PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

普通の女の子だったならば

 思えばこそ、そんな時代なんて一度たりとも無かったように思える。
 神のご意志を遂行し、正義であれだなんて押しつけがましく告げたこの国が改革を辿っていると聞いたとき『馬鹿らしい』と感じたものだ。
 今更だろう。何を言って居るのだ、と。思った。
 冠位魔種を内側にまで招き入れ、腐敗の一途を辿ったこの国は、それを駆逐したからと言って新たな一歩を踏みださんと決めたらしい。
 思えば、都合が良すぎるのではないだろうか。
 お前達の正義によって殺された者が居た。お前達の正義によって不正義だと糾弾された者が居た。
 お前達の『直ぐにでも形を変えて仕舞うような正義』によって、人生が実に下らないものになったというのに!

「――なーんて、誰の話かしら」
 テーブルに額を擦りつけてからカロル・ルゥーロルゥーはそう言った。
 彼女の前にはにんまりと笑っている遂行者『アドレ』の姿がある。上機嫌だ。どうやら、仕事を幾人かに押し付けて立派に『正義遂行をしているポーズ』をとった所、預言者ツロに褒められたらしい。
「ニコニコすんな、鬱陶しい」
「カロルって機嫌が悪いと聖女のガワを落し続けるよね。さっきから不機嫌過ぎて困る」
「ちょっと嫌なこと思い出したの。私自身の事じゃなくっても嫌にはなるわよね。そういうものだもの」
 唇を尖らせるカロルにアドレは「ああ」と呟いた。
 カロルもアドレも人間と呼べる存在ではない。そもそも、遂行者と言っても全てが同じではないのだ。
 それらが破滅(アーク)の使徒である事は確かだが、魔種である者も居れば人ならざる者も存在して居る。
 二人は後者だ。特にルルとは『ベースモデルになった人間』が存在して居るのである。彼女のようにあれと望まれ、造り上げられた存在とも言えよう。
 だからだろうか。『ベースモデルになった人間』を思い出したとき、彼女は酷く忌々しげに言うのだ。
 ――あんな人生懲り懲りだ。と。
 それが自分自身の経験したことでなくとも、自らのように感じられるのだ。
「まあいいの。楽しい事とか考えたから」
「へえ、何かあった?」
「ファントムナイトってあるじゃない。あの時……あの時、どんな姿になろう! とかね!!!!」
 ――聖女らしくない事を彼女は堂々と口にした。
 アドレは明らかに「うわ」と呟いている。カロルはそうした四季折々の行事を大事にする方の遂行者なのだ。
 夏にはビーチに行きたいと懇願して居た。因みに、サマエルが水着を選ぼうかと提案してビンタされていた。
 と、なれば秋だ。焼き芋がしたいだの、運動会もしたいだの。四騎士を連れて天義を蹂躙するのは運動会だろうとツロに宥められていたが、それはそれは大騒ぎなのである。
「絶対、全人類が求める私の衣装ってあると思うのよ。何が良いと思う?」
「……サマエルに聞けば?」
「そうね。その辺に居るでしょ」
 カロルはベルを手にしてからちりんちりんと鳴らした。給仕を呼ぶかのようなおざなりな仕草だ。
 そんなもので遂行者がやってきてたまるかとアドレは呟いたが――
「呼んだかな」
「来るんだ……」
「物思いに耽っている最中だったのでね」
「何考えてたの? カロルの仮装?」
「…………、ああ!」
「絶対嘘だ」
 深くは聞かないけどとアドレは呟いてからやけに良い笑顔を浮かべてカロルの前に膝を付いたサマエルを眺めて居た。
「ルル」
「何」
「仮装だが……聖女であるルルに一番に似合うのは、そう――『セクシーミニスカナース服』だ」
 アドレは「お前何言ってんだ」と思わず叫んだ。何を差し置いても一応は『聖女』なのだ。
 サマエルは「サキュバスとも迷った。ナース服のルルが翼を尾と角を、というものだ。だが、聖女という要素は残っていた方が良いだろう」とルルの手をそっと握り締めた。
「セクシー……ねえ……」
 考え込んでいるルルの手の甲へと口付けて『あれ? 怒らないな』という顔をして居るサマエルは突然立ち上がったルルを呆然と見上げていた。
「有り難う! それにするわ! うふふ、サマエルったら偶には良い事言うじゃないの! ちゅーしてあげよっか?」
「いや、遠慮する」
「あっそ! じゃあね。神託も降ったし、テンションも上がったわ。天義ぶっ壊してくる」
 意気揚々と走って行くカロルの背中を見詰めてからサマエルとアドレは顔を見合わせた。
 ――この場にやってきたマスティマが上機嫌のカロルを見たが何だったのだと問うたのは仕方がない話なのである。

 ハロウィン2023の受付が開始しました!
 ※天義、海洋方面で遂行者の行動が続いています――天義は対応に動いている様です。

これまでのシビュラの託宣(天義編)プーレルジール(境界編)

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM