シナリオ詳細
ゲマトリアの選択
オープニング
●『ゲマトリア』の選択
「それでは選択を。私達の答えです」
淡々と告げた星穹 (p3p008330)に『聖女』カロル・ルゥーロルゥーは「よろしい」と手を打った。
四季の変化などなく、停滞を良しとする薔薇庭園で行なわれていた奇妙なアフタヌーンティーパーティーは終わりを告げる。
和やかな時間を忘れ去ったように周囲の景色が変化して行く中でもカロルは穏やかに微笑んだ。
「私ったら、貴女たちがチャレンジャーで面倒くさい事をすっかり忘れていたわ」
カロルは肩を竦めてから眼前のイレギュラーズを眺めた。
彼等には『愛しい聖竜』の心臓を清きままで保つためにある程度の滅びを払い除けて貰わねばならない。
本来ならば聖女と呼ばれたカロルの仕事だ。
だが、今のカロルは本来のカロルではない。聖女の持ち物であった聖遺物と滅びのアークが結びついて産み出された遂行者だ。
「時を止めましょう」
指を鳴らしてからカロルは若草の香る草原に降り立った。
薔薇庭園は見る見るうちにその姿を草原へと変化させたのだ。遠くに見える聖堂はよく見ればフォン・ルーベルグに存在するものとよく似ている。
「歴史旅行へようこそ。これは天義建国前の姿。
それから、『この子』が私の愛しい愛しい聖竜『―――』……聞き取れないのだったかしら、どうしましょう。
うーん、アレフ。アレフと呼ぶと良いわ。この子がね、最初に私に出会ったときに使っていた名前よ。
真名は本当に愛する人にしか開示しないものなのよ。名は縛るもの、名は留めるもの……だからね」
カロルが前方に差し伸べた掌には丸い宝玉が乗っていた。
いや、それは宝玉などではないか。『瞳』だ。竜の目玉。無であった空間から顕現し、それは見る見るうちに黒き瘴気を纏い始める。
「……行ってらっしゃい。聖女は審判に付き合うのも仕事、でしょう」
カロルは目玉に囁いた。
アレフと呼ばれたそれは真白き竜を形作る。滅びのアークによってコーティングされていた目玉は姿を変貌させ竜へと至った。
――ああ、カロル。愛しい我が娘。
「ふふ、お久しぶり。今日はアレフと呼ばせて貰うわね。
……あなたには全く似合わない滅びの気配を纏ってくれているのだもの。苦しいでしょう?
でも、大丈夫よ。この子達が、貴女の苦しみを少しだけでも打ち払ってくれる。体を動かせば楽になるでしょう?」
鼻先を擦り寄らせたアレフにカロルは愛おしそうに抱き着いた。
――カロル、ゲルダシビラは元気にしているだろうか。
「……『月宮竜』ゲルダシビラ……は……」
眉を顰めたカロルの表情だけでアレフは察したように瞼を伏せった。
此の竜はただの一度だけ、友人に――月宮竜ゲルダシビラと名乗る竜にカロルを紹介したことがある。
竜種達は人と心を通わせるなど降らないと言って居たがゲルダシビラだけは彼女を理解し慈しんでくれた。
ゲルダシビラのように人の子を愛する竜が存在し、人もまた畏怖する事がなければ『一人きりの聖女』を受け入れる者も産まれるのではないかと考えて居たのに。
夢物語は叶わぬまま、彼女は『悪』だと人々によって討たれてこの現に呼び覚まされた。
それでもまだ、斯うして『聖女』を全うしているなど。
――愛しいカロル、お前は結局一人なのか。
囁くアレフにカロルは「そんなことはないわ、ルスト様が居るもの」と微笑んだ。
「この子と戦って貰うわ。親愛なるイレギュラーズ?」
――さて、何が起こったのか。
預言者ツロと名乗る遂行者によりイレギュラーズへと送り届けられた招待状には複数の選択肢があった。
一つ、離反し遂行者として活動しないかという誘い。一つ、一時その選択を保留して領域内に留まるという選択。
この場に居るイレギュラーズは『誘いは受けなかったが遂行者の領域に留まる』事を選んだ者達である。
彼等が幸運であったのは招かれたのがカロルの薔薇庭園であったこと。そして、カロル・ルゥーロルゥーがそれ程悪辣で無かったことだ。
遂行者マスティマに言わせれば非常に無駄な行ないであったのだろうが、遂行者達は茶会を楽しむ事を選んだようである。
雑談の最中、夢見 ルル家 (p3p000016)はふと問うた。
「疑問だったのですが、原罪であるイノリ殿ってどうやって生まれたんでしょうか?
ざんげ殿と兄妹って事は生まれてから後天的に原罪になったって事ですかね?
で、イノリ殿を原罪にしたのがアーク側の神……遂行者の皆が言う偽りの神の対になる存在で合ってます?」
そもそも、魔種とは何か。その疑問に行き着くのも無理はない。
この薔薇庭園は滅びのアークにコーティングされた『聖竜』の力が核となっているというのだから。
タイム(p3p007854)自身も「この世の神や原罪について深く理解してないからうまく纏められない」と呻いたものだ。
神様とは何か。魔種とは何か。そもそも、滅びた先とは何か――偽りの神と呼ばれたのがこの世界の『神様』なのだとすれば、ルストや遂行者は何を成そうとしているのか。
カロルははたと考えてから「イノリが生まれた理由? そうねえ、私も聞いただけよ」と口火を切る。
「創造主、つまりは天に御座す神が生命を造り上げた。それがイノリと呼ばれる存在でしょう。
創造された生命はまあ、通り一遍等に善悪の知識と人間の一般的な想念を有していたワケ。
……でもそれって人じゃない神の『失敗』だったのよねえ!
常識で考えたら分かるじゃない。空中神殿の妹様みたく、気が遠くなるような時間をあんな風に過ごしたい? 人間が、よ?
だからこそ彼は主の与え給うた世界を管理する役割を拒絶した。神託の男はかくて永遠に消え失せたワケ!
……ところで、アンタは出来る? アイツは世界に必要ないから芽を詰めとかそういうの。
人間一般の想念、つまりは七つの罪源を有した存在は役割を拒否した結果、変質した。
考え方が逆よ。順番が逆なのよ。イノリという存在が拒絶したからざんげって女が産み出された。
アンタ達の知ってる神様ってそういうクズなの。アレは『イノリで失敗したからざんげをああいう風に作った』の。
――ってルスト様が語ってくれたわ! 真実かどうかはしらないけどね!」
あ、ちなみにねえ、話してるときのルスト様は素敵だった。顔が良い。
そんな不必要な情報を添えたカロルにベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は眉間に皺を寄せた。
「イノリとざんげの話は初耳だな。少なくとも俺達よりも事情を知っていたか……となると、ざんげが空中庭園から外に出るという事は……」
何か思うことがあったのだろう。アーリア・スピリッツ(p3p004400)はカロルが開示した情報の多さに驚きながらもイノリの顔がいい話じゃなくって、と口にしてから「ルストだったわ」と慌てて訂正した。彼の好きな部分を語っても良いと告げればカロルは幸せそうに笑う。
「ルスト様はね、右の耳朶に黒子がある気がしたからツロに聞いたらゴミを見る目をされたわ。
ティーカップを掴む指先が最高。あと時々笑った顔、エグい。好き」
「……へえ、そうかい。
イノリってヤツは与えられた仕事を全うせずにバックレた無責任野郎って考えりゃあ、原罪も大したヤツにゃ見えねえなあ!」
グドルフ・ボイデル (p3p000694)がからからと笑う。彼もルル家も離反した側だ。これから行なわれる選択には携わることは出来ないが茶会に出席する権利は得ていた。
神妙な顔をして居た星穹は「何が正しくて、正解なのかは、難しいところですが。それもまた一つの答えなのでしょうね」と頷く。
「なる、ほど。そのざんげとイノリの誕生秘話が事実なら、確かに酷い。
一声もなく突然異世界から拉致してくるような神だし、な」
やや理解出来る部分はあるのだとエクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は頷いた。
だからといって全てを肯定できるわけではないとマリエッタ・エーレイン(p3p010534)は知っている。
「ルルさん、私達は何をすれば良いのですか?」
「私の友人である親愛なる聖竜『―――』の心臓をある程度清く保っていて欲しいの。この子の自我を保つためにね。
その前に……まあ、私は聖女だから『あなた達に聞こえる声で話すわ』」
遂行者には聞こえず、イレギュラーズにのみ耳に出来る声音はこの庭園の主であったからなのだろう。隣で大人しく茶菓子を囓っていた遂行者アドレを一瞥してから小金井・正純(p3p008000)は彼が何も耳に為ていないことに気付く。
『どうせ、仲間から聞いているのでしょう? 茄子子に、美咲に。聞かされたと思うのだけれど』
ぎくりと肩を揺れ動かす佐藤 美咲(p3p009818)の傍では遂行者テレサが不思議そうに微笑んだ。
相変わらず詰らなそうな楊枝 茄子子(p3p008356)は『で?』と問い返す。
『何が言いたいの』
『ああ、そうだね。聖女ルル、君の提示する条件を聞かなくては』
居住いを正したマルク・シリング(p3p001309)の傍では不安げな表情を浮かべたリュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)が座っていた。
(……本当に、何が正しいのか分からない。心があるのに世界を保つシステムになるなんて、耐えられやしないし。
それに……遂行者だって心があって自分で判断してる……ルルは……何を、求めるんだろう……?)
リュコスの視線を受け止めてからカロルはにんまりと微笑んだ。
『聖核は滅びのアークによってコーティングされているわ。ええ、ここにはルスト様だって入り込めやしない。
だって、コーティングよ? ルスト様だってこの子の全てを取り込む事は出来なかった。それだけ、この子は強かった。
……私ったら傲慢だから。もう一度おさらいをしてあげる。
この聖核は神の国のある程度を担っているわ。冠位魔種の権能だけじゃない。更にそれを拡張するための力の媒体なの。
よろしいかしら?
これは、ルスト様の権能に打撃を与える可能性がある代物なの。お前達がコレに干渉すると、ルスト様の居所まで至る可能性がある』
『どうして、教えてくれるの?』
アーリアは慎重に問い掛けた。タイムは敵に何故チャンスを与えたのかと理解出来ないような顔をする。
『え、単純じゃない』
カロルは鼻で笑った。
『私に逢ってくれないから。
女の子ってね、ある程度の餌を貰えないと時々意地悪になるものよ。あの人に私はなくてはならないと思わせなくっちゃいけないの』
その時、聖女と呼ばれた娘の浮かべていた笑顔は聖女らしからぬものだと正純は思った。
ああなんて、欲に満ちた微笑みだろうか。
『選びなさい、イレギュラーズ――私は聖女だもの。審判は見守ってあげる』
- ゲマトリアの選択完了
- GM名夏あかね
- 種別EX
- 難易度NIGHTMARE
- 冒険終了日時2023年11月09日 22時05分
- 参加人数9/9人
- 相談7日
- 参加費200RC
参加者 : 9 人
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参加者一覧(9人)
リプレイ
●
咲き綻んだ薔薇の花弁を一枚一枚丁寧に千切って行く。まるで生爪でも剥いでいるような感覚だと少女はほくそ笑んだ。
実際にそうした事はないけれど、された事はあった。あっただろうが、それは自分のものでありながら朧気だ。
朧気な記憶の中に揺蕩った真実はスクラップにして丁寧にアルバムに挟み込んだ。
そんなよこしまな現実から目を背ければ理想郷が待っていると謳うのだから歪であれど人は縋るのだろう。
祝福の歌が聞こえないから人は足掻く。ただ、母の腕に抱かれて再びの眠りにつくまでは――
「選びなさい、イレギュラーズ――私は聖女だもの。審判は見守ってあげる」
波打つ桃色の髪は春めいた草原を思わせた。金色の瞳が語った歪なまでの初恋は成程、否定する迄の言葉を持ち得ることが出来なかった。
アダムのあばら骨がもう一人の人が作られたと言う。それは人間とは一人では居られぬ事を示しているのだろう。
人という文字が支え合うとは上手くいったものだが、他者を慮る心が存在して居る事がどれ程に遣る瀬ないかを『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は思い知っていた。
理解をしたいが、理解に程遠い。共に歩む道を見付けたくとも広大なる砂の海から砂金を探すかの如く途方もなく。
茶会の席に残った理由は感傷と呼ぶべきであったか。己の行いで、どう足掻いても確定的に未来が存在し得ない事を受け入れる事など出来るまい。
「あのお茶会がずっと続いていたなら、どれほど良かったか。
……敵も味方も関係なく、ただお茶をして。あの瞬間こそ、奇跡だったのでしょうね」
ティーカップががしゃんと割れる音がする。テーブルはその地には無く、丁寧に揃えたカトラリーも全てが地へと叩きつけられる。
薔薇が蠢き世界が瞬きをする度に変容する景色の中で『約束の瓊盾』星穹(p3p008330)はその整ったかんばせに困惑だけを乗せていた。
「選択をしたのだもの」
季節外れな温かな風に煽られてヴェールを掌で押さえ付けた『神託の乙女』カロル・ルゥーロルゥー (p3n000336)は囁いた。
ティータイムにはあれほどまでに弾む声音も潜められ、一片の希望など抱いてはいないと告げる様に表情は消え失せる。
彼女の反応とは対照的に広がる高原に噎せ返る草の香りがした。石造りの聖堂の影が引き延ばされて女に掛かる。
「選択したでしょう」
「ええ。驚くけれど、してしまったみたい」
『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は肩を竦めた。悪いジョークを聞いた時のようにやれやれと首を振る。
「今日着る服も、次に飲むお酒も、私は迷ってばかりで、この選択だって、神託の少女を頼るのが安泰だったかもしれない。
それでも私達は、此処に立って聖竜と向き合うと決めた。
……それに、意地悪な女心を解っちゃったの。女の子は強欲で傲慢で――狡いわよね!」
明るく晴れた声音はカロルとは対照的だった。祈りの言葉を口にするのはまだ早く、絶望の影に雁字搦めに捕われる事も無い。
「……馬鹿みたい」
その言葉には、あまり嫌な気配が無かった。諦観か、親愛か、どうとでもとれる響きが含まれている。
「馬鹿、そうかも。グドルフさんに”一番最悪の選択肢”なーんて言われて、何も返せず見送ったもの。
なんでかなぁ……こんな筈じゃなかったのに、なんて嘘。今更ね」
石ころを転がすように爪先で蹴り飛ばした。『この手を貴女に』タイム(p3p007854)は頬を撫でる風の心地よさに眼を細める。
紛い物の太陽でも、それは温かでこれからの選択が絶望的だなんて思えない。
「……呼ばれたのがわたし達で、決断したのもそう。不思議と怖さはないのよ」
「どうして?」
「……だってみんなが一緒だから。お手柔らかにね。――アレフ」
カロルが意味分からないと呟けば「分かるようになるわよ」とタイムは一層美しく微笑んだ。
「それでは、はじめようか」
弾ける光は金色の軌跡を描いた。藍の眸には決意が乗せられる。
輪郭は朧気であったがはっきりとしたものとなる。白く澄んだ肢体と、喪われた両の眼を補うように光が眼球として据わる。『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の双眸ははっきりとそれを見ていた。
膚を撫でた気配一つ、瞬きさえ許さず、引き結んだ唇は酸素を求めるように僅かに動く。呼気に膨れた肺が潰れそうになる経験は幾度も超えた。
日を追う毎に死神の鎌が喉笛を擦る金属音が聞こえてきていただろう――! だから? だからといって、死ぬつもりなど、死なせるつもりなど毛頭無い。
「遂行者達にも理由が、想いがあるのは理解した。納得もある――それでも僕は、世界を、今を生きる人を諦めない」
覚悟は何時だって胸に抱いている。
臆病で弱い人間だという自覚がある。だからこそ、知恵と勇気で武装した。
『ウィザード』マルク・シリング(p3p001309)の指先で輝いたのは嘗ての友の命。魔力は形を帯びて行く。
「……だから戦うと決めた。
敵を倒すためじゃない。僕たちの願いを、祈りを、奇跡を。その在り方を証明するために、己の可能性の全てを賭けて……!」
――正解なんて何処にあるかは知れない。知識があっても、覚悟があっても、勇気があっても足りないならば。
祈れば良い。示せば良い。己が手にしたい運命の為に我武者羅に藻掻く。それが『英雄』の在り方だった。
●
――キャロちゃんさんが後戻りもさせてくれないでしょうし、ね。
朗らかに笑いながらもその人は背を向けた。琥珀の色は、嘸や曇ったことであろう。
愛しき花が手折られたと聞けば、その胸中は察し余る。『明けの明星』小金井・正純(p3p008000)は前を向く。
宿命を射貫く大弓がぎりと音鳴らす。竜の吐息を耳にしながら視界に紅色が散った。
「選択の結果はどうあれ――聖女(カロル)と聖竜(アレフ)。
あなた達の事は良く理解しました。ええ、だからこそ、ここで消えるわけにはいきません」
紅色の武具が周囲に浮かび上がる。『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)、そしてリュコスが行動の要となった。
ならば、と。涼やかな瞳に乗せた決意と共に、その身がぐんと躍り出た。
「全力で力を見せつけて、生きて帰ることにしましょう。あなた達の為にもやることが増えてしまいましたので。
――そして、手伝うのは貴女もですよ"魔女"。身体は一つですが、どうあれ全力で……遠慮なく手伝ってもらいますから」
体内で主張する魔力。沸き立つ気配と共に、魔女の宿した印が光を帯びた。
「聖竜! 戦いながらで構わん。言葉を交わしてくれると助かる。お前とは今だ話をしていないだろう?」
引き抜いた直剣はただ主が為に振るうものであったか。それを己と仲間の為に身構えた『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は聖竜を睨め付ける。
先駆けたるリュコスの魔力が凶刃を作り上げた。獣の爪は肉を抉る――が、聖竜の鱗に弾かれた。
(ああ――これが、聖竜)
正純は眩い光を見た気がした。
茶会に参加し、対話をし、選んだ。選択の結果を後悔などしていない。
ただ、その選択の他により良い未来を選ぶための選択肢があった気はしたのだ。後悔ではない、心残り。
蟠ったそれを振るうのは弓を射る冴えた心だ。
(選んだのだ。その先に進むことを――
目指したのだ。より良い未来になることを――
ならば、もう)
後戻りなど出来るまい。少しだけ、あの翡翠の瞳で笑う彼女の事を理解出来た気がした。
「……怒っているのですよ、私は」
柄にも無く。横面を叩いて連れ戻したい程度には。
閃光が美しい竜の肢体へと突き刺さった。作戦は明確だ。用意できた全ての手段を兼ね合わせ、雁字搦めの包囲網を作ること。
聖竜の不満げな咆哮が響く。ベネディクトはその背の向こう側で眉を顰めたカロルを見た。
(だからこそ、話しておきたかった。俺が、この竜と聖女を知る為に)
敵だからと切り捨てる事が出来なかった。それが己の甘さだというならば受け入れるほかにない。
「アレフ――!」
名を呼ぶ。竜の鋭い眼光がベネディクトを射る。身も竦む重圧を撥ね除け、身を動かし至近へと飛び込んだ。
視界にマルクの姿が入る、そして星穹。聖竜の喉に熱が昇る様子が見て取れた。美しい白亜の肉体はそれをも可視化させていたか。
「久方振りの呼び名だ」
竜がのろのろと口を開いた。重たげな顎を動かして、振る声音は軽やかな気配を宿す。
「けれど、あの子が私をそう呼んだのは二度目だった」
「二度目……聞いても構わない、か?」
エクスマリアの付与する支援を受けてからマルクは眩い光を喉に蓄えたアレフから目を背けることはない。
徐々に熱を帯びて行くその気配、眼を焦がす明るさにタイムがごくりと唾を飲んだ。
(ああ、わたしに力を――どうか、どうか)
生きて返らなくちゃ。あの人はどんな顔をするだろう。
この選択を受けて馬鹿だなと笑ってくれるか、それとも悲しんでくれるか。ああ、ちょっとでいい――取り乱してはくれないかな。
戦闘に集中をして居ないわけじゃない。それでも、女の子は圧倒的な存在を、死という広大な荒野を眺めたとして最後には愛しい人を思い浮かべるのだ。
「一度目は、そうあの子が処刑されるときであった。よもや……二回目があるとは」
老竜の残された『パーツ』は歴史を斯くも語る。それは憎悪にも似た気配に変化した。
滅びのコーディングはアレフの内部に滾る恨みをも包み込む。来る、とマルクは直感した。
(もうあのお茶会は終り。私は、決意しなくてはならない。
――ああ、けれど、土足で踏み荒らす真似など、してなるものですか)
星穹は地を蹴った。剣の幻影がその身を包む。魔術式は漆黒に塗りたくった空色に美しき星の閃きを与え行く。
星穹の魔力と決意が灯され、満天の星空を映し出すそれは伽藍の腕に痛みを走らせた。
「こちらですわ、聖竜よ」
花舞うように乙女は走り出た。盾の乙女はその双眸に二人の男を捉える。彼等を守り抜き、次の一手に備えるために。
「お話をさせて頂きたいのです。ただ、それだけですけれど……対話はお嫌い?」
「嫌いではない。嫌いでは無いけれど、どうして話す必要がある?」
アレフの喉より溢れ出したのは白んだ焔だった。巨体を前に怖じ気付くこともない。「冷たいのね」と唇が揺らめいた。
「話さなくては分かり合うことはできませんでしょう。理解こそ、最も必要な歩み寄りですよ聖竜」
「理解こそ、最も不必要な譲歩だ」
星穹の身を星の瞬きが包み込む。藍玉の眸を揺らがせるエクスマリアはアレフの動きをその視線で追う。
「聖竜よ。一つお前の知りたかったことを、教えよう」
「――何だ、小さな少女よ」
エクスマリアは動揺の一つでも誘えれば、もしくは、僅かでもその動きを留められればとその刹那を願った。
ブレスを発するまでに必要な動作、喉奥に溜め込んだ魔力を放出するまでの時間の早さ。それだけではない、その巨体をどうすれば揺るがせられるか。
動作によって先を見通すことが出来ればダメージカットを行なうヒールワークに繋がっていく。
目で追いかけねばならない。アレフの動きが止まり、喉に蓄え始められたエネルギーが散る。
「……月宮竜ゲルダシビラは、配下の竜に喰われ、死んだ。その竜も、イレギュラーズが討ち取ったが、な」
再度、と。エネルギーを蓄える前に放出されたそれは不出来な雨のようであった。その下を駆け抜けながらもマルクの魔力は極光の剣影へと変化する。
ゲルダシビラはマルクもカロルに対して触れた事のある竜だ。聖女と心を通わせたという竜同士、交遊もあったのだろう。
「やはり……知り合いかい?」
「小さき子よ、あの子の仇を討ったのか」
「……ああ、そうなるのだろうね。けれど、礼はいらないよ。今の僕と聖竜は敵同士になってしまうから」
本来の名も知らぬ強敵。無音の言葉、発音されることも稀な人へと名を聞かせるための呼び名。それは皮肉にも『名を呼んでいない』と同義であるか。
「友人――アレフよ。一つ聞かせて欲しい。カロルとは、貴方にとってはどういう存在か。彼女は友人だと言ったが?」
ベネディクトは真っ向からアレフを見た。竜の爪を弾く、大地を踏み締め堪える。腕を退いた竜の元へと再度距離を詰めた。
「友人だ。永劫の契り。それから、私から見れば娘のように愛おしい。竜と人には有り得やしない絆だと嘲笑うかな」
「いいや。竜は俺達にとっても友人だ。そうある為に願い、そうある為に戦ってきた。否定などしない。
カロルは俺達の敵だ。だが、好機を与えてくれた『借り』もある。
聖竜よ、貴方と俺達が斯うして剣をぶつけ合い、対話を行なう機とて彼女が作り上げたものだ」
星穹がベネディクトとマルクに降り注ぐ災難の全てを受け止める。華奢な肉体が軋み、苦痛に歪んだ表情は直ぐにひた隠された。
「聖竜、貴方にとってカロルが娘であるというならば、この戦いの意義が俺の中で変わる。
力無き者に、簡単に物事を放り出して仕舞う者に娘は託せまい。――そうだろう? 諦めるのは全てをやり尽くした後だ、それまでお付き合い願おうか!」
「……ああ、託しても良い相手だと思えるまで、戦い続けよう」
アレフが仰け反った。大顎を開き放たれた白炎。アーリアは唇を噛む。行動開始時に全てを叩き込む事は出来なかった。ピースが欠けていようとも、竜は完全なる自由ではない。
(……耐え続けなくちゃならない)
着実に。着実に。アレフは完全なる竜ではない。所詮は部位の一つが滅びによってコーティングされた存在だ。
だが、強い。明らかに生物とは別の動きをすることがある。マルクがそう実感したように、至近距離で槍を突き刺すベネディクトも認識していただろう。
強大なる聖竜は自らの意志とは別に滅びによって無数の攻撃を放つ。
(今この竜が蓄えている『滅び』リソースを使い切らすことが出来たなら……?)
マリエッタはまじまじと眺めた。竜は自らの力をある程度配分し、周辺へと焔を撒き散らしているか。
「魔女――!」
力を貸せとマリエッタは叫んだ。刻み込んだ血印に魔力が走る。自力だけで越えねばならぬ山。途方もないそれを昇りきるだけの覚悟は抱いている。
心の、想いの上では圧勝している自覚があった。リュコスは、そしてこの場のイレギュラーズは各々が目的意識を宿している。
あと少し、あと一歩。喉から手が出るほどに求めた勝利への道筋を前にエクスマリアは死に物狂いで掻き集めた。
仲間達を支え続ける。じり貧だ。一進一退――いいや、押されている。
(……何処まで、耐えられるか、だ)
ルビコン川を渡ってから、帰り道を喪ったことを悔んで等居ない。いないけれど、平野の只中で行き先を見失うとはこの心地。
砂漠で水を求めて我武者羅に走り抜けなくてはならぬは何方も同じだ。
「耐えられる」
エクスマリアは独り言ちた。
「誰も喪わず、進むことが出来る」
そうして、目的に手を伸ばすのだ。
――賭けだ。分が悪い賭けで良い。
この選択肢には「全滅する可能性だってある」と添えられていた。だからといって「はいそうですか」と頷けるわけがない。
「マルク」
「……ああ!」
リュコスが食らい付く。小さなオオカミの牙を突き立てる。アレフより最も早く動き、そうして――繰り返し続けた。
はじめに一つの願いがあった。
願いは他の祈りを束ねた。大きな奔流となり流れ込む、ただ、それだけを願った。
リュコスの抱えた願いの花束は、小さな小さなものであったとしても、大きな我が儘を突き通したい。
「……ぼくは、ルルが、マルティーヌが、何をしたって消える未来は受け入れられない!」
マントがはためいた。柔らかな紫銀の尾が揺らぐ。苛む毒も、心を惑わす誘いも何もかもを有耶無耶にする薔薇の香りを身に纏う。
「本当に――」
正純が弓を携えアレフを睨め付けた。
「諦めの悪い奴らだと笑って頂いても構いませんよ」
「笑うものか」
「そうですか――その強大な力。星の祝福をもって縛り付け、呪って差し上げましょう!」
風切る音と共に、『宿命』を宿した鏃がアレフに突き刺さる。そうだろう、諦めが悪いのは何方も同じ。
アレフの動きが僅かに止まった。その体を縛り付ける鏃は一度だけではない、二度。
竜の巨体が姿を変容する。流れる桃色の髪に、白いローブを身に纏った娘はカロルと同じ顔をして居た。
「……ルルの姿をとるなんて、聞いてないわ?」
「生憎、『人間』の事はカロルのことしか知らないのだ」
己が人の姿をとるにしても、本来の自分のことは忘れてしまったとアレフは独り言ちた。
タイムは目を瞠る。カロルの姿をとったアレフは時をも追い越すような速さで動いた。
「ッ――!?」
カロルの姿をしていても竜は竜。その爪を武器に腕を振り上げたアレフを受け止めた星穹が奥歯を噛み締める。
(早い――けれど、さっきよりも攻撃は軽い……!)
その様子をマリエッタは消費を出来うる限り避けて耐久(根競べ)を行なうべく戦い始めたことに気付いた。
「ねえ、これだけ頑張ってる『お友達』を認めるのもお父さんの役割じゃない?」
「人間に裏切られ、歴史に名すら残せず焔に焼べられた娘を簡単に渡せるものか」
人間不信め、とアーリアは叫びたくもなった。感情論がまぜこぜになったのは何方も同じ。
想い、想われ、心は『勝った』筈なのに。どうしようもなく戦況を覆す一手が見つからない。
だからこそ――奇跡という『もしも』を求めたのだ。
●
「もしもの話、してみない?」
タイムが血を拭って笑った。ああ、吃驚する程に膝が笑っている。立っているのだって精一杯だ。
けれど、女の子はお喋りだから。
「……ええ?」
今のアレフと同じ貌をしたカロルが眉を顰めた。穏やかな笑みを浮かべたアレフとは対照的な不機嫌そうにも見えるカロルに笑う。
「私達が奇跡を願って、それが届いたとしたらあなたは何かを諦める必要は無くなるのよ。
だって、わたし達は諦めてないじゃない。……ね、ほら、まだ生きてるし、まだ、戦える」
「全滅するわ」
「そんなこと、ないわ。だってまだ諦めてないのよ。絶望して崩れ落ちて泣いて命乞いなんてしてないじゃない。
ねえ、ルル。ルル。でもとか、今更とか、もう遅いとか、そういう言葉、聞きたくないのよ」
まるで謳うような声音だった。タイムは笑う。アレフの猛攻なんてなんのその、ただ、伝えたい詞だけが其処にはあった。
――何があってもわたしのところに帰ってきてくれる?
素っ気ないあの人は今頃何してるだろうか。そう聞いたわたしがこんな所に居るなんて不思議ね。
――僕にだけ約束させといて ズルいよ タイムちゃん。
そうよ、先に死ぬかもなんて一度たりとも考えたこと無かったのに。目の前に存在して居る。
(会いたいなぁ)
こんな時にその顔を思い出すのだもの。恋って嫌になっちゃう。タイムは目を伏せてから手を差し伸べた。
「ねえ、ルル。ルル。何があったって、未来を掴みましょう。ねえ、あなたが必要なのよ。手を取って――わたし達だけでは叶わない」
「どうするつもりなのよ、馬鹿なやつら」
どうするだなんて今更の問いかけだと星穹は笑った。弱音なんて吐いている暇も無かった、ただ、護らなくてはならない。
星穹。セラ。セラスチューム。
愛しい人達の声が遠離る。痛みも、苦しみも、『この時間の流れが合流した果て』に何があるかなんて分からない。
死ぬ――?
死とは尤もたる別離である。
生きて居てくれるだけで嬉しい。それだけで世界が華やぎ祝福となる。
「……生きていてくれるだけで嬉しい。その気持ちが、解ります」
星穹はアレフを真っ直ぐに見詰めた。吐出した息の重苦しさに、恐怖が魔物のように姿を見せた。
「……だから私は今年こそ、ちゃんとおめでとうって言いたいんです。
生まれてきてくれて。傍に居てくれてありがとう。愛していると、伝えたいのです。
子供たちだってまだ成人させていませんもの。ずっと、ずっと、成長を見守っていたい……ずっと傍に、居たいのです」
――貴方を喪うことが恐いだなんて、それならいっそ、最初から出会わなければ幸せだったのかしら?
そんな馬鹿なことを感じてしまう。壊れやすくなった己の心が軋みを上げる。
言葉にする度に、溢れ出す。泣いてはダメ。大丈夫、生きて帰れる。
空。心結。
愛しいあの子達に、別離の悲しみなんて。
「……居るんです。此処に居るそれぞれに――貴方がルル様を想うように。ルル様がルストを想うように。
私達にも大切な相手が、居るんです。大切な人と描きたい未来が、あるのです」
生きていたい。生きていたい。こんな懇願をするような『私』が居るなんて思わなかった。
人を殺すことを躊躇うだなんて。死ぬ事を怖れるだなんて。
「ずるいのは、解っています」
星穹は引き攣った声で叫んだ。
「それでも――気高き竜よ。どうか、力を貸してはくれませんか。
私達は。もう、ずっと。ルル様とさよならなんて、嫌なのです。
私達が聞き取れずとも、書いてでも、貴方の名前を教えようとしてくれた彼女の、大切な『アレフ』を、踏みつけたくは、ないのです」
さよならなんて、慣れやしない。
――あんた、ばかねえ。
カロルの声が聞こえた気がして星穹は顔を上げた。
「私、ルスト様が大好きなのよ?」
涙の混じった声音に、星穹が唇を噛み締める。
「ここで、おまえにアレフを託して、私が普通に生き残って、失恋する未来なんて、望まないでよばか」
「ばかでもいいよ。ばかだもん」
リュコスはへらりと笑った。戦場には不似合いな気の抜けた微笑みにカロルは「わしゃわしゃにしてやりたい」と呟く。
「アレフを無理に従えたくなんてない。こうやって話してる間もアレフがぼくたちに攻撃をするのが『滅びの意志』だってわかるよ。
それを払い除けて、無理矢理なんて、いやだよ。ねえ、アレフ、聞こえるでしょう」
「ああ……」
「きみの意志と、その行動は別ものだと思っているから、心で聞いて。耳を貸して。
あのね、ルルはルストに会いたいんだって……別人になってもルルをとてもとても大事に思うなら守るだけじゃなくて願いを叶えてあげようよ。
『ルストを倒そう』とは言ってない。ルルと会わせるのに協力して欲しいんだ。ぼくたちにやられたことにすればルルが悪くならないしお得だよ」
「竜の尊厳が傷付くわ」
「ルルはだまってて」
「む」
唇を尖らせて外方を向いたカロルを見詰めてからリュコスは笑った。今だって、痛い、今だって恐い、今だって止まらない攻撃の雨。
それでも話す事を止めなかったのは、分かり合いたかったからだった。
「それにルストは…チョイ悪めだから…娘の好きな人を見極めるのもパパの仕事じゃないかな!」
「……」
アレフは黙する。逢わせる程度ならば『今』のままでいいではないか。
彼女達に降る必要も無ければ、ここで敗北を喫する必要も無い。
アレフの指先が動く。ぴくりと肩を動かしてからマリエッタは相も変わらずに応戦した。
「愛されていますね。……ルルにアレフ」
マリエッタの周囲に踊る刃は血色。そして乙女の肉体から滴り落ちたのも同色、いや寧ろ其方の方が鮮やかか。
鉄の味が口腔内を支配する。視界が眩むが、諦める事は即ち終わりを意味している。徐々に現実味を帯びた終わりに魔女の嘲笑う声がする。
(ああ、ほら終ってしまうわ――『マリエッタ』)
煩いと心の中で言い返した。煩い、煩い、そんなことを言っている場合じゃない。
「あなた達は、こうして祈られる。愛されているからこそ、救いの手を差し伸べられる。
でも……私は奇跡なんて祈らない。可能性をベットして得られた奇跡なんて、嫌いだから、死にたくなんてない」
己の我が侭であろうとも。我が『儘』に振る舞ってこそ人間の生き様だった。
「我が儘だと笑いなさい、竜よ。私は人です。私は人間で、意思を有し思いを宿す。
竜の想いも聖女の気持ちも……そんなものを見せられたら、在るがまま葬送(おく)ってあげたいものでしょう?
その気高き想いのまま、歪められることはなく、奇跡の力ではない、人の想いと意志の力で。だからこそ、私は私が儘――!」
マリエッタの血潮が三日月を描く。刃は命を狩り取る形をしている。
聖女の姿を象った竜に近付く、が、遠い。
振り下ろす刃が首を掻ききったように見えたのはたったの刹那、マリエッタの体が宙を舞う。
「っ――――!」
「私も、己が儘に制圧しよう。この子の命が失われぬように」
「アレフ」とか細く声が漏れた。己が目の前に滑り込むタイムの背を見遣ってからエクスマリアはアレフ、ともう一度呼んだ。
「手段があれば、納得してくれるか。叶うならば、求めてくれるか。
今此処に居るルルが『頌歌の冠』と滅びのアークの結びつきで生まれたならば、アークではなくパンドラと結びつくことも、可能ではないのか」
「どうやって」
「奇跡、と呼ぶ。奇跡。『特異運命座標(われわれ)』はそれを起こす『可能性』を宿している。
ソレに加えてルストの権能に代わるものも必要ならば、聖竜の目玉と心臓、その力で補うことは出来ないか。
――そんな奇跡を起こせるのなら、アレフ。お前が、ルルの心臓となれ。そのために邪魔な滅びは、全て祓ってみせる」
エクスマリアはカロルを見た。アレフの背後に居る彼女の表情は知れない。俯いたままの彼女にたった一声でも届けたかった。
「だから――一緒に珈琲を飲んで、好きな男の愚痴でも語ろう」
アレフは、後方のカロルの気配を感じ取る。
「この穢れを払い除け、私を『カロルの核』とすれば生き残れると?」
「有り得ない話では、ないだろう」
エクスマリアは自らを守るタイムに祝福の気配を授けた。支えろ。対話で生き延びる術を見付けだせ。
「ムダよ」
カロルが呻いた。
「そんなのムダ。私は、ルスト様が――」
擦り切れた恋心に終わりは未だに見えやしない。
●
――キャロちゃん。
はじめて出来た友達の笑う顔を思い出した気がした。馬鹿みたいな、人間染みた感傷だ。
「我が滅びを祓えるというならば試してみるが良い。この身を打ち倒せ。
余りに長居は無用だ。顕現している時間の長さはこの身を滅びに明け渡すと同義なのだから」
だからこそ。アレフは囁いた。
死の影は、遁れ得ぬ。それは罪の形である。
林檎を口にしたその瞬間から人間とは個体となった。信仰とは形骸化した。人は、人たり得るために思考する。己が何かを定義づけるために。
「終わりにしようか――」
穏やかな声音だった。全てが白んで見えた。世界の輪郭がまあるい色を帯びた。
目を見開いたリュコスの唇が戦慄いた。「アレフ」と掠れた声音が唇に擦れ合わされる。
聖核の制御を出来れば良いのだろうか。今後穢れに染まりきらずに生きて貰う為にどうすれば良いのだろう。
考えろ。考えろ。考えろ。
無理難題が目の前に横たわっている。
アレフを戦闘不能にまで追い込むには全てが完璧でなければならない。
気持ちの上で、備えの上で、十全であればこそ勝機が見えるのだから。
「苦しまず、全てを終らせよう」
アレフの言葉は尚も優しかった。だと言うのに纏わせた気配の悍ましさは救いもない。
考えろ。考えろ。考えろ。
奇跡とは何たるか――アレフが迫る。愛しい娘の姿をして、一層美しい笑みに乗せられた慈悲が眩い光になる。
飲み込まれる錯覚にリュコスが首を振った。
「ねえ、アレフ」
それでもアーリアは穏やかに笑みを浮かべ、手を伸ばす。
「あなたが眠っている間に、彼女にはお友達が出来たのよ。
私達の仲間で、世界を救う役割より彼女と在ることを選んだ子。
……名前が似てるからってルルバトルとか言ってたら仲良くなって、世界より友達を選ぶ、大馬鹿で――でも、最高の友人だわ」
「あの子は友人などいなかった。きっと、さぞ幸せだろう」
「ええ、ええ……命を賭けてあの子に愛を叫ぶのよ。まるであなたみたい。
親愛も、恋愛も、友情も、なんだって。愛情って言うのは叫ぶためにあるのだもの、ねえ、そうでしょう」
此の竜にも、そしてあの聖女にも、積み重ねた歴史があった。
「人は馬鹿で、愚かで、間違ってばかりで、それでもそうやって積み重ねるのが、人の、国の、世界の歴史なのよ」
アーリアへアレフは叫んだ。その時ばかりは声を荒げ、燃える息吹を吐出すように。
「そうして、積み重ねた歴史の闇に彼女は屠られた! その苦しみが正しいなどとは言えるものか!」
「ええ、言えないわ! けれど、『巻き戻す』事が正しいなんて限らない!」
アーリアは声を荒げた。沢山間違った。沢山傷付けて、傷付いた。泣いて、笑って。それが人間だった。
恋した方が負けだった。愛した方も負けなのだ。何もかも、見えやしないのが当たり前だ。
(この竜も、あの子を守りたいだけ――)
痛々しいほどの愛で意地を比べるだけだった。
尚も、続く攻撃は五月雨の如くリズミカルに地を打った。
痛い――苦しい。辛い。
痙攣する声帯は音の一つも奏でやしない。舌が縺れる。
滅びの意志が、竜の威圧が、何よりも眼前で起こり得た奇跡の代償が体を蝕む。
正純はやっとの事で声を発した。
「終らない」
終ってなんてやるものか。
正純が手を伸ばした。彼の気配がする。奇跡の残滓を逃しやしない。
「終ってやるものか……折れてなんてやらない! 倒れてなんかやらない!
だって――だって、その願いを聞いたのだから!」
聖女ルルは”敵”だ。
どこにも真実なんてないかもしれない。本当のことを言っている保証なんてない。
それでも聞いてしまった。彼女の願いを。彼とも友達になった。
――僕が見ている星芒。
気障ったらしくて嫌になる。悪人だと袖にする事が出来たらどれ程に良かったか。
あなたが、滅びの使徒であるだけだったならば、どれ程に良かったか。
「貸してくださいね、……皆さん」
あなたの魔力も、祈りも、願いも、何もかもを、この矢に。
ふらりと立ち上がった正純が弓を引き絞った。『矢』と呼ぶべきものをに手にしていなかった、今、それが矢となった。
皆の願いを束ね、祈る。
「――この祈りが、貴方に捧げる最後の祈り。星よ。我が献身をもって、この奇跡の成就を!」
眩い光が放たれた。『今』だ。
残るリソースが幾らかは分からない。だが、先程よりもアレフが宿した目映さ。
マルクが声を上げる。合図はたったの一度きり。
――イメージしろ。
常に最高の自分であるために。常に、勝利を掴み取る自分であるために。
マルクは地を蹴った。
分かって居た。最初から絶望的な戦いだと聖女は呆れ半分で言って居たではないか。
(だからって――諦めるわけがないだろう)
後方へと合図をした。タイムが息を呑む。
「マルクさん!」
答えやしない。振り返りやしない。
その『道筋』が見えた。勝機? 何を以て勝利とする? 作戦の成功か、それとも――『生きる』事か!
「頼むわよ、騎士様!」
祝福の気配はそこにある。黒き狼の咆哮を聞け、それは何時だって勝利を勝ち取ってきただろう。
退いてなる者か。逃げてなる者か。優しき友達と過ごす日々との決別になどさせてなるものか!
アーリアは唇を噛み締めた。此処で決めなくちゃ女が廃る。此処で「待って」と呼び止めてはならないのだから。
「……行くぞ!」
ベネディクトはその一撃を放つことに対して思考を行なう必要は無いと認識していた。
信を置いた軍師と、未来を求めた魔女の働きの何処に疑う余地があるか。
傲慢で無ければ、自らの命を危ぶんでまでは戦えない。強欲で無ければ、命を捨置いても勝利を得られると考えられない。
人間とは欲深き故に身を滅ぼすという。ああ、だが、求めなければただの木偶と同じでは無いか。
玩具のレールを蹴り飛ばし、人形を乗せた汽車を地へと転がせば終着点の変化は生まれるだろう。
前を向け、怖れるな。肌を切り裂く気配に臆するな。ベネディクトの身を焼き焦がす聖竜の炎の気配がする。
「ッ――全身全霊を、この一撃に込めるッ!」
理想を叫べ。喉が焼き切れようと、声高に己が生きていることを証明するのだ。
「届け―――!」
ベネディクトが前へ、前へと進む。眩い白き炎が周囲を焼き切らんと広がっていく。
だから、奇跡は必要なのだ。
敵を前にして、竜などと言う存在を前にして、正攻法で勝てるだなんて思って居ない。
有りっ丈を此処に集めて、それから、求めるのはもっとも賢い勝ち方ではなくて、女の子の我が儘。
アーリアは叫んだ。彼女だけでいい。アレフではない、カロルに届けたい言葉があった。
『ルルちゃん。私はルストを殺す。私の好きな人が居るこの世界を護りたいから。
……ルストに勝ったら、私が竜の聖女になるって言ったら怒る?
アレフを生かす。聖女を、この国の歴史に刻む。貴女のことも、無かったことにさせない』
カロルが目を見開いた。響いた声はクリアに聞こえる。アーリアの思いを伝える息吹に重ねられたのはベネディクトの願いだったか。
「なんて――なんて傲慢なの!」
カロルが腹を抱えて笑い出す。
アーリアがベットするのは幼い思い出だった。
誰よりも強い代償を。子供みたいな思い出に、顔の良い男に執着していたい目を見た自分に、とびっきり目が醒めるような痛みを頂戴。
可能性も、神様からの贈り物も、なんだってくれてやる。
アーリアが胸倉を掴む勢いでアレフに張り付いた滅びの一部を剥ぎ取った。
ばちん、と音が鳴った。アレフの双眸が見開かれる。想いが為した可能性の一欠片。穢れを払う為にベットした何重もの奇跡の成果。
「ああ、全く――」
正純が弓を引き絞る。星の瞬きも何もかもが聞こえない。呪いも、祝福も、最早遠離った。
それでも良い。彼女の飽くなき欲求を矢に乗せて届けてやれば良い。
風を切る、宙を踊った言の葉を突きつけるように更に、アレフの滅びの一部だけが弾け飛ぶ。
剥ぎ取れたのが僅かでも、たったの一部でも構いやしなかった。そのほころびが、未来へ続く。
けれど、アーリアはその気配に『顔の良いあの男』を感じ取ってから酷く苦しげに眉を顰めた。
今この最中に気付きたくなんて無かった。あの人が人間じゃ無い事は気付いていた。
況してや『冠位魔種』が顔を見せないこの状況だ。人形遊びが余程お得意だったのだろう。
……それでも止まれやしない。もう、こんな所にまで来て仕舞ったのだから。
「ええ、女の子ってとびきり我儘で、傲慢なの。カロルが、ルルが願う未来を――叫んで!」
「恋をしたい! 何不自由ない普通の女の子として生きていきたい! それでも、私はあの人が、ルスト様が好き。
どうしようもない、どう足掻いたって無駄なの。
ごめんね、アーリア。分かって頂戴なんていわないけれど……私ってどうしようもないほどに傲慢で強欲だから。
私は女の子だからあの人の死の際まで、あの人を愛していたい! 必要(あい)されると信じているの」
ええ、ええ、そうでしょうね。
どうやら私達――『同じ人を好きになっていたみたい』だもの。
「意地比べだわ、ルル」
アーリアを嘲笑うようにアレフの炎が広がって行く。
アレフの焔は鮮やかに、カロルの言葉に呼応して力を帯びた。
「ならば、燃やし尽そう。この光景と共に。『娘』を任せることが出来るか――根競べだ、黒衣の者達よ」
眩い、光だ。燎原の火。
天義建国前の高原を絶やすこと無く光が包む。
カロルはその火を見詰めていた。そういえば、自身が死ぬ際に見たのも炎だったか。
火は全てを包み込み、黒く黒く消し去ってしまう。何もかも跡形も無く脂と煤の臭いだけ残して。
アレフは言った。『娘』を任せる事が出来るか見定めると。
イレギュラーズの願った奇跡が『カロルの生存』や『アレフの穢れを払い除け未来を求める』事ならば。
(分かり易い程に、彼方の主張は理解出来る)
この程度で生き残れぬと言うならば『冠位魔種』を滅ぼせるわけがないと言いたいのか!
エクスマリアの癒やしだけでは間に合わない。極大の炎を放ったアレフはこれでガス欠するだろう。
あちらも最後の手段を講じた。竜は強い。知っている。数多の戦いを越えたからこそ理解している。
ただ、この刹那を乗り越えるだけの備えが必要だ。『もう一度』がやってきた。
「星穹さん!」
タイムの鋭い声音に星穹が構えた。
ああ――間に合わない。
己を守るだけの時間も、仲間を庇うだけの猶予も。
手を伸ばす。星穹の体を押し退けたのはマルクだった。
「ッ、マルク――様――!?」
星穹が目を見開いた。ベネディクトが名を叫ぶ。マルク。一匹の『黒き狼』
狼の群から突出した青年は息を呑んだ。
「ッ――――!」
零距離でその光をマルクは見た。
飽くなきまでの生への渇望が、青年の前で輝きを帯びている。
全員で死に絶え終るのか? 違うだろう。逆転の機は何処かに存在して居る。
分岐する世界の中で一握りの時間を握り締めろ。砂時計の中身は落ち続ける、命の蝋は揺らぎ、溶け続けて行く。
一層のこと燃えるならば此処では無いか。戦術を、天運を、皆に授ける。未来の為に。
ただ、掴めば良い。そうだ、こんな絶望的な戦いに勝利するならば全てを揃えなくてはならない。
互いが補い合い、互いが想い合う。幾重に奇跡を束ねて、幾重に可能性を求めて、幾重に勝利を渇望して――
そうして、やっと。道が見えた。
見付けた。生き残るという道筋を。全滅ではない、竜に魅せる決意という名の『勝利』を求めるならば、合図は『もう一度』
立って居る者も少ない。真白き炎の余波が目を眩ませる。
それでも、全てを飲み干して、青年は求むる答えを得ていた。
「最後に願うなら、これに決めてたんだ」
ただ、ただ、願うだけじゃ叶わない。
だから示す。これは単純な祈りでも願いもない。在り方だ。
奇跡を願い、それを手にするに値する資格と思いを持ってやって来た。
「聖竜アレフ。これが逆転への――乾坤一擲を成す一手!」
これが『覚悟』であり、死を遠ざける者としての在り方だ――!
後押しする奇跡の風は焔を遠ざけた。煽られた炎がカロルの側へと覆い被さる。
「ちょっと、ちょっとッ――――!?」
慌てた様子で声を荒げたカロルがヴェールを抑えて目を見張った。アレフはその身を竜へと変えてカロルを庇う。
眩い光の向こう側に、幾人もの姿が見えた。
眼前には立っているマルクの姿が見える。更に攻撃をと手を伸ばすアレフを遮ってからカロルは青年の元へと駆け寄った。
縺れる足でやっとの事で辿り着くカロルが引き攣った声を漏す。傾くその体を抱き留めてからカロルはため息ともとれる吐息を漏す。
「……時を戻せば、流れ込む。暫しのさいわいが来たれども、我らは時を追い越すことは出来ず時も我らを追い越すことはない。
わたし、諦めない男って好きよ。おまえともっと先に出会っていれば惚れたかもね」
ゆっくりとその体を横たえて、聖女はイレギュラーズ達の前に立った。
「カロル」
「お終いにしましょう、アレフ。私の勝ちよ、イレギュラーズ。
ねえ、いいでしょ。もう……もう良いわよね。……『―――』……少しだけ、綺麗になったじゃない」
巨大なるアレフの頬を撫でてからカロルは唇を震わせた。
「おまえ、エクスマリアが言ってたこと、真に受けて考えたの? 私の心臓になるの? 紛い物の私の?」
「これではまだ」
「……そうね」
カロルは竜に頬擦りしてから俯いた。
アレフの肉体から毀れ落ちた僅かな穢れの気配。十全でなくとも、それだけあれば冠位魔種ルストの元へと向かう決め手となる。
アレフは徐々に鈍色の水晶玉に姿を変え、カロルの掌に収まった。
景色が変容していく。焼け、褪せて行く高原から薔薇の庭園へとその空間は姿を変えて行く。
聖女は水晶玉をテーブルに置いてから、アーリアの頬を無理矢理にでも掌で挟み込む。
「ほんっとむかつくんだけど、生きる希望みたいなものを、与えられちゃったらどうしようもないじゃない。
大名――ルル家も、お前達も、本当に、狡いし腹が立つし、大嫌いだし、大好きだわ。
……ルスト様に勝って、私が生きてたら私が竜の聖女よ。分かったな、アーリア」
「ルルちゃん……」
そのまま、撓垂れ掛かるようにして体重を掛けるカロルを支えてからアーリアは目を見開いた。
ゆっくりと抱き締める。肩口が濡れる気配にアーリアは何も言うまい。。
「どうして、戦うのよ」
「そんなこと言ったって……」
「最悪、全滅って言ったじゃない」
「分かってたさ」
ベネディクトは肩を竦める。
「馬鹿」
ぽつりと呟かれた言葉に拳を固めたリュコスが「うう」と呻いた。
「大名もそうよ」
「……私も?」
困った顔をして姿を見せた『唯一の友達』に「バカ大名」とカロルは声を荒げた。
涙が混じって、聞いていたって何も凄みも感じられない。
「大馬鹿者」
聖女だ、遂行者だ、なんて。そんなレッテルを剥がしてみれば、ああ、最初からただの女の子だったではないか。
希望を見せられてしまった。奇跡を見てしまった。
せめて遂行者の誰かだけでも生き長らえる事が出来るのではないかと想ってしまった。
「お茶会は、お終いよ」
カロルはゆっくりと離れてから、目を伏せた。
「じっとなんてして居られないものね、さようなら。今日のおまえたち。……『刻』を体に流し込むわ」
時が流れ込めば、その『瞬間』に、彼は――
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
勝算を求めて、諦めないという道筋を示したあなたにMVPを。
あなたの生き方と、あなたの使命が良く分かるPPPでした。確かに、示して頂きました。
待ち受ける冠位戦の為に、どうぞ、傷を癒やして下さい。
この度は有り難うございました。
GMコメント
選択お疲れ様でした。
このシナリオは『<神の門>Ave regina caelorum』と同時進行されていますが、カロル曰くは『狭間の時間』となります。
『選択』終了後に時間軸が『<神の門>Ave regina caelorum』と合流します。刻の流れもこの領域では聖女の自由自在です。
●『成功』条件
・聖竜アレフ・レプリカの撃破
皆さんは聖核に取り憑く『滅び』が形作ったアレフ・レプリカを撃破せねばなりません。
この聖核を駆使することでルスト・シファーが鎖している彼自身の空間に辿り着くことが可能です。
ただし、現在のアレフ・レプリカは『カロルを守る』為に存在して居ますので、ルストが死亡するとカロルが消える事を理解して行動します。つまりは、絶対に退きません。
●『聖核の選択』
滅びに満ちている『聖竜の目玉』に対し、如何なる選択を行うか、最終的に決定して頂きました。
1. 『パンドラ』を神託の少女より借り受けて使用する(ただし、ルスト戦にて恩恵が受けられなくなる可能性が大きいです)
2. 『奇跡』に縋る(イレギュラーズが個々に覚悟を行なった上での行動となります。ただし、代償を『頭割り』できる訳ではない事にはご注意ください。全員に等しく大きなリスクがあります)
3. 聖竜に取り憑く滅びの気配との戦闘を行なう(難易度不明。全滅の可能性がある事も考慮してください)
4. その他の選択を行なう(提案を行なう)
→『聖女の薔薇庭園(貸部屋)』にて『4』が選択されました。
【【4】聖竜に取り憑く滅びの気配との戦闘を行い、必要となれば希望者は『奇跡』を願う。】
●『奇跡』
この空間ではイレギュラーズが『パンドラ』を使用して奇跡(PPP)を発動する事の出来る可能性は非常に高くなっています。
ですが、性質上その代償は非常に大きくなり、代償は『個別に負担』する事となります。
死亡リスクが高まりますのでご注意ください。
(代償を肩代わりすることなどは出来ません。願った者全てに降りかかります。ただし、願う人間の数によりその奇跡の『強度』に変化があります)
●『聖竜』アレフ・レプリカ
天義建国の折りに実在されたという竜種です。名前は便宜上カロルが当て嵌めました。本来は呼ぶ事すら困難であるとされます。
この場に存在するのは聖核として位置するアレフの目玉と心臓であり、この薔薇庭園を維持する動力機構として作用しています。
皆さんの選択により、カロルはアレフに語りかけその滅びの気配を具現化させました。
全盛期のアレフを模した『竜の影』が顕現し、イレギュラーズと戦う事となります。
白く透き通った肢体を有する美しい雄竜であり、人間形態ではカロルに良く似た桃色の髪の娘を象るようです。その理由も聖女『カロル』を実の娘のように愛していたからと言う非常に人間的な理由です。
強力な竜でありながら滅びのアークに『コーティング』されている理由はカロルの所有物であった聖遺物『頌歌の冠』と滅びのアークが結びつき彼女を名乗る遂行者が世に生れ落ちた事が理由です。
今度こそ、愛しい『聖女』を守るが為にと滅びに身を委ねても構わないと考えたからです。
非常に卓越した竜語魔術(ドラゴン・ロア)を利用することが可能です。
能力面では竜種そのものとしての高いフィジカルを有します。極めて堅牢な防御能力、再生能力を有しています。
カロル曰くは「アレフは回復能力にも優れているし、耐久能力が高いのよ」との事です。
飛行する事を得意としていますが、個々でイレギュラーズを見過ごせばカロルに危機が及ぶため向き合います。
詳細はほぼ不明。あらゆる攻撃に備えて下さい。
……ただし、聖竜の呼び名通りベースとなった竜は善性の塊ですので付け入る隙はありそうです。
●『聖女』カロル・ルゥーロルゥー
天義建国にも携わったとされる娘、をベースに造り上げられた遂行者。当人ではありませんが、当人の記憶らしき者を引き継いでいます。
元は『頌歌の冠』と呼ばれた聖遺物でありルスト・シファーの権能により滅びのアークと結びついて産み落とされました。
つまり、彼女は『ルストが消え去れば』存在自体が消え失せます。カロルもアレフもその結末は承知の上で活動して居ます。
イレギュラーズには好意的。口が悪く性格も非常に尖っていますが、根っこの部分は良い子です。聖女らしくない振る舞いは過去の『聖女ルゥーロルゥー』とは別ものであると自己認識したいからです。
●フィールド
アレフによって変幻自在。美しい聖堂が存在する高原が造り上げられました。
どうやら天義建国『前』の様子のようです。天井や広さなどは気にする必要はありません。
後方ではカロルが『アレフの聖域』によって守護され、お茶を飲んで見守って居ますが大して気にする必要もありません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はD-です。
基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
不測の事態は恐らく起きるでしょう。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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