PandoraPartyProject

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萎れた蒼薔薇

「……はぁ、はぁ、はぁ……」
 リーゼロッテ・アーベントロートの呼吸は荒い。
「はぁ、は、は――」
 何時如何なる時でも優雅に瀟洒に。
 少なくともそうあらんと心がける彼女の現在は『幻想の至宝』らしからぬ消耗に苛まれていた。
(……どいつもこいつも。
 雑魚を延々とぶつけて……ああ、お父様はそれでも十分という訳なのね)
 美しい顔を『他人にお見せしない位』に歪めた令嬢は苛立ちと怒りを禁じ得ない。
 薔薇十字機関――第十三騎士団の追手は間断なく、何処で情報をかぎつけてくるのやら、このチェイス・ゲイムは長丁場になっていた。
 だが、自身も超一流のアサッシンとして幻想切っての武闘派の一角であるリーゼロッテにとっての大問題は単純な敵の苛烈さの方ではない。
 彼女からすれば正面切って遅れを取る可能性があるとするならば当の父親位のものなのだから『強敵』は大した問題では無いのだ。
 厄介なのは『数』。そして『やり方』の方――
(恐らくは、今もある程度距離を取ってつけまわしている事でしょうね。
 徹頭徹尾正面衝突を避けて嫌がらせを続けて来る辺り、余程私が怖いと見えます)
 ――内心の言葉の後半はリーゼロッテの強がりだった。
 獣の狩りとはそんなものだ。相手が手負いで凶暴ならば尚更の事。
 ハンター達は実にしつこく立ち回り、十分な補給を受けた上でリーゼロッテの休息を邪魔し続けている。
 最初の方で直接衝突したのは間合いを掴む為のテストだったと言わんばかりに、だ。
「……」
 リーゼロッテは薄い唇を噛んだ。
 自身とて諜報機関の長である。連中が困るやり方は分かっている。
 例えば何処かの街に逃げ込んで潜伏する。人の多さを武器に攪乱すれば幾らかでもマークは緩むだろう。
「……………」
 しかし、彼女は頭を振った。
 相手が父率いる第十三騎士団ならそれは無しだ。
『迂闊にそんな事をすれば何ら関係の無い民も含めて街ごと消えてしまうかも知れないではないか』。
 何だかんだで力を貸してくれると思っていた――どんな事も上手くやると信じていた。
『あの』クリスチアンが重傷を負ったと聞いた。
 サリューは怪しげな連中に襲撃され、大変な被害を出したらしい。
(あのバカ……余程の無理をしたんだわ……)
 生まれた時から奉仕される立場だった。疑いはないし当然の事だ。
『だからといって何時、そんな大怪我をするのを許したというのだ』。
 こんなもの、何時もの嫌味な顔をして涼しく解決してくれるだけで良かったのに!
 父の底は全く知れなく、この後どうするかは何ら読めない。
 巻き込みたくない、と考えるならば唯逃げるしかなかった。
 誰かと関わるのは最低限。機会を見て、状況を打開するその時までは……
「……可能、なのかしら」
 北部の囲みは執拗で、取り敢えずはメフ・メフィートを目指してはいるものの、まだ遠い。
 仮に王都に辿り着いたとて、そこにはあの父が居る。
 逆転の目等あるのだろうかとリーゼロッテは常に自問自答を繰り返していた。
「……私では、きっと無理だわ」
 何時如何なる時でも超強気な令嬢の零した弱音は心からのものだった。
(無理、だけど……)
 彼女がそれでも折れずに王都を目指すのはそこにローレットがあるからだ。
「たすけて、――さん……」
 泣き笑いの顔をして彼女が思い描いたのは何時でも自分の味方になってくれる『オトモダチ』。
 或いは『それ以上』の安請け合いだったに違いない!

※アーベントロートの政争の余波が幻想各所に広がっている模様です……

※『祓い屋』燈堂一門の本家で大きな動きがありました――


 ※アーカーシュ完全攻略のため、鋼の進撃(Stahl Eroberung)作戦が開始されました。
 ※突如、特務派の軍人達がイレギュラーズへ攻撃を始めました。
 ※特務派の軍人達も、状況に納得出来ていないようです……。

これまでの覇竜編深緑編シレンツィオ編

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