PandoraPartyProject

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妖精郷より春をこめて

 胸の奥に灯る光を感じる。
 かすかな春の残り香を感じる。

 妖精郷アルヴィオンの妖精、女王ファレノプシスの侍女だったフロックスが、ぺたりと座り込んでいる。
 王城アヴァル=ケインの硬く冷えた大理石の床は、決して居心地が良い訳ではないのだが、『今の気分』にであれば『おあつらえ向き』だと思えていたから。
 夜の王なる災厄を祓うため、女王は『遠い所』に行くことを選んだ。そこは妖精達にとって『真なる妖精郷』と呼ばれており、妖精達はそこから来て、いつかそこへ帰ると思われ、考えられ、信じられている。妖精達は往々にして迂遠な言い方をするが、人もまたそういった場所を『楽園』や『天国』や『涅槃』、あるいは『虹の橋の向こう側』などと呼び習わすことがある。それと同じ概念だ。そうした心理的救い――ある種の信仰というものは、今、この現実を生きるフロックス達にとって大切なものである。けれど必ずしも速効性があるとは限らない。だからフロックスは時間が心の傷を癒やすまで、こうして座り込んでいた。
 フロックスにとってファレノプシスは、大切な、愛すべき、母のような存在だったから――

 女王の不在により、通行が途絶されたアルヴィオンと深緑の迷宮森林だったが、冠位怠惰の討伐を手助けせんとして、女王と共に出撃してきた妖精兵達は、不退転の覚悟を決めていた。だから『戻れない』ということに胸は痛んでも、深く気にしている妖精は多くない。そもそも楽観的な気質の者が多いのだ。
 けれど、そうは思わない者がいた。
 全てを赦せないでいる者がいた。
 虚ろな表情のまま顔を上げたサイズ(p3p000319)は、あらゆる物事を訝しんでいる。憎んでさえいる。
 自身は何の成果も上げていないのだと、頑なに信じ切っていた。
 なぜなら彼にとって、女王は死すべきでなく、アルヴィオンは閉ざされるべきでなく、何なら妖精は一人たりとも一切傷つくべきではないからだ。その全てを手に入れられなかったのなら、可能性の奇跡が発現したことすらも歪んでいると断罪する。実際のところそうした思考が傷つけるものは、あくまでサイズ自身であり、それを強欲か傲慢かと誹る者も居ようが、生き方というものはそうそう変わらない。だからそれはそれで良いのだろう。これはサイズ自身が向き合う問題なのだから。

 そんなサイズが呪いや穢れのように忌避する、けれど正真正銘の奇跡が成し遂げた本当の成果が、最後の残光を放っていた。それは女王誕生の可能性を甦らせることであり、また妖精女王が持つ宿業を未来永劫に消し去ることだった。女王の宿業、それは――
 一つ『短命であること』。
 一つ『二度と外の世界を見ることは叶わないこと』。
 それはアルヴィオンと迷宮森林とを繋ぐ妖精郷の門(アーカンシェル)を維持するためであり、外の世界との繋がりは妖精達にとって必要なものである。だがこの宿業は呪いのようなものでもある。歴代の女王は、いずれもこの宿命を受け入れ、遠い所へ旅立っていった。
 けれど――長い歴史の中で連綿と悲劇が、遂に終わりを告げる。
 可能性の奇跡が妖精郷の門を稼働させるための『果てぬ力』となったからだ。

「私……なのです?」
 フロックスが泣きはらした顔をあげる。
 同じ頃、ファルカウの小礼拝堂で静かに祈っていたストレリチア(p3n000129)もまた、顔を上げた。
「そんな、そんなはずないの、でも、だって、でもこれって……」
 ストレリチアの眼前に、ふいに現れたのは妖精郷の門だった。
 ゲートごしに、ストレリチアとフロックスが手を取り合う。
 今生の別れだと思っていた、親友との再会は、さらに驚くべき事実を告げた。
 フロックスは自身が妖精女王になったことを直感していた。
 ストレリチアもまた同様に、女王となったことを感じていた。
 そして今、互いが女王であることを知ったのだ。
「二人……です」
 二人ならば、どちらかは外の世界を見ることが出来る。
 かわるがわる、助け合うことが出来る。
 それはきっと女王ファレノプシスの、最後の願いでもあったのだろう。
「会いたかった、です」
「わたしもなの」
 二人は両手を取り合い、抱きしめ合った。
 体温がひどく懐かしいもののように感じて、なぜだか涙がこぼれた。
「ストレリチアちゃん」
「どうしたの?」
「おさけくさい……です」

 ※新しい妖精女王が誕生しました。
 ※妖精郷の門が再稼働し、アルヴィオンと行き来出来るようになりました。

 ※Pandora Party Projectが五周年を迎えています!!

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