PandoraPartyProject

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Stahl Gebrull

Stahl Gebrull

 魔種パトリック・アネルの討伐を目標とする鋼の咆哮作戦は、一刻を争っている。
 主砲『ラトラナジュの火』により、ノイスハウゼンの街を壊滅せしめた浮遊島アーカーシュは、帝都スチールグラードへと徐々に移動を始めている。
 首都への砲撃そのものはイレギュラーズが獲得した『セレンディの盾』により無効化出来た。

 アーカーシュの空に描かれた、幻影のスクリーン上に立つパトリックが激昂している。
 喚きちらし、隆々とした腕で机上をなぎ払い、玉座のような椅子を蹴倒そうとしてよろめき、ピストルを三度ほど撃った。飛び散った弾丸の破片がパトリック自身の頬を掠める。
「……そうじゃあねえだろ」
 首を横に振ったヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が吐き捨てた。
 彼の知る大佐はいけ好かないクソ軍人ではあったが、アンガーコントロールが利いた冷静沈着な人物のはずだ。絶句したキドー(p3p000244)も知る通りに、中々のうぬぼれやであり、多いに自信家であり、かなりの自慢家でもある。強引なやり方で組織をかき乱し、自身の利益を浚う小ずるい男でもある。
 だが、断じてこうではない。
「ふざけんじゃねえぞ!」
 キドーが放つスクリーンへ向けた毒塗りのダーツが、パトリックの眉間を穿ち大空へ消えた。なんならパトリックよりも、憤怒よりも、怒っている自信がある。
「誰の呼び声だったのでしょうねぇ」
 小金井・正純(p3p008000)はパトリックを憤怒の魔種と断定していたが、呼び声の主は知れない。
 冠位怠惰カロンを倒したのはごく最近だが、敵陣営に動きがあったとすれば、
「もしかしたら、冠位……憤怒」
 カシエ=カシオル=カシミエ(p3p002718)の呟きに、戦慄が走った。
 確かに冠位憤怒バルナバスが動き出したとしても、なんら不思議はない。バルナバス自体は数年前の幻想で争乱が発生した際に観測されているが。
 とはいえ、現時点で結論の出ない問題をあれこれ思案する時間はない。

「あくまで分からず屋の諸君等には、最高のショーをご覧にいれよう。見たまえ」
 怒りに引きつった笑みを浮かべるパトリックが、両腕を広げ――地響きがした。
「アーカーシュの高度が、僅かに低下!」
 帝国軍人が叫んだ。
「このままスチールグラードへ向かうとしよう、島自身を究極の兵器としてね」
 パトリックが高笑いした。
「歪みすぎよね、けれど」
 これがデモニアという生き物なのだと、痛感させられる。
 アーリア・スピリッツ(p3p004400)の言葉通り、行動の何もかもが正気の沙汰ではない。
 だが戦いの準備はようやく済んだ。
 だったら――

「諸君、戦争の時間だ」

 後ろ手に組んだエッダ・フロールリジ(p3p006270)が一同の前に歩み出る。
 軍人達が姿勢を正し敬礼した。
 この決戦『鋼の咆哮』作戦の総指揮を執るエッダが続ける。

「既に諸君が知っての通り、特務大佐パトリック・アネルはこのアーカーシュを我が物とし、その力を以て皇帝の座に就くつもりらしい。
 我が帝国、皇帝陛下に弓引く行い。――それは良い。
 私はそれを全力で打ち倒すが、帝位に挑むのは万民に与えられた権利だ。止めこそすれ、咎め立てるものではない。それが本当に彼の意志ならば」

 エッダの言葉を、誰もが静聴している。

「許せないのは、魔種だ。
 魔種の力に頼ったことではない。魔種の力に負けたことでもない。
 己の意志、魂、それを歪める魔種という存在が許せない。
 "我が同胞"の魂を凌辱しつくした魔種という存在を許さない。
 見よ。我が瞳を。我が拳を。我が怒りを。
 私の怒りは諸君の怒りだ。諸君ら全ての怒りを、私は今ここに抱えて立っている。
 今回の作戦は、特務派と、そしてギルド・ローレットの力を存分に借りるものだ。
 元よりこの地にて尽力してくれた皆には忸怩たる思いもあるだろうが、堪えて欲しい。
 敵は強い。そして狡猾だ。無論諸君の武力はそれに何ら劣るものではないが、敵もそれを存分に知っている。とても良く知っている。必ずや諸君の枕元に立ち寝首を掻いてくるだろう。
 そうはさせぬ。私は意地でも戦ってやろう。鉄帝らしく――鉄騎らしく戦ってみせよう。
 その為に、智恵も使おうと決めたのだ。この怒りは私だけのものか? 諸君だけのものか?」

 兵士達の瞳が熱を帯びた。

「そうではない――振り返って見よ。特務派の者たちの目を見よ。彼らもまた等しく抱いている。我らのいとしい闘争を、我らの手から奪った魔種への怒りを。
 共に怒りを抱く我らは、これより共に一つのうねりとなって戦いに赴く」

 ――傾聴せよ!!
   この戦いは叛乱の討伐では断じてない。
   復讐だ。
   報復だ。
   パトリック=アネル特務大佐の弔い合戦だ!!
   諸君らは何者だ!!
   その魂を汚辱したものは何だ!!
   我らの怒りを、鋼の咆哮を、敵に聴かせてやれ!!

 割れんばかりの怒号が響き渡り、戦争が始まった。
 大空を覆い尽くすほどの黒い点――無数の古代兵器が遺跡深部から射出され舞い上がる。
 向かう先はここ――イレギュラーズと帝国軍の拠点となっているエピトゥシ城だ。
「迎撃用意!」
 アーカーシュが帝都へ落下する前に、あの古代兵器の群れを迎撃し、遺跡深部へ進軍して魔種パトリック・アネルを討ち取る。単純な作戦ではないか。
 ワイヴァーンに跨がったイレギュラーズが手綱を打つ。
 翼が風を切り、無数の竜騎士達が大空へと舞い上がった。

 いよいよ、決戦だ。
 蒼穹を制覇せよ、イレギュラーズ!

 ※浮遊島アーカーシュにて決戦が始まりました!
 ※直ちに進撃を開始して下さい!

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