シナリオ詳細
<灯狂レトゥム>検索してはならない
オープニング
●http://adept???.net
――希望ヶ浜の怖い噂を教えてくれ
1:以下、希望ヶ浜住民がお送りします 2020/0?/??(?) xx:xx ID:p3pxxxxxx
教わった所に調査に行く。
『飴村事件』を知っているだろうか。それはSNSや匿名掲示板上で囁かれてきた噂である。
その全容は知れず、どの様に検索せれど肝心の事件内容については何処にも存在しない。『口にするのも憚られる恐ろしい事件』としてそれは囁かれ続けた。
架空の事件である筈のに、それが恐ろしい階段であるかのように語れているこの事件ではあるが火のないところに煙は立たない。
検索ワードを変更しよう。飴村電信 代表取締役。
飴村 偲。実年齢は公表されていないが希望ヶ浜では通信事業を営む飴村一族の女社長である。
彼女には一人息子がいた。名を、飴村 禊。彼女は禊を18歳の頃に『不慮の事故』で亡くした。
若くして命を落とした跡取り息子を惜しみ、その苦しみから静羅川立神教に入信した熱心な信者であるという。
そのプロフィールを眺めていた楊枝 茄子子(p3p008356)は「この人、飴村事件とどんな関わりがあるの?」と問い掛ける。
「飴村第三ビルは『自殺事件が起きた東浦区センタービル街』の中でもテナントが突如として全て立ち退いて廃ビル同然になった場所です。
そして、事件現場でもあります。そのビルの所有者こそが飴村 偲。
そして――『飴村事件』の名の通り、彼女の一人息子が亡くなった事件が起きたのもそのビルです」
飴村 禊は変死体として飴村第三ビルで見つかった。『飴村さんが死んでいた』という噂から流れるようにして飴村事件は始まった。
そうして、それは新たな夜妖を呼び寄せる。
「飴村第三ビルのとある場所より、『異界』に通じる場所があると言われています」
真城 祀(ましろ まつり)――澄原 水夜子 (p3n000214)の従兄である青年は情報を舐めるように告げる。
彼の傍らに座っていた若宮 蕃茄 (p3n000251)は酢昆布を囓りながらその情報を聞いていた。
「それ、本物の異世界じゃない。夜妖が作り出しただけの、ただの歪み」
「そうですね。真性怪異などが作り出した歪みと言うべきでしょう。
通常ならば簡単には迷い込めない場所でしたが、迷い混む切欠が出来た――それがこの自殺事件です」
渋い表情をしたのはミザリィ・メルヒェン(p3p010073)であった。飴村ビルから『飛び降りる』事になった彼女はしにゃこ(p3p008456)に引き上げられる前に確かに『異界に繋がっている感覚』がしたという。
「無数の自殺によって、あのビル自体がそうした怪異の巣窟に変化したと言うことですか」
「……有り得なくはないでしょう。内部を歩き回っていたのも静羅川立神教の関係者です。
自殺志願者――死こそ救済だという死屍派の教義に理解を示せば彼等は歓迎してくれたのも頷けます」
まるで、此処に入れば直ぐに死ねるとでも言ったような言い草でボディ・ダクレ(p3p008384)を歓迎したのは務史と名乗った男だったという。
「飴村ビルには何時でも来ても良いなんて、案内まで貰ったけどさ……『行かない方が良い』場所なのはたしかなんだろ?」
行かない方が良いからこそ、行った方が良い。
本来ならば駄目なことを繰り返す事で魔を呼び寄せるとはよく言ったものだとシラス(p3p004421)は渋い顔をした。
「行かなきゃ」
呆然と呟いたのは越智内 定(p3p009033)。
「なじみさんが、飴村事件って言ってた」
「……『怪異の世界』に、言ったんだね。まだ私達に頼れないって言ってた。
屹度、巻込みたくなかったんだ。危険だって分かってるから――でも、行かなきゃ」
笹木 花丸(p3p008689)は悪戯めかして笑った。だって、私達ってお節介しないといけないみたいだからね、と。
●
澄原病院の応接室で珈琲を傾けていたのは佐伯製作所に勤めているという草薙 夜善という名の青年であった。
澄原 晴陽 (p3n000216)の幼馴染み兼『元』婚約者だという彼は晴陽とは現在も交友があり、此度の静羅川の情報を晴陽に流したのも彼だという。
「俺が調べたいのは『静羅川 亜沙妃』。教祖であるはずの女性だよ。
表舞台に出てこないことが少し気になってね。亜沙妃が隠れているならば、実質のトップを探れば次に行き着くのは死屍派のリーダーだ」
夜善に「どの様な人物像かは分かって居るのか」とシラスは問い掛けた。
「勿論。良い情報の伝手があってね」
微笑む夜善を能面のような表情で見詰めている晴陽にサクラ(p3p005004)は居心地が悪いと頬を掻いた。
「えーと、じゃあ、その人の名前は?」
「――地堂 孔善と名乗る旅人だ。女性、だと言われているが不明。年齢も20代そこそこだが不詳。
死こそが救済という教義を持ったカルト教団の教祖であり始祖ではあったが、元の世界では斬殺された……筈だった」
淡々と語ったのは國定 天川(p3p010201)その人だ。「詳しいね」と肯く夜善はその言葉を続けた。
「その通り、地堂に行き着く可能性が高い。俺としては死屍派の活動を停止させ、地堂たちが信仰する怪異を祓う事が目的だ」
「……怪異?」
問い返した水瀬 冬佳(p3p006383)に夜善は「真性怪異」と繰り返す。
「まさか、真性怪異が地堂とやらの体を操っていると?」
「普通はそうなるはずが相性が良くて地堂と共存している可能性が高いかな」
「厄介だな」
実に困った話しだと恋屍・愛無(p3p007296)はぼやいた。静羅川立神教の死屍派が突如として頭角を現した理由が申請か飯田というならば納得できる。
そこまでどうして夜善が情報を持ってやって来たかの方が疑問で仕方ないが――
「情報はあってもどうやって大元にまで辿り着くのかしら?」
先生として生徒を救いたい。見過ごせばP-tuberのフォルトゥーナのように『子供達を巻込む』可能性さえあるのだ。
渋い表情を見せたアーリア・スピリッツ(p3p004400)に夜善は「死屍派の信者と距離を縮めて貰うことが先決だと思う」と言った。
「例えば、祀さんと一緒に飴村ビルの怪異事件を解決し、綾敷さん、だったかな? 猫鬼の娘さんを取り戻すのも必要だ」
「なじみちゃんが関係あるの?」
「猫鬼は猫の蠱毒――つまり、強い呪詛から生み出されて居る怪異だ。その手法も死が付き纏う。死屍派は死に纏わっているだろうからね。
猫鬼自体が何らかの儀式の一端に組み込まれているか、もしくは『そうされた後の産物』だったりするかのうせいはあるだろう?」
あくまでも憶測だと笑う夜善にサクラは晴陽の見解が聞きたいと振り返った。
「……確かなことは言えませんが、私は後者かと」
「つまり、ルーツこそがそこにあるかもしれないんだな」
猫鬼の全容を解き明かせばなじみの生存率が上がる。そして、猫鬼にも生存の道を作りたいと願っていた仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は深く考えるように呟いた。
「なじみを連れ戻すまでは分かった。それ以外に何かあるか?」
「情報提供者曰く、フォルトゥーナと『恋叶え屋さん』八方 美都は此方との接触により警戒し合流しようとしているようです。
その双方に接触し、地堂の情報や次回の集会についての情報を得ておくことも必要でしょう」
恋叶え屋さんこと八方 美都はフォルトゥーナと合流するそうだが――彼女は気が向いたら声を掛けてくれとアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)に告げて居た。だが、決まってパートナーを選択してきて欲しいとの事である。
「『二人必要』なのは蠱毒は一人では成り立たないから、だったりするのかな」
ぼやいたアレクシアにアーリアは「なんてこと」と引き攣った声を上げる。
「でも、美都君たちとの合流を行なえば次の静羅川立神教の集会に潜入できる可能性があるんだよね」
「……早く対策を打たないとね」
茄子子は「蕃茄?」と呼びかけた。
「フォルトゥーナは誰が後ろに着いてるか、分かってたよ。蕃茄たちが希望ヶ浜学園や佐伯製作所と関わりがある事とか。
それ以上に、澄原病院が噛んでることとか。はるちゃんも、みゃーこも、皆そう。巻込まれる可能性はある」
蕃茄はだからこそ、早期に接触し『集会への参加』を出来るようにと美都とフォルトゥーナとは親交を深めた方が良さそうだと告げた。
「元気、ないね」
こっそりとした定の呼びかけにカフカ(p3p010280)は「まあ」と引き攣った声だけ漏した。
――どうしてだろう、目の前に。ほら。
有り得なかったはずの蟲の姿がずっと、ずっと、ずっと。張り付いて離れない。
「は、は、なんやろなあ……」
そんな会話を繰り返す二人を余所に、情報提供者だという少女が室内へと入ってくる。
(――なッ!?)
手を震わせて、奥歯を噛み締めた天川の前に立っていたのは九天 ルシア。
静羅川立神教の信者の一人であり地堂 孔善と國定 天川、越智内 定と同じ世界から召喚された『天川が殺し損ねた女』であった。
「九天 ルシア。よろしくね」
「九天さん……?」
元クラスメイトを見て定は呆然と呟いた。ルシアの表情が明るくなり、薄暗い笑みが宿される。
――ああ、正解だった。
唇がそう動いた後、彼女は笑った。
「『今は』協力、してあげる。……フォルトゥーナと美都の場所なら分かるし、飴村ビルにだって着いていってあげるから」
- <灯狂レトゥム>検索してはならない完了
- GM名夏あかね
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年01月16日 22時05分
- 参加人数30/30人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
リプレイ
●白椛大学東浦キャンパスI
何食わぬ顔で珈琲を飲んでいる九天ルシアは行儀悪く椅子に腰掛けて脚をぶらぶらと揺らしていた。
その仕草を見れば成熟していない彼女の精神性が良く分かる。焼き菓子なども用意されているが彼女は手を付けず珈琲だけをちびちびと飲んでいた。
それが数時間前の話しである。
「八方の居場所を効率よく探すのなら九天に頼らざるをえんのか……全くなんて状況だ……」
思わず呻いた『死屍の気配』國定 天川(p3p010201)は澄原病院にて接触した彼女の様子を思い出して頭を抱える。
彼にとっては九天ルシアとは亡き妻と息子の仇の一人である。あれほど年若い娘が何らかの影響を及ぼしたとまでは言わないが、元世界での彼女は特異な能力を有しており信者達の扇動に大いに役立っていた。詰まり、渦中の人間そのものだったのだ。
だが、天川は彼女にトドメを刺し終えなかった。未だ年若い娘の命を狩り取ることに途惑いを覚えたとも言えよう。それが災いしたのかと男は頭を抱え、まだ中身の入っている煙草箱をぐしゃりと握り潰した。
「天川さん、眉に皺が寄ってますよ」
「タイム嬢か……すまん……そんなに酷かったか?」
何かが起っていて、得体の知れない空気を感じる今だ。運命という手綱を握られているのは心地悪いと『この手を貴女に』タイム(p3p007854)とて感じている。イヤだな、とは思いながらもどうにも思い詰めた表情の『同僚』が気になった。
希望ヶ浜の東浦区、白椛大学東浦キャンパスの学内に存在した自販機で缶コーヒーを購入しタイムは天川へと手渡した。
「少しだけリラックスしてから行きましょ?」
「……ああ、そうだな。珈琲有り難うよ」
ブラックコーヒーを眺めてから天川は心配掛けちまったと苦い笑みを噛み殺した。
そしてゆっくりと立ち上がる。仕事だ割り切れ。タイムにも言われただろうと己の心を抑えるように深く息をつく。
「八方美都の居場所が知りたい。思うところもあるかもしれんが協力してくれ」
天川を眺めてからルシアは「はい」と小さく返した。まるで『彼を連れて行くことが仕事』だとでもいうように笑って――
東浦キャンパスには様々な学部が入っているらしい。理工学部と生物学部、心理学部に経済学部、etc。
多種多様な学部を共存させることで選択の幅を増やした総合大学とでも言うところだろうか。先ずは図書館、次は食堂と構内を巡るのは『薄紫の花香』すみれ(p3p009752)。柔らかな母譲りの菖蒲色の髪を揺らしたすみれは聞き込みや連絡も積極的に行なうと決めていた。
ルシアを頼れば八方 美都やフォルトゥーナとの接触は容易だろう。だが、それよりも気になることがあった。
「蟲……」
思わず呟いたそれ。以前の報告書は澄原 晴陽に言えば容易に見ることが出来た。彼女はイレギュラーズが纏めた報告書を再編し直し、協力者に確認を促していたのだ。
「蟲、気になりますね」
偶然その場に居合わせた『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)は呟いた。東浦キャンパスに怪異事件が存在すること自体は再現性東京である事からしても不思議ではない。
八方 美都の『お願い』も彼女自身に承諾の意思はまだ伝えては居ないが、有り得て然るべきだと冬佳は考えていた。だが、巨大な糸を吐く大きな蟲。晴陽の話しにもあった患者、そして東浦での一件。
「あれ以降のカフカさんの様子は気になるものの、キャンパスの何処かに何か居るというのは確からしい。
『おねがい』……警戒され始めたのなら、普通に考えれば罠ですが……静羅川立神教における彼女の立場次第では必ずしもそうとは限らないか。
鬼が出るか蛇が出るか、蓋を開けてみるしかなさそうですね。探してみる価値はある」
名を呼ばれたのは自販機の周辺で項垂れながらもコーンポタージュの缶を逆さに向けて中身を確認していた『無視できない』カフカ(p3p010280)であった。
キャンパスに入った途端に悍ましい程の寒気を感じた。身の毛もよだつ。俯き加減ではあるが「美都ちゃんや他の学生が見たっちゅうのは本当みたいやな。めちゃくちゃ気配感じるわ」とぼやいた。朧気に何処に居るかも分かりそうで苦しい。
彼は、その蟲を知っていた。
いや、言い換えようか。『彼がその蟲を連れて遣ってきた』のかもしれない。
カフカが混沌世界に来てから一度も遭遇していなかった巨大な蟲。アレはカフカの世界特有の生物であると考えていた。
雨の荒む中、暗がりの路地裏で彼が目にした巨大な蟲。出会ってしまった『怪異(それ)』。
大怪我を負って死にかけたカフカの眼前に存在した巨大なそれは糸を吐き、佇んでいた。それ以来、カフカは巨大な蟲が苦手だった。
(……それに、アイツにあってから、俺は良くも悪くも生き汚くなった。怪我とか病気しにくくなったのはええけど、明らかにおかしい。
うわぁ、会いたないなぁ、なんて、言うてられへんよなぁ)
思い浮かべたのは東浦センタービル街の飴村第三ビルに向かった『綾敷さんのお友達』越智内 定(p3p009033)の事だった。彼と、友人でもある綾敷 なじみの姿が脳裏に浮かぶ。
姿を消してしまった彼女。思えばそれこそが全ての始まりだった。『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)はカフカの手から空になったコーンポタージュを受け取って己の手にしていた空き缶と共にゴミ箱に放り投げる。
「まったくもう、なじみちゃんのお馬鹿さん」
呟いた。aPhoneのカレンダー表示は12月だが『クリスマス』の手前だ。年末にさしかかり冬休みも近くなった頃だが課題に追われる学生の姿は多々見受けられた。
「恋する若者にとって、シャイネンナハトは年に一度の特別な日なのよ……帰ってきなさいよ、もう。
ジョーくんに一人のシャイネンナハトを過ごさせるなんて、酷い女だぜ? ――なんてね」
唇を尖らせた。12月15日にもなれば、そろそろ冬の予定が気になる頃だ。
「……早く帰ってこないと、プレゼントのクッキーの賞味期限も切れるし、勉強追い込みの為のブランケットも必要なくなっちゃうわよ、もぉ」
唇を尖らせたアーリアに「何処で何してるんやろうなあ」とカフカは呟いた。冬空を眺めてから、これからの行動について考える。
八方 美都との接触。そうする事で蟲への道が拓けるだろう。
「さ、行こう。夜善さん」
『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)の声かけに草薙 夜善は「置いていってくれても構わなかったけれど」と唇を尖らせた。
「夜善さんもしっかり協力してよね! 晴陽ちゃんもきっと見直し……じゃなくて凄いと思ってくれるよ!」
「……それも悪くはないか」
ぼやく夜善にサクラは嘘は吐いていないと呟いた。そう、嘘は吐いていない。晴陽側からの『脈』はなさそうだが、協力者としての株があがりそうである。それよりも気になるのは協力者である九天ルシアの事だった。
「彼女……ジョーくんの元クラスメートらしいけどなんだかちょっとヤな雰囲気を感じるのが気になるけど……」
「ああ、静羅川の子だからなあ」
夜善はさも知っているとでも云うようにそう言った。彼は様々な調査を行なってきたのだろう。『夜善の協力者』ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)は「それじゃあ、吾輩は『静羅川亜沙妃』を調べることですかな?」と講義室に向かおうとする夜善に問い掛ける。
「ああ、そうだね。亜沙妃が一番の鍵になるはずだ」
「了解ですぞ。元はと言えばなじみ殿を探すために動いていた筈ですが、何時の間にやら妙な展開になってきましたな。
今吾輩がわかる範囲のヒントは病気を引き起こす蟲が事件に関係してそうということ位。
夜善殿はええと……『死屍派』のトップである地堂 孔善と接触をするつもりなのですよな?
ならば吾輩は美都殿達に接触し、地堂の情報を深めるとっかかりを作ってきますかな」
「そうしてね」
ひらひらと手を返した男は何だかんだで若い女子とペアになった事を喜んでいるのだろうか。サクラは「だから晴陽ちゃんの脈がないんじゃ」と小さくぼやいたのだった。
夜善は孔善の名を余り口にする気は無いのだろう。言霊はめぐり巡ればそれとの縁を繋ぐ切っ掛けになる。
追掛け、接触を目的にして居ても準備のない段階では余り接触したくはなさそうだ。
「了解ですぞー! 夜善殿! いい情報が入ったらaPhoneで連絡しますぞ!
あ、吾輩美都殿の場所がわからないので、九天殿にあったら場所聞いといてください! んでもって連絡シクヨロですぞー!」
講義室を粗方回ってくると手を振って去って行ったジョーイを見送ってから『黒き葬牙』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)と『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は顔を見合わせたのだった。
ルシアからの情報がaPhoneで回っている。彼女は離脱し飴村ビルに向かったと言うが美都との待ち合わせ場所は設定されているようだ。
●飴村ビルI
「うおー、何このビル! 田舎の都市開発な感じで取り残された感いいぞー」
東浦区は狭苦しい再現性東京の中でも郊外都市にロケーション設定を置いているのだろう。草臥れた印象を受けるビルを眺めて『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は大仰な反応をして見せた。
「うーん、前に来た時よりも状況が悪くなってるんだね……。怪異はこれだからタチが悪いよ、何が起こるか判らないから」
呟いた『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)に「寧ろ俺達が来たことで存在が確立されたのかもしれないな」と『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は返した。
怪異というものはその存在を認識されることで初めて現実へと染み出す存在でもある。複数のイレギュラーズがこの場所に不和を感じた事で異界への扉が開いたと考えれば易い事だろうか。
「夜妖までいるのですね」
入り口にはシャッターが降りていたが従業員用の通用口部分だけは開かれている。『飴村事件の欠片』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)は周囲を見回してからゆっくりと内部へと入った。
幾人ものイレギュラーズが同じように敷居を『跨ぐ』。まるでそれ自体が儀式染みていると感じながら『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は『飴村第三ビル』へと入った。
「飴村第三ビル……以前依頼で訪れた怪ビルとも関係性はあるんだろうね。
なじみさんが言ったんだ、飴村事件って、此処に何かがあるのは違いない」
調査するためにもこのビルの怪異事件を解決しないと。そう呟く定の傍には『なじみさんの友達』笹木 花丸(p3p008689)と『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)の姿も見える。
「それにしても九天さんまでこっちの世界に来てて、しかも静羅川の信者だなんて。
元の世界ではそんなに接点は無かったけれど……協力してくれるって言うし。
テロなんて起こした組織だって言うから身構えていたけれど、派閥によって差があるのかもしれないね」
「……」
あっけらかんとしている定を見てから花丸は悩ましげに前を進むルシアと定の背中を眺めた。先んじて白椛大学に向かっていた彼女は美都との合流を目指すイレギュラーズに『落合う場所』を指定してからわざわざ此方にやって来たらしい。
「九天さん、気をつけて」
「はい、ただしくん」
ぼんやりとしている彼女は定の元クラスメイトらしい。今は協力してくれるとも宣言しているが――天川の様子はおかしかった。
ルシアを見た途端に険しい表情を作り、異物を視るような目をして居た。彼のその反応に覚えがあるのか晴陽もどうした事かと悩むほどでもある。あの女医がそこまで考え倦ねるのだ。九天ルシアは唯の『クラスメイト』ではないはずだ。
「悩んでても仕方がない、かな。先ずは目の前の事から一つずつ……だよね? それじゃ、お節介しに皆でいこっかっ!」
にんまり微笑んだ花丸は定のサポートをしながら屋上に向かうと決めていた。後ろから子鴨のようについて遣ってくるルシアを一瞥してから寛治はふうと息を吐いた。
「定さんは捜索に集中を。バックアップは私が」
アーベントロートの一件では彼に随分と助けられたと認識している。それを借りだとすれば、返す番であるのは確かだ。
aPhoneの地図アプリを開いた寛治は「役に立ちませんか」と呟いた。位置設定が何故か何処かの山になっている。方角も認識していたものとバラバラだ。ストップウォッチは『まだ』正常に起動しているようである。
「どちらも放っては置けないがすぐに対処した方がいいのはこちらだろう。
なにやら最近きな臭いと思ってはいたがこんなことが起きていたとはな……」
違和感ばかりだと『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は呻いた。この空間を突破して屋上に辿り着けというのだから一般人が迷い混んだならばただでは済むまい。
(仮にも今の私の立場は希望ヶ浜学園の教師。生徒に危険が及ぶかもしれない現状を良しとはできない。
元凶を止め、死が救済だとぬかす阿呆共を止めねば――だから何としてでも上へ行かせてもらうぞッ!)
ぎり、と奥歯を軋ませたブレンダは身を隠す。ずりずりと何かを引き摺る音が過ぎ去った。
何処か遠くで「ぎいいええああああ」と叫び声が聞こえた気がしたが、気のせいだろうか。いや、気のせいではない。ブレンダはそれが『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)のものであると気付く。
「なんかよく解らないですけど屋上へ向かえばいいんですね!?
楽勝じゃないですか! ジョーさんが屋上へいくじょー!! なんつって! へへっ」と。
楽しげな声を弾ませていたしにゃこは定を少しでもリラックスさせようとしていたらしい。
「ちょっとした美少女ークですよ! でもマジでリラーックスですよ! なんかこの陰気に飲まれちゃいそうです!」
にんまりと笑った彼女は何かを引き摺る音に気付いたが話し声に反応されたのか少しばかり追い回されたらしい。だが、普通の夜妖で良かったと『蹴り付けて』事なきを得たようだ。
外で、天を仰いだのは『ぬくもり』ボディ・ダクレ(p3p008384)。
「随分と異常な異界があったものです。
こんなモノが飛び降りた先に待っているなら……なんとも救われない、ような気がします」
目的は異界の破壊。そして先の探索で出会った『務史』と云う名の男だ。飴村ビルのオーナーの友人であるならば何らかの役割を担うはずだ。
「前もこのビルには来たはずですが、かなり光景が違いますね。それに何だか、“上”からの気配がおかしい」
「でも、外からでは『変わりない』みたいだ」
そう言ったのはЯ・E・D。素直に提示されたルール通りに進むのも構わないが、ひねくれた行動をしてみるのも吉だ。
何せ相手は規範外(ルール違反)。怪異という存在は往々にして人智の及ばぬ存在である以上ルールになど従わないだろう。
飛行をし、異界には巻込まれない範囲を見定める。ビルの屋上を外から眺めたが変化がない。
「変化はありませんでしたか」
ボディの問い掛けにЯ・E・Dは頷いた。「上から行ってみようと思う」と規範に外れた行動を取ると決めたЯ・E・Dに「ご武運を」とボディは言った。
●白椛大学東浦キャンパスII
「そして、元凶であろう静羅川立神教に近づき、連中の狙いを掴み、手段ごと根こそぎにする!
段階を一つずつ踏んでいかなきゃなんねえのがめんどくせぇ……悪い奴が現れた! ブッ刺した! 解決! ってくらいなら楽でいいのに……ハァ」
嘆息する『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)ががくりと肩を落とした後、己の頬をぱんと叩いた。
「――っし! ぼやいても仕方ねえ! やれることやってくぞ!」
「そうしましょう」
穏やかに微笑んだ真城 祀を『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)は鋭く睨め付けた。
水夜子が居れば怪異に関しては指南してくれるだろうが彼女は生憎関わっていない。晴陽が敢て水夜子を調査から外したのかも知れない、と『むかつく奴』を視線で追掛ける。
「愛無さんは何方と接触しますか?」
「フォルトゥーナ。年齢にしろ何にしろ。
見た目通りの『中身』という訳でも無さそうだが。見た目相応に子供じみた神経質さや驕りも感じさせるというのが初対面の印象か。
信者の獲得という点において複数の手段を用いるならば教団内に派閥のような物も存在するのか?
『人質』を取る点を踏まえ座標を警戒はしているだろうが。自身の優位性を確信しているような甘さもありそうだ」
「あ、そうか」
風牙はぽつりと呟いた。派閥が存在しているからこそ、蟲や恋叶え屋など様々な信者獲得手段を使用しているのか。
教祖たる『静羅川 亜沙妃』という女は死屍派に対してどの様に動いてくるのだろうと気になってくる。
静羅川 亜沙妃――
それはベネディクトが調査の折に聞いた名前だった。静羅川立神教の教祖とも言われている彼女だが、その情報は明らかに為れていない。
「さて、俺達が覗き込もうとしている深淵は一体どれだけ深いのか」
「ご主人様」
見慣れた姿を確認し「リュティス」とベネディクトは顔を上げた。
先ずは晴陽の元に向かい、白椛大学について確認したリュティスは晴陽からある程度の情報を仕入れてきたらしい。
白椛大学は希望ヶ浜に根ざした総合大学だ。キャンパスは二つ。東浦地区と、あとは遠方に存在するらしい。
『それにしてもデスマシーンじろうくんでしたっけ? 凄い威圧感ですね。
危害を加えたりはしないのしょうか? ……今日一番の衝撃かも知れません』
『護衛役なのですよ、この子は』
そんな話しを添えて。ベネディクトに報告をするリュティスは柳眉を下げた。デスマシーンじろうくんの存在が頭に残りすぎて妙な感覚に陥ったのは気のせいではない。
「美都様の元へと向かうようですが、ご一緒なさいますか?」
「ああ。臆していても始まるまい。結局は踏み込むしかないんだ。なら、最悪の事態にならない様に気を付けて依頼を遂行するだけだからな」
二人が進む先に立っていたのは『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)であった。彼女は『恋叶え屋』さんである美都の客として接触する積もりらしい。
「ここは素直に、八方 美都クンの『おねがい』とやらを聞くことにしようか。
……うん、未だ独り身だし、結婚とは言わずとも気の合う異性の知り合いくらいはほしいのだよ、私としても」
そう呟けば美都もその様に扱ってくれるはずだろう。指定された講義室で一人の少女が悩ましげに唸っている。
「しかし困りましたね。恋人というものは残念ながらおらず、私自身も今は作る余裕はないのです。その理由は、私を綺麗だという人がいてしまったら……」
自身が『血を奪う魔女』を抑えきれなくなるかも知れない――なんて個人的理由は云う事が出来ないと『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は口を噤んだ。
兎に角友人に離れたが、彼女と会うために誰かが協力してくれれば嬉しいとも考える。美都は必ず二人組で、と提案していたのだ。
(いいえ、そういう邪な考えはダメですね…ええと『実は私は一人で二人』なんて冗談ではダメ……ですよねぇ、きっと。
しかしどうあれ蟲については調べましょう……どこで糸が繋がっているのやら、ですからね)
ルシアが指定した講義室で待っているマリエッタは足元をまじまじと眺めてから窓の外を見た。花弁のような何かが散ったのは気のせいだろうか。
「恋叶え屋さんがどれ位の効力があるかは分からないが気になるのは私だけではないだろうね」
「うんうん。さて、集会の参加権利を得るには……やっぱ入信するのが手っ取り早いよなぁ。そうだなぁ……恋、叶えて貰っちゃおっかな〜」
飴村ビルは怖いし、宣戦布告はもうしたてしまった。『静羅川の敵』楊枝 茄子子(p3p008356)は詰まり、ルシアに接近して恋を叶えて貰おうかななんて考えていた。変装し、羽衣協会の関係者だとはばれないように留意する。
「あ、誰に恋するか決めてないや。
ん〜、真城 祀くんでいっか。既に静羅川に居るし色々都合良さそう。いやまぁ誰でもいんだけど。最悪その辺の一般人挙げてもいいし」
「今、凄い勢いで利用された気がしますけどね~?」
祀に「適当に出会いをでっち上げるから相談しておこうね」と茄子子は微笑んだ。イレギュラーズという身分を隠して接近することで他の情報が得られる可能性を狙っての事だと気付いて「面白いですね」と彼は笑うだけだ。
「でしょ。ホント、飴村ビルは怖いし」
「怖い。そうだな。いや正直言ってホラー感満載の逃げゲーする方が楽しそうなんだけどよォ。
でもほら、前後の話は一切分からねえケド、どうせ行くならオドロオドロしいビルより、フレッシュなキャンパスだろ?
つーワケで俺は蟲探しと洒落込もうぜー」
からからと笑った『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)は此方の世界の怪異は専門外ではあるが恐らくは骨子の部分が同じであり、大して困ることはないだろうとも考えていた。
「じゃ、蟲探しの依頼人に会いに行くか」
「そうしましょう」
車椅子に乗っていた『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)は思うところがあるように空を見上げる。剣靴を隠し、親切な人が話しかけてくれれば其の儘、情報収集に赴くという算段だ。
「……死にたくなったら相談して、ね……ふふ、面白いことをいう人もいたものだわ。一言二言言いたいこともあるしまた会いに行きましょうか」
そうだ。ヴィリスは『生きていたい』からこそこの脚になったのだ。何を云われようともヴィリスがヴィリスであるならば死は救済ではない。
(だって私はもう踊りに救われているんだもの。私にとって死はただの舞台の終わり。
きっと真っ当とは程遠いんでしょうね。でもいいのこれが私、『ヴィリス』だから――言いたいことをいうためにもやるべきことをしなくっちゃ)
学内での聞き込みを行って居るリュティスは静羅川立神教に対しての学生達の評判を耳にしていた。
新興宗教、良く分からないといった答えが大半であり『死屍派』に関しての情報は余り存在していないようでもある。
蟲に関しても心霊現象としてキャンパス内で囁かれているとの情報はあった。
「それよりさ、巨大な影が見えるとかあったよなあ」
「影、ですか?」
「猿みたいなやつ。なんかキャンパスを彷徨いてたとか……あれって心理学部が使う講義室とかゼミ室の方だったよな」
「あー、たしかに」
リュティスの耳に入った情報は、心理学部のゼミ室近くの心霊現象だった。黒く巨大な影が歩き回っていたという。
それは見ようによっては猿だったとか、はたまたゴリラであったなど多種多様だ。だが、皆が揃って言うのは其れに出会った後、体調不良で学校を休んでいる者が多いという事だった。
「念のためゼミ室がある場所に来てみましたが……」
「下から調査してみないか」
ベネディクトの提案にリュティスは頷いた。東棟の上階にゼミ室があるのだろう。下は美都が待ち合わせに使うという講義室があった。
そこから上へ、上へ。まるで『ビルを登るように』調査を繰り返す。
「あれ」
ゼミ室から丁度降りて来たのだろうか、売店で販売されていたホットスナックのポテトを囓りながら美都が姿を見せる。
「八方……」
「あれあれ、あー、希望ヶ浜学園の人ね」
はいはい、と手を叩いた美都は空になったホットスナックの袋をぐしゃりと丸めてからリュティスとベネディクトを見詰める。
「二人はお付き合いとかしてる? 縁結びとか興味ない?」
「……ご主人様と私は主従の関係ですが、縁結びとは?」
恋叶え屋。その存在であることは念頭に置いておかねばならない。リュティスが問い掛ければベネディクトも頷く。
「どっちかって言うと、信者増やすための慈善事業的な? まあ、人心っていうのは自分に利益があった方が揺らぎやすいでしょ。
あと、恋する人を見るのが好きなんだよねえ。幸せそうでしょ? だから八方 美都は恋をする人を応援したいだけ。それじゃーだめ?」
「いや。大丈夫だ。これから講義室に向かうのなら同行しても構わないか? あと、聞きたいことがあるのだが」
問うたベネディクトに美都はゴミ箱に塵を投げ入れてから「なあに」と振り向いた。手にはペットボトルが握られており、さっさと空にしてから捨てるつもりなのだろう。
「静羅川 亜沙妃と会った事があるか」
「……」
美都の視線が鋭くなった。たったそれだけで『存在している人間』だという事が分かる。美都は何も云わない。
「行こうよ」
くるりと背を向けた彼女が何かを隠していることをベネディクトは察していた。
●白椛大学東浦キャンパスIII
結ばれた人間。その後の話を聞くだけでも死屍派との関係が濃厚なのだ。事前に調べておきたいというのは当たり前のことだろう。
八方 美都の過去は何処にでもあるような不幸だった。両親の不和から、縋るように片親が静羅川立神教に触れた。そこから人生は下り坂とでも言ったところだろうか。
「死に魅入られたってところかな、善意でやってるなら質が悪い……誰だって死んだらそこで全部お終いに決まってるだろう?」
「そう、だね」
『竜剣』シラス(p3p004421)に頷いた『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は暗い顔をして居た。
事前に二人で接触することに決めたのはアレクシアに美都が連絡をしたからだ。
「やあ、恋を叶えてくれるんだって?」
結ばれたい一心でアレクシアとやって来たという設定だ。それには自身があるとシラスはアレクシアの手を握った。
アレクシアもシラスの手を握り返す。彼を一瞥してから「パートナーなの」と朗らかに告げる。僅かな緊張を感じるが、美都には見破られぬように気をつけねばならないか。
「……改めて、私も『連れて行って』もらえるかな? どういうことをしているのか、純粋に興味があるんだ……」
「そっちの子も?」
「ああ。恋叶え屋さんの『お願い』を叶えた後にでも」
シラスは頷いた。アレクシアはおずおずと美都を見詰める。愛らしい外見ながら毒がある。まるで彼岸花のような娘だ。
「……それに、美都君のことももっと知りたいしね。せっかく知り合えたんだし、もっと仲良くなりたいじゃない?
どうして『恋叶え屋さん』なんて始めたのかとか……色々と気になっちゃうよ。
もし他にも何か手伝ってほしいことがあれば、なんでもするよ……」
――人の命を奪う事以外なら。
そう含んだアレクシアの傍でシラスは美都の話しには全肯定していた。半信半疑から徐々に話しにのめり込んでく。
本当にアレクシアと『恋人になりたい』と相手に思わせればシラスの勝ち、演技だと思われれば負けなのだ。
(消えたカップル達の行方をトレスするつもりで危険に飛び込まなくちゃならない――最低限アレクシアだけ無事に戻れたらいい)
シラスは真っ直ぐに美都を眺める。彼女は「オーケー、じゃあ『蟲』を調査して欲しいな」と笑った。
「蟲?」
「そう、学内で体調不良射が出てるんだよねえ」
「うん。蟲は……こないだ私も見たアレだと思うけど。
形は覚えてるけど……どこから発生しているかを突き止めないといけないよね。体調不良が蟲に関連してるなら……そこからたどるのが良さそうかな」
ひらひらと手を振った美都はフォルトゥーナと合流すると笑った。ちら、とシラスを品定めするように見る視線がどうにもむず痒い。
「アレクシアがみた存在である程度のパターンを探そうか。耳を澄ませれば蟲の這いずる音くらい聞こえるかも知れないしさ」
「そうだね。蟲が倒せる相手なら、倒したいしね……」
二人の背後から近付いた『無貌の娘』。何処にでも居て、何処にでも居ないような、奇異な存在は美都を呼び止める。
「貴方が恋叶え屋さんで間違いないよね。私、貴方に恋を叶えて欲しくて……」
「勿論。パートナーは?」
「あの人」
aPhoneで出したのは祀の写真だ。少女――茄子子は若宮黄瓜と名乗り美都に接触していた。
(まだ敵のことほとんど何にも知らないしね。彼等には彼等の正義がある。
それを知ることで、どうやって信者の目を覚まさせるのかを見極めないとね。
……あと会長単純に他宗教のこと調べるの好きなんだよね〜。いいところがあったら羽衣教会にも取り入れよ)
目を覚まさせると言いながら、目的は『羽衣教会への入信』なのが茄子子の強かなところだ。
ルシアを頼り、講義室でイレギュラーズ達と同席する前に接触したのは敢ての行動でもあった。
茄子子は静羅川に潜入する事が目的だ。幾人か潜入目的の者も居るだろうが、彼女は身分を明かさずにその最奥へと進むつもりでやって来たのだ。
元よりパートナーとしてカップルの行方を追うべくやって来たシラスとアレクシアとはまた別の潜入経路だ。
茄子子は笑顔を貼り付けたまま、真っ直ぐにルシアを眺めている。
「片思いかあ」
ルシアはaPhoneに表示された祀の姿を見詰める。愛無には邪険にされていたが祀には中々価値がありそうだと茄子子は認識していた。
「そう。だから……いい?」
「勿論。集会の準備も手伝って欲しいなあ」
お代はそれで良いからと笑った彼女から彼岸花のカードを渡されて、茄子子は「勿論」と唇を吊り上げて、笑った見せた。
講義室に向かう前にヴィリスは恋叶え屋さんの評判について問うていた。どうやら、美都の評判は上々、それなりに友人の多い少女らしい。
ただし、静羅川立神教に入信しているのは頂けないが表だっては勧誘活動をして居ないようでもある。
「あの娘も可愛い子だよね――ケホ」
「風邪?」
ヴィリスが問い掛ければ迎えに来たすみれが「体調を崩されているならばのど飴はいかがでしょうか」と朗らかに笑ってみせる。
(やら蟲と出会した者は体調を崩す傾向にあるようですね。その実例がこちら、と。
……まあ生命力は高い方だと自負しておりますので、噛まれるくらいなら恐らく大丈夫でしょう)
ちら、と見遣れば青白い顔をした青年は「花弁みたいなの舞ってて、それ見てから調子悪いけど花粉症かな」と戯けたように言う。
「皆言うよね」
資料を手にしていた少女はあっけらかんとしていた。どうやら彼女は『花弁』のひとつも見ていない様子ではある。
(やっぱりなァ。先に空想がある。情報の広まりと共に尾びれが着いて、存在が確定する。
曖昧だった蟲の存在が確定しちまえば、俺等の偏見がデカい蟲を更にパワーアップさせる訳だ)
ブライアンはおとがいに手を当てて考え倦ねる。学生達と別れ、講義室に向かう最中にふと思い立ったように呟いた。
「蟲というカタチになるまでに、怪異そのものの存在に蟲へ対するイメージが属性として付与されてるんじゃねえかと思ってる。
足ワシャっててキモい。毒を持っていて触ったら皮膚が爛れる。
……遭遇すると体調が悪くなる、ていうのも、そういう類のモノじゃあねえかなと」
「もしくは本当にその様な能力があって更にそれが強まっているなどでしょうか」
すみれは何にしても出会ってみなくては分からないかも知れないとくすくすと笑って言った。
「お願いとやらを聞けば願いを叶えてくれると聞いて来た。願いを言って貰おうか。解決できるよう努力しよう」
講義室はイレギュラーズと、美都、そしてフォルトゥーナだけがいた。美都は驚いた様子ではあったがフォルトゥーナは「ルシアでしょ」と唇を尖らせ拗ねた様子でもある。
天川の申し出に美都は「そこまで聞いてるんだなあ」と呆然と呟く。どうやら美都とフォルトゥーナは懇意にして居るがルシア自体は別の目的で動いているようでもある。
「こんにちは、美都ちゃんにフォルちゃん」
にんまりと微笑んだアーリアはどうせ正体がばれているならば真っ向から立ち向かうことに決めていた。その背後には暗い表情のカフカが見える。
「蟲を探せばいいの? それならお任せ頂戴な、その代わり一つお願いを聞いて頂戴」
「なあに?」
可愛らしく笑ったフォルトゥーナを前にアーリアは悪戯めかして笑う。
「無関係な学生を巻き込むくらいなら、私を巻き込んで頂戴な。
肌艶は負けるけれど、きっとその辺の学生より私の方が『食べ応え(力)はあるわよ?』――なぁんて」
「いいんじゃない?」
美都はそう言った。「フォルちゃんもミトちゃんも『蟲』はどうでもいいでしょ」と彼女が言うのは何処か不思議だ。
「……蟲か。この間もその単語は耳にした覚えはあるが……どのような蟲だったんだ?」
美都に問い掛けるベネディクトは排除できる代物であれば倒してしまえば良いだろうと提案する。
蟲の詳細について問うた言葉に肩をびくりと跳ねさせたのはカフカだ。だが、彼は自分自身が蟲を知っていることを告げる気は無かった。
やぶ蛇だ。詳細を知らないが存在を知っているだけで彼女にマークされては叶わない。
(……近いな)
蟲が近いのは確かだ。共に探す者が居れば扇動することも吝かではないが――恐ろしさは拭いきれない。
「……さて、糸を吐く『蟲』、体調が悪くなる……とすると病を撒き散らす土蜘蛛が連想されるね。
それはともかく、美都クンに害をなしているとすれば、彼女とは敵対しているのかな?」
「敵対はしてないわ。ただ、営業成績は蟲の方が上かもね。深美さん達ってそういうアレだし」
唇を尖らせる彼女に「深美?」とサクラは問い掛ける。サクラからすれば晴陽の病院のこともある。出来れば蟲の事はさっさと対処してしまいたい。
蟲の目撃情報を調べるアレクシアとシラスがaPhoneを通じて仲間達に連絡をくれている。それを辿ればある程度の出現情報は得られそうだ。
蟲といえば、ちらついた花を思い浮かべるがヴィリスは車椅子では余り自由には動けない。そんな彼女に「君も来たんだねえ」とフォルトゥーナは気遣う様でもある。
「しかし、オレはてっきり『蟲』はお前等が生み出した、あるいは育ててるモンかと思ってたんだけどな……」
風牙に美都が「ええ~!?」と声を上げた。
「やだやだ、キモいでしょ!? 蟲だよ!?」
「フォルちゃんは蟲かわいーと思うけど、ミトちゃんは嫌いなんだよね」
「そう、5歳くらいの時に頭の上に芋虫落ちてきて、マジやばくない?」
けらけらと笑う美都に「やばぁい」とフォルトゥーナが手を叩いて笑う。その様子を見ていれば裏は無さそうにも思えるが――
(……実際にその通りで、オレみたいなのを『餌』として与えるためにこんなお願いをしてるのかもしれないが……調子狂うな。
まあ、何にせよ、もともと調査するつもりでいた存在だったんだ。ちょうどいいか)
普段着を着用しキャンパス内をくまなく捜索する予定の風牙は東浦キャンパスの怪奇現象を調べていたらしい。神隠し事件という文字列は目の前で笑っている女子の仕業だろうというのは確定的に明らかなのはさておいて。
(まあ、当てて砕くだけだ。僕の「日常」を脅かすモノは殲滅するのみ)
ある意味遣りやすい相手だと愛無はフォルトゥーナに「蟲の対処が出来たならば集会に参加したいのだが」と告げた。
「ええ?」
「僕は其れなりに利用価値あるんじゃないかな。強力な夜妖との貴重な共存例ではある。
人間ですらない。再現性都市に知り合いも多い。それって『人質』も多いって事だろうし。君も安心じゃないかな?
首輪もない連中は怖いだろうしね。まぁ、君がダメなら他の連中に持ってくだけだが」
「ミト」
「……そーだね、蟲。お願いした事が叶えば『お願い』コッチも聞いて上げるしさ」
にんまりと笑った美都に愛無は頷いた。
「情報を纏めても? ……大きな蟲。舞い踊る花弁のような無数の蟲。群体……目撃すると体調を崩す……。
花弁のように小さい群体で、人の身体に入り込んで病気を起こすと共に激しい眠気も引き起こす虫の妖怪……というものについては、心当たりがあります。名は確か…………そう、鬲虫」
冬佳は黒板に『鬲虫』と書き示した。チョークがぱきりと音を立てる。
「僕は蟲と聞くと先ずは何かの幼虫か蜘蛛の類かと想像した。
糸を張るという事は相手の領域に入る羽目になりそうだが。退路も含め警戒は必要か。病に蟲。そして猿なのか? 三尸を思い出すな」
「何にせよ、基本的には触らぬ神に祟りなし。
然程害のない程度な危険度だったと記憶していますが……患者や学生の話を聞くに、状況は概ね一致する。
由来は兎も角、他の妖怪・怪異を見る限り同種の存在がこの世界に居ても不思議は無いですね。
大きな蟲との関連は何ともですが、無関係とも思えない……もしそうなら人の目に見える存在が潜める場所は限られそうです」
●飴村ビルII
「異界に侵入する条件が『ビルに入る事』ならこれでもいいと思うんだよね。
借りに異界に入れないのであれば、通常の飴村第三ビルに入るルートが見つかるわけだし」
そう呟いてから屋上に降り立ったЯ・E・Dは敢て屋上の入り口から内部へと入り込んだ。
扉を開けた先には階段がある筈『だった』。だが、随分と圧迫感のある空間が広がっている。左右を確認してもシャッターが閉まったテナントが並ぶだけだ。
「ここは……?」
耳を、目を、頭脳を、その全てを生かして周囲の状況を把握しようと全身の神経を際立たせる。笑い声も泣き声も、その全てに注意をしなくてはならない。
(……白い何かが見える場所は避けた方が良い)
狙いは屋上から入って直ぐに『屋上の扉を開く』事だった。だが、入った途端に背後には扉はなく、階段もなく、屋上の痕跡は失われている。
「……流石に異世界は歪んでるって事かな?」
果たして、向かうべき屋上とは何処なのか――
「綾敷さんを見つけ出す。そして『死屍派』が何考えてるかその目的を知るってぇのも大事だが……ひとまずはこのビルの事件を終わらせなきゃな。
それも奴さんらの計画のうちに入ってるのかもしれないとしても」
此の儘、誰かが犠牲になることは見過ごせない。ニコラスは僅かな音にも反応をしながら息を潜めて動いていた。
中には一般人がいるかも知れない――とは想像していたがやはりそうだ。自殺志願者はふらふらと何処かに向かっている。淀みない脚は、成程『屋上』を無意識下で認識しているのか。
(……異界に降りる。それとも昇る? 奥へ奥へと進んでいけば何を成そうとしているか。
外の景色はどうなってる? 霊魂達は視えるのか? ここを作った怪異は何を望んで、何を成そうとしてここを作った。
そのヒントはここを進めば視えるのか。……その正体に近づくかねぇ)
ニコラスは一般人を保護する前に泳がせた。その理由もまだ周囲に危険がなかったことに起因する。窓の外は暗いブラインドでも降りているかのように何も判別することは出来なかった。
侵入前から霊魂疎通をして居た秋奈は死にたがりの話しに辟易していた。あっちもこっちも死にたがり。何てことだとビルの中でも霊魂疎通をしてみたが――蛇憑きの娘は『有柄様』が餌もないと告げる様な感覚に首を捻った。
「霊魂、いないっぽい?」
どうにも伽藍堂なのだ。夜妖は居る。自分たちもいる.それ以外の存在していても可笑しくない霊魂も、精霊も、その他各種生物も。何もかもが居ないのだ。不自然に切り取られたかのような空間に違和感ばかりがそこにある。
ボディは淡々と歩いていた。目指す場所が屋上であると言うことはブレてはいない。目の前に、何かが居る。
「またお会いしましたね務史様。あれから教義を反芻し、異界にも来てみました。
けれど綺麗なんてことはなく、異常だった。いた物やナニカは酷く悍ましかった」
屋上へ向かうボディを留めるように男が立っていた。ボディは目を伏せてから首を振った。
やはり、納得は出来ないのだと。死を振り撒くことを肯定することをどうして肯定できようか。
「救済を重ねた果てがあの異界では、救済は本当に善たり得るのですか? 貴方は、本当に妻子と死後の世界で会えるのですか……?」
「ええ、会えますよ」
「根拠はありますか?」
「勿論」
男は柔らかな物腰でそう言うだけだ。淡々と答える壮年の男は「願いを叶えるためには代償が必要でしょう」と静かな声音で告げた。
その腕にはキューブ上の何かが抱えられていた。悍ましい、と身を退いたボディは『キューブの悍ましさ』から他の夜妖も近付いてこない事に気付く。
「どうやら、オマエさんとは分かり合えないようだなあ」
先程までの穏やかさを捨て去ったように男は雑に言った。
「いや、残念だ」
かつかつと地面をならして歩く男は「オマエさんなら、来てくれると思ったのに」と低く囁いた。
「この手の空間に対して、三次元的な感覚や認識は無意味だろう。屋上は上にあるものという常識は捨てた方がいい。只管に、屋上の景色を目指すつもりでいこう」
そう呟いたのは汰磨羈であった。どうやら『屋上という概念』がこの場には必要な様子である。異界に存在する者同士はaPhoneの利用が可能のようでもある。それだけは良かったことだろう。
猫の姿を見付け、汰磨羈が一歩踏み出せば同じよう猫を探していたのであろうしにゃこ達と鉢合わせる。
「おや、偶然ですね」
寛治に声を掛けられてから汰磨羈は「逢えるとは思って居なかったな」と呟いた。奥からは「猫じゃん!」と指差した秋奈がぜいぜいと息を切らせながら遣ってくる。
「とにかく猫を探して屋上に行く! マジそれしかない! って気持ちが引き寄せたんじゃね!?
猫の相手なら任せろー。成功率は私ちゃんがちゃんと境内の掃除をする確率くらい高いぜ。
にゃんこはそうだなー、マリ……じゃない、なじみちゃんって呼ぼうぜー」
なじみちゃんと呼ばれた猫が尾を揺らす。
「……御主、まさか猫鬼か? 或いは、近しい存在だろうか」
汰磨羈の問いに猫は意味ありげに「にゃあ」と鳴いた。
猫を追掛けるだけなら易いが、猫を追掛けてくる夜妖が存在しているようだ。
「頑張る若者の背中を押すのも先生というものだろう?」
ブレンダは猫と合流した定達に先に言ってくれと笑みを零した。近寄ってくるのは笑う小さな子供だ。
『くすくすと笑う声』を発する子供の後ろでは『しくしくと泣いている』何者かが脚を引き摺りながら近寄ってくる。
ビルの内部には無数の『ひらひらと舞い踊る無数の花弁』が存在していた。糸を吐く者と同じ存在なのだろうと本能的に理解する。
目の前の子供を見据えて、自身が死んでは元も子もないが出来るだけの時間は稼ぎたいとブレンダは構えた。
――仮にも今の私の立場は希望ヶ浜学園の教師。生徒に危険が及ぶかもしれない現状を良しとはできない、と啖呵を切ったのだ。
その立場を気に入っているのだと思わず笑みも浮かぶ程。同じイレギュラーズでも生徒達である。
彼等のためならば身を呈するくらい安い物だ。
ブレンダが夜妖の足止めをしている事に気付き、合流したボディとЯ・E・Dは其れ等を引き離すように迎撃し、直ぐに身を隠した。
「……アレは何だったと思う?」
問うたブレンダへボディは首を振る。一体何か。あの子供達は。
「生者じゃなさそう」
囁いたЯ・E・Dは見つからないようにと気配を殺す。
ずる――――ずる――――――
「ひひひ、ねえ、ねえ、どこかなあ、ひひひひ」
「ぐす……っ」
ずる――――――「食べたかったのにねえ」―――――――
悍ましい何かが傍に居る。三人は息を殺し過ぎ去るのを待った。食べたかった、とは一体……?
●飴村ビルIII
「屋上へいくじょ~♪」
歌いながら進むしにゃこ。猫は少し逃げるようであったが「美ハイエナは追いかけっこは得意なんですよ!」と勢い良く追掛けたしにゃこが難なく猫を確保していた。
「ブレンダさん、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ、多分……」
そう言っておかねば気分も落ち着かないのだと定はぼやいた。猫自身も何かから逃げていたが、もしや『笑い声と泣き声』から逃げていたのだろうか。
「なあ猫。お前は一体何に見つかるのを気にして逃げてるんだい?」
話せないかと呟く定に花丸は根気強く話しかける。
「猫さん、こっちでいい?」
にゃあ、と猫が鳴く。意思の疎通は出来ていそうだ。闇雲に向かうだけでは何も得られないだろうか。
二股尻尾猫のアクセサリーにじゃれつくような仕草を見せる猫は一見すれば普通の猫だ。だが、妙な違和感だけが其処にはあった。
「それにしても、飛び降り自殺者によってこのビルが変異したと言うことだろうか。
このビルの屋上へ着く事を目指すと言うのはそれは、死に近づく行為なんじゃないだろうか」
怖いな、と呟く定に「変異したからこそ自殺が起きたとも考えられますね」と寛治は返す。
「……どっちにしても恐ろしいね」
花丸が呟けば「大丈夫ですよ~♪」としにゃこが歌いながら振り返る。
「死を遠ざけるならば、それに合わない行動をすれば良いんですよ。今から死にに行く人間が明日のご飯を考えて、歌います?」
「歌わない、な」
定は明るく振る舞うしにゃこを見詰めていた。猫の傍でステップを踏む明るい彼女が死を遠ざける。
その先に見えた屋上の入り口が――眩い光のようだった。
秋奈は「到着!」と屋上へと滑り込む。
「務史か飴村会長がこのこと気づいてたりしてるんじゃないの? ――ははっ、若干同情しちゃうな」
「ええ」
声に肩を弾ませ、振り返る。飴村 偲。その人が立っている。
扇で口許を隠していた飴村偲が目の前に立っている。ミザリィは自身の脚が地面にしっかりと着いている事を確認しポケットの中にaPhoneを滑り込ませた。
死は救済だ――だからこそ、ミザリィは己の手札は晒さぬように気をつけた。人を癒やすことは、死を遠ざける事だからだ。
偲は切れ長の眸をミザリィに向けている。美しく妖艶な柘榴。崩れ落ちるまでの刹那を過ごす、余生の女。
「……私は飛び損ねてしまいましたが、あれからまた増えているようですね?」
「ええ、そうですわね?」
「……貴女はその手助けをしているようですが、それは善意でしょうか? それとも静羅川立神教としてのお仕事ですか?
……いいえ、お仕事であれば、ノルマ人数でもあるのかと思っただけです」
扇を閉じた偲がぱしんと手を叩いた。愉快そうに笑った女は「どちらもですけれど」と加える。
「そう、そうですか。仕事だとすれば――だってまさか、5年も10年も同じことを続けるわけではないでしょう?
これは目的ではなく、きっと過程なんですよね?
私は飛ぶのをやめます。私よりももっと救われねばならないひとたちがたくさんいますし、私は救う側になりたい」
「……『それはわたくし達の元に来たい?』と」
ミザリィは頷いた。偲の唇が吊り上がる。女が笑っている声が頭に響く。偲はミザリィに近付いてから彼岸花を描いたカードを一枚そのポケットに滑り込ませる。
「わたくしからの合図、待っていなさい」
かつ、こつ。音を立てて過ぎていく女が階下に降りていくことを感じる。足元が震える。ふうと息を吐いたミザリィをブレンダが支えた。
「大丈夫か」
問うたブレンダにミザリィは頷く。警戒したままのニコラスは「霊魂すら何も居ないこの空間……気分が悪い場所だぜ」とぼやいた。
気分が悪いままでは何も進みやしないが屋上にまで辿り着いたのだ。中央に安置されているあからさまな呪物を――古びた百葉箱を睨め付ける。
「あれが、呪物か?」
ブレンダの問い掛けにニコラスは緩やかに頷いた。
「こんな異界にこんな呪物、一体何の意味があったんでしょうね」
屋上に辿り着いたボディは覗き込む。
「んーーもしかして呪物も蟲なのかなぁ? 蟲毒の果てに産まれた何かが原因だとしたら、何にせよ、ここが解決しても産み出す何かを止めない限りは終わらないよね」
Я・E・Dはぼやく。汰磨羈は「呪物は、蠱毒か」と呟いた。
「このビル自体が蟲の餌場だったのだろう。この中で弱い夜妖は淘汰されていく――こんなにも夜妖が跋扈しているというのも可笑しな話だった」
そして目前で夜妖が『喰われた』事もその一員でもある。猫が逃げていたのは他の夜妖からだ。
なじみではなく猫が『猫鬼』だというならば格好の餌である事は確かなのだから。
「壊そう」
Я・E・Dが百葉箱を開ける。手を伸ばせば、内部には何かが存在していた。黒い箱か。
頷き定に代わって汰磨羈が『蕃茄』から分かたれた両槻の力を練った刃を突き立てる。生と死を分かつ刃は易く呪物を片して見せた。
「これで飴村ビル怪異事件は『解決』……出来たんだよね?」
百葉箱の内部に存在していた黒いキューブは罅割れた。身体を包んでいた奇妙な景色がぞお、と退いていく。
花丸は「帰ってきてほしいとか思う事はあるけど、それはまだ……なんだよね?」と猫に問うた。
――にゃあ。
紫色の猫が鳴いた。尾は二つに割れ、先が白に染まる。耳の先もよく見れば僅かに白い。
「猫さん……なじみさん。あの時なじみさんが言った飴村事件は何とかしたよ。
なじみさんが帰ってくるために私達に他に何が出来るのかな? どんな大変な事でもやってみせるから……だから頼って、なじみさん」
猫の傍に花丸が座る。猫は動かない。
しにゃこは少し離れた位置で「もしもし!」と叫ぶ。彼女が手にしているのは定のaPhoneだ。通話中の表示が出ている。
「なじみさんを連れ帰る為に頑張るのは当然なんですけど……しにゃ的には皆を連れ帰るのも大事だと思うんですよね!
なじみさんは巻き込みたくないって言ってましたし! なんか無茶しそうな人いっぱいいますし、しにゃがよく見ておきます!
気を抜いたら引っ張り込まれそうな場所ですし、バッチリ魔除けにゃこになってみせます!
だから安心して助けを待っててくださいね! 遅れてやって来たクリパは新年会と忘年会と遭わせて『超美少女パーティー』として絶対盛り上げますよ!」
明るい彼女の声に猫の尾がたしりと揺れる。
『――ねえ』
声がした。定は「なじ」と思わずその名を呼び掛けて肩に食い込んだルシアの指に気付く。
「九天さん」
『花丸ちゃん、そこに……居るの?』
なじみが聞いたのは花丸の所在ではない。誰を、と問わずとも分かる。
「うん。いるよ」
『そっかあ。私、巻込みたくなかったのになあ』
乾いた笑いが聞こえてしにゃこは「なじみさん」と名を呼んだ。もう誰もが彼女が一人で為そうとしたその場所に踏み込んだことに疾うに気付いてしまったのだろう。
寛治はルシアの手をそっと定の肩から降ろしてから「失礼」と静かに声を掛けた。距離を取らされることになるルシアは寛治を感情の見えぬ瞳で見上げるが――
「お姫様を助けるのはヒーローの仕事です。大丈夫、私にだって務まったんですから、貴方なら必ず届きます」
定の背を敢て押した。ルシアが進もうとしたその足を食い止める。どうしてと言いたげなルシアを止めた。
「なじみさん、帰ってこない?」
『でも』
「……なじみ。巻込みたくないと言っても此方はお節介な奴が多いんだ。
まったく。頼るのが下手だと言うのなら、その代わりに伸ばす手を掴む事くらいは上手くなって欲しいものだ」
『たまきちちゃん』
汰磨羈はちら、と見た。目の前の猫は『猫鬼』だ。問うても答えなかったが近付けば良く分かる。
猫鬼はなじみの身体から分離して異界を案内したのだろう。なじみ本人は異界には居ない。異界の外だ。夜妖憑きであるなじみの誓約は『彼女が生きていなくてはならない』のだ。猫鬼は敢て、なじみを外に置き去りにしたのだろう。
『猫が、皆が迷い混んだら案内してくれるって言って居たんだ。猫の方が皆のことを分かって居るのかな』
「違いますよ、なじみさん。なじみさんがそう思ってたから猫がしにゃ達に気遣ったんですよ」
『えへへ、そっかあ』
久々に聞いた彼女の声は掠れているような気がした。定は聞きたいことも言いたいことも山ほど遭った。
それなのに、頭に真っ先に浮かんだのは――
「あ、その、寒くない?」
……なんて、自分は駄目なんだろうと叫びたくなった。なじみは驚いたように『うん』とだけ返す。
『蟲が』
「蟲――?」
身を乗り出したのは秋奈だった。身を這いずる蛇の呪い。神の加護と相反するそれが身の内を火花のように弾く。
先程まで感じていた異界の重圧が消え去った。呪物を解き放てば、内包されていた夜妖達は行き場を失い蟲に全てを食らい尽くされる筈だった。
呪物を壊して良いのかとニコラスが考えた通り、呪物は本来ならば『壊してはならないもの』だった筈なのだ。
猫はどうせ目の前の者達は夜妖を喰うために現れる蟲位、イレギュラーズは倒せると踏んでいたのかも知れないが……。
『蟲が――契約を結んだ、かもしれない』
なじみの言葉にルシアが勢い良く振り向いた。居るはずの虫が居ない。居るはずの夜妖は霧散して消えていく。
ビルの蠱毒はまじないもなかったように何もかもが失せた。
『蟲が……どうして……アーリアせんせ……』
電話口でなじみは少しだけ待っていてとだけ告げてから電話を切った。にゃあと鳴いた猫は慣れた様子で屋上へ向かい飛び降り消え失せる。
「待っていて……?」
「アーリア先生……?」
呆然とした花丸としにゃこに「待っていよう」と定は静かに告げた。彼女がそう言ったのだから。
●白椛大学東浦キャンパスIV
「失礼。大きな蟲の噂を調査しているんだが、実際に目撃した人物に心当たりはないだろうか?」
問い掛ける天川が兎に角脚で稼ぐ中、夜善に話しかけられつつサクラは「うーん」と首を捻る。
「静羅川立神教が放ったにしては法則性がなさすぎるし狙いもわからないよね。
本当にただ怪異が独り歩きしてる可能性もありそう。身体が不調になるのは何らかのエネルギーを食らっている……のかな?」
ぼやいたサクラはそれでも怪異は全て倒しきるのも難しそうだと歯噛みする。
「見た目がイモムシみたいって事は、命を喰らって繭や蝶になったりするのかな?
それだけ沢山のエネルギーを得た怪異がどうなるかわからないけど、ろくなことにはならないだろうね。今のうちに倒したい」
「うんうん。でも蟲が糸を吐くのは巣や繭を作る為だし、キャンバスごと乗っ取ってみんな餌にしちゃおう、なーんて?」
まさかねと呟いたタイムにサクラが暗い表情を見せた。
「とにかく糸を見つけてそれを辿れば蟲を見つけられるかも。蕃茄さん、どっちから怪異のニオイ感じる?」
「すんすん。蕃茄、あっちが嫌だと思う」
「……でも、調べるだけなのもやっぱりヘンな話ね。怪異を倒すことだって頼めたはずなのに。カフカさんもしかして体調悪い? 大丈夫?」
「あーちょっと、すまんなあ」
「すんすん。カフカ、体調悪い」
蕃茄が手を握っていて上げるとカフカに胸を張って応えている。タイムはにこやかに「蕃茄さん、お願いね」と告げた。
――一方で、講義室で待っているというフォルトゥーナと美都にはゼフィラのファミリアーが着いていた。監視役としての役割を担っている。
監視を行なうとゼフィラが告げたとき、いっそのことデスマシーンじろうくんを置いておけば良かったとリュティスはぼやいた。
「蟲と呼ばれるものは夜妖なのでしょうか? ……糸を吐くということですし、蜘蛛を想定して暗くて静かな場所を探そうかと思うのですが」
「この場所じゃ、夜妖に分類されると思うよ」
美都の知った様子にリュティスは首を捻った後に合点が言ったように頷いた。ああ、それはそうだろう。
『そもそも、再現性東京では全ての事象が夜妖に分類されることが多い』のだ。構内で大きな虫を見たことがないかと調査を行なえば花弁のような存在を誰もが想定している。
「糸ならこっちにもあるぜ」
シラスはあっちに行ってみようとアレクシアの手を引いた。美都の前では『カップル』を演じなくてはならないのだ。
体調が悪いと告げる学生達の声に耳を傾けながら二人は糸をたどる。糸を吐く蟲。
それは蜘蛛ではないのだろう。すみれは「楽しみですね」と唇を吊り上げた。
「特に怪異的な虫だから気になるというわけではなく……ほら、花には虫が集り、蜜を吸い、その対価に花粉をペアとなる別の花へ運ぶものでしょう?
我が名は虫媒花の菫と同じ音ゆえ、偶々その虫と出逢いやすかったりして……。
虫の行先を辿れば、遠く離れた夫にまた会えるかもしれないと思いまして」
らしくない思考でしょうねと笑ったすみれに美都は眸を煌めかせる。
「え、素敵ィ!」
「ええ、ええ、あやかしの力を以てすればそんな浪漫チックなこともありえるのではないかと願ってしまいました。恋も愛も、難儀なものですよねえ。ふふ」
好感度は上々か。夫に会えるならば死こそ救済であると考えるすみれではあるが神使としての良い待遇は中々に捨てがたい、
そもそも、だ。パラレルワールドの獄人であるすみれは偈に恐ろしきは何かを知っている。死して彼方に戻れるわけがないことだって知っている。
「蟲はどちらでしょうね」
蟲は恐ろしくはない。蟲は、可愛らしい。ペットにでもしてやりたいとうっとりと笑う。
冗談であれども、長らく会えず約束の指輪でしか存在を感じられない夫のに会えるのならば己の受粉を助けてほしいものだ。
あやかしならば――世界ぐらい跨いで然るべきだろう。
「さてさて、美都殿はどうやら蟲にあってから調子が悪いようですな。ふむ……これは病院で聞いた蟲とおそらくは同一の存在でしょうか?」
「澄原病院も忙しいんだってさ」
フォルトゥーナの言葉に美都が「病院罹っても無理でしょ」と苛立ったように言う。遭えば病を齎せる『鬲虫』。害はないほどの体調不良であり、勝手に身体から抜け落ちていくというがその大元と出会えば何が起るかは分からない。
「まあ、『病気になるから治すために入信しましょう』とか言いまくってるアイツは腹が立つけどね。ちょっとだるいんだもん」
唇を尖らせる美都に「むむ?」とジョーイは首を傾げた。
「アイツとは?」
「あー……まあ、トモダチ」
ぼやかせる美都にジョーイは更に首を捻ったがそれ以上は追求しないことにした。静羅川 亜沙妃、蟲を嗾けるアイツ。その二人についてを知ればこの蟲による騒動もなんとかなるだろうか。
「で、二人はどうして着いてきたんだ?」
問うたブライアンに「なんとなく」「じっとしてらんなかった」とフォルトゥーナと美都は重ねる。
「でも、危なくはないですか?」
マリエッタの問い掛けに「危ないから皆がいるんでしょ」と美都は言った。
「どう言うことか聞いても?」
「……デコイ」
ぼそ、とフォルトゥーナが呟けばマリエッタとゼフィラは肩を竦めることしか出来ない。
「蟲はあっちやで」
「はい、行きましょう」
何となくその存在を察知するカフカに頷いてからすみれがくるりと振り返った。
「例え蟲に関わり辿り着くのが死後の世界だとしても。もし、もしも死後の世界でまた二人幸せに結ばれるのなら――
確かに死屍派の言う『救済』は、正しいのかも……なんて思ってしまう私はもう手遅れですかねえ。
『恋叶え屋さん』は、離れ離れになった夫婦の味方もしてくれますでしょうか……」
ただ、彼女の呟きを聞いていた美都は「そうあるべきなんだよ」と呟いた。
足元を見下ろす。可愛らしいストラップシューズは少し汚れてしまっている。
――そうあるべき、なんだよ。パパ、ママ。
白椛大学東浦キャンパスV
――巨大な芋虫。
だが、それは羽化の手前とも言えよう。羽化すれば何になるか。影響を求めるように葉を喰らう必要のある赤子。
「おいおい。えらくデカイ蟲だな……一体こいつはなんなんだ」
呆然と呟く天川は相手が動かないことに気付く。その背後、怯えた様子で身を屈めたのはカフカであった。
蟲には手出しをしないと決めていた。あくまでも今回は調査だ。
風牙はまじまじと蟲を眺める。攻撃するのが悪手の場合も有る。蟲からは赤黒い気配が出ていた。風牙は何と悍ましいものだろうかと感じ取る。
「……あかんやっぱ無理ぃ! でか! もぞもぞ! きもい!!
それに、なんやろ。めちゃくちゃへんな気配を感じる。
と、とりあえず調べてさっさと美都ちゃんに報告しよ! な! 皆も調子崩すで! ――は、はっくしゅ!」
くしゃみをしたカフカは「風邪でも引いたんやろか」とぼやいた。
蟲は此方を見ている。糸を吐出したが愛無は鋭く睨め付けるだけだ。
(……なぜ東浦に集中的に存在するのか?
再現性東京自体が訳アリと言えなくはないですが、その中でも此処なのは、やはり静羅川立神教との関係を疑います。『蟲と出会った』……ね)
冬佳はまじまじとそれを見詰めていた。
もしかして――東浦そのものの地質とあってしまったのか。その蟲が、この場所に何らかの意識を宿しているのは確かだ。
冬佳が警戒する中でじりじりと距離を詰めたのは天川だった。
「こいつは倒すべきではないのか」
「分裂するかも」
美都の言葉に天川はう、と詰まる。巨大な蟲、それは人に疫病をばら撒くだけではない。
「あれ、少し小さくなってる」
「ど、どういう……」
カフカが思わず呻いた。分裂した、と言うことか――ならば、『飴村ビル』にもこの分体が存在して居たのだろうか。
「……この子はね、ミトもフォルちゃんのこともご飯だとしか思ってないんだよね。
だから探して欲しいって言った。こんなのと夜であったらフォルちゃんたちだって一溜まりも無いからさ。糸、拾える?」
糸を持っていればそれが近付けばピンと張って『存在に気付くことが出来る』という。センサーの役割を果たすのだろう。
「ご飯って、どういう事かしら」
ヴィリスは慎重に問い掛けた。
「簡単だよ。蟲は人に寄生して、腹を満たす。恐ろしい程の眠気に、妙に強くなった身体の変化は『蟲の影響』だってさ」
フォルトゥーナの言葉にカフカは身に覚えがあった。異様なほどに己の身体は強くなった、が、蟲が抜け落ちたのか眠気はここまでやってこない。
「蟲は別の宿主を見付けるまで彷徨い歩いて宿主を探している。あと、この蟲は『レトゥム』が大元だから……」
レトゥムと呟いたのは祀と夜善であった。振り返ったサクラと愛無は何も云わないまま二人を眺めている。
「何が起るか、分からないよ」
だから美都はリスクを避けるためにさっさと蟲の存在を察知出来る用意が欲しかったのだろう。
レトゥム――
それが何であるかは分からない。だが、彼女達がここまで詳しいのならば死屍派へと繋がっている。
なじみは死屍派との接触することが目的だった。『蟲が人に寄生して腹を満たすならば、元から腹に飼われている猫も餌』なのかもしれない。
なじみの目的が猫鬼を己の血筋から剥がすことだったら――屹度、彼女は己に虫を飼うことを求めるはずだ。
(けど、それって猫鬼までも殺すのよね……少しの、時間稼ぎにならないかしら)
アーリアは、一歩踏み出した。天川は「どうした」とアーリアを振り返る。
穏やかな笑み。アーリアは晴陽の友人でもある。あの友達の少ない女医が嬉しそうに笑っていたことを天川は思い出す。
「余り無茶は――」
言い掛けたが、彼女にも考えが合ってのことだろうと天川は唇を噤んだ。
「ね、もし宿主が欲しいだけなら来ない? それなりにいいもの食べて、住みやすい体のはずよ?」
アーリアが微笑む。ぎょっとしたのはカフカだ。「ちょ」と思わず口にしたがアーリアは留める。
「死にたくないでしょう? なら、私と契約しましょうよ」
可愛い生徒のためだ。蟲はアーリアに糸を伸ばす。まるでマーキングでもするように糸が女の柔らかな肢体に食い込んでからぷつり、と音を立てた。
目を見開いていたのは風牙だった。アーリアの手首に赤い筋が一つ走る。蟲からの証か。
「どうなった……?」
「き、傷ですか……!?」
マリエッタが走り寄る。アーリアは大丈夫よと告げ笑うが天川が奥歯を噛み締めてから手を振り上げた。ぷちりと糸が切れる音がする。
愛無は「糸か」と呟く。冬佳は「アーリアさんに……?」と呟いた。
ぐるりと振り向いたブライアンは発煙筒を放ち蟲を後ずらせる。
「蟲に効くモノは怪異にも多少の効果が認められるんじゃねえの?
例えばそうだな……煙、とか? 昆虫の呼吸器官は貧弱で煙に弱い。通説だろ。
……で、この間に話すか。その蟲に『憑かれて』どんな印象だ?」
アーリアは困ったような顔をして「分からないわ、すこぉし眠いだけ」と告げた。何もかも分からない。ジョーイは少なくとも晴陽でなければその詳細は理解出来ないのだろうとぼんやりと考えた。
●一日の終わり
「えー……っとね。実は叶えて欲しい恋があるの。
わたしの事ちゃんと好きなのかいまいちはっきりしてくれない人で。喧嘩もするけど嫌いになれなくて……どうかなぁ?」
ちら、と美都を眺めるタイム。美都は眸を煌めかせて「え、最高じゃん!」と手を叩いた。
(願いが叶って静羅川の集会に潜り込めれば一石二鳥! わたしって冴えてる~)
にんまり笑顔のタイムに「じゃ、メッセージアプリ交換しとこ。集会前に呼ぶわ」と美都が友人のように声を掛けた。
その様子を眺めるゼフィラも自身も、と声を掛ける。
「……ちなみにだが、私は『死こそ救済』という考え方には共感している。
昔は病床から立つことも出来ず、死ぬ以外の未来が見えなかったからね。下手に苦しむよりは愛するものと一緒に死ぬのもアリだとは思っているよ」
「へえ、いいじゃん」
美都の唇が吊り上がる。気が向いたら『パートナーを見付けてね』と彼女の眸が仄暗い色を宿した。
「よろしいですか? 生憎パートナーは見つからなかったのですが……
そうですね。貴方の仕事……何をもって相性を決め、そして二人をどこへ案内するのか見せてください」
「それでパートナーを探す?」
「はい。それでも構いませんか?」
勿論だとマリエッタへと美都は笑いかける。愛無は『不思議な少女』の片思いの相手に選ばれたという祀を見詰めていた。
「いや、モテると困りますね」
「そんなことを考えるのは君くらいなものだろうな。十中八九、知り合いだがそれでも恐ろしい場所に連れて行かれるというのだから警戒位するべきだ」
「警戒していたら死にたいときに死ねませんよ」
揶揄うような声音に、彼の従妹が重なって愛無は歯噛みした。嗚呼、イヤだ。どうしたって少しばかり似ているのだ。色彩は別のそれでも、表情も、仕草も、時折似通った部分を感じさせる。それが酷く、憎たらしかった。
「死にたくなったら相談して、と言われたの。だから相談しに来たわ」
フォルトゥーナを前にしてヴィリスは静かに行った。自身が死ぬならば踊り乍らだと決めているが、誘いがあったならば乗るべきだ。
剣靴を隠すために車椅子に乗った彼女。その姿を不憫に思ってフォルトゥーナが声を掛けてくれたのだろう。それは有り難い話でもある。
「……さぁ、私を死へ誘ってちょうだいな」
手を差し伸べればフォルトゥーナはにんまりと笑ってから彼岸花のカードを差し出した。それは『集会参加』の為のチケットなのだろう。
「ね……私『静羅川立神教』の集会が気になるの。そこに参加させて頂戴?」
静かにアーリアが告げる。美都は集会の日時が書いている紙を差し出す。そして彼岸花の書いているカードも手渡された。
「そういえば、おねえさんのお友達も集会に来るっていってたよ。名前は若宮 黄瓜だったかな」
「黄瓜……?」
直ぐさまに浮かんだのは悪い笑顔を浮かべている茄子子だったのは閑話休題である。
どうやら、望んだもの達には『彼岸花のカード』が配れる。数枚の予備を渡されたのは『お誘い合わせの上』とでも言うことか。
ルシアは飴村ビルからさっさと離脱して、美都たちの元に帰ってきていた。相変わらずぼんやりとした雰囲気で茶を楽しんでいるようだ。
「どうしてわざわざ情報提供をしたの? あなたにとって教団以上に大切なことがあるの?」
「うん」
「もしジョーさんや天川さんに何かするつもりなら……わたしがタダじゃおかないんだからね」
ルシアは「ジョー」と呟いてから唇をつい、と吊り上げた。
「ただしくん、昔クラスメイトだったの」
タイムはたじろいだ。底の見えない眸だ。天川が警戒していたのも良く分かる。
「ふぅ。疲れたな……ただいま晴陽先生。報告はメールでも良かったんだがな…、少し顔を見たくなって病院に寄っちまった」
澄原病院の院長室を訪れた天川は東浦地区で売られていたという不細工で可愛らしいサモエド犬のマスコットを手にしていた。
ふわふわとした毛並みのそれを袋から取り出し「こんな時にあれだが、ほれ。いつものだ」と手渡す天川もブサカワグッズには毒されている。
「ありがとうございます」
もふもふと一頻り楽しんでから晴陽はデスマシーンじろうくんの傍にそれを置いた。妙な視線を感じる人形だが――さて。
「リュティス嬢も来てたのか」
「はい。決してデスマシーンじろうくんの様子が気になった訳ではありませんよ? ええ、そんなことはありません」
何故かデスマシーンじろうくんの事が頭から離れなかったリュティスはまじまじとそればかりを見ていた。
日本人形だというのにチェーンソーを手にしているミスマッチな人形はサクラが命名したことで名の相乗効果で更に不可思議な生物になっている。
「晴陽様はこういうタイプの人形が好きなのでしょうか? それなら見つけた時は買っておきますね」
「はい。あと、その子は夜勝手に動きますよ」
「……」
リュティスが何を言って居るんだという表情をしたのは仕方が無い事で合ったのかもしれない。
椅子に座っているアーリアは珍しい剣幕の晴陽に叱られた後だったようである。傍には困った顔をした水夜子が居る事で良く分かる。
「……みゃーこ君」
ちょいちょいと手招きした愛無は「どうしたんだ」と問う。別室で『集会への参加』準備をして居た夜善はベネディクトとサクラ、ジョーイに「はるちゃんって怒ると怖いよね」などと漏していた。
「アーリアさんが蟲と懇ろに」
「懇ろ」
アーリアが困ったように眉を降ろす。その影響がその様に出るかは分からないが、無意識下で何か声が聞こえた気がした。
「ごめんなさいねぇ」
「構いません。……兎に角、気をつけて下さいね」
アーリアに近付いた晴陽が手刀で何かを切るような仕草を見せる。天川は何をしているのかと見詰めるが『アーリアに付着していた糸』を切り取ったと気付いた。
「これ以上は、どうしようもありません。
現状は眠気が来るでしょうが、少しの倦怠感だけで済むはずです。『レトゥム』というのは私にはサッパリ――」
心配そうな晴陽に「大丈夫よ」とアーリアは柔らかに返してから今日の所はと席を立つ。一同が院長室を後にする中、天川は晴陽の肩をぽんと叩いた。
「報告書にまとめてあるからまた目を通しておいてくれ。
……それにしても、食事も取って無さそうな顔だな。時間があるなら、この後食事でもどうだ?」
「そうですね……。それでは参りましょうか」
適当に書類を片してから行きますと告げた晴陽は頬杖を付いてモニターを眺めた後、嘆息した。
「どうかなさいましたか?」
一頻りデスマシーンじろうくんの観察を終えたリュティスは晴陽の様子を伺う。風邪でも引いただろうかと呟く彼女は再度モニターを確認してから「数日後にお呼び立てしますね」と二人へと言った。
●死願死慕
「ひとぉーつ数えて……」
とん、とんと毬が転がった。拾い上げた娘はぼんやりと俯いたままである。
「暗い顔してますねえ、くすくす。どうしたんですか? 此処に私が居るのが可笑しいと思っているのでしょうか。
いえいえ、居たって良いでしょう。私は何処にでも居るんですから。バンシーってそういうものですよ」
語りかける少女に覗き込まれてから毬を抱えた娘は膝を抱えた。
毬がころころと転がって黒いローブを纏った『女』の元へと行く。女とは称すが性別は不詳である――便宜上、『彼女』は毬をそっと差し出した。
「落としましたよ、亜沙妃様」
「……いらない」
「ええ、なら、私が貰っちゃっても良いんですか? ふふふ、ふふふふ。
ねえ、孔善さん。虫を一匹捕られちゃったんですねえ。どうします? 困っちゃいますか?」
「いいえ? 夢ちゃん」
やけに饒舌な少女――現川 夢華は『亜沙妃』と呼ばれた娘を後ろから抱き締めながら笑った。
「いいのですね」
「いいのですよ」
「どうして?」
「蟲が憑きさえしてくれれば逢いに来てくれるでしょうとも」
悪い人と夢華は笑った。
人を呪わば穴二つ。真実なんて捻じ曲がってバイアスをかけてからお出しすれば良いのだ。
死こそ全てを救うと信じているその人の隣が夢華は心地良い。死に惹かれる、死を愛している。死こそが彼女の動力源だ。
夜妖の娘はにいと唇を吊り上げる。
「かわいい猫ちゃんも餌なのでしょう? アレは私のお友達なので、手出ししないで欲しいのです」
「夢ちゃんがそんなことを言うなんて。ええ、いいでしょうとも。
――死神様に殺して貰う為。その時までは沢山の人を『救済』してあげなくっちゃなりませんからね!」
夢華が振り向いた。赤黒い気配が立ち上り、目を伏せっていた亜沙妃の付き人が悶絶する。
死んだ。
簡単に、ころりと『蟲でも殺すように』
蚊帳の中の虫がぽとりと煙で落ちていくかのようでもある。
「人の肉は美味しいかしら。レトゥム」
夢華は底の見えぬ瞳を細めて、ただ、笑っていた。
「けれど、レトゥム。希望ヶ浜学園ってもっと美味しいのよ」
●12月27日
――12月27日の事だった。
雪がちらつく中、澄原病院に一同は呼び出されることになる。
「お待ちしておりました」
何時も通りの表情を変えない晴陽は背筋をぴんと伸ばしてイレギュラーズを招き入れる。彼女と親しくしているサクラや天川は晴陽が困っていることに気付いて居た。
「突然どうしたの?」
花丸はきょろりと周囲を見回した。広々とした会議室には暖房が効いており、椅子が並べられている。
晴陽が依頼を行なう際にイレギュラーズを呼び出した場所でもあった。『一人のクリスマス』を過ごしたことでややげんなりとしていた定に賞味期限が切れかけたクッキーを手にしていたアーリアは彼を励ましながら室内へと入る。
ふと、端のカーテンがこんもりと盛り上がっていることに気付いた。
「ねえ、晴陽ちゃん」
「はい」
「猫って気紛れねぇ」
くすくすと笑みを押し殺したアーリアに晴陽は何処か罰が悪そうな表情をしてから「はい」と応える。
「先生?」
「晴陽ちゃん?」
天川とサクラの問い掛けに晴陽は肩を竦めてから定を手招いた。此方へと誘うような仕草を見せる晴陽にしずしずと定が付いていく。
こんもりとしていたカーテンの下から紫色の尾が覗いていた。それは先に至れば白く分かたれている。
「猫って気紛れやなあ」
カフカが揶揄うように呟けばマリエッタは「そう、ですね」とぎこちなくカーテンを見詰める。
「……そういえば、アーリアさんのクッキーの賞味期限切れそうだっけ?」
「あー、そう言ってたよな。アレクシア、クリスマスのケーキ買ったらクーポン券貰ったって言ってなかったか?」
アレクシアとシラスが何気なく話し始めればカーテンがもごもごと揺れた。
「もうすぐ、共通テストだぜ」
定が座り込む。大学生になりたいならば決して逃しちゃならないだろうと彼はぼやいた。
カーテンの下からボロボロにはなっているが良く使用された形式のある赤本や参考書が出て来た。
「先生に教わらなくっちゃ、ここ、間違ってるぜ」
数式の間違いを指摘すればカーテンがぐいぐいと引っ張られる。揺れる。可笑しな光景にアーリアは思わず吹き出し駆けた。
「定、この英文も可笑しいのではないか?」
指差す汰磨羈に「ああ……」と冬佳が呟いた。カーテンはあからさまに困ったように動いてから。
「……アーリア先生が無茶するからなんだ。私だけがそれに憑かれたら良かったのに」
ひょこりと猫の耳が覗いた。
一同が振り向けばアーリアは「まあ」と口を手で覆って戯けてみせる。
「私一人で頑張ってたのにさあ」
「しかし言っただろう。頼るのが下手だと言うのなら、その代わりに伸ばす手を掴む事くらいは上手くなって欲しいものだ、と」
肩を竦める汰磨羈に頭頂部だけを覗かせた猫はずるずるとしゃがみ込んでいく。
定は丁寧にカーテンを剥ぎ取ってから彼女をぐるりと囲い、覗き込んだ。
「なんだよう」
「こっちこそ」
軽口を躱し合う様子に寛治は肩を竦める。若人達は素直になれない。何時の世だって簡単なことが出来ないのだ。
「受験もあるし、さ。本当はひとりでしたかったこと、あるけど、言わずに居られないじゃん。
私だってアーリア先生助けたいしさあ……それに、クッキーの賞味期限とか、ケーキのクーポンとか……お腹空いたぜ」
「ごはん、食べてた?」
「うん。結構」
「風邪は引かなかった?」
「気をつけてたけど寒かった。定くん、上着貸して」
「……いいけどさ」
何もなかったように、君って奴は振る舞うんだと定はがくりと肩を落とした。
何処にも行かないでくれだなんて言えない。君の目的を、邪魔してしまえば唯の独りよがりになってしまうから。
「勉強、アーリア先生に教わろうぜ。ケイオススイーツのクーポンもあるんだぜ?」
「……うん」
「おかえり」
たったその四文字なのに、声が掠れた。唇が震えて、上手く言葉に出来たかさえ分からない。
なじみは困った顔をしてから――「皆を巻込んで、良いのかい」と零した。
「君ってさ」
カーテンから出て来たなじみが定に手を伸ばす。そっと手を差し伸べれば『約束した』時のように手が繋がれた。
「君って、ばかだな」
困ったような、それでいて笑っているように、彼女は泣いた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
シナリオお疲れ様でした。
なじみさんは泣きはらした目をして居ましたが、一度は無事に帰還したようです。
GMコメント
<灯狂レトゥム>第二話。前回参加の方も、此処から初めましての方も何方も大歓迎です。
(※長編シナリオはプレイングが公開されません。伸び伸び楽しく活動して下さい)
●目的
・飴村ビル怪異事件の『解決』
・静羅川立神教『死屍派』集会への参加権利を誰か一人でも得る事
●行動指針
以下のような行動を行う事が出来ます。
今回は『調査段階』+新規フィールドです。自由に活動して下さい。
【1】飴村ビル
個別パート成功条件:ビルの怪異事件の『解決』
個別パート失敗条件:『怪異の世界』で死亡者が出ること
希望ヶ浜に存在する東浦区(なじみの出身地&集団自殺事件が勃発した場所)センター街に存在する『飴村第三ビル』です。
雑居ビルです。廃ビルになっているのは、テナントが一斉に立ち退いたからだそうです。
坂が多く地方都市の印象を受けます。繁華街もやや古びた印象を受けます。
飴村ビルで起きた自殺事件の影響か周辺はただならぬ雰囲気を感じさせます。
『<灯狂レトゥム>翼無き者達』でイレギュラーズがその世界を目撃したときから更に幾人かの飛び降りが起きており、ビル自体が異界に変容しています。
ビル内部の状況は不明としか言えませんが、通常のビルの風景から何処かズレていくようです。
入り込む事で異界へと迷い混みます。何処までも続く廊下。開かない窓。何処かに消えた階段。無数に現れる夜妖。
目的は屋上です。屋上へと行くという強き意志を持って行動して下さい。
続いていくその風景の中に『紫色の猫』が見えます。どうやら彼女が皆さんを案内してくれるようです。
猫と出会うまでは強力な夜妖に見つからないように立ち回って下さい。猫もナニカから逃げているようですので、容易に見つかりません。
・『糸を吐くなにか』
・『くすくすと笑う声』
・『しくしくと泣いている誰か』
・『ひらひらと舞い踊る無数の花弁……蟲?』
上記の4種の強力な夜妖がこの異界の内部には存在しています。
屋上には『呪物』と思わしき者が存在して居ます。それを破壊して下さい。どうやら表世界にはこの呪物の悍ましき気配が漏れていたようですね。
・『猫鬼憑き』綾敷・なじみ (p3n000168)
猫鬼に憑かれた少女。夜妖憑き、普通であろうと考えている怪しくないなじんでる女の子。
誰に対してもフランクで、誰に対してもお友達だと笑ってくれる女の子です。
11/11 22:15~姿を消しています。現在行方不明中。
・『紫色の猫』
見覚えのある猫です。皆さんを誘導してくれます。
・飴村 偲(あめむら しのぶ)
通信事業を手がける飴村グループの会長。飴村第三ビルの所有者です。
跡取り息子を不慮の事故で亡くしたとされています。詳細不明
・務史さん
紳士です。静羅川立神教の信者のようですが……?
【2】白椛大学東浦キャンバス ????講義室
個別パート成功条件:静羅川立神教の集会への参加権利
個別パート失敗条件:なし
私立白椛大学東浦キャンバスで滅多に使われることのない講義室です。美都がサボっています。
この後、『恋叶え屋さん』こと八方 美都とフォルトゥーナが合流するようです。どの講義室であるかは調査か事前に美都への接触が必要そうですね。
自身達の『おねがい』を満たしてくれる相手に対して一人につき1つだけ言うことを聞くと言い出しました。
その『おねがい』というのも、東浦キャンバスに存在する怪異事件を調査して欲しいと言うものです。
「このキャンバスに凄く大きな蟲が出るって聞いたんだよね。あたしも勿論見たけど、アレにあってから体調が悪くってさあ……」
どうやらその蟲が何者かを『イレギュラーズに調査して欲しい』ようです。その理由は不明です。もしかすると罠か――それとも……。
・八方 美都(はっぽう みと)
白椛大学心理学部の少女。『恋叶え屋さん』を名乗っています。明るく元気で友人からの評判も上々。
静羅川立神教の信者です。とても関わりやすいタイプの少女ではあるようですが……?
・フォルトゥーナ
P-tuber。フォルちゃんと名乗っている『表向き』戦闘能力の無い少年です。
若年層に人気を博しています。イレギュラーズ達についての情報も多く有しているようです。
・『蟲』
巨大な糸を吐く何か。東浦キャンバス内にいるそうですが……?
●その他のNPC
・真城 祀(ましろ まつり)
澄原 水夜子 (p3n000214)の従兄。澄原病院の営業職です。表向きは。
基本的には情報収集を中心に行って居ます。情報収集に非常に長けています。
何方へでもご一緒します。
・若宮 蕃茄 (p3n000251)
何処にでもついていく系元神様だったもの。怪異に対しての探知能力に長けています。
何方へでもご一緒します。
・草薙 夜善(くさなぎやよい)
燈堂暁月&朝倉詩織の同級生にして晴陽&鹿路 心咲の先輩。晴陽の元婚約者で幼馴染みです。
佐伯製作所に勤めており希望ヶ浜の平穏維持のために行動しています。
九天 ルシアと接触し、死屍派の教祖である地堂 孔善との接触を考えているようです。
何方へでもご一緒します。呼ばれない場合は晴陽とティータイムでもして居ます。
・九天 ルシア
静羅川立神教の信者です。夜善に情報提供をしました。美都の居場所については彼女を連れて行けば直ぐに分ります。
どうやら『美都やフォルトゥーナの身柄よりも大事なこと』があるようですね……?
・澄原 晴陽 (p3n000216)
病院での調査業務をしています。なじみの心配をしているようです。デスマシーンじろうくんとお留守番
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
――なじみさんは、『それだもだいじなもの』があったんだ。
いってらっしゃいませ。
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