PandoraPartyProject

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深き微睡みの森より

「んんん……」
 眠たげに瞼を擦りながら『煉獄篇第四冠怠惰』カロン・アンテノーラは面倒事を察知したように頭をごろごろとクッションへとすり寄せた。
「にゃーんか、騒がしいにゃあ」
「そりゃ、そうでしょう」
 カロンの傍らに腰掛けていたリュシアンは嘆息する。わざわざ『ファルカウの巫女』を夢の牢獄に閉じ込め、迎撃を竜種に任せていて静寂を求めて居られるなど思わぬ方が良い。
「主さまになんて口の利き方!」と普段ならば噛み付いてくるブルーベルはカロンが作り出していた『夢見の水鏡』をぼんやりと眺め続けているようだ。
 灰燼と化した森。
 グレーの塵芥は豊かであった森に進軍が為のカーペットを引き詰めている。
 降り注いだ魔力の暴風雨。白煙を思わせた暴威の吐息。憤る木々の気配に、翻弄されまいと立ち上がるイレギュラーズ達。
「ブルーベル、何を見てるにゃ?」
「外です」
「『ファルカウの視る者』は大して面白くはにゃいだろうににゃあ……。
 もしかして、イレギュラーズに絆されたかにゃあ。優しい良い子だからにゃあ」
 わざとらしく顔を擦ったカロンに「いいえ」とブルーベルは呟いてから俯いた。
 あまり、見ていたくはなかった。妖精郷では争った相手ではあるが、幾度もの接点を重ねる事に多種多様なる人種が過している場所だと知ってしまったからだ。
 己のような存在を受け入れようとする『ばかみたいなひと』も無数に居た。
「なーにがCちゃんで、なーにが友達だよ。
 手だって、離さないって強く握ってさ。
 土足で踏み入りゃいいのに過去を覗いたことを謝ったり……お人好し共。」
 ぼやいてから感傷的な己を律するようにブルーベルは目を伏せた。
 元より己の主の『権能』は簡単に打ち破れるものではない。何せ、己が入り込んだ『夢の世界』を補強したようなものだ。
『ファルカウの巫女』も同じように夢を見ている。
 幸福であった頃の――『妹と笑い合っていた頃』の淡い夢だ。
(……馬鹿な女だな。未練がましく、そうやって『生にしがみつく』から苦しくなるんだ。
 アンタだって、さっさと手放せば良い。ファルカウなんて見捨てて、一人の女として楽になりゃ……いや、『そんなこと出来ないのもあたしもそうか』)
 ブルーベルは眠たげな主人を眺めた。
 ファルカウの巫女のコントロール権利を得ている内はファルカウを媒介に夢の呪いを振りまく事が出来る。
 打ち破ろうとするならばファルカウの巫女に掛かった『夢の牢獄の呪い』を解く事が必要なのだ。
「……主様の夢はそんなに簡単には解けやしないだろ。
 レテートの巫女だって、こっちの手に入れば……アイツらは負けるんだから」
 呟いてからブルーベルは竜種とイレギュラーズがぶつかり合うのを確かに見た。
 カロンの作った水鏡の向こう側、苦々しい表情を見せた彼らを見ている事も出来なくて――
「ブルーベル、絆されたなら見なくていいにゃあ。本気じゃなくともにゃあ……
 にゃあ達が出る幕もなく奴らはさっさとくたばる筈にゃ。そうじゃなくっちゃ怠惰に過す事も出来ない――にゃあ?」
「そうすね」
 ブルーベルは静かに目を伏せた。
 そうだ。相手は暴食――本気ではないとしても『冠位魔種(オールドセブン)』なのだ。
 勝てっこない。あのまま惨めに野垂れ死んでいくだけだ。
 アタシが得られなかった幸せな未来を歩む奴らだ。ザマァミロ――

「知らない所で勝手に死んで。もう二度とはアタシの前に現れてくれるなよ。
 ……アタシは魔種なんだ。何れ、アンタ達はアタシを殺しに来るんだから、さ……」


 ※決戦が始まろうとしています――!!

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