PandoraPartyProject

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われらが為に祈れ

 時とは有限だ。時とは夢幻だ。
 歩みが鈍く急かす気持ちで背を押すこともあれば、呆気なく過ぎゆくことを悔むことだってある。
 緩慢で怠惰な時間が流れていたかと思えば、お構いなしに全てが変化して行く事だってある。
 時とは決して手綱を握れるものではない。少なくともそれは、『外』での話だ。
 この場は如何なる干渉をも跳ね返すだけの小規模なシェルターと言えよう。
 術者が支払う代償は如何程か定かではないが、時を牛の歩み程に変化させることは造作なく、秒針を暫し留める事とて為し得る。
 ただし時とは不可逆だ。起こり得た『事象』は決してなくなることはない。
 ゆめ、忘れてはならぬ。そして――

「おめでとう」
 乾いた音が響く。どこか気怠げな雰囲気で手を打ち合わせたのはカロル・ルゥーロルゥーだった。
「無事、私の大切な『―――の心臓』から滅びの気配を打ち払ってくれたのね。
 この部分だけはずっとずっと浄くなくてはならないから。有り難う、無事にお家に帰って頂戴」
 カロルの言葉を耳にしてリュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)はぴたりと動きを止めた。
「帰れ――え? 帰れる、の?」
 耳を疑ったのは、リュコスにとって一つの記憶が抜け落ちているからだ。
『選択』
 それはこの場のイレギュラーズの誰もの記憶から結末さえ知らされず存在しない空白の時間として存在して居る。
 確かに茶会の席で星穹(p3p008330)は「顕現した滅びと相対する」事を選んだ。カロルもそれを承知したはずだ。
 ……確かに、承知していた。が、そこからどうなったのか――全てが始まる前までの記憶しか存在していないのだ。
「どう言うことですか? 聖竜アレフの『眼』へ私達は選択を行なったはずです。
 確かに貴女は刻の流れさえも自在であり、同時に二つの物事をこの空間であればこなせると言って居ましたが……」
「もう少し詳しく説明して上げましょう」
 カロルはにんまりと笑ってから指先をゆらゆらと動かした。
 薔薇は蠢き、蔓は四阿を造り上げる。まるで魔術でも見ているような気分だとマリエッタ・エーレイン(p3p010534)は一部始終を見守って居た。
「……魔法、などでは有りませんね。ここが『貴女の領域』だからですか?」
「賢いわね、マリエッタ。お茶菓子をあげましょう」
 ローズパウダーを練り込んだスコーンをテーブル上に用意したカロルは腰掛けるようにとイレギュラーズを促した。
 ちょこりと椅子に座ったエクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)へと紅茶を注いでからカロルは「見ての通り、此処は私の領域よ」と先ずは一言そう告げる。
「ああ、理解している。
 ここが聖女ルルの領域(フィールド)で、ツロも、ルストも、『アレフ』が居る事で干渉が難しいと、言って居たな」
「ええ。逆に大名や山賊みたいなタイプは『ツロが見張っている』から彼の目になってしまうけれど。
 だからね、選択の席にあの子は呼ばなかった。ある意味お目付役のようなものになってしまったかしら。私って好き勝手したいタイプなのに」
 テーブルに額を押し付け、気怠げな姿勢をとった彼女にアーリア・スピリッツ(p3p004400)は「お行儀が悪いと叱られるのかしら」と揶揄った。
「まあね、で」
「ええ。聖竜に関してのことはルルちゃんの独断だったと言うことでしょう?
 心臓の穢れを顕現させてそれを拭うことも、『眼』――聖核へと干渉し、それを用いることだって」
 カロルは心臓の穢れはあくまで聖竜の独自性を保つために払い除けて欲しいと言った。
 そして聖核である竜の瞳に関してはルストに己を見て欲しいという子供染みた願いによる物だったという、が。
 成程、ツロに露見した場合はカロル自身も『イレギュラーズに絆された大罪人』の扱いにでもなると言うことか。
「だから、ツロが見られないように何重にもあの時間を包んだわ。
 この空間は聖竜(あのこ)の力が全て。だからこそ、あの子の力を駆使すればあの時を一度は手放すことも造作ではないの」
「……『一度は』と言う意味を聞いても?」
「勿論。結構お前は頭が良い方だものね。マルク」
 褒めているのかいとマルク・シリング(p3p001309)は肩を竦めた。どうにもカロルの好意の表し方は歪んでいる。
 素直でないと言うべきか、それとも精一杯の皮肉でも込めているのかは定かではないのだが。
「『神の国』はそもそも帳が降ろされたルスト様の権能。その中に聖竜の保持領域が存在して居るわ。
 私の薔薇庭園はそれこそ、聖竜が作り出した守護の結界の中と呼んでも構わない。時間軸をズラして、ある程度の猶予を与えられるという事」
「だから『帰っても良い』と言うことか。
 ……時間軸をズラし……ルル、君にそれでメリットが? 何らかの戦闘の際にその時を我々に戻して盤上を狂わせようというわけではないだろうな」
 よもやその事はなかろうとベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は問い掛けた。
 ぱちくりと瞬いてからカロルはベネディクトを一瞥、その足元に鎮座していた使い魔のポメ太郎を一瞥してから――「あんた、頭良くない?」と言った。
「は?」
「……思いついてなかったわ」
「ま、待って。じゃあ、なんで『時間軸』をズラすの? だって、庭園から帰る前に刻の流れを合流させてしまった方が楽でしょう。
 時の流れを歪めることだって聖竜にとっては負担になるでしょうし……」
 何らかの思惑が存在して居るからこその行いでなければ可笑しい。タイム(p3p007854)は茶菓子には手を付けないままで問うた。
 カロル・ルゥーロルゥーという娘についてはある程度理解したつもりだ。その理解も『恋する乙女』という敵対者への認識からは外れたものではあるのだが――
「ええ。聖竜の持ち得る力を駆使し、我々の『選択』における代償が降りかかるタイミングをずらすのは何らかの理由があってのことでしょう。
 早く帰宅したいからと言うわけではありません。平穏な茶会を楽しんでそろそろお開きだ、というだけでは納得できませんが……」
 小金井・正純(p3p008000)は遂行者アドレが「これ美味しかったよ」とペーパーに来るんで何故か手渡してきたアーモンドクッキーを掌で包みながら問うた。
 いまいち、恨みきれない少年は正純がいると『ブレる』という理由でツロによって敢てイレギュラーズの迎撃に向かわされていたようだ。
 カロルはまじまじとイレギュラーズの顔を見てからにんまりと笑った。
「単純よ」
 カロル・ルゥーロルゥーという娘は至極当然のように馬鹿みたいな事を言ってのけるのだ。
 突拍子もない事ばかり考えて居るのか、底なしの脳天気なのかはさて置いて。
 彼女は最初から言っていたではないか。
「ファントムナイトが楽しみなの。
 お前達も僅かな時間かも知れない、残されたパーティーを楽しみなさいな。仮装は何にするか決めた?」
 嬉しそうに微笑むカロルに拍子抜けした様子でタイムは「ファ、ファントムナイト……」と呟いた。
「ええ、大事よ。絶対に楽しまなくっちゃ。だから、帰った帰った。
 残りの時間、どうか楽しみなさい。時は次第に合流する。おまえたちの体を蝕んで、真なる裁定が下された時、私は――」
 にんまりと微笑むカロルが優雅に紅茶を傾ける薔薇庭園に居たはずのイレギュラーズの体が急激に何かに引っ張られた。
 気付けば、そこは『創造の座』と呼ばれたティルム大神殿の広間であり、イレギュラーズ達が死守した庭園の出口だった。

「……ねえ、大名」
「はいはい、何ですか? ルルちゃん」
 にこりと微笑んだ夢見 ルル家 (p3p000016)は呼びましたかと言わんばかりにカロルの元へと駆け寄った。
 ルル家から見ればカロルは普通の『女の子』だ。
 立場が違えば友人になれた筈だと確信出来る。
 天義建国に携わった聖女? 時代の闇に屠られた罪人?
 そんなことどうでも良い。彼女は彼女なのだから。
「……刻の流れを僅かに歪められたって、結末は何時だって迫ってくる。
 私にも、おまえにも、そしてイレギュラーズにだってね。あーあ、幸せになりたいなあ」
 椅子にもたれ掛ったカロルの頬を両手で包み込んでからルル家は微笑んだ。
「仮装するんですよね」
「ええ、するわ。とびっきり可愛いから吃驚するわよ。
 せめて、これ位は楽しみたいもの。私(カロル)が出来なかった事を、少しでも」


 ※『ツロに招かれていたイレギュラーズ』が聖女ルルの差配により『一時』帰還しました――
 ※ただし『ゲマトリアの選択』の『時間』が流れ込んだ時、何か起こるかもしれません……
 ※『テュリム大神殿』での作戦の大部分が終了しました――


 ※プーレルジールでアイオンキャンプ&マナセの小旅行が行なわれているようです……?
 双竜宝冠事件が劇的に進展しています!


 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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