PandoraPartyProject

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妖精たちの見た夢

 ――悲しい宿命は、私の代で終わるのです。
 ――次の代を継ぐのはあなたたち
 ――あなたたちは、ふたりでひとつの……


 目が覚めた。自分がどこにいるのか分からなくて、ぼんやりとした頭のままフロックスはベッドから身体を起こした。
 妖精女王の侍女、フロックス。
 彼女はその習慣として女王の元へ行こうとして……そして。
 女王ファレノプシスはもういないと、思い出した。
 けれど。なぜだろう。
 なぜだか、もう寂しくない。
 だって――。

 はるか昔のことのようで、それはつい最近の出来事だった。
 ファルカウの存亡を賭けた戦いの中で、かつて妖精郷を支配していた大精霊『夜の王』が復活する事実をうけ、女王ファレノプシスは大勢の妖精たちと共に妖精郷アルヴィオンを出撃。女王は自らの命を犠牲に、夜の王からその権能を奪い去った。
 そしてイレギュラーズとの反攻作戦は始まり、ついに夜の王を倒し夜明けを迎えたのだった。
 もはや妖精郷やファルカウが夜に閉ざされることはない。

「けれど、女王さまはその犠牲となったはず……。もう、私達は妖精郷から外に出ることはできないのでしょうか」
「人間さんたちを助けに行った仲間たちも、もう戻ってくることはありません。皆、その覚悟をしていた筈です」
「ええ、私達だって……」
 兜をかぶった妖精の兵士たちが女王の間に集まっていた。兵士たちだけではない、ファレノプシスを慕い、しかし共に出撃することのできなかった妖精たちも集まっている。
 女王が不在となった今、『妖精郷の門(アーカンシェル)』を開くことはできない。
 それは自分達がこの世界に閉じ込められたことを、外に出て行った仲間達と永遠に別たれたことを意味していた……はずなのだが。
「皆さん、大丈夫なのです!」
 ばぁんと扉を勢いよく開き、フロックスが現れた。
 皆一様にフロックスを振り返り、そしてその晴れ晴れとした表情に驚いた。
 誰よりも女王の不在を嘆くはずの人物なのに。なぜ?
 フロックスはいつもそうしていたように、カーテンを大きく開いた。暖かな常春の日差しが部屋へと入り込み、部屋を明るく照らしていく。
「今朝、女王様のあったかい気配を感じたのです」
 手を合わせ、明るい空を見上げフロックスは目を瞑る。
「夢の中で、女王様は言いました。
 『悲しい宿命は私で終わり』『次の代を継ぐのはあなたたち』。そして……『あなたたちは、ふたりでひとつの』……。
 そして鎌の奇跡が門から繋がる宿命の糸を断ち切ったのです」
 それは一体どういう? と兵士たちが首をかしげた所で、タンポポ妖精のポワポワがぱちんと手を叩いた。
「きっと、人間さんたちが戦いに勝ったのよ!」
 そのことを言われ、今度はチューリップの妖精ハミルトンがハッとした様子で立ち上がった。
「『咎の花』もないのだから、命をかけて維持する必要もないです!」
 妖精達の顔にぱっと明るい表情が戻り始めた。
 だがスミレの妖精モーニングがふるふると首を横に振る。
「けれど、もし新しい女王が生まれても、門を維持するために命を……」
「夢に」
 遮るように、フロックスがくるりと振り返って言った。
「夢に女王様が出てきました。広い広いお花畑のまんなかで、私の手をそっと握ってくれたのです。
 女王様のあったかい気配と、そしてこれがあれば大丈夫だって……」
 フロックスは女王が出立したあの日に渡された聖剣アルヴィオンを手に取った。

 女王様は、もういない。
 けれどもう、だいじょうぶ。


 ――その日、あなたは夢を見た。
 花畑の真ん中で、妖精の女王ファレノプシスがふたりの妖精と手を繋いでいる様子が見えた。
 女王はあなたへと振り返り、微笑む。
「私が、その場所へ戻ることはきっともうないでしょう。死んでしまった……そう思ってかまいません。
 けれど鎌の起こした奇跡によって、私のもっていた『女王の力の残滓』が、あなたたちな無辜なる混沌へと帰りました。
 『アルヴィオンの聖剣』と『力の残滓』が共鳴出来たなら、奇跡は更なる可能性へと発展するかもしれません。
 それは『次代の女王』が生まれる可能性と、次代の女王がもう宿命に縛られないことを意味するのです。
 次の物語へ進むには、きっと、まだしばらくの時間が必要でしょうけれど……」
 二人の手を離して、ファレノプシスは歩き出す。
 こちらに背を向け、小さくだけ振り返って、手を振った。
「きっともう、だいじょうぶですよ」

 ※アルティオ=エルムを覆った眠りの呪い、冠位魔種『怠惰』の影は払われました。
 ※アルティオ=エルムでは『祝宴』が行われます。

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