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シナリオ詳細

うわべだけのえがお

完了

参加者 : 50 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「無理、ほんと無理なんだけど」
 述べた『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)の声音は凍えている。
 比喩ではなく、事実くっそ寒いのだから大変だ。
 なんせ彼女は肌もあらわに水着を着せられている。

「ねえ、ちょっと」
「はーいオーケイでーす」
「ほんと!?」
 思わず声が上擦る。
 気温は氷点下十七度。濡れたタオルも凍る程。鳥肌なんてもんじゃない。
「あっ、すいません。もう一枚」
「……」
 正直な話、キレかけている。
 練達製のカメラなる珍妙なもので写真とかいうものを撮らされているのだが、そんなことはもうどうでもいい。

「はーいオーケイでーす」
「ほ、ほんと!?」
 なんというかもう、とにかく顎ががちがちする。あと肌が痛い。足先の感覚もない。
「ええオーケイです!」
 安堵か何なのか。
 ともかく懸命に雪を踏みしめる。なんせ水着姿で延々とポーズをとらされていたのだ。

 ようやく開放されたのだが、雪の下は岩。よく滑る訳で、一歩一歩慎重に進まねばならず。
「――あっつ!」
 恋焦がれた『適温の湯』なのだが、まるで熱湯のように感じた。
「かけ湯しないと危険ですよー」
「……」
 もう言葉もない。

 さてここに至った理由は何なのか。


 さかのぼることしばし前。
「――という訳なんだ」
 資料を配りつつ『黒猫の』ショウ(p3n000005)が述べたのは、ほんの簡単な依頼のことだ。

 おおざっぱに説明するならば『タダで温泉旅館で遊んで来い』というものである。

 どうも依頼者である幻想商人が一人の練達出身者と手を組み、リゾート施設を作ったらしい。
 ターゲットは貴族、大商人、成功した冒険者など。明確に超富裕層向けのものだ。
「そこで宣伝の一押しに『ローレットの冒険者御用達』の看板が欲しいらしくてね」
 なるほど。そういうものか。

 なんでもカメラという精密な画を作成する姿写しで、ローレットの冒険者が楽しそうに遊んでいるところを撮影する。その画をターゲットへの広告にしたいという話らしい。
 このカメラというやつには魂が抜けるとかいう迷信があるが、そこは気にしないでおこう。

 では何が出来るのか。
 温泉に入れる。タダで。
 豪華な部屋に泊まれる。タダで。
 海の幸、山の幸が盛りだくさんのお食事が楽しめる。タダで。
 練達から取り寄せた珍しいお酒が飲み放題。タダで。
 なんでも『異世界地球』とか『現代日本』と呼ばれる異世界のスタイルが非常にエキゾチック。
 全部。タダで。
 そのうえ僅かばかりの報酬さえ出るというのだから破格の仕事である。

「え。いいの!? 行く行く!」
 大はしゃぎで両手を挙げたアルテナに呆れつつも。
 まあ、行ってもいいかなあと思ったイレギュラーズ達であった。

 かくして話は冒頭に戻る。
 タダより怖いものはないという話――なのだろうか。

GMコメント

 あーもうなんか。あれです。あの。
 温泉入って酒かっくらって寝ましょう。pipiです。

 べ、べつに、背景とNPCの組み合わせをいろいろ試してたら、すげえ面白いのに遭遇したとかじゃないんだからね。
 でも雪の中の温泉て、言うほど寒くないですよね。最初は寒いけど。

●ロケーション
 雪の中の温泉宿です。
 現代日本風という大変珍しいスタイル。エキゾチックですね。
 タダな上に貸し切りです。

 書かれていなくても、全体的にありそうなものがあります。
 気にせず遊びましょう。

●できること
【A】温泉
 泉質:アルカリ、黄褐色、モール泉
 泉温:源泉43℃
 適応症:神経痛、筋肉痛、パンツ風邪、関節痛、冷え性、病後回復期、疲労回復、健康増進等

 おどろくほど『とろとろ』とした肌触りです。
 気になる方は普通のお湯のシャワーをご利用下さい。

・脱衣場(男、女、混浴で別)
・高温湯(44度)
・中温湯(41度)
・低温湯(38度)
・寝湯(38度)
・うたせ湯(41度)
・サウナ
・水風呂(サウナ用)

【B】休憩所・食事所
 ロビーの隣にある、大きなお座敷です。
 一休みの他、お食事も可能。
 牛乳や冷えたビール、ラムネなどなどこちら。

 メニューは
 おそば、おうどん。
 温泉たまご。おんたまフライ?
 カレー、ラーメン、ハンバーグ、パスタなどなど。
 カジュアルなお食事ができます。

 カフェとしてのご利用も可能。
 お茶、塩アイス、あんみつ等。

【C】宴会場
 こちらもお座敷。

『おしながき』
・お刺身
・お寿司
・てんぷら
・天重
・湯豆腐
・釜めし
・寄せ鍋
・お新香
 お好みや定食のご用意もございます。

『おのみもの』
 ビール、ウィスキーは一種類だけ……だが!?

・ビール
・ウィスキー
・アンドエイト(麦)
・カームブライト(麦)
・フォーティーン(米)
・デーモンロード(芋)
・シャドウタイガー
・ブラックドラゴン
・ヘヴンズホーク
・フライングデュージョイ
・フェニックスビューティフルライスフィールズ
・ドラゴンパワー
・プリンセスオブクリサンセマム
・ビーチプライド
・スノウサッチドコテージ
・瑠璃
・ブルースパークル

・など。

 他、ソフトドリンク類。


【D】お部屋
 典型的な旅館のお部屋です。
 あの、なに、窓のほうのソファがある空間。あそこいいですよね。
 冷蔵庫という箱に、飲み物が入っているぞ。

 大小さまざまなお部屋。
 おひとり様から大人数まで、自由にご選び頂けます。
 内風呂のほか、小さな露天風呂もあり。
 お食事をお運びすることも出来ます。

 枕投げもこちら。

【E】その他
 ありそうなものがあります。

●諸注意
・未成年の飲酒喫煙はできません。UNKNOWNは自己申告です。
・男女別。混浴は水着着用のこと。不明の方は混浴へ。
・のぞき? なぜかファンブルするんだよなあ。たとえ数値が0以下でも!

●撮影
 写真とられることがあるという話ですが、別に忘れていただいて結構です。
 尊い犠牲(冒頭)があったのだ。

 もちろん芸人やっても構いません。

●同行NPC
『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
 呼べば行ける場所には行きます。
 なにもなければ特に描写はされません。

  • うわべだけのえがお 完了
  • GM名pipi
  • 種別イベントシナリオ
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2019年01月21日 21時45分
  • 参加人数 50/50人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 50 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(50人)

夢見 ルル家(p3p000016)
ロリ宇宙警察忍者巡査下忍
十夜 縁(p3p000099)
黄昏き蒼の底
グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
叡智のエヴァーグレイ
クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)
死神二振
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
守護の勇者
ポテト チップ(p3p000294)
優心の恩寵
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
タント様FC会長
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
死を呼ぶドクター
サンディ・カルタ(p3p000438)
アニキ!
リゲル=アークライト(p3p000442)
死力の聖剣
エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)
愛欲の吸血鬼
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
リインカーネーション
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
愛の吸血鬼
琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い
リリ リ マウ(p3p001201)
スパニッシュダウナー
マルク・シリング(p3p001309)
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
灼鉄の聖女
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
天穹を翔ける銀狼
ティミ・リリナール(p3p002042)
フェアリーミード
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
シンジュゥ・ソラワルツ(p3p002247)
終わり無きソラゴト
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
九重 竜胆(p3p002735)
一刀繚乱
枢木 華鈴(p3p003336)
ゆるっと狐姫
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
ツクモ・リオネット(p3p003643)
魔法のお人形
藤野 蛍(p3p003861)
学級委員の方
桜坂 結乃(p3p004256)
ふんわりラプンツェル
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
ノースポール(p3p004381)
白金のひとつ星
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
閃翼
桜咲 珠緒(p3p004426)
要救護者
メイメイ・ルー(p3p004460)
さまようこひつじ
悪鬼・鈴鹿(p3p004538)
ぱんつコレクター
サクラ(p3p005004)
自由騎士
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
村昌 美弥妃(p3p005148)
不運な幸運
カシミア(p3p005160)
森の守護者
ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)
チア衣装でジャンプし以下略
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
酒々井 千歳(p3p006382)
行く先知らず
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
寝湯マイスター
エル・ウッドランド(p3p006713)
イカダ漂流チート第二の刺客
シュテルン(p3p006791)
星頌花
ヨシト・エイツ(p3p006813)
いいひと
閠(p3p006838)
真白き咎鴉

リプレイ


「さてまぁ……お疲れ様でした、って事で」
 気だるげなアルテナを迎えたのはクロバだ。
「ほんとよ……」
 かれこれ話は一時間ほど前に遡る。

 ――ファンドマネージャの新田と申します。

 あ。有名な人だ。
 撮影を終え、寛治を目にしたアルテナの感想はそんな物だった。
「不躾で恐縮ですが、アルテナさんをモデルにした商材写真に追加のご提案がございまして」
「ええ!?」
 温泉ならば入浴シーンの写真が必要。温泉のアピールになるとは寛治の弁。
「いいですね!」
「撮りましょう」
 彼女を差し置いて答えたのはカメラマンと支配人。
「ちょっと!」
「まあまあ、お仕事ですから」
 まずアルテナには普通に温泉を楽しんでもらう。そう、のぼせる直前くらいまで。
 それからタオルを巻いてもらい、見えたら不自然な水着の肩紐を外し、否、脱いでもらう。
 上気した艶っぽい表情の入浴シーンの撮影という訳だ。
「お仕事ですから」
 アルテナは折れた。


 報酬(誰に!)は『ブラックドラゴン』その唯一にして無二な逸品。五年熟成――と、そんな事があったらしい。

 そんな訳で。
「少しおもてなしとかどうでしょうか、お嬢様?」
「え、いいの? ありがと」
 クロバがコートを差し出した。受け取ったアルテナが微笑む。
 まず用意したのはココア。ひと息ついたらシチューを出そう。
 思わぬ歓待に驚きつつも、彼女は機嫌を持ち直したようだ。
「まぁ見てて良いものはいつの季節だっていいものだよな。まぁ流石に寒すぎたとは思うが」
 遠回しに似合っていたと褒めてやる。新手のナンパのようだが。
「えぇ、なによそれ」
 声色には非難が混ざれど、表情はまんざらでもないような。

 そんな彼女が出てきたのは混浴用の湯の方だ。水着でカジュアルな入浴が楽しめるらしい。
 人前で肌を晒すのが得意でない閠だが、今日は勇気を出して裸の付き合いという文化に触れてみるようだ。
 顔の布と鈴はそのままに、傷跡は――少しだけ気にして。
 浴衣を着て異世界由来らしき独特のマナーや、なんとかいう練達の教授が書いた壁の文章に一通り目を通す。
 さて。かけ湯をして足を温泉へ。思ったよりもずいぶん熱く感じるが、身体が冷えているからであろう。
 慣れてくればとろとろとした湯が馴染み、身体の芯にゆっくりと熱を伝えてくれる。

「綺麗~!」
 雪と温泉。湯けむりに包まれた幻想的な景色にカシミアは感嘆の声を上げる。
 水着は去年の夏に着た水兵風の可愛らしい物だ。水着着用のお風呂なら冬にも楽しめる。
 足先からゆっくりと入りたいところだが、やっぱり寒いものは寒い。
 寒いしいっそざぶっと、えい!
「……あつつ!!」
 中温とはこんなに熱い湯だったのか。ならば低温へ。
「ふあ~~きもちいい~~っ」
 身体は暖かくて、頬に触れる雪風は冷たくて。これならいくらでも入っていられそうだが。
「溶けそう……!」
 タダとはなんとも怖い話だが、これだけ気持ちよければどうでも良くなってしまうというものか。

「実際に低温湯に来たのは初めてですね……」
 所謂ぬる湯。夏場でもすっきりと入れ、長時間入れば身体が芯から温まる。
「これまで何度か温泉に行ったことはあったけれど、なんだか不思議な温泉だね」
 湯を手で掬いながら述べた千歳。指の間から湯が滑り降りていくような感触だ。ともすれば滑りそうな程である。ともあれ千歳はそれ以上は考えず、湯と景色を楽しむことにした。
 冬佳が頷く。黄褐色のとろとろとした泉質の湯。モール泉と言うのか。不思議というのはわからなくもない。
「やっぱりいい景色の眺めながらの温泉は最高だね、何度でも入りたくなる」
 ふわふわと漂う雪が美しい。
「それにしても」
 宿の方に視線を送る。
「どう見ても本当に温泉旅館ですね。馴染みのある雰囲気……」
 それは『異世界地球』『現代日本』等と呼称される世界。

 ――ああ、そんなに昔でもないと言うのに。ひどく懐かしく感じる

「温泉からあがったら、部屋の方に夕飯を運んで貰う様に言ってあるよ、確かお鍋だったかな? あと、天ぷらも。とても美味しいらしいよ、楽しみだね」
「ええ、楽しみですね」
 こういう宿の御飯も旅の楽しみの一つ。
「最後まで楽しんで帰ろうね」
 この世界、馴染みのある料理自体はよく見るけれど、再現度に拘っているならば料理もそうなのだろう。
 もしかしたら『日本(同郷)人』が関わっているのかもしれない。


 そんな低温湯の隣で。
「ゆけむり」
 寝湯にのんびりと背を預けている華鈴と結乃の二人。とろとろのお湯が身に染みる。
「ゆらゆら……ふぁー……」
「結構長い間入ってるけど、お湯が熱くないからのぼせそうにはないかな」
「丁度良い湯加減で……うっかり寝てしまいそうじゃな」
「お風呂で寝るって、意識がなくなることだってきいたよ。あぶないよ」
 眼を閉じた華鈴をゆさゆさと。
「それは失神する場合の話じゃな。このお湯なら問題無いじゃろ」
 ――多分。
 寝ている最中に横を向いたら危ないかもしれないとも思ったが。
「うむ、溺れては困るからのぅ……他の温泉に行くとするかのぅ」
 ということで身を起こす。
「うん!」
「おや……」
「……ちょっとまって。まとめてた髪が落ちてきた……」
「どれ、わらわが纏めよう」
 結乃の髪は華鈴より更に長い。解けると大変そうだ。
「ありがとうと、ごめんなさいなの」
「なに、謝る事は無いのじゃ……これで良いかの?」
 嬉しそうに微笑む結乃と共に、さて。
「じゃあ、いこっか!」

 という訳で中温湯。
 こちらも水着姿の仲睦まじい二人、ルークとポーである。
「見て、ルーク!」
 ポーの指から湯が滑るように流れる。
「とろっとろで面白いねっ!」
「不思議な感触の温泉だね」
 肌を滑る湯にルークも相槌を打つ。
「それに雪を見ながら温泉って最高!」
 すぐ近くに降る雪を掬って。
 ポーは普通の、ルークはシマエナガのような雪だるまを作る。

 冷えた手は――
「わっ冷たい!」
 ルークの頬へ。
「いたずらっ子だね」
「ふふ、あったかいっ」
 ――けれどそんな所も可愛らしく思えて。

「ね……去年の冬の温泉旅行は、一緒に料理を楽しんだよね」
 ルークの故郷の料理があったりもした。
 あれから一年。二人は親友から恋人になり――そんなこと夢にも思わなかったけれど。
「今日は一緒の部屋にお泊り、なんだよね……本当に、いいのかな……?」
 その一言だけで二人は俯き頬を染め合う。
 それからそっと抱き合い。嬉しさと、恥ずかしさと。湯のこそばゆさと。
「お、お手柔らかに、お願いしまふっ!」
 つい噛んでしまったけれど。
 のぼせそうなほど、幸せなのだ。


「コンヨク、は、水着、着る?」
 なんだかスースーするが。
「うん。かわいい。似合う似合う!」
 初めて水着を着たというシュテルンにアルテナもはしゃぐ。
「温泉と、お風呂、違うの?」
 ふと。シュテルンに素朴な疑問が湧き上がる。
「ん~。勝手にあるのが温泉、かな?」
「作った、お湯と、自然の、お湯……って事?」
「そうかも?」
 声だけなら幼い少女と仲良しお姉ちゃんといった風情だが、二人のスタイルは相当に目を惹く。
「それじゃ行きましょ」
 いざ。

 ぬくぬくぽかぽか。
「ふー……」
 カメラなるものが近くにあるのは緊張するが。ともあれ温かな湯と顔を冷やす冷たい外気との対比がなんとも心地よい。
 耳だってついつい、ぴこぴこと動かしてしまう
「きゅい~」
 浮かぶタライの中ではカピブタのピピさんも気持ちよさそうだ。
「わっ、わあっ! 不思議なお湯!!」
「うん!」
 無垢な感想にアルテナもつられて微笑む。
「トロトローって! シュテの、身体、ツルツル?! すごいすごーい!!」
「ね。ほんと不思議。あ、メイメイさん。こんにちはっ」
 ふいに話しかけられた。
「わ……こんにちは……」
 照れ性な彼女だが頑張っている。
「竜胆さんも」
「アルテナは本当にお疲れ様」
「ねー。ありがと」
 湯船の中で竜胆がアルテナ(哀れな犠牲者)をねぎらう。
「大変ね、あんな役目を押し付けられて」
「ほんと恥ずかしかったし、凍えるかと思った」
 タダより怖いものはないというのは本当だったらしい。

「アルテナの、お肌も、皆の、お肌も、ツルツル!!」
「ですね……」
 言われてみれば確かに不思議なお湯だとメイメイも思う。
「温泉、こんなに、凄い、だった、なんだ……」
「ですね……」
「シュテ、温泉、好き、なった!」
「うんうん!」
「お湯浸かる、とっても、気持ちい…心が、ホカホカする、ね!」
「はい……それにお風呂の後の、ごちそうも……楽しみ、ですね……」
「ね! どんなお料理か気になる気になる」
 至れり尽くせりとはこのことか。つい微笑みも溢れてしまう。

「……まっ、水着撮影以外に面倒なイベントは無いでしょうし、後は存分に温泉旅館を楽しみましょ?」
「撮影は続けるみたい?」
「え、また?」
「私はたまたま捕まっただけだから。私なんかよりむしろ竜胆さん達のほうが有名だし危ないんじゃない?」
 アルテナの言葉に竜胆が固まった。
 いずれまたカメラマンが来るかもしれない。
 もしかすると『プレゼン(わからせ)おじさん』(寛治)も一緒にやってきてベネフィットをマキシマイズされてしまう。
 アルテナの後ろに居るシュテルンとか見るからにファンドのリサーチにかかりそうだし。メイメイだって自分だって危なそうだ。
「みんなで女湯のほうに行かない? そっちには来ないと思うから」
 アルテナの誘い。しかし竜胆には竜胆の事情もある。
 決断の行方や如何に。


 そんな訳でこちらは男湯。
 風呂のように身体を温め血行をよくする――といった所だろうか。
 分析しながらニホンという異界の文化に触れ、一通りの湯を楽しんだウィリアムだが、一番は寝湯だ。
 身体が沈み込むような。例えるならば一日中森を歩き回った日のベッドのように吸い付く感覚だ。
 他に使いたい人が居なければ、ずっと寝ていたい程で。
「ああ、気持ちいいね……」
 食事や落ち着いた部屋も良かったが、この温泉というものは特に素晴らしい。
 今は少々落ち着かないがまた後で、人が居なくなった頃に来ても良いだろう。

 続いて大きな壁の向こう側。
 効能やらマナーやら効果的な入り方の解説やら書かれた脱衣所を抜けると、そこは白一色の雪原。
 たっぷりな湯気の下にはいくつもの温泉がある。
 中温湯にどっかりと浸かったレイチェルは、ほっと一息ついた。
 もちろんここは女湯の方。颯爽たる男装の麗人だが、近くにはアヒルの玩具を浮かべて少し微笑ましい。
 ちらちらと舞い散る雪の中で、身も心も芯からリラックス出来る贅沢な時間だ。
 効能にはパンツ風邪――などと言うアレなのも入っていたが、ともあれ冷え性に効くのはありがたい。

「よし、ここは定番の背中の流し合いっこしましょ!」
 そんな蛍の言葉。相手は選びたい文化ではあるが。さておき蛍は桜咲の滑らかな肌を優しく泡で包み込む。
 とても気を遣われているのを感じる桜咲だが。
「うん、オッケー!」
 お次は交代。してもらったのと同じくらい丁寧に。
「撮影とやらは関わらずに済みそうで、正直ほっとしております」
 そうした言いにくいことは顔が見えない時に言ってしまうのだ。

「色々とよい効能があるそうで。いる間だけでも、健康感を味わえるでしょうか」
 幾度か湯に触れ低温湯を選ぶ。
 蛍が手足を伸ばしてだら~んとする様に、なんだか曇り眼鏡も笑って見える様で。
「ん~やっぱり現・代・日・本! 風、温泉は寛ぐわ」
 身も心もリフレッシュするなら風呂は命の洗濯とは上手い言葉だ。
「はぁ~極楽極楽」
「また、きちんとお金を払って来るのもよいですね」
 この方式の温泉は、気に入ったのだった。

「あったまるね……」
 そうつぶやいたユーリエの視線を感じる。
「……もう少しぬるめの場所ないですかね」
 エリザベートの方はそもそも『流水』という類いが好きでなかった。
 アンチクロスアーカードたる彼女にとっては単に『不慣れ』という程度ではあるのだが――
「私はえりちゃんと入る温泉、すきだよ」
 そう言うユーリエはとても幸せそうで。
 まあ無料と考えれば、慣れれば。温泉もいい感じになるだろうか。

「ユーリエ」
 滑らかに透き通る白磁の肌、髪、耳、うなじ――見つめられるまま、ささやくように呼びかける。
「ご、ごめんね! えりちゃんがかわいいから仕方ないよね……!」
 見つめ合う視線をふと外しながら。
「貴女も吸血鬼化はすすんでます」
 エリザベートは端的に述べた。
 栗色の愛らしい髪は白銀に、肌も白く、身体の成長は止まる。
 彼女すら知らぬような突然変異に近い形。
「そっか、そうだよね」
 だが肉体は止まっても、想いは止まらない。
 重なる視線。とろりとした湯の中で触れあう指と指。

「私が可愛いのはしかたないですよ」
 恋ならば、そうあるは然り。無論互いにとっても。
 それと。
「もちろん体型も変化しなくなりますよ。よかったですね。体重ふえなくなります」
「えりちゃんっ!」

 そんな光景の向こう側で。
「こうやってのんびりお風呂に入るのなんて久々な感じがするわ~」
 つい口にしたのは結だ。
 此方の世界にこんな所があるとは。まるで元の世界に戻ったような気さえする。
 旅人らしく複雑な事情を抱える彼女だが、練達ではもう少し郷里の事が知れることもあるかもしれない。

「いやぁ、大変でしたねアルテナ殿」
「ほんともう。入り直しよ」
 ひっそりと湯を楽しむ彼女にルル家は声をかけてみた。
「ところでアルテナ殿、おっぱい揉まれた事ありますか?」
「は?」
「おっぱいって揉まれたら大きくなると聞いたことがありまして!」
「え、ええ!?」
「揉まれましたか!?」
「ちょっと」
「揉まれましたか!? 揉まれたんだろ!! 答えろ!!!!」
「ええええ!?」
「失礼、取り乱しました」
「ないに決まってるでしょ、そんなの」
「ふむ……やはり迷信は迷信でしょうか」
 だが。
「しかし試すことにデメリットがないのであれば可能性小なりと言えど試してみるべきでは!」
「ええ!?」
「決めました! アルテナ殿! 拙者の胸を揉んでください!」
「そう! いっそ! こう! ガバっと!」

 ――今。掴めないって言いました?

 斯様な光景の側で憤る者が居た。
(小細工しやがって……!)
 結が抱える複雑な事情の方――簀巻きのような魔剣ズィーガーは心中で毒づいた。
 折角女湯だというのに。
 これさえ解けば、そこには――!

 それはさておき。
「フフフ♪」
 高温湯で十分に身体を温めた後、寝湯に足を運んだ美弥妃。
「雪見温泉とは名の通り雅デスねぇ♪」
 冷え込む日々だったからこそ、この温かさが染み渡るというもの。
 ごろごろと、のんびり、ゆったり。
 といった所でふと思い出すことは、炬燵で眠ってしまった人が風邪を引いたという話。
 はて。なぜ今思い出したのだろうか。
 湯冷めには気をつけたい所だ。


「温泉気持ちよかったねー」
「雪の中の温泉なんて、ものすごく温泉旅行ーって感じだったね!」
 気怠げなスティアとサクラが浴衣の帯を締める。
「雪を見ながら温泉に入るっていうのも風情があって良かったなぁ」
「めったに出来ない経験が出来たし温泉は気持ちいいし、いう事なしだよ」

「あ、髪とかしてあげよっか!」
「いいよ、いいよ! 自分でやるから!」
 狼狽えるサクラだが。
「まーまー、遠慮せずに……良いではないかー!」
 半ば押し切るように、洗面台へ連行。意外と押しに弱そうだ。
「一度こういうのやってみたかったんだ!」
 丸椅子に座してなされるがままに。
「それにしてもサクラちゃん髪綺麗だよね~」
 ひっかからないように優しくとかしてもらう。
 別におかしなことをされている訳でもないが。
「ふふ、照れてるサクラちゃん可愛いなぁ」
 顔に出ていた。
「も、もう! そんなに言われたらもっと恥ずかしくなるよ!」
 頬が染まっているのは、湯のせいだけではなくて。
 ともあれ今度は攻守交代だ。
「えへへ」
 スティアは楽しげに微笑む。こうしてされる側になるのも、また良いのだ。



 更衣室から出れば、そこには休憩所がある。
「おいっしー♪」
 お風呂上がりのアイスは格別なもの。
 気になるのは――甘みを引き立てる優しい塩味だ。
 見習いパティシエたるミルキィならではの着眼点で、これはお風呂で汗かいた後に染みる味だと理解出来る。
 甘味に塩という発想は、新しいお菓子作りの参考になりそうだ。せっかくだから甘味制覇を目指そうか。

「くっはぁー、生き返るぜぇ」
 こちらは浴衣姿のチンピ――もとい強面のヨシト。腰に手を当ててコーヒー牛乳を一気に飲み干す。これも温泉の醍醐味だ。
 何より日本なる異世界では風呂を出た直後にこうするのが礼儀(『いいひと』だ)だと聞いていた。
 それにこのタイミングでの水分摂取、この後アルコールを摂取するなら代謝も良くなると聞いていた。

 そんなヨシトが立つ側で売られているのが、よく冷えたコーヒー牛乳にフルーツ牛乳らしい。
「おおー!」
 今度はあんみつを頬張るミルキィは、あれもまた甘味だと気づいたようだ。
 メニューにはパフェなんかもあって。そういえばプリンやお饅頭なんかも売られていたような。
 まだまだ食べたいものがいっぱいだ。
「ふっふー、こんなに楽しいお仕事ならいくらでも大歓迎だよね♪」

 そんなところでヨシトは宴会場に歩き出す。
 さて、どうなっているのだろうか。


 雪深い場所での時間は分かりにくい所もあるが。そろそろ夕刻であろう。

「あ、サンディさん。もう身体は大丈夫?」
 目が合ったアルテナが開口一番に聞いてきた。
「俺がそう簡単にくたばるわけないだろ」
 あれから大分経つのだ。
「それより大丈夫か?」
 労いに来て自分が心配されてはかなわないと、サンディは話題を変える。
「そうそう、それ。ほんともう」
 よし。乗ってくれた。座るように促しながら温かな飲み物を差し出してやる。
「え? ありがと」
 下心がないと言えば嘘になるが、身も心も冷えていたら可哀想だというのが本心だ。愚痴でも聞いてやろう。
「そう、それでね?」
 まあ、いろいろあったのだろう。話は長くなりそうだ。

 汗水垂らして働くんじゃなく、汗水洗い流して寛いでいいとは最高だ。
 その上貸し切りにタダと来た。

 すでに温泉を満喫した十夜は座布団に腰を下ろす。
 魚介が多めのメニューではあるが――湯豆腐に山菜の天ぷらがあるのはありがたい。
 後は白米に漬物。酒のお供である。文化圏にかなりの親和性があるようだ。
 そして酒。
「それでしたら、こちらの利き酒コース等いかがでしょう?」
「気が利くね」
 二勺ばかりの酒が揃って三合。なかなか出来ない贅沢だ。
 後は気に入ったものをいくつか、ゆっくり頂くのも悪くない。

「……いつくたばっちまっても、後悔のねぇように、な」
 苛烈な戦場を渡り歩くワルいオトナに一時の安らぎを。

 こちらのマルクも湯豆腐だ。
 ぷるぷるで熱々の豆腐を火傷しないようゆっくりと口に運んだ。
 素朴で滋味深いお出汁と豆腐の味わいがじんわりと身体を温めてくれる。
(冬に食べるように作られた料理なのかな)
 なかなか面白い。それから遊楽伯曰く所のライスワイン。『ジャパニーズ・サケ』あるいは『サケ』なる飲み物。
 興味はあるが、誰ぞ詳しい人は居ないだろうか。
「ぶはははっ! いいぜ、乗った!」
 和食と言えばゴリョウ。『白米親善大使』『おこめだいすき』『和食料理長』と呼称される第一人者だ。
 浴衣(というより力士)スタイルで、『現代日本』なる異世界料理の精進中なのである。今日は酒食のマリアージュを探求したい所だ。
「目指せ、全種類制覇!」
「飲み比べといこうや」
「飲み比べなの!?」
 両者のニュアンスは相当に異なるが。ともかく座敷に陣取った三名。
 片っ端から鈴鹿が飲み感想を述べる。
「こちらはつるばら酵母を使用した大吟醸で」
 給仕から解説を貰う。
「本当だ、これは飲みやすいよ」
 マルクが頂くブルースパークルは高原の朝露のような青い煌めきを感じる。
「ほうほう! なるほど……確かに合うな!」
 カームブライトは香ばしい麦の泰なる明が甘めの味付けにぴったりだ。
 そしてゴリョウとマルクが試すという構造ができあがりつつあった。
 徐々にたけなわ。
「ウフフ、鬼の鈴鹿に勝てると思ってるの?」
 はだけた浴衣が人目を惹いてやまないが、まだまだ宴は続くらしい。

 仕事でこんなに楽しんで良いのかとも思ってしまうヨルムンガンドではあるが。
 竜としてブラックドラゴンが気になる所。
「飲み放題、喰い放題とは素晴らしい!」
 同じくマルベートもデーモンロードをキープ。
 こちらも飲み比べだ。友人相手でも容赦なく、潰れるまでの狂宴である。
「ふふ……やるからには負けないぞぉ……!」
 まずはお刺身と一緒に楽しもう。
「んー!」
 美味しい。厳めしい名とは裏腹に、清らかな果実味を感じるブラックドラゴン。これはすいすいと飲めてしまう。
「おおー!」
 とろりとした干芋のような甘みを感じるデーモンロード。度数と比して余りに飲みやすい。危険な奴だ。
「色々なお酒もあるし……料理も食べながら他のも飲んでみたいなぁ……!」
 お次は瑠璃。微発泡の爽やかさが晴れた宵の空を想わせ――これもかなり危ない。

 飲んで、食べて、友と幸福を分かち合う。
「えへへ……ぽわぽわして来たなぁ……」
「……まだまだ……悪魔の誇りにかけて先に潰れるわけには……」
「マルベートもお酒強いんだなぁ! これは妨害してやらないとダメかぁ……?」
 わきわきっと。下から。
「ん、ヨル。何か手つきが怪しくは……ちょ、ちょっと待って……」
 こしょこしょっ。
「ははは! マルベートはお腹が弱い……弱点みつけたり!」
「お腹! お腹をくすぐるのだけはやめて! 弱いからっ!」
「このまま私の勝ちだぁ」
 ぐっと人目を惹き付ける第二ラウンドの行く末や如何に。


 宵の帳が下りる。
 いつしか雪は止み、月明かりが雪を照らしていた。

 両手を合わせて「いただきます」と。
 温かな客室でゲオルグは天重に舌鼓を打っていた。
 ふわふわ羊のジークにも天麩羅を一皿。
 歯ごたえを残す厚めの衣に絡む甘辛いタレ。噛めばぷりぷりとしたエビの食感と溢れる肉汁が堪らない。
 ごま油と綿実油のうま味を閉じ込めた茄子。ほくほくのカボチャ。
 香り高い舞茸。穴子の深い味わい。
 春のこれはふきのとうか。
 食べ終えたら熱燗をキュっと一杯。
 なによりの肴は月と雪と。天麩羅を幸せそうに食べるジークの姿なのだ。



 こちらの部屋は【星芋】の二人。
「去年もこれぐらいの時期に一緒に温泉宿に行ったな」
 そういえば、二人でこうした所に宿泊するのは二度目になる。
「あの温泉旅行からもう一年か、早いものだな」
 先冬はノドクロ温泉旅館。雪の庭園を眺め、二人は――

 今年も一緒であることが嬉しいと、はにかみ合う。
 部屋に運んでもらった料理はお肉のコースだ。
「まずは乾杯するか?」
 ポテトのお酌を受け、リゲルが礼と共に頷く。
 今はコーラ。きっと二年後はビールなのだろうか。
「では……一年間、一緒にいてくれて有難うな。
 これまでの思い出と、これからの良き未来に向けて!」
「「乾杯!」」
「これからも宜しくな」「これからも宜しく頼むぞっ」
 前菜はサーロインのつくね。ふきのとうの胡麻味噌和え。たらのめの牛肉巻き。
 それから牛タンをハーブとワインで煮込み、あえて冷やして薄くスライスした一品。
「美味しいな」
 雪に包まれた宿の中で、ほろ苦い春の香を感じる。
 近海魚のお刺身の中に一品、牛肉のタタキだ。
「刺身も美味しいし天ぷらもまだあったかくてさくさくだ」
 揚げ物は海老、きのこと山菜、牛フィレの天ぷら。お塩かお出汁でさくさくと。
「食べすぎてしまいそうだ」
 メインは焼き物。リブロースのステーキ。こちらはワサビ塩、ハニーマスタード、醤油のソースで。
「よーし今日の料理の味を記憶して、家でも一緒に作ってみようか」
「それは楽しみだ」
「きっとノーラも喜ぶぞっ!」
 小皿には小さなすき焼きも嬉しい。
 最後にそして固形燃料で温まってきた釜飯とスープ。
 本当に美味しい食事だが、何より味を引き立たせているのは、隣にリゲルが居るからだ。
 ポテトの微笑みに。
「可愛い可愛い。俺の分までもっと食べるかー?」
「わっ」
 撫でられ、つい頬を染め。
「リゲルの分なくなるから大丈夫だ」
 楽しく夜は更けてゆく。

 お次のお部屋は。
「にゃー。いいお湯だったー!」
 おじとめいっ子――ならぬ、魔王と勇者のコンビ。と言ってもグレイシアはその事実を伏せている訳で、完全に家族旅行の様相だ。
「おじさま! 一緒にあいすたべよ!」
 じゃーん!
 聖剣の如く飛び出したのはアイスバー。もう一つは盾ならぬバニラのカップだ。
「おじさまの分も売店で買ってきた!」
「冬にアイスというのもどうかと思うが……」
 微かな苦笑。
「湯上り故、それもまたありか」
 お酒のほうがよかったろうか。けれど勇者は諦めず食い下がってみる。一緒に食べたいからだ。
「バニラアイスにすこーしお酒を垂らすと大人の味って聞いたけど、だめかな」
「それは吾輩も聞いたことがあるが、この部屋には置いて無いだろう」
 そこに見えるは宝箱(れいぞうこ)。
 中にはウィスキーの小瓶が入っているではないか。
 周到な用意に少し笑ってしまうが、それもまあ悪くない。

 湯にほてった身体にフレッシュなソーダ味のアイスバーが美味しくて。
 ウィスキーの香りを加えたバニラアイスはまた格別。
 ひんやりした広縁が心地よくて――けれど楽しい時間は早く過ぎる物。
 成人していることがただの理解に過ぎず。身も心も十歳なれば、きっとそろそろ寝た方がいい。

 並んだ布団に入ると。
「あのねあのね。良い子して寝るから」
 隣から伸びてきたルアナの手。
「寝るまでおててつないでくれる?」
 細い指先で暖かくて大きな手を掴む。

 何故手を繋ぐのだろうかとも思ったが。
 まあ。ルアナが喜ぶのであれば――魔王は望みを叶える者でもある。

 こちらのお部屋は可愛らしい二人。
「あの、その……」
 そんなツクモの視線の先には家族風呂。
「ご一緒にいかがでしょうシンジュゥさまっ!」
 くるりと振り返った彼女の表情は、意を決したような気迫があって。
 肌を見せるのは勇気が必要だけれど、こんな機会でもなければ大胆になんてなれないから。
「は、はいっ! 是非ご一緒しましょう!」
 驚いたシンジュゥだが、もちろん快諾した。

 広い湯船の中。
 暖かさが身体に染み渡る、瞳を閉じれば思い出されるのはついこの前。雪山を目指した日。
 日の出を楽しみ、膝を借りたときのこと。
 ツクモの鼓動は高鳴って。

 天使のようなシンジュゥと、人形のような――
「ツクモさん、って……お人形さんだったのですか!?」
 ふと、気づく。
「……お人形さんみたいに可愛いって思っていましたけれど、本当にお人形さんだったとは思いませんでした なんだかおかしくて。そして嬉しくて。シンジュゥは屈託なく微笑む。
「ふふ、今晩お話したいことが沢山増えてしまいました」
 勇気を出して、本当によかった。
「今夜は寝かせませんよ、ツクモさんっ!」


 おーっほっほっほ!

「このわたくし?」
 パチンっ。

   \きらめけ!/
   \ぼくらの!/
 \\\タント様!///

 \何でわたくしが女湯に入れませんのー!!?/

 湯船に漂うポーズ。キメッ。
 部屋が大喝采に包まれる。
 こちらのお部屋は女湯に入れない性別不明なマウとタント様の二人。
 いやなんかタント様とかマウとかなら良いような気はするけど。タント様だから。

「わぁ、綺麗だねー」
「はふぅ」
 そんな訳で湯船に漂うマウ。そして輝くタント様。
「月夜に浮かぶ海月みたいさ」
「ってクラゲじゃありませんわ!!?」
 ざばぁっとタント様が立ち上がる。
「わぁ、急にお湯からあがらないでよ~」
 大丈夫。手前のペットボトルで隠れてる。
 ペットボトルが倒れる。
 でも大丈夫。光ってる。

   \きらめけ!/
   \ぼくらの!/
 \\\タントくんー///

「全くマウ様ときたら……そんなこと言う子にはおしおきですわよ!」
「浮いてる場合ではございませんわ!」
「え、なに?」
「枕投げで勝負ですわよーー!」
「いーよ、あーしの相棒(タコノマクラ)が相手になるさ」

 服を着る間?
 与えるものか!
 大丈夫。光ってるから大丈夫。

「隙ありぃー」

 そんな所で。どうやらお隣の部屋も賑やかなようだ。

 戸が勢いよく開き。
 コロコロとロシアアザミ――ならぬザル(お菓子が入っているヤツ)が転がってゆく。
「フフフ、ついに決着をつける時が来てしまったようですわね」
 強面ガンマン――もとい勝ち気な表情で現れたのはヴァリューシャことヴァレーリヤだ。
「って、何事!?」
 広縁で休んでいたシャルレイスが慌てて立ち上がる。
「お黙りなさい! 証拠は上がっているんですのよ!」
 両手を腰に当て。
「私が後で飲もうと取っておいた牛乳の敵……覚悟なさい!」
 からのビシっと指差し。無残な最期を遂げた牛乳の無念(そっち!?)を今こそ晴らすのだ!
「牛乳の敵? そんなの知らな――って、わわ!?」
 飛んできた枕をとっさに避けた。
「問答無用!?」
 だが一体なぜに。
「……ハッ! ま、まさか……!」
 おや。
「さては私のとっておきの温泉饅頭を狙ってやってきたんだね!?」
 だからきっと、そんな言いがかりを。
「くっ、負けないよ……温泉饅頭は、絶対に守る!」
 手前の枕。さっき横に落ちた枕を構え。その瞳は決意に燃えている。
「必殺!! ダブルマクラボンバーーーー!!」
 説明しよう。両手を交差させると同時に放つ枕は亜音速に達した衝撃により(略!)。
「負けませんわ!! 必殺――!」
 鉄帝のファランクスを思わせるその構えは。
「マクラパーーンチ!!」
 突撃だ。
「やるね! でもまだまだっ!」

 ――こうして続いた長きにわたる戦いは、最早開戦の理由さえ失われ。

「楽しかったぁ!」
 二人はうつ伏せに。それから仰向けに。布団の冷たさが心地よい。
「……ところで何で戦ってたんだっけ?」
「どうしてだったかしら。何か重大な使命があったような……」
「とりあえず温泉饅頭でも食べる?」
「あっ、お饅頭ありがとう! 有り難く頂きますわ」

 仲良きことは美しきかな。

 近くのどたばたも収まり。
 こちらの二人はお部屋の露天風呂を楽しんでいる。
 大浴場では背中の傷が見えてしまうとはティミの心境。
 かけ湯をしてそっと湯船に浸かる。
 種族柄、耳の先は寒いが、温かな湯がじんわりと身体の芯を暖めてくれる。

「前から気になってたんですけど、四音さんの背中ってどうなってるんですか?」
「私の背中がどうなっているかですか? そんな面白いものでもないと思いますけど。見たければどうぞ」
 四音くるりと振り返り。
「触ってもいいですか?」
「どうぞ」
 翼のような骨格――人の腕骨にティミはそっと指を這わせた。
「綺麗」
 異形だが。けれど美しいと感じる。
「ふふ、くすぐったいですね」
 褒められるのは悪い気分ではないのだが。さて。
 背を向けたまま、ひとつ骨腕で湯をはじいてやる。
「ひゃ!」
 顔に飛沫が跳ねた。
「また何か暗いことを考えてますね?」
 四音の指摘は図星だった。
「仕方のない娘」
 傷のある背が疎ましいと――
「貴女は素敵な人なんだから。もっと自分に自信を持って、ね?」
 振り返った四音は両手をティミの頬に当て、視線を合わせる。
「素敵な人……。自信……」
 そんな事を言われると、頬が熱くなり。
「ありがとうございます」
 頬の手に己が手を重ね――
「ふふ……」
 四音は『いつもの』微笑みのままに。

 ええ――貴女は素敵な物語の主人公――

 赤い瞳をその一瞬だけ覗かせて。

 夜は静かに更けてゆく。
 広縁のソファに寛ぐのはアーリアとミディーセラの二人。
 湯上がりの髪を上げ、色彩の対比が美しい。

 冷蔵庫で冷えたビール、それから果実酒をグラスに注げばちょっとした宴の始まりだ。
「はい、ミディーくんは甘いお酒の方が好きでしょお?」
 もう好みも熟知されている。うれしそうに一つ礼を述べたら乾杯だ。
 まずはぐいっと。清涼が火照った身体に染み渡り、まっすぐに微かな熱を伝えて。
 最近はこうして美味しそうにお酒を飲むアーリアを見るのも、ミディーセラの楽しみになっていた。
 優しい梅酒の香りが鼻孔をくすぐり――
「さぁミディーくん、夜はまだまだ長いし飲み倒しましょ~!」
 早速の二杯目。
「ええ、ええ。たくさん、たくさん飲みますとも」
 あの箱がすっかりからっぽになるまで。
 夜はまだまだ長いのだ。
 それに眠くなったらすぐそこに布団が――けれど。はて。
「あらぁ?」
 アーリアが首をかしげる。
 どちらかの部屋で寝てしまうことはあっても『泊まり』は初めてなのではなかろうか。
 この程度の酒量で鼓動が早くなる訳もない筈だが――

 杯は進み。
 その艶やかなうなじ。
 蠱惑的な胸元は仄かな桜色を帯びて。
 それは月明かりと、移ろう髪の色のせいだろうか。

 ――早鐘は止まらず。

 もしも翌朝。
 隣で眠るミディーセラを見た時に、彼女はどんな表情を見せるのだろう。

 静かな夜だ――
 内風呂はゆっくり出来ると、エルは一人の部屋を選んだ。
 温かな湯豆腐。さくさくとした天麩羅を楽しんだあとはゆっくりと湯船に浸かる。
 平素から隔絶された時間。そして空間。
 彼女が求めたのはそういった物だった。

 湯はじんわりと身も心も解きほぐしてくれる。
 そろそろ寝ようか。
 そう考えた彼女は湯を上がり、身体を拭く。
 それから守るべき所をぺたり。
 寝間着じゃないのはいつものこと。
 火照った素肌にひんやりとした布団が心地よく感じられる。



 ――

 ――――

 熱にぼやける頭のどこかで集中力が高まるのは、どこか術式の構築に似ている。
 瞳を閉じて、念じるように。流れる汗を感じる。
 微かな呼吸。段々と他者の気配すら感じるようになってきた。
 悪くない。

 そんな――夜半。
 あれからどれだけの時が流れたのだろう。
 一人の少年――シラスがついに重い木戸を開けた。
 サウナに閉じこもる熱気が外気と混ざり、もくもくと湯気が立つ。

 シラスはそのまま全霊の体重を戸に預け。よろめきながらも雪を踏みしめた。
 数多の敵に無敗。
 灼熱を一人耐え抜いたその姿。
 あまりの過酷さ、そして勝利への畏敬と共にこう呼ばれたと言う。

 ――ちりめんじゃこ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。
 称号がいくつかあります。

 それではまたのご参加を願って。温泉入りたいpipiでした。

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