PandoraPartyProject

シナリオ詳細

高天京の技能祭り

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●任せられぬ義侠
「面白くない」
 高天京の歓楽街にて鬼人種の博徒がそのように一言漏らした。
 何が面白くないのだ。それを問う者は誰一人居なかった。その場に居る者は、少なからず思う所があるからだ。
 此処に集まっている鬼人種の男達は揃いも揃ってはみ出し者、いってしまえば御上から疎まれる無法者の類である。しかし全く分別の無い輩というわけでもない。田舎の村々が妖魔に襲われれば一目散に傭兵や自警団の真似事をしたり、人殺しも厭わぬ悪辣な賊人を御上に突き出したりする。
 もちろん、相応の金は貰う。たまに支払えないという輩もいるが、だからといって彼らは殺したり盗んだりするという性分でもない。払える時に払ってもらって、そのほとんどを酒や女に気前良く費やしてしまう。
 そういう金払いのよさも併せてか、無法者だが義理人情を重んじるこの『火踏組』という博徒集団は民衆にとって人気があった。
 話を戻そう。何故、この男達が内心で面白くないと思っているかといえば。
「いれぎゅらあずの事か」
 親分格の大男が、一献飲み下したのちに敢えてそう口にする。面白くないと漏らしていた男はバツが悪そうに「へい」と頷く。
 そのイレギュラーズがこの高天京に来てからというもの、人々を助ける事に尽力しているらしい。祭事の手伝いや此岸ノ辺の穢れ祓いから始まり、妖怪退治やならずものを成敗のといった仕事を請け負う。その評判はこの組の耳にも届くところである。「その仕事ぶりたるや、火踏組以上」とも……。
「好い事ではないか」
 大男はその髭面に似合わない柔和な微笑みをフッと浮かべた。若衆は血相を変えて「何が好いものか!」と勢い良く立ち上がるが、大男は笑んだまま次の言葉で若衆を押し黙らせる。
「好い事だが――面白くない」
 血相を変えていた若衆が気迫に圧され小さく呻き、すぐにその場で正座した。悔しそうな顔をしていたが、その点はこの場において大男以外誰も似たようなものだ。
 しかし大男はその様子を見回してから、「ぷっ」と噴き出してたまらず破顔一笑。大の男達がこんなにも悔しそうにするのは珍事だったのか、大笑いしながら膝を叩いていた。
「ヒフミの旦那……」
 年を取った博徒の一人が親分風の大男……一二三(ヒフミ)に対して情けない顔をこれでもかと見せつける。
「そう女々しい顔をするな。俺とてあやつらの事は気に入らぬ部分もある」
「では!」
 何人かの博徒が傍らにある刀を手に取った。
「馬鹿者が。相手から仕掛けてもいないのにそのような真似はせぬ。お主ら、ひとまず俺の考えを聞け」
 ヒフミはしたり顔で彼らに計画を述べ始めた……。

●あちらを立てれば、そちらが立たぬ
「歓楽街で行われる祭りへの参加、ですか?」
「さよう」
 歓楽街の取り締まりを担当する役人が、ローレットギルド全体に対して祭りへの参加を依頼してきた。
 確かに高天京に限らず、各国の祭りの手伝いなどもローレットに依頼される事はあるが。開催側から直々に金銭を伴って依頼されるというのは少々珍しい。
 『若き情報屋』柳田 龍之介(p3n000020)は訝しげに依頼者の役人を見つめる。
「……何も枯れ木の“桜”を頼もうというわけではございません」
 役人は表情を変えず祭りの内容を説明する。
 その祭りの参加者から選りすぐられた者達が観客を目の前に特技――絵画の早書きや楽器の実演奏などの技能、梯子乗りや火渡りなど軽業の類、流鏑馬や剣舞などの武芸。それらの卓越した技術を披露して観客に楽しんでもったり、優れた才能を持つ者に金一封を与えようという祭りという事だ。
「無論、警備の手伝いという体で観客側に回っても構いません。その場合でも他の傭兵と同じく報酬を与えます」
 単なる祭りだというのにえらく手厚い役回り。龍之介は不安が取れずにくしゃっと顔歪める。続けられる説明によって、その不安が見事に的中した。
「大変なのはここからです。この歓楽街には無法者――まぁ、『ヤクザモノ』といえば伝わり易いでしょうか。そのような集団が半ば街を仕切っているような状態なのです」
 その無法者集団は『火踏組』、一二三たる髭面の大男が纏める博徒達であるという。当然、いかにも喧噪が好きその輩達はこの祭りにも出張ってくる。役人の権限で「ご参加をお断りする」という選択肢もあるにはあるのだが、皮肉な事に民衆から一定の人気がある彼らがその様な無体を受ければ、市民からの不満が噴出する。
「奴らは表立って盗みや人殺しをするわけではありませんが、場代を払わず無許可で露店を開く程度なら平気でやらかします。そのような輩は見つけ次第、“ローレットギルドの名において”取り締まって下されば……」
 ……この役人の言いたい事が分かった気がする。
 まぁ、祭りの賞金を受け取るついでに警備を担当する程度なら構わないだろう。
 そのように計画を立てていたイレギュラーズに対して、忠告するように役人が口を開く。
「祭りの最後に予定されている武芸の大種目。多人数が入り乱れる模擬合戦――まぁ、有り体にいえば手加減無用の喧嘩ごっこが行われます。基本的にどちらかが『参った!』と降参すればそこで終いなのですが……」
 場に不穏な空気が漂った。手が滑って必要以上の怪我を負わせる、あるいは命を取ってしまう事も起こり得るという事か。
 やる事がやる事なので一人や二人は重傷人が出るのは珍しくもないが、火踏組の機嫌を大きく損なってしまえば率先して喧嘩を売られるかもしれない。
 いや、火踏組側はむしろ「初めからそういう事をしでかす予定」なのだろうか……。

 役人が契約書にサインをしている合間、龍之介はイレギュラーズを「ちょん、ちょん」と人差し指で突いた。
「……市民へ祭りの宣伝や売り込みする事も必要かと思います。もしよろしければ、その、火踏組という人達にも『ご挨拶』をしてみるのも手段の一つかと……」
 おそるおそるといった表情で提案をする龍之介。それを口の上手い者が役人に進言して、祭りが行われる歓楽街の下見も兼ねた宣伝業もイレギュラーズに任される事になった。

GMコメント

●依頼内容
・祭りに何かしらの方法で参加して、その祭りを盛り上げる事。
・役人あるいは市民からの評価が「×」(最悪)にならない事。下記参照。

●1章の内容について
 祭りが行われる予定の歓楽街へ向かい、その下見や宣伝。あるいは『火踏組』の構成員に何かしらの工作あるいは親善を仕掛けます。
 イレギュラーズそれぞれの行動によって役人、市民、火踏組からの印象が左右されます。
 印象がどうすれば上下するのかについては各々の立場を読み取れれば分かるかもしれません。
 なお現状の印象は龍之介曰く。

役人:○ 期待されてます
市民:― まだ参加すると知らないようです
火踏組:△ 不穏な気配を感じます

 各陣営の評価によって、依頼の雰囲気全体が変わっていく事でしょう。

●火踏組について
 鬼人種の男性で構成される博徒集団。分かりやすくいえば「ヤクザ」。
 一二三(ヒフミ)と呼ばれる熊髭の大男によって束ねられ、時には傭兵家業もやっていた。その経緯からある程度の実力は予想される。

●2章以降。
 第2章は祭り当日。各々の特技を民衆達に披露する場面が開催される予定です。
 何事もなければ3章に『武芸大合戦』という多人数による模擬合戦が行われます。

  • 高天京の技能祭り完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月25日 16時15分
  • 章数3章
  • 総採用数56人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

●期待に応えるというのは悩ましく
 そして歓楽街で行われる『技能祭』当日。真昼の青空に合図とばかりに小さな花火が打ち上げられた。
「さぁ、さぁ。皆様寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 海の向こうからやってきた異国の者その大勢が、得意とする武芸百般、流行りの歌や踊り、その他イロイロと披露してくれるっつう、この祭り始まってまたとない類い希な舞台が披露されるよ!」
 舞台の案内をしている雇われ人がそれを境に、市民から見物代を頂戴しながら舞台の見所を説明していた。
 その口上の内容から察するに、前日に宣伝を請け負ったイレギュラーズが上手くやってくれたのだろう。イレギュラーズの芸を一目見ようと会話しあっている市民達も大勢いた。
「なんや、小さい踊り子がおるとか聞いたが、あっちの文化も盛んなようじゃなぁ。もっとそういうもん見てみたいわ」
「イヤイヤ、武芸やったらうちらも負けん。何せ普段日頃から弓や剣の訓練しとるヤツが大勢おる。特に名手がおる流鏑馬なんかは、あちらさんが勝つ事は絶対ないはずや」
「しかし彼らも傭兵だと聞く。馬術や弓術の心得はあるはずだが……」
 そのように、イレギュラーズの技量を推測しようとする会話が聞こえてくる。イレギュラーズと地元参加者を賭け事の対象にしている火踏組や市民もいくらかいるようだが……。
「武芸や技術というものは、競い合ってこそというのが人間の本能です」
 ドヤ顔でそう語る少年情報屋の龍之介。自分の後ろ盾でもあるイレギュラーズ達が民衆に褒められていて、気分が良いのだろう。そして彼は調子に乗ったのか、
「一つ、取り仕切ってる人に掛け合って地元の参加者と明確に競い合ってみるというのはどうでしょう! 種目によっては相手が見つかるかもしれません。そして勝ってしまえば市民からの評判はうなぎ登り間違いなしです!」
 勝つ事を前提で言われているが、それでもし負けてしまったら市民からの評価低下は伴ってしまうのではなかろうか。観客達も対戦を望んでいる節があるのは確かだが……。
 龍之介が鼻息を荒く勧めていると、「楽しそうですな」と背後から話しかけられた。どうやら依頼を持って来た役人のようだ。
「皆様をお呼びした甲斐があるというものです。他の者達もそのように思っておりますよ」
 それを聞いてどんなもんだいという顔をする龍之介。しかし役人の表情は固かった。
「火踏組の処理、どうか約束通りにお願い致します」
 そのように釘をさされる。成る程、前日より本格的に役人の監視が厳しそうだ。イレギュラーズが関わろうが関わるまいが、違反行為を取り締まって火踏組との小規模な争いは起こるだろう。問題はそれに対してどのような具合に加勢するかどうかだが……。
「さぁ! イレギュラーズ様! 祭りを楽しみましょう!!!!」
 意気揚々とする龍之介からイレギュラーズ達はそのように誘われ、役人の厳しい視線から一時的にそれとなく逃れる事となった

 観客へ芸を披露する者以外にも……どうやら本格的に火踏組と役人の世話をする人員も必要になるだろう。

――――
●GMからの情報
 技能際当日となりました。依頼としての大目的は二つあります。

・市民に向けて芸を披露する。あるいは競う。
 自分の得意とする技能を市民に向けて披露します
 それが地元の参加者と競い合えそうな芸であるなら、相手とそれを競い合うという選択肢も取れるでしょう。
 無論、カムイカグラの地元参加者も全くの素人というわけではありません。お互いの技量いかんによっては負ける可能性も有り得るでしょう。

・火踏組の無法行為を取り締まる。あるいは交渉する。
 無許可の屋台を広げる、参加者達をネタにした賭博行為、一般人へのみかじめ料の徴収。
 そのような役人には容認しがたい行為が、あちらこちらで見当たります。
 本来の依頼からどういうやり方であれ、誰かが咎めたり交渉したりする必要があるでしょう。
 やり方次第では火踏組との小規模な戦闘が起こり、尚且つ結果によって役人か火踏組からの印象が変動するでしょう。

 その他に、警備をしている体で普通に地元参加者やイレギュラーズの技能を見物して他の誰かと交流するというのも一つの選択肢でしょう。舞台以外にも、和風の食べ物や装飾品を主とした屋台がたくさん並んでいます。
 どの行動においても他PCと一緒の参加を希望する場合は一行目に「●●(ID)と参加する」旨を書き込んで頂けると幸いです。
 なお龍之介もこの場に一応居ますので、呼びかけられれば出て来ます。

●現時点で情報屋から曰く
役人:― 火踏組との後ろめたい繋がりを僅かに疑われているようです。
市民:○ 大いに期待されています! 多少の事ではこの評判は揺らがないでしょう!
火踏組:― 殺気付いた目をされる事は少なくなりました。今はこちらを大怪我させる腹づもりはないようです。
――――


第2章 第2節

弥狐沢 霧緒(p3p001786)
傾国邪拳士
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家

 技能祭に使われる複数の舞台。本番直前にイレギュラーズは市民達に紛れて最終的な調整準備を手伝っていた。
「市民の評判をうかがうに我々も相当期待されているように見える」
 開催を待ちわびてる観客達の様子をそのように分析する『お嫁殿と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)。
 技能祭においては各々持ち前の特技を活かせば万全に進む事間違いない。しかし心配事もいくらかある。
「任侠は嫌いでは無いが、そも血の気の多い男が好かぬ」
 鬼灯の言葉に舞台準備を率先して手伝っていた『傾国邪拳士』弥狐沢 霧緒(p3p001786)が、火踏組や役人達の事を思い返して苦い顔をした。
「無闇に役人に眉を顰められるより余興でも披露しておる方が楽しいものよ」
「違いない。だが……どう転んでも楽しくなりそうで、年甲斐もなくはしゃいでしまうな」
『うん、楽しみましょうね鬼灯くん!』
 仲間の手前で嫁殿といちゃつく鬼灯。そんな彼に誰かが声を掛けてきた。
「おぉ、腹話術師のあんちゃん。いたいた、アンタを探してたんだ」
『あら、この前のお爺さん! どうしたの、何か困り事?』
 舞台袖で準備をしている鬼灯達の代わりに、そのように返事をする嫁殿。
「いや、な。傭兵さん達えらく期待されてるって話じゃねぇか。で、取り仕切ってるヤツが口上言えそうな異国人を進行役の手伝いに連れて来いっつーんで……」
 異国人もといイレギュラーズは注目の的になっているから、そんな頼み事を持ちかけてきたのだろう。
 二人は顔を見合わせる。そういう場を盛り上げるのはお互い得意だ。
 霧緒はしたり顔で一つ。
「金が貰えるなら妾もやぶさかではないが……」
『見て、鬼灯くん。小さい男の子もいっぱいいるわ。あんなキラキラした目で見てて、私も緊張しちゃいそう』
「彼らも嫁殿の美しさに見とれてい
「さぁいくぞ黒影の坊主! 我々の芸を彼らにみせてやろう!」
 何事か「小さな男の子」と聞き意気揚々とする霧緒。鬼灯が有無を言う暇もなく、舞台袖から引っ張り出されていった。

「さて、お集まりいただき感謝する。俺は黒影鬼灯、黒衣だ。そしてこちらの可愛らしい……女狐様達が司会の手伝いをさせていただく。嫁殿と弥狐沢殿だ。」
『ごきげんよう! 今日はいっぱいお話をしに来たのだわ!』
「気を揉む御役人、活気溢れる町人、我がやらねば誰がやると構えた侠達! 海どころか世界を股に掛ける『ろぉれっと』の端くれなれば! 集った皆様に御挨拶がてら一芸仕りましょう!」
 各々人形やら式神やらにも狐の扮装をさせて、それらしい開演の挨拶や前座の舞を披露してみせる。
 その開演の様子を遠目にうかがう数人の役人。
「よいのか。奴らとも火踏組と繋がっておるとの噂が……」
「よい。我らの仕事が減るというものだ。盛り下がった様子もあるまい」
「……化かされねばよいが」
 前評判通り、市民の反応は上々。技能祭は良い具合で始まったのであった。

成否

成功


第2章 第3節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
篠崎 升麻(p3p008630)
童心万華

「ケッ、役人っつーのは利己主義過ぎて好きになれねぇな」
 舞台に上がっているイレギュラーズの面々が役人に値踏みされているところを目撃して、頭を掻く『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)。
 市民に評価されるのは純粋な好意や憧憬だからそう気分も悪くない。だが一部始終を見ている限り役人は一貫して秩序を重んじ、かつ打算的だ。悪党を自負するグドルフとはどうにも相性が悪い。
「おう、てめぇウチのシマじゃ見ねぇ顔だな」
 しかめっ面で舞台を睨んでいたグドルフに対して、火踏組の若い男が後ろから腕を引っ掴んで来た。
 いかにも何処ぞからやってきた「賊か同業者か」といった見た目をしているグドルフに“シキタリ”というヤツを教え込みに来たのだろう。
 相手が数人の徒党を組んでいるのを確認してから、グドルフはにたりと笑う。
「世間知らずのガキどもが、馬鹿の一つ覚えみてぇに群れやがるのはこの国でも変わらねぇってか」
「……ンだと?」
 若い男達は脅しとばかりに木刀や角材を構えるが、グドルフはむしろ内心で「役人のカタブツより余程やりやすい」とその対応を歓迎している。
「ハッ……こういういろんな奴が集まる所は、日陰者がウジャウジャと虫みてえに寄ってくるわけだ。しかし、そいつらも運が無え。何せこの最強の山賊、グドルフさまがここに居るんだからよ!」
 グドルフの啖呵に激昂した男の一人が、グドルフの額向けて木刀を叩きつける。グドルフは流血を垂れ流し、市民達も「なんだ武芸試合前の喧嘩か」と集まってくる。
「オラオラ、テメェらから吹っ掛けてきた祭りの花だ! お望み通り高くつくぜカスども!」
 相手を叩き潰す大義名分が出来たところで、グドルフは笑みを浮かべながら腰に差していた刃物を取り出そうとした。
「ぐェッ!」
 刃傷沙汰になる寸前、発砲音が鳴り響いてグドルフに殴りかかった男が腹を抱えて膝をついていた。皆が発砲音がした方を見る。
 非殺傷の弾丸を撃ったのは、『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)。傍には『らぶあんどぴーす』恋屍・愛無(p3p007296)や『特異運命座標』篠崎 升麻(p3p008630)など数名のイレギュラーズが控えていた。
「お前ら……!」
 グドルフがイレギュラーズだと知らぬ手前で仕掛けた喧嘩であるが、若い男のいくらかは彼女達がイレギュラーズだという事を知っている。……火踏組の親分が「武芸合戦で恥掻かせる」と描いた手前、若衆達が勝手に戦い始めたとなれば具合が悪くなる。
「お二方、待ってくれ。取り締まりにしても御上に刃向かうにしてもちーっと抑えた方が良さそうだぜ」
 それを踏まえてか、敢えてそう言って場を収めようとする升麻。若衆は返す言葉も無い。しかし、市民の手前だからか引いてもくれない。
 どうしたものか。面子というのは厄介だ。理ではないゆえに。愛無は内心でそう思いつつ、グドルフに事情を説明する。
「……ふんっ、命拾いしたな。おら、お前らも散った散った」
「なんだい、喧嘩はやらないのかい」
 グドルフはそういう風に素っ気なく返し、関心を無くした市民も蜘蛛の子散らすように去って行く。こういう悪党同士の引き際について、ある意味で彼は一番手慣れていた。お互いの妥協のしどころというか。
 グドルフが睨みを利かせつつ、その間に他の面々が火踏組の若衆に提案を向けた。
「みかじめ料は用心棒代も兼ねてる。ソレを払う事で『他所者が起因となるトラブルを回避しよう』という者も少なからずいる筈だ」
「ゆえに役人の犬になるのは体面が悪いというのも理解出来る。三方が丸く収まるのは難しいかと思うが、妥協点を探して、落とし所を見付けていくのが、良いかと思う」
 若衆はイレギュラーズの意見に理解を示しつつも、わざとらしく地面に唾を吐き捨てる。
「御上が何から何まで守ろうとしてくれるっつーのかい。ここいらで手癖の悪ぃスリの顔を知ってるほど仕事熱心な奴もそういねぇだろ」
 ……おそらく探せばいる。いるのだろうが、それを連れてきて納得してもらえる話でもないだろう。ラダは別の方向へ思考を巡らせて、火踏組が営んでいるであろう屋台に目を移す。同じタイミングで屋台の売り物に興味を示した升麻。
「その屋台のメシ、美味そうだな」
「ヘッ、御上から依頼受けたいれぎゅらあずが無許可の店からもの買おうってかい。体面悪くなるぜ」
 ラダはそのやり取りでピン、と思いつく。
「ならば無許可屋台を今から許可を取れないこちらから頼み込んでみよう」
 それを聞いた火踏組の若い男達全員は、怪訝そうな顔つきをした。
「ムリムリ。あの御上が無法者の俺達に許可出すと思うかい」
「そこは……そうだな」
 ラダは周囲との意見の兼ね合いをうかがう。全員頷き、相反する者は居なかったので話を続けた。
「賭博などの無法行為はもう少しだけ密かにできないか。それを手土産にこちらから頼み込んでみよう」
 役人へどう説明するか苦労するだろうが、まぁそこは商人であるラダの得意分野だ。
 むしろこの場で建前の確約が出来れば「しつけてやった」と役人の機嫌取りが出来るかもしれない。
「正直な話、やるなとは言えねぇ。このいかつい山賊のオッサン含めて、俺らはみんな分かってるよ」
「けっ……チンケな稼ぎでせこせこしやがって」
 話題を向けられてグドルフは悪態をつくが、彼含めて全員そこら辺の事情は把握していた。
 改めて、愛無達は火踏組に話を向ける。
「面子というなら、我を通すなら、筋も通さねばならぬ気もするが」
 主導権を握られたと感じたのか、若衆はぐっと歯噛みする。グドルフが睨んでいるにも関わらず胸ぐら掴もうかというところで。
「動いてくれるな。拙者はローレットの者でござる」
 何者かが物陰から一団に声を向けた。『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)だ。
「そろそろこちらに役人が巡回に来るので一度ここを撤収しては貰えぬか?」
「お前もろーれっとか」
「何、役人相手と違ってお主らからお代は頂かぬ。いずれローレットの者にお主等の手を貸して頂ければそれでよい」
 自分達の雇い主が誰であるか、改めて言い示した。
 ……役人が雇った傭兵に悪態ついているところを見られると、利がある状況でもなければますます火踏組には具合が悪い。彼らは何事もなかった素振りでその場を一時立ち去ろうとする。
「おう、待てよ。こいつとの取り決めはどうすんだい」
 ドスを利かせた低い声で脅しつけるグドルフ。若衆は多少怯えた表情をするが、相手が下っ端ゆえに無理矢理取り付けるのも難しい。
 仲間から又聞きしたヒフミとやらの性格を想像してから、何か名案を考えついた顔をする愛無。
「納得がいかぬなら、武芸合戦とやらで決着を付けるというのは如何か」」
 お互い、武芸合戦で戦う事は元々想定していた。その話に乗っかる仲間達。
「おう、そこのメシ食いたかったしな。そうなりゃ役人に睨まれる事も無しだ!」
「私達に対し、思うところがあるのは当然。それについてもどうか武芸大合戦の時に晴らすといいだろう」
 親分格のヒフミがこの提案にどういう反応をするか、若衆はそれを想像してから力強く頷いた。
「……たぶん、ヒフミの旦那ならその喧嘩買うだろう。だけど、負けた時は分かってんだろうな」
 彼らは挑発的な笑みを浮かべると同時に、すぐヒフミや幹部と相談するべく何処かへ走っていった。

成否

成功


第2章 第4節

彼岸会 空観(p3p007169)

「火踏組の方と話をして参りました」
 役人の面々にそのように打ち明ける彼岸会 無量(p3p007169)。
「なに!? 貴様ラァ、やはり火踏組と繋がっておったか!」
 役人の一人がそう勝手に誤解する。この役人よりも部下の非礼を認めたヒフミの方が余程寛容ではなかろうか。内心でそう思いつつ、先ほど仲間が話していた件も含め事情を述べた。
「なに、武芸大会で火踏組を負かせば奴らは無法な行いをやめるだと?」
「彼らの性格を考えるに、この勝負は受け入れられるかと」
 相手は『ぽっと出の異国人風情に負けるつもりはない』といった所だが、わざわざ役人に説明するまでもないが、役人はそれを聞いて怒り狂った。
「無法はそもそもあってはならぬもの!! 賭け事の餌にする以前に、勝った負けた関係なく言語道断である!!」
 強い語調でまくし立てられたが、正論でもある。しかし無量は萎縮するでもなく、冷静に言い返した。
「妥協点を探らねばならないのではないですか?」
 彼らを壊滅させろと言われれば、それは実行可能だろう。だが無量から言わせれば「彼らはこの都の平穏に裏から助力している」し、役人も壊滅させろとまでは依頼してない。
 役人もそれを踏まえて「むぅ」と顎を撫でて唸った。
「全面的に容認しろと言うのでは御座いません」
 仲間から引き受けた屋台の許可を出す提案を役人に説明しつつ、武芸合戦で自分達の戦いを邪魔しない事を約束付けさせた。

成否

成功


第2章 第5節

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師

 あぁ、言い合いになったりしているんだろうな。
 舞台から遠目に役人や火踏組のやり取りを眺めて、そのように思い浮かべる『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)。
「警備の方達が大変な目に遭っているのかしら……?」
 錬が遠い目をしているのを心配そうに尋ねる『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)。
 錬は何でもない風に笑ってみせ、舞台の順番が回ってくる。
 彼は予め運搬しておいた仕事道具一式を舞台に展開してから、観客に向けて自分の芸を説明しながら、魔術で温めた炉に金属の延べ棒を投げ入れる。
「俺は鍛冶を己の業としている。皆には、早撃ちならぬ早打ちを披露しよう」
 頃合いを見てから赤く熱した延べ棒を取り出し、力一杯叩き始めた。
 鍛冶屋を生業とする錬であっても、自分の持ち時間だけで刃物を作ろうとすれば多少無理は出てくる。だがこの場においては見栄えが優先だ。
 その判断は正しかったのだろう、延べ棒を打つ度に飛び散る火花を浴びて涼しい顔をしている錬に観客は目を奪われ、その手元の延べ棒は薄く延ばされて刀身の形になっていく。
 さて、早々に火造りを終えたコレを生研ぎすれば刃物としての体はなす。柄を付ければ護身用のナイフとしては十分だろう。
「ハッ、なまくらを造って何が芸だ!」
 舞台袖からそんな罵声が飛ぶ。武芸者……地元参加者か?
「やぁ、皆の衆! 騙されてはいかぬぞ、真の武芸者というのは我が武具の様に業物を……」
 新参者を踏み台にしようという打算であろう。傍に居たアーリアに対しても「この者も武芸を披露しようとしているようだが、カムイグラの民の足下も及ばぬであろう!」と大見得を切った。
 ……まぁ、事前評価が高かったアーリアをそのようにあげへつらって反感を買っているのだがこの武芸者は気付いていない。
 場が冷えていくのもあって、自分が少し懲らしめてやった方がいいかもしれないとアーリアはそう思って舞台に歩み出る。
「炯眼であらせられるようだけど、本当にそうかしら」
「見栄をきりよって。ならばあの――十丈先にある的にそのなまくらを投げ刺してみるが良い」
 武芸者が指さした30メートルほど方を見た。既に的が用意されている。外した後に自分が当ててみせるまで予定済みなのだろう。
 錬に柄をつけてもらったナイフをひょいと貰い、狙いを定めながら武芸者に提案する。
「お侍様、賭けに負けた方は一枚ずつ衣服を脱ぐなんてどうかしら」
 武芸者はそれを聞いて、鼻の下を伸ばした。
「はは、にわか仕込みのなまくらが的に刺さるわけあるまい。裸に剥」
 的の方から小気味の良い音が響く。見れば、撫で切るような形で錬の打った刃物が突き刺さっていた。
「……少なくともこの分野で劣るつもりはないな、今からでも注文は受け付けるが?」
「ここからは別料金だけれどね」
 一連の早撃ちとナイフ投げは、武芸者が真っ裸になるまで続けられた……。

成否

成功


第2章 第6節

ンクルス・クー(p3p007660)
山吹の孫娘
中野 麻衣(p3p007753)
秒速の女騎士

 おかしい。こんなはずではなかった。
 舞台袖で一度褌を締め直してから、深刻な顔付きをしている先の武芸者。
 この舞台でローレットをくだしてしまえすれば、武名も上がり何処ぞのお抱えとなる計画であったのだが、これでは……。
「オジサン良い体つきしているっす」
 やたら胸の大きい少女が――『秒速の女騎士』中野 麻衣(p3p007753)――が、褌一丁の武芸者に話しかけてきた。
「異国のプロレスという格闘技に挑戦してみないっすか?」
「ぷろれす?」
 麻衣は相手にルールを説明する。武芸者は「相撲のようなものだな」と納得してくれた。
「その人が対戦相手?」
 麻衣に声をかけるプロレス衣装の『鋼のシスター』ンクルス・クー(p3p007660)。
「お主がぷろれすの相手か?」
「お兄さんが受けてくれるの?」
「女を甚振るのは趣味ではないが、試合ならば致し方ない」
 口ではそう言いつつも、ローレット相手に雪辱を果たせるとその顔はにやついている。
 二人は「これが助平というヤツか」と微妙な誤解をしつつも、別に設営しておいたリングで彼と対戦する事にした。

「異国のプロレス、相手の攻撃を受け切るのが美学の格闘技です!」
 集まった観客に向けて、マイクパフォーマンスとばかりに声を張り上げるンクルス。
 彼女が纏うのは普段と比べて露出度が高いプロレス衣装。見た目映えるのだが、武芸者が相変わらず褌一丁だから絵面が酷い。
「ほざけろうれっとの! お主を倒して名をあげよう!」
「おーっと、武芸者選手の勝利宣言っす!」
 意図せずしてヒーラーっぽい言葉を返す武芸者。麻衣は実況しながら囃し立てている。
 試合開始の鐘が鳴り、ンクルスは自分から仕掛けない。武芸者はそれを見て蹴りをかましてから顔面に掌打、次に禁じ手の頭突きを繰り出してきた。
「おーっとラフプレーっす!」
「武芸なら礼儀は無用ぞ!」
 この男はヒールが天職ではなかろうか。ともかく頭突きをマトモに喰らったンクルスはよろめいている内に軽々と抱きかかえられ、場外へ投げ落とされる。
「おーっとンクルス場外だぁぁぁっ!! ワン……トゥ……」
「何? これで勝ちではないのか」
 武芸者も自ら場外に向かう。形式上20カウントで勝利だとか、場外選手に対する追撃はカウントリセットだとか武芸者にとって知った事ではない。要は気絶させれば良いのだ。彼は背中を打って仰向けに倒れているンクルスに向けて、踏みつけを行おうと足をあげた。
「っ」
 ンクルスは素早く中腰の状態に移行し、竜巻式足投げの要領でストンピングをひねり潰す。
 プロレス技への受け身など訓練していない武芸者は延髄を強打し、そのまま昏倒してしまった。
「ワンー、トゥ-!」
 場外乱闘が終わってからカウントを再開する麻衣。ンクルスはリングに戻るが武芸者は20カウントが終わっても意識を取り戻す事はなく、小さなプロレスラーに対する観客の称賛が周囲を埋め尽くした。
 

成否

成功


第2章 第7節

わんこ(p3p008288)
雷と焔の猛犬

「なんだありゃ、みっともねぇ」
 火消しの一団が武芸者を眺めて苦言を漏らす。
「俺達みてぇに仲良くすりゃあいいのにな。なぁ嬢ちゃん」
 そう話を向けられる『シャウト&クラッシュ』わんこ(p3p008288)。
「イヤァ、仰る通りです。私もご厚意に預けラレテ……」
 彼女の服装は一団に貸してもらったカムイグラのハッピ。男物だから袖がダボつくが。
「いいってことよ。さ、嬢ちゃんの番だぜ」
 纏め役は慇懃無礼なわんこの態度に快く返し、彼女を見送った。

「さぁさぁお立ち会い、小娘だからと侮るなかれ」 
 わんこは垂直に固定された梯子をさも当然のように手を使わず登りながら、身振り手振り大袈裟に語っていく。
「あっしとて海を渡りし神使が末席……戦で鍛えた身のこなし、今こそ御覧にいれやショウ!!」
 足かけを二つ手にとって、下半身を外へ投げ出し開脚する。横大だ。
 筋力が必要な大技なのだが、それは小手調べとわんこは最上段へすぐ登って、頂上の一本に首を載せ、もう一本に腰を乗せて手を叩いた後、手足を力強く開いた。
「これぞ大技『二本背亀』!」
 観客から拍手が鳴る直前、梯子は固定が甘かったのか固定具が外れ倒れていく。
「あぁっ!」
 悲鳴が響いた。わんこは、軽業慣れしていたお陰か足から着地。それも「芸の一部」に取り込めた。
「猿も……イエ、犬も木から落ちる!」
 安堵した観客から笑い声が漏れる。改めて、大きな拍手が彼女へ向けられた。

成否

成功


第2章 第8節

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
ニア・ルヴァリエ(p3p004394)
太陽の隣
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウ(p3p006734)
薊の傍らに
スー・リソライト(p3p006924)
猫のワルツ
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
蔀・蓮華(p3p008732)
水席
八寒 嗢鉢羅(p3p008747)
笑う青鬼

「おぉ、皆やってるじゃあねえか。……弓はともかく、馬なら俺も覚えがあるぜ。へへっ。さぁさぁ高天京の皆々様よ! この若輩獄人と馬を走らせて競い合おうってつもりはねぇか!」
 舞台は相変わらず順調。それを見て上がり調子の『笑う青鬼』八寒 嗢鉢羅(p3p008747)は、馬術を披露しようという者どもを集めて競争しようではないかと提案している。
 同じ技術を持った地元参加者も好意的に「おうよ」と乗ってくれ、競う相手に困らなそうだ。
「やっぱここの奴らはキップがいいねぇ! この舞台の外回りをぐるっと3週、先に回り切った方が勝ちよ!」
 持ち寄った馬で各々は準備を始めた。

 さて、それらを値踏みし始めるものがいる。火踏組だ。
「青肌の鬼かえ。同郷者か?」
「奴らもろうれっとに組みするか」
 そのように一同から睨まれている嗢鉢羅……が、その視線はどうやら敵愾心を抱かれたわけでもない。
 嗢鉢羅が同族(ゼノポルタ)というのもあるが、それ以上に
「じゃあ、十つ彼奴に賭けよう」
「お主、ろうれっとは皆殺しにすると前日まで息巻いておったクセに……」
「賭け事とソレは別の話じゃ」
 市民も交えて賭け事をしていたのであるから、弓や鉄砲を射かけようという気も失せる。
 しかしその賭けは同郷の者であろう鬼人種かつ今評判の神使(イレギュラーズ)とあれば『縁起が良い』という事で彼に掛け金は集中する。
 まいったな、これでは賭けにならぬ。そう思った火踏組は声を張り上げた。
「おい、あの馬術勝負。他の参加者に賭けてみる者はおらぬか!」
 周囲に役人がおらぬのを良い事に、市民達へ交ざる事を呼びかける。無論、他の参加者推しの市民もいくらか居た。
「じゃあ、記念にいくつか……」
 と何人か寄ってきたところで、周囲を見回っていた『君が居るから』ニア・ルヴァリエ(p3p004394)と『水席』蔀・蓮華(p3p008732)が諫めに来た。
「目につく違法行為は咎めさせてもらうよ」
「そう大声を張られたら目につかんでも耳についてしまうわ」
 市民達は舞台を盛り上げてくれたイレギュラーズに刃向かうのもバツが悪い。早々に退散してしまう。その様子を見て「またイレギュラーズか」と歯噛みする火踏組。
「単に“まんじゅう”賭けようとしてただけだ。それさえお見逃しいただけないのかい?」
「しらばっくれるってんなら……まあ、お上を呼ばせてもらうしかなくなるよ。悪いけどさ、誰に……とは言わないけど、あたしも依頼で来てるからね。大人しく諦めてくれりゃ嬉しいんだけど」
 ニアと火踏組の一同で睨み合い。そも、屋台の許可を取るのだから今回に限っては博打は控えるとの密約がある。
「……おい、其処の獄人。貴殿、博打の許可は取ったか? 我らが屋台の許可をどうにかするから、博打はやらぬという約束であろう」
 火踏組がギリリと尚更歯噛みした。そして、泣き出しそうな顔をする。
「お、お前らのせいで客が半分以上減っちまってんだよォ!!」
 何の事だ。ニアと蓮華はそんな風に顔を見合わせ、火踏組にその原因へと連れて行かれた。

「ぶはははッ、祭りに的屋はつきもんだが、無許可はいけねぇってやっぱり皆分かってんだな!」
 仲間から許可を取る話で火踏組や役人をいくらかやり込めた事を聞き及んで、快活に笑うゴリョウ・クートン(p3p002081)。それまで制裁目的で「料理の旨さで彼らの客も奪う」と正攻法でやっていたが……中々どうして集客の勢いが止まらぬ。
「豚のおっちゃんー、おいら腹すいたよー」
「お、いれぎゅらあずが食い物出してるんだってな。あんちゃんがそうなのか?」
 とはいえ、自分の料理を期待している者達を目の前に「今日は店終いだ!」とするのはどうにもゴリョウの性分に合わない。
「ちぃと待ってな。すぐご馳走してやるぜ!」
 豊穣では幻想などと畜産の種も違うのだろう。(人面顔のロバがちらついたが、その考えを振り払い)そのように思い浮かべながら、肉を取り出す。
「焦げたタレは聴覚と嗅覚に響き、肉感強い見た目は視覚に効く」
 じゅうじゅう。分厚い肉が焼かれていく場面をそのような口上で披露しながら、それをちょうど良い大きさに切り分けて米に巻き付け、割り箸を刺して固定した。
「これで手も汚さねぇ心配りよ!」
「わぁ美味しそう!」
「おぉ、こりゃ何の肉だい? いや、先に食べて言い当ててみせよう……」
 その賑やかな声や肉が甘ダレで焼かれる匂いで、ますます市民が集まる雪達磨方式。
「成る程、これではあちらにいくまい」
 苦笑する蓮華。火踏組の料理が旨かろうと、『今人気のイレギュラーズから異国の食品が振る舞われる』という物珍しさには勝てぬ。追い打ちに、ゴリョウの料理は相当旨い。
「あっちもあっちで美味しいんだけどなー」
 火踏組の屋台から買ってきた食品をモグモグしながら、そう呟く『新たな可能性』笹木 花丸(p3p008689)。
 彼女は「役人さん、なーんか嫌な感じ」と、どうにも警備に本腰を入れる気にはならない。目の前で乱暴事が起きる気配があればもちろん止めに入るつもりであったが、中々どうして。イレギュラーズだと明かさなければ火踏組は愛想が良い人間ばかりだった。
 自分達に高圧的に振る舞う役人という存在もあってか、それは花丸にとって若干思う所もあった。
「……ま、屋台に人が集まるのは良い事だよね。お祭りはやっぱこうでなくっちゃ……」

 流石にここまで人が集まると血気盛んな火踏組の若衆がゴリョウに文句や喧嘩の一つでも吹っ掛けに来そうなものだが、まぁそれが出来ぬ理由があった。
「はぁい、お疲れ様♪ あら、また来たの? 火踏組のオニイサン。さっき物陰でシテアゲタ事、またお望み?」
 屋台屋台の見回りをしている『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)。ニアと蓮華を連れてきた男は顔を赤らめてバッと顔を横に向ける。胸が豊満だとか、彼女自らから胸を触らせてくれるだとか……調子に乗って物陰についていったら手刀を食らって気絶させられてたとか経緯だとか……。
「心音が乱れていますね。何か企んでいるのでしょうか」
 イレギュラーズや一般市民の警護を務める『盲御前』白薊 小夜(p3p006668)が訝しげにする。傍らには『支える者』フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウ(p3p006734)と『猫のワルツ』スー・リソライト(p3p006924)。そして何故か、地元参加者とおぼしき数人の踊り子。
「ご安心下さいお姉様。火踏組の方も、今日は怖くはありません」
「そうね、市民の人達を目の前に押っ始めようなんてしないと思うわ」
 フィーネとスーがそのように宥める。イレギュラーズと名乗れば顔を火踏組には顰められるが、いきなり殴り掛かってくる気配が全くないのは事実であった。――まぁ、殴りかかるどころかちょっかい出そうとすれば絶対横の女剣士に斬りかかれるから手を出さないというのもあるが……。
 利香はニアと顔を見合わせ、「このオニイサンは私が物陰に連れて行った方がいい?」という風なサインを送った。
(……下手にぶっ飛ばして遺恨を残しても面倒だとは思っていたけど)
 ニアは周囲の盛況さや火踏組がじっと堪えているのを眺めて考え込む。一応、彼らは彼らなりに律儀な側面もある。さて、どうしたものか。

「おう、大盛り上がりじゃねぇか」

 のしのしと重々しく地面を踏みしめてゴリョウの屋台にやってくる熊髭の大男と火踏組の一党。
「あら、ヒフミのオジサマ」
 利香が挨拶とばかりに彼の名前を言いのける。イレギュラーズの何人かがそれに反応して、少し身構えた。
 ――まさか此処で仕掛けようっていうのか。
 イレギュラーズや市民や火踏組一同の脳裏にそんな考えが掠める。
「火踏組の頭領様ですか、ちょうどよかった」
 三陣営の不安を余所に、フィーネが歓迎する風に言う。対して、火踏組一同は一斉にフィーネを睨み付ける。
「……こちらで一般の方々にお姉様やスーさんの舞を披露するように役人の方に頼まれているのですが……よろしかったら、その、観ていくのはいかがですか?」
「ど、どーもどーも……」
 少し怯えるフィーネとスー。一同の視線から彼女らを庇うように少し前に出る小夜。
 ……成る程、イレギュラーズ以外に数人踊り子がいるのはそういう事か。近くに屋台があれば飲み食いによく金を落とすだろうし、役人の奴らもちゃっかりしてる。
 火踏組の一党はそんな思惑に気付いて怖い顔をしているも、ヒフミがそれをかき消すように大声をあげた。
「おぉ。いいじゃねぇか、お前らの歌や踊りの演奏は良かったって市民から聞いてるぜ。 いっちょ、俺達にも見せてくんねぇか」
「見物するなら、料理もお勧めだよ。異国のお肉」
「おう、ウチから買ってくれた嬢ちゃんじゃねぇか。じゃあこっちのも……」
 花丸に誘われたヒフミは、当然のようにゴリョウの料理をいくらか買い漁っていく。
「ぶはは、まいど! なんだ、思ってたより喧嘩っ早くねぇんだな!」
「ガハハ、良いもんは良い。それだけの話さ」
 旨い物が食べられて機嫌が良いヒフミ。部下を押さえ込むのも含めてそんな風に振る舞っているのだろう。
「やっぱり、火踏組の人達は怖くはありません」
 ヒフミの好意的な態度を見て、何か安心したフィーネ。……彼が「イレギュラーズは武芸合戦でぶっ潰す」とか言ってたのを仲間から又聞きしたが、フィーネには黙っておくとして。
「そ、それじゃあ! フィーネちゃんがいる事だし私達は『異国の音楽』ってのを披露しようかな」
 気を取り直して、そのように周囲に説明するスー。競争するかどうか周囲に打診していると、それを聞いていたヒフミが提案した。
「そうだ、競争代わりといっちゃなんだが。こいつらを納得させる舞を見せたら、さっきの賭博するなって話を聞き入れてやるよ」
 突然、部下達を指し示してそのように言い出すヒフミ。まさか反故する理由にするつもりではないかと思ったが。
「市民からえらく評判良いが、まさかペテンじゃねぇだろう」
 熊髭に似合わない人なつっこい笑みで、わざとらしい挑発をスーや小夜に向ける。二人含めたイレギュラーズは「そういう事か」と内心苦笑しながらも、フィーネは小夜が「とても馬鹿にされた」ように感じてムッと表情を崩した。
「……でしたら、とくとお聞きになって下さい」
 歌や演奏の内容はフィーネが先導する形で選び、小夜達イレギュラーズの活躍を歌にして紡がれた。小夜個人に対しての詩は、多少ぼかして詩にされていたが。
 火踏組の一同は最初は鼻で笑うような態度だったが、スーと小夜のキレの良い剣舞は歌の内容に真実味を帯びさせた。
「な、なぁ。以前から気になってたが、龍ぶっ倒しただとか噂は本当なのか……? それ以外にも歌みたいにデケェ化け物ぶっ倒してきたとか……」
 若衆がイレギュラーズに対して、おそるおそるそのように問いただす。
 無論、我々はその龍を倒してこの国へ来たのだ。イレギュラーズの面々はそのように頷く。悪事に加担する事もあるが、大半は人々を救う依頼をこなしてやってきた。
 火踏組の部下達が歌を聞いて唸っている。悔しさ混じりの声色だが、殺意だとか害意だとかそういうのはもはやみじんも混じっていない。
「……奴らも他国駆け巡って、悪党どもぶっ潰してるって事よ。ああいう技術だって、ペテンじゃねぇ」
 ヒフミ達が部下にそう言い示した。部下達にとって、『ぽっと出の何処の馬とも知れぬ異国人』というのは一番腹立たしかった。取って代わられる気がした。それは自分達がこの地域の一部分を守っているという自負があったから、その怒りは当然の事だ。
 だけれど。フィーネが歌として語る。スーや小夜がその場面を表現するように舞う。自分達がどれだけ苦難を乗り越えてきたか。その過程で何人の者が怪我を負い、死んでいったか。
 火踏組とて妖怪や悪党退治で幾人も仲間が死んでいった経験があるからか、それを聞いている内に苦い顔をする。
 そうやって自分達の軌跡を歌い終えたフィーネ。演奏に集中しすぎて忘れかけていた事をハッと思い出し、火踏組に慌てて問いただす。
「お、お約束は守っていただけるのですか……?! も、もしかして、ダメ、でしたか……?」
 火踏組一同、沈黙。市民も彼らの返答を見守って、拍手を控える。
「おぉ、こっちでもやっているじゃねぇか!」
 馬術競争を終えた嗢鉢羅が、賑やかだった屋台へやってくる。静寂な場面に「何かあったのか?」と首を傾げる。
「あんた、競争に勝ったか」
「あぁ、鼻先でなんとかな。全く、高天京の奴らは馬扱いが上手くて手強いったらありゃしねぇ」
 ヒフミはそれを聞いて、またにやりと笑う。
「そうか、賭けておけばよかったが。約束だから、しゃーねーか」
 それに部下も頷いて、そそくさとその場を去って行く。暗に約束を守ると言ってくれたのだろうか。
 フィーネは小夜が認められた気がして少し誇らしげに、他のイレギュラーズは火踏組との『殺し合い』に発展する事は無いだろうと悟り、市民の拍手を聞きながら武芸合戦でどうするか考え始めた。
 ヒフミも去り際に、イレギュラーズ達に対して言い残していく。
「今日は武芸合戦でお前ら倒す事に集中するよ。健闘を祈るぜ」

成否

成功

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