PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<鉄と血と>おしまいの日、はじまりの歌

完了

参加者 : 34 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ふうん、やっぱり来るんだね。あーあ。やだなー」
 凍てついた城の中で、魔種ターリャが頬杖をついていた。

 帝都スチールグラードは、今や完全に包囲されていた。
 南からはザーバ派が列車砲と共に。
 西からは帝政派も決戦兵器グラーフ・アイゼンブルートを起動させた。
 東からは雷神と女神の加護を得た北辰連合が大兵力を率いている。
 革命派は地下、ラド・バウは都市内部で構えを見せている。
 そして――ターリャが見上げる独立島アーカーシュは、北部から連合艦隊との連携を狙っていた。
 また彼等はラジオの電波ジャックを行い、各地で決起を促している。

 ターリャはふいに、自身が魔種へ墜ちた日の事を思い出していた。
 剣奴の試合を終え、新たな傷をまた一つ増やした日の事だ。
 ふと覗くと、師と対戦相手とが報酬の話をしているではないか。
 この日初めて、彼女はなぜ闘士にされたのかを知った。
 勝利などはじめから一つも期待されていなかったのも知った。
 傷つく少女が健気に戦う感動のショーを見せることこそが目的だと知ってしまった。
 その瞬間だ、頭の中に声が響いてきたのは。
 その日、十三歳の少女は人の殻を破り捨て、魔種として第二の生を歩み始めた。
 生まれ故郷の街を一晩で滅ぼして――

 声の主が眼前の『アラクラン総帥』であることを知ったのは、少し前の事になる。
 彼は国を作ろうと手を差し伸べ、ターリャはその手を取ったのだ。
「それでおじさん、どうするの。あんなの勝てる訳ないし。このまま死ぬの、そーすいさん?」
「まさか、まさか、そのような」
 総帥と呼ばれた男――フギン・ムニンは芝居がかった声音で腕を広げる。
「じゃあどうするわけ、頭悪いからわかんないんだけどな、わたし」
「我等の武器は己が身や兵のみならず、怪物共も無数に居りましょう」
「……」
 フギンは分厚い一冊の書、革命派の聖典を机上に乗せると、おもむろに開く。
 そしてターリャが持ち込んだクランベリージュース――先程まずいと言ってそのまま放置したもの――の瓶をあけ、中身をぶちまけた。
「何してるの、おじさん。馬鹿なわけ?」
 赤い果汁が書物へと染み込んでいく。
「アーカーシュの剣も、火も、血も、紙一枚では台無しにしてしまいます」
 フギンはそれを「十枚でも、二十枚でも」とめくって見せた。
「しかし、お分りですか。そんな勢いも、ついにこのページへは届かなかった」
「進せよ。恐れるなかれ。主は汝らを守り給わん……関係あるの、これ?」
 ターリャは記された聖句を読み上げ、首を傾げた。
「いえ、私は革命派ではございませんので、こんな紙切れはどうでもよろしい。しかし――」

 ――彼等がいかに高い突破力を持っていようとも、それ以上の軍勢を送り込めば良い。
   彼等がいかに高い対処力を誇っていようとも、それ以上の物量で挽き潰せば良い。
   彼等が如何に高い応用力に秀でていようとも、それ以上の絶望で叩き切れば良い。

「最後の一兵まで波状攻撃に費やすのです」
「……」
「魔物など全て使い潰せばよろしいではありませんか。どうせいくらでも沸いてくる。
 兵とてまた同じ。十の矢を止められるなら、十一を放てば良いのですよ。いかがですか?」
「ふうん、じゃあ――やってあげる」
 話を終えたターリャはスチールグラードの市街を少し歩き、太陽を見上げた。
「あれ、はやく落ちてこないかな」
 そうなれば自身が業火に消えることを、予測していた。
「あのおじさん、やっぱり馬鹿なのかな」
 新しい国なんて建ちっこないのに。
 第一ターリャは戦うことなど好きではない。
 なのに身体を蝕む憤怒の瘴気が、それをやめさせてはくれなかった。
「もう、終わらせてよ、早く……」
 何もかも、もうどうだってよかった。
 否、魔種となってさえ、生来の考え方が『何一つ変わらなかった』少女は、一体全体はじめから何もかもがどうでもよかったのである。
 本当は、この醜い国に産まれてこのかた――
 幸せになりたくない訳ではなかった。
 とにかく楽にだってなりたかった。
 喜ばしいことなんて何一つなかったけれど。
 怠惰に塗り固められた剣奴という失意ばかりの人生は、憤怒と共に終わりを告げたというのに。
 気分なんて一向に晴れやしなかったのに、でも。
 なのになぜか、こうしていると。ふいに、幾度か戦ったイレギュラーズ達の事を思い出す。

 剣を交えたこと。
 話を聞いてもらったこと。
 小さな小瓶をもらったこと。
 そして優しく抱きしめられたこと。

 なぜだか少しだけ晴れやかな気がしたから、ターリャはその場で手を広げて二度ほど回った。
 それから彼女は背伸びするように両手を天へ掲げる。
「進せよ。恐れるなかれ。主は汝らを守り給えーーーーぇ」

 おしまいにしてくれる。

「……あの人達なら、きっと」

 ――ぜんぶ、ぜんぶ、ぜーんぶ!

 だってそれはきっと。
 あの天に浮かぶ二つ目の光に滅ぼされるより、ずっとマシな気がするから。


 小雪がマルク・シリング(p3p001309)の頬を撫で、儚く溶け消えた。
 雲間には――二つの太陽。方や弱々しい恵みを、方や禍々しい気配を漂わせている。

 マルクは急ごしらえの司令室兼会議室に入り、温かな紅茶を受け取った。
 アーカーシュは後に『シリングターン』と呼ばれることになる空の大移動を行っていた。北辰連合と共闘しながら帝都へ東周りで向かった彼等は、あえて帝都上空をそのまま突っ切ったのである。
 狙いは的中し、散発的な天衝種の攻撃は全て『セレンディの盾』で撃ち落とすことに成功している。その上、帝都北部へ陣取るのに最短のコースを取ることが出来た。
 これはそんな翌日のことだ。

「……やっぱり、そう来るよね」
 一口飲んでティーカップを置いたマルクが、軍帽を被りなおして立ち上がる。
 眼下に広がる帝都スチールグラードの一角から、赤黒い霧のようなものが立ち上り――
「念のため、拡大してもらっていいかな」
「はい、直ちに拡大します」
 司令室に駆け込んだマルクに答え、リュドミーラ『中尉』が幻影投射スクリーンを操作した。
 遠目に粒子然とした粉末の煙は、予測通り翼を持つ無数の怪物――天衝種の大軍だった。
 いずれにせよ分かっていたことだ。
 アーカーシュはこの戦場最大の火力であり、敵にとっては重大な攻略目標である。
 こうなることは目に見えており、また避けようもなかった。
 だから問題は『ここからどうするか』にある。
「島の高度を上昇させますわ」
 フロラ・イーリス・ハスクヴァーナ(p3p010730)が宙空の投影パネルを指で弾く。
「我々には大精霊の盾、セレンディの加護がついています。しかし、これでは――」
 言葉を飲んだのは、『歯車卿』エフィム・ネストロヴィチ・ベルヴェノフ(p3n000290)だ。
「艦姫島風 敵の狙い 予測 飽和攻撃」
 島風型駆逐艦 一番艦 島風(p3p010746)の言葉通り。敵が出した答えはアーカーシュの処理能力を超えれば良いというものだった。敵の大部隊は、明確にアーカーシュを狙っている。
「妙見子ちゃんはどう見ますか?」
「むむぅ……分かりませんが、ちょっとまずそうかも?」
 ノア=サス=ネクリム(p3p009625)に水天宮 妙見子(p3p010644)が答えた。
「私達も準備をしておくべきね」
 ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)に一同が頷く。
 セレンディの盾は、暴風と雷撃により敵の侵入を遮断するものであるが、完全ではない。
「しかしマルクさん、いえシリング将軍。面白い情報が入りました」
 諜報軍人のエッボが駆けてきた。
「そういうのはいいよ。けど、なんだろう?」
「連合艦隊は上陸せず、北回りを選択したようです」
 それはアネル婦人の呼びかけに応じた豊穣と海洋の連合に、ベデクト艦隊を加えた連合軍のことだ。
「北からだって?」
 流氷に覆われた海への航海など、自殺行為ではないのか。たどり着けるとは思えないが。
「ウルの気配がするね、だから本当だと思う」
 ソア(p3p007025)は確かに北海方向で妹の気配がすると感じていた。
「……そうか!」
 マルクが拳の底で手のひらを打つ。豊穣の四神が居るならば可能性はある。
 たとえば朱雀であれば、流氷などどうにか出来るはずだ。
 ならば連合艦隊へ接触し、連携するのはアーカーシュの役目ともなる。
「美咲、マキナ、ついでにおまけだ普久原、ちょっとこっちに来い」
 ジオルドが佐藤 美咲(p3p009818)達三人を呼びつける。
「機関の――いや、探求都市国家アデプトからのオーダーが届いた」
「内容は?」
「『アーカーシュを死守せよ』」
「またとんでもない。まあ、是非もないんスけど」
「……なんで嬉しそうなんですか、この、ええと、ジオルドさんて方」
 普久原・ほむら(p3n000159)が機関銃を手に天を仰ぐ。

 レリッカの村では避難が開始されていた。
「とにかくこっち、この城は安全だから」
「うん、ありがとう」
「さすがにもう慣れっこ……とまではいかないけどさ」
「他の皆もこっちだよー!」
 ジェック・アーロン(p3p004755)の呼びかけに、ユルグ達三人を初めとする村人達が応じる。
「こんな時ぐらい頼ってくれよ、ジェック。あとは任せて欲しい、君にはやるべきことがあるはずだ」
「ありがとう」
 避難誘導を村長へ引き継いだジェックは、ライフルを背負い駆け出した。

「六時方向! 第一波、来ます! 到達予測、六百秒!」
 小金井・正純(p3p008000)がスピーカー越しに浮遊島内全域に伝える。
「大丈夫、うまくやれてるから」
 ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が胸をなで下ろした。
 先日購入したスピーカーを通しての放送がうまくいったようだ。
「はい」
「ええ」
 ユーフォニー(p3p010323)とマリエッタ・エーレイン(p3p010534)が頷き合った。
 マリエッタの手のひらに乗った宝珠をユーフォニーが握り――
「「セレンディの盾、最大出力(フルバースト)!」」
 雷撃が踊り狂い、島へ殺到する無数の怪物達を灼き貫いた。
 魔性の命、その残滓が黒い雪のように、はらはらと大地へ舞い降りていく。
「……忘れません、決して」

「五時方向! 第二波、来ます! 到達予測、四百二十秒!」
 第一波から数十分後、再び正純の声がスピーカー越しに響いた。
 想定される最悪の事態は、派閥連合全一の超火力たるアーカーシュを乗っ取られること。
「何があっても渡さねえよ、こいつだけは」
 天之空・ミーナ(p3p005003)の言葉通り、アーカーシュにはたった二発の弾丸がある。
「ええ、分かっています」
 ラトラナジュを見守り続けていたグリーフ・ロス(p3p008615)も頷いた。
 それを撃つべき場所へ撃ち込むまでは、仕事は終わってくれない。
 突如、スクリーン一杯に牙が突き立てられた。くちばしの中だというのに、幾重にも生え揃った牙に怖気が走る。怪物は三つ叉に別れた舌から毒液を滴らせるが――
「大丈夫です、この遺跡の壁はあんなものには破られない」
 歯車卿がそう言った直後、ラトラナジュがおもむろに手のひらの火を、ロウソクでも消すように軽く吹く。
 すると怪物は一気に燃えさかり、そのまま遠い地上へと落ちていった。
「避難は終わったわよ、迎撃準備もばっちり」
 アーリア・スピリッツ(p3p004400)はあえてウィンクして微笑んでみせる。
 こんな時、大人の女が精神的支柱にならずしてどうすると。
 天目 錬(p3p008364)が通信設備を確認していた。
「問題はないな、むしろ前より好調なぐらいだ」
 アーカーシュが誇るラジオ設備は、遠く帝都北部にあってもアルマスクとの通信を維持出来ていた。
「こっちはどうにかだが、やってやれんこともない」
 ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は帝都全土への放送準備を整えている。
「敵規模の算出が終わりましたわ」
 リドニア・アルフェーネ(p3p010574)が数名の参謀達と歩いてきた。
「どのぐらいだい?」
 マルクが問い、報告書を手にしたニャンタル・ポルタ(p3p010190)が答えた。
「二個旅団規模と書いておるな」
 攻撃三倍の法則というものは、防衛の有利さを示している。
 攻撃側が勝利するのに必要な条件は、三倍の兵力を割く必要があるということ。
 それに対して状況は――
「敵方が、十倍か……!」
 三の三掛け超に、ライ・ガネット(p3p008854)が前足で帽子を整え呟いた。
 こちらの最大戦力は連隊規模だ。旅団規模には大きく劣っている。
 計算上、この戦いは、勝つことそのものが『不可能』だ。
「大変、数パーセント、突破されたみたいだよ」
 ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が司令室に飛び込んでくる。

「六時方向! 第三波! 接敵は五百四十秒後!」
 立て続けの猛攻だ。
 一方、セレンディの盾を展開するアーカーシュ・ポータルには、イレギュラーズや、独立混成連隊ルーチェ・スピカの面々が待機していた。しかしそろそろ盾の出力上昇は持ちそうにない。
 もう少し時間がたてばもう一度展開は可能だろうが。果たして、敵はそれを許してくれるのか。
「大丈夫よ、あなたたちはわたし達が守るから」
「ああ、ここは任せてもらおうか」
 ユーフォニーとマリエッタを背に、セレナ・夜月(p3p010688)がほうきへ腰掛け、とムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)が大剣を構え、熱に大気が揺らめいた。
「こんなこともあろうかと、整備は万全っスよ」
 キャナル・リルガール(p3p008601)達、EAMDの面々が姿を現した。
 島内守備用の軍用新型浮遊蒸気バイク――ラウフェンブリッツを従えて。
「もちろん地上に投下するスノーモービルとは別モノっス」
「ではシュカさん」
「ええ、もちろん!」
 すずな(p3p005307)にリーヌシュカ(p3n000124)が頷く。
「ヨハン! あと、バルドおじさん」
「はいはい。不肖、この帝国軽騎兵隊客員軍医将校がお供しますよ」
「なにそれ」
「君がつけたんじゃないか」
 ヨハン=レーム(p3p001117)達のやり取りに、バルドが苦笑をこぼした。
「だからマルク、わたしね、準備運動したくなっちゃった」
 司令室に新たなスクリーンが開いた。
 そこから飛び出すのではないかというほど、リーヌシュカが顔を近づける。
「ルーチェ・スピカ、出るわ!」
「そう言うと思ったよ。ルーチェ・スピカの出撃を承認する」

「第四波、来ます!」
「アルマスク第一砲兵隊! 五時半方向! 面で捉えなさい! 弾幕! 斉射用意! ファイア!」
 ぞろりと並んだ黒鉄の砲身が一斉に火を吹いた。
 一機毎分十発。四十四口径百二十ミリ滑腔砲が敵陣を穿つ。
 散弾が渡り鳥の群れを撃つように、無数の怪物達が落下していく。
 セレンディの雷鳴が轟き、怪物の群れを駆け抜けると、煙を噴きながら次々に散り――

 ――だがまるで間に合わない。
「軽騎兵隊、抜剣! 風穴をこじ開けるわ! この私に続きなさい!」
 ラウフェンブリッツの上へ器用に立ったリーヌシュカが、足でアクセルを蹴りつける。
 蒸気を吹き上げながら続く軽騎兵隊と共に、魔物達を次々となぎ払った。
 遂に島内では、天衝種との交戦が始まった。
 あちこちから銃声と怪物の絶叫が響いてくる。
「分かってんな野郎共!」
 キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)が声を張り上げる。
 ルンペルシュティルツの従業員達が、戦場後方から弾薬などの支援を開始した。
「ッチ、これじゃあ埒があかねえ」
 ルカ・ガンビーノ(p3p007268)が吐き捨てる。
 この元凶、敵中枢を叩かねばならないが、その作戦に力を割く余裕がない。
「……声がまだ届かない、けれど」
 オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)の口調は苦い。
 その手にした力を、ただの氷魔術のようには扱いたくなかった。
 それに銀の森の女王エリスの様子も気がかりだ。

 ともかく、アーカーシュには為すべき事が多い。
 一つ。独立混成連隊ルーチェ・スピカとイルドゼギアエアフォースを地上に投下する。
 二つ。イレギュラーズによる精鋭部隊で敵将ターリャを斬首する。
 三つ。ベデクト、豊穣、海洋連合軍をどうにか迎え入れ共闘態勢を築く。

 そして全派閥の総力を結集し、他の課題も全て粉砕する必要がある。
 四つ。グロース師団の中枢へイレギュラーズを送り込み、敵将を斬首する。
 五つ。アラクラン中枢へイレギュラーズを送り込み、敵将を斬首する。
 六つ。天に浮かぶ第二の太陽をどうにかする。
 七つ。冠位憤怒バルナバス・スティージレッドを打ち砕く。

 だがその全ては――この苦境を切り抜けてからだ。

「僕達は火力だ。僕達は倒れてはならない。僕達は決して止まってはいられない」
 マルクが拳を握った。
 計算上の勝利は、全く、絶対、ただの一つもありはしない。
 けれどイレギュラーズというものは、不可能を成し遂げるべき存在だ。
「だから僕等の手で、アーカーシュを守り抜くんだ!」

GMコメント

 pipiです。
 直ちに状況を攻略し、グロース、フギン、バルナバスの討伐へ向かってください。
 そこで最強の切り札を行使するために、今は守り抜くのです。

 ただし状況は絶体絶命。
 切れるカードはたったの二枚です。
 一つは『セレンディの盾』。
 もう一つは『イルドゼギアエアフォース』。

 状況に伴い、アイアンドクトリンによる投票が発生します。
 ※投票結果に伴い、シナリオの難易度が変化する可能性があります。
 またこちらのRAIDに失敗した場合、決戦兵器『ラトラナジュの火』は使用不能となります。

 ※本レイドの返却は、運営都合により通常よりも延長されております。シナリオ展開によって返却が行われますので、ご了承いただけますと幸いです。

●排他制限
 こちらのRAIDに参加した場合、他のRAIDには参加出来ません。
 ※ラリー形式のRAIDには参加可能です。
 ※人数少ないですが優先は全員入れます(最大31+4=35名向けのシナリオです)。
 ※複数RAIDの優先がある方(ルカ・ガンビーノさん、マルク・シリングさん、セレナ・夜月さん)のみ両方のRAIDに参加可能です。
※片方のRAIDに参加した後、運営にお問い合わせから連絡いただければ、両方に参加できる処置を行います。恐れ入りますがご連絡いただけますと幸いです。

●目標
 アーカーシュへ迫る敵を頑張って撃退する。
 敵将の魔種ターリャを討伐する。

●フィールド
 独立島アーカーシュ、及び眼下の帝都スチールグラードです。
『独立島内軍施設』
 独立島アーカーシュの司令部などがある軍施設です。皆さんの第一拠点。
 ここを抜かれると、戦況は非常に苦しくなります。

『エピトゥシ城』
 皆さんの最終防衛ラインです。
 ここが陥落したら失敗です。

『帝都スチールグラード北部』
 皆さんが進撃すべき場所です。
 ここを落とせなければ失敗です。

『北海』
 おそらく友軍であるベデクト海軍と、豊穣海洋連合艦隊が向かってきているはずです。
 しかしまだ接触出来ていません。

●敵
『独立島内軍施設』
 アーカーシュ地上で、軍施設を背に迎え撃ちましょう。
 ここでの迎撃に失敗した場合、戦線はエピトゥシ城まで後退します。
 最悪の場合、敵将の斬首作戦は実行不可能となるでしょう。

・第五波~第七波
 多数の飛行型天衝種です。
 一体一体も弱くはありませんが、とにかくやたらめったら数が多いです。

・第八波~第十波
 多数の飛行型天衝種と共に、アラクランの部隊が上陸作戦を試みます。
 敵の数も健在な上、ここにきて敵の能力が上がるということです。

・第十一波~不明
 敵も決死の作戦になるかと思われます。
 規模も敵の能力も最大級になると思われます。
 そしてこれは、おそらく地上で敵将を討ち取るまで続きます。

『帝都スチールグラード北部』
・敵将、魔種ターリャ
 非常に強力な魔種です。
 憤怒に心を蝕まれ、これまででもっとも能力が高い状態です。
 時間経過と共にステータスとりわけCTが大きく上昇し、FBが微増していきます。
 少数の優秀な部下を引き連れ、スチールグラード北部に陣取っています。
 天衝種に力を供給しているため、少なくとも彼女を倒さない限り波は収まりません。
 そして問題は、彼女を倒してさえ波が収まらない可能性もあるということです。

●特殊能力
・セレンディの声
 ジェック・アーロン(p3p004755)さんが保有する能力です。色々活用出来そうです。
 セレンディと距離を問わずにおしゃべり出来ます。
 ※またセレンディ自身は幻影の分体(さわれないが見たりお話したり出来る)を一体だけ召喚出来ます。

・セレンディの盾の全力
 ユーフォニー(p3p010323)さんとマリエッタ・エーレイン(p3p010534)さんが協力すると、このシナリオでは一度だけ発動出来ます。
 一度使った限りでは敵の『波』を2~3回程度ほぼ完全に食い止めることが可能でした。
 このカードを切るタイミングは、お二人にお任せします。
 ※追記:このシナリオでは島内だけでなく、1~3の戦場どこでも発動可能とします(近いので)。

・フローズヴィトニルの欠片
 オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)さんが有する力です。
 これもどちらかというと、ここで使うというより奪わせてはいけない力です。
 
・ラトラナジュの火
 今回はここで撃つというより、絶対敵に奪わせてはならない力です。
 ジェック・アーロン(p3p004755)さんと、天之空・ミーナ(p3p005003)さんが保有しています。
 またグリーフ・ロス(p3p008615)さんは、かなり長く対話を試みています。

●独立島アーカーシュ
 皆さんが所属したり、協力したりしている派閥です。

●同行NPC/関係者
『独立島内軍施設』
・『歯車卿』エフィム・ネストロヴィチ・ベルヴェノフ(p3n000290)
 司令部に居ます。当人に心得がある他、エヴァという武闘派の侍女が居ます。

・リーヌシュカ(p3n000124)少佐!
 はじめは独立混成連隊ルーチェ・スピカを率いて、ここで戦闘しています。
 作戦参謀のリュドミーラも一緒です。こっちは中尉に昇進しています。

・00機関
 ジオルドやマキナ、他幾人か。今回は全面的に協力姿勢を見せています。

・EAMD
 じいさんと百合ップルなど。
 兵器の整備や修理に勤しんでいます。

・普久原・ほむら(p3n000159)
 皆さんの仲間で、なんかここに居ます。

・バルド=レーム
 ヨハン=レーム(p3p001117)さんの父で、めたくそ強いです。ただし時限型。

『エピトゥシ城』
 レリッカ村の人々などがいます。
 現状の守りは万全ですが、軍施設が陥落した場合はここまで後退することになります。

『帝都スチールグラード北部』
 防衛がうまくいっている場合、ゴーレム軍(イルドゼギアエアフォース)とルーチェ・スピカ、それから皆さんが敵中枢の攻略作戦を実施可能です。
 ルーチェ・スピカとゴーレム軍が、師団規模の敵軍勢を足止めしている隙に、少数精鋭で敵将ターリャの斬首作戦を行って下さい。
・リーヌシュカ(p3n000124)
 ルーチェ・スピカを率いて敵の大軍を引き付けますので、その間に敵将を倒しましょう。
 エッダさんの教練を受けた彼女ならうまくやれるはずですが、数倍の敵を相手することにはなります。

『北海』
 連合艦隊が居るはずです。
 ソアさんの関係者の帝国軍人ウルなどが居ます。
 あとルンペルシュティルツのネームドなど。
 砲撃能力を持つ上、大規模な地上軍を有しているはずですが、詳細は分かっていません。

●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
 闘争の誉れは特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 C+です。不測の事態に備えて下さい。
 派閥スキルパトリックスウィルの力により、一段向上しています。


行動場所
 以下の選択肢の中から行動する場所を選択して下さい。

【1】アーカーシュ迎撃作戦
 敵が次々に波状攻撃を仕掛けてきます。
 かなりの長期戦になるでしょう。ここが主戦場です。

 帝国軍施設の前で迎撃します。
 陥落した場合はエピトゥシ城まで後退します。
 後退した場合、降下作戦の実施に難が生じます。

【2】司令部防衛作戦
 少数の敵が襲ってきます。必要最小限の兵力で対処する必要がありそうです。
 陥落した場合はエピトゥシ城まで後退します。
 後退した場合、作戦の伝達に難が生じます。

【3】敵中枢ターリャ斬首作戦
 少数精鋭で敵中枢へ斬り込む作戦です。魔種を討伐して下さい。
 ただし、1~2がうまくいかない場合、作戦そのものが実行不可能となる可能性があります。

【4】その他
 何か別のことをしたい場合や、区分を跨ぐ場合などにご利用下さい。


特殊兵装
 以下の特殊兵装を選択可能です。

【1】特殊兵装は使用しない
 特に特殊兵装は使用しません。

【2】軍用浮遊式蒸気バイク『ラウフェンブリッツ』
 浮いて走るバイクです。
 装備:二十一口径三十七ミリライフル砲ファルケンネイグル
 能力:物攻+、反応+++、機動++

【3】軍用装甲蒸気スノーモービル『ヴァイスフリューゲル』
 雪上の移動に優れる乗り物です。
 装備:二十二口径砲黒槍(シュワルツ・ランツィーラー)(徹甲弾)
    射出式態勢制御用ワイヤー
 能力:物攻+、防技+、機動+、雪上高速移動可

【4】軍用自律機動装甲『グレンツェル』
 使用者に付いてきて守ってくれる、大砲を備えた壁のような盾です。
 装備:四十四口径百二十ミリ滑腔砲
 能力:物攻++、HP++、防技++、HP鎧(中)

【5】バイオ兵器『フリッケライ』
 クロム・スタークスが開発した四天王模造兵器。
 一定のタフネスと物神両面の攻撃能力を持ちます。
 スキル:物至単の剣撃、神超範の攻撃魔術

【6】ゴーレム兵器『AKSアームズ』
 アーカーシュに多数存在するゴーレム兵です。
 一定のタフネスと物神両面の攻撃能力を持ちます。
 スキル:物至範のなぎ払い、神中扇のビーム

【7】ハイペリオンの加護
 神鳥ハイペリオンの加護により『再生』(中)を得る。

【8】アイル=リーシュの加護
 大精霊アイル=リーシュの加護により『充填』(中)を得る。

【9】カルマートの加護
 長老の木カルマートの加護により『再生』(弱)『充填』(弱)を得る。

  • <鉄と血と>おしまいの日、はじまりの歌Lv:30以上完了
  • GM名pipi
  • 種別決戦
  • 難易度VERYHARD
  • 冒険終了日時2023年03月22日 22時35分
  • 参加人数34/34人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 34 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(34人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
すずな(p3p005307)
信ず刄
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
キャナル・リルガール(p3p008601)
EAMD職員
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ライ・ガネット(p3p008854)
カーバンクル(元人間)
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)
ゴーレムの母
ノア=サス=ネクリム(p3p009625)
春色の砲撃
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)
焔王祈
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
たったひとつの純愛
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女
フロラ・イーリス・ハスクヴァーナ(p3p010730)
お嬢様(鉄帝)
島風型駆逐艦 一番艦 島風(p3p010746)
島風の伝令

サポートNPC一覧(2人)

リーヌシュカ(p3n000124)
セイバーマギエル
普久原・ほむら(p3n000159)

リプレイ

●6th Wave
 遙か古代。アーカーシュ文明における空飛ぶ精霊都市レビカナン。
 かつて、そこは無敵の要塞だったという。
 竜さえ迷い、魔王さえ欲し、帝国の夢だった島だ。
 歯車卿が脆弱な農業インフラ改善の希望を見いだし、イレギュラーズが踏破した。
 そんな夢の島が、ついに終わりの日を迎えようとしている。
 この国そのもの諸共に――

「……来やがったな」
 轟く雷鳴は、この島が誇る無敗の盾である。
 だがその神話は二度だけ破られていた。
 一度目は、第一次探索隊が無数の犠牲と引き換えに。
 二度目は、今この時だ。
 幾重にも重なる弾丸が織りなす火箭をもくぐり抜け、天衝種(アンチ・ヘイヴン)なる憤怒の化生がやってきた。目の前だけでも数は二十七。戦場全域ともなれば計り知れない。
 百や二百は下るまいし、何よりどんどん『増えていく』。
 キドー達ルンペルシュティルツの一同はこれまで弾丸などを最前線へ送り届け続けていたが、いよいよそれだけでは済まなくなったということだ。キドーは盟約を結ぶ邪妖精フーアを解き放つ。
「おいマーコール、分かってんだろうな。弊社の名を上げるチャンスだぜ」
 それから自身が率いるスタッフへ怒鳴り声をあげた。
「当然、オーダーは『死ぬ気で働いて死ぬな!』だ。撃てえぇぇぇ!」
 小銃が一斉に火を吹き、ライフル弾が怪物の翼を、首を、胸をへし折り、ねじ切り、穿ち貫く。
「早速、抜かれているわけね。この子は私の大事な友達なの。守ってね、アニマート」
 モノアイを明滅させたアニマートが、仔狼を背に守るように立ちはだかる。
 そしてオデットは長老の木カルマートへ願う。
「お願い、カルマート」
(……頑張るから見守ってて)
 淡く温かな光に包まれたまま、オデットは怪物共へ熱砂の嵐を叩き付けた。
 アニマートは突進する怪物を腕でなぎ払い、仔狼が顕現させた氷の刃が倒れた怪物の首を切り落とす。

 ここは戦場後方である。
 至難とされるこの戦域で、イレギュラーズは既に十二分を尽くしていた。
 前線では歩兵や騎兵――アーカーシュが誇る独立混成連隊ルーチェ・スピカと共に、イレギュラーズが死闘を繰り広げているはずだ。だからここに魔物が現われたということは、その戦線が一部なりとも突破されているということに他ならない。
 敵戦力は明らかに過剰だった。幾度かは撃退に成功している。しかしこの島が受けているのは完全な飽和攻撃であり、討てども討てども怪物達の数は増える一方だ。
「俺は、存在意義を果たす……」
 オデット達を前に、サイズは大盾のように屹立する軍用自律装甲を展開する。
 四十四口径百二十ミリ滑腔砲が火を吹いた。
 続けざまにサイズは自分自身と言える大鎌を振るい抜く。直死の一撃が怪物の一体を両断した。
「戦況は常に変わるもの。急ぎましょう、ほむらさん、美咲さん、ジオルドさん」
 ココロが浮遊バイクを横につけ、提案する。
「そうだな。これよりルーチェ・スピカを援護する、最前線だ!」
「楽しそうっスね、ジオルド氏。あ、ほむら氏は二ケツで」
「あ、えとはい」
 三台の軍用浮遊式蒸気バイク『ラウフェンブリッツ』を駆り、戦線を押し上げねばなるまい。
「ジオルド氏、誰とは言いませんが……本国にかけあった人がいるなら礼言っといてください」
 機関はアーカーシュの死守を命じている。願ってもいない。
「構わんが」
「それより前に出てあてはあるんスか?」
「マキナの陣があるはずだ、そこを拠点に迎撃態勢をとる」
「了解っスよ!」

 ――最前線。
「……仕方ない、手伝ったげるわ」
 ゆっくりと首を横に振ったジュリエットが呟いた。
 本来ならば遺跡や遺物の研究だけを続けていたかったのだから、他は些末に過ぎない。
 だがこの騒動が収まらない限り、叶いそうにないと思えたからだ。
 それに――ジュリエットが術式を紡ぎ、雷撃が怪物を次々と穿つ――面倒は嫌いだが、自身が関わった案件を滅茶苦茶にされるのはもっと気にくわないというだけのこと。
 島は自慢の古代兵器『イルドゼギア・エアフォース』を全力で展開していた。
 ジュリエットはゴーレム達と共に迫り来る多量の怪物を迎撃している。
「――君は?」
「……『ヴァンデラー』。私の事はこの名で呼ぶと良い。加勢する」
「……ありがとう、全力で戦うよ!」
「愚者共を斬り捨てる」
 司令部に情報を伝達し、前線に戻ってきたヨゾラもまた術式を展開した。
「アーカーシュの敵を全部……飲み込め、泥よ!」
 煌めく夜空の願望器に続き、混沌の波動が敵陣を一気に飲み込む。
「ここが正念場だ! 数だけの奴等にアーカーシュの意地を見せるよ!」
 思えばこの島でもいろいろなことがあった。
 はじまりは冒険だったとライは思う。
 それがまさか、こんな大事に巻き込まれるとは。
「怪我人はどこだ?」
 前線の癒やし手は、とにかく忙しい。

「ルーチェ・スピカねぇ。もっとこう、ねこねこおちび隊とか相応の名前にしなよ」
「却ーっ下!」
 ヨハンの癒やしを受けたリーヌシュカがいーっと歯を見せ、前線へと斬り込んだ。
「だったらそれこそ、『光の部隊』に相応しい活躍を見せてみな!
 エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ!」
「言われなくったって!」
 しかしヨハンは、天義に海洋にと続き、この鉄帝国の戦いでは冠位憤怒をしばき倒すことが自身の役目だと思っていた。それこそがイレギュラーズに選ばれた理由とすら。だが――
(……まぁ、ここが僕の戦場だな)
 この国を守りたいという気持ちに変わりはない。
 変わらないが、何よりも絶対に守り抜くべき『チビ』がここに居る。
「へっ、振り回されるのは嫌いじゃあないぜ? いくぜ熾天宝冠!」
 もう何度も一緒に死線をくぐり抜けているのだ。
 だから必要なときに必要なものを与えてやる。
 あのおてんば姫サマの欲しいものなんて、今や手に取るように分かるのだから。
「ヨハン、足を換装に行く。戻るまで持ちこたえさせろ」
「そろそろそのピーキーな義足どうにかしろ!!」
 父というものも、存外に世話が焼けるものだ。

 六波が収まり、掃討作戦が開始された。
 その間にもライは駆け、ルーチェ・スピカやイレギュラーズの面々を癒やし続けている。
 無論、錬やマキナ達も同様。即席の工場で破損したゴーレムや兵器の修復を続けていた。
 この迎撃を継続させ続けるために。

 そんなアーカーシュの遺跡部。
 グリーフは砲身ラン・カドゥールに群がる魔物をラトラナジュと共に迎撃していた。
「貴女の強力に感謝します」
「……ん」
 グリーフが敵をひきつけ、ラトラナジュが灼き払う。
 連携は功を奏し、ここを守りきる事に成功している。
 砲身には技術部による改造があり、まだ完了していない。
 砲身の破壊は出来ないだろうが、この改造部分を壊されては肝心な時、バルナバスに矢を放つことが出来なくなってしまう。それにグリーフはラトラナジュを守るために、全てを賭しても良いと考えていた。

 ――貴女の力は、あの怒りの色を湛えた太陽を、あるいはそれを食べた氷の狼を。
   そして、バルナバスを穿つのに、必要だから。
   なにより、貴女を守りたいから。
   この空で、自由な貴女でいてほしいから。

●7th Wave
 どうにか持ちこたえた第六波だが、再び敵の大軍が島へ迫っている。
 疲労が一行を徐々に蝕みつつあった。
 イレギュラーズこそ誰一人倒れていないが、兵にはもう戦えない者も居る。
 当然、戦力の摩耗を意味していた。その反面、敵は徐々に数を増しているのだから、たちが悪い。
 アーカーシュ――六天派閥随一の『火力』は、それだけ敵にとっての脅威という訳だ。
 全てイレギュラーズが積み重ね、培ったものである。
 だから奪わせる訳にはいかない。

「ムサシ・セルブライト……見参ッ!」
 流星のような襲撃が天衝種を穿ち、一気に燃え上がる。
「大丈夫、わたしとムエンもいるわ」
「ええ、誓って。絶対に守り抜きます」
 箒星に乗るセレナが掌上に幻月を顕現させる。狂気と終末が敵陣を襲い、霊鳥の加護――炎を纏うムエンの斬撃が天衝種を斬り裂いた。
「――ここを守ると決めたんです」
「――絶対に見誤りません」
 戦場を俯瞰するユーフォニーが立つのは、まさに最前線。敵陣を迎え撃つ槍の穂先だ。
 勇気と共に、万華鏡の煌めき――膨大な魔力嵐が殺到する怪物共をなぎ払う。
 仲間に守って貰うだけではない。自分らしいやりかたで、為すべきを為すために。
 それはマリエッタも同じだ。
 任されたのだから、必ず成し遂げる。
 この国、全ての人々の想いも、散っていった者達の願いも。
 その全てを守るために。
 刹那、戦場に広がる赤が槍のように大地から突き立ち、浮かび上がる。
 その全てが牙のように、怪物達の群れへと向き直った。
「串刺します」
 横殴りの雨の如く、無数に降り注ぐ血の矢が敵陣を襲う。
 それにしても、まさか四葉のふたひらがアーカーシュ防衛の要を担うことになるとは。
 セレナが決意を籠める。誰一人として死なせはしないと。
 誰かが泣いて迎える明日など、願い下げだ。
 ある者達は可能性の奇跡さえ願い、されど届かず。
 その想いはセレナにとって、眩しいほどに――
 それでも奇跡ならざる勝利をつかみ取るために戦い続けていた。
「焔王よ、今この時だけでも、加護を!」
 ムエンが燃えさかる剣で、敵陣を引き裂く。

 束の間の休息と、迫る第八の波。
 一行の元に現われたのは、天衝種を連れたアラクランの小隊だった。
「……ッ!」
 いずれも目を血走らせており、話も通じそうにない形相をしている。
 原罪の呼び声の影響下にあるのだろう。
「まだまだ……ッ! 自分は、焔心全開で戦えるでありますともッ!」
 ムサシの声は自身の疲労を吹き飛ばすかのように響き渡った。
 その勇気に、ルーチェ・スピカの面々もまた瞳に決意をこめる。
「さあ、来い! ブライト・エグゼクション――解禁!」
 迫るアラクランの精鋭に、ムサシは肉薄。警棒に光が励起する。
「――レーザー・ブレードッ!」
 光が駆け抜け、アラクランの大尉を打ち倒し――
「膝はつかない、退く気もない――っ」
 降伏を告げるアラクランの部隊に、ムエンは一歩も退かず。
「――ッ!」
 続く銃撃を前に、セレナは即座に祈願結界を展開した。
 衝撃と痛みが身を劈き――それでも唇を引き結んだセレナは前を向く。
 結界――この守る力こそ自身の象徴であると誇るように。
「ありふれた日常も奇跡の連続、なんでしょ?」
 だから『おしまいの日』なんて、来させない。
 笑顔の明日を祈り願う限り。

 ――わたしも、みんなも、誰一人として死なせないわ!

 イレギュラーズは健闘を続けている。
 誰にも責などありはしない。
 可能性を焼きながら何度でも立ち上がる。
 しかし絶望的な戦況は、徐々に悪化の一途を辿っていた。
「今日こそが、運命の日になる」
「ええ、私達は守り抜かねばならない」
 そう呟いたマルクは、歯車卿と頷き合う。
 ここ司令部は前線を信じる仲間に託し、戦場全体の情報収集と指揮統括に専念する立場にあった。
 島内にあふれかえりつつある怪物共を掃討し、地上へ部隊を送り届けなければならない。
 切り札となるのは、ユーフォニーとマリエッタが持つセレンディの盾と、古代ゴーレムの大部隊イルドゼギア・エアフォース、それから――
「――北の様子はどうなっているかな?」
『残念、まだ見えないみたいだよ』
 通信相手はジェックだ。
 彼女はルル家と共に敵を迎撃しながら、戦場全域の情報をコントロールしていた。
 浮遊式蒸気バイクに可能な限りの無理をさせ、タンデムしながら戦場のやや後方から俯瞰する。
 さらにはセレンディを地上北部に偵察させ、援軍の様子をうかがっていた。
 司令官がマルクなら、司令塔はジェックという訳だ。
「楽な仕事かと思ってたのですが意外や意外! 千客万来ですね!」
 蒸気バイクが唸りを上げ、ルル家は迫り来る天衝種をすれ違い様に斬り捨てた。
「やはり狙っていますね」
「そうみたい」
 ともかく、空に居る二人は良く狙われる。
 少々骨だが、ルル家は遮那の元へ帰らねばならない。
「では頼りにしてますよお師匠様!」
 とはいえそろそろ一旦補給が必要な頃合いだろう。
「ちょっと厳しくなってきたね」
 ジェックが言う。
 敵の数が多すぎる。
 ならばとルル家。これでも不肖、弟子を名乗る身だ。
「一時避難して態勢を立て直しましょう。拙者が殿を務めます。
 お代は……そうですね。無事戻ったらジェックちゃんって呼んでも良いですか?」
 なぜ素直に「友達になってくれ」と言えないのか、自身の臆病が嫌になる。
「それでは宇宙警察忍者、夢見ルル家がお相手しますよ!」

 天も地も敵だらけ。
 そしてここを退けば、そしてあの黒い太陽が降ってくれば、何もかも終わりだ。
「陥落したら、すべてが台無しになってしまいます」
 妙見子がノアと島風へ振り返る。
「そんなことは、させない」
 ノアは『正義の怒りをぶつけろ』とまでは言えないと思う。
 けれど自身の叫びは、至極当然の本能ではないか。
「正念場、乗り切って生きるわよ!! 皆で生きて未来を掴み取る!」
「ええ、皆さん、やりますよ!」
「当方名称 島風。故── 『疾きこと、島風の如し』」
 蒸気バイクに妙見子を乗せ、島風はアクセルをフルスロットルに捻る。
「……ってスピード出し過ぎ……!」
「義母 捕まってて」
 とにかく、まとめて始末せねばなるまい。
 加速する視界に点在する怪物共が、挑発するように駆け抜けるバイクを追い始める。
(……ひええ)
 とにかく、自身と島風、それからフロラやノアを支援せねばならないが――
「義母 前方 敵」
 支援を追えた直後だ。
「やりますよ!」
 後方に制圧魚雷を放った島風には、迫る敵も追う敵も、その全てが把握出来ている。
 妙見子は胸の奥を打ち付ける鼓動をなだめるように大きく息を吐き出し、引き金を絞る。
 衝撃と共に、大口径のライフル弾が怪物を引き裂いた。
 瞬間、バイクを追う天衝種の群れが直線に並んだ。
「敵勢力 誘導完了 ノア姉 射撃許可」
 島風はバイクを倒し宙をドリフト。
 ノアはビームバズーカの照準をバイザーへ写し――
「――オッケー島風ちゃん! その位置なら安心して狙い撃てます!」
 不敵な笑みと共に、放たれた光線が怪物を一気に飲み込んだ。
「さよなら、怒れる悪逆の徒の皆さん」
「十二時方向 距離 射線 共良好」
 こうしてイレギュラーズは奮戦を続け――

●10th Wave
「イルドゼギア・エアフォース、ルーチェ・スピカの左翼に展開!」
 まだだ、まだやれる。マルクは唇を噛んだ。
 瓦解する前にゴーレム兵団と交代させる。兵士に僅かでも補給と休息を与えるためだ。
「イレギュラーズが手薄な右翼側は間に合いそうにないです」
 リュドミーラ達参謀班が作戦の状況を伝えてくる。
 いずれにせよ明らかに押されているようだ。さすがは飽和攻撃だ。
 そのうえ更に敵は徐々に物量を増している。
『ごめんなさい、やっぱり保ちそうにないわ』
「分かった、いったん退いて欲しい」
 オデットからの通信だ。やはり予想通り、右翼方面へ敵の浸透が著しい。
 参謀班の計算では、イレギュラーズが九名倒れれば作戦は瓦解するとされている。
 オデットは死力を尽くしている。単に敵の数が、異常なだけだ。
 フローズヴィトニルの欠片を、何よりもオデット自身を失う訳にはいかない。
 むしろ彼女の冷静な判断が、今は助かる。
『ルーチェ・スピカ。現時点の損耗率は三パーセントね、良好だわ』
 スクリーンにリーヌシュカが現われる。
「持ちこたえてほしい」
 苦虫をかみつぶす表情でマルクは答えた。
 三パーセントとは怪我人だけでなく戦死者も含まれているのだから。
 けれど少女の返答は、勝ち気な笑顔に彩られている。
『当たり前じゃない! 背中は預けたわ、マルク!』

 ――ちょうど、そんな時だった。
「見つけたぜえ、大使だから大将だか知らねえが、偉そうしやがってよお!」
 アラクランの将校マトヴェイだ。
 ヴォロニグダ遺跡を入手した際に、立ちはだかってきた男である。
 数名の部隊員と、天衝種を率いていた。
 少数精鋭による首脳部の斬首作戦。イレギュラーズも企図することを、当然敵も考える。
 スクリーンへ指示を飛ばしていたマルクが振り返り、構えようとした瞬間――
 銃撃が早かった。
 駆け抜ける弾丸がマルクへ迫り、だがそれをはじき返したのは正純の防衛ユニットだ。
「すぐに応戦します、マルクさんは指揮を続けて下さい。ボクとてこの程度の火の粉は振り払う!」
 立ったまま杖で軍人を強かに打ち付けた歯車卿だが、彼へ向けて数体の魔物が牙を剥く。
「――歯車卿!」
「閣下はお下がり下さい。ここは私が」
 静かに控えていた侍女のエヴァが、怪物達を次々と蹴りつけ短剣で心臓を突き刺す。
「ありがとう」
「ほら、貴方も働きなさいクロム・スタークス」
 天衝種をボウガンの一射で屠った正純が非難の声をあげた。
「ただでさえ防衛の手は足りないのですから、貴方が作り上げた防衛力に頼らざる負えないのです」
「そうは言うが、貴重な試験体を無為に失いたくはないのだがね」
「ガタガタ言うとこの戦いが終わったあと貴方の発明品壊して回りますよ。……まったく」
「まて、まて」
「貴方にとっても好きな研究を好きにできるこの場所が亡くなると困るでしょうに」
「仕方が無いな」
「さあ、分かったら最低限でいいのでフォローをお願いします」
 クロムの試験体が怪物をなぎ払う。
 正純が捕縛したマトヴェイは小物だが、こんなことが立て続けに起こるのだろう。
 島内は敵があふれかえっている。

 とにかく、この司令部を落とす訳にはいかない。
 そして作戦に変更もない。
 今は粘れるだけ粘るのだ。
 被害の程度はどうか。
 司令部自体は無事だ。戦線も維持出来ている。通信も全て生きている。
 セレンディの盾を展開するまでに、あと少しだけ持たせたい。
 その隙に島内を掃討そ、そして部隊を地上に投下する。
 しかし果たして出来るのか。
 やるとすればいつだ。
 波の合間であれば、多少の援護があれば投下出来るだろう。
 だがベストなのは――

 前線の士気――ルーチェ・スピカの戦意は目に見えて低下してきていると感じる。
 恐れ知らずの軽騎兵隊はともかく、アルマスクとノイスハウゼンの兵は疲労の色が濃い。
 直接肩を並べて戦っているイレギュラーズの戦意は高いが、それでもひしひしと肌に受けている。
 ――ならば。
「よし、この後一番カッコ良かった奴、後で私を好きにしていいっスよー」
 美咲のとんでもねえ発言に、ルーチェ・スピカの歩兵隊がどよめく。
「……誰だいらねーって言ったの!?」
「な、なに言い出すかと思えば、マジですか?」
「本気かって? 気になるならほむら氏が私を好きにすれば無問題スよ」
「ちょ、ちょっ、同人じゃないんだから! あーもう同人でもなんでも描けばいいんです!」
 まあ、美咲自身を越える必要があるのだから、賭けにすらなるものか。
「大丈夫、有利にやれてますよ!」
 ココロがラウフェンブリッツの三十七ミリライフル砲を放つ。
 小型天衝種に対するその過剰火力は、けれど甘い狙いでも十分な威力が保証されている。
 撃ちもらしにも固執しない。
「ほむらさん、お願い!」
「はい!」
 イレギュラーズ個々人の活躍は戦場で際立っている。
 しかし戦況全体で見るならば押されに押されていた。
 どこで『春雷』のカードを切るか、それが最大の課題だ。

●Boreas Fleet
 ――突如、司令室へ通信が届く。
『着たよ、連合艦隊!』
 ジェックの声だ。
「……よし!」
 遠雷のような咆哮が響き、艦砲の斉射が地上から舞い上がり続ける第十波の尾部を引き裂いた。
「連合艦隊により、敵第十波後方に打撃。敵第十波部隊二十七パーセント程度の喪失を確認」
 参謀達の計算結果をリュドミーラが告げる。
 たかが二十七パーセント、されど二十七パーセントだ。
 軍事上この規模ならば、そして第十波部隊に限れば、戦力が半減したに近しい。
『十の盾を十一で通り抜けるなら、九に減らせば良い。そうでしょう?』
 ジェックの声に、司令部は喝采に包まれた。
『それから連合艦隊地上軍とルーチェ・スピカが合流出来るように手配中だよ』
『手配中……です。ぶい』
 セレンディの抑揚の薄い声も聞こえてくる。ジェック達は万事うまくやってくれているらしい。
 ジェックはそのまま情報伝達を続けながら、セレンディの分身に願って部隊の降下地点を割り出すために敵の出所を調査する予定だと伝えた。
 連合艦隊は地上軍を保有しており、ルーチェ・スピカとイレギュラーズの降下部隊と連携出来れば大きな戦力となる。しかしうまく連携出来なければ各個撃破の的だとも言える訳で。
「すぐに作戦立案させるよ」
『お願い!』
 ジェックの言葉に、マルクとリュドミーラが視線を合わせる。
 忙しくなるなんてどころの話ではない。
 祭りか、いや戦争だった。

 第十波を制し、ついに第十一波がやってきた。
 いよいよ敵も死力を尽くし始める頃合いだ。
「安心しやがれ、兄弟! イレギュラーズはここにいる!」
 戦場にヤツェクの檄が響き渡った。
 奏でるのは鉄帝の響き。心躍る勇壮なメロディーに乗せ、祈りと祭り、余を寿ぐ歌を。
 憤怒も憎悪も、歌一つでひっくり返す様を見せてやる。
 この歳になっても、あえて青臭いことをのたまうならば――詩人とは理想を現実へ広げる者なのだと。
「さあ、英雄喜劇の始まりだ!」
 くさい話ではあろうが、人の希望があればあの黒い太陽とて弱まるかもしれない。
 そしてヤツェクは、情感たっぷりの『クサメロ』も嫌いではないのだ。
『今の季節なら『春雷』っていうのかな』
「ああ、そろそろ『春雷』の季節だな」
 マルクから通信を受けたヤツェクが島内に伝えた。
 春雷、その意味は――

「さて大一番だ。俺達の技術力、とくと味わえ!」
 キャナルと共にイルドゼギア・エアフォース後方で支えていた錬が不敵に微笑む。
「アーカーシュ独立島の技術力は鉄帝一ィ!」
 残存――というにはあまりに多い敵へ、ありったけの砲撃を叩き付けながら――
「分かりました。行きましょう」
 マリエッタの言葉に、ユーフォニーが頷いた。
 セレナとムエン――四葉の二人とムサシ、仲間達に背を預け、二人は歩き出す。
 そしてアーカーシュポータルの先端へ立った。
(まだこれ、持っていてくれるのでしょうか)
 ユーフォニーは小さな小瓶を仕舞い込み、宝珠へ手を添える。
 第十一の波が届くまで、あと二分。
 そのときユーフォニーが思ったのは、眼下の帝都に居るであろう魔種ターリャのことだった。
(だとしたら、お揃いですね)
 そこには行けない。ここを守るために。
 けれど想いは馳せ、届けと願う。

「長き冬を終わらせ、新たな春を始めましょう」

 ――轟け、春雷!

 マリエッタの宣言に続き、ユーフォニーと共に唱和する。
 重ねた手のひらの中でセレンディの宝珠が輝きを帯び、峻烈な光が放射状に島全域へと一気に広がった。

●Dragon's nest
 雷雲が放つ雷撃が、第十一波をずたずたに引き裂いている。
 迫る天衝種やアラクランの兵達を光が貫き、黒い雪のようにはらはらと舞い落ちる。
 展開されたセレンディの盾、その全力。辺りの光景はまさに壮絶の一言だった。
「盾が保つのは、あとどのぐらい?」
「だいたい三十分ってところかな。それから降下には十分を要する」
 スクリーンの中にいるリーヌシュカにマルクが答えた。
「ルーチェ・スピカ総員に告ぐ! 四十秒の休憩を許すわ。チョコレートふたかけと、百ミリリットルの水分補給。あとは、したければ喫煙でもしなさい! すぐに集合!」
「口移しでいいぜ、お姫サマ」
「言ってなさい。いい? 急ぐわ!」
 ヨハンの口に紙が巻き付いたままのチョコレートをつっこんだリーヌシュカが駆けだした。
「ま、地獄の底までお付き合いしますよ」
 紙をむき改めて口に放り込んだヨハンもまた走り出す。
 降下部隊は直ちにアーカーシュポータルへ集結せねばならない。
「野郎共! 準備は抜かりねえよな!」
「あいよー!」
 キドーの怒声に、マッコール達一同が返事を返す。
 パラシュートと、降下直前の援護射撃、それから各種兵装等の備品。
 イレギュラーズにはワイヴァーン。いずれの準備も万端だ。
 一方で連合艦隊地上部隊には、ルンペルシュティルツのスタッフも搭乗しているという情報がある。
 地上の補給部隊として立ち回ってもらうつもりだ。
「死ぬんじゃねえぞ、死体の始末にも金がかかるんだ」
「アーカーシュが落ちりゃ必要もねえだろうよ」
「ガハハハ! ぶっ殺すぞ!」
「野郎共、口動かしてねえで手動かしやがれ!」
「アイアイサー!」

 飛竜に跨がったバクルドが地上を睨む。
(波状的防衛戦、どれだけ敵が来るかは知らんがいつまでも耐え続けられるわけねえ)
 マリエッタ達が持ちこたえてるなら、次は自身が答える番だ。
 宝珠の展開中、セレンディの盾は『目標を明示的に敵だけと定めることが出来る』。
 つまり今この瞬間であれば、『雷撃の保護を受けた状態』で地上へ降下出来るのだ。
 雷雲の中へ飛び込むのはぞっとしないが、安全が保証されている以上やるほかにない。
 敵将ターリャの斬首作戦を行うイレギュラーズは僅か十余名。
 それを支えるのはルーチェ・スピカとイルドゼギア・エアフォース。それから連合艦隊の地上軍だ。
 依然として数倍の敵と交戦している間に、イレギュラーズは敵首脳部へ肉薄せねばならない。

「ベストなタイミングだと思う。それじゃあ頼んだよ、降下作戦――開始!」
 まずはゴーレムの兵団を送り込み敵陣の攪乱を開始。その一分後にルーチェ・スピカと敵将斬首部隊が、特殊兵装や弾薬などと共に降下する事になる。
「ゴーレム軍のA地点降下確認。アーカーシュB地点への移動開始を確認」
 どちらの位置も、ジェックからの情報を元に割り出したものだ。
「カウントします、五十六、五十五――」
 ゴーレム部隊の降下と共に、懐中時計を睨む正純が長い六十秒を数え始めた。
「ルーチェ・スピカ、全軍再出撃。落ちましょう。私達の故郷、あの地獄へ――!」
 マルクの号令と共に、リーヌシュカが両手を広げ仰向けに倒れる。
 小さな少女が青空の中を真っ逆さまに落ちていく。
 続いて大部隊が一斉に、アーカーシュポータルから雷雲へ向けて飛び降りた。
 それを引き裂かんとする怪物を、セレンディの雷撃が次々に撃ち落としていく。
 島内の戦いも終わっていない。手を携え集中するユーフォニーとマリエッタを取り囲まんとする怪物を、ムエン、セレナ、ムサシが次々に撃ち落とす。
 程なくして帝都上空に幾つものパラシュートが、ポップコーンのように開いた。

●Chill out
 ――眼下に広がるのは広大な街、帝都スチールグラード。
 ワイバーンから街中の雪上へ降り立ったルカは仲間達へ目配せし、素早く状況を伺う。
 浮遊バイクやスノーモービルなどをくくりつけた気球が続々と到着を始めた。
 辺りには翼状の装置を展開しながら、滑空する無数のゴーレム達が見える。
 アーカーシュが誇るイルドゼギア・エアフォースだ。近くで砲撃の音が聞こえている。
 建物などに乗ったゴーレムは、早速敵兵との交戦を開始しているらしい。
 しかし何より――

(……憂鬱って気持ちをこんなに味わうのは生まれて始めてだ)
 分かってはいる。
 最後には決着を付けると約束したのだから。
 それに相手はは今のルカ自身より何十倍も浮かない気持ちをずっと抱えてきたのだろう。
(俺が弱音なんて吐いてられねえよな、ターリャ)
「厄介だな、さすがに近付いてきているか」
 軍用装甲蒸気スノーモービルを駆るミーナの言葉通り、周囲には包囲網が形成されつつある。
「それじゃあリーヌシュカちゃん、そっちはお願いね」
「任せなさい、アーリア! ルーチェ・スピカ、これより戦闘態勢に入るわ!」
 軽迫撃砲の弾込めは、刀の鯉口を切るような音がした。
 三十七ミリの砲弾が放物線を描き、敵軍拠点方面から爆風が吹き上がる。
 土煙を開戦の狼煙とするように、すぐさま交戦が始まった。

「雑多な敵に現抜かす暇なんかありゃしねえ、突っ切るぞ!」
 浮遊式蒸気バイクを駆るバクルドが、敵陣へ果敢に突進する。
 二十一口径三十七ミリライフル砲ファルケンネイグルの引き金を引く。射線上の敵を蹴散らしながら、一行は敵陣を縫うように――否、布を裁ち切るように裂いていった。
 アラクランの兵達が追いつけぬ一行を無数の天衝種が追う。
「こいつでどうだ」
 追いすがる天衝種へ、バクルドは磁性鋼鉄球をばらまいてやる。そして一気に加速した。
「へっ、ざまあねえ!」
 これで怪物共は最早、一行を捕まえることなど出来はしない。
「いずれにせよ、レリッカ村の者達には世話になっとるんでな!」
 ニャンタルは必ず守り抜くと誓い――
「今が好機! 突破します……!」
 すずなのスノーモービルが加速し、さながら軽騎兵のように天衝種をすれ違い様に斬り払う。

 一行は戦場を突破し、敵中枢の前線基地へ突入した。
 幸いルーチェ・スピカの陽動が効き、基地内は手薄だ。
 一行は二手に分かれ、一方は乗り物を降りて基地内へ、一方は騎乗のまま外から敵中枢を目指す。
(来てくれてるんだ)
 乗り物を降りたソアは連合艦隊に居るはずの妹が、近付いてきているのを感じていた。
 ルーチェ・スピカと無事に合流出来れば良いが。

 敵将の魔種は――
(あの子に汚れた呼び声を浴びせたことは許せない)
 ――考えるととても胸が悪かった。今日こそあの魔種、ターリャを仕留めるのだ。

 ターリャは強い。恐ろしい。
 けれどそれ以上に脳髄を灼く想いがソアを前へ前へと進める。
「――ッ!」
 アラクランの警備兵をなぎ払い、駆け、曲がり角で急停止した時。
 不意に視界が塞がれた。
「これで頭も冷やしてね」
 ひやりとした手で後ろから目隠し、それからそっと手を離して背中からぎゅっと抱きしめた。
「びっくりした」
 けれど即座に分かった。それは妹のウルだった。
 そうでなければ背後に立った時点で爪の一撃を受けている。
「うん、来たよ。一緒に戦おう。あと、さっきみたいな気配させてたらダメなんだから」
 彼女は怒りんぼなソアが心配だったのだ。
 もしも逆の立場なら、港での再開の前に反転していたかもしれないとすら思う。
(怒られそうだから言わないけど)
「私たちは爪と牙を持って生れた」
「うん」
「でもそれを獲物に向ける時に、怒り狂ったりなんてしないよね」
「……」
「虎の狩りはもっと静かで冷たいと私は思うから」
「……ありがとう、そうだね」
 昔から喧嘩はソアが、狩りはウルが勝っていたっけ。
「そうそう、連合軍地上部隊は無事、ルーチェ・スピカと合流したよ」
 何よりの朗報だ。

 一方で外から回り込んだミーナやバクルド達がひときわ強い魔種の気配を察知した。
「よし、準備はいいな。行くぞ」
 一通りの装備を確認したバクルドが振り返る。
「五分できめて、五分でずらかる。やれるな?」

 二十二口径砲――二発の黒槍が司令部のレンガ壁を射抜き、そのままターリャの腹部を貫通した。
 レンガの壁が崩壊し、指揮デスクに座るターリャと視線が合う。
 貫かれたというのに、ターリャには傷一つない。そのように見え、肝が冷える。
 だがそれはダメージを負わないということではない事はすぐに分かった。
 ターリャは僅かによろめき、机から飛び降り二振りの巨大な魔剣を顕現させる。
 高度な再生能力とも思われたそれは、実のところまったくそうではなかった。
 傷のない身体、それは彼女が反転した際の望みだった。
 傷だらけだった少女は、もう二度と傷つかない『ように見える』。
 そんな『見かけ倒しの無敵』を、憤怒という滅びの悪魔が叶えたのだろう。
 だがそれはともかく、ターリャの能力が過去最大まで上昇しているのは事実だ。
「悪いな、あんたの顔見知りじゃなく。どこにでもいるくたびれた死神が相手でよ」
 黒槍を放ったニャンタルとミーナと共に、広間へ乗り込んだ一行は飛び降りた乗り物を慣性のまま敵陣のアラクラン部隊へ放ると、即座に得物を抜き放つ。
 ほぼ同時に、ソア達も広場へ飛び込んできた。
「――さあ、お待たせしました」
 すずなが正眼に構える。
「これで何度目になりますか――名残惜しいですが、此度で最後です」
「久しぶりね、ターリャちゃん」
 そう述べたアーリアの表情は浮かない。
 年頃の少女の成長が目を見張るというのは、近頃痛感したばかりである。
 けれどこちらのケースは全く以て喜べたものではない。
 そこには異様な瘴気が渦巻いていた。
 滅びのアークの濃密な気配だ。

「やっと来てくれたんだね、待ちくたびれたなー」
 天衝種達を指揮していたであろう力が、ターリャの元へ一気に収束した。
 彼女はいつも通りの――いや、いつも以上に空虚な笑みを浮かべている。
「なんでか分からないけど、身体がちゃんと動かないんだ」
 そう言ってターリャは宙空から剣を引き抜く。
「戦いたくなんてないのに、心が痛くて。もう『斬ること』しか出来ないみたい」
「苦しそうだね、望み通りに終わらせてあげる」
 ソアが身構え、跳ねる――
「本当? 嬉しいなー」
 爪と剣の衝突に火花が散る。
 それは実のところ、心からの言葉と心境だった。
 微かに和らいだ少女の視線に、ルカは胸を痛めずに居られない。
「俺たちは此処で終わるわけにゃいかねえんだ、だからお前さんを終わらせに来たぜ」
「それって、ちょっとうらやましいな、おじさん」
 嘯くバクルドにターリャは答える。
「……死にたいんですわね。どうしようもなく」
「なのに死ねないんだ。だから助けてよ、おねーさん」
 リドニアには彼女の希死念慮を止める義理などありはしない。
 勝手に死ぬなら構わないが――救いを求めたか。

 ――第八百二十一式拘束術式、解除。
   干渉虚数解方陣、展開。蒼熾の魔導書、起動――!

 荒れ狂う炎雷がターリャの小さな身体を飲み込んだ。
 アラクランの精鋭が銃剣付きのカービンを手に、突進してくる。
 バクルドが即座にモルタル壁へ隠れると、鉛の嵐が火花と共に壁を掘削した。
 嵐が一瞬だけ静まった時、バクルドが磁性鉄球を敵陣へ放る。
「幾度来ようが、その度に潰してやる。何度だってな」
 にわかに態勢を崩した敵陣に、イレギュラーズが飛び込んだ。
「よぉ、会いに来たぜターリャ。しばらく会わねえうちに随分強くなったみてえじゃねえか」
「会えて嬉しいな、ルカおにーさん」
 ルカとターリャ。巨大な剣と剣で三合打ち合う。
「全部出してこいターリャ! お前の苦しみも怒りも、全部ぶち砕いてやる!」
 僅かに姿勢を崩したターリャを、すずなが即座に斬り上げる。
 ただ、ひたすらに親愛という名の殺意を込めて。
「貴女の部下、マドカさんともお話しましたが」
「ふうん、マドカ。変なお姉さんだったなー」
「……私、貴女の事は嫌いじゃなかったですよ」
「ふうん、奇遇だね。実はわたしも。すずなおねーさん」
 魔種でさえなければ――ターリャの剣を刀で滑らせ思う。
 ターリャと自身は競い合える好敵手となれたかもしれない。
 そう思ってしまうほど、好感を覚えてしまっていた。
 けれど魔種だから――ここで斬らねばならない。
 ミーナの剣とターリャの剣が打ち合う。
 晴れ渡る青空のように、雲一つないあの空のように――
 無垢の希望を宿す死神の刀身がターリャを縦横に刻みつける。
「ほれほれ! 手が止まっとるぞ!」
 続けざまにバクルドとニャンタルの連撃がターリャの背を襲う。

 交戦開始から一分ほどが経過した。
 ターリャは確かに強く、部下も精強だ。
 一行は早くも大きな傷を負っている。
 けれどこの強力無比な魔種に対するイレギュラーズの答えは手数だった。
(もっと疾く、もっと鋭く――)
 胸の鼓動が熱くなり、頭が真っ白になる。
「がおっ!」
 ソアの爪が鋭い軌跡を描き、ターリャを正に蹂躙(ズタズタに)する。
 これが『虎』の戦いだ。
 そして破壊術式、愛の術式――そして混沌の泥。
 アーリアの艶やかな唇から紡がれる呪言までつながれば完成だ。
 全てを『通した』以上、最早ターリャを含めた敵陣には為す術もない。
「終わりにしましょ、もう」
 だって『春が来る』のだから。
 何もかも溶かすのは灼熱の太陽でなく、あたたかい光であれと願うから。
「エスコートしますわ、さあ、華麗にフィナーレを彩ってくださいまし」
 真っ赤に燃えるリドニアの闘気が至近から炸裂し、ルカとすずな、ミーナが立て続けの連撃を重ねた。
 これで全ておしまいだ。

「なんだろう……これってそんなに……嫌じゃないかも」
「もういいの」
 崩れ落ちるターリャの手を取り、アーリアが抱きしめる。
「おね……さん…………?」
 少女は「へんなの」と、唇だけで続けた。
「もう怒らなくていいの」
 それはまるで、子供をあやす姉のように。

 ――ほんっと、私達ってばへんてこで馬鹿ばかりでしょ?
   怖いわよ、今もこうして無防備になっているのは。
   でも、私がこうしたいと思うからこうするの。

「なんか……眠いな……」
「そうよね」
 アーリアはターリャの身体を、座り込んだルカの膝へと横たえる。
 そして自身も座り、静かに子守歌を歌ってやった。
「この国は寒いからな。寝るならもっと温かい場所が良いよな」
 ルカがぽつりと零す。
「……」
「海洋はどうだ? それとも俺の故郷のラサにしとくか?」
「行ったこと、な、けど……が……いい、な…………」
 声は途切れ「砂漠が良いな」と、唇だけが伝える。
 望んだ場所に寝かせると誓った。
「……」
「…………」
「もう誰もお前を傷つけねえ。誰にも傷つけさせねえ。だからゆっくり眠れ」
 俯いたルカから一粒の水晶がこぼれ落ち、少女の頬を転げた。
「すぐにバルナバスの野郎を倒して戻ってくるからよ」
「――おやすみなさい、ターリャちゃん」
 アーリアがターリャの瞳を閉じさせる。
 消えゆく命は、ユーフォニーが纏うフレグランスと同じ香りがした。
 想いが届いていたことをユーフォニーが知るのは、半日ほど後のことなれど。

「それじゃあな。縁があったら来世でまた、語り合おうや」
 ミーナが踵を返し、すずなが祈る。
(許しは乞いません。先に行って待っていて下さい。
 いずれ、私が彼岸に参る、その日まで)

 ――御免。

成否

成功

MVP

ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者

状態異常

夢見 ルル家(p3p000016)[重傷]
夢見大名
ツリー・ロド(p3p000319)[重傷]
ロストプライド
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)[重傷]
終わらない途
アーリア・スピリッツ(p3p004400)[重傷]
キールで乾杯
天之空・ミーナ(p3p005003)[重傷]
貴女達の為に
すずな(p3p005307)[重傷]
信ず刄
ソア(p3p007025)[重傷]
愛しき雷陣
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)[重傷]
運命砕き
佐藤 美咲(p3p009818)[重傷]
無職
ムサシ・セルブライト(p3p010126)[重傷]
宇宙の保安官
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)[重傷]
ナチュラルボーン食いしん坊!
ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)[重傷]
焔王祈
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)[重傷]
たったひとつの純愛

あとがき

 RAIDお疲れ様でした。

 状況上どうしても被害は小さくはありませんが、見事な勝利だったかと思います。
 鉄帝国の決戦は、いよいよ最終局面へと突入するでしょう。

 アイアンドクトリンの結果、イルドゼギア・エアフォースの行使によって技術力を2000消費しました。

 MVPは高度な情報戦を制した方へ。

 続きはTOP等で展開予定です。

 それではまた皆さんとのご縁を願って、pipiでした。

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