シナリオ詳細
普遍な一日
オープニング
●
ふと、体の震えで目を覚ます。
二度、三度と瞬きをして、合わない視界のぼやけを消してみる。
「………………さむい」
たっぷり10秒程、思考のまとまらない沈黙を挟んで、掠れた声で呟く。
寒い。
どうやら寝てる間に布団を蹴飛ばしてしまっていた様だ。ベッドの隣に落ちてしまったそれを、引き上げる為に起き上がるーーのがとても億劫で、面倒で、だるくて、まあつまり。
「……さむっ」
手を伸ばしても届かないそれを、私はさっさと諦めた。どうせ冷たくなった布団を得たとして、体温の温もりになるまで待てやしないし、起き上がるのなら暖炉に火でも付けに行く方が暖かい。
だから、そうしよう。
「よっこいしょ」
……年寄り臭いか。
思いながら体を起こしてフローリングに足を付ける。
「つめたっ」
空気は寒いし床は冷たい。良いこと無しだ。
「ーー」
しかし、それでそれで意識がしっかり覚醒したのも事実で。
鮮明になる思考の中、耳に喧騒が届いた。
明かりを遮るカーテンを開けて、差し込む光に目を細める。手を翳して逃げの影を作り、そうして開いた瞼の先。
「ああ、今年も、もう終わりかぁ」
年末のセールとも言える、大きな市が開いていた。
●
「海洋で開かれている大規模な市の話を知っていますか?」
そう言った『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n00003)の言葉に、イレギュラーズ達は首を傾げた。
そんなことだろうと思ったのです、となぜか得意気に笑ったユリーカは、説明を始める。
海洋。海に囲まれたその国は、船を使った交易をよく行っている。
この時期になると、色々な所から色々な物が安く売られ、集まるらしい。
そこで。
「最近忙しいですし、どうでしょう。ちょっとした息抜きで見に行くのも、気分転換になるのではと、そう思うのです」
特に難しいこともない、ただの観光、くらいの気持ちで気軽に参加も出来るだろうと、そう言うのだ。
「掘り出し物とか見つかるかもしれませんしね!」
ともあれ。
「シャイネン・ナハトももうすぐですので、なにか買い揃えるなら、今の時期がお得かもなのですよ!」
- 普遍な一日完了
- GM名ユズキ
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年12月29日 21時40分
- 参加人数69/∞人
- 相談6日
- 参加費50RC
参加者 : 69 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(69人)
リプレイ
●この寒空の下で
潮の香りに包まれる冬の街並みは活気に満ちて、あちらこちらと騒々しさに包まれていた。
そんな中、一際賑やかな店がある。
デフォルメされた魚を看板に掲げた、出店の様相をする料理店だ。
そこに、『拳力者』リオネル=シュトロゼック(p3p000019)が団員である『夢見る狐子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)を伴って食事をしている。
「んじゃ」
「かんぱーい!」
カツンッとグラスを打ち鳴らして、一息にぐいっと飲む。
「匂いに釣られて入っちゃったけど……」
「鼻頼りの直感もバカにならんもんだ」
向かい合う二人の前には簡素な机があり、その上には海鮮鍋が簡易コンロの火に掛けられていた。
グツグツと沸き立ち、出汁と魚の匂いが湯気に混ざって二人の顔を湿らせる。
魚がメインでありつつ、数種類の切り身と貝、海草と少しの野菜。バランスも何もない、海の幸を濃縮した逸品だ。
「ほふ、ほふ」
箸を差し入れ、身を崩さないようにすくい取って受け皿へ。軽く冷まして口へ放り込めば、広がるのは濃厚な甘味だ。
「っかー……魚介の出汁はやっぱいいな、色々混じっても喧嘩しねぇ」
「こういうごった煮って、シュトロゼックファミリーみたいだね、色んな味が中で引き立て合って一つの力にーーってそれボクがじっくり煮込んで育てたやつー!」
「ふ、教えといてやるが、魚介は煮すぎると固くなっちまうんだぞ? だから美味いうちに、っておいそれオレのだぞ取るなよ!」
ギャースカと騒ぐ二人は、しかし楽しそうで、その後シャイネン・ナハトに贈るプレゼントの買い出しへと向かう相談を始めた。
「バザールとは聞いていたが……」
並び立つ活気の多い店の間に、それはあった。
ショーウィンドウに大小様々な写真達を飾る写真屋だ。
その前に、『叡智のエヴァーグレイ』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)は歩みを止める。
「おじさま、おじさま」
隣に並んで歩いていた『命の重さを知る小さき勇者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)が、同じ様に立ち止まってグレイシアの袖をクイッと引いて言う。
「お写真、撮ろ?」
その動作に、グレイシアは違和感を覚えた。いつもの元気な彼女がなりを潜めている、そんな気がしたのだ。
「……ルアナね、最近夢をみるの。『このままじゃいられない』って夢」
このまま、が変わってしまうかもしれない。だから、今を残したい、と。そう想ったのだろう。
だから。
「おじさまだっこ!」
「……隣に並んで撮るのではないのか?」
要望が聞き入れられずに口を尖らせるルアナと、想い出を残すのだ。
そして店から出てきた二人は手を繋ぎ、写真を納めるアルバムを持って、買い物を続けるのだった。
半透明な二人がいる。
胴から下が透き通った尾の形をする『半透明の人魚』ノリア・ソーリアと、クラゲの様な半透明さを持つ『海月』メーア・クヴァーレの二人だ。
「ノリアさんは、どんなアクセサリーが好き?」
食べ物も食べたいし、アクセサリーも見たいな。
そう思うメーアは、宙を泳ぐノリアへと問いを投げ掛けた。
それに、え? と首を傾げたノリアは、言葉が続かずに悩んでしまう。
透明な尻尾こそが自慢であり特徴で、それ以外に飾るものを考えたことがなかったからだ。
それを察したメーアは、目についた雑貨の出店から試着の許可を得て、
「私なら……髪飾りとか好きかな」
珊瑚と真珠をあしらった髪飾りを手に取り、背伸びをしてノリアの白い髪に合わせてみた。
「そんなに、似合いますの?」
「似合う!」
嬉しいような、恥ずかしいような。
むず痒い気持ちで、ノリアは宙を踊るように回って微笑みを浮かべた。
「ーーふふ」
二人の笑い声は穏やかに、海洋の雑踏に紛れていく。
「海洋に出掛けましょう」
『名無しの男』Ring・a・Bell(p3p004269)の言葉で、バザーへ繰り出した『蒼焔のVirtuose』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)の表情は、少し暗い。
理由は単純で、良い思い出と悪い思い出の双方が、ここにはあるからだ。
どうしても現地にいれば、悪いことが脳内にフラッシュバックするのを抑えるのは難しい。
紛らわせようと話を振ってみるが、ヨタカは聞き流しているようで、視線はあちらこちらへ泳いでいる。
しかしふと、その視線が定まった瞬間が来た。
「この店……」
それは、こじんまりとした駄菓子屋だ。
「あ、いやーー」
「坊っちゃんが小さい頃に、よくお菓子を買っていましたよね……ククッ、駄々をこねて皆を困らせていたのが懐かしい……」
「ちょ、そんな小さいときの事なんて覚えて……ああもう、知らん!」
肩を怒らせてズンズンと歩いていく背中を追いかけて、思う。
たまには海洋へ連れてくるのも面白いかもしれない、と。
「ほらほら、あっち、色々あるみたい!」
賑やかな中でも一際元気な声は、『治癒士』セシリア・アーデット(p3p002242)のものだった。
彼女が呼ぶのは、対照的に落ち着き払った『浄謐たるセルリアン・ブルー』如月 ユウ(p3p000205)だ。
二人の目的は、クリスマスパーティーの買い出しで、セシリアとしては親友との買い物を楽しむという考えもある。
故にはしゃいでいて、あれこれと目移りは多い。
「はいはい、慌てないの。……何をしに来たか、忘れたら駄目よ?」
「っと、そうだった。パーティーの材料、だよね。大丈夫! ……折角なんだから名産とか選びたいよね」
うぅーんと悩むセシリアを見て、ユウは小さく息を吐く。
「……我ながら、何をしてるんだか」
まあでも放っておくと心配だし、と胸中で呟いて苦笑いを一つ。
「荷物は多少持ってあげるけど、あんまり買いすぎないで頂戴よ?」
「大丈夫大丈夫、付き合ってくれてありがとうね~! さてさて、楽しんで見て回るとするかな!」
「寒くないですか?」
バザーの通路を、黒猫を抱っこしながら『ほのあかり』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)が歩いている。
掛けた声はその猫に向けたもので、あちらこちらを買いまわった一人と一匹は陽光の射すベンチに行き着いた。
「今日は付き合うてくれて、おおきに。おかげさんで楽しかった」
クラリーチェに声を掛けたのは黒猫、本来の姿に戻った『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)だ。
一度腕から降り立ち、優しい表情を見上げる。そこにある顔は、初めての出逢いと変わらなくて。
「……そや、今日のお礼」
と、思い出した様に持ち込んだ袋から、贈り物を取り出した。黒いシックなレースのついたストールだ。
「これを、私に?」
「朝のお祈りの時、良かったら使て?」
「……ありがとうございます、使わせてーーあら」
クラリーチェの声を全て聞き終わる前に、蜻蛉の体は柔らかな膝の上に横たわっていた。
「おやすみなさい」
優しく撫でる手に、安らぎを得た黒猫を見て、クラリーチェは目を閉じる。
彼女の見る夢は、どんなのだろうかと、そう想いながら。
「参りますわよシャルレィス様!」
「はい! 行きましょうタント様!」
気合い十分!
そんな二人は『きらめけ!ぼくらの!』御天道・タント(p3p006204)と『タント様FC会員NO.1』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)だ。
バザーに来た目標はズバリ、猫柄の冬物アイテム。
「シャルレィス様は猫好きとのことですので……!」
買い物デートも楽しくついつい散策してしまうが、
「うわぁ、うわぁ!」
はしゃぐ姿に、それでよかったと思う。
「ううーん候補が多くて迷っちゃう……!」
どれにしよう、どれがいいだろう。
そう悩むシャルレィスに向けて、コホンと咳払い。
「此方などいかがかしらー!」
「そ、それは……!」
ズパンッと広げたそれはマフラーだ。
ご機嫌な帽子を被ったデフォルメの巨大猫が描かれた防寒具は、しかも丁度二枚余っていて、それはつまり。
「お揃いで! ……いかがかしらー!」
「大ファンのタント様とお揃いなんて……すっごく嬉しい!」
ハイテンションな二人の目的は果たされたが、一日はまだ長い。
きっとまだまだ、デートは続いていく。
バザーに付設された、飲食と土産を一挙に集められたスペースがある。
そこには海洋特産のものから、持ち寄せられた物までが揃っていて。
「たまにはこんな風に、みんなでのんびりと食べ歩きも良いな」
一団として楽しむ者達が居た。
思い思いの楽しみ方をする仲間を、『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)は眺める。
「最近は依頼で大忙しだったから、ぱーっと……たべあるひでふぉ……しながら楽しもう!」
はふ、はふ、と湯気の立つ焼き海老を頬張って『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は頷く。
海洋といえば海の幸。海鮮汁を啜るポテトもホッと一息を吐きだした。
「ウミノサチ……タベアルキ? 海って、どんなの、だろ?」
「シュテは海洋、初めてか」
コクンと、リゲルに『星頌花』シュテルン(p3p006791)が首を縦に振る。
初めて見る魚という生き物を興味深そうに眺めていると、
「でもやっぱり、此処に来たらこれだよ、オーシャン・ジェラート!」
お勧めですよ!
と、『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)がシュテルンへ差し出した。冷たく甘い、独特な風味の氷菓だ。
「わ! つめたい、食べ物! ……でも、美味し、だね!」
「焼き海老も食べてみようぜ! 美味しいぞ?」
「おお……!」
勧められるままに食べる、進めるままに食べさせる三人を笑って見たポテトは、思い出した様に周りを見渡す。
お土産も買おうと思ったのだ。
そうして、一通り眺めて、視線が一つに定まる。
「可愛い……」
ふっくらふわふわとしたイルカとジンベイザメのぬいぐるみがある。
クリスマスラッピングのサービスもあるし、鈴も付いたものだ。
「癒されそうなぬいぐるみだ、ノーラも喜びそうだな。俺は……うん、海の写真集を買おう、天義では見られなかった光景でワクワクする」
「わ~お土産屋さん! かわいいなぁ~あっちもこっちもいいなぁいいなぁ~……あ、この蝙蝠のストラップが可愛い!」
リゲルとユーリエもそれに感化されてあれこれと眺めていく中、そうだ! とユーリエは唐突に閃く。海を見に行こう、と。
「シュテ、海、見た事ない、だから、行く、して、みたい!」
賑やかな四人の旅路は、海へと変わった。
「すっかり寒くなってしまったな」
空は青く、いつもと変わらない。しかし季節は巡って、
「この世界へ呼び出されてもう一年以上になるのか……」
吐く息の白さに、思考を溺れさせる。そんな『堕ちた光』アレフ(p3p000794)の声に、応えるものが隣にいた。
「一年……早いものです」
二度目の冬。喚ばれる前に居た世界でも、時は変わらず進んでいっているのだろうか。『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)も故郷に想いを馳せた。
そんな二人に届くほどの活気が、バザールから起きている。
「少し覗いてみるとしようか」
「この世界の交易品というのも、中々興味深いものですね」
なにか惹かれるものがあるかもしれない。
そう思い、両並びに広がる店舗の間を歩いていく。
「ふむ、こんな物はどうだろうか?」
「あら。可愛らしいですね」
目についたもの、それはペアのマグカップだ。
薄い青のカラーに、海底を泳ぐ魚が描かれている。いわばお土産の為に作られたもの。
「どうだろうか」
思う。これからますます強まる冷え込みでも、これで温かい飲み物を飲みながらゆっくり話せれば、と。
「良いですね。あの教会も、こういう備品を増やしていった方がいいでしょうし」
そうして買った二つのカップをもって、二人は歩いていく。
『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)は、沸き立つ気持ちで臨んでいた。
隣には、無邪気に笑っている『リトル・ハーツ』リトル・リリーがいる。
そんな笑顔を眺めて、二人、進む時間を共有するそれは、
「つまりこれはデートだな……!」
恋心を募らせるカイトにとっては相違ない。
「かいもの、つきあってくれてありがと!」
そもそも恋を知らないリリーにとっては、観点からして違うようだが。
そんな折、海洋にて老舗と言える歴史を持った呉服屋に通りがかった。
ガラス越しに展示されるその艶やかな布地に興味を惹かれたリリーはぼんやり眺め、それに気づいたカイトが声を作る。
「せっかくだし、着てみるか?」
「うん!」
問いには即答だ。
カイトとしても、新調したいと思っていたし丁度良い。
試着室を借り、手慣れた動きで着こなした。
「リリーは……っ」
翼や尾羽根も出せる、匠の技だ……そう感動しつつ写した視線の先、カーテンの裾からリリーの脚が大きく覗いている。
小さい体躯の為にギリギリだ。
「じゃじゃーん! ん?」
どう? と感想を求めて飛び出した彼女が見たのは、赤い顔でそっぽを向いていたカイトだった。
「よし、では各自、いいかな?」
『世界の広さを識る者』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)の言葉に、二つの応答がある。
それを見送り、彼は行く。
目的はクリスマスツリー、そこに下げる飾りだ。
「ふふ」
ローレットの事務所か、もしくはみんなが集まる場所に立てることを想定した買い物だ。
ツリーは巨大になるだろうし、かなりの量になるだろう。
「頼んだよ、ゴリョウ君」
そしてそのツリー担当は『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)だ。
「折角だ、幾つか買ってくか」
今年一年、ローレットには世話んなったしな!
これは還元だ。そう思い、彼は店舗で購入したもみの木を有り余る力で担いで馬車に乗せていく。
ずしりと沈む荷台だが、彼の連れる軍馬はそれをものともしないだろう。
「……それ、美味そうだな。一つ頂いても構わないかね?」
そして、『永久の罪人』銀(p3p005055)の役目は、酒類とお菓子を探して仕入れる事だ。
ついでに、イシュトカに依頼された、ツリーのためのオーナメントが必要だと認識している。
それに、
「折角の休暇だ……ゆっくりと、買い物を楽しませてもらおう」
と、そう思い、のんびりと店舗の敷居を跨ぐ。玩具屋だ。
そこにはシャイネン・ナハトのプレゼントを選ぶ親子連れが多い。
時期的なものだと、そう理解して、同時。銀は自分にも、それに値する相手がいることを思い出す。
「……うん、あれがいい」
買って帰ろう。
大切な人への贈り物、それを渡して、喜んでもらえるといい。
そう思って、銀は買い物を済ませていった。
幾つかの紙袋を抱えて、マルク・シリング(p3p001309)は、『殊勲一等』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)と買い出しに来ていた。
「飾りつけと小物は買ったし……焼き菓子なんかも、もう少し買っておこうか?」
「保存が効くし、そうね……後、狐の小物、狐柄のリボンとか、どう?」
同じカテゴリで、質も値段もバラバラなのがバザーだ。それを見極めるのも一苦労と言える。
それでも、二人が滞在する宿を飾り付ける為に、もう一頑張り。
の、前に。
「はい、これ。グリューワインって言うんだって」
熱いから気を付けてと、マルクが差し出したのは香りの爽やかな、ぶどうジュースベースの飲み物だ。
それを手に、二人は小休憩を挟む。
「ワイン、じゃなくてジュースなのね。温まりそうな気がするわ」
喉を潤し、静かな時を味わう。
「お疲れ様、殊勲一等。戻ってこれて、よかった」
「あら、司令塔殿に労われるなんて光栄ね……お陰様で、ね」
目線を会わせず交わした言葉は冬の風に紛れていって。
二人の日常は、今年を終えていく。
……買いすぎたかな?
そう首を捻る『お花屋さん』アニー・メルヴィル(p3p002602)はしかし、手ぶらだった。
買い込んだ荷物は『観光客』アト・サイン(p3p001394)の背負うザックに大半納められ、それでも入らなかった分は手に持って引き受けている。
付き合いで同行してはいるが、人を喜ばせるモノをアトは知らない。買い物でのアドバイスは、腹を満たせるものだとか、ダンジョンで役に立つだとか。
自分で認識できる程度にズレていると思うものだ。
「私、アトさまが羨ましかったんです」
「え?」
「目標もなく流される日々の私と、迷宮という強い目的意識を持つアトさまの、その差に」
突然の告白に、アトはふと、前回の同じ頃を思い出す。
ただただ果ての迷宮入りの為に動いていた。けれど今回は、気まぐれとはいえここにいる。
変わったと、そう思う。
「えいっ」
「もっ!」
ぼんやりと考え込んだ所に、口へ何かを突っ込まれた。
「どうですか?」
問われ、噛み切り、残りを手にとって眺めてみる。
湯気の立つ、白いふわふわの皮に包まれた肉餡が見えた。
「うん、肉まんの味」
「……ふふ、アトさまらしい感想ね」
そんなやりとりをしながら、帰路を目的としつつ二人は歩みを再開する。
今年はどんな聖夜になるのかと、そう思いながら。
「ふっふーついに来ましたわよ噂のバザール!」
両手に袋を持てるだけ持った『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は、意気も高く買い物をしていた。
鉄帝とは大違いですわねー!
と思い、そういえば、と一緒に来た同業者を探す。
「メリンダ、そっちはなにかおもしろいも、の……?」
振り向いたそこに、『瞑目する修道女』メリンダ・ビーチャム(p3p001496)が笑顔で居た。
手にはなにやら怪しい小さな機械があって、
「ねぇ、ヴァレーリヤ、ちょっとここに指を挟んでみてくださる?」
「いやいやいやこれ何に使う機械ですの? 赤黒い染みが付いているのだけど、これ、拷問器具ではなくてー!?」
なんだ、知っていたのかと、残念そうに仕舞ったメリンダは、ふとヴァレーリヤの姿を見る。
「あなた、随分買い込んだのね……一つもってあげる」
「さっすがメリンダ、そう言ってくださると私、信じてーーなんですのその小さいの……え、なに、え……?」
代わりに軽い袋をと、交換するように手渡されたそれは、なにやらカサカサと蠢いていて。
「心配しなくても大丈夫よ。……たぶん」
「う、うぅ~……中は見ない、みない……」
半泣きになりながらも、ヴァレーリヤは健気にそれを運んで歩いた。
冬用小物のアパレル店。
その一つに、『終わり無きソラゴト』シンジュゥ・ソラワルツ(p3p002247)はいた。
あれかな、これかな? と見るのは、マフラーや手袋の陳列で。
「目移りしてしまいますね」
一緒になって見ている『blue moon』セレネ(p3p002267)も、視線を追って顔を動かしていた。
お目当ては、二人揃っての手袋とマフラー。そして二人は、青がお気に入りのカラーで、ついついそういう綺麗な色合いに目移りしていた。
「……わふっ」
と、急にシンジュゥの顔がもこもことした物に包まれる。
それはセレネが試しにはめた手袋の感触で、
「どうでしょう、もこもこ、あったかです」
「はい、もこもこで……すごく気持ちいいです、これ」
ふにゃり、緩んだ顔を見せてしまった。
「わふっ……」
だからお返しに。セレネへと、同じ素材で出来たマフラーでもふっと包み返した。
「……これにしましょうか?」
「はい! えへへ、お揃いで、仲良しの証、ですね!」
これで、シャイネンナハトへの備えはバッチリだ。
市場は店だけではない。屋台の数も相当のものだ。
その内の一つ、焼き鳥屋の端の席で、一人、串にかぶり付く『守護天鬼』鬼桜 雪之丞がいる。
「海洋の美味は飽きませんね」
ジューシーな肉厚は噛みごたえが強く、噛めば噛むほど美味しさを染み立たせる。
だが、ふと、そんな香ばしさに別の香りが混ざってきた。
潮の香りだと、雪之丞は思う。
その出本を鼻で追えば、入り口付近に立つ者がいる。しかも、なぜか自分を見ていた。
それは、串に刺さった焼き魚を持った『夕闇の孤高』烏丸 識(p3p005115)だ。
「……なァあんた、もしかしてご同輩……」
「食べたいのですか?」
その視線に、焼き鳥が欲しいのかと推察する。だから雪之丞はそれを差し出すが、その刺さった肉を識は複雑そうな曖昧な笑みで「いや……」と断った。
「では、貴方も妖か、ナンパですか?」
「ナンパじゃねぇよ」
そこはしっかり否定のツッコミを入れ、こほんと咳払い。
「懐かしい匂いで、嬉しかったんだ」
「なるほど、見知らぬ異界では確かに、誰も自分を知らないのは不安だと理解できますね」
ならば、これは縁だろう。
偶々とはいえ、あまり見ない縁だと、そう思う、だから。
「よければ少し、お話致しませぬか?」
その魚も気になります、と雪之丞は続ける。
「お、いいの? んじゃ……一緒に回るべ?」
そうして食べ歩きに付き合いながら、二人は話をした。
出身や、鬼や、烏のことを、色々と。
同じ様に屋台回りで、何かを探す二人がある。
先導するのは『くるくる幼狐』枢木 華鈴(p3p003336)だ。
目指すのは、桜坂 結乃(p3p004256)が言った「たこやき食べたい」という求めに従って、たこ焼き屋さん。
「ボクの知識……ええと、ボクを作ったマスターの話はしたと思うんだけど」
「うむ、前にそんなことを言っておったのぅ」
そういう記憶があると、華鈴は頷いた。
つまり、パッとたこ焼きの希望が出たのは、
「なるほど、マスターが好きな物だから食べてみたい、と?」
しかも言葉の雰囲気から、結乃はたこ焼きが何であるかを知らないようだと思う。
「うん、実際に見た事はないの。おねーちゃんは、食べたことある?」
そして、それには肯定が帰ってきた。
どうだったかのぅ……。
記憶から、少したどってみる。
「作り方で大分味が変わるんじゃが、どれも美味しかったのじゃ」
「じゃあ、あの、折角だし……おねーちゃんと一緒に食べたい」
「……うむ! たこ焼き屋さんを探すとするかのぅ!」
にこやかに二人は、屋台を巡ってたこ焼き入手へと出発していった。
工芸品のコーナーで、『灰かぶりのカヴン』ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)は、酒を注ぐためのグラスを探している。
と言うのも、傍らに居る『酔興』アーリア・スピリッツ(p3p004400)と約束を果たすためだ。
蠍との決戦前に、アーリアから預けられたとっておきの酒。帰ったら、一緒に飲もうと、そう約束したもの。
だから、折角ならグラスにもこだわろうと、そういうことだ。
そしてミディーセラは見つけた。
「これは、いいですね」
注ぐと色を変化させる、特殊な作りのグラスだ。
「あらっ、すごいわぁ!」
その綺麗なキラキラと光るそれをみて、アーリアは思わずはしゃぎ、ハッと恥ずかしそうに口許を抑える。
その間に、ミディーセラはついでというように他の酒をあれこれと買い込んで、
「一回じゃ飲み切れませんけれど、いいですよね」
「そうねぇ、シャイネンナハトも新年も、一緒にお酒を飲んでくれるのでしょう?」
それなら、大丈夫。
「ああそれから……ただいま、ミディーくん」
「はい、お帰りなさいアーリア。また、隣にいれて嬉しいです」
チリンと、合わせたグラスが音を奏でた。
買い物へと向かう前に、事前調査は必要だ。『いいんちょ』藤野 蛍(p3p006861)は生真面目にそう思い、本屋へと立ち寄っていた。
チェックするのは聖夜の特集で。
「今日は、どのお店からまいりまーー」
誘われて付いてきた桜咲 珠緒(p3p004426)は、問いかけの言葉を作って、
「ごっぼぁ」
吐血した。
「ええええどどどどどうしたのー!?」
「すみません埃を吸い込んでしまいました。気を取り直してーー」
「お休みしましょう」
え、げせぬのですが? という顔の珠緒に、いやいやそんな顔される方が解せぬのですが。と返して。
「そういえば、お話していなかったやもです」
召喚される前、召喚された時、病を抱えた身は病らしきものとなり、それが常となった、そういう込み入った話を。
「歩けもすれば、話も出来ます。相当元気と言えます」
「はぁ……眩しいような、悲しいような……」
額に手を当てて、溜め息を一つ。良いと言うなら、そうならば。
「じゃ、そろそろお店を見に行きましょっか!」
出掛ける事に、迷いはなかった。
「寒いね」
「ふふっ、寒いね?」
くっついてお出掛けの『メルティビター』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)と『白金のひとつ星』ノースポール(p3p004381)は、寒さを言い合いながらも楽しそうだ。
なにせ、二人だ。
一緒なら、冬のデートでも辛くはない、幸せな時間になる。
色々な物を見て、色々な物を買って、共に過ごす季節を思い出と一緒に彩っていく。
それはぬいぐるみだったり、置物だったり、食べ物だったり。
「いっぱい買ったね! じゃあ早く帰って、家でハーブティで温まっーー」
「もう帰るの? まだ観光してない場所もあるよ、ほら」
帰宅プランを語るノースポールを、ルチアーノは後ろから抱き留めて飛び上がる。
ふわり。
優しい浮遊感に彼女の悲鳴と楽しそうな彼の笑い声が響き、そうしてなだらかな屋根の上に降り立つ。
「わぁ……!」
そこからの眺めは、広かった。
賑やかな眼下の町並みに、水平線で解け合う空と海。冷えた空気の引き締まりに、見える景色も澄んで見えた。
「一年間、よく頑張ったね。生きていてくれて、ありがとう。また来年も、よろしくね」
「私も、ルークが生きていてくれて、本当によかった。こちらこそ、来年も、よろしくね!」
いつ終わるのかわからない。戦いに身をおけば、不安は消えやしない。
それでも、二人でなら。
きっと、どんな壁も乗り越えていけるはずだ。
そう、思います。
下卑た笑みの声が聞こえる。
グヘヘと声を出すのは、『壊れた楽器』フルート(p3p005162)だ。
なぜそんな? という理由は、目の前の美女、『いもより脆い』アマルナ(p3p005067)とのデートだとうきうきしているからだ。注意しておくが、二人は友人である。
「ふふん、久々にフルートちゃんとお出掛けじゃのう。お祭りじゃ、賑やかじゃ」
「ところでこんな時期なのにその包帯だけなの? 寒くないの? 死んじゃわない?」
フルートの言葉も仕方ない。なにせ彼女の耐久力的なステータスはマックスが瀕死みたいなものだ。
「ふ、寒くないかじゃと? 寒いが? 凍える冷たさじゃが? おしゃれはがまーー」
「あ、死んだ」
さておき。
「冬用の厚手の包帯を買うぞ!」
なぜ包帯にこだわるのか謎だ。
「というかなにそれ、冬用ってなに……包帯に冬も夏もあるの……?」
「材質が麻から綿になったりしておるじゃろ」
多分。
いやどうだろう。
わからない。
「ぐへへ、気になるし私が巻いてあげようか……と、ほんとに寒いからとりあえず!」
バンッ、とフルートが差し出したのは、青色のマフラーだ。
その場で買って、アマルナへ贈る。
「……布だからって体に巻くなよ? 首に巻くんだよ?」
「おぉなんと可愛いほうた……おお? うむ、よし、巻いておくれ!」
くるり、もふもふ。
首に巻かれた暖かいそれに、アマルナはにこやかに笑って告げる。
「お返しに余から、後でHPが下がる装備をあげようね」
「いやなんで?」
雑踏、人混み、その前に『フェアリィフレンド』エリーナ(p3p005250)は立っていた。
「大変ですね……」
傍らにはパカダクラを伴い、シャイネンナハト用品と年越しに向けた物の買い出しに来たはいいが……。
「仕方ありません」
覚悟を決めるしかない。
空へ放ったファミリアーで、目当ての店をピックアップ。道順、並びを一瞬で記憶して、決意の息を一つ吐く。
「いきます」
踏み込んでいく。
人の波に揺られながらも懸命に進み、「これくださ、くださーい!」と叫びながら買い物を済まして行った。
「……毎年の事ながら、年末の買い物は一苦労です……ね?」
買い込んだ荷物はパカダクラに乗せて、労いのご褒美を買い与えて撫でた後、彼女は静かに家路を辿った。
年末年始の買い出しは、珍しいこともない。『世界を渡り歩く旅人』辻岡 真(p3p004665)もその一人だ。
もこもこしたコートに手袋、耳マフ、マフラーと防寒装備を整えてた彼は、ペットと共に散歩の様な気楽さで巡っていく。
「……ふぅん」
手を宙にサッと翳して、真にしか見えない表示枠を出現させる。二度、三度とタップして、手帳を取り出してペラペラとページをめくる。
「門松は、いらねぇな。餅に鯛と味噌に醤油とみりん、酒……」
メモってあるのは、忘れてはならない必要なリスト。
「さて、あとは……アイツに会いに行くか」
買って、揃えて、宿屋へ向かう。
悪友へ顔見せをしに、建物へと消えた。
「ん、んー……!」
大きく伸びをして、肺に溜まった空気を思い切り吐き出す。
気分をすっきり入れ換えて、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は歩き出す。
「最近、バタバタしてたなからなぁ……」
シャイネンナハト、それから年越し。
ゆっくりは出来るが、別の事では忙しくなりそうだ。
と、いうわけで、目的はそれに備えた買い物。何を買うかと言えばそれは、
「うん、やっぱり本でしょ!」
家の中で読める本。できればワクワクと出来るものだ。
例えばそれは、勇敢な冒険譚。胸が切なくなるような恋愛。日常を綴るエッセイでもいい。
「辛いこと、大変なことがあったし……前向きになれるような本と出会えるといいな」
そんな出会いを期待して、彼女は行った。
店頭に立った『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は、顎に手を当てて考え込んでいた。
今年ももう終わりだな、とか。
時が経つのは早いものだ、とか。
そう思って、馴染み深い市へと繰り出したのだが、今は。
「……どうするか」
何を買うか、それが悩み所だった。
越冬となると乾物、葡萄酒など、日持ちするものを中心に、一月は買い足さなくても過ごせるようにしたいと思う。
だが、一人で持てる上限はある。
あれも美味しそうで、捨てがたく。
「うーん……まあ、荷物が多くなっても、休み休み帰ればいいさ! 今は有限、買いたいものを買いたいときに買いたいだけ、存分に買うさ!」
結果、抱えた荷物は多すぎて、帰宅に難した事は言うまでもない。
黒い、各所にフリルをあしらったドレスに、同じ色のコートを羽織って『黒焔の意志継し紅の片翼』アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)は行く。
両手に持った買い物袋は重く、確かな手応えを伝えてきている。
「……」
ふ、と。歩いた道を振り返る。
行き交う笑顔の人々で賑わい、止まることのない流れに、彼女は微笑んだ。
「ああ……」
前に居た世界でも、確か、こんな。
「こんな賑わいや笑顔を、沢山見ていました」
歩みを再開して、自然と足が向かうのは、海と、そこを主とする船の見える場所。
日光の照り付けるそこに、目を細めて彼女は立つ。
「今年も大変だったわ、貴女だったらどう立ち回ったのかしら、ねぇ……?」
さざなみに打ち消される様な呟きは、海に溶けて、ただ消えていった。
「お、旨そうな匂い」
余分な荷物は持たず、ただ静かに散策をする『ガンマン』マッド・ラインナー(p3p000615)は、匂いに釣られて暖簾を潜る。
「へぇ……」
冷やかしのつもりで入った店だ。
ただまあ、匂いに違わない食べ物が陳列されていれば、興味もわく。
「もらうよ、それ」
持ち帰りで、そのまま手にしてまた歩く。
海洋の名物を見て、食べて、感じて、観光する。
そんな、ただひたすらにのんびりとした時間を、マッドは過ごした。
「最近は依頼でしか海洋に戻って来なかったけど……」
ふらふらと、目的地を定めるでもなく『風来の名門貴族』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は辺りをぶらついていた。
潮を運ぶ風の質感と匂いが体を撫でていく。
「いやぁ、故郷の風はいいものだ」
一応とはいえ、海洋所属の貴族である身。あまり目立つような事をする気はないし、できるなら顔見知りと出会しても気づかぬ振りで流したい。
まあ、目が会ってしまえば、軽い挨拶を交わすくらいはするのだろうが……。
「それ、もらえるかな? うん、そう……ありがとう、お釣りは取っておいてくれ」
今は気ままに、好きなように行くだけだ。
そう思って、またふらふらと、思うがままに行った。
こそこそと、人目を気にする巨体がいた。ふわりとした体毛に鍛え上げられた肉体を隠す、『海抜ゼロメートル地帯』エイヴァン・フルブス・グラキオール(p3p000072)だ。
「……とりあえず、国軍関係者にだけはみつからないようにしないとな」
決意をしっかりと、市場を覗いていく。
羅列されるのは、物珍しい物だが、この時期に集められる物としては定番となりつつあるもの達だ。
「よくもまぁ毎度毎度、集まるもんだ」
最近のモンスターは活発だと、エイヴァンは受ける報告からそう理解している。
脅威の間近にあると、開催だって楽ではないだろう。
そこら辺の事情も、店の店主等から詳しく聞いてーー
「オフの日に仕事のこと考えてどうすんだ俺は……!」
やれやれ。
肩を竦めて、適当に肉と酒を買い漁り、手早く退散だ。
「見つかる前におさらば、っと」
「今年は一段と賑わってるな」
例年、何かしらの形で開催される大規模市に、『水底の冷笑』十夜 縁(p3p000099)は今年も客として参加していた。
最近、立て続けに起こった事件の影響で、少し心配はしていたが。
「無事に開催されてよかったぜ……この市にこねぇことには新年迎えられねぇからなぁ」
ここは縁の日常の一コマなのだ。
普段住んでいる海洋では見られない、特別な品々を眺めながら、馴染みの深い店主たちの出品物を眺めて会話をしていく。
「よう旦那、どうだい今年の売れ行きは」
世間話に軽口と、暇を見せながらも必要な物を買い足していく。
特に……酒は忘れてはいけない。
「お互い、いいシャイネンナハトをな」
片手を上げて、子ロリババアに荷物を積んだ縁は、また気ままに帰路へついた。
「休日、か……あまり慣れない響きだな」
出店の商品をじぃっ、と見つめた『影刃赫灼』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)の目は厳しかった。
鮮度の落ち具合と価格の擦り合わせ。いいものなのか、悪いものなのかを見定める、そういう目だ。
パーティの準備にケーキ作り、料理の仕込みが彼を待っているのだ。いや、すでに始まっていると言っていい。
頭の中では作る献立の選択が始まり、なにから手を付ければ効率的なのかを計算し始めている。
「む、良い野菜だな。これが嫌いな奴もいたはずだが……工夫して食べさせてやろう」
そしてその思考は、なんだか子を相手にする母のようだった。
「ふーむバザール、なるほど」
市を歩く『こそどろ』エマ(p3p000257)は、不思議な自信に満ちて胸を張っていた。
なぜなら彼女は、先の蠍関係の仕事で得た報酬をたんまりもらい、大手を振って買い物が出来るからだ。
「えひひひひっ」
金がある、なら盗む必要もない。そして息を潜めなくてもいい。
そういうことだ。
「さて、じゃあ何を買いましょう」
とりあえずは暖かい毛布と豊富な食べ物は欠かせない。薪に着替えと、厳しい冬に備えるものはたくさんあるのだから。
「うぅ、いっぱいいりますね……い、いえ、買えます買えます! 今の私は結構お金持ち……ひひひ、えひひひひっ」
これとそれとあれと、手に取り籠に放り込んで、ふと冷たい風がエマの髪をなびかせる。
「あ」
べたつく潮風と、鼻をくすぐる海の匂い。
そうでした、ここは海洋でしたね。
思い、彼女の足はそれらが見えるところに向かっていた。
見晴らしの良い所だった。
「海の向こう、絶望の青。どっちの方にあるんでしたっけ……あの人、今どこにいるんですかねぇ……」
呟く声に、答えるものはない。
ただ静かに、繰り返し、押しては返す波の音だけが、それを聞いていた。
シャイネンナハトと年越しを見据えた大規模な出店に、『なんでも狩ります』桐野 浩美(p3p001062)は買い出しに来ている。
「年末年始はゆっくり過ごしたいっす」
日持ちする焼き菓子はシャイネンナハトに。
焼き用の固いお餅と黒豆は、来る年越しの際に。
一年を無事に過ごした自分へのお祝いだ。ケーキやお節は買うだろうが、
「お雑煮は自分で作るっすよ」
その為の買い出しでもある。
出汁には魚を使うつもりで、魚といえば海洋だ。
「いいもの見つかるといいなぁ」
とはいえ急ぎでもない。のんびりと、屋台を冷やかしつつ、浩美は人混みへと紛れていった。
バザールを流し見して、『α・Belle=Etoile』アルフォード=ベル=エトワールは散歩していた。
「……もう、シャイネンナハトが近いのですね」
一年。振り返れば色々あったはずだけれど、それでも月日が過ぎるのは早い。
そう思い、進む足はバザールを抜け、いつしか海辺へと至る。
「海は、好きです」
思う。やっぱり水辺が一番落ち着く、と。
しゃり、しゃり、と踏む足裏から伝わる感触を確かめながら歩いて、立ち止まり、ぼんやりと海を眺めて腰を落ち着ける。
静かに、変わらない風景を眺めながら、今日という日を過ごしていく。
イザベラ女王へ、想いを抱く若者がいた。名前を『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)と言った。
そんな彼が、ぶらぶらー、と市を歩き回っている。思うのは、やはりシャイネンナハト絡みの商品が多いなぁ、という普通の感想だ。
そして、シャイネンナハトと言えば、そう。女王陛下もお祝いなさるのだろうか、という、素朴な疑問。
並んで飾られたリースを一つ、ソッと手に取りながら思うーーというより妄想する。
そう、もし、もしも、だ。もしも女王陛下からプレゼントを賜れるのなら、このリースの葉一枚であろうと、宝物になるのだろう。
実現しないであろう光景を思って、ニヤニヤと笑みが浮かんでしまう。いや、しかし、そうだ!
彼は閃く。
「俺の方からプレゼントへ行こう!」
そうと決まればはやい。手にしたリースを購入し、プレゼント用のラッピングを依頼して、大事に抱えて店を出ていった。
市の中でも、離れたところには観光客ではない、現地住人向けの一角がある。
海洋で言えば、それは建材だったり、漁具だったりだ。
「むむむ」
一通り見て回って唸る『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)の目的はまさにそれで、彼女の目当ては船の修理用品だった。
年を越す前には綺麗にしておきたいと、そう思う。
海の男の信条的にも。
「まあ、女なんですけどね私……」
それはさておき、グルリと回って買う店は決めた。一番値段的に優しい所だ。
が、出来ればもう少し、切り詰めたい。
だからここで交渉だ。
「ねぇねぇ、すいませんおじさん、もうちょっと安くならないですか……?」
手でごますり店主へとそそくさ近寄って、売り込みを開始する。
「こうみえても私、結構海でのお仕事は慣れてまして……ええ、だからもし困り事なら私がお助けしちゃいますから……えぇ、ええ!」
ずいずいっと迫る圧に、結局押し負けた店主の値引きを勝ち取って、
「うみのいえのマリナをどうぞよろしゅーですよ」
勝利の笑みで、彼女は袋を受け取った。
海が見えるカフェテラスに、『麗しの王子』クリスティアン=リクセト=エードルンドは腰かけていた。
湯気の沸き立つティーカップをつまんで持ち上げ、静かに味わう。
冬の外気で冷まされた体が、ほんのり温まるような気がした。
「さて……」
そうして一心地ついて、彼は思案に入る。
贈り物の選択だ。見て回って、幾つか候補はあったと思う。
綺麗なアクセサリー、お洒落なティーカップもあった。それか、チャームだとか、お皿……新しいロ
「いやロバはないな、ない」
候補から一つ消して、深く座り直す。
慎重に選ばなければ。家族のように、大切な人へ贈るものだ。
冷めていく紅茶の前で、クリスティアンは考えに耽り続けた。
確固とした目的も無く、瑞泉・咲夜(p3p006271)は街を歩く。
知見を広める、という漠然とした目的はあるが、なにせ海洋の土地勘がまるでない。
「……よし」
わからないが、わからないなりにこういう場合、セオリーとしての指針もある。
例えばご当地のご飯だったり、観光名所だったり、国としての歴史や由来にまつわるものだったり。
そういうものを、探しに行こう。
「いッーーはぁ……鉄帝野郎が」
痛む傷を押さえて、『接待作戦の立案者』空木・遥(p3p006507)は街に来ていた。
骨は軋む様に痛むし、歩けば傷に響く。とても外に出る体ではないはずだが、
「何かしら喰わねぇと、それこそ死んでしまうからな……」
腹が減っては回復も遅れる。
人混みは避け、日持ちの効く加工肉や果物を中心に買い込んでいく。
重さにやはり体の悲鳴は大きいが、今はとにかく腹が減っている。
ゆっくり、のんびりとも言える速度で、遥の歩みは進んでいった。
賑わいの深い通りへ、『アウトロー』ケドウィン(p3p006698)は進んでいく。
一人で散策ついでの買い物だが、たまに通り過ぎる人へ手を振ったり会釈したりと、交遊関係の広さを窺わせる動作が見える。
アウトローとはいえ、いや、アウトローだからこその繋がりもあるのだろう。
とはいえ、そこそこの確率でエンカウントするとは思ってなかっただろうが。
「よ、いつものやってくれよ兄ちゃん」
と、馴染みの店主が林檎を放り投げてくるのを、ケドウィンはキャッチした。
ニッと笑い、取り出したナイフを林檎の丸みに当てると、瞬間。
皮をまるごと剥いた果実が生まれた。
海洋で大きな市が開かれる。
そうユリーカから聞いた『百合烏賊キラー』エル・ウッドランド(p3p006713)は、そこへと赴いた。
特に何かを買おう、という明確な目的は、実はないのだが。
「シャイネンナハトの時の食べ物は、心配ないし……」
最悪、雑草を集めてヨモギパンとして変換すればいい、と、彼女は頷く。
干からびたパンだけは寂しいとはおもうのだが。
「ああ、そうです」
どうせなら、焼き菓子でも買おうと思い付く。ギルドの酒場でお茶請けにもなるし、何なら空中庭園のざんげへのお供えとしてもいいだろう。
「よし」
そうと決めたら実行だ。エルは、向かう先を定めて向かった。
デカイ市に一人、適当にブラブラ歩いて冷やかすかぁ。
と、そう思っていたはずなのに、どうしてだろう。
首を捻りながら『張り子のヒャッハー』ヨシト・エイツ(p3p006813)は自問する。
見知らぬ子供を肩に乗せ、そのはぐれた親を探し回るこの現状。
おかしい。
見た目的にあまり近寄りたくない風貌のはずだと、正しい自己評価はある。
「チクショウ!」
ただ、滲み出る善人臭までは理解していないのかもしれない。
「おらどうだ見えるかぁ!」
「……髪で見えない」
「あぁ!? って泣くな泣くな!」
モヒカンが邪魔をする。
むしろ泣きたいのはこっちだと、ヨシトは思いながら叫ぶ。
「ヘループ!」
無情にも助けは来なかった。
ポツンと、ベンチに一人『自称空気』道子 幽魅(p3p006660)が座っていた。
温かいコーンポタージュの入ったカップを両手に、ぼんやりと道行く人を眺める。
「みんな楽しそうだなぁ」
思いつつ、ふと目につく者がある。
コート、マフラー、帽子、手袋と、全体的にモコモコとした。恐らく女性だ。
両手に買ったであろう重たい袋を持っていて、
「ん?」
目があってしまった。
「……寒いの苦手なンだよ」
と、つい言ってしまったのは『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)だった。
「あ……え、はぁ……なる、ほど」
どもりつつ、言葉にはしっかり返せたと幽魅は思う。
「す、すごい、荷物……」
「ああ、住んでるとこでパーティーでも、ってな。そっちは、散歩か?」
「は、はい、ええ」
ずっしりとした袋からは、七面鳥の脚が覗いていて、ワインのボトルだとか、ジュースの瓶だとか、見た目で大人数を予想しているのだとわかった。
「た、たのしみ、で、ですね」
「そりゃ、な。幾つになったって、ワクワクするだろ?」
なんていっても、年に一度のお祭りなのだから。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ユズキです。
遅くなり大変ご迷惑をおかけしました。
皆様、よいお年を。来年もまた、よろしくお願いいたします。
GMコメント
ユズキです。
歳末大売り出しとか、ありますよね。
イレギュラーズが過ごす、本当に何気ない、ただ普通の一日。
そんな感じのイベントシナリオです。
●現場
海洋の街。
一面には出店の様に様々な店が並ぶ、バザール状態です。
無いものは無い。二重の意味でそんな賑わいです。
●やれること
お買い物や散策。
特に難しいことは出来ません。
●その他大事なこと
1. お仲間さんと参加の場合は、迷子防止のお名前とIDを添えてください。
2. 共通のグループ名でも構いません。
3. 一人だけど、同じように一人で来ている誰かと絡みたいという時は明記をお願いします。
4. 完全に一人で満喫したい人もそういう記載をお願いします。無いと絡む可能性が高いと思います。
5. 白紙の時は描写されません。
6. キャラクターさんの、やりたいこと・考え・特徴など、記載してくださると書きやすいです。
7. アドリブ可・不可の明記もお願いします。
8. 出来るだけやることの方向性が詳しい方が書きやすいです。
9. やりたいことは一つに絞るといいと思います。
以上です。
それでは、よろしくお願いしますね。
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