PandoraPartyProject

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let's enjoy

 およそ二年ほど前の話になる。
 海洋王国大号令を期とした『絶望の青』への挑戦は、これまで幾度も行われそして誰一人として帰って来れなかったという最難の悲願であった。
 この先には何もないとして冠位魔種アルバニアに阻まれたその海を、海洋王国の総力と、鉄帝国の支援と、そしてイレギュラーズたちによるいくつもの奇跡によって冠位魔種アルバニアとの戦いを乗り越え、更には滅海竜リヴァイアサンをも沈め、対に前人未踏の青を踏破することに成功したのだった。
 その先に見つけたのは新天地にして異邦の国、豊穣郷カムイグラ。魔種による実質支配を受けたこの国と向き合い、そして戦い、ついには護国の神霊たちにも認められたイレギュラーズはこの国の危機をも救ったのだった。
 こうして二つの国の未来を決定的に切り拓いた今。『絶望の青』と呼ばれていた場所は『静寂の青(セレニティ・ブルー)』と呼び名をかえ、最奥拠点であったフェデリア島も関連国の貿易によって富み、いまはこうして……最高の観光島、シレンツィオ・リゾートへと生まれ変わったのである。

 一羽の鳩がはばたき、ゆっくりと地面へとおりたつ。
 何を探してかきょろきょろとした鳩はしかし、すぐに翼をばたつかせて飛び立った。
 つられるように飛び立つ無数の鳩がそれへと伸び、空には悠然と三連タワーがそびえ立っていた。
「これが……カヌレ・ベイ・サンズぅ?」
 好物のイカを細く切って焼いたものをちまちまと食べながら、ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)は聳える三連タワーを見上げていた。
 海洋風の清潔なイメージのタワーを中心に、鉄帝首都に見られるようなスチームパンク風の塔。そして豊穣郷で見たことのある五重塔を更に激しく高くしたような塔。それらの上にはあろうことか巨大な船がドンと乗り、かつてないほど異質な風情を放っていた。
 周りにあるコロニアル様式の役所たちと比べればなおのことだ。
「そうだ。海洋、鉄帝、そして豊穣の三国が協力するシンボルであり、この島が発展した背景でもある。高級ホテルだぞ」
「すげー」
 隣で一緒にイカをちまちま食べているのはゼニガタ・D・デルモンテ。ワモンのパパである。
 空では鳩の群れが大きく旋回し、どこかの空へと散っていく。
 ここはシレンツィオ・リゾート。
 『地上の楽園』である。

「こいつはなかなか……」
 おおきく距離をあけて並ぶビーチチェアのひとつに、カイト・シャルラハ(p3p000684)は寝そべっている。
 サングラスをかけ、水着姿でくつろぐ様はバカンスという言葉をそのまま表したかのようだった。
 シレンツィオリゾート三番街にあるシロタイガー・ビーチ。豊穣資本によって整備された公共ビーチだが、高級志向の三番街(セレニティームーン)というだけあって、雑多な雰囲気はない。
 あるのは煌めく太陽と広がる珊瑚礁。ずっと遠くを飛ぶうみねこの声に、カイトはうっとりと目を細める。
「これが私達の勝ち取った景色……ってことなのかな」
 同じく水着姿でビーチへと歩いて行くイリス・アトラクトス(p3p000883)。砂浜から波打ち際へと進めば、ぴちゃりと素足に浅波が寄せた。
 それを蹴ってみながら、イリスはすこしだけ昔のことを思い出していた。
 『絶望の青』に挑み、大海原へと漕ぎ出した自分と仲間達。そして海洋王国の人々。自らの父が率いる艦隊。
 冠位魔種との戦いや、リヴァイアサンを前にした壮絶な光景。廃滅病によって命を脅かされた自分を含めた仲間達。
 それはみな過去のものとなり、今ここは開拓されたリゾート地となったのだ。
 あるのは静かなる海と、そびえ立つ高級ホテル。危険のなくなった海は貿易によって富を得て……。
「っと、難しいこと考えても仕方ないよね!」
 えいっとつぶやき水を大きく蹴り上げると。両手を高く突き上げた。
「今日は遊ぶぞー!」

 三番街には異様な建築物が建ち並び、異国情緒を通り越して異世界感すら与えてくれる。
 高級そうな身なりの男女が道を歩き、どこで金を落とそうかと建物を見比べる。
 そんな中で他へ競うように異質さを放っているのがウィンフェデリア・カジノ。巨大スロットマシンのような形をしたアーティスティックビルだ。
 中ではご想像通りと言うべきか、大量のスロットマシンが周り金貨がじゃらじゃらと流れるような演出が施されている。
 ホールにはポーカー台やルーレット台。その他いくつものカジノゲームの台が並び、身なりのよい人々がチップを賭けてギャンブルに興じていた。
「グギギャアアア!?」
 そしてギャンブルに負けて奇声を上げてしまうキドー(p3p000244)のような者も、やはりいる。
 無番街から出てきたであろう、ガタイのいいボーイ兼用心棒が何事かという様子でキドーを見ていた。
 キドーは三番街(セレニティムーン)らしくピシッとしたスーツ姿だが、無番街の者同様独特の雰囲気というものがある。
「おいおい、ここは紳士淑女の社交場だぜ? そう騒ぐもんじゃあねえだろう」
 こちらはやや青みがかったグレースーツを着た十夜 縁(p3p000099)。ネクタイはしっかりと青。なかなか奇抜な色合いなのにシックにすら見えるのだから、着こなしというのは大事なものだ。
「ちょっと休むか? あっちのバーでカクテルでも飲んで」
「いや、いい……まだ大丈夫だ。とりかえす」
「それは取り返せない人の台詞ですねえ」
 苦笑するバルガル・ミフィスト(p3p007978)。手にはカクテル。シガーボックスを持って歩くバニーガールにチップを渡し葉巻を買っていた。
 それをくわえ、苦笑の度合いを深くしてルーレット台を見つめる。そっとキドーに耳打ちするように顔を近づけると、『赤の14です』と囁いた。
「……?」
 いぶかしげにしながらも、ウィール(ボールを入れるルーレット)が回り暫くしたところでスッと残りのチップを置いてみる。
 カツンッとボールが溝をはね、何度かはね涼しげな音と共に……。
「赤の14です」
 ディーラーの言葉に、キドーは再び『グギギャアアア!』と叫んだ。いい意味で。

 シレンツィオ・リゾートでは世界中の文化が味わえると誰かが言っていた。
 二番街(サンクチュアリ)の大通りには、それをある意味で体現する光景が広がっている。
「わぁ、ハンバーガーショップがこんなに」
 マリア・レイシス(p3p006685)は世界各国のファーストフード店が競うように並ぶなかを歩いていた。
 フェデリア島の中でも、ここ港湾労働者たちによって形成されたサンクチュアリこと二番街には安くて美味い店が溢れている。
 発展したフェデリアで職に就こうとした海洋民、南の島で働こうとした鉄帝民、華やかな海外を夢見て飛び出してきた豊穣民。彼らはこの二番街に集まり、そして溶け合い、どこか独特な異国情調を生み出しているのだ。
「祝福を与えていた頃は、よもやこんなことになろうとは思わなかったのじゃが……」
 ハンバーガー片手に横を歩くクレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
 街は雑多でこそあるが、観光事業の利益を理解してか割と綺麗に整っている。道路の清掃もこまめに行われているようだ。
 ちょっと無茶な観光価格を書いたフードワゴンや、暢気な観光客を狙った悪知恵のあるやつがいたりもするが、そこまで含めて観光地である。
「人が交われば食が生まれ、食が交われば文化が生まれる。道理だな」
 同じく隣を歩いていたモカ・ビアンキーニ(p3p007999)がタピオカドリンクを片手に笑う。
「この後は五番街(リトル・ゼシュテル)にいってうちの店の様子を見てくるつもりなんだが、二人はどうする」
「私は……」
 マリアは一口分のこったハンバーガーを口に入れると、包み紙を丸めながら親指で唇をぬぐった。
「ちょっと用事を済ませたらVDMランドの様子を見に行こうかな」
「手広くやっておるのう、二人とも……」
 自分はどうするか。
 クレマァダはぼうっと考えながら、しかしかじりつくハンバーガーの味に思考を全部持って行かれていた。
(おお、やっぱり美味い……)

 街は賑やかに、今日も誰かの楽園であり続けている。
 さあ、楽園を楽しもう。
 シレンツィオ・リゾートへようこそ。

※シレンツィオ・リゾートへ遊びに行けるようになりました!
イベントシナリオが公開されています

※リミテッドクエスト『<太陽と月の祝福>Recurring Nightmare』が公開されています!

これまでの覇竜編深緑編シレンツィオ編

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