PandoraPartyProject

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On n'a qu'une vie

 シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は、かつて不思議な夢に悩まされてきた。
 それは勇者王アイオン一行の一員である『白銀花の巫女』フィナリィ・ロンドベルの記憶である――暫く前、幻想を騒がせた事件の折より度々、夢の中でシフォリィは彼女と遭遇していた。フィナリィの、かつての記憶をなぞる様な光景と共に……
 しかしその夢は近頃見なくなっていた。
 縁深き幻想の……そして勇者王に関わる事件が収束したからだろうか。
 或いはシフォリィ自身が――明日の己の道を往くと決めたからだろうか。
 ……いずれなる理由にせよきっとそれでいいのだと思っていた。だが。

「……リィ……すか…………しの……え………………リィ…………」
「……フィナリィさん……? フィナリィさんですか? 何処にいるんですか……!?」

 その声はまた唐突に――シフォリィの中に再臨した。
 声が聞こえ辛い。まるで靄に包まれた中にいるかの様だ。
 けれどその声に間違いは無かった。シフォリィが聞き間違いなどしようものか――
 あれはフィナリィ・ロンドベルの声だ。
 彼女の故郷たる深緑の危機に際してのタイミング……何か伝えたい事があるのではと直感した。故に探す。靄の中をかき分けるように――彼女の意思を探すかのように――
 さすれば。

クェイス! 遊びに来たわよ! 出てきなさいよ、でーてきーなさーい!!
『やかましいぞ愚図ッ!! 何の用だ!!』

 別の、声が響いた。
 何事かと思いて振り向けば、そこには一つの……記憶が広がっている。
 それはフィナリィ・ロンドベルがかつて見た景色。
 彼女の体験が可視化されている場面。これは――
「……昔々の物語です。まだ私が深緑にいて、マナセさんと一緒にいた頃の……」
「――フィナリィさん!」
「聞いて下さいシフォリィ。クェイスは……ずっと眠っていた呼び声の狂気に晒され、かつての記憶を忘れているのだと思います。そこにつけ入る隙がある――マナセさんとの約束を忘れ、ファルカウ以外の大樹すら軽んじる様になった彼には」
 刹那。シフォリィが振り向いた先にいたのは――件のフィナリィであった。
 今度はハッキリと声が聞こえる。そして視える景色の中にいるのは……話に聞いていた勇者パーティのメンバーの一人であるマナセ・セレーナ・ムーンキーと、深緑における事件に関わっているオルド種の――クェイスという人物か。

『あのね! この子の故郷の霊樹におまじないを掛けてきたの! いいわよね!』
『はっ? おま……普通そういうの事後報告するか? 馬鹿か? 愚図か?
 霊樹というのはな、一年や二年で形成される様な樹じゃないんだぞ!!
 それになんのおまじないかも分からない代物を付与するなど……!!』
『という訳でもうやっちゃったから!! だから無理におまじないを引っぺがそうとか傷つけたらダメよクェイス!! いいわね!!』
『誰が霊樹を傷つけるか愚図ッ!! 僕を誰だと思ってるんだ!!』

 ……おまじない?
 なにやらマナセが意味深な単語を言っていたが――これの事だろうか?
「……マナセさんは魔術において深い造詣を持つ人でした。
 だからでしょうか。彼女は以前、私の故郷の樹に守護のおまじないをかけてくれたんです。
 ――悪意ある干渉が行われた際に、術者に反撃の一手を紡ぐ『おまじない』を」
「そしてそれが……まだ生きている、という訳ですね?」
「ええ。マナセさんは――天才ですから」
 微かに。懐かしむかのように、零した微笑み。
 もうあの日には戻れない、過ぎ去った『かつて』をフィナリィは思い浮かべ――
「……クェイスはファルカウから零れている大樹の嘆きです。
 こと深緑内の戦いにおいては盤石な程の能力を宿していると言ってもいいでしょう――けれどその驕りが必ず見誤らせる。クェイスが『おまじない』に触れた瞬間、彼は内側から食い破られ、亀裂が生じる筈です。勿論……それだけで決着が付く程甘くはないでしょうけれど」
「けれど――隙にはなりそう、という訳ですね」
「はい。それだけを伝えたくて、どうしても……
 きっとシフォリィ達の力になる筈です。クェイスを止めてあげてください――」
「……ところで随分と流暢に喋れてますね?
 昨日のあれ、靄が掛かったようにちょっとしか聞き取れなかったのは一体?」
「ああ、いや。別に昨日の時点でちゃんと喋れたんですけれど……
 こういう時って意味深に『……りぃ』とか言った方がそれっぽいじゃないですか。
 ――雰囲気ありましたよね?」
「はっ?」
 にっこりと。満面の微笑みを見せるフィナリィ――いやいやいや。
「何言ってるんですか? 今、貴方の故郷の危機なんですよ!? 分かってますソレ!?」
「勿論分かっていますけれど――つい」
「つい!!?」
 ええ、つい出てしまったんです。
 とっても懐かしい記憶を思い出してしまったから。
 ……フィナリィはもう一度、記憶の光景を見据える。どこまでも元気一杯なマナセが、げんなりとしているクェイスに干渉し。騒がしきその一端を見ている――フィナリィ自身の、光景を。
 あの日々はもうどこにもない。
 己は幻想で朽ち果て、マナセもまた後に……人としての終わりを迎えているだろう。
 残っているのはクェイスのみ。
 どうして彼が深緑を閉ざさんとする動きにまで加担しているのか。
 その理由までは知れぬが――とても悲しい事だ。
 彼が、かつての日々を全てなかった事にまでしようとしてるのは。
「ああそうだシフォリィ。
 恥ずかしながら私、昔深緑にいた頃……本を幾つか書いた事があったんですよ」
「本……? ッ! 成程、それも私達の行動の一助となるような――!?」
「いえ、拙い文章で書き残してるので……捨ててほしいなぁ、なんて」
「絶対読んでやりますからね」
 ともあれ。もはや己は記憶と夢の狭間にある残滓に過ぎねば。
 此れよりの深緑の未来は――やはりまた、イレギュラーズ達に託そう。
 どうか未来を切り開いて。
 どうかリュミエ様達を救って。
 タレイアの心臓も、おまじないも。未来の為に残した芽であれば。
 花開く。今の貴方達の助けになればと――願っています。



「――はっ!」
 瞬間。シフォリィの眼前には――ファルカウでの戦場があった。
 先程の……フィナリィの記憶の中ではない。
 一瞬。一瞬だけだったが意識が途絶えていた様だ――もう! 昨日の時点で全部伝えてくれてても良かったんじゃないですかね!? ホントあの人は……!!

「――大丈夫かシフォリィ? 今、何か様子が……」
「ああ……はい、ええ。大丈夫ですルドラさん。それよりも――聞いて下さい。」

 さすればルドラ・ヘス(p3n000085)がおかしな様子だったシフォリィに言を紡ぐもの――
 全く。ルドラさんにも変な目で見られてるじゃないですか……! と思いつつも、彼女は己が見た光景を情報として伝えるものだ。彼女は知っている。だって『夢』を見たから。
 それは遥かなる昔。フィナリィ・ロンドベルなる者が辿った軌跡の一つ。
 ――霊樹にかけられた『おまじない』が在る事を。
「クェイスという存在が大樹の嘆きに干渉しているのなら……それが命取りになります。戦い続ければやがて発動する筈です……! 大樹を傷つけんとする輩に手痛い御返しをする――『おまじない』が!」


 <タレイアの心臓>Nous sommes nos choix の情報が一部更新されました!!

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