PandoraPartyProject

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想定通りの『誤算』

「偶にはこういうのもいいでしょう?」
『相対せぬならば彼の傍こそ極楽浄土』。
(いいえ、本音を言うなら『相対しても』この距離が一番心地良いのだけど)
 内心だけで呟いて、それでも唇に浮かぶ言葉は淡く笑みを乗せ、軽やかに。
「……それとも迷惑だったかしら?」
 白薊 小夜(p3p006668)は落花狼藉――流麗風雅なる荒々しさと共に敵を斬る。
 ほぼ同時刻、バダンデール邸内での戦いも激しさを増していた。
 クリスチアン梅泉のタッグは強力だったが多勢に無勢、流石に傷んだ梅泉は実に厭気のさす戦いに『渋々』血蛭を開放しかけたのだが。
 そんな彼のやり切れなさを埋めるのは先の小夜の存在であり、
「センセーの本気の姿、初めて見るね……!
 ちゃんと覚えておくからね。格好いいから……じゃなくて!
 参考にするからだよ! これも修行の一環だから!」
 瞳を輝かせたサクラ(p3p005004)の期待の顔だった。
「正直、センセーの本気が『今回』なのは全然納得がいってないけどね!」
「同感じゃ。じゃが、主等が来た。それだけ幾分かマシというものよ」
 自身の頭に手を置いた梅泉を上目遣いで見たサクラは彼の面立ちが思いの外、険しくない事に気が付いた。
 ローレット側の援軍との合流は兎も角、邸内の敵の数は増え続けていてきりがない。
 更に未だ動向の分からぬヨアヒム、更には何処かで激闘を重ねているやも知れないフウガの存在を鑑みれば『出し惜しむ』のは難しかろう。
「観客が望むなら、これより到る大立ち回りも華の内じゃ。
 元より巻き込んでしまった責もある。こうなれば譲れぬもひとしおじゃ。
 先程までは憂鬱極まりなかったのじゃがな、まぁ――『主等』が居るならば許容の内じゃて!」
 要約すれば「君達を守る為なら、構わぬか」といった所か。
「――つ、つくづく」
「こういう人だから――!」
「特別な蔵書もお忘れなく! 知っているのですよ?
 クリスチアン君のような人は、そう……良く知っているのです!
 人の悪い顔をして出し惜しんで――こっそり重要な部分を隠したりする事を!」
 鉄火場に相応しくも無く、サクラと小夜の顔が赤くなり、複雑怪奇な恋模様だか何だか知らないドラマ・ゲツク(p3p000172)は相変わらず渉外に勤しんでいる。
 ……但し、食えない男には特別な警戒を示しながら、だが。
 ともあれ、妖刀が血色の輝きを強めれば、地獄変の如き光景は瞬時に肝胆寒からしめる威圧を増している!
「――主等は不運じゃなあ」
 先程までの『優しい』笑顔に非ず。
 文字通りの凶相を浮かべた梅泉に敵陣が慄く。
「精々わしを――何処までも『引き出せ』よ」
 一方的かつ傲慢な宣告は直死の明言であるかのようだった。
(『援軍』に感謝せずには居られないな)
 執務室のクリスチアンは小さく嘆息する。
 梅泉というムラッ気のあるカードに彼女(?)だか弟子(?)だか盆栽(?)だかのお陰で火が点いたのは確実だ。当初からの計算に入っていなかったローレットの精鋭による助力を考慮、梅泉の『上振れ』も考慮すれば最悪の状況が幾分か以上にマシになったのは明白だ。
(ドラマ君の『取り立て』は厳しいかも知れないが、必要コストの内と捉えれば――)
 クリスチアンはそこまで考えた所で思わずその場を飛び退いていた。
 執務室周辺の戦いは悪くない状況になっていたが、『それ』にとって元より戦況は関係無かったのだろう。
 進軍ルートも護衛の存在も無関係。彼は当初から自分の決めていた予定の通りに動いたに過ぎない。
 至極ゆっくりと、マイペースを崩す事は無く――
「……ヨアヒム侯!」
「ふぅむ。折角『手品』を見せたというに。もう少し面白い反応をして貰いたいものなのだがね」
 舌を打ち、迷わず細剣による刺突を放ったクリスチアンの一撃が空虚に残影だけを貫いていた。
「判断の速さは流石に『天才』と言えようなぁ。
 しかし、どうにも君は才能に胡坐をかいているように見えてならぬよ。
 ……嘆かわしいな。実に嘆かわしい。半端者程、モノになった気で磨こうとしない。
 魔術も、暗殺も、政治も何事も同じ事故。『不肖の娘よりは幾分マシでもやはりこの程度に過ぎないか』」
 大仰に嘆く顔をしたヨアヒムは嗜虐的にせせら笑った。
 執務室の異変を関知して戻った四人に囲まれる格好となってもその余裕は幾ばくも崩れない。
「さあ、この『王への囲み(チェック・メイト)』はどちらのものが有意義か。一つ確かめてみるとしよう」
 執務室に侵入したヨアヒムの『手段』は明白だ。
(私は絶対に見落とさない。その気配を、匂いを、接近を)
 クリスチアンはその術を知っている。言葉を確かに知っている。

 ――『長距離空間転移』。

 ただ、この混沌でシュペル・M・ウィリー以外の何者かが使いこなせる事だけを、知らなかった。

サリューを舞台にした『暗闘』は静かに進行しています……!

※リミテッドクエスト『<太陽と月の祝福>Recurring Nightmare』が公開されています!

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