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シナリオ詳細

バタフライ・ウィズ・レイン
バタフライ・ウィズ・レイン

完了

参加者 : 50 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●海洋の森
 其の不思議な地域は、海洋のとある島にある。
 一面を森に覆われて、森を進めば広い草原。名も知らぬ花に、名も知らぬ木々。人の手が入っていない、まさに未開の地といった雰囲気の島には、とある奇特な気候があった。
 すなわち。

 『晩夏の昼に雨が降ると、夜は必ず晴れになる』
 『晩夏には、触れられない、雨にも濡れない光る蝶が舞っている』

 ――というものである。
 蝶の数は多く、島を回遊するように舞っている。足がかりとなる隣島からも確認できるほどの数だ。
 薄桃色にはばたく其の羽は、災いも幸福も呼ばない。ただ、人の心に引っ掻き傷のような爪痕と切なさを残すだけ。
 入り口には様々な大きさの傘が置かれている。雨は霧雨、急がなくても濡れはしないが、傘を差さなければいつの間にやら水浸しになってしまうだろう。



「――という島があるんだ」
 グレモリー・グレモリー(p3n000074)はそう言って、海洋専用地図の一点を指さした。小さな丸い島である。
「此処は無人島でね。蝶が何をするか判らない、って他の人間は怯えてしまって、開拓の予定はないそうだ。その代わり時々バカンス客が観光に訪れる事がある。そして今は晩夏。つまり、そうだね。君たちも日頃のアレコレで疲れているだろう。行ってくると良いよ」
 グレモリーはウン、と頷いて。
「丁度夏も終わりだし、思い出作りにも良いんじゃないかな。年中夏みたいな海洋だけど、だからこそ、季節感を取り戻したい人が行くという話も聞いた」
 雰囲気的には秋なのかな。どうなんだろうね。
 グレモリーは浮かんだ疑問を隠さない。呟いて首を傾げ、まあいいや、と別の島を指す。
「其の島には此処の港から出る船でしかアクセスできない。港までのアクセスは整っているから、特に心配もないだろう。じゃ、いってらっしゃい」

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 海洋大好きなので海洋のイベシナをどうぞ。夏とか全く関係なくなったけど。

●目的
 不思議な気候を楽しもう

●立地
 海洋にあるとある島です。
 一面に森が生い茂り、普段は人の近寄らない場所です。
 薄桃色の蝶の群れが昼夜問わずふわふわと舞っています。
 また晩夏の昼に霧雨が降った日は、必ず夜に晴れた夜空を見られます。
 出店などはありません。

●出来ること
 1.蝶が舞う霧雨の中を歩く
 2.晴れた夜空を見上げたり蝶を見てみる

 地域の入り口には、誰のものか判らない傘が置いてあります。
 デザインも色も大きさも様々。
 使っても文句は言われないでしょう。

 また、蝶にはなぜか「触れることが出来ません」。
 未練を残して死んだ魂だという言い伝えもあるようです。

 夜は晴れた空が広がり、月と星々が優しく照らしてくれます。
 未開拓ゆえか、その光は、夜でも迷わず森を歩けるほどです。

●NPC
 グレモリーが昼夜の光景をスケッチしています。
 お声掛けはご自由に。

●注意事項
 迷子・描写漏れ防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)を添えて下さい。
 やりたいことを一つに絞って頂いた方が描写量は多くなります。


 イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
 皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守って楽しみましょう。
 では、いってらっしゃい。

  • バタフライ・ウィズ・レイン完了
  • GM名奇古譚
  • 種別イベントシナリオ
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2019年09月14日 22時10分
  • 参加人数 50/50人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 50 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(50人)

十夜 縁(p3p000099)
黄昏き蒼の底
クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)
夜刀一閃
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
朝を呼ぶ剱
上谷・零(p3p000277)
フランスパン・テロリスト
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
守護する獣
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)
古木・文(p3p001262)
文具屋
Q.U.U.A.(p3p001425)
ちょう人きゅーあちゃん
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
こう見えて71歳っきゅ!
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
Righteous Blade
リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)
終焉語り
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
守護天鬼
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
楽しく殴り合い
アニー・メルヴィル(p3p002602)
お花屋さん
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
五行絶影
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日の妖精
藤野 蛍(p3p003861)
学級委員の方
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
閃翼
桜咲 珠緒(p3p004426)
要救護者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
さいわいの魔法
クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)
煌めきの王子
美咲・マクスウェル(p3p005192)
見敵必殺
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
ルツ・フェルド・ツェルヴァン(p3p006358)
暗黒竜王
アイラ(p3p006523)
瑞花
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
寝湯マイスター
エル・ウッドランド(p3p006713)
イカダ漂流チート第二の刺客
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
正なる騎士を目指して
シャラ・シュヴァイツァー(p3p006981)
深い緑の蒼
ソア(p3p007025)
雷精
エストレーリャ=セルバ(p3p007114)
賦活
ペルレ=ガリュー(p3p007180)
英雄のたまご
ネーヴェ(p3p007199)
カイト・C・ロストレイン(p3p007200)
六枚羽の騎士
ポムグラニット(p3p007218)
ゆるふわ薔薇乙女
ジェラルド・ジェンキンス・ネフェルタ(p3p007230)
ミドリ(p3p007237)
雑草
メルトリリス(p3p007295)
太陽の弟子
回言 世界(p3p007315)
付与の魔術師
アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
静寂
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
虹を齧って歩こう
ラピス(p3p007373)
揺蕩う瑠璃
久世・清音(p3p007437)
京女の実力
ジェーン・ドゥ・サーティン(p3p007476)
へっちなアイドル目指します!

リプレイ

●RainyDay
 目が覚めるような真紅に、白い櫻吹雪。
 和傘を差して縁は一人、蝶の渦を見つめていた。
「よう。今年も飽きずに、物好きなおっさんが来たぜ」
 茶化すようにつぶやくけれど、瞳は寂しい。この蝶が未練を残した魂だなんて話もあるが、そんな話は信じてはいなかった。未練なんて重いものを背負って、こんな軽やかに飛べるかよ?
「……なぁ。もしも、“あいつ”もどこかにいるんなら――寂しくねぇよう、一緒に飛んでやってくれや」
 寂しがりだったあいつ。俺が水の底へ追いやったあいつ。
 祈る資格はなくても、呟くくらい良いだろう。

 きゅーあちゃん、きょうはちょうちょのしまにれっつごーだよ!
 ほんとにピカピカひかってる! すごい! ぶきみとかいわれてるけど、きゅーあちゃんもピカピカひかっておそろいならこわくないよね?
 カサはなくても大丈夫、かぜをひかないから、雨でもへいき! そして――せーの、ドリームシアター! きゅーあちゃんもひかるちょうちょをいっぱいだして、きせきのきょうえんだよ! 赤、青、みどり、きいろ、たくさんのいろのちょうちょを出してみんなでぴかぴかしよー!
 ちょうちょさん、どう? よろこんでもらえたかなっ?

 リディアは傘もささずに息を潜めて、蝶々を見ていた。薄桃色に輝きながら雨の中を飛び交う蝶は、幻想的で美しい。
 まだ生きていると信じたい。けれどもしかしたら……この蝶の中に己の両親がいるのかもしれない。貴方かな、其れとも貴方? 蝶々たちに問いかけるように手を伸ばしても、薄桃色はすり抜けていくばかり。
 会いたい。無事でいて欲しい。小さく歌うのは、幼い頃に母に歌ってもらったわらべ歌。霧雨で服はいつの間にか肌に貼り付き、髪もしとどに濡れてしまっている。其れでもリディアは満足だった。大樹の下に入り、雨を避けながら、蝶を見つめる。



 余り雨が降っているようには見えないが、傘を確かに叩く小さな音がある。
 エルは1人、雨と蝶の共演を見つめていた。死者の魂という言い伝えがあるらしいけれど、……確かに、そういわれるとしっくりくるものがある。未練を残した魂が、何か伝えたくて羽搏いているような。
 ――父は死んだ。数年前になる。未練なく旅立ったとは思わない。だから、もしかしたらこの蝶の中に紛れているかもしれない。
 会いたい。叶わないとは判ってる、其れでも会いたい。
「お父さん」
 エルの呟きは霧雨の中に消える。静かに、雨に呑み込まれて。

 ――安らぐ夢は、傍らの夢……怖い夢は、遠い夢……
 歌が聞こえる。ペルレの歌が。大きな傘を差して、歌いながら歩いているよ。いや、歌っているのは彼女だけじゃない、水も風も森も、みんな歌っているんだよ。
 ――朝に旅をする人は、喜びを忘れないために
 蝶々も歌っているのかな。キラキラ綺麗だけれど、悲しい歌を歌っているのかな。それとも、羽搏いて嬉しい歌を歌っているのかな。
 蝶の群れにふわり混じっても、蝶々たちは動じない。周りで蝶々が舞う中を、歌いながらペルレはゆくよ。
 ――夜に旅をする人は、希望を忘れないために
 ――雲のように流れ、川のように流れ
 ――この地に戻り、また根を下ろさん

 文は蝶の中を遡るように歩む。海洋はまだ暑さが残っている、と、じめりとした蒸し暑さに思う。
 見下ろしたのは傘の群れ。折れているものは不思議となく、綺麗な傘がたくさん置いてある。はて、誰が置いていったのだろう。けれど、使わない理由はない。
「ごめんね、少しだけお借りします」
 誰にともなく呟いて、拾ったのは無地のビニール傘。これなら上が透けて見えるから、綺麗かも知れない。
 そういえば、此処を案内してくれた情報屋は何をしているのだろう。この雨の中でも絵を描いているのだろうか。探せば会えるだろうか、と、文は傘を差して島の中へ踏み出した。
 器用に絵に傘を差しながら風景を描くずぶ濡れのグレモリーと会うのは、また別の話。

 蝶の中を一羽の鷹が、悠々と飛んでいた。彼――カイトは読んだ通りの煙雨を浴びながら、蝶の群れの中を飛ぶ。鳥を恐れぬ虫の群れ。なんとも不思議なものだと思う。
 ――海で死んだ魂は人魂(ウィルオウィスプ)になるっていうけど、こいつらもそういうもんなのかな。
 丁度良い枝を見付けて、数度羽搏いて宿り木にする。ぶるりと身を震わせれば、水を弾く羽根にしがみついていた水滴が散らばった。鳥の視界で見下ろせば、幾つかの傘が花のように咲いているのが見える。
 海は広く、大きく、そして恐ろしい。いつだって死は隣にいて、袖を引いている。自分もいつ死ぬかは判らない、そうカイトは思う。死んで蝶になったら、この群れの中に混じるのだろうか。其れとも人魂となって、寄る辺なく彷徨うのだろうか。
 静かに鷹は佇む。

「Pi! PiPiPi~!」
 ミドリとポムグラニットは霧雨の中を傘を差さずに歩く。ミドリは葉っぱに雨が当たって気持ちよさそうだ。ポムグラニットも髪に咲いた花に雨を受けて、2人楽し気。
「おはなだったころ ちょうちょさんが みつをすいにやってきたことがあったわ」
 今はどうかしら。ポムグラニットが手を伸ばすけれど、ふわり、蝶は指先を掠めて飛んでいく。或いは触れられない存在だから、留まる事が出来ないのかもしれない。
「PiPi! PiPiPiPi…? PiPi~?」
 飛んだり跳ねたりして蝶に触れようとしたミドリだが、触れられなくて不思議そうにポムグラニットを見上げた。そういうものなのよ、と言い聞かせるように言う。PiPi、と名残惜しそうにミドリはちょっとしょんぼり。
「ねえみどりちゃん。みどりちゃんは たましいって しってる?」
「PiPi……PiPi~」
「そう。わたしには なんのことか わからないけど きっとすてきなものよね」
 2人は歩む。歩む君たちにもきっと、魂はあるんだよ。

「あ、あう……」
 シフォリィは立ち尽くしていた。手元には骨が折れた無残な傘。木に引っ掛けて壊れた其れを、霧雨に濡れながら見つめるけれど、見つめたところで傘は直ってはくれない。
「折角借りたのに…」
「ほら、濡れるぞ?」
 ふ、と頭上に落ちた影、止んで初めて感じる霧雨の冷たさ。シフォリィが振り返ると、クロバが己の傘を傾けて立っていた。
「大丈夫か?」
 クロバが問う。シフォリィは答えない。其の瞳に移るのは過去の幻。傾いた優しい傘に、見覚えがあったから。――そう、こんな雨の日だった。今はもういないあの人が、私に傘を差しだしてくれて……
「ちょ、な、なんで泣くんだ?」
 ぼろぼろと涙をこぼすシフォリィに、クロバは何かしたかと慌てふためく。いいえ、とシフォリィは頭を振り、涙を拭いながら、ありがとうございます、と笑顔を浮かべた。
「……」
 誰かと重ねられている。クロバはそこまでは判ったけれど――判らなかったふりをして、微笑む。きっと其れが、自分と彼女のためだから。

 しとしと、雨が傘に当たる音。
「必要ないかなって思ったけど、持ってきてよかったね」
「ああ。水浸しになるって言ってたしな」
 アニーと零は2人で1つの傘を持ち、ゆっくりと蝶の揺蕩う中を歩く。
「でもこの傘、2人で入るには少し小さいかな。零くん、これ、使っていいよ。私は」
 ケープを被るから。そう続けようとしたアニーの肩に大きな手が回って、引き寄せられる。
「……こうすれば、入ると思うぜ」
 そう呟いた零の顔は赤い。つられてか、顔が近いせいか、アニーの頬にも紅が灯る。
「そ、そうだね。これくらい近くなら、2人でも、入るね……」
 早鐘を打つ心臓。どうしてしまったんだろうと戸惑うアニー、何をやっているんだろうと溜息を吐きたい零。2人をからかうように、蝶がふわり舞う。
「……幻想的な蝶だね」
 そういえば、人の魂だという言い伝えがあった。私も死ぬとこうなるのかな。
 ぽつり呟いた彼女に、彼はこう返す。
「そうだな。ただ、俺が生きてる間くらいは……この蝶になって貰わない方が、嬉しいか」

「あら、ポテトちゃぁん」
「あれ、アーリア」
 ばったり、霧雨の中出会った2人。ぽつりぽつり、このまま別れるのもなんだか寂しいから、話をしつつ蝶の群れを遡るように歩く。
 天義では大変だったね。どちらともなく切り出して――本当は、助けたかった。会って、お義父さんと呼びたかった。そんなポテトの心中に、アーリアは黙して頷く。アーリアの妹は、と水を向ければ、目覚めたら大事な人を紹介しなきゃいけないわぁ、と軽口を。
「……あ。そうだポテトちゃん。改めて、結婚おめでとう!」
「え? あ、ああ。そうだ……有難う」
「ねえねえ、新しい苗字を書いたときってどんな気分だったのぉ?」
「まだ慣れないというか、くすぐったいというか……そういうアーリアこそどうなんだ? 彼と結婚とかは」
「けっ……か、考えたことも、あるけどぉ!」
「あるんだ?」
 女二人、かしましく。蝶のようにひらひら、目出度い話に花が咲く。

 ふとシュバルツは手を伸ばしてみる。其の肌をすり抜けて、薄桃色の蝶が飛んでいく。――触れられない蝶。未練を残した魂、などと呼ばれるが。
「……シュバルツ様? 風邪ひいちゃいますよ?」
 呼ばれて顔を向ければ、メルトリリスの小さな影。ああ、重ねてしまいそうになる。あいつは死んで、彼女は彼女のはずなのに。
「ああ、……傘を拾うのを忘れちまってな」
 メルトリリスは知っている。自分に姉の幻影を重ねられている事を。けれどそれは罪ではない。だから彼女は咎めない。彼の心はずっと姉のところにあるのだと、静かに頷くばかり。
「……」
 暫し考えた後、メルトリリスはふと傘をほっぽった。がばっと髪の毛を高い位置で一つにまとめて。
「シュバルツ! 帰ろう! ほら、風邪ひいたら大変だよ!」
 ……なんて。姉さんなら言うかなって。
 物真似をしてみても、本人になれる訳ではない。あはは、と笑ってごまかすメルトリリスに、ゆっくりとシュバルツは歩み寄り……その頭をぽんぽんと撫でた。
「ご、ごめんなさい」
「いいさ、別に気にしちゃいねぇよ」
 あなたに笑って欲しかった。蝶にさらわれてしまうような気がして。

 和傘が一つ。傘を差さずに歩く影と、隣り合って。
「まだ暑さが残る昨今、たまには霧雨の中を歩くのも良かろう」
 汰磨羈は全身に霧雨を浴びながら、くるりと回って見せる。
「つい傘を持ち出してしまいましたが、この程度なら涼を取るにも良さそうですね」
 雪之丞は頷く。楽しそうに歩く彼女を見ていると、己も傘を放ってしまいたくなる。
「そうだ。この蝶の話は聞いたか?」
 蝶を指差しながら、汰磨羈が問う。未練を残した魂だという者もいるそうだ、と続けた。
「私の世界では、そのような魂を贈る儀式があるんだ。魂送というのだが」
 導となる送り火を焚き、霊を、魂を送り返す儀式。此処にはそういう文化はないのだろうか、と汰磨羈は眉を下げる。あるがままというのも一つのカタチではあるが、せめて、標があればいいのにと。
「送り火は、死者の帰る盆によくあったようですね」
 雪之丞は頷き、思案する。この世界ではどうだっただろうか。送り火を焚く習慣はなけれども、例えば祈りを捧げる、遺体を弔う、共通する安らかであれという死者への祈りはあるのだろうと。
「拙の世界では、魂はやがて天に昇るとも。いずれ三途を渡り、黄泉の国へ」
 それから、と雪之丞は一つ付け足した。汰磨羈様のように、舞を奉納することも、標の一つではないでしょうか。とてもお綺麗ですよ。
「ふむ。……では、彷徨える魂について、どう考え、何をしたいと思う?」
 汰磨羈は問うた。そうですね、と雪之丞は軽く首を傾げ、真っ直ぐ空を指差す。
「拙なら、指し示す程度です。天へお帰り、と」

「わぁ……霧雨ね♪」
 フルールはくるりくるり、傘も持たず舞うように蝶の中を泳ぐ。
「しとしとでもなく、降りしきるでもなく、景色を覆うヴェールのようだわ? 目に映るものが、全て霞んで見えてしまうわ?」
 それにこの光る蝶々。死者の魂って本当かしら。触れてもすり抜ける不思議な蝶々。あなた達は此処で何をしているの? 誰かに見つけてほしいの? ふふ、判らないわ!
 くるくる回り歩くフルールの頭上にふと影が落ちて、彼女は振り返る。青年が1人、傘を傾けていた。
「あんた、何をしてるんだ? そのままじゃ風邪を引いてしまうぞ」
「あらあら、どなたかしら、お優しい人! 大丈夫よ、濡れたら温めればいいわ」
「其れはそうだが、……優しいかどうかは兎も角、どうか傘に入ってくれ」
 青年はルツ、という。彼は膝を折り、フルールと視線を合わせて名を問うた。あんたの名を聞いても?
「お優しい人! 私はフルール、夢語る李花(リーファ)。おにーさんは?」
「私か? 私はルツ。これも何かの縁だ、今日は一緒に回らないか」
 何となく、放っておけなかったのだ。このまま彼女が霧雨と共に消え去ってしまいそうな、霧雨の向こうに消えてしまいそうな、そんな気がして。
 フルールはくすくすと笑い、いいわ、と返した。あとで火を起こして暖を取りましょう。おにーさんも一緒にね? もう少し、もう少しだけ蝶々と一緒にいたいから、一緒に歩きましょう!

「無人島は道がないからね、ボクが先頭に立つよ!」
 ヒィロは耳を澄まして音の反響を捉えながら、美咲に自信満々に言う。蝶々を探すのも任せてね、其れじゃ出発! と、念のため彼女の手を引きながら歩きだす。折角先導してくれるのだ、任せてしまおう、と美咲もヒィロに信頼を寄せる。
「あ! 美咲さん、雨濡れだいじょぶ?」
「雨濡れ? ……ああ、霧雨でも雨だものね。そういえばうっすら服が……ヒィロさんは平気?」
 問いに問いを返した美咲に、ぎくりと肩を揺らすヒィロ。彼女の服もうっすらと湿り気を帯びている。が、だいじょぶ! と大きく返して己を鼓舞。
「スラムでは傘なんてなかったし、ちょっと濡れるくらい何てことないよ!」
「そう? 大丈夫なら私もいいや。帰ったら、しっかり乾かそうね」
「うん! あ、とか言ってたら蝶々を発見だよ!」
 美咲が首を傾げてみれば、薄桃色の蝶がふわりふわり、舞っている。これは、成程。美咲は頷く。
「一見の価値は大いにあるね」
「本当に雨の中でも飛んでるんだね……でも」
 ヒィロは震える。彼女の耳には、生き物独特の反響は帰って来ない。
「うう。ま、まさか、これって、人魂……?」
「うん? おばけこわいの? 大丈夫よ、私、召喚前は退治屋さんの切り札だったんだから」
 笑う美咲に、勇気づけられるヒィロ。うん、と頷いて、2人並んで薄桃色を見守る。

 【花鳶】の2人は霧雨の中をゆるり歩く。シラスは蝶が未練持つ魂であるという言い伝えを思い出し、ふと、記憶を引っ張り出した。
「そういえばアレクシアはさ、たまに俺には判らないものに反応する事あるでしょ。何か関係があったりするの?」
 アレクシアは問われて、そういえば話していなかったな、と思う。命の灯火――そう名付けた己のギフトについて。
「私のギフトは魂が見えるの。シラス君からしたら、変なものをみてることになるのかな」
 お化けは怖くないって前に言ったでしょ。あれはギフトのおかげなんだよ。見えてるものを怖がる必要なんてないからね。
 そう説明したアレクシアに、ふむ、と頷くシラス。じゃあ、この蝶々が何なのか判ったりするのだろうか。聞いてみたかったが、其れもマジックのタネを覗くような、野暮な行為な気がして、口をつぐむ。
「その力で魂の心残りを晴らせるのなら素敵だと思うよ。本当なら取り返しのつかない何かを少し取り戻す、みたいな」
「そうかな」
「そうだよ。……俺の魂も見えたりする?」
「生きてる人の魂も見えるけど、見えるだけだよ。……なんだかしんみりしちゃったな! も少し歩こ!」
 気を取り直して、2人は観光を続ける。単純に、誰かを救う訳でもなく、景色を楽しむために。

 クリスティアンが選び取ったのは、自分好みの赤い傘。撫でるように泳ぐ蝶々たちを眺めながら、何かに惹かれるように歩みを進めていく。すると、不思議なものが目に入った。ふわりふわり、動く葉である。大きな蓮の葉のように見えるが、何故こんなところにあるのだろう。
 よくよく見ると、葉の影に人がいるのが判った。成程、傘として使っているのか。けれどきっと心もとないだろう。己の傘を傾けて、やあ、と声をかける。
「るぅ……?」
「こんにちは。君は一人かい? 僕も一人なんだ」
 良ければ一緒に歩かないかな。
 にこりと笑うクリスティアンを見上げたのは、銀の瞳――アルヴァ。戸惑うような、少し安堵したような表情を浮かべながらも、初めまして、アルヴァといいます、そう自己紹介をする。
「僕はクリスティアン。宜しくね、アルヴァ君」
 にこり、人好きのする笑顔を浮かべる彼。同じ傘に入ったまま、導かれるように蝶々のなかを2人歩く。
「……不思議、ですね」
 見えてるのに、触れられない。其処に確かにあるはずなのに。ふとアルヴァが零す。そうだね、とクリスティアンが頷く。
「まるで夢を見ているようだね」
 でも、君は現実だ。そうだよね。確認するようなつぶやきに、はい、とアルヴァは返した。この偶然の出会いは、夢ではない。

 アイラとラピスは2人、傘を差して森の中を歩く。
「アイラ、雨は好き? 嫌い?」
「うぅん……嫌い、ですかね」
 だって折角のデートなのに、ボクの髪の毛は湿気で跳ねちゃうんだもん。そう呟いたアイラに、僕は嫌いじゃないかな、とラピスが。なんだか落ち着く気がするんだ、という彼の顔は穏やかで。
「そういえば、アイラも……」
 ギフトで蝶を出せるよね、とラピスが言う。そう、アイラは想いを蝶の形に変えて、相手に届ける事が出来る。見せて欲しいな、と言外に伝えるラピスラズリの瞳に勝てなくて、いいよと頷くアイラ。
 ふわり、舞うアイスブルーの蝶。伝えたい言葉は“ボクを見て”。ラピスが触れればほら、耳元で囁くんだ。
「……うん、見ているよ」
 そう、この瞳でしっかりと、霧雨と蝶よりも君を見ている。
 見つめられたアイラは何だか気恥ずかしくて。でも、あの瞳に宿る平穏を乱して見たくて、少し大胆な言葉を次の蝶に込めた。そのラピスラズリを(きみのアイスブルーは)乱してみたいの(ぼくのもの)。
 “ちゅーしちゃうよ?”

「あれま。雨やーって聞いとったんに、肝心要の傘を忘れてもうたわぁ」
 清音がわざとらしく声を上げる。隣にいたウィズィは、それなら入り口にありました、と言いかけて、彼女の誘いなのだと気づいてはっと口を噤む。
「あ……いや、ぃ、一緒に入りますか、私の傘……!」
「ふふ、いいんです? おおきになぁ」
 嬉しそうに微笑む清音の瞳に嘘はない。ウィズィはなんだかドキドキしてしまいながらも、相合傘して2人は歩き出す。
「あ、お清さん! あそこ! 蝶!」
 霧雨の中、ぼんやりと浮かぶ薄桃色。指さして隣を見れば、肩が触れ合いそうなところに清音がいる。なにより顔が近いものだから、なんだか気恥ずかしくて、蝶に視線を戻してしまう。
「ほんまやね。綺麗やわぁ」
 うぶやなぁ、と清音は心の中で笑う。でも、綺麗だといった言葉に嘘はない。恥ずかしがり屋さんと過ごす甘い時間。ありがとさん。


●StarLight
 凱は静かに夜空を見上げていた。時折はぐれた薄桃色が舞う、綺麗な夜空だ。
 この先には何があるのだろう。星が光っているという事は、宇宙が広がっているのだろうか。
「……」
 決して良い記憶ばかりではない。けれど、悪い記憶ばかりでもなかった気がする。破壊装置たれと求められて、それでも――
 ……凱は笑った。皮肉気に、ひきつるような笑い。己が感じたのは、確かに“郷愁”だったから。あんな世界でも、俺は未練を抱いているのか。

 ラクリマは手を翳す。するり、狙ったように掌をすり抜けて薄桃色の蝶が羽搏いていく。
「驚いた、本当に触れられないんですね」
 振り返り、蝶の行く先を見つめながら呟いた。温度もなく、痛みもない。蝶がすり抜けた掌を見ても、何の痕跡もありはしない。
 彼らがもし本当に、未練を残した魂だとしたら。何を思っているのかを聞いてみたいとラクリマは思う。何をするわけでも、何か出来るでもないけれど。きっと自分は未練なく死んでしまうだろうから、死んでなお羽搏くほどの未練とはどのようなものなのか、聞いてみたいのだ。

 蝶には死者の魂が宿る。という話を、世界は昔聞いた事がある。あれは寝物語だっただろうか。今はもう其れを本気にするほど子どもでもないし、信仰深くもないけれど、それが有り得る、有り得ても不思議じゃないのがこの“世界”だ。
「こーいうのは友達とか恋人とくるもんなのかねえ」
 まあ、俺は天涯孤独の身だから仕方ないんですけどね。
 晴れ渡った夜空。葉にはまだ水がついていて、ぽつりと雫を落としている。大樹の陰に座り、葉越しに見上げた空は不思議なほど綺麗だった。横切っていく蝶は薄桃色に輝いて。
 まあ、1人で静かに眺めるのも悪くない。そう、世界は思うのだった。

「なんて素敵な場所なんでしょう……!」
 ジェーンは美しい空、美しい蝶に興奮を隠しきれない様子。
「もう我慢できません! ここなら己を曝け出してもいいでしょう!」
 いそいそ、ぬぎぬぎ。着ている衣服を脱いで、生まれたままの姿になる。大丈夫だ、大事なところは謎の白い線が隠してくれている。
「優しく照らす夜空の星々、幻想的な蝶々……そしてこの開放感! ああ、生きてるって素晴らしいですね!」
 言っている事は正しいのに、やっている事は割と変質者である。
 其のまま歩き出したジェーンだが、時折葉っぱが身を傷つける事に気付き、不服そうに服を着るのだった。

 ペッカートは念のため手を翳しながら、夜空を見上げた。綺麗に晴れ渡り、点々と星が輝いている。
「やんだのか。ほんとよくわかんねぇ気候だな」
 しかもこの蝶々は消えないと来た。不思議にもほどがある、と夜の森をゆっくり歩き始める。己が獣道を歩く音しかしない。まるで世界にたった一人になったかのような気分だ。生憎、寂しいだなんて思うご丁寧な心は持ち合わせちゃいない。
 周りを飛び回る蝶々は触れられないし、話せないし、操れもしない。どうしようもないな、と吐息だけで笑う。幻なのか、姿を変えたヒトなのか。解剖してみたいけれど、触れないんじゃ矢張り、どうしようもないな。
 ――未練、か。ペッカートは少し、心中で黙する。そして前言撤回だな、と声に出して呟いた。
 いいところって少し思ってたのは撤回だ。此処は明るすぎて、俺には合わねぇ。

「霊魂なら、破邪で楽にしてあげるっきゅ?」
「いやいやいや、やめろレーゲン」
 レーゲン、ウェール、そしてグリュック。3名はゆっくり、星空の下を歩む。ひらひら、揺れる蝶の羽根に濡れた気配はなく、触れることも出来ない。
「本当に霊魂だったら、終わりが来るまで静かに飛ばせてやったほうが良いだろう」
「そうっきゅ? んー、なら楽にしないっきゅ! 蝶さん、いろいろ思い残した事が終わるまで頑張ってとぶっきゅ!」
 しかしレーさんの聖獣ぱわーは昔のグリュックに好評だったんっきゅ。
 自慢するレーゲンに、ウェールは頷く。かつて守り神とされていた彼なのだ、ただのアザラシで終わる事はないだろう。
「……会いたい人に会うために、この姿になったのか……飛び続けていればいつか夢の中で会えるのか……まさに胡蝶の夢だな」
「っきゅー。ただの不思議蝶かもしれないけど、人の思い出を忘れた蝶さんだったら……頑張って思い出して欲しいっきゅ。大切な人を忘れたままなのは辛くて悲しいっきゅ」
 ふわり、灯る癒しの明かり。蝶が飛び続けられるようにと2人の思いは力となって。
 あ、星が流れた。レーゲンは偶然それを見て、ならばとお願い事をした。レーさんも保護者さんもみんなみんな、大切な人に会えますように。

 満天の星空、舞い踊る蝶、草原の花畑でお茶会を嗜む3人がいる。
「綺麗だね……こんな光景は故郷でもそうは見られない。誘ってくれてありがとう、アルテミア」
「いいえ。ウィリアムさん、一緒に来てくれてありがとう。それから、ジェラルドさんも」
「いや、なんか邪魔をしちまったようで悪いな」
「そんな! 良いのよ、2人が3人になっただけだわ」
 カップを持ってきてよかった、とアルテミアが呟く。精密にいえば、ジェラルドは途中で偶然出会って合流したのだ。
 切株にシートをかけて、ウィリアムが椅子とテーブルを用意する。そしてバスケットからカップを3つ出し、アルテミアが笑った。手作りクッキーにアップルパイ。少し待てば紅茶の馨しい香り。
「僕の里ではお茶は珍しくてね。紅茶を飲むのもこれが初めてなんだ」
「そうなの? なんだか緊張するわね」
 談笑しながら、紅茶が3人の手に行き渡る。薄桃色の蝶がまばらに舞う花畑。乾杯、と軽くカップを掲げて、そっと口を付ければほろ苦くも甘い紅茶の味。
「ん、……美味しい。これが紅茶……」
「良かった! なんだか緊張したわ」
「気に入って貰えて良かったな。しかし、星と蝶と紅茶。優雅でいいな」
 舞う蝶にふわりと手を重ねようとしても、薄桃色はするりすり抜けて。ジェラルドの其の様子を見て、なんだか寂しいわね、とアルテミアが言った。
「私たちが守れなかった魂も、此処にあるのかしら」
 ならば、祈ろう。其の未練の鎖が、羽搏きの果てに解ける事を。
「おっと、しんみりさせてしまったな。じゃあ、俺に一つご馳走させてくれ」
 ハーブティーにお酒を一匙。夜にぴったりの大人なお茶。香り付け程度だから酔う事はないだろうし、ハーブティーだから菓子の甘さも合うだろう。
 3人は再び談笑しながら、穏やかに満天の星空の下を過ごす。

「すごく綺麗……」
 リースリットとカイトは、満天の星空と舞う蝶を見上げている。時に群れからはぐれ、時に群れに戻る気まぐれな蝶を眺めながら。
「そうだな。蝶とハーモニア……とても絵になるなあ」
 カイトはリースリットと蝶を手で作ったフレームに収める仕草をしながら冗談めかす。妖精種とは、名ばかりではないようだ。しかし……
「そういえば、今は傭兵と深緑が穏やかじゃないな。ザントマン、だっけ」
「……ザントマン? どうしたのですか、急に」
「いや。……なあリースリット。もし、君がザントマンに連れ去られても……俺が絶対に助けに行くから」
 振り返ったリースリットが見たカイトの瞳は、一瞬だけ真摯で。次の一瞬には逸らされて、気障すぎた、と恥ずかしそうに彼が呟いていた。
 妖精種ばかりを狙う誘拐事件。関わっていく以上、リースリット自身が攫われる可能性もなきにしもあらずではあるが……
「い、いやほら、色々危ないじゃん?だからほら、なんか、助けにいってもいいかな~なんて、なあ」
「……ふふ。ありがとうございます、カイトさん。もしもそんな事になったら――貴方を信じます」
 今度はカイトが目を丸くする番だった。……久しぶりに言われた言葉だ。ならば、其の信頼に応えよう。目の前の花を、出来得る限りの力をもって守ろう。

 歩ける程の月明かり。珍しくも趣がありますね。手を引かれる珠緒が言う。
 照明とは違う優しい明るさよね。手を引く蛍が返す。
 ……月明かりに照らされる珠緒は幻想的で儚げで、とても綺麗で。思わず其の様を呟いてしまって、頬が熱くなる。
「願い事も忘れそうなほどの、満天の星ね。このまま吸い込まれちゃいそう」
「そうですね……」
 昼間とは打って変わって晴れ渡った空一杯に、きらきら星は煌めいて。あの一つ一つが別の世界だとしたら、その中からこの場所での喜びを掴んだボクは幸せ者だと蛍は言う。
 世界によっては、星はすべて太陽らしいと珠緒が言って。天と地が幾つもあるのなら、それぞれ別の世界だといえるのかも知れません。
 ふわり、薄桃色が舞う。咲き乱れる花のように進むほどに増える蝶たちは、まるで2人を何処かへ誘うかのよう。蛍が空いた手を伸ばしても、すり抜けていってしまう薄桃色。其れはまるで、隣に立つ儚い人のよう。
「……ね、珠緒さん」
「はい」
「……向こうに、行かないでね」
 珠緒は微笑んで、繋いだ手を持ち上げて頬を寄せる。其処には確かに、ヒトの温みがあった。
「桜咲は、ここがよいです」

 ネーヴェとシャルティエは2人、月明かり星明かりの中を歩く。時折ネーヴェが立ち止まるのは、蝶を見付けてしまうから。
「光る、蝶……あちらにも」
「幻想的ですね……」
 見とれて付いていってしまいそうだ、とシャルティエが呟く。そうですね、とネーヴェが頷いた。気を付けなければいけません、はぐれないように。
 なら、手を繋いでおきませんか? そう言ったのはシャルティエだった。2人ならきっと、どちらかが引き戻せると思うから。ネーヴェは肯定の代わりに白い手を差し出して。2人手を繋いで、歩き出す。
「クラリウス様」
 ふと、ネーヴェの歩みが止まった。しゃがんで、上を見上げる。蝶が夜空を背景に舞う姿が見える。手を引かれて気付いたシャルティエもそれにならうと、わあ、と感嘆の声を上げた。
「とても、綺麗です」
「本当に。あちらもこちらもキラキラして、不思議で」
 蝶に手を伸ばしてみても、触れられはしないけれど。この景色を忘れないでいよう。一緒に蝶を見て綺麗だと笑いあった思い出も一緒に。

「僕と見て楽しい?」
「はいっ」
 グレモリーを連れて、シャラは夜空の下を行く。あちらに蝶がいれば立ち止まり、こちらに蝶がいれば思わず触れてみようとしたり。其れを眺めるグレモリーの金目は、表情が読み取れないけれど。
「海洋……確かに他の国とは雰囲気が違う気がします」
「そうだね。国によって雰囲気は違うし、でも、それぞれ不思議な光景がある」
「そうですね! 海洋には海洋の不思議があるのですね……わあ、見て下さいグレモリー様! 蝶がこんなにたくさん!」
「うん、本当だ。一匹くらい本物が混ざってないかな」
 グレモリーが手を伸ばす。撫でるように蝶をすり抜ける腕。わあ、とシャラが声を上げた。何度見ても、蝶々が飛び立つのではないかとそわそわする。
「……死者の魂、という噂があるのですよね……少し怖くなってしまいました」
「大丈夫だよ、傷付けはしないから。でも、この光景は……」
「そうですね……!」
「「絵にして残したい」」
「……ですねっ!私も早く絵にしたいですっ!」
「僕は今から描く」
「今から!?」

「わあ、本当に触れないね!」
 ソアとエストレーリャは蝶々に触れようとして、触れられなくて、それでも笑っていた。なんだか切ない気持ちになるな、とエストレーリャが言う。人間は蝶を見ると切ないの? ボクも人間になれたら胸が切なくなるのかな? ソアが言えば、成長したら切なくなるかも、とエストレーリャ。
 でも、今ボクの心は愛おしいで溢れているよ! 羽搏く蝶々を追いかけて近くにあった草原まで。ジャンプして捕まえようとしたけれど、蝶は残酷に逃げて、其の場にごろり、転がる。
 追いかけてきたエストレーリャに見下ろされて、なんだかおかしくなってきて。彼の手を引いてごろり、転がした。
「うわあ! ……びっくりするなあ、もう」
「あはは! ごめんね!」
 暫く笑いあっていた2人。笑い疲れて夜空を見上げ、星座って知ってる? とエストレーリャが言う。星を線で結んで、動物や物をみるんだよ。
「ふんふん。じゃあねじゃあね、虎座! あれは虎座にする!」
「うんうん、なら隣は子虎座にしよう!」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
静かに降る雨って風情がありますよね。音が消えるような感覚が好きです。
雨に、蝶に、満天の夜空。好きなものを全部詰め込んだシナリオでしたが、参加者様がたくさんでうれしい奇古譚でした。貴方もどうか楽しめていますように。
ご参加ありがとうございました!

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