シナリオ詳細
ローレット・トレーニングIX<海洋>
オープニング
●静寂の青
あの時に比べたら随分静かだと、エルネスト・アトラクトスは海を見つめていた。
静寂の青。かつて絶望の青と呼ばれていた海域の先には、カムイグラと呼ばれる土地と人間がいた。そこまでの航路を見つけ出すことができたのは、海洋王国にとって確かなる行幸。
しかしてその航路が『確立した』わけでないこともまた、確かである。それはここからカムイグラまでの海域に未だ危険モンスターが存在していることもあるし、この場所――アクエリア島の拠点設備が未だ発展途上にあることも理由に挙がる。
急いて事を仕損じるわけにはいかない。しかし確実さを求めるあまり遅々として進まないのも由々しき事態である。女王より言及されるほどに後れているわけではないが、ここで大きく進めたいのは確か。
「――1年、か」
それは、彼が総督として任命されてから。大号令の悲願が達成されてから。イレギュラーズがこの島の拠点整備に携わってから。
あの時様々なものが終わって、始まった。その節目たる日も近い今、再び彼らの力を借りる時だろうか。
勿論彼らが望むのであれば、既に存在する設備でバカンス気分を楽しんでもらうことだってできるだろう。以前ホテルやレジャー施設、資料館などを建てたいと立案したり助力してくれていた。まだまだ課題は山積みであったが、他ならぬ彼らの望みであれば。
このアクエリア島は主だった中継地点として賑わうだろうから、もう少し静かに過ごしたいのならば更に先――かつて絶望の青踏破にあたり最終決戦の場となり、今はカムイグラとを結ぶ航路の中継地点――フェデリア海域の島でゆっくり過ごすのも良いだろう。
あの子は来るだろうか、と彼は考える。来て欲しいとも言えないけれど、思うのは自由なのだから。
●海洋王国にて
「――大号令から1年、か」
そう呟いた『氷海の女王』イザベラ・パニ・アイス(p3n000046)へ「はい、ですから」と声がかかる。
「再び大演習を執り行っては如何かと」
『貴族派筆頭』ソルベ・ジェラート・コンテュール(p3n000075)は当代女王へ頭を垂れながら告げた。
これまで踏破不可能とされてきた『絶望の青』が『静寂の青』と名を変えてから早1年。悲願を叶えた直後の大演習は気を引き締め、心をひとつにするという目的で執り行われた。
ならば、今回は?
「他国に後れを取る訳にはいきますまい」
「うむ……カムイグラとの交流を進めてはいるものの、今は凪の時期であるからな」
海洋大号令を終え、カムイグラという新しい土地との交易なども少しずつではあるが進んでいる。しかし海洋全体で見れば大きな動きらしい動きはないと言うべきだろう。
この『凪』の時間も長くは続かない。いずれ魔種が混乱と混沌を巻き起こす――その確信にも似た懸念があるからこその大演習。その力を大いに蓄え、今再び気を引き締める時である。
「活発化させるべきは軍だけではございませんわよ、お兄様」
「ああ、もちろん」
カヌレ・ジェラート・コンテュール(p3n000127)に頷いたソルベは王国挙げての祭りをさらに提案する。現在海洋王国ではサマーフェスティバルが行われているが、それに続く形でパーティを催し、城下では商人たちが露店を出す事で商売の活性化を図る。催し物とあれば商人達はこぞって食いつき、他国の商品や珍しい物品を出すことだろう。
場内でパーティを開くとあれば海洋貴族もドレスや宝飾品を買うために金が動く。美味しい食事やデザートを作る為の職人なども必要だし――何より、大演習だからと言って気張る必要もない。もしかしたら真昼間から大演習の打ち上げだなどと言って酒をかっくらうヤツもいるかもしれないが、それだってまたご愛敬なのである。
時に真剣に、時に面白おかしく、時に楽しく。さあ、ひと時を過ごそうか!
- ローレット・トレーニングIX<海洋>完了
- GM名愁
- 種別イベント
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2021年08月19日 23時15分
- 参加人数104/∞人
- 相談9日
- 参加費50RC
参加者 : 104 人
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参加者一覧(104人)
リプレイ
●海洋大演習!
トレーニングの季節か、と奏多は帽子をかぶる。水分の準備もバッチリ、演習中に暑さで倒れる訳にはいかない。
潮風を受けて碧紗は目を細める。久々の参加がトレーニングと言うのも申し訳ない気持ちだが、ここから改めて、海洋の依頼があれば受けようと気持ちを切り替えて。
(潜水漁で鍛えた身のこなしがどこまで通じるかな……?)
最近は魚捕りくらいでしか戦った覚えがない。エルラは兵たちに混ざるべくその足をにょろりと動かした。
もしかして水着でもいいのかしら、とイザベルは表情を輝かせる。水中での訓練もあるらしい。それなら水着でも参加できるだろうし、参加したい。
「どんな演習があるのかしら? 聞いてみましょうか」
いそいそ兵士たちの元へ向かうイザベラに続き、礼久も船を使った演習がないかと問いに行く。
(泳げないし、直接戦うのは難しいけれど……皆を助けられるようになりたい)
それに、弱い自分を自分が許せないから。少しでも愛する彼女の隣に近づけるように、背中を任せてもらえるように努力しなければ。
できれば女王公認の海賊から、と人を捜す礼久の傍ら、すぐ近くに居た兵士へ声をかけシグルーンは水中演習に参加する。
(基本の動きをおさらいしよう)
海種のみで編成された、泳ぎながら戦う演習。攻撃の避け方や術のコントロールなどを確かめながら、ふと「もう4年か」と思った。
あの時とは違う。自身が自身のままで良いと分かっている。ローレットの皆も居て、虐める人はいないから。
そう教えてくれたローレットを愛しているからこそ、有事の際に向けて勘を取り戻さなくては。
「初めまして、イズマです。よろしく」
「よろしく頼むぜ!」
イズマにカイトはにかっと笑う。強くなる意志があるのなら誰だって大歓迎な海洋大演習はなかなかの賑わいだ。
(俺は海洋の人間なんだから、海で優位に戦えるようにならないとな!)
対するイズマは鉄騎種であるものの、海洋に領地を持つイレギュラーズである。まだまだ新参、ここで仲間たちと力を付けなければ。
「そろそろ始まるみたいだ」
「みたいだな! お互い頑張ろうぜ」
イズマは対人戦なら何でもよかったが、カイトは自身の船で軍の船に挑むつもりらしい。互いの健闘を祈った2人はそれぞれの演習場所へ向かう。
「トレーニングといえども無理は禁物ですよ?」
「わかっているよ」
雨月の言葉に真は片手をあげて答え、軍人たちの演習に混じる。
(こっ恥ずかしい本当の事を答えなきゃよかった)
真の上司は暴風と呼ばれる人だったから、自分も自分なりの暴風を模索したい――だなんて。格好つけた手前、良い所を見せないわけにはいかない。
前のめりに攻めていく真の後方で雨月は演習のサポートに回る。手当と治療を施し、駆けまわる。医者の卵としてのトレーニングだ。
(皆さんの役に立てるように頑張るぞ!)
気合を入れる雨月の視界に戻ってくる真が映る。どうやらひと試合終えたらしい。視線が合った彼は笑みを浮かべて「俺の戦い、どうだった?」と問うた。
「……っと。結構強いんだね、君」
「へっ、まあこんなもんだ」
ルシの言葉にエレンシアは得意げな表情を浮かべる。召喚されて以来のんびりと過ごしてきたルシはやはり、力が衰えているというべきか――エレンシアが順調に力を付けているというべきか。
「私はルシ」
「あたしはエレンシア」
互いに名乗り合った2人だが、ふとした一言にエレンシアがぽんっと顔を赤くする。
「ななななな何言ってんだてめぇ! あんまふざけてるとぶっ飛ばすぞ!」
「可愛いは余計かい? 私はそうは思わないけれど」
「うるっせぇ!!!」
「そうやってすぐ暴力に訴えるのは良くないと思うよ、折角可愛いんだから」
「心にもねぇこと言ってんじゃねぇ!!」
至極真面目な表情のルシと、真っ赤になったエレンシア。彼女の声は演習場によく響き渡った。
ビキニにパレオ、完璧な夏の装いをした――兎、ノア。彼女は砂浜で走り込みをしていた。この後は筋トレ、そして斧の素振りとスケジューリングはばっちりである。
(何時如何なる時もいつも通りに。それがウェポンマスターへの道なのです)
この後はお祭りに行くのだと心に決めて。兎の足跡が砂浜に刻まれ、波に消えて行った。
「なあ、どうして俺は船に乗せられているんだ?」
エイヴァンは頭を手で押さえ、唸る。おかしい、昨夜の前夜祭(飲み会)から記憶がない。
どうやらサボらないようにと隔離されたらしい。仕方なしと内容を見せて貰えば、普段やっていないことを詰めに詰めててんこ盛り状態のスケジュールである。
パーティに参加できないことは確定――ならばこのスケジュールをこなし、後夜祭を始めるしかあるまい。
(だいぶ気が抜けてしまってますね)
こういう時に体を鍛え直しておかなければ、とマリナは腹筋をこなす。あと100回。
しかし、とマリナはお腹に手を当てた。ない、と言う程ではないのだが、マリアの身体は筋肉がつきにくいらしい。これではむくつけき海の男ボディなど夢のまた夢。
(色々食べれば、或いは?)
それならば行くべき場所は――パーティ会場か。
「せっかく海洋に来たし海を眺めてゆっくりと――」
「水着も複数持ってるし、泳ぐ練習した方がいいんじゃないのです?」
「え"」
クーアの言葉に利香は固まる。いやいや手合わせはいつもやってるから息抜きくらいさあ、なんて言葉は通じない。
「魔法禁止なのです」
「なんで? え?」
どんどん苛酷になっていく。焦るカナヅチ娘は、クーアが泳ぐのに向いて無さそうなメイド水着であることも言及できない。
「とはいえ早々波に攫われてもつまらないのです。まずはプールであそ……練習しましょうか」
「いやいやプールだからって心の準備がいやいや」
ずるずると引きずられていく利香。対してクーアは何処となく楽しそうであった。
「パパー!」
アンジュの声にいわしの群れが跳ねる。お祝い気分でウキウキしているようだ。
「こういう時はアレをやるしかないよね! パパたちも最近ご飯食べ過ぎて太り気味だったし、いい運動になるよ!」
娘の言葉にショックを受けるいわしたち。だがしかし、この大演習に混ざっていわし鬼をすればスリムボディが戻ってくること間違いなし!
「いくよ! よーい――ドン!」
●海の宴
「私の歌声を聞いてゆっくりしていってね」
レイの美しい歌声がホールに響く。楽団が合わせるように鳴り始めた。
キラキラとしたパーティにメルは心躍らせる。修練に励む人もいるみたいだけれど、メルの修練場所はここ。
「ふふ、ここに出ている料理、全て網羅する勢いで頑張っちゃうよ……♪」
勿論好き嫌いせず食べるのだ。苦いものだって最終兵器『蜂蜜』があれば大丈夫!
次々になくなり始める料理にシェフやメイドが慌て始めるのは、少し後の話。
妹がさっさと演習へ向かってしまい、フォルテシアは1人のんびりとパーティに参加する。さすが王国主催とあって華やかだ。
(お土産に持ち帰れるかしら? お父様と、エレンちゃんに)
勿論フォルテシアだって飲んで食べて、楽しむつもりだけれど。折角ならこの場に居ない家族にも楽しんでもらいたい。
「さすが王宮、どれも美味しいですね……こういう場所で豪華なご飯、初めてかもしれません」
満足気にお腹をさするベークはそっと壁際による。あとは躍る人々を見たりして時間を潰そう。
相変わらず彼からは香ばしく美味しそうな匂いがしているのだが、人型になっているだけあって『露骨な視線』はない。
(普段に比べたらゆっくりできますね)
今日は穏便に生き残れそうだ。
「こんな日々がずっと続けば良いんですけど……」
四音はふはぁ、と満足気な溜息をつく。所狭しと並べられた料理に美術品やドレス。お腹も心も満たされる。
(真っ当に領主やっていて本当に良かったっ)
この1年の安寧のご褒美だと思っておこう。とはいえ、その安寧も長くはないような予感がする。それが杞憂であってくれれば良いのだが。
「すごいわねぇ」
ルナはほぅ、と息を零しながら料理などをつまむ。美味しい。お酒も種類が豊富なようだ。
(うっかり飲み過ぎちゃう人がいそうだわ)
最も、ここには酒に強い者が多いのかもしれないが。ルナは人の集まる場所へ足を運び、話の輪に混ざっていく。
「今年は水着も用意できなかったし、完全に乗り遅れたのじゃ……」
ひっく、としゃっくりを上げながらニルが一升瓶をしかと抱えている。どんどん気持ちが落ち込んで、泣いてしまいそうであるが慰めてくれる人はいない。
「来年……いや、今年こそは動かねばならぬ」
目標を決めながら酒をゴクゴク。つまみむしゃむしゃ。……少なくとも明日は二日酔いで動けまい。
(やっぱり、何歳になってもお祭りと言うのは楽しみたいものさ)
リョウブは料理を味わいながら視線を巡らせる。やはりここで強いのは海鮮料理。けれどあまり見かけない珍しい食材も使われているようだ。
(うちの領地の珍しい魚で交易なんてできないかね)
それなりに整って、余裕が出てきたとなれば豊かにさせたいもの。それが故郷でもあるとなれば尚更だ。
堅苦しい鎧ではなく、ふわりと花開くようなドレスを纏って。リディアは作法を思い出すべく深呼吸する。フェルディンはそんな彼女を視界に認めた。
「リディア」
「お兄様」
妹の姿に目を細める。イレギュラーズとしての活動時期は、彼女と大して変わらない。海洋大号令から、ここまで。沢山の出来事と出会い、別れがあった。
「キミは本当に立派になったね」
「そ、そんな……まだまだです」
褒められるのは嬉しいけれど、実感が薄くて素直に受け止め難い。ずっと、無我夢中だったから。
沢山の縁と絆を得た妹。けれど自身にもまた、混沌で育まれた大事な絆はあるとフェルディンは思っている。そう、例えば――。
「こちらにいらっしゃいましたか、クレマァダさん」
「む、フェルディンか」
彼が声をかけたクレマァダは何処か気が抜けているように見える。向かってきた方向からすると、女王陛下たちに挨拶に行っていたのだろう。
「そちらは……ああ、お主がリディアか。よう参った――」
「いつも兄がお世話になっております! あの、もし義姉様とお呼びする事になったら、モスカのお作法とか色々教えてくださいね!」
「あ、あ、義姉!?!?」
キラキラと目を輝かせたリディアを前に、クレマァダは素っ頓狂な声を上げた。
浴衣でと示し合わせて、コルクはウィリアムの元へ。彼女の姿に呆けるのは一瞬、動揺を悟られないようにと彼は手を差し出した。
「……こういう時は男がエスコートするもんだろ?」
慣れていないそれに、けれどコルクはしっかり手を握り返す。1年越しに会えた織姫と彦星の如く、今日だけは離すものかと。
「よく似合ってるよ、その浴衣。……お世辞とかじゃないさ」
彼の言葉に頬を染め、こくんと頷く。嫌がっていない彼女の姿にウィリアムは小さく笑みを浮かべた。
「……本当に綺麗だよ、『エト』」
「有難う、『ウィルくん』」
その言葉を紡ぐのに、どれだけ喉が震えただろう。見上げれば、近くに彼がいて。裾を引く。手が重なる。
――嗚呼。こんなにも、愛おしい。
「ここが海洋って国なのね!」
みけるは城下町を歩きながらくるりと回る。これまで見てきた世界とはまた一風変わった場所だ。
「あ、おじさん! その串焼き1本!」
「あいよ!」
ジュースもご飯も、お買い物をたっぷりしよう。せっかく海が近いのだからそちらへも足を延ばしたい。
「あ、可愛い水着に浴衣!」
可愛いものに目がないお年頃、なのである。
ふわり、ふらり。落霜紅はいい物がないかと露店を覗いていく。
(ボクの水槽にしまえるようなものがあるといいな)
例えば――そう、海底に沈んでも美しいままの装飾品とか。一緒に沈んでいても見飽きないような、そんなもの。
ドゥーの視線は露店から露店へ。土産になりそうなものから珍しいものまで興味は尽きない。
貝殻のアクセサリーを見たり、海産物の串焼きを露店で買ってみたり、気ままにぶらぶらしながら、ドゥーは王宮の方を見た。
(凪の時間は長くない、か)
大波に呑まれてしまうような、そんな事態がいつか来る。ならばその時に頑張れるよう、もっち力を付けなくては。
あっちはジュース、こっちはアクセサリー。チュチュは露店を巡りながら少しばかりの空腹を感じる。視線を巡らせて。ああ、あの人たちが良い。
「ン……ねえ、お兄さん達、お暇?」
日傘を可愛らしく傾げて、お世話を焼いて貰おう。見返りは10年後――だってあたし、まだ10歳だもの。
(夏は出会いが軽い季節よね)
気軽にくっついて、離れて、また誰かとくっついて。そうして遊びたくなる時期なのだ。
ある露店では見覚えのあるイレギュラーズ2人の姿。トレーニングと同じくらい、コンディションキープも大切な事。そのために必要なものを問われ、アリスは大きく頷いた。
「決まってるじゃない、『腹が減ってはほにゃららや』!」
アリスの言葉にゼファーは麗しき笑みを浮かべる。そう、御名答だ。
「そして人を選ばず食べられて、元気も出るものと云えば――」
「――カレーなのね!」
2人は顔を見合わせてにっこり。以前の炊き出しでも喜んでもらえたから、今回も頑張ろう。
「夏野菜カレー、いいわよね。お肉は豚さんかしら?」
「えっ! ず、ずるい、普段なら安価な挽肉なのに!」
そこはほら、自分たちの懐は痛まないから。豪勢に、お腹一杯食べてもらうために。
「はふ……うん、いいお味! ゼファー、味見して頂戴な?」
2人で美味しく、美味しく作ろう。
「あ、屋台」
Я・E・Dは露店から露店、というより屋台から屋台へ。折角立ち寄ったのだから好きなだけ食べ回りたい。
海洋はやはり海産物が多い様だが、時には他国から仕入れられたと思しき怪しい食品もある。良い、こういうのを待っていた。
「大丈夫、どんなものでも食べて見せるから」
「こりゃあ豪胆なこった!」
地元民ですら若干引き気味な所へ現れたЯ・E・Dの言葉に、店主は豪快に笑った。
「――何をされているのです?」
とん、と肩を掴まれる。逃げ出そうとした男はいとも簡単に意識を暗転させられた。
(やはり、出てこない訳がない)
捕縛したチェレンチィは近くの警備隊に男を引き渡し、再び闇に潜む。
表は随分と賑やかで、楽しげだけれど。こういう日だからこそ、良からぬことを企てる輩が現れる。隠密の練習にもなるというものだ。
「ふふ。何処も彼処も、浮かれています、ね」
かく言う閠も、人を避けながら歩く様はまるでスキップしているよう。シロとクロを道案内にたてて、綺麗な本や上等な糸、布を探していく。
見るかわりに手触りで確かめて。商人が驚くくらい買い求めたそれらは、宝箱へ納めるように馬車に運ばれていった。
「お祭り雰囲気の中で何が大事かって? そりゃもう酒と屋台飯だろ!」
ドン、と空になったジョッキを立ち飲み用テーブルへ置くティフォン。酒場で飲む酒は良い。けれども特別な気分で飲む酒はもっと良い。昼間から――しかも平穏に生を謳歌できる時期に――呑める酒、最高。
「おっちゃんその肉串くれよ。その隣のも一緒に頼む」
トレーニングに大演習、そんなものは若い者に任せておけば良いのである。
「誰か付き合ってくれるやつはいるかい?」
縁の言葉に酒場で飲んだくれていた男どもがジョッキを上げる。名声高い彼を知らない者は早々いないだろう。
「今回は名声の分だけ何かするんで?」
「おいおい、どこから聞いてきたんだ?」
縁は思わず苦笑い。前回がおかしかったのだ。その分今回はサボり、もとい息抜きをしたって許されるだろう。
(凪だって言うんなら満喫しねぇとな)
――きっと、そのうちに。<ワダツミ>の声が聞こえてくるだろうから。
「酒くさ……あんた、どれだけ飲んだの?」
魁真は酔いつぶれた男の傍に薬を置く。後で飲めば少しは楽になるはずだ。
最初はタダ飯にありつくためやってきたのだが、泥酔者の介抱で恩を売ろうなんて考えたからか。
「俺医者じゃないんだけど! いや派遣診療所でもない!!」
続々と集まり始めた酔っ払いどもに魁真はため息ひとつ。タダ飯はお預けの気配濃厚である。
まだまだ賑やかな夜が、ゆっくりと更けていった。
●静寂の青へ
「該当区域『アクエリア島』への到着を確認。周囲の生命体の行為模倣を開始する」
自らの名称を定義した凰は海洋へと訪れていた。海洋王国の情報収集をするため、周りの者についてきたは良い……のだが。
「私は疑問を提示する」
どうして、潮風の吹く場所へ機械仕掛けの体で来たのか。
ライブラリからの回答は――『夏といえば海!だから』であった。
「今年ももうこんな時期か」
悠はアクエリア島に降りて辺りを見回す。随分と穏やかになったものだが、再びを考えれば備えは必要だ。
自身の領地から人手を配するように悠は島へ滞在する軍人へ手続きをする。あとは少しでも顔を繋げ、より密な連携で物資や人手の供給が出来ればより発展していくはずだ。
(政治の話は無粋かもしれないから、引き際に気を付けよう)
今日の事は、次への布石とでも思って。
「あれ?」
トワシーは辺りを見回した。人に押され流されて、観光フェリーっぽいものに乗り――ここはどこだ?
(出店は……なさそうかな)
どちらかと言えば作業現場である。戻るにも時間がかかるだろうし……と、トワシーは出店を次回の楽しみに、少しでも作業者が体調を崩さぬようサポートに回りだした。
「私も手伝おう。まだまだ人手が必要そうだ」
アドルフはそこへ手伝いの手を差し伸べる。出来る事は限られているだろうけれど、猫の手よりは使えるだろう。
この海に直接かかわった事はない。けれども風の噂では聞き及んでいる。だからこそ――放浪の身であれど、何か助けになればと思ったのだ。
「あの、何か手伝えることとかあれば、お手伝いします……」
そこへアイゼルネも声をかける。拠点整備の人手が足りなければ大変だろうと、予定変更してやってきたのだ。海遊びを息抜きに、お手伝い開始である。
「あんたら、キリキリ堅気んために働きな! 徳積め徳ゥ!」
ナイスバディの水着美女、姫喬の指示によって見る間に雑草が一掃されていく。それを見ながらも、雛乃からは目を離さない。大事で可愛い妹、彼女の頑張りを見逃すわけにはいくまい。
「きゃっ……!」
沢山刈った草を運ぶ雛乃が躓くと、駆け寄った姫喬が手を差し伸べる。嬉しそうに手を掴んだ雛乃は膝をパンパンとはたいた。
「いっひひ、えらいねー雛ちゃん!」
「欲張りしちゃいました、えへへ」
だってこれが終わったら、姫喬と水着で沢山遊んで欲しいから。早く終わらせたくて仕方がないけれど、急ぎ過ぎも良くない。
「あおちゃん、行きますよ!」
空中を泳ぐクラゲと一緒の妹を微笑ましく眺めた姫喬は、早くいっぱいのご褒美を上げるべく助太刀へ向かった。
「きょてんせいび? 頑張ろー!」
メイの掛け声に集まった一同はおー、と声を上げる。いつもは食堂のウェイトレスをしているメイも、今日はイレギュラーズとして働くのだ。
「天候は今のところ大丈夫そうですな」
「それでは今のうちに必要資材を運んでしまいたいでござるな」
成龍の言葉にパティリアが颯爽と動き出す。目のも留まらぬスピードで資材を運び始めたパティリアに続き、成龍も式神を使役して物資を運び、広域俯瞰で人手不足がないか確認した。
「あっという間ですなあ」
「拙者、何かを運んだりすることに特化しているでござるよ」
任せてくれというパティリアに、この場の人手が足りて良そうだと判断したマルカは海岸へと出る。
「あー、やっぱりっスね」
海は繋がっている。どこからとも分からぬものが島に流れ着くのは何処だって同じらしい。
ひょい、と軽く跳躍して足場の悪い岩場を渡りつつ、ゴミを拾ったりモンスターの掃討を行うマルカ。Sweeperの二つ名に恥じない、迅速な掃除である。
(死骸は腐ったり爆発したりしないうちにナイフでちゃちゃっと解体してっと)
小さくはない島だ。掃除のし甲斐がありそうだとマルカはどんどん進んでいった。
「姉様、行きますよ」
「はい……」
14歳の少女に連れられるイリス。観念したと言わんばかりの表情の彼女をつれるシルフォイデアはこれぞ自分の役目と言わんばかりに突き進んでいた。
(父様の事になると姉様はヘタれやすいんですから)
「ね、ねえ、島の拠点整備も手伝わないと……」
「父様と会ってからでも大丈夫ですから」
断固として寄り道を許さない構えだ。
(お父様に逢いたくないとか、そういうのじゃないのよ)
ただ、そう、どういう顔をして逢えば良いのか。逢ってどんな話をすれば良いのか。そういったことがさっぱりなのだ。
「あ、父様ですよ」
シルフォイデアの声にイリスはぴくりと肩を揺らす。ああ、とうとうついてしまった――視線を上げた先には、やはりいつも通りな父、エルネストがいた。
「メロンからブルーハワイ、沈めば冷たい海の底♪」
砂浜に歌声が響く。涼し気な歌詞で、つい視線がそちらへ向いてしまうような。
「ソフトクリームの氷山に、きらめく星は金平糖♪」
露店が出ているようだ。歌はそこの店員らしい。
「北極星が見下ろす世界を、さあ一口召し上がれ♪」
歌うMeerは客の姿ににぱっと笑みを浮かべる。
「『隠れ宿polarstern』出張店だよー!特製クリームソーダはいかがですかっ?」
(孫がおばあちゃん離れしてしまったようで少し寂しいけれど……まぁそれも良い事よね!)
きっと大演習に参加していることだろう、とジェーリーは彼の事を思い浮かべる。
本当は返らないつもりでいた。禁断の恋に落ちた彼が沈んだ海なんて、大嫌いだもの。
――嗚呼、それなら。どうして帰ってきてしまったのだろう?
ジェーリーはぼんやりと海を眺めた。
「こーーーんなにおっきいお城にしよう!」
「めざせ幻想の真ん中のお城よりおっきいやつ……!」
両腕をめいっぱい広げるリオーレにルルゥがやる気を見せる。見に来たメアとリオは顔を見合わせた。
「砂のお城ですって」
「難しそうな……でも楽しそうだね」
「僕も混ざっていいですか?」
シエルがはい、と手を上げる。泳ぐのに抵抗があっても、これなら浜辺でできるから問題ない。
「もちろん。土台から作っていこう」
こうして始まったお城づくり。水を混ぜると何となく固まることに気付いたリオーレがルルゥと一緒に土台を作り上げ、それを高くしていく。
「一かいにトンネルを作ろう! あ、一番上に貝がらをはったらカッコいいかな?」
「それなら僕が拾ってくるよ」
「わたしたちも探してくるわ」
シエルとメア、リオが貝殻を拾いに出かけていく。砂の城本体はルルゥとリオーレに任されることとなった。
「あ、波が……!」
大きめの波に気付いたルルゥが自らの身を盾にして砂の城を守る。途中までできたものを攫われてなるものか。
「ルルゥくん、マドできたよ!」
リオーレがほら、と得意げに見せる。その向こう側からぱたぱたとメアがやってくる姿が見えた。後ろからリオが「躓いたりしないよう気を付けて!」と声をかけている。
「ほら見て、シーグラスを見つけたの。きっと素敵な飾りになるわ」
「おや、そっちでも見つかったんですね」
反対側から戻ってきたシエルも集めたシーグラスを見せる。リオーレとルルゥは顔を見合わせた。
天辺に貼れる貝殻はそう多くない。どれを飾ろうか?
「天辺じゃなくて、周りに貼り付けてみる?」
「いいわね! リオさん、一緒に飾りつけしましょ?」
ルルゥの言葉にメアがぱっと目を輝かせ、リオを見る。たくさん集まったから、どこから見てもキラキラきれいなお城になるだろう。
「やっぱり人と一緒に何かを作ると言うのは楽しいね」
「ええ!」
集まった5人の背丈はバラバラで、だから色々な高さにシーグラスや貝殻が飾られる。最後にローレットのエンブレムが入った旗を刺して。
「かんせーーい!!!」
幻想の王城までは行かないが、十分に大きな城だ。……などと喜んでいたのも束の間。
「あ……!」
「あーーーっ!?」
今度はルルゥが庇う間もなく、大きな波が砂の城を食べてしまう。半分ほどを齧られてしまったそれをリオーレが茫然と見ていると、メアがふふっと笑った。
「砂のお城、こんな儚さも含めてとても素敵よね」
崩れてしまったならまた作ろうか。もっと大きく、波に食べられぬよう防壁も立てて。
浜辺に足跡を残して、けれど叶のそれはあっという間に波が消してしまう。
(自由って沢山時間があって、何にも縛られないですけれど)
ほんの少し、寂しい気も。そんな風に苦笑した叶は、ずっと向こうに釣り糸を垂らす2人を見た。
ざざん、と波の音を聞きながらティエルと裂は程よい距離感をあけて釣り糸を垂らす。
(オアシスのお魚も美味しいにゃが、偶には海の幸も良いにゃ)
砂漠の地ではない潮の香りがティエルの鼻を擽る。オアシスとは違った魚の予感に彼女の尻尾がゆらゆらと揺れた。
(この辺りは静かなもんだな)
海洋王国の賑やかさを思い出す裂。陽気で快活な王国民たちに混ざるのも楽しそうではあったが、漁師たるもの初めての海辺でどんなものが釣れるのか、興味は尽きない。
豊穣とつながっているこの海では、同じものが釣れるのだろうか。それとも見たこともないようなものが釣れるのだろうか?
「お、」
釣り糸が震える。その先にいるなにかの様子を伺いながら、裂は釣竿を泳がせる。
せっせと砂浜を行くスクアーロ。こういう時こそ浜辺や海を清掃していかなければ、と思ったが、本日はあまりその必要はなさそうだ。
降り注ぐ日差しに穏やかな波の音。絶望の青は静寂の青と変わった。少しぐらい気を抜いたってとやかくは言われまい。
スクアーロは遠泳へ、ゆっくり、ゆったりと向かい始めた。
「フリック!」
「カルウェット 水着 可愛イ」
フリークライへと駆けていきながらカルウェットはぱっと笑みを咲かせる。麦わら帽子に浮き輪、お洒落だってばっちりだ。
「夏仕様フリック、良い、するぞ!」
「ハイビスカス他トロピカル 花 フサフサ」
フリークライも今日は南国風に体を花で飾って、大きなアロハシャツを纏って。さあ行かん、海深く!
「ひっひー、フリック、楽しみ!」
「宝探シ 海底調査 任セテ」
重いから沈んでしまうけれど、フリークライに呼吸は不要。それに頭上ではカルウェットが楽しそうに水の中を見下ろしているものだから、フリークライもまた楽しくなってくる。
沢山遊んで、メロンソーダも飲んで、楽しいひと夏にしよう。
「海だー!」
ざぶん、と飛び込んでセリカは目を開ける。青い海、揺らめく太陽の日差し!
「ぷは、」
一度顔を上げた彼女は二度、三度と潜って徐々に慣らしていく。そうすれば――ほら、魚たちと一緒に泳ぐことだって出来てしまうのだ。
(こっちが気になるのかな?)
つんつん、とつつかれると擽ったい。思わず笑ってしまったセリカは慌てて空気を吸いに海面へと上がったのだった。
「うーみっ!」
ジャボンッと水が跳ねる。飛び込んだのは水を身体とするスだ。何となくで辿り着いてしまったが、水のあるところへ本能的に向かっていたらしい。水と海水が交じり合う事はないけれど、波に揺られて揉まれるのはなんだか楽しいのだ。
その近海に船を出してもらった悪羅は長椅子に寝転び、頭の下で腕を組む。
イレギュラーズからすれば何をしてもトレーニングだ。それこそ、こうして1人を満喫していても。ワイワイするのがガラでない自分にとっては僥倖である。
海洋のワインをグラスで片手に、沖をのんびり見る。夏にしかできない最高の贅沢だ。
そして――夕刻、日焼けに苦しむのはまた別の話である。
「ミアの知らない間にずいぶんと、この辺りも変わったんにゃ……ね」
「色々あったからにゃぁ」
ミアとシュリエは小型船を走らせ、のんびりと釣り糸を垂らす。美味しいお魚釣れるかな。
「ひなたぼっこスポットも更新されたにゃ」
「後で教えて……かかったの!」
くん、とミアの手元で引っ張られる。中々思い手ごたえだ。
「大物にゃ! ミア、絶対逃すにゃ!」
「シュリシュリ、得意の魔法で仕留める……のっ♪」
釣り上がった魚に威嚇術が命中し、船へと回収される。2人はその大きさを見てきゃっきゃと飛び跳ねた。
「こんなにたくさん……♪」
「刺身にするにゃ! お魚限定料理スキルに恐れおののくがいいにゃー!」
シュババババ、とシュリエが瞬く間にさばいていく。捕りたての刺身はぷりっぷりで――とっても美味しかった。午睡も捗るというものだ。
さくさくと、アクアの足下で砂が音を立てる。足の甲を波が擽った。
(静かな海は、やっぱり、気持ちいい)
水着は忘れてしまったけれど、こうして波の音を聞いてゆっくりするのは悪くない。
「ぷあっぷ!?」
しかし突然の大波。体を震わせたアクアは狂王種を見て目を眇めた。
「……せっかく、せっかく1人で過ごしてたのに、なんで邪魔するかな……!」
怒りに燃える瞳。次の瞬間、狂王種を魔光閃熱波が襲った。
「ここがサメさんのよく出る浜辺ですね!」
「暫く待てば現れるでしょうか」
サミィと美凪はきょろきょろ辺りを見回す。ここには空を飛んだり頭がいっぱいあったり歩いてくるサメやチェーンソーを構えたサメが出るはずなのだ。絶対に。いるのだ。
「いました!」
マジかよ。
「殴りましょう」
「遊びましょう!」
美凪とサミィで言っていることは異なれど、だいたい行動は同じである。サミィはチェーンソーを構え、美凪は拳を握りしめる。2人の存在に気付いたサメたちは空を泳いで、或いはどたどたと走ってこっちへ向かってきた。
「お留守ですよ」
容赦なく殴り飛ばしていく美凪。チェーンソーを振り回すサミィ。2人とサメたちの荒々しい攻防が繰り広げられていた。
レイヴンはあの海戦から今までの事を記録する。神逐からRapid Origin Onlineのことまで。1年に収めるにはあまりにも膨大なそれらを見直して、レイヴンは顔を上げた。
(混沌はわずか4年で余りに大きくうねっている。これこそが"世界の意志"なのか?)
そして、特筆すべきは竜の存在。願わくば、手中に収めたい。全ては『レイヴン・ポルードイを殺す為』に。
「今日、私達は~この海域の調査を行う~」
えいえいおー、と拳を天へ突きあげた那由多とマリリン。那由多は水着でばっちりだが、
「助手よ! 海中と言えば、君の出番、凄い期待しているぞ!」
「えっ期待されてもちょっと困るな!?」
マリリンは水の精霊種だが、それはそれ、これはこれ。2人で仲良く海の中へ飛び込む。マリリンは精霊たちへの聞き込みに、その間那由多は水中生物の観察へ回る。
「あっちに綺麗な場所があるみたいー!」
「でかした!」
マリリンの声に那由多は振り向くと、意気揚々と向かいだした。不思議な現象が待っている気がする。それを思えば魔物程度の障害、苦でも何とでもないさ!
(迂闊でしたね……日焼け止めを持ってくるのを忘れるとは)
オーガストはパラソルの下、ラウンジチェアに腰かけて本を読み漁っていた。読書と日光浴を兼ねたトレーニングである。決してサボリではない。
(外での読書もまた良いもの……いけません、眠気が……)
快適であれば睡魔がやってくるのも仕方ないもの。日焼けはパラソルがあるし、元々色白だから大丈夫――というのは、盛大なフラグであった。
「うはははは!! トレーニングなんざやってらんねぇのだわ!!!」
「今日はダチと水着で真昼間から花火だ!!!」
「海っす! 水着っす! バカンスっすよー!!」
「海と言えば新鮮な海の幸! そして美味しいお酒ですねっ!!!」
真昼間から――いや真昼間だからこそだろうか。異常にテンアゲな集団がいた。まずはとわんこが取り出したのは練達で買い求めた花火とライターである。
まずは手持ち花火1本と火をつけたわんこ。綺麗なものは堪能したのでノリに乗っていくぜ!
「うはははははすげぇ音と光だ! 見てくれ姉御!!」
「おぉう」
「俺のは全部噴出型花火っす!!」
わんこと無黒が調子に乗って全部へ一気に着火し、昼間でも眩しい程の光と音が辺りを満たす。
「紫紡、アタシたちは線香花火でもやりましょ……」
「はい、コルネリア姉様!」
女性2人はしっとりと散る火花を眺めて時間を過ごす……はずが。
「……ちょっと派手さが足りなくない? ロケット花火やる?」
「え? 派手ではないですけどもあのそんなまとめておわぁぁああ!?!?」
コルネリアが盛大に、ロケット花火へまとめて着火した。
「「ヒュー!!」」
盛り上がるわんこ&無黒。そんな花火会場を脱して紫紡はBBQの準備へと映った。彼女からすればこっちの方が本命である。あと酒。
エビやホタテ、イカを塩コショウや醤油バターで味付けする。新鮮で大ぶりな海産物に唾液が分泌されるのを感じた。
「お、いい感じじゃない」
2番手で抜けたコルネリアが様子を見に来る。そろそろわんこと無黒を呼ぼうか。
「今いきマスネー!」
「良い匂いっす!」
いやほーい! とはしゃぐ声。彼らのバカンスは始まったばかりである。
「ラピス、行きましょう!」
アイラが海へ向かって駆けていく。その姿をラピスは眩しいものを見るように目を細めた。
彼女の水着は大胆にも見えて、他の誰かが見るかもしれないと思うとモヤモヤしてしまう。だって自分にはこんなに魅力的に見えるんだから。
「ラピスー!」
「うん、今行くよ」
追いかけて、隣に追いつく。自分も来年はデザインしてもらおうか。最愛とのお揃い、なんて。
「えいっ!」
「わ……っ!?」
唐突に水がかかる。目を瞬かせるラピスにアイラはしてやったり顔だ。そんな彼女にラピスもお返しする。
「あっボクにもやりましたね?! もう!」
なし崩しに始まった水の掛け合いも、2人でなら楽しくて。ここに領地の子達もいたらなあ、なんてアイラは想像する。
「次は連れてこよう」
「……はい! で、も! 今は、キミだけを見ていますからね」
ふふ、と笑い合って。跳ねた水がキラキラと光った。
「もう一年、ですか」
コスモは墓に花を添え、海へ視線を巡らせる。今の自分を、シャルロットならどう映すのだろう。
「今年は線香花火をしました」
まるで命を燃やすような輝き。けれど召喚前にいたあの星は、あんなに温かくも賑やかでもなかった。
彼女とは火花が散るほどの間だけだったけれど、はじまりの場所はずっとここ。
(星が巡って、同じ時に灯が灯ったら)
――また、会いましょう。
「やあトルタ提督、久しぶりだね」
墓には花を、というのがありがちだけれど、史之が出したのはラム酒だ。彼女の好みを知る前に彼女は逝ってしまったが、海賊であった身であればきっと好きだろうと。
「……そうだ、この刀。大事に使わせてもらうね」
形見のようにも思えるそれをちらりと見て。史之はトルタが眠る海域にラム酒を贈った。
(ワタクシは、ずっと1人だと思っておりました)
それが今やどうだろう、とヴァイオレットは友人たちを思い浮かべる。友を作るに至った、心情の変化があったとするなら、それは『かの歌声』であると。
人の善性を信じた歌声はどこまでも響いた。心を動かした。
「……カタラァナ様、もしアナタと会えたなら、どんな関係になったのでしょうね」
応える声はないけれども。ヴァイオレットは目を細め、海をどこまでも見つめていた。
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お楽しみいただけたでしょうか、イレギュラーズ。
白紙以外は描写されていると思われます。称号はピンときた方にお贈りしています。ご確認ください。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
Re:versionです。四周年ありがとうございます!
今回は昨年同様、特別企画で各国に分かれてのイベントシナリオとなります。
●重要:『ローレット・トレーニングIXは1本しか参加できません』
『ローレット・トレーニングIX<国家名>』は1本しか参加することが出来ません。
参加後の移動も行うことが出来ませんので、参加シナリオ間違いなどにご注意下さい。
●成功度について
難易度Easyの経験値・ゴールド獲得は保証されます。
一定のルールの中で参加人数に応じて獲得経験値が増加します。
それとは別に700人を超えた場合、大成功します。(余録です)
まかり間違って1000人を超えた場合、更に何か起きます。(想定外です)
万が一もっとすごかったらまた色々考えます。
尚、プレイング素敵だった場合『全体に』別枠加算される場合があります。
又、称号が付与される場合があります。
●プレイングについて
下記ルールを守り、内容は基本的にお好きにどうぞ。
【ペア・グループ参加】
どなたかとペアで参加する場合は相手の名前とIDを記載してください。できればフルネーム+IDがあるとマッチングがスムーズになります。
『レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)』くらいまでなら読み取れますが、それ以上略されてしまうと最悪迷子になるのでご注意ください。
三人以上のお楽しみの場合は(できればお名前もあって欲しいですが)【アランズブートキャンプ】みたいなグループ名でもOKとします。これも表記ゆれがあったりすると迷子になりかねないのでくれぐれもご注意くださいませ。
●重要な注意
このシナリオは『愁GM』が執筆担当いたします。
このシナリオで行われるのはスポット的なリプレイ描写となります。
通常のイベントシナリオのような描写密度は基本的にありません。
また全員描写も原則行いません(本当に)
代わりにリソース獲得効率を通常のイベントシナリオの三倍以上としています。
●成功条件
・真面目(?)に面白く(?)トレーニングしましょう!
・パーティや酒場で飲み食いしましょう!
・アクエリア島の拠点整備をしましょう!
・楽しく過ごしましょう!
●GMより
愁です。今回は海洋王国を担当させて頂きます。
アクエリア島、フェデリア海域へ行っても良し、海洋兵と演習に出ても良し、王国主催のパーティに出ても良し! アクエリア島ではエルネストさんが更なる拠点整備をお願いしたいみたいです。
夏のイベシナに乗り遅れてしまった方も、ここで水着を持ちだしたって大丈夫!
それでは沢山のご参加、お待ちしております。
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