PandoraPartyProject

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深海に悪意は躍って

「いやぁ、面倒くさいなぁ」
 ぼやくように呟きながら、ディアスポラ=エルフレーム=リアルトは深海へと潜っていく。艤装が嫌がる様に思うのは、異界のデータの記憶だろうか。何にしても、そんなものは感傷なのだ、とディアスポラは思う。ここはあなたが沈んだ海ではない。混沌世界の海なのだ。そうぼやきながら。
 ダガヌ海域。豊穣とシレンツィオを結ぶ狭間の海域。今や魔の海域と化したこの海の底に、海の悪魔と呼ばれた邪神は静かにたたずんでいるのだ。
「報告……報告って言う言葉がそもそも嫌いなんだよなー。報連相。我の苦手な言葉だ。出来れば誰かと話すことなく布団をかぶって寝て居たい……」
 ぼやくディアスポラの様子は、戦闘中に見せた苛烈なそれではなく、随分と緩く怠惰なものに見えた。彼女はゆるゆると海底火山の洞穴へと潜り込む。生き物を拒絶するかのような熱は、しかしディアスポラにとっては暖房程度に等しい。あー、暖か、このまま寝て一生を過ごしたい。そう思いつつ、しかし道はやがて終わり、邪神ダガンの潜む『神域』はその姿を現した。
「失敗したようだね」
 特に興味もなさげにそういう男――邪神ダガンに、ディアスポラは頷いた。
「急に想定外(イレギュラーズ)が来たので。手持ちの兵力じゃ、あれは倒せなかった」
「そこは同情するよ。僕も、深怪魔(けんぞく)達の目を借りて見ていたけど、なるほど、良い戦士たちのようだね。かつて戦った、竜宮と豊穣の戦士たちよりも、ずっと強い」
「逃走したマール・ディーネーを狩りとれなかったのは、そちらの戦力の問題のはず。なので我は悪くない」
「別に君を責めるつもりはないよ。此方の目的は達成できなかった。しかし種は撒けてきたのだろう?」
 ダガンは頷いた。
「深怪魔(けんぞく)の身体の大半を構成するのは、僕の泥(けんのう)だ。深怪魔が多く倒されたのであれば、大地に僕の泥がしみたことになる。いずれ発芽するだろうし、トラブルが絶えないのじゃないかな?」
 ダガンがふむ、とそういうと、神域の地面から、ダガン泥が浮かび上がった。それは転がっていた竜宮幣をのろのろと飲み込むと、悍ましい悪霊のような姿をとった。

「人間の呼び方に習ってダガヌチ(駄我奴子)、と名付けようか。彼らには僕の権能の一部を預けてある。
 具体的には、欲望をくすぐるような力があるはずだ。
 それから、最近海にいる……よくわからないものの掃除も任せようか。彼らに食べさせれば、少しは海も綺麗になるね」
「十重二十重の作戦は基本だが、汝は友達が少なさそうだな」
 ディアスポラがうんざりする様子で言った。
「だが、シレンツィオと竜宮は協力体制をとるぞ。イレギュラーズが事件を解決にも動くだろう。手持ちの戦力だけでは足りなくなるのでは?」
「そこで、君に連れてきてもらったんだ。カイラーギシュウ? とか言ったかな?」
 ディアスポラが後ろを見やると、続々と粗野な人物たちが神域に入場してくる。先頭に立つのは、竜宮でも暴れた海乱鬼衆、濁悪(だあく)海軍の頭領、濁羅(ダグラ)の姿があった。
「テメェがカミサマかよ」
 そう噛みつくように唸る濁羅に、ダガンは頷く。
「確かに昔はそう呼ばれていたよ。でも君たちは今は、僕を邪神ダガヌ、と呼んでいるのだったね。
 人は勝手だね。自分の都合で神を奉ったり貶めたりする。本質は変わりないのにね」
「テメェの泣き言なんざどうでもいいんだ」
 濁羅は吠えた。
「オレはテメェが、俺たちに力を、すべてを手に入れる力をくれるってから来たんだぜ。テメェのかわいそうな身の上もかわいそうポエムも興味はねぇんだ。
 つまり、よこすのか、よこさねぇのか」
 濁羅の言葉に、ダガンは薄く笑った。
「いいね。そういうむき出しの欲望は好きだよ。そして、それを叶えるのも、僕の本来あるべき姿だ」
 そういうと、ダガンは人差し指を突き出した。その先端から、泥のようなものがしみ出していく。それを盃に落とすと、ダガンは目でそれを指示して見せた。
「飲むと良い。契約の証だ」
 濁羅は盃をとった。怒りが、こみ上げてきた。あのイレギュラーズとかいう連中も、漁火水軍の連中も、竜宮の連中もだ。オレの邪魔をする奴は、ただじゃ置かねぇ。全部奪い取って、踏みつける。俺が踏みつぶす側になる。
 濁羅は、その泥を飲み干した。焼けるような熱が身体に駆け巡って、強烈な欲望が、その身体の内で燃え始めた。

 ※竜宮での戦いが終了しました!
 ※イレギュラーズ達の活躍により、竜宮は防衛され、外との交流を開始しました!

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