PandoraPartyProject

シナリオ詳細

高天京の技能祭り

完了

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オープニング

●任せられぬ義侠
「面白くない」
 高天京の歓楽街にて鬼人種の博徒がそのように一言漏らした。
 何が面白くないのだ。それを問う者は誰一人居なかった。その場に居る者は、少なからず思う所があるからだ。
 此処に集まっている鬼人種の男達は揃いも揃ってはみ出し者、いってしまえば御上から疎まれる無法者の類である。しかし全く分別の無い輩というわけでもない。田舎の村々が妖魔に襲われれば一目散に傭兵や自警団の真似事をしたり、人殺しも厭わぬ悪辣な賊人を御上に突き出したりする。
 もちろん、相応の金は貰う。たまに支払えないという輩もいるが、だからといって彼らは殺したり盗んだりするという性分でもない。払える時に払ってもらって、そのほとんどを酒や女に気前良く費やしてしまう。
 そういう金払いのよさも併せてか、無法者だが義理人情を重んじるこの『火踏組』という博徒集団は民衆にとって人気があった。
 話を戻そう。何故、この男達が内心で面白くないと思っているかといえば。
「いれぎゅらあずの事か」
 親分格の大男が、一献飲み下したのちに敢えてそう口にする。面白くないと漏らしていた男はバツが悪そうに「へい」と頷く。
 そのイレギュラーズがこの高天京に来てからというもの、人々を助ける事に尽力しているらしい。祭事の手伝いや此岸ノ辺の穢れ祓いから始まり、妖怪退治やならずものを成敗のといった仕事を請け負う。その評判はこの組の耳にも届くところである。「その仕事ぶりたるや、火踏組以上」とも……。
「好い事ではないか」
 大男はその髭面に似合わない柔和な微笑みをフッと浮かべた。若衆は血相を変えて「何が好いものか!」と勢い良く立ち上がるが、大男は笑んだまま次の言葉で若衆を押し黙らせる。
「好い事だが――面白くない」
 血相を変えていた若衆が気迫に圧され小さく呻き、すぐにその場で正座した。悔しそうな顔をしていたが、その点はこの場において大男以外誰も似たようなものだ。
 しかし大男はその様子を見回してから、「ぷっ」と噴き出してたまらず破顔一笑。大の男達がこんなにも悔しそうにするのは珍事だったのか、大笑いしながら膝を叩いていた。
「ヒフミの旦那……」
 年を取った博徒の一人が親分風の大男……一二三(ヒフミ)に対して情けない顔をこれでもかと見せつける。
「そう女々しい顔をするな。俺とてあやつらの事は気に入らぬ部分もある」
「では!」
 何人かの博徒が傍らにある刀を手に取った。
「馬鹿者が。相手から仕掛けてもいないのにそのような真似はせぬ。お主ら、ひとまず俺の考えを聞け」
 ヒフミはしたり顔で彼らに計画を述べ始めた……。

●あちらを立てれば、そちらが立たぬ
「歓楽街で行われる祭りへの参加、ですか?」
「さよう」
 歓楽街の取り締まりを担当する役人が、ローレットギルド全体に対して祭りへの参加を依頼してきた。
 確かに高天京に限らず、各国の祭りの手伝いなどもローレットに依頼される事はあるが。開催側から直々に金銭を伴って依頼されるというのは少々珍しい。
 『若き情報屋』柳田 龍之介(p3n000020)は訝しげに依頼者の役人を見つめる。
「……何も枯れ木の“桜”を頼もうというわけではございません」
 役人は表情を変えず祭りの内容を説明する。
 その祭りの参加者から選りすぐられた者達が観客を目の前に特技――絵画の早書きや楽器の実演奏などの技能、梯子乗りや火渡りなど軽業の類、流鏑馬や剣舞などの武芸。それらの卓越した技術を披露して観客に楽しんでもったり、優れた才能を持つ者に金一封を与えようという祭りという事だ。
「無論、警備の手伝いという体で観客側に回っても構いません。その場合でも他の傭兵と同じく報酬を与えます」
 単なる祭りだというのにえらく手厚い役回り。龍之介は不安が取れずにくしゃっと顔歪める。続けられる説明によって、その不安が見事に的中した。
「大変なのはここからです。この歓楽街には無法者――まぁ、『ヤクザモノ』といえば伝わり易いでしょうか。そのような集団が半ば街を仕切っているような状態なのです」
 その無法者集団は『火踏組』、一二三たる髭面の大男が纏める博徒達であるという。当然、いかにも喧噪が好きその輩達はこの祭りにも出張ってくる。役人の権限で「ご参加をお断りする」という選択肢もあるにはあるのだが、皮肉な事に民衆から一定の人気がある彼らがその様な無体を受ければ、市民からの不満が噴出する。
「奴らは表立って盗みや人殺しをするわけではありませんが、場代を払わず無許可で露店を開く程度なら平気でやらかします。そのような輩は見つけ次第、“ローレットギルドの名において”取り締まって下されば……」
 ……この役人の言いたい事が分かった気がする。
 まぁ、祭りの賞金を受け取るついでに警備を担当する程度なら構わないだろう。
 そのように計画を立てていたイレギュラーズに対して、忠告するように役人が口を開く。
「祭りの最後に予定されている武芸の大種目。多人数が入り乱れる模擬合戦――まぁ、有り体にいえば手加減無用の喧嘩ごっこが行われます。基本的にどちらかが『参った!』と降参すればそこで終いなのですが……」
 場に不穏な空気が漂った。手が滑って必要以上の怪我を負わせる、あるいは命を取ってしまう事も起こり得るという事か。
 やる事がやる事なので一人や二人は重傷人が出るのは珍しくもないが、火踏組の機嫌を大きく損なってしまえば率先して喧嘩を売られるかもしれない。
 いや、火踏組側はむしろ「初めからそういう事をしでかす予定」なのだろうか……。

 役人が契約書にサインをしている合間、龍之介はイレギュラーズを「ちょん、ちょん」と人差し指で突いた。
「……市民へ祭りの宣伝や売り込みする事も必要かと思います。もしよろしければ、その、火踏組という人達にも『ご挨拶』をしてみるのも手段の一つかと……」
 おそるおそるといった表情で提案をする龍之介。それを口の上手い者が役人に進言して、祭りが行われる歓楽街の下見も兼ねた宣伝業もイレギュラーズに任される事になった。

GMコメント

●依頼内容
・祭りに何かしらの方法で参加して、その祭りを盛り上げる事。
・役人あるいは市民からの評価が「×」(最悪)にならない事。下記参照。

●1章の内容について
 祭りが行われる予定の歓楽街へ向かい、その下見や宣伝。あるいは『火踏組』の構成員に何かしらの工作あるいは親善を仕掛けます。
 イレギュラーズそれぞれの行動によって役人、市民、火踏組からの印象が左右されます。
 印象がどうすれば上下するのかについては各々の立場を読み取れれば分かるかもしれません。
 なお現状の印象は龍之介曰く。

役人:○ 期待されてます
市民:― まだ参加すると知らないようです
火踏組:△ 不穏な気配を感じます

 各陣営の評価によって、依頼の雰囲気全体が変わっていく事でしょう。

●火踏組について
 鬼人種の男性で構成される博徒集団。分かりやすくいえば「ヤクザ」。
 一二三(ヒフミ)と呼ばれる熊髭の大男によって束ねられ、時には傭兵家業もやっていた。その経緯からある程度の実力は予想される。

●2章以降。
 第2章は祭り当日。各々の特技を民衆達に披露する場面が開催される予定です。
 何事もなければ3章に『武芸大合戦』という多人数による模擬合戦が行われます。

  • 高天京の技能祭り完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月25日 16時15分
  • 章数3章
  • 総採用数56人
  • 参加費50RC

第3章

第3章 第1節

●金の代わりに誇りを賭けて
「一体どんな手段を使ったのですか? あの無法者どもが祭りの日だというのにこんなに大人しくなるとは」
「い、いや。ボクにも何が何やら……」
 驚きの表情を浮かべる役人に、問いただされている龍之介。
 その内容はというと、何やら火踏組の「舞台参加者をネタにした賭博」や「異邦人に対する恐喝」の類を行っている気配が一切無いというのだ。
 無論、火踏組が壊滅したわけではなさそうだ。その証拠に先ほど市民から財布をスリ取った輩を役人に突き出してきたのだ。
「わたくしどもも、火踏組の屋台の許可を出してやれとは言われましたが……」
 役人は不思議そうな顔をしていた。役人としては屋台の許可だけで無法の一切をやめてくれるなら安いものではあるが……。

 その場面の通りがかったイレギュラーズは役人達に問いただされたりしたが、法に反する事はしていないのだから「各々が頑張った」としか言いようがない。
「はぁ、火踏組を倒せば今後は無法行為は抑えるって話ですか」
 イレギュラーズの何人かに話を聞き回って、そう纏める龍之介。「まぁ、確かに火踏組からすれば自分達が負けるようなら今後の治安維持はイレギュラーズに任せた方がいいという考えもあるだろう」と分析する。市民達だってソレを見たら今後どちらを頼るか決める事になるだろう。
 そういう意味で自分達の傭兵家業を賭けた戦いだから、彼らがこちらに殺意を抱いていた理由も今なら分かる。しかし
「火踏組の方々、刀や槍の真剣を持ち出す気配はありませんね。木刀とか、非殺傷性の高い武器使うみたいですよ」
 相手の陣容を見て来た龍之介はイレギュラーズにそのように伝える。彼らにこちらを殺したり、過剰な大怪我を負わせたりするつもりは全くない、と。
「ヤクザモノって聞いてたんですが、随分行儀正しい人達ですね。……この集まりっぷりといい。本当、どんな手段を使ったんです?」
 刻は武芸合戦開幕直前。イレギュラーズの武芸を一目見ようと今まで以上に集まってきた市民達を横目にして、龍之介はハニカミながらそのように言った。

――――
●GMからの情報
 技能祭は終盤。各々の武力を競う『武芸合戦』の場面となりました。
 2章と打って変わって戦闘ステータス面の勝負になります。
 また木刀や槍に見立てた棒などの非殺傷性武器を使うという事で攻撃には【不殺】がつきます。(何か考えがあれば真剣を持ちだして【不殺】を取っ払う事も出来ます)
 各々がチームを組んだり、あるいは個人で戦う事になります。何かしら宣言が無い限り『ローレット(イレギュラーズ)』のチームに属し、『火踏組』と戦う事になります。
 役人側とイレギュラーズ両方の目的としては火踏組を打ち負かす事なので、積極敵に彼らと戦うのがよいでしょう。
 ただ、親分格のヒフミはかなりの手練れと思われます。チーム合戦という都合上、彼だけ狙っていても部下に邪魔される事は予想されるので、相当戦闘ステータスが高い人が戦いに行くか、複数回何人かが戦いを挑んで体力を消耗させるかしないと打ち倒せないでしょう。

 それ以外に
・地元参加者と戦う
・イレギュラーズ同士で戦う。
 などもあり、こちらは市民に対するパフォーマンス要素が大きいです。
 何か推しの参加者(イレギュラーズ)がいれば外から観戦、応援をするのもよいでしょう。

●現時点で情報屋から曰く
役人:○ 火踏組を抑え込んだと評価しているようです。邪魔はされないでしょう。
市民:◎ 完璧です! 依頼の大目標の一つは満たしたといっても過言でありません!
火踏組:○ 過剰に怪我を負わせる気配は無いです。重傷を気にする必要は無いでしょうし、正々堂々戦ってくれるでしょう。
――――


第3章 第2節

如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家

 さてさて、よもや忍たる俺が武芸合戦に参加するとは……。
 嫁殿を抱えながら、火踏組の一党を目の前にそのように考え込む『お嫁殿と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)。
 どうやら地元参加者の者達もローレットと火踏組の思惑は察しているようで、敢えてその戦いに水をさしてくる気配もない。
「腹話術師のあんちゃーん! せいぜい怪我しねーよーに頑張んなー!」
 観客席から老人の声が聞こえてくる。舞台の事もあって地元参加者や市民達からは『腹話術師のお兄さん』と認識されきっているようだ。
「人気者でござるな」
 鬼灯に対して、少し茶化すように声をかける『蒼海の語部』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)。「ここいらでただの黒衣では無いことを証明するのも悪くない」
『頑張りましょうね! 鬼灯くん!』
 鬼灯と咲耶は顔を見合わせて頷いた。お互い忍びなれば、その戦術は心得ている。
「おう、見つけたぞろうれっとの。皆の前で恥掻かせたるわ! 正々堂々、勝負じゃい!!」
 ちょうど良く先鋒を担う若衆の何人かが二人に戦いを申し込んできた。その手に木刀。やはり本格的な命の取り合いをする気は無いらしい。しかし此方が同じく真剣を使わぬとあれば油断も出来ぬ。
「此方も手を抜く訳にはいかぬでござるな。……ここでは刃傷沙汰はご法度でござる。拙者も普通に木刀を使うと致そう」
 二人とも忍者刀の形に近い木剣を構えた。
「へへ、舞台手伝いの黒衣が生意気に!」
 若衆は二人に襲い掛かった。木刀戦において怖いのは、横払いの一撃である。力一杯薙げば受けた武器を弾き、受けなければ胴への一撃で相手を昏倒させる。片手にある木剣では受け辛いのもあって、それらを身を引いて避けた。
「隙ありじゃあ!」
『鬼灯くん、後ろ!!』
 連続で繰り返される剣撃を避け続ければ、手練れであろうと避けるのが難しい一瞬が生まれる。鬼灯は嫁殿を抱えるように庇い、背中に木刀の重たい一撃を受けてしまった。
「多勢に無勢というヤツか」
「へへ、卑怯とは言わんよな。手前らも応援呼んだっていいんだぜ?」
 勢いづいてそのように挑発するが、そんな彼らの周囲に鴉の羽音が聞こえてきた。
「なんだ、この音。!?」
 大きな鴉の羽が周囲に舞ったかと思うと、それは意思を持ったように若衆の目の回りへ張り付いて、視界を覆い隠した。何人かの若衆は大慌てでソレをひっぺ剥がそうとするも、観客からは自ら目やまぶたを引っ掻いているようにしか見えない。
「幻術でござる。安心せよ、命までは取らん。……鬼灯殿」
『鬼灯くん!』
「あぁ、『暦』の頭領。黒影が鬼灯。尋常に幕をあげてみせよう!」
 命の取り合いはしないと決めた以上、彼らが瞳孔を引っ掻いて失明に至らせてはいけない。片手の木剣に魔力を循環させ、彼らを気絶させる為にその急所を狙い打つ。
 幻術に掛かっていた若衆はそれで打ち倒され、それ以外の若衆は訳も分からず逃げ去っていった。

成否

成功


第3章 第3節

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者

「しばらく見ないうちに面白い展開になっているじゃないか。つまりヤクザを相手に殴って言うことを聞かせるということか?」
 武芸合戦という形で戦いが行われると聞いて、ギルドの方から救援にやってきた『聖断刃』ハロルド(p3p004465)。『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は快活に笑い、ここまでの経緯を手短に説明している。
「ぶははははっ、腹も満ちれば思いっきり殴り合いってわけだな。良いねぇ! 祭りだねぇ、喧嘩だねぇ、まさに華だねぇ!」
「ははははっ! 良いじゃねぇか! 俺も混ぜてくれや!」
 二人とも人種違えど命の取り合いをせぬ純粋な競技というのも嫌いではない。
「どけ! 邪魔すんなら怪我しても知らねぇぞ!」
 意気投合している最中、本陣へ合流しようとする若衆の一団が怒鳴り散らかしながら走ってくる。
「俺がヒフミと戦うのは筋が通らん」
 ハロルドは火踏組一党との戦いに向かっているイレギュラーズ達の方をチラリと見た。若衆を見逃せば仲間が挟み撃ちと相成る。
「コッチより数が多いが、やれるかい?」
 ゴリョウはそういって若衆の人数を見た。逃げに徹されると討ち漏らすという事は有り得る。
 思案顔のゴリョウに対して、ハロルドは悪巧みをしたような笑みを返した。
「打って付けの技がある」
 その笑みからやろうとしてる事をなんとなく察して、ゴリョウは「やれやれ」と頭を掻いた。
 ゴリョウは逃げ去ろうとする火踏組の一党の前に立ちはだかる。
「な、なんだてめぇは!」
「知らざあ言って聞かせやしょう、ってか! ……我らはイレギュラーズ、ゴリョウ・クートン。此方はハロルド。火踏組の若衆とお見受けする。いざ尋常に勝負致せい!!」
 舞台で見かけた見よう見まねの歌舞伎芝居。その動きはサマになっている。本来の目的が『見栄比べ』とあれば、挑発を目の前にして逃げ去るのは敗北以上に火踏組の看板が廃るというもの。
「しゃらくせぇ!」
 若衆は破れかぶれに、次々に殴り掛かる。ゴリョウは胴や肩が殴打されるも、相手の勢いを利用する形で次々に木製トンファーで殴り返した。
 いくら殴れど倒れる気配がないゴリョウに、一人、二人と倒れた若衆はたじろぐ。
「や、やるねぇイレギュラーズの……!」
「ぶははははっ! これが『火踏組』か! 力がある! 仁義もある! 何より『筋が通ってる』! 見事な連中だぜ全く!」
 挑発だと理解しながら戦う火踏組に敬意を表するゴリョウ。その背後から、天をつんざかんばかりの大声が鳴り響く。
「ははははっ! 俺にも掛かってこいよ! 大乱闘といこうじゃねぇか!!!」
「おっと、巻き込まれちゃ敵わねぇな!」
 一旦その場を退くゴリョウ。次の瞬間、若衆の周囲を影が覆った。彼らの頭目掛けてハロルドの闘気を纏った木刀が五月雨のように降り注ぐ。
 ゴリョウと殴り合った事もあって、その一撃で若衆の面々はそれで気絶してしまったのであった。

成否

成功


第3章 第4節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師

「そうか、組全体で約束を守ってくれたか。ならば私達も応えねばなるまい」
 同行する仲間から火踏組の動きを聞き及んで、安堵の表情を浮かべる『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)。『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)はラダの言葉に大きく頷いた。
「これからは武を、俺らも頼れるってところを火踏組に示さないとな」
 不毛な命の取り合いは好きではないが、そうではない力比べというならばラダも錬も望むところだ。二人ともどうにか非殺傷の武器を誂えた。
「非殺傷の武器はあってもらわねば困るとは言ったが……」
 主催側から提供された炸裂性の催涙玉をどう使うべきかラダは考えた。

 さて、火踏組の一党のところへ向かおうとすれば、何故か若い者達がヤケに少ない。イレギュラーズが火踏組の元へ向かってくれば彼らが真っ先につっかかってきそうなものだが。
「お前らのお仲間さんにやられちまったよ」
「ヒフミ……」
 ラダと錬はそれを目の前に驚いた。火踏組の大将にも等しいヒフミ自身が護衛を何人も引き連れてわざわざ前線に出向こうとしていたのだ。
「若ェのがやられっぱなしじゃあ、示しがつかねぇだろう」
 こちらを倒す事前提の自信満々の言葉を受けて、武器を構えるラダと錬。ヒフミの護衛の者達はザッ、と前を塞ぐように立ちはだかる。
(やはりいきなり大将首を狙わせてはくれないか)
 相手方は十数人いるのに対して、こちらはたった二人。人数的にも圧倒的に不利である。しかし、イレギュラーズ二人の内心に恐怖や焦りはほとんど無かった。
「命の取り合いをする気はないと聞いていたが、そっちもそのつもりなんだな」
 自分の式付を示しながら、そう指摘する錬。前日に出会った時と違って刀やドスなどの刃物を持ち出してくる様子はない。そも表情からして殺意は見受けられぬ。
「そちらさんがそうしてくれてるんだから、こっちもそうするのが礼儀ってもんよ」
 皆の交渉が利いたのか。ラダと錬は淡い達成感を感じると共に、改めて火踏組へ向けて武器を構え直す。
「全力でお相手させていただく」
 先手を取れたのは錬の側。陣形を組んでいた火踏組に向けて、式符から創り出した鏡から陽光が降り注いだ。
「ぐっ……!!」
 咄嗟、ヒフミの護衛一同は腕で庇って眼が焼けるのを防ごうとする。しかし視界を塞いだのが逆にまずかった。
「連携はイレギュラーズの得意とするもの。さぁ、勝負だ」
 ラダは彼らの頭上に催涙玉放り投げ、プラチナムインベルタに似た要領でそれを撃ち抜いてみせる。
 中空で炸裂したそれは、彼らの頭上で降り注いで眼や喉を潰していく。
「ははは、やるじゃねぇか。商人と鍛冶屋の!」
 眼を赤く腫らしながらも、ヒフミは笑う。彼らは眼を拭いながら、圧倒的数的有利でラダらを取り囲む。
「……参った。降参だ」
 これは勝てないなと悟った二人は、ひとまず武器を手放すのであった。

成否

成功


第3章 第5節

恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
わんこ(p3p008288)
雷と焔の猛犬
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

「おい、てめぇら。眼ェ大丈夫か」
「へい、洗い流せば何とか」
 火踏組の一党は竹の水筒を取り出して眼を洗い流そうとするも、ヒフミはそれを制した。増援がやってきたようだ。
 多人数戦で打開する時間は流石にくれぬか。ボヤけた視界でその方向を睨み付ける。対するイレギュラーズは怯む事なく、大手を振ってアピールしてみせた。
「血で血を洗うような事態は避けられた訳デスネ、良かった良かった! ですけど、水で洗うお時間は与えませんよ!」
「強い者達が正しい。勝った者達が正義というのは建前か」
 『シャウト&クラッシュ』わんこ(p3p008288)と『らぶあんどぴーす』恋屍・愛無(p3p007296)である。
「建前だろうが、その為に火の上だろうが足掻いてみせるっつうのが俺達の流儀よ」
 ヒフミは後ろには他のイレギュラーズ達が居るのを見て、視界不良も併せて今度は数で圧倒出来るような状況ではなかろうと考えた。
「クリマコスって知ってるかね?」
 愛無はヒフミに対してそう言ってみせ、ヒフミは「いや、知らねぇな」と大真面目に返す。
「簡単さ。お互い一発ずつぶん殴って、先に倒れたのが負けってやつだよ」
「おう、平手の張り合いか」
 このままだと親分の悪い癖が出る。そう思ったヒフミの部下達は、話が進む前に愛無に殴り掛かった。
「ぐぁっ!」
 しかし、後ろに控えていたイレギュラーズが即座に反応して、木刀を振りかぶった部下を殴り倒す。
「ココまで来て細かいアレコレは不要でしょ? ――さっ、やろっか?」
 攻撃を食い止めたのは『新たな可能性』笹木 花丸(p3p008689)。拳を握り締め、獰猛な笑みを浮かべて火踏組の前に躍り出る。わんこもそれに呼応して、獲物である指ぬきグローブを相手や観衆に向けて見せびらかす。
「貴方達のお相手はワタクシが仕りマス。火踏組の皆サマ……いざいざ、真っ向勝負と参りマショウカ!」
 彼女達のパフォーマンスを見て、元々応援を向けていた観衆は湧き上がる。

『いいぞ! やれ! オオタチ回りやっちまえ!』
『ヒフミの旦那! 受けなきゃ男が廃るってもんだろォ!』

 観衆は意図せずイレギュラーズに与した。面子の取り合いな以上、受けぬわけにはいかぬ。こやつら余程観衆から好かれたか。部下達はそんな事を考えて苦い顔をするが、ヒフミはそんな事は関係無いとばかりに大声を張り上げた。
「『くりまこす』、このヒフミが承った!」
 ヒフミは愛無の前に歩み出る。部下達はせめてわんこと花丸の方は食い止めようと自ら護衛を離れ、二人に仕掛ける。
「女風情が、退けいっ!!」
 彼女達は手数で圧す太刀筋をどうにか避け続ける最中、腕に覚えのある男が飛び出て横一閃に薙ぎ払う。わんこはその一撃で大きく吹き飛ばされ、花丸は掌で受け止める。上手く受けきったはずだというのに、手の骨はみしりと嫌な音を立てた。
「っっ、重たいね――でも、まだだッ!」
 そのまま木刀を掴んで力一杯引きずろうとする。男は咄嗟に逆さへ引っこ抜いて武器を取り戻すが、その反動で隙を晒した。
 仲間はそれを見逃さない。わんこは唇に血を滲ませながらもすぐに跳ね起き、その男に対して指を向ける。その指からなんとエネルギー弾が射出され、眼がボヤけていた男はそれを防げず、その場に膝をつかせた。
「だって勝つのは私達だもん」
「ご安心下さい! 峰撃ちってヤツです! キャヒヒヒ!」

「女だからと舐めちゃいけねぇと分かっているんだがなぁ」
 ヒフミは部下達を横目にこぼす。愛無は「この姿は擬態ゆえ、遠慮はいらない。先手は譲ろう」と返すと、ヒフミはまた大笑い。
「そりゃいい。顔殴るのは気が引けてた」
 ヒフミは左手を大きく振りかぶり、ゴツゴツとした拳で愛無の白い頬を思いっきり殴りつける。愛無は体幹を崩して一度手をついた。頬は赤く腫れ上がる代わりに、黒い粘状の液体がボトボトと剥げ落ちた。
「……では今度はこちらの番だ」
 愛無は立ち上がると細い手を頭上に翳す。すると、手腕がみるみるうちに膨れ上がって巨蟹の手を形成し、ヒフミの背丈以上あるその腕で目の前を横薙ぎにした。
 一撃を受けて地面を轢き回される結果となったヒフミ。左腕がズタズタになって真皮が露わになるも、痛がる様子もなくすぐ立ち上がる。
「蟹坊主の正体見たり、ってか」
 ヒフミは負傷を受けながらも、部下からイレギュラーズ増援の報せを受けて再び彼らの指揮を執った。

成否

成功


第3章 第6節

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

「どうやらあちらさんとの関係性もうまく行ったみたいねぇ」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は仲間の戦いを遠巻きに眺めていた。
「……まぁ、このやり合いはお祭だからいいとして! さぁさ、おねーさんとかるーく手合わせしてくれる方はいらっしゃらないかしら?」
 周囲の武芸者達の視線が一斉にアーリアに集まる。しかしイレギュラーズと火踏組の張り合いに水をさすのを躊躇っている者も多い。
「拙者がお相手させていただきたい!!」
 そんな事は露知らず、成人したてといった若武者からハ元気の良い声が響いた。
「あら、年下さんかしら? だったら、先手は譲っても私は構わないわよぉ?」
 あからさまな挑発に、相手はカァッと顔を赤くして赤樫の槍をアーリアの胴目掛けて振りしきる。アーリアの脇腹にヒリつく一閃が掠める。
 アーリアは避けた後に数歩退いた。圧倒していると思い込み若武者は更に迫ろうとするが、その頭上にピカッと光りが輝いた。
「ざぁんねん、そう簡単に触れさせる女じゃないわぁ」
 パラリジ・ブランの雨。若武者は全身を走った痛みに悶えるも、「まだです!」と立ち上がろうとする。
 しかし、あげようとした額にコンと本の角が当てられた。体勢を立て直す前に、アーリアが間合いを詰めていたようだ。
「戦と恋は刹那の幻(ゆめ)。この後、一緒にお酒でも飲みましょう?」
 若武者は悔しそうな顔をしながら「参った」と手を上げた。
 

成否

成功


第3章 第7節

鐵 祈乃(p3p008762)
穢奈

「へぇ、喧嘩勝負ってことたいね。大きな怪我もなかならよかね」
 鬼種でありながらローレットの陣営として参加した『穢奈』鐵 祈乃(p3p008762)。身内贔屓も併せて観客からやたら応援が多い。
 彼らへ応えるように巨大化した左腕を翳す祈乃。その腕は生半可な鈍器で殴られるより痛かろう。
「最近神使になったばかりやけん、あんま強くなかやろうけど……腕試しにはちょうどよかよね」
 そう考えながら、仲間と同じように挑戦者を募ってみせる。すると地元参加者が名乗りをあげた。
「同郷者か? ならば同じく鬼種の我が受けよう!」
 祈乃の相手となったのは拳法家の鬼種。
 先に仕掛けたのは祈乃の方だった。巨大な拳で殴りかかると見せかけ蹴戦を仕掛けるが、相手は跳躍してそれを躱す。
「甘いわッ!!」
 拳法家の男は跳躍した勢いで体を回転させ、祈乃の右肩を蹴りかかる。的中。祈乃は脱臼を確信する痛みをおぼえる。
「やっぱ武芸者の人は強いんね――けどっ」
 着地する瞬間を狙い、蹴戦からのコンビネーションで巨大な左腕を乱暴に振りしきる。相手は予想していたばかりに防ごうとするが、過剰な衝撃が防御を崩し手指を歪な方向にねじ曲げた。拳法家は呻きながらも、無事な片方の手をすぐに構え直す。
「……これ以上続けたら命に関わるけん、やめにしとくばい」
 お互いの負傷を鑑みて、祈乃は握手を求める。拳法家はハッとしたような顔をし、構えを解いて握手に応じた。

成否

成功


第3章 第8節

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウ(p3p006734)
薊の傍らに
篠崎 升麻(p3p008630)
童心万華

 妖怪というものは不定形の原形質で出来た個体もいる。切れ味の良い刀で叩いても斬っても、平気な顔をするタイプだ。こういうのは一般人には特に太刀打ち出来ない。
 妖怪退治も食い扶持である火踏組はそういうものと戦う術は一応心得ている。――色々試しながら集団で殴りつければ良い。
「なんでコイツはどれもこれも効かないんだよォオオオオオ!!!」
 穹窿に叫び声が響いた。有り得ないものを見ているような声だ。
「おいおい、こりゃどうした事だよ」
「……手練れですな。耐えるのが得意な方面の」
 部下達が異常に騒ぎ立ててる事から殴り合いを一時中断せざるを得ず、何とか平静を保っている側近の部下から状況を聞き出した。先日、イレギュラーズとの会合でも護衛を務めていた部下である。
 火踏組が徒党を組んで、一人のイレギュラーズを集中的に攻撃しているのだが……何故だろうか。今まで以上に倒れる気配が無い。
「貴様等に喧嘩の『在り方』を伝授して魅せよう」
 木刀の殴打を喰らい続けて平然と語り続ける『にんげん』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)。様々な攻撃に穿たれたはずの痩身巨躯な影はすぐに再生してしまう。
「撲っても蹴っても斬られても斃れぬ、果ての絶壁の『真髄』を此処に。我が身こそが肉の壁。此の『ホイップクリーム』の蠕動を突破可能ならば成し給え」
 部下達の方は数で優位に立っていると思っていたが、それが上手く機能せぬ。集団戦において回復や防御の上手い敵は後回しにしておいた方がよい。
「あんなのがろうれっとで標準かい?」
「いや、あれはなんつーか」
「…………」
 ヒフミに話を向けられて困ったような表情をする『特異運命座標』篠崎 升麻(p3p008630)と『盲御前』白薊 小夜(p3p006668)。
「でも、おかげで邪魔は入らない。いよいよ本番だな。待ってたぜ……!」
 升麻が木刀を構え、ヒフミは側近もそれに応じる。だが小夜が一旦制止した。
「先刻は芸を見に来てくださってありがとう、賭博のこともね。それでお礼、という訳でもないけれど今度は武の方をお見せできればと参上した次第よ」
「こっちでも剣舞を披露してくれるってワケか!」
 好意的なやり取り、それを見て小夜の後ろに隠れていた少女がちょこんと顔を出した。フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウ(p3p006734)だ。
「先に唄を披露している事ですし、せっかくですから……」
「歌い手の子よ。武器はまだしも、防具はつけねば危ないぞ」
「……武具は必要はありません。どうせ、私には扱えませんから」
 側近は「どうすべきか」と悩んだ。支援能力があるなら先に討つべきだが……
「火踏組の若衆からでもお相手を見繕って貰えないかしら? 剣に自信のある方だと少し嬉しいわね」
「そうそう、約束通りに喧嘩しようぜ。楽しみにしてたんだ!」
 小夜と升麻は、愉快そうに自分達が戦うと申し出た。
 そうだ、そもそも命の取り合いではないのだ。戦術を張り巡らせる以上に大事な事がある。
「あいにく若衆はお主らの仲間に翻弄されているようだ。だがお前達の楽しみとやら、私が受ける事に致そう。異論はないな、旦那」
 側近の男が楽しそうに応えたのを聞いて、少し驚いた表情をするヒフミ。側近はそのまま升麻に木刀で殴り掛かった。
「!!」
 木刀を構えていた升麻は、迫り合いの形で防ぐ。上手く防げた事に一瞬安堵するが、指の方から「ぐきり」と嫌な感触がした。
「すまんが、体術までは邪道と言わせぬ」
 升麻は自身の指を相手に一本握り込まれていた。痛みのあまり、木刀から手を離す。青く晴れあがった升麻の指を見て、目を白黒させるフィーネ。慌てる彼女に、升麻は回復を制止する。
「元々が集団戦ゆえ貴女達も遠慮は要らぬ!」
 男の方にそう言われ、躊躇いなく戦線に加わる小夜。フィーネは、仲間を回復するか迷うも、強化の術を謳った。
「……お姉様の動きに完全に合わせる事は難しいですけれど!」
「フィーネが歌ってくれるなら、私は舞ね」
 先手を取ったのは男の方であるが、連続で攻撃を叩き込む術においては小夜の技術が勝る。
「更に疾く、もっと鋭く」
 二回、三回。独楽が踊り、ぶつかり続けるような動きで打撃を放つ。フィーネが傍で歌ってくれているからか、その動きも楽しくて自然と興が乗った。
 無茶な動きを続ける事もあって、小夜自身はもちろんそれに歌を合わせるフィーネも疲弊する。
『折れるぞ!』
 その光景を見ていた観客から大声が飛んだ。なんと小夜の連撃は相手の防御手段でもある木刀をへし折った。
「……ちいっ!!!」
 咄嗟に徒手空拳の戦法へと切り替え、肩か体当たりする形で小夜を吹き飛ばし一旦間合いを仕切り直す。
 反応速度ならこちらに断然分がある。男はそのまま升麻の方へ対応しようとしたが、それがなせなかった。
「……さぁ、こっからが僕の真骨頂だ。気ぃ付けな。時間を掛ける程に、僕は強くなるぜぇ……!」
 升麻は痛む指に気を送り、その気を練り上げる。男は相手の実力を見切ったつもりだった。実際、それは正しかった。しかし、逆境において実力が出る部類は何処にでもいるものである。
 そう考え直した男は咄嗟、腕を十字に組んで防御に徹しようとする。
 ――ヒフミ達が立て直すまでの時間は稼がねば。殿(しんがり)を務めるものがおらねば、追い詰められる。
 側近の男は、心かで何処かで戦術めい事を考えた。その考えをすり抜けるようにして、打撃が正中線に振り下ろされる。
 一秒、二秒。その打撃で男の意識が飛ぶ、意識を取り戻したのは、後頭部を地面に打ち付けた衝撃からだ。追撃が来るのを覚悟していたものの、イレギュラーズにその様子がない。
「……やらぬのか」
「だってよ。これ、祭だろ?」
 当然のように答える升麻に、側近の男は「参った」と笑いながら降参した。

成否

成功


第3章 第9節

スー・リソライト(p3p006924)
猫のワルツ
彼岸会 空観(p3p007169)
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束

 壁役を倒す事に注力するあまり、部下達が数の優位を外されていたのに気付いたのは、『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)や『特異運命座標』隠岐奈 朝顔(p3p008750)などのイレギュラーズ達が正々堂々と戦いを申し出てきてからである。
「部下が邪魔をするっていうのなら……その部下さんを少しでも減らせばいいよね?」
「俺はベネディクト=レベンディス=マナガルム、俺と勝負を行ってくれる者は居るか」
 戦いは集団戦。もとよりそれを拒む理由もない。目のぼやけもようやく取れてきたところだ。
「やるぞ! 勝っても負けても、恨むんじゃねぇぞ!」
 気っぷの良い者がそのように周囲の仲間達や、観客に振る舞う。抗議をあげる仲間達もおらず、爽やかな顔で彼らへ武器を向けた。
 先に動いたのは火踏組。残った人数でマナガルムから討ち取ろうとする。集中攻撃をマトモに食らえばダメージは大きかっただろうが、彼は防御の技術に卓越している。降りかかる剣撃を木槍で次々受け流してみせた。
「負けたのであれば負けは負けだが──そう易々と倒れてやる気も無いのでな」
「やるぅ! 戦いに勝つなら、この部下さんを少しでも減らせばいいよね?」
 朝顔は仲間が上手く受けきったのをみて、心置きなく「背水の陣」という防御を捨てた構えを取る。
(こういうのって、脳筋と呼ぶんだっけ? いや、だって私出来るのこれくらいだしなぁ)
 内心で色々考えるが、再び男達がマナガルムを殴ろうとするのを目にして朝顔は飛びかかった。
「先輩の支援にもなるし、これが一番最強だよね!」
 格闘を仕掛けて、彼らの気勢を一気に削ぐ。マナガルムもそれで「倒し切れる」と踏んで、防御から攻撃に転じた。
「下がって!」
 朝顔に向けて指示を送る。朝顔はその通りに数歩下がり、マナガルムを取り囲んでいた一党は物の見事に吹き飛ぶ。ここに至るまでで体力を削られていた事もあって、それで気絶するか、戦意喪失して「負けた、降参だ」と武器を離すのであった。

「決まりですかな」
 観衆の熱狂から一歩引いて、そのように判断する依頼を持って来たの役人。
 部下は倒し尽くされた。イレギュラーズ側の勝ちだろう。依頼を持ちかけた当初は、その勢いで火踏組の名誉を徹底的に粉砕する事も願っていた。
「ろおれっとの、魅せてくれたねぇ!」
「火踏組のあんちゃんもがんばったよー!」
 観衆の具合からそれは期待出来なさそうだ。いや祭りの成功こそが今回の依頼。彼らはこの上なく、達成したといっていいが。
「勝った勝った。それでは、この饅頭は私が貰おう」
 仲間の役人達が何か話し合っている。……屋台で買った軽食を賭け合っていた。
「賭けは違法ですよ」
「いれぎゅらあずの意を組んで、いくらか融通を利かせてもよいじゃろう」
 依頼を持って来た役人は「素直ではないな」と思いつつ、イレギュラーズへの治安維持を依頼検討を仲間と相談する事にした。

「…………」
 そんな役人のひそひそ話や、観衆の熱狂を聞いて複雑そうな顔をするヒフミである。
 仲間の攻勢あってヒフミの元へ最後に辿り着いたのは彼岸会 無量(p3p007169)と、『猫のワルツ』スー・リソライト(p3p006924)。
 ヒフミの体がズタボロになっている事もあって、スーは驚いた顔で問い尋ねる。
「ど、どうしたのその傷」
「くりまこすの勲章だ、ってヤツだ」
 その受け答えでスーは「誰か戦闘仕掛けたんだろうなぁ」と想像する。ともかく殺し合いの痕でなくてよかった。
「そっか、私とも一緒に『踊って』もらえたりすると嬉しいなー、って……」
 これ以上戦ったら後遺症でも残るんじゃないかと相手を心配した。無量も同じように考え、相手に言葉を漏らす。
「……私は、木剣を振るうのは真剣以上に得意ではありません」
 遠回しに手加減出来ぬ、と。それを聞いてヒフミの先からの複雑そうな表情が一層極まった。
「こういうのもなんだが、部下達がイヤに顔を顰めてた理由がようやっと理解出来た」
 無量は陽の構えを取って、静かに俯く。
「手前らの大半がこっちに気ィ使ってくれたみてぇだし、殺し合いをするのも粋じゃねぇ」
 ヒフミは表情を崩して、快活に笑い始めた。腹を抱えて、頭が垂れる。
 しかし二人が顔を上げると、その表情は鬼神の能面が如く。

「――だが、やはり面白くない」
「……簡単に倒れないで、楽しませて下さい」

 敢えて戦闘準備が整っている無量へと殴り掛かるヒフミ。攻撃を予想していた無量は咄嗟に木刀を切り上げてその拳を弾き飛ばし、更に相手の足甲へと剣先を打ち刺してその場に縫い付けた。
 スーは二人の攻防を目撃し、即座に舞踏の構えを取る。
「観客を退屈させるでないぞ!」
「絶対に退屈させないからっ!」
 短い木剣を手に、飾り布をヒフミの方へ投げつけた。それ自体が魔術攻撃と判断したヒフミは布を腕で薙ぎ払うが、視界が遮られたその一瞬でスーの姿はその場から消えていた。
「始めからクライマックスでいっちゃうよー!」
 回り込まれた! 反射的に背後へ後ろ蹴りを喰らわせようとするヒフミ。同時にスーの幾重もの乱打が舞う。常人なら叫び上がりそうな痛みを脊髄に感じながら、スーの腹へ蹴りを入れてそのまま吹き飛ばす。
 ヒフミは他のイレギュラーズ達が仕掛けた蓄積があって、気絶寸前。
 ――惜しい。この同胞と万全の状態で戦えたならどんなに面白(楽し)かっただろうか。
 そういう考えが掠める無量とヒフミ。鬼の二人は、観衆や役人の称賛を後ろに短く会話を交わす。
「角を抜かれるというのはこれほど痛いのだな。無量よ」
「……貰い受けた角にかけて、民は私達が守ってみせます」
 蹴った足が戻される前に、頭、喉、鳩尾――瞬天三段に突き出す。その攻撃でヒフミは意識を失う。

 武芸合戦、その勝者はイレギュラーズ。彼らが優勝となって技能祭の幕は閉じた。

成否

成功

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