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シナリオ詳細

空へ溶けゆく言の葉が

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●しちがつなのかのやくそくは
「……天の川によって隔たれた恋人たちの話を知ってる?」
『無口な雄弁』リリコ(p3n000096)はあなたへそう言った。
「……あれには諸説あって、豊穣のとある村では、天と地に分かれた姉妹のお話になってる」
 かつて天地開闢前、大地の姉と天の妹は常に傍らへ寄り添いあっていた。けれども、神々はタカマガハラなる会議で天と地を分け、クニを作り、ヒトを住まわせんと定めた。
 七月七日、別れの日、離れたくないと訴える妹と、姉は小指を絡めて約束したという。年に一度必ず文を送るから、と。そしてその場で短冊へ和歌をしたため、愛する妹へ贈ったという。以来妹は、乾いた風や強い日差しを受ける姉を癒し潤すために雨を降らせるようになったそうな。
 それが転じて、その村では天の妹へ五穀豊穣を願う祭りになり、しだいに個人的な願い事をもするようになっていったらしい。
「……という七夕伝説……短冊というものに願いを書くと、それを読んだ天の妹がかなえてくれるらしい」
 願いと言うものは、人事を尽くして天命を待つものではあるけれど。などとリリコは難し気な言葉を使う。大きなリボンがぴょこぴょこ揺れた。
「……だけどたまには肩の力を抜いて七夕に興じるのもいいのではないかしら」

●豊穣のとある村にて
 例年通り夜になるときれいに晴れ上がった。
 見上げるとため息が出そうな見事な銀河。青みがかったビロードのような夜空は澄んだ空気でさらに美しさを増している。
 村の広場には提灯を持った人々が集まり今年も天の妹は上機嫌だと噂しあう。
 あとは大地の姉から文を送る儀式を行うのみ。

 願いを書いた短冊を、笹の小枝にくくりつけ、箒でするように地面を撫で払い、最期に天の川へ向かって放り上げる。それがこの村の七夕だ。

 子どもたちがきゃあきゃあ笑いながら笹を天へ投げた。すると、ふわり、笹は真白い精霊へ変わり銀河へ向かい泳いでいく。母らしき女が笹を投げる。子どもの成長でも祈ったのだろうか。柔らかな桃色の精霊が天へ昇っていく。
 あっちでもこっちでも、さまざまな色の言の葉の精霊が天の川を恋うように空へ上がっていく。

GMコメント

みどりです。豊穣の小さな村で独自の七夕祭りが行われます。
遊びに行ってあげてください。
リリコも現地調査と称して行くようです。今回、他の孤児院の子はいません。

●書式
一行目:同行タグ または空白
二行目:行先タグ
三行目:プレ本文

●行先タグ
【祭】
短冊へ願掛けをして空へ放ちます。叶えたい願いでも、誰にも言えない秘密でも、空へ飛ばしましょう。たくさんの言の葉の精霊が昇っていく景色を目当てに観光客も訪れるようです。あなたの願いは、何色になるのでしょうか。
【店】
お祭りにお店を出します。祭り用の七夕飾りや笹の葉を売っているお店がほとんどです。食べ物屋さんは特に喜ばれるでしょう。
【警】
お祭りの警備をします。あたりは提灯の灯りだけで薄暗いです。定番のスリや絡み酒のおじさんが出るかもしれません。

  • 空へ溶けゆく言の葉が完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年07月18日 22時05分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)
悲劇愛好家
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
ヘーゼル・ナッツ・チョコレート(p3p008080)
指し手
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
カイロ・コールド(p3p008306)
闇と土蛇
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
八寒 嗢鉢羅(p3p008747)
笑う青鬼

リプレイ

「わぁっ、あんな風に空に向かって昇っていくんだ! あの一つ一つにお願いが込められてるんだよね、なんだか素敵な景色だなぁ」
 素朴な願いを表した色の数々。祈りが精霊へ色を付けるのだという。さっそく焔も挑戦してみた。
 お願いはやっぱり「元の世界に戻れますように」……。
 そこまで書いて焔はその短冊をくしゃりと丸めた。新しい短冊を手に取る。
「うん、やっぱり別の事にしようっと。『これからも皆と一緒にいろいろな楽しいことがいっぱい出来ますように』、どうだ!」
 天へ投げ上げた笹は焔の髪のような深紅に染まった。
(元の世界に帰らなきゃいけないのはわかってる。でもちょっとくらい、いいよね、お父様お母様)

 鹿ノ子はほっとしていた。神威神楽では双子は不吉なもの。もし自分たちが神威神楽に生まれていたと思うと……。
「でもそんなことなくてよかったッス!」
 気持ちを切り替え、願いごとを笹へ託す。
「ご 主 人 が 見 つ か り ま す よ う に !」
 太く大きな字で短冊いっぱいに書いた。屋敷を出た後一目会っただけのカミツレ。手掛かりはいまだにゼロ。もしかしたら豊穣に来ているかもしれないなんて思ったけれど、当てが外れた。
「でも諦めないッス! 僕は絶対にご主人を連れて帰るッス! だからおほしさま! ちょっとだけ僕に幸運を分けてくださいッス!」
 空へ投げた笹は主人を思わせる深い黒に変わった。

 祭り囃子が聞こえる。こういうときニンゲンは立ち止って耳を澄ますものだ。だから愛無はそうした。警備の合間の息抜きという奴だ、これもニンゲンらしい行いか。
 その時、向かいから来た男が愛無へぶつかった。
「あぶねえな」
 吐き捨てて去っていく。愛無はポケットへ手をやり、そこに入れておいたダミー財布が抜き取られていることに気づいた。十中八九今の男で間違いないだろう。匂いを頼りに歩き回れば、男はすぐに見つかった。その腕をひねり上げ、愛無は無表情に語りかけた。
「僕だ。要件はわかっているな?」
「……チッ、こんな子どもに見抜かれるなんざ、潮時かもしれねえな」
 男は盗んだ財布をすべて愛無へ渡し、村から出て行った。

「せっかくの祭りを餌場にしてはいけませんよ」
「なんだてめ……本当になんだてめぇ」
 ガラの悪い男が目を点にしている。ボディはディスプレイにスマイルを表示した。
「ウォーカー、貴方達の言葉でいう神人です」
 本当にいたのかと、男は恐れ入った様子だった。これならもう馬鹿な真似はしないだろう。ボディは引き続き警備を開始した。モニタから発光し感情探知でチェックして回る。そのうち、人気の屋台を襲おうと考えるチンピラどもと当たった。
「ここは自らが掛けた願いに想いを馳せる場です。貴方達は相応しくありませんので、お引き取りを」
 ボディは手際よくチンピラどもを気絶させていく。逃げても無駄だ。速さには自信があるのだ。

「お兄さん、燻製肉おひとつどうですか~」
 物腰柔らかくカイロは通りすがりの男の袖を引く。男が断る前にカイロは一気にまくしたてた。
「こちらは特別な製法で作り上げた、独特の風味を持つ燻製肉でございます。保存期間も長めですので、遠出をする際にもオススメですよ~。そしてなんと! 今回はお祭りなので特別キャンペーン中です!」
「お、おお……?」
「お一人様につき一回まで、燻製肉5枚をお買い上げになると1枚無料で付いてきます! これはもう買うしかありませんねぇ!」
「そんなら、買おうか」
「商談成立ですね! あ、そこのお姉さん、試食してみませんか?」
 本気を出したカイロに敵はない。売物はどんどんさばけていく。

 錬は夜空を見上げた。いくつもの精霊が昇っていくのが見える。あのうちいくつが自分以外の誰かを思ってのものなのだろうか。
 錬がイレギュラーズとして召喚されてから、早二か月強。その間に分かったことがある。
『――の武具が手に入れば』
『――のインゴットが手に入ったんだ』
 イレギュラーズの間で頻繁に取りざたされるその名。この混沌における職人の頂点。まるで奇跡のような品々。今はまだその差は歴然としているが、胸を焼く嫉妬を希望と祈りに変えて。
 いずれは――。
「星に願うようなことではないかもしれんがな」
 いずれは、追いついて見せる『スターテクノクラート』。
 思いを笹に括り付け、飛ばす。青い夢はふわりと空へ。

(お祭りか……多くの人が集まる分、厄介事もよく起きそうだ)
 シューヴェルトは警備を名乗り出た。貴族騎士を名乗る通りシューベルトは悪人にとっては苦手なタイプ。その彼が警備にあたってくれるのだから、店側としても大歓迎。シューヴェルトが立ち寄るつど話しかけられる。ついでに聞き込みもしていると、妙な噂に出くわした。
「そういえば屋台を狙う奴らがいるらしい」
「詳しく聞かせてくれないか」
 平和な村にそんなやつらがいるとは思えない。おそらく観光客に紛れて入り込んだよそ者だ。あたりをつけて足を速める。
 すると、ずいぶん繁盛している店があった。いい香りが立ち上っていて、思わずシューヴェルトはよだれをハンカチでぬぐった。
「はじめまして、ゴリョウ。お噂はかねがね。今日はなんの店だい?」
「ぶはははっ! 堅苦しいのは抜きだ。今夜は笹かまを売ってるぜ。さぁ一本どうだ!」
「ありがたくいただこう」
「ついでにそこのハロルドにも持って行ってやってくれや。俺は見ての通り忙しくて動けねえ!」
「了承した」
 割りばしに刺した笹かまなる食べ物は初めてだが、見るからにおいしそうだ。ゴリョウいわく、豊穣ではなじみ深い味で子供にも食べやすく腹も膨れるらしい。ハロルドとは誰だろうと思っていたらすぐに見つかった。剣呑な顔つきで仁王立ちしている男だ。しっかり「警備」と書いた腕章をしている。
 笹かまといっしょに例の噂話を渡すと、ハロルドはにたりと笑った。
「何も起きなくて少々退屈だと思っていたところだ。相手の規模がわからんが、俺たちの力を合わせて未遂に終わらせてやろうぜ」
「その話、一枚かませてもらってかまわんか?」
 振り向くとそこには誰もいない……わけではなかった。お洒落な服の人形を抱いた、黒装束の男、鬼灯が立っていた。
「失礼ながら立ち聞きさせてもらったでござる。拙者も助太刀させてもらおう」
 笹かまはむはむしながら咲耶まで現れた。
「このへんでいちばん稼いでいる屋台といえばゴリョウの店だ。狙われる確率は高い」
「一宿一飯ってほどじゃねぇけどヨ。笹かまの礼くらいはしなきゃナ」
 赤羽・大地も首を突っ込んできた。赤羽みたく、みんな暴れたりないのかと大地は思ったが口には出さなかった。
 一同は簡単に打ち合わせてゴリョウの店付近に潜んだ。鬼灯と咲耶は闇に溶け、赤羽・大地とシューヴェルトは観光客のそぶりで。ハロルドは店の隣で眼光鋭く仁王立ちを続けている。
「正面はハロルド殿が守ってくれる。ならば賊は背後から押し入るだろう」
「守りの薄い所を攻めるのは基本でござるしな。それに後ろ暗いところのある人間は明るいところを歩かないものでござるよ。あんな風に!」
 タン、咲耶が地を蹴った。そのまま吸い込まれるように飛び蹴りが入る。ぎゃっと叫んでぶっ倒れた男は無視し、着地と同時に体をひねり二人目に峰打ち。
「……この良き雰囲気を壊す無粋な者には少し大人しくして頂くといたそうか」
「まったくだ。この素晴らしい舞台に賊など居てたまるかよ」
『悪い子ね!』
 ちくしょう、見つかったぞ、逃げろ! 叫ぶ声がする方角へ鬼灯は地から湧くように移動してのけた。両手を指揮者のように振り、賊へ魔糸を絡めつかせる。
「糸が食い込んで痛むか? それが貴殿にふさわしい終幕だ」
『さ、ゴメンなさいしてもう二度とこんなことはしないと約束するのだわ!』
「くそっ、誰がそんなこと言うか! こちとらこれで食ってるんだよ!」
「それが遺言でいいか?」
 駆け付けた大地が威嚇術を放った。もろにくらった賊が白目をむいて倒れる。
「今日は人も精霊も、安らぐ」
「身勝手にそれを乱す奴ハ、許さねェ」
「ええ、君たちを放っておいたなら、ゴリョウだけでなく他の店にも累が及ぶ。僕にはそれが『視える』」
 シューヴェルトが飛び込み、桜花を振り回す。殺すための剣ではない、活かすための剣だ。次々と気絶させられていく賊。わずかに残った賊が左右を見回し、イレギュラーズに取り囲まれていると今更ながらに気づく。
「俺の目の前で犯罪行為に走るたぁ、ブチのめしてほしいようだな!」
 走りこんだハロルドが一閃、聖剣リーゼロッテを奔らせる。抜き身ではなく鞘のまま、そいつで賊の頭を張り飛ばした。
「おう、おまえらおつかれさん! お礼に笹かま食い放題だ、ぶははははっ!」
 お茶に団子まで出されて、彼らはゴリョウにたっぷりと労われた。

「うわリンゴ飴っていうかリンゴじゃん! 豪快!」
「ちょっとウィズィ、貴方も食べて。これ、一人じゃ無理だわ」
 名前に間違いはないけど、リンゴに飴の糖衣をかぶせただけだ。イーリンの小さな口には余る。
 おそろいの浴衣を着たウィズィニャラァムとイーリンは、初めてのリンゴ飴に挑戦。離れないように手をつなぎ、同じ歩幅で歩く。見た目は観光客。これで凄腕のイレギュラーズで、恋人同士。常時周囲を警戒しているだなんてスリにはわかりっこない。忍び寄ったはいいものの、イーリンの式神のワイヤーで足を取られる。イーリンは振り返った。紫苑の魔眼が光る。スリはくたくたと崩折れ、その場へ座り込んだ。イーリンへわたあめを渡したウィズィが手早くスリを縄につける。
「ふふ、一丁上がりっと。おっ、今度はあっちで何事かが」
 人助けセンサーが感知する方へ急げば、そこには給仕の女性に絡む酔っぱらいの姿。ウィズィニャラァムは走り込んだその勢いを乗せて手加減したラリアット、しつこく女の尻を触ろうとしている酔っぱらいの手をひねり上げた。
「はーいはい、酒は飲んでも飲まれるなーっと」
 ほうほうのていで逃げ出した酔っぱらいに手をひらひらと振り、ふと恋人を振り返れば両手に綿あめとリンゴ飴、幼い少女のよう。ついくすっときたウィズィニャラァムは、イーリンの一言に引きつった。
「こうなるとアトラクションよね、ゴミ掃除も」
「いや、ゴミ掃除て……」

「大地の姉と天の妹の伝説かぁ……。私と弟が同じ立場でも、同じことをするだろうな。あの子、ああ見えて寂しがりやで泣き虫だからね」
「そうなんだ。泣き虫かあ。からかうネタになりそうというのは置いておいて、寂しがり屋というのはなんとなくわかるよ。毎日にでも手紙を送っちゃうそうだね」
「うん、やっちゃいそう」
 ころころとノースポールが笑う。その笑みが弟との仲の良さを感じさせて、ルチアーノの胸も暖かくなる。
「それじゃ、短冊に願い事を書こうか」
「うん!」
 ノースポールは楽しげに筆を運ばせる。死に別れた家族と再会でき、守りたい大切な人が増えた。だから。
『私の大切な人達が、ずっと幸せに過ごせますように』
「できたっと」
「優しくていい願い事だね」
「他人事みたいに言わないでよ。ルークも入ってるんだよ、これ。1番大切で、1番大好きな人だもん」
 不意打ちを食らったルチアーノは言葉に窮した。頬が熱い。
「ねえ、ルークはなんてお願いしたの?」
 ルチアーノはうすく笑いながら自分の短冊を見せた。
『ポーと弟が幸せでいられますように』
「ルークが入ってないよ?」
「いいんだ。僕は二人のことが何より大切だからね。離れ離れで、辛かっただろう。でもこれからは、幸せを掴んでいけるはずだよ」
「ルーク……ありがとう」
 ふたりは同時に笹を空へ投げた。澄んだ願いは白藍色に変わりふたつの願いは空へ泳いでいった。

「…絶望の青……いや今は、静寂の青だったか……その先にこんな風流な景色があるなんて…。」
 空へ登っていく言の葉の精霊。それはヨタカの目を奪うに十分だった。
「足元に気をつけるんだよ、小鳥。あまり上ばかり向いていると転んでしまうからね」
 もっともそんなことになったら、抱きとめるだろうけれど。武器商人は番のヨタカと、リリコに挟まれ、手をつないで歩いていた。
「それにしてもリリコ、おまえもこんな遠くまで調査に来たのかぃ? この地は独特の文化が根付いてる様だからきっとおまえの目には真新しく映ろうね」
「……うん、やっぱり現地にこないとわからないことがたくさんある。……小鳥と私の銀の月も願掛けをするの?」
「…もちろんそのつもりだ…。」
 しかし武器商人ははてと顎へ手をやった。
「我(アタシ)はどちらかというと願いを叶える側で、なにか必要なことがあれば、大抵は自分で叶えてしまえるわけで」
 空白の短冊をつまんだまま悩んでいる武器商人に対し、ヨタカは心を込めて願いを書く。
『紫月とこれからも…仲良し夫婦でいられますように…。』
『可愛い小鳥が我に飽きませんように』
 想うのは互いのこと。短冊を見せ合い、にへらと笑う。くすぐったくて、でもうれしい、そんな笑み。空へ飛ばした精霊は、銀色がかった紫に変わり、絡み合いながら天へ。
「リリコは何を願ったんだい?」
「……ないしょ」
『優しい二人がすべてから祝福されますように』

「リリコはお誘いありがとう。可愛い情報屋さんは優秀だな」
「ああ、また一つ新しい世界を見ることが出来て嬉しいよ」
「……どういたしまして」
 リリコは片足を引いてお辞儀をした。大きなリボンが嬉しそうに揺れている。
「それにしても流石豊穣、願い事を天まで精霊たちが届けてくれるなんて凄いな」
「そうだな……」
「リゲル。なんだか沈んでいるようだが」
「いや、7月と云えば……」
 それだけでポテトにはわかってしまった。誕生日にリゲルをかばって死んだ父。
「祭りなのに落ち込んでるのは良くないな。ポテトも隣りにいてくれるのだし、俺の願いはほとんど叶っているよ」
「リゲル……願掛けをしようか。未来の二人のために」
「ああ、わかった」
 リゲルは短冊を正面に、真剣に悩んだ。魔種となれど志を貫き通した父。今度はその志を、意思を、俺が引き継ごう。
『父上のような立派な騎士になれますように』
 墨痕鋭く書きつける。強い意志を込めて。
「ポテトは?」
「私はこうだ」
『これからもリゲルと一緒に幸せに過ごせますように』
「リゲルとは、支え合って肩を並べて一緒に歩いていきたいんだ」
「ポテト……」
 それからの笹飾りは楽しい作業だった。ふたりで一本の笹に短冊を付け、飾りを絡ませていく。大きく豪奢になった笹をふたりで空へ投げ上げる。
「……綺麗な青い精霊だな。リゲルの目を同じ色、私の大好きな色だ」
 目元にキスされ、リゲルもキスを唇へ返した。

「嗚呼、哀しい……。空を泳ぐ精霊、舞い上がる彼らのうちのどれ程が成就するというのでしょう」
「はあ? 悲劇の星空だと、相変わらず趣味が悪いな悲劇野郎。失敗よりも成功を語れ。俺の願いが叶うか、叶わないか……そんなの、どちらでもない。俺自身が俺の努力で叶える!」
「うわ、暑苦しい。スポ根漫画じゃあるまいし、泥臭いにもほどがあります……はあ、私は妻に新大陸の偵察を言いつけられただけなのに馬の骨に出会うなんて」
「それはこっちのセリフだ悲劇野郎。いいんだ。今夜は決意表明のために来たんだ。身内の不始末は身内がつける。魔種へと堕ちてしまった兄上をこの手で倒す!」
 ……心が揺らいでしまわないように。どんなに熱い目標を持っていても、その炎が風にさらわれそうになる瞬間はある。そのためにこういった祭りがあるのだろう。そう冥夜は考えていた。そんな冥夜は、クロサイトにとって眩しかった。自分の立場を理由に立ち止まっていた彼にとって、冥夜の強さは光にも等しい。憎まれ口も叩きたくなるというものだ。
『兄打倒!』
 シンプルに書かれた短冊を付けた笹は、その意志を表すかのように瑠璃紺の精霊に変じた。傍らではクロサイトも砂色の精霊を放っている。
「お前は何を願ったんだ? やはり妻の幸福か? まさか”この空に放たれた願いが叶いませんように”などではないだろうな」
「言えませんね」
 言えるわけがない。その願いが叶うように、なんて。

「すっごーい!」
 花丸は美しい景色に心から感嘆した。
「あっちからもこっちからも色とりどりの精霊が昇っていくね、どんな願い事から生まれたのかな?」
「そうねえ、でもきっとどれもピュアな願い事だわ」
 アーリアが答える。
「マルクくんと花丸ちゃんなんて『まるまるコンビ』と出会えたのもなにかのご縁ね。楽しくお話しながら過ごしましょ~」
「『まるまるコンビ』だなんて、何だか照れくさいね3人揃ってアーリアさんwithまるまる、だ」
 マルクが苦笑交じりに返事する。
 七夕。静寂の海を渡り、早速カムイグラの祭りを体験できるとは運がいい。しっかり楽しんで回るつもりだ。マルクは夜空を見上げた。
「あの帯状の星の群れを、川に見立てて『天の川』って呼んでいるんだね」
「うん、そして、あそこに天の妹がいるって話らしいよ!」
「きれいねえ、きっと星がキラキラするすてきなお城に住んでるんだわあ」
 七夕の夜以外は、天の妹は大地の姉のために雨を降らせる……その雨のように、アーリアも自分の妹と向き合いたかった。ベッドで眠ったままの子。願いは『あの子が目覚めますように』。狂気に飲まれるくらいなら、と、アーリアはその生命を終わらせようとした。けれど生を望んで眠ったまま戦い続けていると知った瞬間、滂沱の涙が溢れた。
 短冊片手にしんみりしているアーリアを、まるまるコンビが心配そうにのぞきこんだ。
「アーリアさん、願掛けしたの?」
「うん、私の願いは秘密! でもふたりの願いは知りたーい」
「花丸ちゃんはね『美味しいご飯が食べたいっ!』。ふっふっふ! この後屋台を巡る予定だし、早速お願い事が叶っちゃうかな?」
「僕の願いは……『誰かの願いに、寄り添えますように。その願いを叶える力になれますように』」
「真面目ねえ、マルクくん」
「ローレットに来てから、僕は色んな出会いに恵まれて、色んな人に助けてもらってきたから。だから、少しでも何か返したいんだ」
 そう言うと丸くは笹を投げ上げた。若菜色の精霊が生まれる。続けて、花丸。空へは薄紅色の精霊が。最後にアーリア、藤紫が空に浮かぶ。
「アレがご飯の精霊か、じゃあさっそくゴリョウさんの笹かま食べに行こう!」

 未散はそっとヴィクトールへ自分の短冊を見せた。
『あなたさまの心が健やかであります様に』
 彼は困ったように微笑んだ。
「大層な願いをどうやら頂いてしまったみたいで……」
「大仰な、願いでしょうか」
「ボクの願いを見せるのが恥ずかしくなってしまうのですよ」
「我ながら、余計なお世話だと思います。けれどせめて、アンバランスな慈しみで身を焦がすぼくの隣のお人の平穏を、安寧を願いたかったんです。本当に、余計なお世話なんですけど」
 ヴィクトールは軽く首を振り、自分の短冊を見せた。
『安寧』。願いは重なっていたのだ。
「たぶてにも投げ越しつべき天の川……ときっと姉妹も思ったのでしょう」
 だからこそ、この願い、天へ届けたい。二人は同じ笹へ短冊をくくりつけた。作法通り地を擦り、思いは天へ。嗚呼、嗚呼、溶けゆく思いは遥けき星のぎんのいろ。望みはただおだやかたれ、と。
 精霊を見送り、未散はヴィクトールへ手を差し伸べた。
「帰りましょうか。夜更け過ぎにはきっと、数多の願いを受け入れた『妹』の優しい祈りの涙が降り注ぐでしょうから。それに、宿に竹酒の準備をして頂いておりまして、何でも仄かに竹が香るとか」
 ヴィクトールは嬉しげに相好を崩した。
「――竹酒ですか。笹の団子と一緒に召しましょうか。どちらもきっとよい香りのことでしょう」
「勿論ぼくもご相伴に預からせて頂きますとも!」
「お願いできますか、夜はまだ、終わりませんし、ね」

 夜空を振り仰いだヘーゼルは皮肉な笑みを浮かべた。
「遊び呆けた挙げ句、離れ離れにされた何処ぞの星たちとは違って、此処で謳われる物語の姉妹のひどく勤勉な事よ。娘さんもね」
「え?」
 せっせと短冊に願い事を書いていたアッシュは、不思議そうにヘーゼルを見上げた。その短冊には『無病息災』とある。
「勝手に覗かないでください」
「はは、誰に当てての願いだい?」
「おじいさんとおばあさん、そしてヘーゼルさんが、健康に過ごせますようにと思いまして?」
「そいつは嬉しいが、もしも煙草と酒を取り上げられたら死んでしまうよ」
「むう……」
 何やらからかわれた心地。
「……そういうヘーゼルさんは何と?」
 アッシュの前にぴらりと短冊が垂れ下がる。『キスがしたい』。
「な、なんて俗物的な……。これは本来もっと誰かを思いやるような……」
 言葉は途中で塞がれた。止まる吐息、跳ねる心臓、縫い留められたは心か体か。香る、慣れた煙草の匂い。苦味をおびた舌先。
「……――ほら。ね? もう、天は叶えてくださった。良いじゃないか。どこかの知らない誰かを一年見守るより、すぐに叶えられる願いで、うんと、良い」
「……やっぱり別の願いにします。『ヘーゼルさんが煙草をやめられますように』です」
「なんだい、一丁前に娘さんも生意気言うようになってきたじゃないか。でも、苦いのは嫌いかい?」
 絡まり合うのは精霊ではなく。
「……本当は好きな癖に」

「おーら鬼の夜回りだぜぇー、悪い奴ァいねぇーかー」
 青い肌の鬼人種、嗢鉢羅が声を上げる。手にした提灯を掲げ、謡うように言い聞かせる。存外にいい声だ。
「酒は飲んでも飲まれるなー、どさくさにスリでも働いちゃいねぇーかーっと」
 周りの気を引きながら、嗢鉢羅は暗がりへも歩いていく。万が一のことを考えてだ。幸い、とんでもないことは起きてないようで、嗢鉢羅は安心した。
(それにしても天の川が綺麗だねェ。ここの村じゃあ、天地に分かれた姉妹の話だったか? これだけ晴れてりゃ問題なく願いも上がるだろうよ)
 嗢鉢羅は大きく手を広げ、願いの昇っていく空を見上げた。
「おーい、天の妹さんやーい、見えてるかーっと!」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

いかがでしたか。
皆さんの願いは、天の妹がきっと叶えてくれるでしょう。
またのご利用をお待ちしております。

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