PandoraPartyProject

シナリオ詳細

高天京の技能祭り

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●任せられぬ義侠
「面白くない」
 高天京の歓楽街にて鬼人種の博徒がそのように一言漏らした。
 何が面白くないのだ。それを問う者は誰一人居なかった。その場に居る者は、少なからず思う所があるからだ。
 此処に集まっている鬼人種の男達は揃いも揃ってはみ出し者、いってしまえば御上から疎まれる無法者の類である。しかし全く分別の無い輩というわけでもない。田舎の村々が妖魔に襲われれば一目散に傭兵や自警団の真似事をしたり、人殺しも厭わぬ悪辣な賊人を御上に突き出したりする。
 もちろん、相応の金は貰う。たまに支払えないという輩もいるが、だからといって彼らは殺したり盗んだりするという性分でもない。払える時に払ってもらって、そのほとんどを酒や女に気前良く費やしてしまう。
 そういう金払いのよさも併せてか、無法者だが義理人情を重んじるこの『火踏組』という博徒集団は民衆にとって人気があった。
 話を戻そう。何故、この男達が内心で面白くないと思っているかといえば。
「いれぎゅらあずの事か」
 親分格の大男が、一献飲み下したのちに敢えてそう口にする。面白くないと漏らしていた男はバツが悪そうに「へい」と頷く。
 そのイレギュラーズがこの高天京に来てからというもの、人々を助ける事に尽力しているらしい。祭事の手伝いや此岸ノ辺の穢れ祓いから始まり、妖怪退治やならずものを成敗のといった仕事を請け負う。その評判はこの組の耳にも届くところである。「その仕事ぶりたるや、火踏組以上」とも……。
「好い事ではないか」
 大男はその髭面に似合わない柔和な微笑みをフッと浮かべた。若衆は血相を変えて「何が好いものか!」と勢い良く立ち上がるが、大男は笑んだまま次の言葉で若衆を押し黙らせる。
「好い事だが――面白くない」
 血相を変えていた若衆が気迫に圧され小さく呻き、すぐにその場で正座した。悔しそうな顔をしていたが、その点はこの場において大男以外誰も似たようなものだ。
 しかし大男はその様子を見回してから、「ぷっ」と噴き出してたまらず破顔一笑。大の男達がこんなにも悔しそうにするのは珍事だったのか、大笑いしながら膝を叩いていた。
「ヒフミの旦那……」
 年を取った博徒の一人が親分風の大男……一二三(ヒフミ)に対して情けない顔をこれでもかと見せつける。
「そう女々しい顔をするな。俺とてあやつらの事は気に入らぬ部分もある」
「では!」
 何人かの博徒が傍らにある刀を手に取った。
「馬鹿者が。相手から仕掛けてもいないのにそのような真似はせぬ。お主ら、ひとまず俺の考えを聞け」
 ヒフミはしたり顔で彼らに計画を述べ始めた……。

●あちらを立てれば、そちらが立たぬ
「歓楽街で行われる祭りへの参加、ですか?」
「さよう」
 歓楽街の取り締まりを担当する役人が、ローレットギルド全体に対して祭りへの参加を依頼してきた。
 確かに高天京に限らず、各国の祭りの手伝いなどもローレットに依頼される事はあるが。開催側から直々に金銭を伴って依頼されるというのは少々珍しい。
 『若き情報屋』柳田 龍之介(p3n000020)は訝しげに依頼者の役人を見つめる。
「……何も枯れ木の“桜”を頼もうというわけではございません」
 役人は表情を変えず祭りの内容を説明する。
 その祭りの参加者から選りすぐられた者達が観客を目の前に特技――絵画の早書きや楽器の実演奏などの技能、梯子乗りや火渡りなど軽業の類、流鏑馬や剣舞などの武芸。それらの卓越した技術を披露して観客に楽しんでもったり、優れた才能を持つ者に金一封を与えようという祭りという事だ。
「無論、警備の手伝いという体で観客側に回っても構いません。その場合でも他の傭兵と同じく報酬を与えます」
 単なる祭りだというのにえらく手厚い役回り。龍之介は不安が取れずにくしゃっと顔歪める。続けられる説明によって、その不安が見事に的中した。
「大変なのはここからです。この歓楽街には無法者――まぁ、『ヤクザモノ』といえば伝わり易いでしょうか。そのような集団が半ば街を仕切っているような状態なのです」
 その無法者集団は『火踏組』、一二三たる髭面の大男が纏める博徒達であるという。当然、いかにも喧噪が好きその輩達はこの祭りにも出張ってくる。役人の権限で「ご参加をお断りする」という選択肢もあるにはあるのだが、皮肉な事に民衆から一定の人気がある彼らがその様な無体を受ければ、市民からの不満が噴出する。
「奴らは表立って盗みや人殺しをするわけではありませんが、場代を払わず無許可で露店を開く程度なら平気でやらかします。そのような輩は見つけ次第、“ローレットギルドの名において”取り締まって下されば……」
 ……この役人の言いたい事が分かった気がする。
 まぁ、祭りの賞金を受け取るついでに警備を担当する程度なら構わないだろう。
 そのように計画を立てていたイレギュラーズに対して、忠告するように役人が口を開く。
「祭りの最後に予定されている武芸の大種目。多人数が入り乱れる模擬合戦――まぁ、有り体にいえば手加減無用の喧嘩ごっこが行われます。基本的にどちらかが『参った!』と降参すればそこで終いなのですが……」
 場に不穏な空気が漂った。手が滑って必要以上の怪我を負わせる、あるいは命を取ってしまう事も起こり得るという事か。
 やる事がやる事なので一人や二人は重傷人が出るのは珍しくもないが、火踏組の機嫌を大きく損なってしまえば率先して喧嘩を売られるかもしれない。
 いや、火踏組側はむしろ「初めからそういう事をしでかす予定」なのだろうか……。

 役人が契約書にサインをしている合間、龍之介はイレギュラーズを「ちょん、ちょん」と人差し指で突いた。
「……市民へ祭りの宣伝や売り込みする事も必要かと思います。もしよろしければ、その、火踏組という人達にも『ご挨拶』をしてみるのも手段の一つかと……」
 おそるおそるといった表情で提案をする龍之介。それを口の上手い者が役人に進言して、祭りが行われる歓楽街の下見も兼ねた宣伝業もイレギュラーズに任される事になった。

GMコメント

●依頼内容
・祭りに何かしらの方法で参加して、その祭りを盛り上げる事。
・役人あるいは市民からの評価が「×」(最悪)にならない事。下記参照。

●1章の内容について
 祭りが行われる予定の歓楽街へ向かい、その下見や宣伝。あるいは『火踏組』の構成員に何かしらの工作あるいは親善を仕掛けます。
 イレギュラーズそれぞれの行動によって役人、市民、火踏組からの印象が左右されます。
 印象がどうすれば上下するのかについては各々の立場を読み取れれば分かるかもしれません。
 なお現状の印象は龍之介曰く。

役人:○ 期待されてます
市民:― まだ参加すると知らないようです
火踏組:△ 不穏な気配を感じます

 各陣営の評価によって、依頼の雰囲気全体が変わっていく事でしょう。

●火踏組について
 鬼人種の男性で構成される博徒集団。分かりやすくいえば「ヤクザ」。
 一二三(ヒフミ)と呼ばれる熊髭の大男によって束ねられ、時には傭兵家業もやっていた。その経緯からある程度の実力は予想される。

●2章以降。
 第2章は祭り当日。各々の特技を民衆達に披露する場面が開催される予定です。
 何事もなければ3章に『武芸大合戦』という多人数による模擬合戦が行われます。

  • 高天京の技能祭り完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月25日 16時15分
  • 章数3章
  • 総採用数56人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師

「さて。祭りというなら“地元の顔”に挨拶は必要になるだろう」
「あぁ、祭りは皆で楽しみたいものだ。親善のついでに一つ売り込みにでも行ってみようか」
 まずは火踏組とやらの意向を知らねばなるまい。そう判断したイレギュラーズ、『らぶあんどぴーす』恋屍・愛無(p3p007296)と『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は彼らが足しげく通っているという歓楽街の三業地に出向いてみる事にした。
 道行く人に尋ねると、ちょうどその若衆が女達に茶を奢っているという。
 こちらも土産を持って彼らへ挨拶に行こうとしていたのだから、何か買いに行く手間が省けたというものだ。

「そこで夜盗へ向けてこう言ったわけさ。『やぁ、その禿を放しやがれ。さむなければこの刀の錆にしてくれようぞ』と……」
 茶屋に向かってみると、若い男が年頃の女相手へと自らの武勇伝を言い聞かせていた。本当に彼がそこまで勇猛だったかはともかくとして、その話の内容から火踏組の一味に違いないだろう。
「火踏組か」
「おう、そういう手前は何者だ?」
 愛無や錬のイデタチをみるやいなや、男は警戒した顔をする。
「イレギュラーズだ」
 愛無がそう名乗ってから相手の出方をうかがう。若い男はあからさまに顔を歪めるが、いきなり運命座標へ斬り掛かってくる阿呆ではないらしい。
 軽薄そうなこの男ですらこの様子なのだ。宣伝に出向いている他のイレギュラーズ達が白昼堂々火踏組に斬り伏せられる可能性というのは、ひとまず無いとみていいだろう。
「おう、俺達火踏組を取っ捕まえろってェ、御上サマに頼まれでもしたのかい?」
 ……とはいえ、友好的といった様子でもないらしい。その証左に若い男は二人に対して露骨な挑発を言いのける。
 しかし『火踏組との親善』という方向性で決まっていた愛無と錬である。こういう態度を取られるのも折り込み済みといった風に、各々の贈り物を示し始める。
「餡子餅でいいか。僕が好きだし。酒でもいいが。酒は好みが分かれそうだ。キミもそれでいいか?」
「ローレットとて万能ではないし縛りはある。お互いの良い所でやっていけたらと思うんだがな。……だがそれはそれとして、祭りは盛大に楽しもうじゃないか。この贈り物よりもすごい物が見れることは保証するぞ?」
 そのように、愛無は茶屋の餅を奢ろうとしたり。錬は自分が作った金細工を渡そうとしたりする。
 男は二人の態度に肩透かしを食らったように口を曲げるが、視界の端に映った“それ”を見てはいけ好かない表情に変わった。
「……へっ、賄賂と思われて御上に睨まれるぜ?」
 そのように贈り物を突っ返された。どうやら、役人の一人がその一部始終を目撃していたようだ。突っ返された中に紙切れが混じっている。
『本心であらばここをたずねよ』
 ……火踏組の集会所の居場所が記載されている。他のイレギュラーズ達も含めて今度はそこへ直接尋ねる事が出来るだろう。

成否

成功


第1章 第2節

黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家

 祭りはいいな、心が沸き立つ。
 そんな事を思いながら歓楽街で祭りの舞台準備を手伝っている『お嫁殿と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)。
『お友達たくさんできると嬉しいわね! 鬼灯くん!』
 そのように手元の人形と会話を行う。その仕草は目立ったのだろうか、市民が話しかけてくる。
「なんだ、あんちゃん。腹話術師かい?」
「あぁ、こちらは嫁殿で――」
 そんな風に挨拶を交わしていく。市民から敵対的な印象を抱かれてはなさそうだ。
「顔役の火踏組にお目通りをしたいのだが、何処にいるだろう?」
「あぁ、あっちで屋台を建てている男達がそうだ」
 言葉通り屋台を建てている男達に近寄ってみると、彼らは快活な笑顔を見せる。
「やぁどうした」
 男達は鬼灯を単に祭りに参加する芸者の一人と思ったのだろう。鬼灯は友好的に自己紹介を述べる。
「俺は黒影鬼灯、こちらは嫁殿だ。さぞ大きい祭りをされるようなのだが俺達はあまりここの作法に明るくなくてな。差し支えなければ色々と教えていただきたいのだが」
『鬼さんたちごきげんよう!』
「おぉ、可愛い嬢ちゃんじゃねぇか。よし、いいだろう。祭りの参加条件は一芸あれば来る者拒まずで……」
 そういって丁寧親切に教えてくれる。成る程、彼らが市民に慕われる理由は分かった気がする。
 ただ、彼らを過剰に諫めすぎれば市民から反感を買うかもしれない。無許可で建てられたであろう屋台を横目に、鬼灯はそう思った。

成否

成功


第1章 第3節

わんこ(p3p008288)
雷と焔の猛犬

「技の祭りに武芸合戦、そこに絡むは無法者……。キャヒヒ、好みの雰囲気デス!!」
 祭り舞台、そしてそれらを準備している市民や無法者を眺めている内に心が高揚する『シャウト&クラッシュ』わんこ(p3p008288)。
 ワクワクと周囲見れば、普段は火消しを行っているであろう一団が、軽業の練習を行っている。
「駄目だ駄目だ! 手前火消しのクセしてこんくれぇも昇れねぇのか!」
 纏め役の老人が若者を叱りつけて衆目を浴びている。わんこは宣伝ついでにその場を収めようと思いついて、口上を述べながら建物二階程の高さがある梯子を登っていく。
「さぁさお立ち会い、急ぎの方は耳に挟んでクダサイネ。何やら近くに祭りがある模様……そうと聞いちゃあ黙っちゃいられない。その祭り、我らいれぎゅらあずも混ぜてもらいやショウ! 海を越えし稀人達の技、とくとご覧に入れマスヨ!!」
 周囲の市民は軽業を目の前にして「おぉ」と拍手を向ける。カンカンだった老人は「ほら、みろ。嬢ちゃんが先に昇っちまったぞ!」と無骨な大笑いで上機嫌。若者はホッと胸をなで下ろした。
「いやはや、出過ぎたマネを致しましたカネ?」
 形ばかりの謝罪を向けるが、一団含めて周囲の返答は好意的であった。
「いいや、ここの奴らは芸見て不機嫌になるのは早々いねぇよ。当日も期待してるぜ!」
「フフ、今日の所は頂上に登るトコまでにしておきマス、派手なのは本番のお楽しみデスヨ!!」

成否

成功


第1章 第4節

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

「あらまぁ、お祭なんて楽しそうだけど今回はお仕事ね?」
 高天京特有の酒が置いてある屋台に目移りしつつも、頭を振って気を取り直す『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)。
 仲間が軽業を披露しているのを見て、上手くやっていると感心する。
「姉ちゃんも参加者か?」
 身なりの雰囲気からそう判断されたのだろう。男性市民から声を掛けられる。
「えぇ、ここのお祭に参加させて頂くことになった、イレギュラーズ――こちらの言葉で言えば、神使ね」
「へぇ、豪傑みてぇな奴ばっかと思とったが、神使にゃべっぴんさんが……いて!」
 男がアーリアに見とれてデレデレと鼻を伸ばして、妻に耳を引っ張られていた。他の男の視線も大概同じようなものだが、
「いれぎゅらあずだとッ!?」
 例外として、屋台を組み立てていた男衆の一人が血相を変えて近づいて来た。
 イガむように睨み付けてる事から、おそらく火踏組だ。
「この方は参加者ですよ。そう邪険にしなさんな」
「む、むぅ。しかし、芸の一つ出来るようにも見えぬ!」
 火踏組の男が苦し紛れにそう言った直後、遠くの屋台にあった遊戯用の的が「パン」と弾けた。
「ちょっと手先が器用で、射的を心得ていますわ。次は頭の上に的を置いて、ばーん! なんてね?」
 どうやらアーリアが魔法で射落としたらしい。市民達から拍手が送られる。
 火踏組はムググと歯軋りした後、的にされては堪らんと逃げ帰っていった。


成否

成功


第1章 第5節

黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウ(p3p006734)
薊の傍らに
スー・リソライト(p3p006924)
猫のワルツ

「何かオススメの出店でもあれば教えてくれないかな?」
「へい、ゲソ焼きなんかどうでしょう。食べ物は大概美味ぇもんですがこいつは特に値段も手頃で……」 
 逃げていく火踏組を横目に、市民へ交流を試みる『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)。イレギュラーズの複数人が集まっているのを見て、市民から「依頼でご参加されるとは噂に聞いておりましたが、やはり団体で参加なされるので?」と興味津々に問いかけられる。自分達が参加する事を隠しておく道理はないだろう。
「ふふっ、仕事は勿論だけど、私も楽しみたいんだ」
 そう愛想の良い笑みを浮かべながら、役人の要望通りに作った祭りの案内紙を彼らに配る。
「おぉ、こりゃいいや。いっちょ少し遠出して他の場所にも貼り付けてきやしょうか」
 ゼフィラは後ろから視線を感じて、少し考えてから。
「あぁ、お願いするよ。他の人達も、祭りを知らない人がいたら是非これで教えてあげて欲しい」
 そのように市民達へ頼んで、ゼフィラの周りにいた市民は方々へ宣伝に向かった。
「もし」
 見回りをしていた役人がゼフィラの周囲に誰もいないのを見計らって話しかけてくる。
 役人はいささか渋い顔付きをしている。無許可の店を取り締まっていない事を不審に思ったのだろう。無論、ゼフィラはそれを疑われた時の対処は考えてある。
「火踏組の店だろう。チェック……記録はしてある」
 無許可の屋台を記載した手帳を見せる。「祭り直前に屋台が減ると、市民の興が削がれてしまう」とそれらしい事を言い切った。
「……まぁ、よいわ。書き漏らさぬようにせよ」
 役人は一理あると納得する代わりに「ふん」と不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「せっかくのお祭りなんだから、火踏組の人達と一緒に楽しめればいいんだけど」
「…………」
 宣伝のビラ配りを手伝っている最中、ゼフィラが役人にハッパをかけられていたのを遠目に目撃して胸が寒くなるように感じた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)と『支える者』フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウ(p3p006734)。
 無法者が幅を利かせている以上、あぁいう高圧的な態度でないと相手に舐められて仕事にならないのは理解出来る。だが楽しい祭り事だというのに、何かの拍子で自分達にもそれが向け続けられるではないかと少し不安になってしまう。
「なんだ、嬢ちゃんら。道に迷ったんかい」
「たぶん異国人の子達だよ。きっと連れの大人とはぐれたんに違いない」
 二人がそういう風に複雑そうな顔をしていると、役人でもなく火踏組でもない一般の市民が何人も甲斐甲斐しく声をかけてきた。
「い、いえボク達は」
 二人が慌てて答えを返そうとするが、それを遮るようにあれやこれや質問攻めされたり慰めようと屋台で出す予定の菓子の類を押しつけられたり。
 あぁ、これではビラ配りに支障が出てしまう。そう焔が困り果てていると。
「その子達は異国から来た楽士なんだよ!」
 市民達は一様にその声がした方を向く。そちらには『猫のワルツ』スー・リソライト(p3p006924)が胸を張って、二の句を口にした。
「そして私も踊りを少々! 見た目で判断しちゃ、ダメだよっ?」
 迷子を見つけたと仰々しかった市民達も三人の顔を見回して「成る程、小さいけど確かにべっぴんさんだ」と見た目で判断して納得する。……とりあえず、なんとか一段落したみたいだ。焔とフィーネはホッと安堵の息をつく。
「じゃあ、一つ俺らに見せてくれ!」

 ……その代わりに別の形で注目を浴びるハメになり、地元の参加者達が踊りや歌の練習をしているところに半ば放り込まれる事となった。
「無聊の手慰みに覚えただけの演奏なのですが……」
 フィーネは市民達の好奇の眼差しを一身に受けてやたら気恥ずかしくなってきた。いや、市民達だけならまだいい。なにせ踊りや歌が本職であろう他の参加者達までもが「異国人のお手並み拝見」とばかりにこちらの様子をじっとうかがっているのだ。
 本人が謙遜していてもフィーネには演奏家としての才がいくばくかあったが、それを差し引いても初めて扱う、カムイカグラ独特の楽器を扱いきれるかどうか当人に自信が無かった。この楽器はどう弾けばどんな音が出せるのか。そもそもカムイカグラではどんな曲が好まれるのか。
「剣舞でも舞踏でも、自信があるし! 私は踊りが取り柄だからねっ! 一生懸命頑張っちゃうよ!」
 先ほど救ってくれたスーは逆にこのままやる気満々であった。彼女の舞は道具に頼らずとも通用するのが強みである。いよいよ、逃げ道が無くなるフィーネ。
 その時にふと、聞き覚えのある歌詞が耳に聞こえた。これは確かラド・バウの……。
「おぉ、こっちじゃあんまり聴かねぇ歌い方だね。異国で流行ってる曲かい?」
「うん、パルスちゃんのお歌と踊り!」
 焔がフィーネに気を利かせたのか、偶然か、どちらにせよ自分達がよく知る土俵(文化)で歌や踊りを表現している。スーがそれに乗ってくれたのもあって、違和感なく『異国の楽曲』という色眼鏡で見てくれている。
 フィーネの手元のものは扱った事の無い楽器であるが、『それに合わせた音を出した』という体で感覚的にそれらしい音を紡ぐ。(これはもちろん、音感がなければ出来ない芸当だ)
 記憶を頼りに表現した演奏を終えて、三人は観衆を見回してみる。それはしんと静まりかえっていて、焔やフィーネはヘマをしてしまったかと不安に駆られたが、一つ、また一つと拍手がぱちぱちとなる。
 次第、観衆が興奮した様子で称賛を投げかけてくる様子から、見入ったり聞き入っていたりの様子で静まりかえっていただけだったようだ。
 二人はまた大きな安堵の息を一つついて、スーと共に当日の祭りにも是非来て欲しいと市民達に呼びかけるのであった。

成否

成功


第1章 第6節

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚

 仲間達が観衆を沸かしているのを眺めながら、不敵に笑う『にんげん』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)。
「妖魔の類か!」
 逃げる最中であった火踏組の男……と、いくらかの無邪気な子供達に鉢合わせた。火踏組の男は刀を向け、子供達は見よう見まねで棒っきれを構える。
「理解出来ない存在を恐怖するとは謂うが、その様子だと幼き子達の方が勇敢だな。Nyahaha!」
 子供達は『異国人のウォーカー』だと分かっていてじゃれついたようだ。ムッと顔を赤らめながらも刀を収める火踏組。
「なぁなぁ、貴方もろうれっと? の傭兵さんなんだろ。異国の話してくれよ」
「幽霊とか、妖怪とか!」
 求められて考え込む素振りのオラボナ。
「ならば適当な怪談。違う。適当な『宇宙的恐怖』を語って魅せよう」
 子供達は山座りの形で地べたに座りながら、オラボナの話を聞き入る。
 首が幾つも生えている化け物。同化を望んでいる怪物。臓物と眼球のホイップクリーム。
 子供達は彼が話すそれを拙い想像力で思い浮かべて、「そんなの何にも怖くない」とケラケラ笑った。しかし、男は“リアル”に想像してしまったのか青ざめている。
「最後に語るべきは矢張り『旅人』たる所以だ。我等『物語』は如何なる恐怖か伝授して――何。※※※※※※※の話。聞き取れない? 気の所為だ」
 オラボナが脅かすように背の後ろから囁く。男は叫び声をあげてまた遠くへ逃げていった……。

成否

成功


第1章 第7節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
彼岸会 空観(p3p007169)
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
篠崎 升麻(p3p008630)
童心万華

 ――色々あって恥をかかせられたり怖がらせられたりした火踏組の男は、ひとまず火踏組の集会所に逃げ帰って仲間にイレギュラーズの事を報告しようとした。
「……奴らめ、祭りの日にゃ大衆の目の前で赤っ恥掻かせてやるっ……!」
 そのように憤りながら。
「こんにちは、お兄サン」
 集会所の近くまで来た辺りで、男は青肌の妖艶な女性――『永遠のキス』雨宮 利香(p3p001254)――に突然声を掛けられた。彼女の他にも複数人いるようである。
 先ほどまでの事もあって、男はこの一団に警戒心を抱いたが。
「素敵な街並みで感激しちゃった。お姉さん、期待しちゃう♪」
 利香の豊満な胸元に気を取られた。それを見て利香も男の手を抱くように引き寄せる。
「へっ、へへ。お前達が賄賂を贈ってこようとした奴らって事か。いれぎゅらあずの方から媚びくるたぁ、殊勝な心がけじゃねぇか」
 都合良く考えようとしたのか、他の女もソレ目的で連れて来られたのだろうと空いたもう片方の手でその女の胸元をまさぐろうと手を伸ばす。
 しかしその胸を掴む前に、手首を引っ掴まれて後ろ手に回されてしまう。
「いでっ、いででで!!」
「ああ、申し訳ありません。私は色を売りに来た訳では御座いません」
 胸を掴まれそうになった女、彼岸会 無量(p3p007169)が無表情のまま火踏組の男の腕を締め上げた。
「誤解させてごめんなさい。サキュバス……あー、吸精鬼?なりにお兄さん達にご挨拶がしたかっただけなの、いひひ!」
 その騒ぎを繰り広げている内に、集会所の中まで伝わったのであろう。何人もの屈強な男達が、短刀を手にして飛び出て来るなりイレギュラーズの周囲を取り囲んだ。
「て、てめぇ! 火踏組の手下になろうっつー腹づもりじゃなかったのかッ!!」
 『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は茶屋で話した若い男と目を合わせて、「何か厄介な誤解が生じてるようだ」と頭を掻く。
 成る程、下っ端越しに敵対的意思が無いのは彼らへ伝わっていたようだが、同時に早とちりもされていたようだ。
「喧嘩の華を売りに来た訳でもない、と言いたい所ですが」 
「流石にいきなり斬った張ったはないと思いたかったが……」
 そういう誤解があったのなら、どういう形であれ弁明したら即刻刃物で脅される流れだったに違いない。
「『縄張りを荒らされるんじゃぁ、面子が立たねぇ』、ってか。嫌いじゃねーんだけどな、ヤクザモンって」
 護衛に着いてきた『特異運命座標』篠崎 升麻(p3p008630)は、彼らの行動原理に理解を示しつつも、致し方無しに武器を構える。
 お互いこの場で何人かの怪我人を出すのを覚悟し、ついに火踏組から斬り掛かろうとしたところで、

「やめい」

 一足遅れる形で、身の丈八尺はあろう熊髭の大男がのっそり現れ一同に言い放った。
「ひ、ヒフミの旦那。相手から仕掛けてきたんですぜ!!」
 ヒフミと呼ばれた親分格はて無量と利香を見やって、何事があったのか判断し
「そりゃ年頃のオナゴの胸揉もうとすりゃ、恥ずかしがって腕ひねるくらいはされるだろう」
 と、そのように言いのけた。若衆がその言葉に呆気に取られたところで、すかさず、『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)が言葉を差し入れる。
「商店から着物を届ける依頼でやってきたんだが、どうやら誤解が生じてしまったらしい」
 事前にそのようなルートを構築しておいてよかった。ラダは内心でそう思いつつ、他のイレギュラーズもそのような振る舞いを務める。
「そうか」
 ヒフミはそれを受けて、納得したように頷いた。そのやり取りに若衆の多くは釈然としない表情ながらも、こうなると斬ってしまう大義名分がなくなる。
 ヒフミという男はその場をぐるりと見回して、イレギュラーズの面々と腕が立ちそうな何人かの部下に「ついてこい」と指し示した後に、他の若衆へは「お前らは少し席外せ。着物の色を確かめる必要がある」と言って集会所の建物へ入っていった。

「さて」
 面々が部屋に集うやヒフミはどっかりと座って黙り込み、まずはイレギュラーズの言い分を聞くような態度を取った。
 まず先ほど場を取りなしたラダが本心を打ち明ける。
「役人の命で動いてはいるが彼等とて私達に手伝いを頼んだのは、いざという時尻尾切りできると踏んでの事でもあろう。私達は得体のしれない異邦人、でもあるからな」
 異国の商人として、そういう『必要悪』は理解はしていると暗に示す。依頼人の役人とて完全に信用してはない。
「だったら、手前らは俺達の悪事を一から十まで見逃してくれるっつーのか?」
 にやけた面で分かりきったような事を尋ねてきた。
 それは出来ない。そうなれば完全に依頼の反故になる。前日の今はなんとか誤魔化せても、当日はいくらか火踏組をしばき上げる場面を見せる必要があるだろう。
「今回は挨拶だ。それに、折角の技能祭り。お互いの腕を見せ合った方が今後の付き合いもやりやすくなると思うぞ」
 錬が「こちらとしても引く訳にも行かない」と遠回しに言い示す。部下達はそれを聞いてどよめいた。
「じゃあ、俺達の牙――もとい角を抜く魂胆って事か」
 場がしばらく沈黙。違う、とは完全に言い切れない。無量はこれを機に、自分が会いに来た理由を話し始める。
「……話をしたい理由は、そうですね。貴方達の多くが鬼人であるからです。私も元は鬼でありましたから」
 そういって、額に開いた第三の目を見せる。
「今や角は抜かれ、斯様な瞳が残るのみですがね」
「だったら俺達の角が抜かれちゃたまらねぇのも分かるだろ。ハハハハ!」
 そう一頻り大笑いしてみせた後、ヒフミは少し真面目な顔付きでイレギュラーズに告げる。
「こういう集まりってのは、“面子”で生きてるような奴らばかりだ。役人の犬に成り下がってちゃ、舐められちまって食い扶持も無くなっちまう」
「…………」
 ラダは考え込んだ。彼らの庇護下にある商い人達は『火踏組の面子』という威光によって盗人から守られている側面はある。「役人に任せるべきだ」というのは簡単だが、有能な役人であってもその限界はある。彼らはその隙を突いてくる悪漢や妖魔を退けて、生計を立てているわけだが。
「だからそのお株を奪おうとする私達が気に入らないわけか」
「おうよ」
 ラダの物言いにヒフミは頷いた。彼の部下達は相変わらず殺気づいている。ヒフミはそれを気にする様子もなく、
「だから祭りに出てくるであろうお前達を武芸合戦でぶっ倒して、俺達の方が頼りになると示す寸法よ」
 と自身の計画を言いのけた。ローレットに打ち勝てば面子も保たれ、殺気づいてる部下達の憂さ晴らしにもなる。単純明快。ヒフミの言い分はそれだけだった。
 ……しかし、彼らの機嫌次第によっては“本気の殺し合い”にもなりうるか……。
「アンタらも出るのか? なら、一緒に楽しもうぜ」
 他の者が内心でそう考える最中、升麻が話題に食いついてニィっと笑ってみせる。その言葉に調子を合わせる錬と無量。
「ローレットに在籍して短い俺だが、個性的な面々が揃っているから飽きない時間になるのは保証できるぞ?」
「互いの健闘を祈る事も兼ねて、一献お付き合い頂けますか?」
 その言葉を受けたヒフミを見回してから、見せつけるように大笑いしてみせた。
「おうよ、若い奴も呼び寄せて今日はいれぎゅらあずと酒盛りといこうじゃねーか」

成否

成功

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