PandoraPartyProject
灰の雷鳴
「通算百四十四回の防衛記録だって?」
「防衛記録って……
ラド・バウじゃあるまいし。それにアンタは百五十七番目だぜ」
「細かい数なんざどうでもいいが――お前が『史上最強』の皇帝陛下である事は確かみたいだな」
一方その頃――
ゼシュテル鉄帝国首都スチールグラード、その宮殿、皇帝の居場所、玉座の間には言葉に出来ない緊迫の空気で張り詰めていた。浮遊島アーカーシュでの活躍を見せるイレギュラーズの全く与り知らぬ場所で混沌なる運命は激変の時を迎えようとしているのだ。
「まさか正門から堂々と入って――ここまで『素通し』とは思わなかったがな」
「皇帝挑戦権はゼシュテルの絶対ルールでね。尤もこれ程に門戸を開いたのは俺が初めてって話だが」
「実にいいやり方だ。力こそ正義なんて標榜するからには――半端な自信じゃ上手くねぇ」
「好都合か?」と訊いたヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルズは目の前の男の回答を待つ事無く、首を振った。
「いいや。アンタはそんな事思っちゃいねぇな」
「こうして邪魔が入らなかったのに、か?」
「『邪魔が入った方が面白かった』なんて思っちゃいないかい?」
或る意味で同類のようなヴェルスの言葉に男は高い笑い声を上げていた。
「デモンストレーションには丁度良かったとは思うがな。
『お優しい皇帝陛下』のお陰で人死にが山程減ったのは確かだぜ。
誰であろうと挑戦は受ける――勇ましくて結構だ。
兵隊共もさっさと払っちまったしなあ――」
「誰であろうと俺は負けないからな。だから特別な理由は無ぇよ」
男の揶揄を鼻で笑ったヴェルスはとびきり魅力的な――彼らしい顔をして言った。
「そもそもアンタ、何処の誰だよ。会った事もねぇし、知らねぇな。
余程の自信家みたいだが、俺がアンタを特別扱いしてるなんて――その冗談、それなりに笑えるぜ」
「――ハ!」
『口の減らない』ヴェルスの言葉と裏腹に、男は余計上機嫌になった。
曰く通算百五十七回の挑戦者を鎧袖一触に蹴散らしてきたヴェルスは在位期間危なげすら無く勝利を積み重ねてきたのだ。
彼はその間、このような人払いをした事も無ければその後の保険を掛けた事も無い。
ヴェルスがどれ程嘯いてみせた所で、彼が明敏な感覚で『相手』の実力を察してしまった事は知れていた。
『この混沌で人類最強の一角と目される彼は男程の強敵を見誤り、侮るような事は絶対に無い』。
「……ま、言葉遊びに小手調べは兎も角、だ」
全身から只ならぬ闘気を漂わせるヴェルスは既に得物を抜いている。
流麗な美貌には余裕ともその逆とも取れる薄い笑みが浮いていた。
「アンタが何処の誰か分かってないのは本当の事だ。
ゼシュテル皇帝としてアンタの挑戦を受ける前に――自己紹介位は聞いておきたいが、どうだ?」
「まぁ、お前が相手ならいいだろう」
恐らく男はヴェルスが『気に入った』のだろう。
準備万端の彼の鬼気さえ軽く受け流した男は今日一番の凶相(ごきげん)を浮かべていた。
「『煉獄編第三冠"憤怒"』バルナバス・スティージレッド――
お前達には『七罪』の方が通りがいいか?」
「厄日なんだか、福音なんだか――」
男の――バルナバスの言葉に思わずヴェルスは天を仰いだ。
「いいや。期待しろよな、皇帝陛下。
お前が長年――ずっと期待してきた『最強』は今、ここに居るんだからよ!」
※アーカーシュでの戦いが終わりました。ローレットは『ラトラナジュの火』を撃つための設備を手に入れました。
※鋼の咆哮(Stahl Gebrull)作戦が成功しました。イレギュラーズの勝利です!
※アーカーシュの高度が回復しました!
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