PandoraPartyProject
グロースオリジン
グロース・フォン・マントイフェル将軍という『男』がいた。
彼は何も持っていなかったが、世界を変えたかった。
体格には恵まれず、剣の才にも恵まれない。そんな自分に術はない。
そう思いつつも、彼は諦めることが出来なかった。
「帝国から戦争をなくすだって?」
腹を抱えて笑ったのは、彼の弟のハッソであった。兄グロースの小柄で小太りで、歩くときについ背が丸まってしまう筋力の弱さとはうってかわって、彼は屈強で頑丈な戦士の体格である。近くにいるだけでその熱が伝わるほどに。
「いいや、無理無理。考えてもみろよアニキ。このクソ寒い土地にどんだけの麦が育つ? どんだけ鶏が生き延びる? 飯が作れなきゃ貰ってくるしかねえんだって」
それはグロースも軍学校で学んだ歴然とした事実であった。幻想王国のように広大なる緑の大地や温かい海もなく、毎年人々は蓄えを細々とはみながら極寒の大地の苦境に耐えるしかない。耐えられるから生きて来れたのだ。
――強くない者は、生きていけない。
それが帝国における常識であった。
ゆえに強者は尊ばれ、最強こそが王になる。
少なくともグロースはそう理解していた。
「しかしな、考えてもみろ。人々が真に纏まり分け合うことができたなら、その力は二倍にも三倍にも膨らむのだ。一本の木を売れば金と木という二つの価値になるという原則を知っているだろう」
「ケーザイ学ってやつかい? アニキも好きだよな。金が増えても力が無きゃ奪われるじゃねえか。ヴィーザルの連中を見ろよ、帝国に奪われて属領になったやつまでいる。オース……なんだっけ?」
弟はとりあわない。個人の力こそが生きていくための全てだと彼は……いや、帝国は信じてやまない。そう見えた。
「ま、見てろって。このままよその美味しいところだけ俺がかっ攫ってきてやるから。そうすりゃ帝国だってあと十年は戦えるんじゃねえ?」
そう言って笑った弟は。
戦争に出て、そして死んだ。
あまりに普通の死だった。戦って、怪我をして、後退し、ベッドの上で苦しんで死んだという。あまりに普通だ。
強者の死でも、弱者の死でもないようにグロースには見えた。
グロースには才能がなかった。
代わりに彼は努力はできた。剣の才能がないから人の何倍も勉強をしたし、相手を屈服させられないから他人と利害関係をとにかく結んだ。
彼は次第に人脈というものの本質を見るようになり、彼が指を一本動かすだけで軍団が右から左へ動くようなありさまができあがっていく。
それが謀(はかりごと)の本質だと気付いた時には、彼は帝国参謀本部からのリクルートを受けていた。
参謀本部は彼にとって非常に居心地のよい世界だった。
剣一本で成り上がろうというラド・バウ志願者たちばかりだと思っていた帝国からごく僅かに集まった知恵者たちが、効率的に軍を動かす方法や帝国の未来を切り拓く方法を日々議論し、そのための実行力を人脈や交渉術によって作り出していく。
そんな世界でこそ、グロースは力をつけることができた。
他の将校と利害を結び、複雑に絡め自らを無視できないようにする。それをくりかえし出世を進め、更には官民越えてあらゆる人間に対し同じことを行うことでグロースは巨大な社会という塊の核となっていったのである。
彼は力を手に入れた。強さを手に入れた。
帝国という社会の中で生きていくためのすべを、彼は手に入れたのだ。
――強くない者は、生きていけない。
そんな彼に、転機は訪れた。
具体的には、帝国の王城のそれも皇帝ヴェルスのいる部屋へ直接に、物理的に訪れた。
『煉獄篇第三冠憤怒』バルナバス・スティージレッド。それは帝国を滅ぼすに足るだけの、あまりに強力な『歩く転機』であり『歩く天災』であったのだ。
――強くない者は、生きていけない。
ヴェルスとバルナバスの戦いは、筆舌に尽くしがたいものであった。
あまりの戦いの気に圧倒され逃げ出す者もいれば、呆然と立ち尽くす者、書き留めようと開いたノートに手が震え字を書くことすらままならぬ者。
そんな中に、グロースはいた。
グロースは見た。
――強くない者は、生きていけない。
自分の積み上げたものが、いかに脆いものであったのか。
自分の信じたものが、いかに小さなものだったのか。
利害関係? 経済? 社会? 権力? それらの全てをぶつけたところで、あの二人の間に割って入ることすら不可能だ。
「あ、あああ――ああああああああ!」
頭をかきむしり、全てが崩壊していくのを感じた。
そして。
全てが変わってしまったのを、感じた。
――強くない者は、生きていけない。
――強くない者は、生きていけない。
――強くない者は、生きていけない。
――強くない者は、生きていけない。
「強くない者は、死ぬしかあるまい」
気づけばグロースは幼女という名の魔種になっていた。
当然だ。バルナバスのような存在を前にしたならば、どんな者とて幼女同然。グロースは己の脆弱さを、矮小さを思い知ったのだ。
故に、とるべき行動は決まっていた。
天井に穴の空いた王城の、玉座についたバルナバスを前に。
跪き、頭を垂れ、そして強く強く抱いたのだ。
「私も、あなたのように……『バルナバス』になりたい」
戦場はただ中。
グロース・フォン・マントイフェル将軍は、かくしてか弱き幼女と成り果てた。
――罪を裁く光が膨らむ。
弱者を消そう。
強者だけの国を作ろう。
そうすれば。
――迫る光は目映く、眩しい。
戦争だってなくなるだろうさ。
――そんなことを思いながら『女』は最後の光を見た。
※グロース・フォン・マントイフェル将軍及びグロース師団との戦いが決着を迎えようとしています
※All You Need Is Power(鉄帝国のテーマ) 作曲:町田カンスケ
※<鉄と血と>の決戦シナリオで戦勝報告が挙がっています!
※『フローズヴィトニル』の封印を開始するようです。
※王城リッテラムの戦況が変化しました!
※最後の切り札『人民軍』が発動しました。グロース将軍との戦いは最終フェーズへと突入します!
※独立島アーカーシュより、勝利の報が届いています!
※イレギュラーズの手に入れている切り札が大いなる力を纏っています!
※スチールグラード帝都決戦が始まりました!!
※領地RAIDイベント『アグニの息吹』が始まりました!!
※帝政派、ザーバ派は連合軍を結成している為、勢力アイテムが『帝国軍徽章』へと変更されました!
※ラサでは『月の王国』への作戦行動が遂行されています!
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