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シナリオ詳細

<マジ卍体育祭2020>クロームオレンジの軌跡

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 インク・ブルーの夜空を見上げ、薄い星の輝きに手を伸ばす。
 小さな星屑が一筋。尾を引いて流れて行った。
 不確かな記憶の中で揺蕩う自分に、願い事があるとするならば。
 それは、きっと笑顔をくれる人達の未来なのだろう。

 パチとクローム・オレンジの火花が弾けた。
 希望ヶ浜体育祭の終わりには、校庭にキャンプファイヤーが組まれる。
 その周りを緩やかな音楽に乗ってフォークダンスを踊るのが体育祭の締めくくり。
 台風の夜妖が突然来襲し、マジ卍体育祭が延期になった時はどうしようかと思ったけれど。
 何とか開催することが出来て良かったと『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)は伸びをした。
 テレビのニュースでは海の向こうにある島国(カムイグラ)で内乱が起こっているという。
 砂漠の国(ラサ)では大鴉盗賊団が暴れて、色宝という宝石を遺跡から略奪しているらしい。
 さらりと流れた国外の様子は、すぐに明日の天気予報へと切り替わる。
「平和だなぁ」
 カムイグラの内乱もラサの略奪もこの希望ヶ浜に住んでいるとテレビの向こう側の世界に思えてしまう。
 希望ヶ浜は『現代日本』を模した練達国の一区画だ。
 無辜なる混沌を受入れられなかった旅人がコンクリートの壁の中に逃げ込んだ場所。
 耳を塞いで目を閉じて彼等にとっての『非日常』を否定する。そんな人々の安寧の地が希望ヶ浜なのだ。
 けれど、希望ヶ浜にも怪異は存在する。
 無防備な彼等の生活を影から守るのが、この街でイレギュラーズや廻に求められていること。
 だから、この体育祭も街の人達の『普通の日常』を守る為の物なのだ。

 ――冷たい夜風が汗をかいた肌を冷やしていく。
 熱狂の渦のまま過ぎ去った体育祭もこれでおしまい。
 名残惜しさがキャンプファイヤーの炎と共に闇の中に消えていくようで。
 もう少しだけ楽しい余韻に浸っていたいとさえ思うのだ。

「……っくし」
 されど、夜の風は冷たい。
 ジャージの下で冷えてきた腕を擦りながら廻は小さく振るえた。
「あら、廻君大丈夫? 冷やすと風邪引いちゃうよぉ?」
 白衣を着たシルキィ(p3p008115)が廻の肩を優しく叩く。
 ふにゃりとした笑顔で微笑んだシルキィは救護班として校庭の生徒の様子を見回っているようだった。
「ありがとうございます。シルキィ先生」
「ふふ~。保険の先生だからねぇ。生徒達の健康状態は気になるんだよぉ」
 シルキィが纏う雰囲気は他人を和ませる力があるのかもしれない。
 廻もつられてくすくすと笑みを零した。
 その後ろには『ナイトクリンナッパー』煌星 夜空の姿も見える。
「こんばんは! 廻くん。学校で会うのは何だか新鮮だね」
 夜空は掃除屋として燈堂一門の門下生として下宿している一人だった。
 燈堂一門とは夜妖憑きを祓う事を生業とする『祓い屋』の集団である。
 祓い屋燈堂一門は古くから希望ヶ浜に存在し、夜妖関連で身寄りの無い者などを門下生として養い指導する受け皿として機能していた。副次的に戦闘の後片付けをする掃除屋も受入れているのだ。
「おや、どうしたんだい皆。フォークダンス踊らないのかい?」
 その燈堂一門の当主。『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)が三人を見つけて近づいて来る。
「あ、師範。こんばんは!」
 近づいて来る暁月に夜空が手を振った。
「こら、夜空。学校で師範と呼ぶのは止めなさい」
「はーい。燈堂せんせー!」
 校庭に夜空の大きな声が響き渡る。


 オレンジ色の炎の周りにペアや数人が輪になって楽しげな声を上げていた。
「フォークダンスか。廻は踊らないのかい?」
「僕、ダンスとかは踊ったこと無くて」
 暁月の問いに照れた様に頬を掻く廻。
「ふふ、盆踊りと同じさ。周りに合わせて適当に合わせれば良い。こうして……」
 廻の前に手を差し出した暁月は、目線を合わせるように腰を折る。
「私と踊ってくれますか? と誘ってね」
 切れ長の目。黒曜石の瞳が廻を見つめた。
「それで何人落として来たんですか」
 暁月の視線から逃げるように目を逸らす廻。
「心外だな。私が火遊びをする時間があると思うのかい?」
 学園の教師に祓い屋家業と門下生の指導。指導者たらんとする燈堂の教えの体現者。
「確かに。……すみません。暁月さんの事、ちょっと誤解してました」
「ふふ、じゃあ代わりに廻が踊ってくれるなら許してあげよう」
「えっ」
 嫌な予感に廻は眉を寄せる。ちょっぴり怒っているらしい。
 こんな時は拒否するより流れに任せるのが得策である。
 廻は大人しく、差し出された暁月の手に指を置いた。

 ――――
 ――

 ゆったりと流れる音色に乗せて。指先を触れあえば、夜の冷たい風とは裏腹に温かさが伝わってくる。
 名残惜しさを胸に抱き。もう少しだけ余韻を楽しみたいのだと瞳が語った。
 クローム・オレンジの灯火に照らされ、体育祭の思い出を語るのも悪く無い。


GMコメント

 もみじです。ロマンチックに炎を囲んで踊りませんか。

●目的
 体育祭を楽しむ

●ロケーション
 体育祭も残り僅か。夜の校庭にはキャンプファイヤーが組まれています。
 日中の熱気は過ぎ去り、炎の近くでないと寒いぐらいです。
 キャンプファイヤーの周りにはフォークダンスをする人が居ます。

●出来る事
 適当に英字を振っておきました。字数節約にご活用下さい。

【A】フォークダンス
 キャンプファイヤーの周りでダンスを踊ることが出来ます。
 ゆったりとした音楽が流れていますので、簡単に踊ることができます。
 ペアや複数人で踊ったりしてもいいでしょう。
 お一人の方は廻や暁月、アルエットがお相手をしますのでご安心ください。

【B】校庭・校舎の片隅
 人の居ない場所でのんびり余韻に浸りたい方に。
 キャンプファイヤーの明かりを見つめながら伝う言葉はロマンチックですね。
 寒いのでブランケットなどを持って行きましょう。

【C】屋台
 簡単な屋台があります。
 ビールやジュース。焼き鳥やフランクフルト。
 温かい味噌汁、おにぎりなど。
 キャンプファイヤーを見ながら、呑むことが出来ます。

【D】
 その他
 出来そうな事が出来ます。

●プレイング書式例
 強制ではありませんが、リプレイ執筆がスムーズになって助かりますのでご協力お願いします。

一行目:出来る事から【A】~【D】を記載。
二行目:同行PCやNPCの指定(フルネームとIDを記載)。グループタグも使用頂けます。
三行目から:自由

例:
【A】
【廻をぐるぐる回す会】
 僕と踊ってくれますか?
 なんて、暁月さんみたいにかっこよく出来ないなあ。
 僕も踊れる自信無いんですけど、一緒にやってみれば楽しいかもしれません。

●NPC
○『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)
 希望ヶ浜学園大学に通う穏やかな性格の青年。
 裏の顔はイレギュラーズが戦った痕跡を綺麗さっぱり掃除してくれる『掃除屋』。
 今回は【A】でフォークダンスを踊っています。
 誘えば笑顔で踊ります。どうしようかなと迷っていると踊りに誘ってきます。
 そんなに上手ではないですが、身体を動かすのは楽しいようです。
 他の場所にも呼ばれれば居ます。

○『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)
 希望ヶ浜学園の教師。裏の顔は『祓い屋』燈堂一門の当主。
 記憶喪失になった廻や身寄りの無い者を引き取り、門下生として指導している。
 呼ばれれば何処にでも居ます。

○『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)
 お祭りと聞いてやってきました。わくわくしています。
 羽根は隠しています。
 呼ばれれば何処にでも居ます。

●諸注意
 描写量は控えます。
 行動は絞ったほうが扱いはよくなるかと思います。

 未成年の飲酒喫煙は出来ません。

  • <マジ卍体育祭2020>クロームオレンジの軌跡完了
  • GM名もみじ
  • 種別イベントシナリオ
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年11月26日 22時05分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
アレフ(p3p000794)
純なる気配
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
マルク・シリング(p3p001309)
浮遊島の大使
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
ナイン(p3p002239)
特異運命座標
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
威風戦柱
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
メイメイ・ルー(p3p004460)
ひつじぱわー
アイラ・ディアグレイス(p3p006523)
生命の蝶
リヴィエラ・アーシェ・キングストン(p3p006628)
水晶角の龍
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
恋屍・愛無(p3p007296)
獏馬の夜妖憑き
ラピス・ディアグレイス(p3p007373)
こころのそば
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
毀金
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
夜咲紡ぎ
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
導きの戦乙女
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
黒き葬牙
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
楊枝 茄子子(p3p008356)
羽衣教会会長
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)
ワルツと共に
アンジェリカ(p3p009116)
緋い月の
溝隠 瑠璃(p3p009137)
ラド・バウD級闘士
星影 昼顔(p3p009259)
陽の宝物

リプレイ


「昼間は暑かったけど、夜になると冷えるな……」
 頬を浚う風にポテトは身震いをして傍らのリゲルに寄り添う。
 肌を触れあっていれば暖かいけれど折角のダンス会場だ。眺めるだけでは勿体ない。
「私と踊っていただけますか? 私の王子様」
 微笑んだポテトの手を取って、リゲルはオレンジの炎へと近づいていく。
 ゆらり揺れて輪を作る。ゆったりとした音楽に身を委ね。
「体育祭楽しかったな。教職員対抗リレーは黄色い応援が凄かったぞ」
「そうなのかい? ポテトは今日もシューズクロークにラブレターが入っていたようだが……」
 リゲルが先生でポテトが生徒。普段とは違ったお互いの姿に笑みがこぼれる。
 楽しい思い出が積もっていく。煌めく焔を背にポテトはリゲルの頬に唇を落とした。
「次は私がリードしても良いか?」
「ポテトがダンスのリードか、珍しいな」
 色々な形式で楽しむのも面白い。それに何よりポテトの気持ちを尊重したいのだ。
「姫君のお申し出に感謝を。今宵は貴女色に染まりましょう」
 リゲルとポテトがゆらりと踊れば、オレンジの炎は揺らめいて――

「改めまして。お帰りなさいませ、アレフ様」
 アリシスはアレフに恭しく頭を下げた。
「暫く君の顔を見ていなかったからな、息災かどうかは手紙で知っていたがこうして顔を見るとやはり現実味が沸くよ」
 アレフが暫く留守にすると残し、姿を消してから凡そ二年。
 稀に姿を見かける事はあれどお互いに詮索しないのが『瞳』の決まり。
『旅人』の身ならばローレットという縛りから距離を置き、何かを見出す為に傾倒することもあるだろう。
 何か得るものがあったのだろうかと思案していたアリシスの前に手が差し出された。
「折角の再会だ。一曲踊るとしようか、アリシス」
 焚火を囲んで踊る文化は、馴染みは兎も角知らない訳でもないとアリシスはアレフの瞳を見つめる。
「アレフ様は、さて。お手並み拝見させていただきましょう」
「お手柔らかに頼むよ。まあ、踊る事自体は難しくは無いとの事だし、多少失敗しても良い思い出になるだろう」
 橙焔を囲み、緩く流れる輪に身を乗せて。
 平和そのもののこの練達という国でさえ、何かが起ころうとしているのだろう。
 そんな予感が二人の間に流れる。夜妖か、或いは別の何かか。歯車は動き出す。

「先生の姿の行人君、いつもよりちょっと荒い口調なんだよね。
 潜入の為だからなんだろうけど、なんだかいつもより幼く見えて可愛いな」
 アントワーヌは普段より演技掛かった行人の声色に目を細めた。
「若くみえる、っつーかなあ。外見相応の振る舞いをしてる感じだよ。
 若めの外見で全然揺らぎが無い、ってのは目立つからね」
 それならばとアントワーヌは行人の前に手を差し出す。
「お手をどうぞ、プリンセス。今宵私と踊ってくれますか?」
「プリンセスって。ブレねえなあ……」
 苦笑いしながらアントワーヌの手を取る行人。
 揺らめくは身体か、焔か。音楽に乗せるステップはゆったりと心地良い。
「ふふ、炎に照らされて。君の可愛い顔がよく見える」
「火の揺らめきっていうのは、別の面を照らし出すからな……」
 絡まる指は熱を帯びて。冷たい風は肌の表面を擽るだけ。
「もっと私に君を見せてくれ、プリンセス」
「へぇ……このままの俺じゃ物足りない?」
 愛の囁きに返すは、悪戯な笑みだ。

「さあ――お手をどうぞ、お嬢様」
「よろしくお願いしますね――マルク様?」
 リンディスの手を取って炎彩る輪の中へ進んでいくマルク。
 ダンスはこっそり練習したから文化祭の時よりはエスコート出来るはずだと、マルクは緊張した面持ちでリンディスを誘導していく。
「リードありがとうございます。マルクさんのおかげで踊りやすくて――いつも、頼りになりますね?」
 温かな炎に照らされた校庭。普段とは違う雰囲気。
 傍に感じる温もりに心が跳ねる。本を見ているだけでは知り得ない『体感』という情報。
 特別な時間に胸をいっぱいにさせているリンディスの手が強く引かれた。
「相手を次々変えながら踊るフォークダンスもあるらしいけど
 ……今日は、僕の独り占めでいいんだよね?」
「マルクさんの思いのままに」
 抱き寄せる距離を縮め、指から腕に。彼女の小さな背に腕を回し。
「終わるまで離さないでくださいね?」
「仰せのままに」
 鼓動が聞こえてきそうな距離で、マルクが語り部の少女に囁いた。

「体育祭もあと少し、かぁ……思い返せば、色々あったねぇ」
 キャンプファイヤーのオレンジの光にシルキィの声が重なる。
「先生として学園で過ごして、夜妖と戦って。夜空ちゃんに暁月先生、廻君と出会って」
 大変な事もあった。辛い事件だってあった。楽しい事も沢山あった。
「わたし、ここに来て良かったと思う。きっと、この体育祭も最高の思い出になるよぉ」
 パチリと薪が爆ぜる音が聞こえる。夜風は冷たく肌を浚った。
「……だから、その締めくくりに。廻君、皆で一緒に踊ろっか」
「はい! 一緒に踊りましょう」
 暁月や夜空も一緒に輪になって。流れる音楽に身を任せ、手を離して繋いで。
 深く考える必要は無く。心赴くまま。ただそれだけで楽しいのだ。
「それはきっと、皆が一緒だからだよねぇ」
 だからこそシルキィは願うのだ。『別れ』に涙した彼女は、この時間が貴いものだと知っている。
「シルキィさん?」
 強く握られた手と潤む瞳に廻はシルキィの顔を覗き込む。
「この時間がずっと続けばいいのに……なんて、ねぇ?」
「僕もそう思いますよ。シルキィさんや皆と踊るの楽しいですから」
 儚く紡がれた言葉が炎と共に揺らめいた。

「僕と踊ってくれますか?」
 廻が手を差し出したのはナインだ。
「気取ったことを言いますね。それで何人をたぶらかしてきたんですか?」
 穿つように首を傾げる少女に眉を下げる廻。
「ふふ、冗談です。『私』では踊れませんが、私と踊ろうじゃないですか」
 差し出した手を握り、緩くステップを踏んでいく。
「……まあ、それなりにうまかったんじゃないですかー。ご褒美に『私』の本体を見せてあげます」
 少女の中から出てきたのは小さな狐耳の女の子。
「わっ」
「見ての通り小さいので手を取ってというのは難しかったんですよね。
 驚いてます? 驚いてますよね? ふふーん」
「はい。とてもびっくりしました。ナインさん可愛いです」
「生意気なことを言っていてもまだまだ子供ですねー」
 鎧から廻の頭の上に飛び乗ったナインは得意げに転がった。
「わぁ、火があんなに大きく燃えているわ……!」
 キャンプファイヤーに興味津々なリヴィエラを廻は微笑みながら見つめる。
「近づいてみますか?」
「火の輪くぐりは見たことがあるけれど、たくさんの人と一緒に火を囲むなんて初めてなの」
 けれど踊ることは好きなのだとリヴィエラは語った。
 自分が踊れることを知ったら団長はどんな顔をするだろうか。驚いてくれるだろうか。
「では、お手をどうぞ」
「わぁ、私と踊って下さるの? ふふ、嬉しいわ。どうぞよろしくね!」
 リヴィエラの笑顔に廻も微笑みを返す。
「はぁ……フォークダンスとか踊った事無いんですが……」
 引きこもりの昼顔にとって体育祭とか苦痛といっても過言ではない。しかも誰かを誘ってとか拷問か。
「暁月先生は……色々目立ちそうだし。女の子は……初対面だし拙者には無理無理無理!!」
 首を振った昼顔に手を差し伸べるのは廻だ。
「一緒に踊りますか?」
「は? 神か……!?」
 昼顔と廻は踊り出す。オタ芸しか踊ったことのない昼顔だが、案外フォークダンスというものは踊りやすいらしい。黙っているのも何だし廻に体育祭やこの学園の事について色々聞いてみたいのだと口を開く。
「廻氏は楽しかったの! 体育祭!」
「ふふ。楽しかったですよ。皆と踊れて。昼顔さんは楽しかったですか?」
 廻の問いかけに昼顔は照れた様に頷いた。

「廻さまを……いえ、廻さまとぐるぐる、しましょう」
「あ、メイメイさん。一緒に踊りませんか?」
 差し出された手に頬を染めて指を乗せるメイメイ。
「あの、では、次のお相手を、お願いします、ね」
 故郷の村の踊りと同じようにすれば、上手く踊れるだろうか。メイメイの不安を感じ取った廻は「大丈夫ですよ」と微笑んだ。メイメイがステップを踏みやすいように優しくエスコートする廻。
「体育祭、見ているだけでも、面白かったですし、このように最後まで皆さまと一団となって……。
 とても、温かで、楽しいお祭りですね」
「はい。楽しかったですね」
 名残惜しいとさえ思う。明日からは『普通』の日常に戻ってしまうから。
「わたしたちの、守るべき、明日……」
 一通り踊り終えたメイメイは一礼をして次のアーマデルにバトンタッチする。
「ありがとう、ございました……!」
「折角だからちょっと回転力を高めてみたいと思う、よろしく」
「はい。よろしくお願いします」
 アーマデルはめぐりと共に結構な勢いでぐるぐる回っている。
「ええと……こうか? こう?? なかなか難しいな……」
 フラフラと千鳥足になる廻の手を引いて、今度はゆっくりとアーマデルは踊り出した。
「何処も此処も、生活も常識も違ってても。祭りというと皆ファイヤーするのは何故なんだろうな」
 流石に海の中は無理だろう。だが。
「人類ちょっとキャンプファイヤー好きすぎじゃないか?」
 踊り終えたら屋台制覇だろうか。
「屋台制覇。廻殿も後で挑戦してみるか?」
「良いですね。あ、でもちょ……回しすぎは」
「これぐらいなら大丈夫だろ?」
 元気なアーマデルにぐるぐると振り回される廻。
「……ま、私は眺めるだけなんだがね?」
 マニエラはアーマデル達と踊る廻をニマニマと見つめている。
「こんなに美人に囲まれる少年はなかなか見物だからね? 見学に徹しても飽きないさ」
「はふぅ」
 目を回しながら自分の元へ来た廻にジュースを渡し、くつくつと笑った。
「流石に全てを相手していたら疲れるだろう」
「あ、マニエラさん。ありがとうございます。いやでも楽しいです。マニエラさんも一緒にどうですか?」
「最後に軽く踊って貰えればいいさ。それにしても人気だね。
 ……本当にハーレム者の主人公みたいじゃないか。刺されないように注意だよ全く」
 くすくすと笑ったマニエラは首を傾げた廻の頭をわしわしと撫でつけた。

 アーリアははしゃぐ子供達に笑みを零す。
「台風も過ぎ去って、無事体育祭! なんだか廻くんがモテモテねぇ」
 けれど、あんなにぐるぐると回って目を回さないだろうか。いや、実際の所既に回しているのだが。
「……なぁんて思わない? 暁月先生!」
「まあ、ダンスの誘いを断るなんて出来ないだろうからね。男が廃るというものさ」
 密着して踊るのは欠月に悪いから。
「私とも軽く、一曲踊ってくださらない?」
「ふふ、喜んで」
 ゆらり揺れながら、アーリアは廻達を見遣る。本当に楽しそうに笑顔を浮かべる子供達に此方まで顔が綻んでしまいそう。
「……私もあの子の笑顔を、護ってあげたいって思うわねぇ」
「頼もしいね。君がそう言ってくれるなら」
 ゆるりとアーリアの掌を、暁月の指が滑って。爪の先から離れた。

 アンジェリカは屋台で買ったお酒と焼き鳥を食みながらフォークダンスを眺めていた。
「本当に懐かしいですね」
 学生を終えてから学校行事に参加する機会なんて無かったから。
 見ているだけというのも勿体ないと重い腰をあげるアンジェリカ。
「今は見た目からしてオジサンが躍っているというわけでもないですし、大丈夫な筈。……た、たぶん」
 こほんと咳払い一つ。アンジェリカは踊り終えた廻の前に現れる。
「――廻さん、私とも踊っていただけますか?」
「アンジェリカさんっ! もちろん喜んで!」
 にっこりと笑った廻はアンジェリカの手を取ってオレンジの炎の輪へ近づいた。
「すみませんね、急に。丁度とっかえひっかえ踊っている廻さんが目に入ったので、つい」
「そんなんじゃないですよっ」
「え、言い方がマズイ……ですか? ふふっ、ちょっとしたお茶目というものですよ。許してくださいね」
 照れる廻の頭を背伸びして撫でるアンジェリカ。――なんという可愛さだ!
「はい次会長のばーん! そーれぐるぐるぐるー!!」
 アンジェリカの次に廻の手を取ったのは茄子子だ。
「ふふ。茄子子さんはいつも元気ですね」
「これだけ色んな人と回ればもう踊りも完璧なんじゃないかな!」
 エスコートは任せたと茄子子は廻をぐるぐると振り回す。
「適当に合わせるってのがねぇ、1番難しいんだよ! 分かってくれないかな!」
 言いながら踏むステップは意外と様になっている。
「体育祭楽しかったね! 応援団っぽいこともできたし風紀委員の仕事もできたし!」
 来年もやりたいと声を上げる茄子子に廻は笑顔で頷いた。
「この焚火はキャンプファイヤーというのだったか? ふふ、この周りをみなで踊るのだな。面白い」
 ブレンダが視線を上げれば、廻がぐるぐると回されている。
「廻殿? 私とも踊ってくださいますか?」
「あ、ブレンダさん。来てたんですね。一緒に踊りましょう」
 手を重ね踊り出すブレンダと廻。
「ワルツやタンゴは踊れるがフォークダンスというのは私も初めてだな」
「凄いですね。ワルツとタンゴが踊れるなんて」
 恥ずかしそうに笑う廻にブレンダは首を傾げた。
「ん? 恥ずかしがらなくてもいいぞ。廻殿もっとちゃんと手を握ってくれ」
「わわっ! はい!」
 ぎゅっとブレンダの手を握り踊り出す。

「いや。実際、成り行きというか。何というか。こんな事になるとは思っていなかったのだ。だから怒らないでくれたまえ」
 お祭りのノリとはそういうものだ。怒ってなんか無いと廻は首を振る。
「むしろ、皆と踊れるの楽しくて。愛無さんには感謝してます」
「本当に廻君といると、僕の初めてが増えていくよ」
 こんなに大勢で踊るなんて思ってもみなかった。沢山の人を集めて何かをするのは久しぶりで。昔を思い出すと愛無は言葉を繰る。
「こうして皆で好きなように踊るのも悪くはないさ」
 その場のノリで集まりはしゃげるのは学生の醍醐味。教師陣のお墨付きで無礼講。
「踊るもよい。音楽と酒と気の合う者がいれば、この世は天国さ」
 失った物があった。埋められない空洞がぽっかりと開いていた。
 其処を別の何かで埋めたいだけかもしれない。『ごっこ遊び』を続けたいだけなのかもしれない。
 それでもこの握った手を守りたいと思うのだ。
「愛無さん? どうしました? ちょっと寂しそうな顔をしてます」
「いや……もう一度、僕と踊ってくれるだろうか?」
 否定の言葉なんて返って来るはずもないのに。もう一度だけ信じてみようと思えたのは。きっと――


 校庭の片隅にヴァレーリヤとマリアが小さく座っていた。
「楽しかったですわねー!」
 揺らめく炎を見つめながら声を上げるヴァレーリヤの横顔を追いながらマリアは微笑む。
「うん……。楽しかった……。私の世界ではこういうの無かったからね」
 学校で小さな催しはあったけれど、こんなに大規模なのは初めての体験だ。
「終わってしまって残念だけれど、また次回のお楽しみですわね」
 ヴァレーリヤの言葉は、当たり前の様に来年も開催される未来を示す。
 マリアにとってはそれが、溜らなく平和で尊いものに感じた。
「そっか……。来年も開催されるんだ……。また一緒に参加できると良いね♪」
「勿論ですわ! それにしてもマリィ、足速いのですわねー! 私、見直しましたわっ!」
 ぐいぐいと近づいて来るヴァレーリヤに恥ずかしそうに視線を逸らすマリア。
「そう言われるとなんだか照れる。走るのは特技の一つだからね!」
 二人の間を分かつように校舎の片隅に風が吹いた。
 毛布の端から指を出したヴァレーリヤはマリアの指先に触れる。冷たくなった肌。
「良かったら、一緒に使う? 温かいですわよ」
 自分が羽織っている毛布の裾をそっと持ち上げたヴァレーリヤ。
 マリアは彼女の気遣いに嬉しそうに笑みを零した。
「ふふ! こうして二人一緒にくっついていれば暖かいね♪」
 冷たかった指先も温かくなっていく。
「今ね……幸せだよ……」
 そう呟いたマリアの横顔が満ち足りていて。
「もう少し、こうしていましょうか」
 ヴァレーリヤはそっとマリアに寄り添った――

「お祭り、楽しかったね」
 アイラの言葉にラピスは頷く。二人にとって初めての体育祭。
 何もかもが新鮮に色づき、溢れる熱気の渦に心が躍った。
「君の制服姿はもっと見てみたいかも、なんてね。来年もまたお祭りに参加したいね」
「ふふ、そうだね。来年も一緒に、だね」
 アイラは傍らのラピスの横顔に視線を送る。
「ラピスの世界にも、こういったものはあった? まだ、ラピスのこと、知らないことばかりだから教えてほしい、な」
「そうだなあ。こういう風な……学校でするお祭りみたいなものは無かったと思う」
 だから、新鮮で楽しくてはしゃいでしまったとラピスは微笑んだ。
「……そっかぁ。ラピスって、ほら。お勉強、とくいだったから。ボクは学校なんて、いけなかったし
文字が読めるだけ。なんて、少し恥ずかしくて……」
 ラピスが教えてくれる文字が。知識が。尊くて。嬉しくて。
「僕は、こんな風に沢山の子達がで集まる学校には通ってないんだ。そういうのに通える環境じゃなかったから、ね。あ、でも教育を受けてない訳じゃないからね?
 だから……少し羨ましいし、結構、楽しかった」
 アイラと一緒に学校に通うことができたなら何れだけ幸せだろうか。
 持ち得なかった過去を彷彿とさせるこの平和な学園に。その言葉を乗せる。
「できるよ。できる。だってボクたちは、ずっと一緒なんだから」
 ラピスラズリの天球に、眩く散ったパイライト。ラピスの微笑みは儚く美しい。
 解けて消えてしまいそう……なんて言ったら彼は笑うのだろうか。

 自信が無くて。
 と、喧騒と爆ぜる火の粉から逃げた。半分本当で、半分嘘。
「フォークダンス、知らないんですよね」
 未散はそんなヴィクトールの優しい言葉に縋って逃げてきた。
 パートナーを変えるのがフォークダンスの習わしならば。
 この手から彼が遠ざかってしまうということなのだろう。それが嫌だった。
 其れは親から離れる不安を抱く幼子の心。
 ――そして、多分。最たる理由は独占欲だ。
 少女の葛藤など知らぬヴィクトール。
「抑も、抑もですよ? あなたさまの其の身長に、合わせられる女性が早々居て溜まるものですか」
 希望ヶ浜に似合う格好をしたって身の丈は自販機よりもある。
 キャンプファイヤーの中に紛れるのには、些か無理があるというものだ。
 大抵の人間はヴィクトールを見上げれば首を痛める。
「其の点、ぼくは何時だってあなたさまを見上げていて慣れている――」
「ですからこうやって、静かにチル様と踊るのがお似合いかと思いまして」
「全くもってそうですよ、ぼくが似合いなんです」
 未散だけが知っている。その冷たさ、差し伸べられた緑青の手。
「一緒に踊ってくれませんか」
 微笑むヴィクトールの手に重なるは――

「悪いな、突然連れ出してこの様な場所に連れて来て」
 ベネディクトは誠吾を連れてこの希望ヶ浜に来ていた。
 誠吾は先日初めて人を殺めた。仕方の無い事だった。納得していたはずだった。
 何も変わらず生活していたはずなのに。ベネディクトはそれを気に止めたのだろう。
「少し、昔話に付き合ってくれないか」
 キャンプファイヤーの火を見ながら語り出すベネディクトの声に耳を傾ける誠吾。
「俺がまだ傭兵になり立ての頃の話だ。まだそう簡単に隣人が居なくなると思って居たんだが、争いが激化し始めた。傭兵の心得を教えてくれた人も居なくなって、戦友もまた一人と居なくなっていった」
 紡ぐ言葉に誠吾は眉を寄せる。
『この人は櫛の歯が欠けるように、大事なものを喪ってきた人なのか…』
 平凡に生きてきた自分とはまるで違う人生。
「俺が彼らに教わったのは、誠吾──感情を止めるなという事だ。考える事を止めるなと」
 日常生活は問題無く送れるし、客人への笑顔も変わらぬはず。思考も感情も無くなったわけではない。
 けれど、何も考えられないのだ。そう吐露する誠吾の肩を抱き寄せるベネディクト。
「よく、決断して生き残ってくれた──正しさや間違い何てどうでも良い。俺は、誠吾が生きる事を選んでくれて、本当に良かった」
「そう、だな。俺も生き残れて……良かったんだと思う」
 肩に回された温もりに。人の体温に安堵する事を誠吾は初めて知った。

 屋台はランプに照らされ、美味しそうな匂いが立籠める。
「へい、そこの綺麗なお嬢さん。私とお茶しませんかー?」
 肩を叩かれたアルエットが振り返れば其処には四音がいつもの微笑みを浮かべていた。
「四音さん! 何だか久しぶりなの」
「なんとアルエットさんでしたか、今日もとても美しいですよ」
 一歩前に出た四音はアルエットの耳元で囁く。色づく頬に吐息を寄せて。
「ふふふ、照れている顔も可愛らしいですね。素敵」
 デートの誘いは指先に。重ねた手を握りしめた。
「ええ、良いお店知っているんですよ。ここら辺は私の庭のようなものです」
 まあ、特に知らないので適当に見て回ろうと四音は笑顔の奥で思った。
 繋がれた手は温かい。他者との境界が無ければ感じえないものだ。
「ふふ」
「何か面白いものでもあったの?」
「いえ……まるで人間みたいだなと思いまして」
「う?」
 こてりと小首を傾げたアルエットの頭を撫でて四音は微笑みだけを返した。
 皆が踊る光景を眺めるブレンダ。
「今日も色々あった一日だが無事に終わってよかった」
 文化祭の時も思ったけれど、こういった催しは楽しいと顔を綻ばせる。
「さて、楽しかった祭りもこれで終わり。明日からはいつもの日常だ」
 だから。僅かばかりの時間に酔いしれる。

「楽しい思い出は、しっかりaPhone10で撮影しておきましょ」
 アーリアの声に廻や暁月、他の仲間も集まってくる。
 教師であるアーリア達は此処に残るけれど、生徒達は卒業してしまう。
「だから。いつかこの時を『こんなことがあったね』って思い出せるように!」
 クローム・オレンジの炎揺らめき。平穏な日常に思い出が、また一つ刻まれていく――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 体育祭楽しい思い出が刻まれていれば幸いです。

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