PandoraPartyProject
朔日の果て
奇跡は命をもってして繋がれる。
常世穢国に完璧なる支配を築いていた偲雪の世界に――亀裂が走るのだ。
彼が願ったのは一つ。それは偲雪の自我の分離……
偲雪は古い時代の人間であり『遺骨』が本体の魔種だ。
幾度か神使などと会話を交わせていたのは、彼女の作りし幻影と言っていい――他者と意志を交わす交流の為の、だ。が、かの青年は其処に目を付けたのである。彼が求めたのは『偲雪の正気』。常世穢国の内に留まっている二人を救う為にも――刹那でも偲雪に干渉しうる道が欲しかった。
故に彼は、原罪の呼び声を聞いた時に逆干渉を試みた。
幻影を通じて、意思を交わすその一端を狂気から切り離したかったのだ。
彼女の言葉があれば救われる者がいると――信じて。
……結果として彼の行いは、彼の魂を焼く事になった。
しかし。
「星穹、殿」
彼の紡いだ成果が――ヴェルグリーズ(p3p008566)の腕の中に在る。
星穹(p3p008330)だ。偲雪の思想と共にあった彼女を取り戻す事に、成功した。
戦いの最中に行った『ある行い』が数多の熱を帯びたのか、今の彼女は眠りについているようだが……暫くすれば目を覚ます事だろう。さすれば黒影 鬼灯(p3p007949)やクロバ・フユツキ(p3p000145)も、どこか安堵の吐息を零すものであり。
「……やれやれ。随分と手間を掛けさせてくれたものだ」
「だがまだ終わりじゃないだろう。これはまだ取り戻したに過ぎない――」
されど。クロバが続けざまに視線を向けたのは、常世穢国の中枢だ。
――雰囲気が一変している。いや、元々魔種の支配していた地であるが故に、どこか妖しげな気配は常にしていた、のだが。それにしても今はもっと露骨に――剣呑としている。これは。
「プラックが、偲雪の正気と狂気を切り離さんとした結果――と言った所でしょう。
……正気とは彼女の慈愛の側面でもあります。それを切り離せば、後に残るは」
「他者を自らの能の内に取り込まんとする想いのみ、でしょうか」
黄泉津瑞神(p3n000198)と玄武(p3n000194)の言が紡がれた。
そう。一言でいうならば――常世穢国の暴走である。
偲雪は魔種だ。狂気に染まった存在……しかし他者が笑顔であってほしいという慈愛の精神が根底に根差していたが故か、その領域の拡大は緩やかであった。何を差し置いても強引に、とまで外に広がろうとまではしていなかった――
されど、その慈愛の部分が奇跡により切り離された事により後には狂気だけが残る。
慈愛を失った常世穢国は拡張を果たさんとする意志にのみ突き動かされているのだ。
……尤も。この事態は『遅かれ早かれ』の出来事である。
先述の通り強引に、とまで行かないだけで元よりこの地の狂気を、外へ広げんとする思惑も在ったのだから。プラックの行動がなくとも偲雪の狂気の深度が深まれば、いつかは似たような形の出来事があったかもしれない。
「瑠々さんは……残ったんだよね……ホントにバカだよ、瑠々さん……」
そして。渦中にいるであろう百合草 瑠々(p3p010340)へと想いを紡いだのは、フラーゴラ・トラモント(p3p008825)もか。散々に『止めたいなら、殺してみろ』と述べていた彼女の顔が……忘れられない。
いるのは、納骨堂だろうか?
数多の妄執が溢れんとしていた、あの地に……残っているのだろうか。
「……とんでもない怨霊の数だったよ。あれは……」
「あんなのに囲まれてたんだね、偲雪さま。柵はアレだったんだ。君の心を縛っていた、柵は……本当に、どこまでも優しいんだから」
言うはリュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)とイーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)だ――リュコスは納骨堂で、亡者たちが溢れる様を見た。『ぼく』という器を拡張して、亡者一人一人に話を付けんとしていたのだが……しかし、行わんとした『機』が合わなかったのか霊と意志を通じさせんとする試みは今一歩の所で凌がれた。
それは、亡者たちの妄執があまりにも強かった事にも起因しているだろう。
偲雪の優しさに惹かれ、抱きしめられ、平和な世を『絶対に』と欲した妄執たち。
偲雪の狂気が彼らを狂わせ、彼らの妄執が偲雪の狂気を強化する。
とんでもない事をしていたものだとイーハトーヴが言を向けた――その先にいたのは。
「そう、かな。でも、皆切実なんだよ。本当に――苦しそうなんだ」
偲雪、だ。
ただし狂気に染まっている偲雪ではない――
魔種としての力も狂気もない、只の偲雪である。あの刹那、傍にいたイーハトーヴらが連れ出したのか。
……プラックの切り離しを願った奇跡は成功したのである。それを果たせたのは、偲雪が些か特殊な魔種であるからでもあったろう――例えばこれを、偲雪本体に行おうとすれば成功したとは限らない。そもそも正気を一時とは言え取り戻すのは簡単な事ではないのだ……
自らの言を発する事が出来る幻を常に使用している偲雪であったからこそ、その幻影のみを切り離す事に成功したのだ。
ただ、成功したとは言っても彼女は一個の生命体として人間に戻った訳ではない。
彼女はあくまで幻影。発言の節々が狂気に染まっていない『だけ』の虚ろな存在。
此処にいる偲雪に、常世穢国を制御する力はない。
ただの幻影なのだから。
故に、残り果てた狂気の暴走は未だ続く。
やがて久遠の森を超え――数多を呑み込まんと拡大していくだろう。
守人は怨念に染まり。常帝と干戈帝は如何なる状況に在る事か。
――いずれにせよ。
「常世穢国を止めねばなりません。幻と、それに伴う意志が別たれた今の偲雪の遺骨は……完全に無防備な状態の筈。破壊せしめれば……止まる事でしょう」
「けれどそれは――」
偲雪の死を、意味表すのではないだろうかと瑞神の言葉にイーハトーヴは思うものだ。
……そう。死ぬだろう、偲雪は。
あくまでもここにいるのは偲雪の幻影。慈愛と正気が、狂気と別たれただけ。
本体である遺骨は――依然として狂気のままだ。
倒さねばならぬ。そして倒せば、必然として幻影の側も消えるであろう。
存在として独立している訳ではない。
本体が滅びれば彼女も滅びる。
……瑞神としても悲しき決断だ。偲雪とは知らぬ仲ではないのだから……
「偲雪さん……」
「うん、いいんだよシキちゃん。私は間違った存在だったんだ」
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が傍に至りて偲雪に声を掛ける――
あの日、握った手と抱いた思いを胸に彼女は、強く。強く。
その手を改めて握りしめる。
けれど、いいんだ。
間違ってなどいない。死人は死ぬべきなんだ。
そう述べる偲雪の顔は――どこまでも穏やかだった。
……常世穢国の終焉が、近付いていた。
一歩ずつ。少しずつ。終焉の音は確かに近づいていたのだ……
※『<仏魔殿領域・常世穢国>朔日』で、動きがあったようです――
※<ジーフリト計画>が始動しました!
※ラサでは妙な宝石が出回っている様です……?
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