしている仲間の下へ。
 そのまま仲間を抱き上げれば、顔を上げた。
(ひぇっ! めちゃめちゃこわいね!?)
 そこを舞うは幾つもの亜竜の影。
「任せて! 回復がすんだらうさがまた連れて行くよ!」
 そう言うレニンスカヤの頭上を、アンドロイドの援護射撃が鳴り響く。

●猛毒に満ちた亜竜
 数多のワイバーンがひしめくその戦場の中でも、特に面倒な相手が戦場のそこかしこを分けて担当するかのような亜竜。
 その全身から毒を滴らせる猛毒のワイバーンは、まるで普通のワイバーンを引き連れるかのようだ。
「別に、この国に義理もなんにもありゃあしねえが。
 他の連中が血を吐いて守った国に横槍入れられんのは、やっぱちょっと腹が立つわな」
 双弥はウェネーヌムを見上げて籠手の力を充足させていく。
「爬虫類同士、俺(へび)が上だって骨身に叩き込んでやるよ」
 破壊・怒り、創造・沈黙。2柱の神の力が充実した段階で、両手を突き出す。
 やがて圧縮された気を打ち出せば、射出された気がワイバーン事ウェネーヌムの身体を穿つ。
「ここは私が引き受けますっ! 風竜結界っ!」
 開かれたその瞳が美しい水色から、エンジェルオーラクォーツの七色に煌く。
 それにつれて光で出来た竜の角と翼がエアの身体に出現すれば、その身を護る荒ぶる風がその勢いをさらに増していく。
 美しき銀色の髪がはらはらと靡きながら宙に踊る。
 それは仲間達を守るべき暴風の壁。
 真っすぐに複数のワイバーンを見つめて、前線に立つ。
 放たれた紅蓮の炎が鮮やかな風に巻かれて弾かれ、身体に染みついた傷が瞬く間に癒える。
「人を見下し毒を撒き散らす害悪は許しません……斬って伏せます、天誅!」
 その身を猛毒に浸した5体のワイバーンを見据え、響子は静かに告げた。
 闇夜を握り締めて駆け抜け、斬撃と共にワイバーンの身体に自らの『気』を流し込む。
『ギャア』
 その身を震わせたワイバーンが、周囲に猛毒をまき散らす。
 それは響子を捉え――けれど、その毒は響子には当たらない。
「知ってますか、天を駆ける狗はしぶといんですよ?」
 背後に回り込んで響子は不敵に笑う。
「逃げてたまるか! 亜竜だろうが何だろうが、全部ぶっ殺す!」
 その全身から濃い黒い闇を溢れださせながら、アクアの瞳がウェネーヌムを見据えていた。
 充足するあまりにも濃い深い闇が波のように押し付け、ウェネーヌムとその周囲にいたワイバーンの身体を地面へと叩きつけた。
「相手が、人でも、機械でも、竜でも、関係ない。やらなきゃ、いけないから、やるしか、ないの!」
 そのまま跳びこむようにしてウェネーヌムへ肉薄。
 全身の深い闇色の魔力を刃に集めて撃ち込んだ。
「竜って、住処に踏み込まれて激怒するって話あるよな。
 今回は逆、踏み込む側ってんなら、キレられても文句言えねーぞ!」
 狙撃銃を構える飛呂はウェネーヌムに照準を合わせてスコープを覗く。
「視えてるぞ――ぶち抜いてやる!」
 銃声が轟き、放たれた銃弾は真っすぐにウェネーヌムの瞳へと食い込み、貫通してその両眼を焼き抉りつぶす。
「ふむ、竜か。『龍』と『竜』とは矢張り似て非成るモノであるのだと圧を感じるであるな? ふふ」
 翳した掌、檻は亜竜の雄叫びを聞きながら静かに笑えば。
 大天陣・千手神より形成された無数の銀弾が、弾けるように戦場へと降り注ぐ。
 ワイバーンの身を抉り、その翼の皮膜に無数の穴を開いてその身体を地面へと落としていく。
「せめて安らかに、我が似姿の子等よ」
 鮮血を散らすワイバーンを見据えて、僧侶は静かに似て非なる者共へ手向けの言葉を残す。
「緊急召集って久しぶりに外に出たら……何なのよこれ! ふざけてるの!?」
 そう叫ぶリーゼロッテは広域俯瞰して羽ペンをさらさらと描く。
 宙に描いた術式が起こり、大天使のもたらす大いなる祝福がウェネーヌムを中心とするワイバーンとの戦いに集中する仲間の傷を癒していく。
 その気配を察したのか、何匹かのワイバーンが吼える。
「ちょっ、勘弁して! こんなところで死んでられないのだわ!?」
 雄叫びを上げるワイバーンたちが自分に向かってこないように走り出す。
 猛毒溢るる戦場にて潮は走る。
「老骨には少しばかり堪えるのう……とはいえ、人手が足りぬようだし……」
 錫杖がしゃらんと音を立てれば、澄んだ音が戦場に響き渡り、慈しむような音色が響く。
 美しき音色は仲間達の魔力や気力を充実させると共に、その身を侵す状態異常を弾く音色をうつ。
 優れた音色に導かれるように、仲間達が身体を起こして再び戦場に向かっていく。

●炎の禍
 一瞬にして、整備された道路が溶解する。
 溶けて落ちた道路が歪み、蜻蛉を残して嫌なにおいを立てる。
 それを為すのは一頭の亜竜。
 羽ばたきが打ち付け、ビルのガラスが軋んで罅割れる。
『――我を見上げるか』
 亜竜の声が戦場に響く。
「まさか亜竜とはいえこのような大物がいるとはな。
 怪竜ではないのが惜しいが、竜種には変わりあるまい。
 竜を斬れるこの機会、逃すわけにはいくまいよ!
 黒一閃、黒星一晃、一筋の光と成りて、炎禍の亜竜を地に堕とす!」
 ビルの上、それに相対するように一晃は口上を言い放つと一気に走り出した。
『やってみせよ、か弱き者らよ!』
 傲岸不遜というべき声の直後、亜竜が咆哮を立てる。
「ふっ――いかに傲慢なろうとも、真の強者ならば虫を叩き潰すのにも本気を出すものだ、翼竜よ」
 速度を上げた一晃が彗星の如く跳躍し、ワグローブめがけて斬撃を放つ。
「あれが、火竜……え、亜竜?」
 戦火をもたらす亜竜を見つめるクーアはその瞳に感情を見せる。
 これは、待ちわびた邂逅――そう、ここが再現性東京の端っこでさえなければ。
「竜なら竜らしく覇竜の最奥でドンと構えてるのが相場というものじゃないのです!?
 雰囲気考えろなのです!!」
 いうや、クーアは地震の手に魔法剣を作り出す。
(これより上の存在が、恐らくこの世界には存在する。
 ならばこんなところで怯んでいられないのです。
 我が業にて叩き落とすのです!!)
 空へ昇る雷の閃光が、空にてこちらを見下ろす亜竜の、僅かな鱗の裂けめへ痛烈なる斬撃を刻みつけた。
「わわ、体を守らないとすぐに蒸発してしまいそうです……!」
 そんなクーアのほど近く、そこにライムはいる。
 別の戦場へと赴いた自らの主から頼むと言われた以上、それを無視することなどできない。
「雑魚は私におまかせを、みんな溶かして食べ……やっつけちゃいます!」
 叩きつけるようにマスカット色の大津波が近くにいたワイバーン数匹を丸々と呑み込んでいった。
「ねぇ、ここには何しに来たの? 上位種であり、圧倒的強者であるドラゴンが、何故弱者に牙を剥くの?
 私達を食べに来たの? ふふ、美味しそうだものね! 私もドラゴンを食べてみたいわ? アルミラージがそう言ってる!」
 精霊天花を為すフルールは笑いながらその両手に紅蓮の焔を輝かせる。
 燃え立てる炎は零れ落ちた鱗の一枚一枚さえも焼き尽くし塵へと変え落としていく。
 楽しげに笑って、対話を試みるフルールに、亜竜の視線が合う。
『我に、我に炎を以って焼こうというのか!』
「まったく、次から次へと事件が起きやがる……しかし、堅気の皆様を守るのが任侠、ヤクザの務めよ」
 義弘は拳を握り締めて呼吸を整えていく。
「折角だ、お言葉に甘えてさんざん殴らせてもらおうかね」
 踏み込み、跳躍する。
 渾身の『気』を込めた掌打が堅牢さの見える亜竜の、鎧にも似た肉体へと叩きつけられる。
『意気のいいモノがいるな!』
 防御力を貫通して撃ち抜いた打撃に、ワグローブが微かに眼下を見てきた。
 堅牢なる防御力を貫通しても、生命力そのものもかなりのものか。
『よかろう、貴様らが所詮は死ぬ側であることを思い出させてくれる――』
 亜竜の口から炎が零れだす。
 そのまま、亜竜が真横へ薙ぎ払うようにして顔を振れば、放射される業火が戦場を焼いた。
「森を焼かれるのも街を燃やされるのも嫌いです。
 それに、再現性東京は雪風さんと過ごす大事な場所なんです。
 人の恋路を邪魔する貴方は、絶対に許しません!」
 焼き払われた戦場に、リディアの歌声が響き渡る。
 魔法のブレスレットを媒介にして戦場に響いた美しき歌は優しく傷だらけの仲間達を癒していく。
 焼き払われた戦場、アンジェラはぱっぱっと自らの身体に纏わりつく炎を払いながら体を起こす。
「生殖階級の方々がなさることを何人にも妨害させないのは、“働き人”の努め……
 たとえ亜竜と言えど、変わりません」
 紅蓮の炎による薙ぎ払いを耐えきったアンジェラは深呼吸と共に燃え残る衣服を切り放す。
 辺りを見渡せば、自らに残る調和を他の人へと齎した。
「アンジェラさん、ありがとうございます。
 さて一難去ってまた一難とはいいますが……こうもでかいのが立て続けとは……」
 アンジェラの背中に立つ綾姫は、自らの異能を以って黒蓮に力を通す。
「ですが、負けてやるつもりはありません! 斬り拓きます!!」
 励起された黒蓮が音を立ててその機能を増幅させていく。
「――斬り落とせ、黒蓮!」
 極大の献身となった黒蓮を、振り下ろす。
 堅牢なる亜竜の鱗を無視して、その肉体を削り落とした斬撃に、亜竜の身体がほぼ初めて明確に大きく揺れた。
「なるほど、お前達がイレギュラーズか。そこの亜竜の後はお前達とやるのも楽しそうだ――」
 イレギュラーズの合間を駆け抜けたのはセレスティ。
 暗い闇を纏った双刀を握り締めた女は、翼をはためかせて舞い上がると、そのまま体勢を崩した亜竜へ双撃を見舞う。
 雄叫びを上げ、猛る亜竜の健在なことは明らかだ。
『――何するものぞ』
 不意にワグローブの周囲に、美しき花が舞い踊る。
 浸透するような氷の花に、亜竜が顔を上げる。
「この地に住まう人達の為にも、貴方を追い払うよ!」
 氷結の花をけしかけたスティアを、亜竜が見下ろした。
「私達が諦めてしまったら全て終わってしまうんだ! だから絶対に諦めない!」
『小娘が――良いだろう、我に挑んだことを後悔するがいい!』
 亜竜の激昂が轟く。
「この不届き者! お姉様になんたる言い草ですか!
 此の戦いが終わったらお姉様と東京でクレープを食べて『クリームが付いてるよ』をするのです!」
 あるいは、亜竜以上の激昂を以って、砲撃を見舞うのはしきみである。
 鮮烈に撃ち放たれた魔力砲撃が、スティアに意識を向けていた亜竜の横腹に炸裂する。
「ふふっ、しきみちゃんもマイペースだね。うんうん、終わったら遊ぼうね」
 その様子にある意味でほっとしながらスティアが言えば、しきみの技の冴えも上がろうというもの。
「花丸さん! 私達で抑えきるよ!」
『ぬぅ、小娘どこを見て――』
「竜殺しの真髄、その身で受けて貰うよ!」
 それは遥かな上空。
 ビルの上より跳躍して、ワグローブよりさらに上へ。
「――幻想を穿て、バルムンクっ!」
 位置エネルギーに全身全霊の力を込めた拳。
 花丸が叩きつけるは竜殺しの絶技。
 殴りつけられた亜竜がそのまま体勢を崩して落ちる。
 そのまま亜竜を足場に蹴り飛ばして、花丸も着地すれば。
『ぐぅ!? 我を地に落とすか……』
 顔を上げた亜竜。
(これが……竜! 亜竜ですら、この威圧感……)
 本来なら、人間が太刀うち出来るような相手ではないのかもしれない。
 だが、数多の連撃は確かに亜竜の生命力を削りつつある。
「それでも。必ず斃して、この国を、人々を守るんだ。皆となら、それも出来る」
 マルクが決意を籠めて練り上げた魔力に呼応して、指輪が鮮やかな輝きを放つ。
 全霊の魔力が指輪を経てマルクの腕を銃身へ見立て真っすぐに。
 それは守りを許さぬ魔力の弾丸となって大地へ落ちた亜竜へ炸裂する。
『――ぐ、ぐぅ……やってくれる、やってくれるな、お前達。
 良かろう。小さき者共め、丹念に食らい潰してくれる』
 身を起こした亜竜が咆哮を上げ、大きく羽ばたいた。
 戦場に燃え残る炎が煽られて勢いを増していく。
(混乱しないわけがない。俺だってそうだ。……だが、俺は戦える。
 それはきっと、積み重ねた経験のおかげなのだろうな)
 細剣を握るイズマは戦場の後方の人々の事を思う。
「……竜殺しを、舐めるな! 叩き潰してやる!!」
 振り抜いた細剣に、渾身の魔力を籠めて撃ち抜く刺突に、更なる力が籠る。
 たった一度――たった一度だけの恩寵を重ねた刺突が、亜竜を呑み込んだ。
「何が目的かなんて知らないけど、勝手に暴れ回って他人の住処を火の海にするなんて畜生に劣るよなァ!
 気高い竜が聞いて呆れる! ああ、お前は『亜竜』なんだっけ? それって、劣等って意味なんだな!!」
 前に出たライセルがワグローブめがけて挑発すれば、身を起こした亜竜がライセルのことを見下ろしてくる。
『吠えるのだ、相応の力を見せるのだろうな、小僧――!』
「この町の人たちを守るためにも、絶対に倒す――理不尽に踏み躙られて良い命なんか無いんだ!」
 挑発の直後、その勢いのままに、ダインスレイヴを振り下ろした。
 そこへ迂闊にも飛んでいくのは1匹のワイバーンだった。
「アーッ! いけませんお客様!!」
 そいつ目掛けて跳躍した冥夜は、至近距離で式符を叩きつけた。
 式より放たれた術がそのワイバーンを喰らい、深い闇へと呑み込む。
 着地した冥夜はそのままいらだった様子で手をプラプラと。
「ようやくお店の瓦礫撤去が終わったと思ったら、何ですかこれは! 営業妨害も甚だしい! 行きますよ二人とも」
 ちらりと後ろを向けば、そこには2人の影。
「無茶はするなよ? まだ……やらねばならぬ事が、あるだろう?」
 一応は忠告するアーマデルに対して。
「ねえなんで僕、いきなりこんな所に連れて来られてるの、ちょっとハード過ぎない?」
 戦場ど真ん中に連れてこられたことにそう言うのはカティアだ。
「こちとら店の売上が干上がってイライラしてるんです、まわりの迷惑になるお客様には速攻でお引き取り戴きましょう!」
「それにしても前肢が無いのは亜竜なんだね。じゃあ後脚も無かったら…ツチノコ?」
 なんていう冗談を残しつつも、カティアは視線をさっと周囲に巡らせた。
「右からもう1匹来てるよ」
「――ああ」
 ぽつりと小さく呟いたカティアに応じるように、アーマデルの蛇鞭剣が走る。
 振り上げられた剣は文字通り蛇のように伸びて、近づいてきていたワイバーンの翼をさっくりと切裂いた。
「ワイバーンなら翼ごといけそうだね。飛べない亜竜はトカゲだよ」
 その身に紋章を浮かべながら、カティアは静かに告げる。
「先輩たちが行ったジャバウォックとの戦いに付いて行けないのは悔しいですが……それならそれでやれることを全うしましょう」
 あの海竜と比べればサイズは遥かに矮小だ。
 そして、実力も遥かに。
 それでも――たとえそれが竜種に遠く及ばぬのだとしても、油断などするまい。
 与一は弓を引き絞る。引き絞った矢の先に、ワグローブの翼を。
 そのまま手を離してビョウと放った矢は放物線を描きながら、その翼に傷を加え、本の微かに一部を凍り付かせた。
「強大極まる竜を迎え撃つ大一番。炎が燃え滾り、闘志が湧き立ち……滅海竜との戦を思い出せば益々心が躍る。
 さぁ、勝負だ、竜よ!」
 ――生まれも老いも忘れて、ただ狂い死に続けて土塊へ還れ。
 ウォリアは神滅剣を構え、その身の底から咆哮を上げる。
 全霊を以って振り抜かれた斬撃は、周囲にいたワイバーン共を諸共にワグローブの身体を断ち払う。
 痛烈なる軌跡の終息を見据え、終縁の騎士は次を構える。

●亜竜飛び交う主戦場にて
 ギャアともガァとも聞こえる不思議な咆哮がそこかしこで響き渡る。
 爬虫類のような腹を露わにして、ワイバーンが罅割れたドーム状の空を闊歩する。
「うぅ、ワイバーンがいっぱいだぁ
 こんなの放置していたら私の楽して平和に暮らす計画が台無しになっちゃう
 私の生活を守るためにも退治しなきゃ!」
 自らを奮い立たせるように呟くクリスハイト。
 出来るなら戦いたくはない。頑張るのは嫌だ。
 でも、もし逃げたとして――きっとまた襲われる可能性もある。
「うぅ……頑張りまーす!」
 自らを奮い立たせ放つ天使の歌が、前線での戦いを続ける仲間達の傷を癒していく。
「全く不快ですね」
 シャオは静かに呟いた。その正体が花たるシャオにとって、炎も毒も等しく迷惑なものだった。
「それらをまき散らすあなた方には、消えてもらいましょう」
 その身に飾る花が猛毒の霧を放ち、幾つものワイバーンを纏めて包み込む。
 毒霧の鮮やかなる猛毒がワイバーンを苦しめていく。
 そのまま続けるように放つのは絶海に詠う冷たき呪い。
 恐るべきディスペアーブルーが、苦しむワイバーンに更なる呪いを与え、苦悩めいた雄叫びを上げさせる。
 数多のワイバーンのうち、範囲攻撃から漏れたワイバーンの1匹めがけ、雨紅は走り抜ける。
「この国も、輝きも、消させません」
 セフィロトには兄弟機たちが住んでいる。
 それに、あの方々の輝きの残るROOもまた、練達にあるものだ。
 ――それだけでも、雨紅にとって、この国を守る理由としては充分だ。
 踏み込み放つそのまま舞うようにして打ち据えた斬撃が美しい軌跡を描いてワイバーンを斬り上げた。
「ラサの宝石竜騒ぎも中々ド派手だったが、こっちもこっちで随分派手なもんじゃねぇか」
 双剣を握り締めるアンケルは跳ぶようにして走り抜ける。
 アンケル自身にとって、練達の空気感は気に食わなかった。
 いけ好かないぬるま湯生活はともかく。
 目指す先は1匹のワイバーン。
「亜竜だか竜だか知らねぇが、持ってかえりゃあいい値になるだろ! ――その牙、もらうぜ!」
 真っすぐに叩きつけた刺突が雷霆の如くワイバーンの心臓を穿つ。
(いけない。たくさんの人の、命がかかってるのですから……!)
 怯みそうになる心を奮い立たせ、ビルからネーヴェは跳躍する。
 パタパタと長耳が風にあおられながら落下するや、ワイバンの背中に着地すると同時、衝撃波がその背を削り。
 バランスを崩したワイバーンが地面目掛けて落下を始めれば、その背を蹴りくるりと身を跳ねて。
「兎は、跳び回るもの。空中でだって、鮮やかに、戦って見せましょう!」
 その言葉の通り、追撃の足が更に勢いをつける。
 宙に浮くネーヴェへ、横から別のワイバーンがその華奢な身体を鷲掴みにせんと動けば。
 銃声と共に、そのワイバーンの身体が悲鳴と共によろけた。
「不躾な竜どもが。貴様らに天を戴く資格はない。一匹残らず撃ち落としてやる」
 それはイルマが穿つ銃弾。遥か彼方より放たれた銃弾がワイバーンの身体に致命的な傷を刻み付ける。
 そのまま落ちていくワイバーンから視線を既に外したイルマは、次のワイバーンへと銃口を向ける。
「また随分と団体でやってきたにゃ。
 まあ人類に敵対的な竜の部下を間引ける、と考えると将来的には悪くはないかにゃ?」
 ふわりふわりと猫尻尾を揺らすシュリエが適度に見つめたのは、かなり減った物の未だに数えるのがおっくになる数のワイバーンの群れ。
 ビルの上に形成されたのは深き黒い穴。
 現れた無数の黒き手が複数のワイバーンの身体を掴み、巻き取り、そのまま引きずり落とす。
 無数の声を漏らしながら、漆黒の穴の中へワイバーンが呑み込まれていった。
「水神マリリン様さんじょーう!」
 自らに強化を加えたマリリンは声高らかに向上を上げれば。
「さあ、はりきっていくよ!」
 その両手には怨嗟の術式。
「さあ竜ども、変幻自在な私の水球をたーんと召し上がれ!」
 怨嗟の術式より生み出された水球2つ。
 それらを合わせて、ワイバーンの1匹めがけて投擲。
 ワイバーンの顔に炸裂した水球は頭部を包み込んで、溺死させた。
「とっととくたばれやァ!」
 パワードスーツに身を包み込んだリサは巨大な火砲の照準をワイバーンの群れへと向けて。
 背部や関節部の蒸気エンジンが激しく駆動して蒸気を溢れ出す。
「こっちの生物なめんじゃねぇって事を、そのクソちっけぇ脳みそにも分からせてやるぜ!」
 蒸気エンジンが急速に駆動して音を立てながら――苛烈なる砲声と熱が戦場を包んだ。
 打ち込んだ砲弾が複数のワイバーンに風穴を開けていく。
「何か来たばっかりの町が速攻で戦場に……
 いやぁ懐かしいわね! 混沌に来る前の昔を思い出すわ!」
 思わずつぶやくのはきゐこ。
 数多のワイバーンを誘い込んだきゐこは、愛杖を地面へと突き立てるようにして構えていた。
「来たわね――どかんと行くわよ!」
 頭上にて超圧縮された熱球を、向かってくるワイバーンに向ければ。
「大江山の深山颪!」
 ――刹那にして爆ぜる。呪詛の乗った熱波が炸裂すれば、数多のワイバーンが煽られ、雄叫びを上げて地面へと落ちていく。

●燃えて尽きよ
 戦場の景色は酷いものだった。
 イレギュラーズを敵と定めた炎禍の亜竜は迂闊にも近づいたワイバーンを喰らい、その分も含めてワイバーンの死体がそこら中に散らばっている。
 蛇巫女の面々の活躍が無ければ、その頻度は上がっていたことだろう。
 保護結界で守られていない個所では、落ちたワイバーンによって標識やら家屋やらも壊れている。
 ここが元より人のいない遠景の類でなければ、ゾッとしない損害である。
「その無駄に高いプライドごとぶった斬ってやるよ」
 爆ぜるように飛び出した紫電は。そのまま一気にワグローブめがけて突っ込んでいく。
 機焔ノ震剣のトリガーに手をかけて――インパクトの瞬間に引いた。
 振動と同時、苛烈なる爆炎が切り裂く刃の勢いをより速く、より鋭く。
 斬り払った刃がワグローブの削れた鱗の内側を激しく焼き裂く。
 入れ替わるように飛ぶのは秋奈だ。
「いい加減どちらが上か分からせてあげるよ!」
 払われるは戦神の刃。
 天翔ける双刃は相方の斬撃と寸分狂わぬ位置を深く深く食い込む。
 美しき白皙が亜竜の血と共に朱に沈み、双刃が駆け抜ける。
 自然落下に身を任せ、戦刃の2人はくるくると連撃を見舞う。
「天を震わす羽搏き、地に響く咆哮、そして遍く焼き尽くすが如き炎熱。
 亜竜といえど天地を圧倒する如き威容は瞳に映さずともわかります」
 今もまた、そっと双眸を伏せてマグタレーナは弓を構う。
 描く魔弾は鳴動するような亜竜の咆哮を頼りに。
「いかに強靭とてその空間ごと引き裂けば防ぐことなど能わぬでしょう」
 引き絞った弓より放たれた空間を削る矢に、ワグローブの咆哮が重なった。
「――炎の亜竜ワグローブ。確かにこれは強大だな。だが、負けてはやらん!」
 数多の炎球、熱線を受けてなお、十七号は前へ。
「鉄が融けても、護りが解けても。過酷な地を知る身体ならば、耐えられる。
 お前を倒すのは私でなくとも――お前はきっとその目で私を見るのだ!」
 その啖呵の通り、ワグローブの視線と十七号のそれはかち合っている。
 踏み込む。これ以上のないほどワグローブへと肉薄する。
 全霊を以って撃ち込む斬撃に鮮やかな闘気が乗って、海のような青々とした閃光が亜竜の肉を断ち鮮血を上げた。
『小癪な奴らめ』
 咆哮を上げる亜竜はそのまま再び舞い上がらんとする。
『貴様らは強い。認めよう、そうして――諸共に燃えて尽きよ』
 その口の中に溢れだした紅蓮の炎が球体を描いていく。
 放たれた炎球は着弾と同時、広域を焼き払う。
「同じ炎属性として、見下されたままにはいかないの!」
 そう言って飛び出した胡桃はふわりと空を浮かびながらその手に狐火を。
 燃え盛る蒼炎はワグローブの身体に幾つか残っている。
 顔を上げた亜竜のその目へ、全力の魔力を束ねた蒼炎を、思いっきり投げつけた。
 蒼炎はまるで矢のように飛翔して亜竜の片目を焼き潰す。
『ォォォおおぉお』
 亜竜が落ちてくる。
 巨体が降ってくる。
 その先に、シャルティエはいた。
(怯えてなんていられない! もっと危険な相手と、竜種と対峙してる仲間だっているんだ……めげてられない。
 怖くて、恐ろしくて、リヴァイアサンと対峙できなかったあの時とは違う)
 震える手に力を籠める。だって、あの頃とは違う。
「怖くても、恐ろしくても!! 逆境なら──抗ってみせる!」
 自らの手で剣を前に向ける勇気を宿すのには十分の冒険を熟してきたのだから。
 振り抜いた斬撃が本来では逆鱗と呼ばれるであろう顎の下の鱗を切り刻む。
(大体一年前だったか。ラサで竜の軍勢と戦ったのは。
 あの時もそうだ。街の、国の危機。そこに今の俺の力は微々たるものでしかない)
 刀を握る手に力が籠る。
「だがそれでも……守りたいもののために。俺は今一度やらないといけない」
『ぐ、ぅぅ……まだだ、まだ、終わらぬ、終わらぬ、終わらぬゥゥ』
 傷の増えた亜竜は、それでもなお恐るべき程の威圧感を放っている。
「廻の、晴陽さんのいるこの街を、守る。だからお前は……ここで斬る」
 竜真は一気に跳躍して亜竜の眼前へと跳びこんだ。
「俺の全霊、受けられるものなら受けてみろッ!」
『アァァアアア!!!!』
 大口を開いた亜竜の逆鱗へ振り払った斬撃が、漆黒の魔力を走り抜けた。

●禍は潰え
 重い音が鳴った。それは巨体が崩れ落ちる音。
 数多の傷を刻まれた炎の禍が、落ちた音であった。
 夥しいワイバーンの死体と鮮血、余波や攻撃で砕けた町。
 それを尻目に、怯えたようにワイバーンたちが去っていく。
「終わった? 終わったみたいっすね! よ、良かったっす……」
 遠くへ去るワイバーンたちを見ながら、前線にいた凛桜がほっと息を漏らしながらぺたりと座り込んだ。
「あぁ、でも……まだまだ終わりじゃないっすね。警戒しておかないとっす!」

成否

成功

MVP

カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)
グレイガーデン

状態異常

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)[重傷]
天義の聖女
ライセル(p3p002845)[重傷]
Dáinsleif
クーア・M・サキュバス(p3p003529)[重傷]
雨宿りのこげねこメイド
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)[重傷]
花に願いを
アンジェラ(p3p007241)[重傷]
働き人
夜式・十七号(p3p008363)[重傷]
蒼き燕
エア(p3p010085)[重傷]
白虹の少女

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
激闘は終結しました。
まずは傷をお癒し下さい。

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