PandoraPartyProject

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アストラルレイヤー

 何も残らなかったと言ったら、大袈裟だろうか。
 セイラー航海国の田舎町ガリウムは海に囲まれた小さな島だ。人口も少なく、島民はその日食べる魚を釣って夜はウクレレをひいて暮らす静かな田舎町である。
「ここがつい数時間前までカジノホテルを中心としたバブリーなリゾート都市だったなどとは……とても思えんな」
 海鳥の鳴く港のカフェ。否、カフェなどと名乗っているが船を寄せるための小さな桟橋とオープンテラスとは名ばかりのウッドデッキに背の高い木製テーブルだけが置かれたスペースに、ウーティス(p3x009093)は立っていた。
 手すりすらない。この場所に腰を下ろして釣り竿を垂らせば、人によってはきっと何日も時間を潰せるだろう。
 その後ろでは、ゼスト(p3x010126)が未だに困惑した様子できょろきょろとしている。
「さっきまであった都市は!? 自分が守ったあの街並は!? 妙に凝った作りの階段があった公園は!? そもそもここは本当にガリウムなのでありますか!?」
「うん……まあ、初めて見たら、そうなるよね」
 打って変わってジェック(p3x004755)は冷静そのものだ。
「皆さんは初めてではないのでありますか!? よくあることなのでありますか!?」
「稀によくある、と言ったら嘘になるな」
「どっちでありますか!?」
 フッとニヒルに笑うウーティスの横で、ジェックが『どっちもだよ』と言った。
「この世界……ROOでは、たまにこういうバグが発見されてた。
 死んだ筈の人が生きていたり、さっきまであった街並が全然別の街並に変わっていたり。
 これをアタシ達は、『リセット現象』って呼んでる」

 ROOが何者の影響で歪んでしまったのかが判明した一方で、『だとしても理解不能なバグ』が山のように存在している。
 鋼鉄帝国を襲ったDARK†WISHを初めとする大規模なバグもそのひとつだ。あれは『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュというこの世界の『生きたバグ』とでも言うべき存在がおこしたものだ。
「今、世界のあちこちでこの『リセット現象』が起きている。対象は人も物も含まれるが、時として『記憶を持ったままリセットされる人間』が存在する。俺の秘書ティアンがそうだった」
 崎守ナイト(p3x008218)はろくろを回すポーズでそう語った。
 突然現れて突然ろくろを回し突然話を始めたのでほぼ全員二度見したが、一(ニノマエ)(p3x000034)はなんともないという様子でそれに情報を付け加えた。
「それが報告書にあったアストラルレイヤーですか? 魂の階層……いえ、『魂の記憶領域』とでも呼びましょうか。まるで輪廻転生ですね」
「つまり俺は『外部記憶で補完された』と?」
 赤いジャケットを羽織った加羅沢昭利が困った顔で言った。
 彼には『耀 英司のアバター』H(p3x009524)の先輩スーツアクターであり、特撮番組レッドジャスティスの主役を務めた人物でもある。その二重メタ構造がROO世界に取り込まれ反映されたことで、彼は『二つの人生を生きた記憶』をもった人間として生成されていた。
「加羅沢さん。アンタは紛れもなく加羅沢さんだ。俺の出身世界で、俺にスーツアクターのイロハを教えてくれたあのひとと同じ目と信念をしてる。
 であると同時に、本物のレッドジャスティスでもある。実際、アンタは一度『リセット』を受けたんじゃないのか?」
「…………」
 ニノマエは当時のことを思い出す。この世界で出会ったレッドジャスティスが、目の前で消えてしまった瞬間を。表だって言いはしないが、レッドジャスティスは(ニノマエのアバター元の)アルプスローダーの出身世界における相棒である。
「なあ、ジェック」
 コータ(p3x000845)がどこか重々しく切り出した。
「ジェックはもう、何かに気付いてるんじゃないか? オレたちはただクエストを追っかけてたわけじゃない。そのたびにデータを収集してきた」
 ジェックはコータや仲間達の視線を受けて、頷いた。
「そう、だね……アタシたちはずっと答えを聞こうとしてた。けど、アタシたちは『もう答えを聞いてた』んだ。隠されていただけで」

 ――クエスト『<イデア崩壊>ぼくとあなたのハッピー・エンド・ロール』にて情報改ざんの形跡が見つかりました
 ――ジェック(p3x004755)アイ(p3x000277)による解読が行われました
 ――解読結果を表示します


「お久しぶりね、エイスさん」
「……久しぶりだね、蛍」
「……だれ……?」
 睫を震わせ、笑みとも泣き顔ともつかない表情で僅かに歩き出すエイス。
 そっと後退し、屋上の扉へと近づくエイス。
 そのとき扉が向こう側から破壊され、珠緒が姿を現した。
 だが扉は向こう側から破壊され、珠緒が姿を現した。
 珠緒はちらりとROO珠緒へと視線を向けてから、次にエイスへと目を向けた。
「姉ヶ崎エイスさん。貴女に伺いたい事があり、罷り越しました」
「ボク達の<八界巡り>を利用して、貴女が成そうとしていることは何?」
 代表して問いかける蛍。加えて、珠緒も問いかける。
「珠緒(わたし)たちを含むかの8人に対し、貴女が望むもの・願うことはありますか?
 答えを聞き向き合い方を決めねば、どんな顔で噴水前に行けばよいかわからないのですよ」
 求めてやまない、彼女たちが追う『秘密』の中核である。
 対して、姉ヶ崎エイスは……震えた声で首を振った。
「伝えたいの。伝えたいのに、届かない……」
「あなたたち、誰? しらない、そんなの……」
 ごまかしているようにも、嘘を言っているようにも見えなかった。
 だからこそ。
 『この情報に答えようとしているからこそ』、わかることがある。
 『この情報に何の理解も示さないからこそ』、わかることがある。
 珠緒の理解と蛍の理解は同時だった。
「エイスさん。あなたは、誰ですか? ……一体『いつ誰に作られた』のですか!」
 エイスはゆっくりと首を振った。
「そうだよね……やっぱり、私とはいるレイヤーが違うんだね……。
 けど、言わせて。みんなと過ごした時間は、嘘じゃなかったよ。
 みんなの記憶から消えてしまっても、全部なかったことになったとしても。
 私は、ずっと待ってるからね。噴水の前で……」

 同時に、本校舎から爆発が起きた。
 生徒の多くが逃げた事を確認してからより派手な破壊にうつったのだろう。
「とにかくここは危険よ。今すぐ――」
 蛍が呼びかけようとした、その瞬間に。
 空に亀裂が走った。
「そっか、また見つかっちゃったんだね」
 まるで本来のエイスが見えていないかのように、蛍たちは別の方向にむけて語りかけている。
 そんな彼女の前に立って、視界のまえで手を振ってみせる。
「私達は本来、この世界にいちゃいけない存在なの。『混沌世界から存在すべてを弾かれた』のが私達。
 みんなが『イデアの棺』から私の情報にアクセスしてくれなかったら、私は世界すら知らずに情報の海に漂っていただけだったかもしれない。
 けど、ごめんね。
 そのせいで、私、夢ができちゃった。
 イデアお兄ちゃんと一緒に、平和に暮らす夢が、できちゃったんだ。
 世界のどこも、それを許してくれないけれど……」

 バキン――と、ガラスの割れる音がした。
 ガラスのように空が割れて、海のように空がうねって、世界に大きな亀裂が入った。
「私を見つけてくれて、縺ゅj縺後→縺』
 という声が、亀裂の向こうから聞こえた気がした。
――エリアリセットを開始。@姉ヶ崎-CCC
――外部に出力される情報を検閲します。
――また失敗した。お兄ちゃんが生きているだけでエリア内のデータが許容値を超えてしまう。『もう一人の私』にも仮想ログインできない。
――清水博士に気付かれるのも時間の問題だ。急がなくちゃ。

 ――<イデア崩壊>に進展がありました……

 ――Tower of Shupellで新たな情報がもたらされました!
 ――隠れ里クスィラスィアの探索に出掛けていたイレギュラーズが帰還したようです。
 ――<グランドウォークライ>の祝勝会が開かれています!
 ――スチーラー鋼鉄帝国史上初の『鋼鉄皇帝総選挙』が始まります!
 ――<マジ卍文化祭2021>が開催中です!

これまでの再現性東京 / R.O.O

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