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シナリオ詳細

<貪る蛇とフォークロア>戦場を震わすは雷の如く

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ユージヌイに芽吹く春
 若草は雪化粧を貫き、木々に積もる雪は解けてキラキラと輝きを放っている。
 身体を撫でるような風には穏やかな暖かさがあった。
「春が来たな……」
 ラダ・ジグリ(p3p000271)はそんな外の景色を眺めていた。
 開戦は春へ。そう敵が言っていた。
 もしやと思い、そっとここへ姿を見せてから数日が経っている。
 周辺の空気は、重い。
 人々はどこか興奮のようなものを抱いている。
「推測の域を出ないのデスガ、これはもしかすると原罪の呼び声が発されているからでは?」
 リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)がラダへと告げたのは、人々の反応のこと。
 ここ数日、人々――特に傭兵連盟ニーズヘッグへの反抗意識を持つ人々の空気は、ますます熱を帯びている。
「自分達が来たことで人々が奮起してるだけならいいのデスガ、この盛り上がりは怪しいデス」
 ――あるいは、自分達がいることで、人々の盛り上がりはこれぐらいで済んでいる可能性もあった。
「狂気の伝播か、たしかにそう考えるとここの民衆が焦ってるように見えるのも納得だ。
 私達がいることで落ち着かせてやれているってことか」
 リュカシスに頷きながら、ラダは少しばかり考え込んだ。
「反ニーズヘッグ派の人達にその日が近いって言っておいた方が良いかもしれません」
「そうだな、いつ始まるか分からない部分もあるし」
 ラダが頷いた時のことだ。
「住民の避難経路と避難準備はいつでも始められるよ。
 すぐにでも始めた方が良いかもしれない」
 横から声をかけてきたのはレイリー=シュタイン(p3p007270)である。
 開戦までの間に、各都市との連絡網を整備して、非戦闘民を退避させる準備を進めていた。
 既に鉄帝の内陸へと避難経路の確保は出来ていた。

 3人が話し合ったその日、一枚の羊皮紙が送り届けられた。
 ――戦争の準備は良いか、ローレット。
 期日は1週間後。俺達の全軍が、あんたらとの戦を楽しみに待ってるぜ!
 たった一文。あまりにも短く、あまりにも分かりやすい宣戦布告の文字がそこにはあった。

●氷雪を払うベロゴルスク
 ある日のことだ。
 ベロゴルスクの守りを務めていたニーズヘッグの軍勢が、不意にその姿を消した。
「……時は来たわ」
 軍勢の消失とほぼ同時にイーリン・ジョーンズ(p3p000854)の下へとユージヌイにいた仲間達の下へ宣戦布告が告げられた情報が齎された。
「一度退いたという事は、恐らく軍勢を纏めなおしてる頃だね。今のうちに叩ければ、最良かもしれない」
 Я・E・D(p3p009532)の発言ももっともと言えた。
 凍土の森林の中にあるこの町にも、春の訪れは感じられた。
 こまめに連絡を取っていたこともあり、町の人々との関係は良好なままだ。
「もう少し準備を手伝っても良かったけど、そうか、もう春が来てたな」
 そう言ったのはイズマ・トーティス(p3p009471)である。
 その時まで、イズマもまたこの町でのフォローに余念がなかった。
「町の中にいる、ニーズヘッグへの抵抗勢力も準備はいつでも良さそうだ」
「そろそろ、こっちからも攻めましょうか。いつも後手に回るのも面倒だわ。
 雌伏の時を終わりにしてあげましょう。――神がそれを望まれる」
 静かに頷いてそう告げたイーリンの紫紺の瞳が、微かに細められた。

「凄腕の医術士、ぜひお会いしたいのですが」
 ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は民衆から聞いていた噂の事を問いかけてみた。
「誰って、いるじゃんそこに」
 獣種の男は、不思議そうに首を傾げたまま、そっと指をさす。
 真っすぐに指示された方――ココロの背後へ視線を向けてみれば、そこには誰もいない。
 今度はココロの方が首を傾げる番だった――が。
「……あれ、もしかして、私ですか?」
「そうだよ。アンタだよ! 俺たちゃあ、あの日、アンタに助けてもらったけど、
 アンタの腕はすごいよ! 駆け出しなんて話だけど!」
 目を輝かせてそんなことを言われれば、納得する他ない。

●ベロリェスコエの奥地へ。
「倒す前の場づくりで手伝えることがあれば言ってほしいのですよ!」
 ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)はやる気十分と言った雰囲気だ。
「そうねえ、それじゃあ、何人かにはお願いしようかしら」
 そう言ったヴィルトーチカにアーマデル・アル・アマル(p3p008599)は聞きたいことがあった。
「そういえばだが、ヴィルトーチカ殿。
 神成る魔獣、それが更に反転する危険とかは……あったりしないだろうか」
「反転……そうねぇ、どうかしら。あるいは――もうしてたり、なんて。
 まぁ、私はその辺りは専門外だから、分からないけどね」
 肩を竦めてそういうヴィルトーチカに、アーマデルもそれもそうかと思うところだ。
 怪王種――別名で言うならばアークモンスター。
 その存在はそう呼称されるようになったのこそ最近と言えど、その存在自体は少なからず存在していただろうことは想像がつく。
 ――あるいはそんな魔獣だからこそ、『神』だなどともてはやされたのかもしれない。
「その辺りも調べたいところだが……」
「そうね……折角だし、一緒に調べてみると良いわ」
「一緒に調べるって、どういうことなのでして?」
「えぇ……少しばかり古臭い神殿の奥地へ足を踏み入れましょう。
 私達がいるここ、ベロリェスコエの地下――そこには私達一族がもしものために取っておいた情報がまだあるわ。
 だからそれを探してきましょう。そしたらきっと、あの魔獣を倒す助けになるわ」
 そう、魔女は穏やかに笑う。

●開戦の日
「――それじゃあ、戦ってことだね。
 うんうん、分かりやすい。それぐらい分かりやすい方が簡単だ。
 鉄帝軍(ぼくら)の方も準備は万全。あとはもう――全力で叩き潰すのみ、ってことだね」
 イルザはあっけらかんとした様子で笑っている。
「それじゃあ、今回の戦場を話そうか。
 今回の戦場は傭兵連盟ニーズヘッグが最初に落とした最もでかい城塞都市、クラスノグラードとその周辺。
 敵は一度軍勢を下げて、この町での決戦に挑んできた。理由はまぁ、戦力が分散してたからだろうね」
「クラスノグラードは城塞都市としては古いが、その城壁は高く守りは堅い。
 ――本来は。だが、どうやら敵はこの町の城門を修理していない。
 そのため、我々は敵軍を牽制しながら、敵の大将首を取る――という分かりやすい戦になる」
 イルザに繋ぐように言ったのはユリアーナである。
 小さく一息を吐いた彼女は、イレギュラーズをぐるりと見渡して、脱力したように微笑んだ。
「魔種であるらしいヴァルデマールはやはり厄介だが、歴戦の諸君ならばどうということもないだろう。
 とはいえ、戦場でするべきことは多い。油断しないでくれ」
「ヴァルデマールを取り逃がすのが一番面倒だけど、幹部クラスを取り逃がすのも面倒だよ。
 だから、皆には3人ほど討ち取ってほしい敵がいるよ。
 こいつらまで討ち取れれば、敵は再起不能になるはずだからね」
 そう言って、イルザは掌をこちらに向けて、1本ずつ指で数えながら説明し始めた。
「1人目、ディーター。こいつはつい最近、ニーズヘッグへ合流した男でね。
 こいつの兵士はノルダインで構成されてる。連携力では他より低い。これは最近は言ったばっかだからだね。

 2人目、ユアン。こいつはハイエスタ系の人間種とシルヴァンス系の飛行種で構成された部隊を率いてる。
 飛行種は斥候兼狙撃手のように使って、ハイエスタ系の人間種の戦士が戦線を押し上げてくると思う。

 3人目、マディナ。こいつはハイエスタ系の女性なんだけど、
 この部隊は元々ヴィーザル地方で名のある家系の出らしくてね。
 この人を取り逃すと、その家の兵を率いて何を仕出かすか分からないらしいんだ」
「あぁ、それから言い忘れた。今回、諸君は小隊単位で動くこともできる。
 戦力は鉄帝軍から借り受けても、君達の領地から持ってきても構わない」
 ぽんと手を打って、ユリアーナが結び、ひとまずの作戦会議が終了する。

GMコメント

 さてそんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 <貪る蛇とフォークロア>第3弾、傭兵連盟ニーズヘッグとの決戦と相成ります。
 もう1つのニーズヘッグとの決戦は次回となります。

●オーダー
【1】ヴァルデマールの討伐
【2】ディーター、ユアン、マディナの討伐
【3】ニーズヘッグの将校、兵士の可能な限りの撃滅
【4】ベロリェスコエ地下神殿の踏破


●フィールドA&B
 城塞都市クラスノグラードとその周辺。
 綺麗な赤い城壁が特徴的な城塞都市をバックに敵軍が布陣しています。
 基本は春の兆しが到来する雪原の大地が広がっています。
 なお、ヴァルデマール率いる部隊は戦場のど真ん中かつ最前衛に布陣しています。

●エネミーデータA:ヴァルデマール討伐作戦
・『蛇眼魔将』ヴァルデマール
 大将首。蛇のような髪、縦に割れた瞳孔をした蛇腹剣使いの魔種。

 蛇腹剣に仕込まれた物か、生来の能力か。
 致命、毒系列、痺れ系列、失血系列、火炎系列のBSを用います。
 非常に広範囲を効果的かつ効率的に殺傷する術に長けています。
 また、自分と敵の人数差が多いほど動きの切れが増す特徴もあります。

・戦争屋兵×5
 ヴァルデマール子飼いの兵士であり、従順な部下です。
 恐らくは『ニーズヘッグ』を組織する以前からの中と思われます。
 普通の人間種ですが、元はラサの傭兵であり原罪の呼び声の影響を受けています。

●エネミーデータB:『傭兵連盟』ニーズヘッグ討伐作戦
・ディーター
 討伐対象。ライフル銃を持つ狙撃の名手です。
 原罪の呼び声の影響を受けたのか非常に冷酷かつ沈着に攻撃してきます。

・ディーター隊
 ノルダインで統一されています。
 屈強な体躯で鉄兜に鎖帷子、片手斧や剣を装備したヴァイキング風の荒くれ者です。
 非常に好戦的かつ冷徹な部隊です。敵軍を効率的に殺して回ります。

・ユアン
 討伐対象。長剣を佩く魔術剣士です。
 いわゆる参謀的立場であると推察されるとのこと。

・ユアン隊
 シルヴァンス系の飛行種で斥候を行ない、
 歩兵となるハイエスタ系の人間種戦士で戦線を押し上げていくスタイルを取ります。

・マディナ
 討伐対象。
 元々ヴィーザル地方で名のある家系の出とのこと。
 個人では誇り高き戦士ですが、自棄になると何をしでかすか分かりません。

・マディナ隊
 ハイエスタ系の戦士と魔術師で構成された部隊です。
 魔術師でバフをかけ、マディナもろとも戦士で突撃を仕掛けるスタイルです。

・『傭兵連盟』ニーズヘッグ×???
 ニーズヘッグに所属する将校です。
 上記3名と異なり、可能な限りの討伐を推奨します。
 それぞれがハイエスタ系やシルヴァンス系の仲の悪さを傭兵で補う形です。
 部隊長となる傭兵を探しあてて優先して討伐すると効果的と思われます。

●フィールドA&B特殊ルール
・小隊兵×10
 皆さんは自分の領地ないし鉄帝軍から10人の兵を部下として率いることも可能です。
 この場合、特別な明記の無い限り、兵士の性質は皆さんと同系統となります。
 皆さんはプレイングにて兵士をどう導くかを記してください。
 例えば自身は前衛に立ってその活躍で奮い立たせるも良し、
 自らは支援に回って落ち着いて兵士を導くもよし、
 アイドル風に歌って踊って鼓舞するもよし。
 その他諸々、ご自身らしい指揮をお取りください。

※特殊1
・リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)さん
 旧ユージヌイ警備隊を中心とする反ニーズヘッグ義勇軍を率いることもできます。
 この場合、ハイエスタ系の戦士で構成される彼らの士気は非常に高く、攻撃能力にバフが加わります。

・レイリー=シュタイン(p3p007270)さん
 ユージヌイの戦士を中心とする反ニーズヘッグ義勇軍を率いることもできます。
 この場合、ハイエスタ系の戦士で構成される彼らの士気は非常に高く、防御能力にバフが加わります。

・イーリン・ジョーンズ(p3p000854)さん
 ベロゴルスクに属する反ニーズヘッグ義勇軍を率いることもできます。
 歩き巫女としてこれまで潜入していたこともあり、貴方の御旗の下で戦う兵士の士気は非常に高くなります。
 いずれかの任意の能力にバフが掛かり、また全員がエキスパートを活性化している扱いとなります。

・Я・E・D(p3p009532)さん
 ベロゴルスクに属する反ニーズヘッグ義勇軍を率いることもできます。
 彼らの士気は非常に高く、シルヴァンス系の獣種から構成された部隊は反応、機動、探知能力にバフが加わっています。

※特殊2
・ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)さん
 ベロゴルスクからココロさんを慕って医術士チームが姿を見せます。
 この部隊を率いる場合、ココロさんは自分のターン行動の他、
 フィールドA&Bにいるイレギュラーズ全体へ毎ターンのターン開始時に
 中規模程度のHP/AP回復効果をもたらす支援術式が発動することができます。
 これは部隊が全滅するかイレギュラーズ側の敗北が決するまで発動します。

●フィールドB友軍NPC
・『壊穿の黒鎗』イルザ
 物神両面に加えて反応が高めのパワーファイター。
 騎兵を率いてフィールドBで戦います。

・『銀閃の乙女』ユリアーナ
 EXA反応アタッカーです。
 歩兵を率いてフィールドBで戦います。

●Danger!(フィールドA&B)
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●フィールドデータC:ベロリェスコエ地下神殿
 ベロリェスコエ地下神殿。
 ヴィルトーチカと共に地下深くにある神殿を探索します。
 周囲は薄暗いので注意が必要です。
 ヴィルトーチカ曰く、昔の情報があるはずとのこと。

 A&Bよりは難易度ノーマルよりです。

●エネミーデータC
・鈍銀守衛×5
 鈍い銀色の身体で出来たゴーレムです。
 細く長い手足とずんぐりとした身体をしています。
 頭部はなく、身体の上の方にモノアイ兼動力源が光ります。

・鈍銀騎士×15
 機械仕掛けの騎士を思わせる存在です。
 大盾を標準装備として、長剣、斧槍、弓などを装備しています。
 鈍銀守衛1体につき3体がそれぞれ部下のごとく付き添っています。

●プレイング書式について
 出来るだけ下記のような書式でお願いします。
 プレイングの1行目に向かう場所(下記A~C)※1
 プレイングの2行目に同行者やタグがあれば
 プレイングの3行目から本文を書いてください。
※1
 プレイングのキャパも考えますと、
 出来る限り場所選択は1か所をおすすめします。
 AとBは実質同じフィールドですが、
 どちらの方面に注力してプレイングを書くかで選択してください。
例:

【疾風】
突っ込んでぶん殴るよ!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <貪る蛇とフォークロア>戦場を震わすは雷の如く完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別長編
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年05月15日 22時06分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
ラダ・ジグリ(p3p000271)
天穿つ
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
諦めない
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
拵え鋼
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)
同一奇譚
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
心優しきオニロ
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
ヨハン=レーム(p3p001117)
ブラック派遣
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
天之空・ミーナ(p3p005003)
蒼穹の戦神
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
夜に一条
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の巫女見習い
ルチア・アフラニア(p3p006865)
決死行の立役者
レイリー=シュタイン(p3p007270)
不屈の白騎士
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
イスナーン(p3p008498)
不可視の
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
冬隣
ラムダ・アイリス(p3p008609)
咎狩り
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
真竜鱗
リースヒース(p3p009207)
葬送の剣と共に
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
にじいろ一番星

リプレイ

●クラスノグラードの戦いⅠ
 戦場はまだ微かな白に包まれている。
 雨がそれを押し流して新緑が芽吹くのはもう少しかかろう。
 春がすぐそこまで来ているのだ。
「そちらにはより直接的な撹乱をお願いしたいのですが」
「おっけー。ようは突っ込んで退いてを繰り返す感じだね?」
「ええ、くれぐれも短時間に」
「りょーかい。軽騎兵だし、それがいいね」
 イルザとの対話を終えた『群鱗』只野・黒子(p3p008597)はその騎兵隊が動き出すのに続いて動き出す。
 イルザ隊がどこへ行くのかを大体の検討を付け、すぐさま魔術を行使する。
 それは起点となった兵士を中心に影が踊り狂い、各々の動きを奪う。
 勢いを殺された兵士たち目掛けて、イルザ隊の突撃が駆け抜ける。
 突撃の勢いが殺されきる前に離脱したイルザ隊に続くように黒子の兵士達がやや近づいてから一斉に矢を放つ。
 それら一連の動きが開戦の端緒となったと言っていいだろう。
「『傭兵連盟』ニーズヘッグ。ヴィーザル各部族出身者を中心とした実戦経験も豊富な手練れの混成部隊、相手にとって不足は無いというもの。
 ――力には、力を以て応えましょう」
 自ら愛刀をすらりと抜き放つ『月花銀閃』久住・舞花(p3p005056)は、最前線より敵陣を見る。
「へっ、同じヴィーザルの戦士どもか――いいだろう、やってやろうじゃないか!」
 笑った女に合わせて、魔術師達が魔術を行使する。
 動きの良くなった戦士たちが、マディナを先頭に真っすぐに突っ込んでくる。
 クレイモアによる強烈な振り下ろしに愛刀を合わせて受け流すのと同時、舞花は前へ踏み込む。
「守りに入るのが遅い」
 咄嗟にクレイモアを引いたマディナめがけ一閃。
 鋭い剣閃がマディナの身体を縫い付けるように関節を斬りつけ、勢いのままに追撃の袈裟斬りが強かに傷を生む。
 やや後退したマディナに対して冷静に身を引きながら、呼吸を整えれば、やがて極限の集中が周囲の部下の攻防の音を感じ取る。
「これまでニーズヘッグの横暴に耐えて来た皆!!
 本当にありがとう、貴方達の雌伏の時は今日これから報われる。
 今こそ誇りを取り戻そう、今こそ奴らを打ち破ろう、今こそ皆がヒーローになる時だよ!!」
 獣種の多いシルヴァンス系の兵士達へ『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)は語る。
 煽るように、鼓舞するように、それまでの屈辱を晴らせと、雌伏の時は終わりなのだと。
「これから少し無理をする。貴方達も無茶してもついて来て欲しい」
「あぁ! 多少の無茶が何だ!」
「おうよ! 無茶って言えばあんたらと手を組んでこんなところで戦うのだって無茶さ!」
「行こうぜ! ヘルエスタ系の町の連中に後れを取るわけにゃいかねえ!」
 兵士達の士気は高い。Я・E・Dは改めてそれを思うと、既に舞花隊と交戦を始めているマディナ隊へ狙いを定める。
「行こう……」
 声を殺して、射線を敵部隊だけに収めるように調整し、魔弾を放つ。
「そう、これは故郷を取り戻す戦いです。
 今こそ雪辱を果たす時!影ながら研ぎ続けた刃を存分に奮いましょう!
 10人とも、全員で生きて必ずユージヌイに帰還する事! 約束だよ!」
 拳を突き上げて告げた『拵え鋼』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)に応じるように、雄叫びが轟いた。
「……それでは準備は宜しいですか。
 雷神の民の怒りを、鉄の力を、見せつけてやりましょう」
「あぁ……ローレットに……リュカシスに続け! ここであの日の屈辱を断ち斬って故郷を取り戻すぞ!」
 クレイモアを掲げ、そう叫ぶのは旧ユージヌイ警備隊の隊長――名をマリウスと言ったか。
 リュカシスは猛る兵士達に自らも熱いものがこみ上げるのを感じながら、肩に止まった鴉と会話をしていた。
「ありがとう、お兄ちゃん! 情報どんどん教えて!」
 リュカシスの言葉に応じるように一鳴きした鴉が空へ舞い上がって旋回を始める。
 そこめがけ、リュカシスは一気に走り出した。
「リュカシス! あの部隊、俺達で止めさせてくれねえか!」
 走り出したリュカシスへマリウスが声をかけてきた。
 彼の視線の先、敵の部隊が布陣するのが見える。
「分かりました。……ですがどうして彼らを――」
 そう言ったリュカシスだったが、直ぐにその理由が分かった。
 敵軍の何人かに見覚えがある。
「なるほど、あれはユージヌイに駐留していた……」
 足に力を籠めて跳ね上げるように全力で飛びあがり――
「戦場を欲する男の暇つぶしのような理由で無辜の民が暮らしを脅かされてなるものですか。
 ボク達の国を、返していただきます!」
 歯車がけたたましく熱を上げ、全力の拳が大地を揺らす。
 続くように警備隊の仲間達が突っ込んでくる。
「時が来たか。今こそ決起の時、準備は万端だ」
 戦場を俯瞰するように意識を研ぎ澄ませるのは『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)である。
 狙うは戦場全体の情報を統括して円滑に戦いを進めるための支援だ。
(この戦いにはイレギュラーズとしても勝ちたいが、俺は何よりもここに暮らす人々のために勝ちたい。
 魔種も傭兵連盟も倒し自由を勝ち取るその瞬間まで……俺達は義勇軍と鉄帝と共に戦うよ)
 イレギュラーズの仲間の動きはどうか。
 包囲されたりして劣勢な場所はないか?
 敵に隙が見え、攻めやすい場所はあるか?
 ヴァルデマールと討伐対象3人の様子は?
 すべきことは広範に広がり、一人で為すには限界がある。
 それでも、確かな覚悟を胸に秘めて指揮を振るい続ける。
 きっとそれが意味のあることだから。
(このMAD達め……)
 『からくり憂戯』ラムダ・アイリス(p3p008609)が連れてきた兵士達は迷彩外套に身を包んでいる。
 各々にとって都合がいいように機械刀で武装した彼らは、その実、自分達の作り出した武具の性能を試験し、改良点を洗い出すため。
 その為には自らの手で実験をする辺り、なんとも実践的と言うかなんというか。
「ボク自身はノルダイン連中の討伐の為に鉄帝には度々お邪魔してるし其れなりに愛着はあるしね?
 ……じゃあ、諸君それぞれの思惑はどうであれ戦争を始めようか?」
 応答の言葉はないが、アイリスとて端からそれがあるとは思っていない。
 各々にとって順当な成果が出ればそれでいい。
 戦場では敵主力への牽制に始まり、前線維持部隊も幹部クラスへの直接的な攻撃も見受けられる。
「ボク達の仕事は遊撃……存分に掻き乱すとしようか」
 疾走と同時、アイリスは魔導機刃を振り抜いた。
 超高速の抜刀術が空間を切り裂き、真空状態を作り出せば、そこを補おうとした空気が圧力となって兵士へと襲い掛かる。
 それはさながら圧殺するが如く。
 同じように小隊の兵士達が各々の望むように行動を開始していく。
「同じ傭兵として思う所がない訳ではないですが、お金の為とかではなく争いを求めて戦争するくらいならば自分達で二つに分かれて争うなり何なりすればよろしいでしょうに」
 武士を思わせる鬼人種の兵士達の中、異色を放つのは『不可視の』イスナーン(p3p008498)の姿。
「ここに書いてあるような特徴の者がいれば貴方達もおしえてください」
 それはコネを駆使して集めたニーズヘッグ将校の共通項を纏めた資料だ。
 イスナーン隊は一気に走り出すと先駆けの5人が敵部隊とぶつかり合う。
 金属音が鋭く響く中、イスナーンは少しばかり迂回し、将校めがけて走り抜けた。
 グローブへ魔力を通せば、刹那の内に硬質化と共に爪状の武器へと姿が変わる。
 イスナーンは再び身を低くすると、その身に芒に月を付す。
 鋭い爪のようになった両手を刃に、振り払うは虚無の仇花。
 連撃刻む刺突の連鎖の末、手刀を鋭く固め、目指すはその首へ。
 放たれた刺突は将校の防御行動を意に介すことなく必殺の一撃となって貫いた。
「ラバルムを掲げなさい。我らは主の栄光と共にあり、この徴とともに勝利を得る」
 開始された戦場、『決死行の立役者』ルチア・アフラニア(p3p006865)は異なる大地、異なる国に故郷の旗を翻す。
「貴様が私に頭を下げるとはな」
 祈りを捧げるルチアに偉丈夫が声をかけてくる。
「本来、ローマ人でもない者がどうなろうと知った事でないが……蛮族に好き勝手されるのも不快だ。
 少しばかりは手を貸してやる」
 幻想なる福音を仲間へと齎してからルチアは偉丈夫――ガイウス・アフラニウス・サクソニウスへ視線を向ける。
「我々の任は衛生兵よ。敵を打ち払うことは他の部隊に任せましょう」
 剣を抜いて戦場に赴きかねない男の瞳には、蛮族――いわば反体制派といえる者達への憎悪が微かに滲む。
「分かっている……そら、敵が来るぞ」
 敵の一部隊がこちらに向かってきていた。
「守りを固めましょう。我々の重装備なら攻撃部隊が来るまで耐えきれる」
 ルチアの言葉に無言で返した父は、そのまま迎撃の士気を取り出した。
 クラスノグラード上空――そこに漆黒の影がある。
 それは宛ら巨大なる鴉の如き雰囲気を持つ。
「わかってはいると思うが、お前たちはポルードイにとっては『存在しない』部隊だ」
 非ざる影、『黒竜翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は敵軍ひしめく戦場を見下ろし部下へ告げる。
「――だがレイヴンが信を置ける刃達であることは間違いない。
 ……これより、狩りを始める」
 動き出した戦場、イレギュラーズ陣営とニーズヘッグの軍勢が互いにぶつかり合う。
 その戦場を駆ける黒き翼は一羽、その速度を上げた。
 降下した先にはレーザーライフルらしき何かを握る飛行種の斥候。
「まずは一つ」
 執行人の爪が空より飛行種を切り刻み――そのまま握り潰す。
 反応を見せたその飛行種の表情が驚愕に揺れ――兵士達の降ろした十の柱がその身体を切り刻んだ。
「Nyahahahaha!!!」
 動き出した戦場、『希望ヶ浜学園美術部顧問』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)の哄笑が響く。
 それら――否、『それ』は戦場をただの一つとなって前線へと進んでいく。
「悉く同じもので在り、頁は常に足されて往く。
 ――如何して蠢動が狂うと謂うのか。
 進め進め、数多のホイップクリームを掲げよ。
 我等、常にインクを捧げ、文字列と成って冒涜を孕む。
 では我等、此処に聳えるケーキは何色だ?」
『同一奇譚です』
「な、なんだこいつら、意味わからねえ! どうなってやがる!」
『同一奇譚です』
「ふざけやがって――おい傭兵! これはなんだ!?」
『同一奇譚です』
 獰猛にして凶悪なるノルダインが、挑発に応じて激昂し――その悉くが『それ』に押し込められていく。
「め、眼を合わせるな、意識をしてはいけません。恐れる等もってのほかです!」
 そう指示を出すのは、彼らの隊長ディーターであろう。
 ――だが、もう遅い。
『同一奇譚です』
 新たな同一奇譚(オラボナ)が口を開く。
「悦ばしい――奴等も同一奇譚だ。
 総ての眼球に同一奇譚を写そう。
 Nyahahahaha!!!」
 響く哄笑は増え続ける――刹那の内であろうと、囚われては増えていく。
「ワシの助太刀に来た事に感謝する! この戦いは傭兵連盟との戦いじゃ!
 オラボナ殿と協力し一致団結をせよ! そして残して来た家族の為に無理せずに生き残るんじゃ!
 リーゼロッテ様の為に!」
 部下を叱咤すると共に『炉火の番人』オウェード=ランドマスター(p3p009184)は戦場を動く。
 狙うべき敵兵は戦場でも凶暴さを見せるヴァイキング風の兵士達。
 その中に明らかに装いの違う男が一人。それがディーターであろう。
「ノルダインの兵よ! 斧の切れ味を見るんじゃ!」
 混乱するノルダイン兵めがけて突撃を仕掛けたオウェードは名乗りを上げると共に斧を振り下ろす。
 牽制の振り下ろしは敵を傷つけることはないが、注意を惹くには十分だ。

●蛇眼閃く
「いいねぇ、戦ってのはこうでなけりゃあさ」
 その男は開戦の直後、楽しげにそう笑っていた。
 敵味方の両軍がぶつかり合っていく間を、まるでこちらの様子を待つように見ていたのである。
「てめぇら――全力で行くとしようぜ。
 ここが俺達の墓場だ……最期まで俺と一緒に死ぬことを選んだ馬鹿ども。
 ――最期まで理不尽に好き勝手生きてみせようじゃねえか!」
 ヴァルデマールの声に応じるように、5人の傭兵が喊声を上げる。
「復帰戦がこんな大変な戦なんてつくづくアタシも運がないね……
 ううん、ラサの傭兵が関わってるんなら仲間としてちゃんと止めるよ」
 双剣を抜きつつも『夜に一条』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は小さく呟く。
「へぇ、あんたも俺らと同胞かい? いやまぁ、そん衣装と肌の色みりゃあ、そんな感じもあるが」
 片眉を上げて驚いた様子を見せたヴァルデマールへ、風の如く走り出す。
「ひゅぅっ! 速いねぇ!」
 構えを取ったヴァルデマールへ、踊りながら剣閃を閃く。
 それは躱すことが極限に困難な幻影の双閃。
 当たれば凶運を呼ぶ避けがたき一撃――が、炸裂の手前、相手が目を見開いて無理矢理に後退する。
「っぶねぇ、美人の太刀だってんだ、一発ぐれぇ受けてもいいかと思ったが、あたっちゃいけねえ部類だなそれ」
「アンタも元はラサの傭兵なんだってね。ほんとアンタが魔種じゃなかった時に逢いたかったね!
 アンタの剣や技にはちょっとシンパシー感じるしサ!」
「そりゃあ悪かったね。まぁ、いつからこうだったか忘れちまったがよ!」
「私たちは戦場に立つ、その幸運を神に感謝しましょう。
 しかし、私たちは神に従い此処に来たわけではない
 我々は、我々の手で生きる為に、闘う道を選んだ!
 導きは神に、選ぶ道は我が手に、結末は、我々の奮起に依る! 征きましょう!
 ――神がそれを望まれる!」
 シスター服を纏い、戦旗を翻す『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)に義勇軍たちが雄叫びを上げて答える。
「別にあんた等の事は特別好きでも嫌いでもないよ。
 仕事がなけりゃ食ってけないのだし、仕事のある場所に行くのは至極真っ当な話だ。
 戦いの好き嫌いや傭兵稼業を選ぶか自体に貴賤はないしな」
「そりゃあ辛い。こっちは結構アンタの事好きなんだがね。
 特に、そういう考え方の所。うちららしくてな」
 真正面にヴァルデマールを捉え、『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は愛銃を静かに構える。
「……だとしても、少しやりすぎだったな。戦う場所を確保するために、戦火を広げるというのは」
「そうかい? こんだけの数、雁首揃えて俺の前に出てくるんはその成果だと思うがね!」
 いつでも撃てるように体勢を整えるラダに、蛇のように髪を躍らせたヴァルデマールが獰猛に笑って返す。
「約束通りの大一番だ。お互い派手にやろう。
 最初に会った時にこうなるとは思いもしなかったがね」
 挑発ともとれる言葉に、ラダは冷静にあるように努め、照準を合わせる。
「賛成だ! 派手に行こうか!」
 直後、蛇腹剣が動き出す。
 横薙ぎに振るわれた剣は魔種を抑えようとするイレギュラーズをまるごと刈り取るように伸びて振り抜かれた。
 ラダはそれをほぼ天運だけで躱すと、返すように銃弾をぶち込んだ。
 銃声は大嵐のように、銃弾は吹き付ける暴風のように傷を生み、その体勢を崩して隙を作り出す。
「戦争屋風情が偉そうに。殺し続けることがそんなに上等かねぇ?」
 言いながらも『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が握る剣は自然体ながら殺気が籠る。
「はっ、よく言うねぇ、お互い様に見えるぞ、嬢ちゃん」
「まっ、戦いの空気感にあてられてさ、バイブス上がりっぱなしなんだよね、これが。
 うむ。やる気とかいろいろと漏れ出たらしい……行くぞ」
 飛び出した秋奈が踏み込みと同時に剣閃を閃く。
 栄光を掴むための先手に続けるように撃ち抜くは崋山の刀。
 比類なき連撃を以って相手を絡めとる。
「城攻めとなると大変ですが、門の修理がされていないのは僥ですね。
 この機を逃して相手に体勢を整えさせる訳にはいきません。速やかに事を済ませると致しましょう」
 そう呟く『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)だったが、ここまでのヴァルデマールの言動を聞くに、どちらかというと城攻め、籠城という物に興味がないだけであろう。
 後ろで指揮に専念するなど言う気質ではなさそうな魔種は、ある意味で沙月と似た性質と言えた。
「大変な戦場だと思いますが、よろしくお願いいたします」
 それだけ言って頭を下げて、ヴァルデマールの方へと隊を進めていく。
 盾役を押し立てた影から飛び出すや、一気に肉薄し、掌底を叩きつけた。
 掌底に纏う雷光が迸り、白がヴァルデマールを、沙月を包み込んだ。
「とことん戦闘を楽しみたいんだね、良いよ、付き合ってあげる」
 リョクに跨る『自在の名手』リトル・リリー(p3p000955)は初手から楽しそうに剣を振るったヴァルデマールへ視線を向けた。
「皆、途中までよろしくね! ……というか、こんなによく集まったねっ」
 多種多様なBSを擁する面々に思わずそんなことを思ってしまう物だ。
「……うん、任せて。まだまだ未熟だけど頑張るよ」
 頷いたシルフィナの大きなロップイヤーがぽふりと揺れる。
 そのまま実質的な指揮をシルフィナに預けたリリーの小隊は走り出した。
「毒に火……痺れに、それにそもそもあれに当たったらただじゃすまないかなっ」
 振り抜かれた蛇腹剣を振り返りながら、リリーはDFCA47Wolfstal改を握ると、銃口をヴァルデマールへ向けた。
「でもね、それはリリーも同じなんだ。……さぁ、お互いどこまでやれるか、やってみよっ!
 ……ただ、魔種相手なら容赦しない。皆と戦うよっ!」
 放たれた小さな魔弾は呪いを込めた炎の弾丸が戦場を走り抜ける。
 ヴァルデマールがそれを剣で受ければ、爆ぜた魔弾はその内側に秘めたる呪いを溢れさせる。
 それを受けたヴァルデマールの挙動を読んでいたリリーが放ったもう一発の銃弾が続けてヴァルデマールを捉える。
(やだもう、凄腕なんて! わたしまだ学生ですよ!)
 続々と集まってきた医術士達と共に戦場にたどり着いていた『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は内心では滅茶滅茶に照れまくっていた。
 道すがら聞いた話によれば、彼らはこの辺りの人間であったり、他所からの流れ者であったりしていた。
 ヴィーザル地方は戦場だ。傭兵連盟が大規模攻勢をかける前から『戦争の最前線』だ。
 軍人と同じぐらい、傷を癒し、再起の手伝いをする医術士の需要は高い、というところか。
 故郷では一人だけだったけれど――同じ志をもった人と知り合えたのは嬉しかった。
「期待されているのなら応えませんと。……見ててね、イーリン師匠さま」
 師匠へ小さくそう告げてから、眼を閉じる。
 ウルバニの剣の柄に手を置いて彼の雄姿に少しばかり勇気を貰って、瞳を開く。
「……共に望みの春を迎えましょう! 出撃!」
「はい!」
 前に出たココロに続くように、医術士達も前に出る。
「わたし達は、わたし達だけは死んでも死んではいけません。
 わたし達が皆の退路になるために」
 術式を起動して、陣が魔力で出来た貝殻を生み出し、淡い輝きを放つ。
「ヴァルデマール、おにーさん? あの人を討伐するのね。魔種だけれど、だからこそ私達とは相容れない。
 私は仲良くできるならしたいけど、仲良くできないからこうして私達は戦うのでしょう。
 私は一応イレギュラーズなので、ヴァルデマールおにーさんと戦わせてもらいますね。少しは楽しませてくださいね?」
「期待に応えられるかは、アンタ次第だなぁ」
 その身を精霊たちと融け合う『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)に、ヴァルデマールはただ笑って答えてくる。
「――ってぇ思ってたが、おもしれぇ……なんだそりゃあ……」
 額には赫灼色の角、真紅に輝く炎翼、橙赤の羽衣のような翼、ゴーレムのような爪のごつい手甲と化した紅蓮の両手、深緋の下半身は触手のようにも見えるか。
「……どうしたの? まさか臆したのかしら」
「まさか。いいね、ローレットってのは、ホントに――なんでもいやがる!」
 壮絶な笑みを浮かべたヴァルデマールへと、フルールが様子見とばかりに打ち込むは紅蓮喰殱。
 微かに手を払うような動作と同時、紅蓮の影を伴う連撃が襲い掛かる。
「フロールリジ騎士団の精鋭を……と行きたいところでありましたが、敵の性質上、自分は一人が良さそうでありますね。
 残念至極。お前の相手は両手で足りるというわけであります。やーい」
「はっ、思ってもねえ挑発だなぁ」
「……こほん。では、お相手仕ります」
 素気無く返された通り、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は直ぐに敵を見据え一拍の刹那を駆ける。
 まばたきの刹那、死角を捉えた大跳躍と同時に振り抜いた拳で魔種の胸倉を掴み、引き倒す。
 元の場所に戻る一連の動きが終わるまでが刹那のうちの出来事だ。
「まあ何だ。ご愁傷様。狙う場所が悪かったでありますね。
 この国には自分がいるであります。
 ――それから、彼女も」
 体勢を起こしながら、エッダは告げれば、ヴァルデマールが訝し気に表情を変える。
「道は慣らしておきました。
 あとはご存分にお撃ちなさい。ヴィーシャ」
 その横を風のように走る人影があった。
「ありがとう、エッダ。それでは参りますわ」
 赤が戦場を貫くように走るのを、エッダは静かに見届ける。
「またお会いしましたわね。先日は熱い歓迎をありがとう。
 今度は私達が、おもてなしして差し上げますわねっ!」
 メイス片手に肉薄した『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は、その勢いのままにメイスを振り抜いた。
 慣性と遠心力を加えられたただの殴打が真っすぐにヴァルデマールを貫いた。
「っつぁ――あぁ、あんときの嬢ちゃんか。
 あんときゃ悪かったな。もてなしとしちゃ下の方だったろ」
 思いっきり腹部にめり込んだメイスに驚きつつも、ヴァルデマールは気にしないとばかりに笑って――蛇腹剣が伸びる。
 ヴァレーリヤの背後から切っ先が貫いた。
「この程度の攻撃で引き下がるほど、安い女ではありませんのよ!」
「そう見てぇだなぁ! そう来なくちゃな!」
 口元から血を零しながらヴァレーリヤが啖呵を切れば、魔種の双眸が爛々と輝いていた。
「なるほど、戦に勝ち春を呼ぼう。
 かつては殺戮に酔ったこの身故、戦に躍る相手の心は解る――だが、私は幸いなことに魔に堕ちてはいない。
 故に、戦略眼によって、ヴァルデマールの動きを読むことができるだろう。冷静は、武器だ」
 静かに剣を構えるのは『葬送の剣と共に』リースヒース(p3p009207)である。
「戦を楽しむのではなく、解放への道を拓くのが我らの役割。
 さあ、行くぞ、勇猛果敢な強者たちよ。知恵と意志で暴虐を食い止めるのだ。
 先祖の霊達も告げている。この戦、我らに義あり、と」
「ごめんね、みんな、少し協力してもらうから」
 義勇兵へとそう声をかける『白騎士』レイリー=シュタイン(p3p007270)は普段は使う白竜を思わせる装束ではない。
「でも、無理はしないで。少しの力でも私には力になるから、生存最優先」
 それだけ告げて、レイリーは視線をヴァルデマールの方へ向ける。
「売られた喧嘩を買うのも大好きなんだけど……
 それ以上に、それに罪なき人々を巻き込むのは許せない。勝たせてもらうわ」
 愛槍を握る手に力が籠る。
「さぁ、出撃よ!」
 槍を天へ掲げれば、一気に走りだす。
「私の名はレイリー=シュタイン! さぁ、貴方達のお相手は私よ!」
 突撃と同時に刺突をかましながら告げれば。そのまま後退を開始し、傭兵達を連れだせば。
「さて、いつまであいつの余裕が持つのかしらね……プロよ、此処に居るのは」
イーリンは旗を掲げたまま静かに時を待っていた。
「司書殿、お願い!」
 レイリーの言葉を聞いた刹那、イーリンも動き出す。
「行くわよ、あんた達――遅れずに着いてきなさい」
 イーリンは旗を翻すと、おおよそ射程外と思しき距離からラムレイを駆ける。
 空を飛ぶが如く圧倒的な速度で動き出したイーリンと義勇軍はヴァルデマールの周囲にいる傭兵たち目掛けて一直線に駆け抜けた。
 紫の燐光が戦場を貫き、続くように義勇兵たちの槍が差し穿つ。
「――はっ、面白れぇ芸を見せてくれるじゃねえか!」
 蹴散らされる傭兵達の手前、ヴァルデマールが猛攻撃を受けながら楽しげに笑っている。
「私としちゃあ自分に火の粉かからなきゃ戦争だとかどうでもいいんだが……
 そんな私がここにいるってことは、どういう意味か教えてやらなきゃいけねーよなぁ?」
 レイピアと大鎌による変則二刀流を握り締め、『黒花の希望』天之空・ミーナ(p3p005003)は戦場を駆け抜ける。
「とはいえ、まずは……あっちからだな。耐えるのはレイリー達がやってくれる、私達は攻めこむぞ!」
 領地から連れてきた兵士達をつれ、真っすぐに駆け抜け向かう先はヴァルデマール――ではなく、その周囲にいる傭兵達だ。
 大鎌に冷気を纏い、一閃すればダイヤモンドダストが空気に散りばめられる。
 美し軌跡を描いた鎌の一閃に続けるように、レイピアでも刈り取るように斬撃を見舞えば、二連撃が強かに傷を生み出す。
 鮮やかなる霧氷連撃に続くように兵士達も似たような斬撃を叩きつけていく。

●遺産Ⅰ
「前来た時に地下に繋がる道ってなかったと思うのですよ?
 上手く隠されていたとか、何か仕組みを解かなきゃー、とかそんな感じでして?」
 首を傾げる『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)に微笑みかけたヴィルトーチカに連れられ、彼女の家に通されたイレギュラーズは、家の中にあった魔方陣を通って薄暗い空間に訪れていた。
「お家の下にこんな空間があったんですよ!?」
「正確には真下ではないけれどね……さて、もう少し奥に行きましょうか」
 そう言って魔女が進むのについて行けば、直ぐに開けた空間に到着する。
「やっぱり奥の方だとちょっと暗いのですよー
 あっ、そうだ! 明かりならこのクラッカーが!」
「それは止めておいた方が良いわねぇ……クラッカーだと一瞬でしょうし、音の方が気になるわ」
「……やっぱりだめなのです?」
 ヴィルトーチカが光を放つと、大きな空間には物々しい騎士のような機械が6と、それよりかなり大きなものが2体あるのが見えた。
「前にいた騎士と……新しいのがいるのです!」
「ふん、よくもまあ飽きもせず殺し合うものだ。
 それで? ヴィルトーチカだっけ、キミのエスコートをすれば良いのかな?
 クラスノグラードで盛り上がってるなか抜け駆けは気が引けるね。
 こんなホコリ臭い所じゃなくて次はもっと風情のある所でデートしようよ」
 『SAfety device』ヨハン=レーム(p3p001117)は地上での戦いに後ろ髪を少しばかり引っ張られる気持ちを振り払うように声を駆ける。
「そうねぇ……ニーズヘッグが消えてくれたら考えましょうか」
 それが傭兵の方ではないことは何となく理解できる。
「チェルノムスに配されていた封印の守衛と同系統の機体……
 それに、向こうには無かった大型の物。
 なかなか厳重ですが、避けて行く事は……流石に難しいでしょうか?」
 それらの様子をさらっと確かめた『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は、視線を横に立つヴィルトーチカに向ける。
「ヴィルトーチカ様。封印の傍に配されていたものと同様、彼らを止めるには破壊するしかないと認識しておりますが……破壊してしまっても?」
「えぇ、あの兵器は情報を守るためにあるもの。
 制御盤は一応あるけれど、制御盤の場所まで行く前に守衛が動き出すわ。
 それに、ここに来るのは村長の家――さっきの魔方陣を経由しないといけないの。
 私達が術式を管理してきた以上、ここに来るなら村長に自主的か否かはともかく協力させるしかない。
 『村長が敵に利用される可能性を考えれば、私達でさえ安易に守りを超えられないようにしなくては意味がない』のよ」
「なるほど、そういうものですか」
 頷きつつも、そこまでするというのは――あまりにも厳重が過ぎるようにも思えるのはきのせいか。
「それで必要になった時にも困ってちゃあ本末転倒な気もするけどね……」
 ヨハンの突っ込みもさもあらんと言うべきか。ヴィルトーチカも微かに苦笑を零す。
「それにしても……地上の死にたがりどもを相手にするのもつまらんが、こんなポンコツを相手にするのはそれ以上だな」
 今のところ動きを見せぬ守衛と騎士の方へ視線をやりながら、ヨハンは溜息を漏らす。
「地下神殿の探索か……私にとっては本領ではあるのだけれど、こうも切羽詰まった状況ではね。
 この一連のゴタゴタが片付いたら、改めて調査したい所だけれど……
 ま、そのためにも今は、この奥にある情報を一刻も早く手に入れるとしようか」
 義手の調子を確かめる『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)にヴィルトーチカが少しばかり困ったように笑う。
「ん? どうしたんだい?」
「いえ。もしニーズヘッグが倒せたらこの遺跡は壊す予定でいるのよ」
「そうなのかい?」
「えぇ……ニーズヘッグは脅威で、何んとかしないといけないけれど……
 私達が守ってきた物も先史文明――悪用されないうちに跡形もなく消し飛ばしておかないといけないもの」
「それならなおのこと、重要な情報は充分に集めておくとしよう」
「えぇ、それがいいと思うわ」
 ゼフィラの言葉にヴィルトーチカが頷いて視線を遺跡に向ける。
 その表情は寂しさと同時に微かに安堵しているようにも見える。
「地下深くの神殿……興味深いね」
 『希う魔道士』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は辺りを見渡していた。
「ニーズヘッグ……『怒りや嘆きの感情を喰らい、貯め込んで成長する怪物』か……」
 ここにある情報はそんな魔獣に出来る可能性があるのだという。
(僕は、鉄帝の人達が倒された時に怒らずにいられるだろうか)
 無辜の人々――地上ではそんな人々すら巻き込んだ傭兵が戦争をおっぱじめているようだが、魔獣の方もそう言った人々を巻き込む可能性はゼロと言い切れない。
 もしそうなったとき、果たして平静でいられるのか――それは自問自答することでしか答えが出るものではない。
(怒りをシャットアウトし、物(魔術紋)である僕として対処……できるといいけど)
「憤怒の魔種が絡んでるらしいし、ニーズヘッグが誰かの怒りを喰らう事は不可避、であっても、
 怒りや嘆きと一緒に毒や対処用の術式でも喰らわせられればなぁ。
 あるいは滅茶苦茶寒くするか凍らせる? 蛇だけに……」
 そんな呟きは小さく遺跡に反響して消えていく。
(『怒りや嘆きの感情を喰らい、貯め込んで成長する』……それは信仰を得て輝く『神』と原理的には同じ。
 即ち、ヒトの『想い』を得て己が力と成すもの……確かに『神』の括りであるな)
 改めて情報を振り返るのはヨゾラだけではない。『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)もそうだ。
(神を殺すには信仰を絶つ……信仰を絶たれた神は長い時を経て、蓄えた力を消費しつつ、緩やかに弱ってゆく。
 だがあれのように成り立ちが『信仰』それ自体でない場合は厄介だな、封を解かれればすぐに供給されるだろう)
 思い起こす。大規模に衰弱しているであろう状態で、移動するだけで封印の外側の遺跡を揺らした魔獣のこと。
「ヴィルトーチカ殿、一つ聞き忘れていた。その『情報』というのはどのような形か分かるだろうか。
 もし壁画とかだと戦闘時に気をつけないと」
「ええっと……何だったかしら。忘れたけれど、多分複数あるはずよ。
 どれかが分からなくなっても問題ないように」
「それならいいが……ひとまずは壁画であった時のことを考えて注意しておいた方が良いか」
 少しばかり考えて結論を付けた辺りで、イレギュラーズは前に踏み込んだ。

 ――ブゥン――

 音と共に鈍銀守衛のずんぐりとしたやや上の方が輝き、モノアイが浮かぶ。
 ゆっくりと身体を起こした守衛が、一歩、二歩と近づいて――ぐるんと上半身だけ180度回転する。
「――ミサイルか!」
 ゼフィラが目を見開いた時には、背中からミサイルにしか見えない何かが飛んでくる。
 ゼフィラを起点とする一帯へと計6つ放たれたミサイルを何とか受け流し、義手に魔力を籠めて地面へ叩きつけた。
 義手から溢れだした魔力が自動的に術式を起動し、温かい光が辺りを包み込んだ。
 それはある種の罠とも言えたが、初手の奇襲を潜り抜ければどうという事はない。
「では、当初の作戦通り、1つずつ倒していこうじゃないか」
 仲間達へ進言しながら、掌を頭上に掲げれば、掌に形成された術式より魔弾が放物線を描いて飛翔する。
 それは動き出したばかりの守衛を中心としたグループを丸々巻き込み、黒い風の内側へ呑みほした。
「なるほど、砲台の類というわけか……」
 アーマデルは初手で奇襲気味にぶっ放されたミサイルの傷が癒えると同時に一気に走り出す。
 守衛の初手はどちらかと言えば奇襲の類、それさえ警戒できれば、他の騎士がアーマデルの先手を取るなど不可能だ。
 守衛を囲むようにいる5体は幸い射程圏内。
 自身の出せる最高速を叩きだしたアーマデルは蛇鞭剣ダナブトゥバンを振り払う。
 響き渡る残響は逡巡。
 時を刻むが如き規則正しい斬撃の音色が機械の身体を打ち据えていく。
(守衛として配備されている自律稼働できる機械兵士を製造できる程の水準の、極めて高度な技術を有する文明の神殿
 神殿というからには、神を祀っているのだと思いますが……ニーズヘッグの封印に関する知識の継承、
 ニーズヘッグの封印が存在していた遺跡、そしてこの神殿と遺されているもの
 ヴィルトーチカ様の一族は些か詳しすぎる……)
 続けて前に出たアリシスが魔術を行使すれば、魔力なのか生命力なのか分からない謎のエネルギーが蝶となって浮かび上がる。
 それらはアリシスの翳した手に嵌められた銀の指輪へと飛んでいき、吸い込まれる。
 イレギュラーズの喧騒に反応したのか、もう1機の守衛のモノアイが光り、ゆっくりと起き上がる。
 そのモノアイに高密度の魔力が集まっていき――線上を焼き払うレーザーが真っすぐに駆け抜けた。
「なんだかすっごいビームなのですよ!! これは新しい魔砲のヒントになるかもですよ!」
 思わず目を輝かせるルシアがハッと我に返って。
「思わず見惚れてしまっていたのですよ! まずは倒すのですよ!」
 構えなおして――いつものようにずどん。
 眩く輝く魔砲が返すように騎士の心臓部の動力源と守衛のモノアイを貫いた。
「用兵術については多少の心得があった鉄騎種のはずだが、お役御免で今や遺跡荒らしとはね。報われないモノだな。くそ」
 悪態つきながらも、ヨハンは魔導書を紐解いた。
 美しき聖歌が戦場に響き渡る。
「ミサイルだのビームだのを用意してる守衛はともかく、騎士の方は大かた見た目通りの攻撃を仕掛けてくるんだろう?」
 重ね掛けした治癒術式の後、ヨハンは聖銃を構えた。
 それは母より託された生き方であり、薫陶。
 放たれたる銀の弾丸は聖別の光と共に真っすぐに駆け抜けていく。
 撃ち抜かれた騎士がぐらりと傾き、倒れた。
「あまり壊さないようにしたいよね」
 ヨゾラは個人的に気になることもあって、戦闘の結果、遺跡が壊れることを避けたいと考えている。
 堅琴が奏でる音色は不可視にして不可避の音色――穏やかな音色はねじ曲がり、悪意へと変じて守衛の動力を一部ながら石に変えてみせる。

●遺産Ⅱ
「……これでヴィルトーチカさんの言ってた数倒せたかな……」
 探査の道すがら、数を数えていたヨゾラはぽつりと呟いた。
 既にイレギュラーズの前には壁しかなく、小さな石の机の上には本が魔方陣に守られて存在している。
「これがその情報なのかな?」
 手に取ろうとしてみれば、バチッと音がして弾かれる。
「あぁ、ごめんなさい……ちょっと待ってね」
 追いつくようにしてきたヴィルトーチカが手を翳して何やら唱えると、術式が消え去り本を取り出せた。
「此処に情報が?」
「ええ、たぶんね……」
 ヨゾラはそれをそっと開いてみる。
 保存状態が異様に良いのは術式の保護があったからだろうか。
 記されている文字は読めない。崩れないバベルをもってしても読めないということは、根本的に知識が必要なのだろう。
 だが、何故だろうか、そこに書いてある文章からはどこか温かいものを感じる。
 ――それはまるで、そこに記されていることが誰かの願いであるかのように。
「……これは、当時の人達がお願い事を書いてるのね。
 ほとんどはどうにかして生きていきたい、みたいなことが書いてあるわ」
「……生きていたい?」
「えぇ……ニーズヘッグに追われていた人達が願ったことね」
「ヴィルトーチカ殿、こちらはどうだろうか?」
 アーマデルが指さしたのは物々しい壁画である。
 異様なサイズ感をした蛇に向かって機械で出来た兵器と、その後ろで魔術師らしい人々が何やら陣を描いている。
「きっと当時の情景でしょうね……」
 そういうヴィルトーチカの表情が何かを懐かしむようにも見える。
「……これが封印の術式なのだとしたら、おかしくはないか?
 この者達の戦っている場所は、明らかに山ではない。というか、建造物が壊されているところを見るに、町中ではないか?
 少なくとも、チェルノムスではないと思うが」
 アーマデルはふと首を傾げる。
 そう、壁画を見る限り、戦場は思いっきり街中だ。
「……あの山に封印する前に、戦いで弱らせたのではないか?」
「そうね……だとしたら、『ニーズヘッグを弱らせた術式があるはず』……もう少し探してみましょうか」
 頷いて、イレギュラーズはそれの探索に動き出す。

●クラスノグラードの戦いⅡ
 銃声が轟き、魔弾が炸裂し、金属音が響き合い、喊声が猛る。
 戦いは徐々に勢いをイレギュラーズ側優位に移行しつつあった。
 イスナーンが次なる獲物を定めたのは2人の幹部が倒れたその後、身を低くして、飛び込んでいくのはディーター隊をカバーしようとした別部隊。
 思わぬ角度からの攻撃に動揺したその部隊へ、隠密の爪は鮮やかな閃きを残し、鮮血を戦場に散らす。
「ガハハ! この壁を破る事など容易い事じゃないワイ!」
 押し返しながら豪快に笑うオウェードは自らの意志を刃に変えて眼前のノルダインへ斧を振り下ろす。
 同じように動く部下たちも合わせて抑え込んでいく。
「脳まで筋肉に侵されたか……」
 舌打ちと共に放たれた弾丸がオウェードの身体を撃ち抜いた。
 それはノルダインたちを率いるディーターなる狙撃手のもの。
 けれどそれはオウェードの肉体を貫通するには至らぬ。
「ワシが貴様になぞ倒されるわけあるまい! そこでじっとしておれ!」
「Nyahahahaha!!!」
 オラボナは笑い続ける。
 畏怖あるいは恐怖、はたまた戦慄というべきか。
 その存在は無窮にして無敵を自称する者。
 その名に違わず、オラボナを視野に抑えたノルダインたちは迫りくる自分(オラボナ)に戸惑い、混乱して発狂する。
 ただ進む者。超えることの出来ぬ壁を思わせる在り方に、将が機能しない敵軍など大した障害になりえない。
「総員、イルザ隊を追う部隊へ矢を」
 撹乱を任せていたイルザ隊が追われているのを見るや、黒子はそう指示を発する。
 雨のように放たれた矢に敵部隊が追撃に一瞬怯んだ隙を突いて彼女の部隊が撤退を開始する。
 ほぼ同時、矢を射かけたこちら目掛けてイルザを追っていた部隊が突っ込んでくる。
「一斉に矢を撃つ準備を」
 それだけ指示をして、黒子は前に出ると、術式を起動する。
 気力を奪い、意識の矛先を絞るその魔術に引っかかったそいつらが、一斉に黒子めがけて突っ込んでくる。
 それらの攻撃を一身に受けた直後――矢が降り注ぐ。
 暴風の如く吹き荒れる矢の雨に閉ざされたそいつらの部隊は瞬く間に勢いを失っていく。
 そこへイルザの放つ魔術が、彼女の部隊の放つ魔術と突撃が横槍となれば、傭兵らしき将校の首が飛んだ。
「……予測通りですね」
 一息入れつつ、黒子は次へ視線を向けた。
「お疲れ様! 大丈夫?」
「ええ、問題ありません」
 馬を寄せてきた女性に事も無げに言えば。
「さっすが。そうでなくちゃね!」
「く、くそ……」
 苛立つ様子のマディナへ、正眼に構える舞花は落ち着いていた。
「こんなはずじゃないってのに……ァァァアア!!」
 雄叫びを上げて突っ込んでくる――最早型もなにもない。
 舞花はただ合わせるだけで良かった。
 合わせるまま、流れるように太刀を走らせれば――踊るように走り抜けた愛刀はマディナの心臓を静かに捉えていた。
 女の体重が身体に乗るのを押し返して残心――一つ呼吸を入れれば。
 マディナの死を受けて、怯んだ残りの兵達に、部下の兵達が追撃を仕掛け――マディナ隊が慌てて逃げていく。
(……時間がかかりすぎた。まだ高みは遠い)
 マディナの死を確認したЯ・E・Dはすぐさま踵を返した。
 狙うべきは、次の幹部クラス。
 ちらりと顔を頭上へ上げた。
 見れば、些か遠くにて黒い影が躍っている。
「あの辺りだね。皆、着いてきて。
 けど、あくまで早く静かに進軍だよ。皆が望んだ平和と誇りを取り戻すためにも。
 こんどは彼らが狩られる獲物でしかないことを教えてあげよう」
 獣種達を連れ、Я・E・Dが向かう先は、ユアン隊だ。
 見えてきたユアン隊は頭上に警戒を取られつつも迎撃を続けている。
「――がら空きだよ」
 静かに魔銃を構えれば――ドゥ、と魔砲をぶっ放した。
 それは偶然ユアンの前横にいた兵士を巻き込み、横腹を撃ち抜いた。
「なっ……新手……!」
 驚いた敵の顔、それを見ながら兵士達がユアンめがけて跳びかかっていく。
「今度こそ、撃ち漏らすわけにはいかないんだ」
 その瞬間、イズマは押し出すように兵達を前へ。
「後退するぞ!」
 ユアンが声を上げて軍を下げていく。
「――逃がすと思うか。
 俺の爪からは逃れられない」
 それは空からの宣告。
 漆黒の閃光が柱となってユアンを包み込んだ。
 それは柱のようであって柱に非ず。
 空より落とすは執行者の放つ魔弾。
 レイヴン・ミスト・ポルードイという影が放った破壊の魔弾だ。
 振り下ろされた斬撃、或いは砲撃に傷を負いながらも、まだユアンは生きていた。
「あの時は全く解らなかったが、こんな事を企ててたとはな。だがそれもここまでだ!」
 後退を狙うその心臓目掛け、イズマの青白い閃光が駆け抜ける。
「――危ない!」
 マリウスが剣を振り抜いた直後、リュカシスは前に出た。
 そのリュカシス目掛け、一斉に放たれた魔弾。
「りゅ、リュカシス!? ばかやろう、なんで!」
 声を荒げるマリウスに笑って返して、パンドラの加護を開く。
「ボクはパンドラがあるから簡単に死なないんだ。
 それに、ボクの部隊から死人は絶対に出さないよ」
 拳を握り締めて、先程の攻撃を放った魔術師達の方を見る。
 マリウスが攻撃を躱せなかったのは、彼らがマリウスと向き合っている味方ごとぶち抜こうとしたからだ。
「……勝ちましょう。力こそパワーだって教えてやりましょう!」
「……あぁ!」
 リュカシスの行動に押されるように、マリウスが、旧ユージヌイ警備隊が奮い立つように声を上げた。
 アイリスは戦場を走り抜ける。
 別のところでマディナとユアンが倒れた様子は見て取れていた。
(となれば、最優先で狙うべき将校の首は……)
 視線の先にあるはディーターの首。走り抜け愛刀を握り一閃。
 終焉の帳を思わせる紫紺の閃光はディーターへの攻撃と同時、ついでに近くにいたノルダイン兵を斬り結ぶ。
 勢いの止まらぬまま、鞘に納めた無明世界。
 極限の集中は世界の一切を打ち消し、ただ眼前にある首の身を捉える。
 閃光は走り抜けた事すら捉えさせず、ディーターの首を空へ打ち上げ、緋色の花が戦場に踊った。
 ルチアの存在感はココロ隊がヴァルデマールとの交戦にある分、それ以外の部隊との戦いで傷ついたメンバーを癒す点において大きな役割を担っていた。
 ルチアが幹部クラスの死を知ったのは幾つかの部隊が傷を負って撤退してきてからだ。
「まだまだ敵の部隊は残ってるけど、これでひとまずは1つの目標は達成ね……」
 ホッと一息を吐いて、そのまま祈りを捧げる。
 美しき聖域を呼び起こす祈りが戦場を彩り、幻想の福音が温かく仲間達の傷を癒していく。

●対国兵器
 黒き鎧を纏った精霊――リースヒースは漆黒の御旗を掲げ立つ。
「さあ、いざいかん。赤き地の為に。御身らの誇りをもって赤き地を解放せよ。
 そして、生き残れ。戦が終わった後には、再生の春と復興の作業が待っているがゆえに。
 多すぎる死者はこの戦には不要だ……我ら、イレギュラーズが率いているが故に」
 リースヒースは告げて、前に出ていく。
 剣身に精神力を纏い、振り払った弾丸が真っすぐに駆け抜ける。
「雑魚も加えてる割には、良い火力じゃねえか――けどよ」
 リースヒースに合わせて放たれた魔弾を一斉にけしかければ、それらすべてを受け止めたヴァルデマールは、まるで意にも介さず笑っていた。
「てめぇの攻撃が届くなら、俺の攻撃が届かねえ道理はねえよなぁ……蛇の毒に食いつくされろ、雑兵」
 蛇の瞳が妖しく輝き、殺意がリースヒースを――その小隊を呑み込んだ。
 リースヒースの身体は二重の守りによって守り抜かれている。
「下がれ――ッ!!」
 エッダが叫ぶ。退避行動をとるリースヒース含む小隊だが――尋常じゃない速度で振るわれた斬撃が3度に渡って傷を生み出した。
 当たり所が良かったのか、兵士達は全員生きている。
「各小隊は下がるであります――今すぐ!!」
 エッダの鋭い声が響く。
「ひゅぅ、流石は軍人、判断がはぇや。
 ――たまらねえなぁ、おい。あぁ、もっとだ、もっとやろうぜ」
 獰猛に笑い、ヴァルデマールが蛇腹剣を手元に手繰り寄せる。
 イレギュラーズの猛攻撃は確実にヴァルデマールを削っている。
 だが――どうしてだろうか。眼前の魔種の、異常なまでの余裕は。
「――食らいつくしてやるさ! もっとだ、もっと……まだまだ終わらせるなんてもったいねえ!
 なぁ、そうだろ、ローレット――!」
 蛇の目が再び胡乱に輝いて、ヴァルデマールを包む闘志が爆発的に迫力を増す。
 振り上げられた蛇腹剣が魔力を介していたとしても不自然に天へ伸びる。
 それはまるで文字通り蛇になったように。
「よく考えりゃあ、あの寝坊助蛇がどうなろうが俺には関係ないな……
 ここまで楽しくやらせてもらったんだ、アンタらにちぃとばかしヒントをくれてやるか――」
 刹那、蛇腹剣が躍る。
 尋常じゃない速度で伸びた剣は蛇のように蛇行し、複数のイレギュラーズを、兵士達を文字通り貫いた。
 同時、剣は貫かれたイレギュラーズの生命力を喰らい、受けた傷痕に治らぬ致命傷を生む。
 続け、そっと目を閉じたヴァルデマールが人間の眼らしい瞳に変わり、再び蛇眼に変わった頃、その身体に刻まれたBSが解けている。
「……まるで脱皮じゃない」
 その光景を見たイーリンは思わずつぶやく。
「御明察。まぁ、この眼を見りゃあそういうのだってあるのも分かるってもんだろ?」
「そうね、驚いたけど、不思議ってほどでもないわ」
(けど、さっきこいつが言ってたことがホントなら、今のはヒントなのよね……こんなところでいうヒント、なんて)
「まぁ……一つしかないわよね」
 あれは、ヴァルデマールを討ち取るのに必要なヒントじゃない。
 ――魔獣ニーズヘッグが持つ能力のヒントだろう。
「きぃつけな、ローレット。ほんもんはこの上、てめえの体力も取り戻すぜ」
 にやりとヴァルデマールが笑う。
「アンタは……知らないだろうケド、アタシは血が流れる切った張ったは好きじゃないの。
 だから……さっきの話は訂正するよ。アンタが魔種になってから出会えて良かった――アンタを倒すのに躊躇はいらない!」
 ミルヴィは静かにヴァルデマールへ肉薄する。
 深呼吸と共に、全身全霊で打ち込む連撃は幻影の如く舞い踊り、この身が動く限りの全力を以って連撃を叩きつけていく。
「へぇ、そりゃあ悪いね。まっ、殺せなかっただけ御の字だわな」
 回避し切れなかった分の傷を受けながら、ヴァルデマールが愉しげに笑う。
「まぁ、でも。そういうのもいいんじゃねえか。てめぇが生き残れさえするなら、だけどよ」
 静かに答える魔種と競り合うミルヴィはヴァルデマールの動きが明らかに落ちてきていることに気づいた。
「じゃ、行ってくるから……貴方達は他の連中が来きたら教えて頂戴」
「し、シスター……俺達は」
「貴方達が参加すれば、あいつはより強くなるでしょう。
 散ることは許さない。貴方達は帰る家があるんでしょ?」
 イーリンが意図してシスターらしく微笑んでやれば、義勇兵たちの動きは止まる。
 紫紺の魔力塊を魔剣とし、爆ぜるように馬を走らせていく。
「随分楽しそうだな。戦いの中にしか存在する場はないってんなら、好きに生きたろ? 理不尽に死ね!」
 爆ぜるように秋奈は動いた。踏み込むと同時、心を落ち着かせる。
 集中力を高め、ヴァルデマールが振り下ろした剣に合わせるように太刀を斬り結ぶ。
 それは後の先を撃つ攻勢防御。
 究極に近い無双の斬撃は敵の身動きに合わせて強かに振り下ろされる。
「はっ、理不尽な死ってのは、今じゃねえなぁ!
 理不尽な死をくれるってなら、ここで死んでくれよ、生き延びて死ぬ方がよっぽど理不尽だぜ?」
「わっはっはっはっは! 上等だコノヤロー! 殴れ殴れー!」
 そのままの流れに乗って返す刀で振り上げた。
 二連撃を受けたヴァルデマールの身体に強烈な傷が浮かぶ。
 秋奈の連撃が終わりを迎えた時、沙月は繋げるように魔種めがけて跳びこんだ。
 その両手に雷光を纏い、紡ぐ掌打は鮮烈の一刺し。
 雷鳴轟く雷撃の掌、高い機動力を以って生まれた衝撃波に魔種の身体が痺れを引き起こす。
 衝撃に揺れる魔種の動きに合わせて、沙月は次の一刺しを叩きつけた。
 手刀を以って刺突するように放つは花時雨。
 鮮やかな連撃はそれでも動きは終わらぬ。
 三度目の追撃を叩きつけてから、身を起こす。
「皆さんは下がってください」
 魔種の本気の一閃を受けた兵士達の傷を見て回っていたココロは直ぐに診断の結果を告げる。
 現時点で応急処置をすれば、継戦は出来る。
 けれどそれには『今後の生活を犠牲にするなら』という冠が付く。
 ヴァルデマールが小隊兵の数が含んで戦力差が多いほど強くなるなら、下がってもらう方が正解だ。
「チームの皆さんは負傷者の回復と術式の維持をお願いします。
 私はイレギュラーズの皆さんの支援をします」
「分かりました!」
 険しい表情で頷いたメンバーに後を任せて、ココロは術式を発動させた。
 リリーは銃を構えなおす。
 もしもシルフィナにもヴァルデマールの対処をお願いしていたら、彼女達がどうなっていたのか分からない。
 銃を握る手に自然と力が籠っていた。
 持ってきていたカラビ・ナ・ヤナルにかぶりついて気持ちを立て直させ、リョクと一緒に戦場を疾駆する。
 意識を集中させ、放つ弾丸は思いもよらぬ角度から跳ね、ヴァルデマールに傷を入れる。
 続けて籠めなおした魔弾を撃ち抜けば、炸裂した魔弾がヴァルデマールの身体を縛り付けた。
「よぉ、邪魔するぜクソ野郎。
 よくもやってくれたじゃねえか。
 私は私の大切なものに手ぇ出されるのが何より嫌いなんだよ」
 ミーナは肉薄すると同時、死神の大鎌の刃に全霊の魔力を纏う。
 膨大な魔力を薄く伸ばしたそれを、炸裂の瞬間に開放する。
 刹那、尋常じゃない魔力が幾重もの斬撃となってヴァルデマールの身体を切り刻んだ。
「……全力でお見舞いしてあげるわ」
 フルールは自らを纏う精霊の力を掌に集束させていく。
 それを射出すれば、紅蓮の輝きは戦場を焼き払いながら走り抜け、まばゆいばかりの閃光となって迸る。
 炸裂した紅蓮の閃きは連続してその身を壊し、焼き払い、踏み砕いて滅ぼす。
 原初の破壊力をもって焼き尽くす。
「流石にもう口を利く力も残っていないようでありますな。
 では引導を渡してやるのであります」
 エッダは静かに走り出す。
 真っすぐに打ち出した掌底が魔種の身体の内側へ浸透した刹那、崩れかけたヴァルデマールの足を払い、投げを打つ。
 強かに打ち据えられた男が口から大量の血を吐き、崩れ落ちる――けれど。
 ゆらり、ゆらりと再び立ち上がる。
「貴方ほど強ければ、自分だけ包囲網を突き破って逃げることもできるはずなのに、燃え尽きるまで戦い続けるとは見上げたものですわね」
 ヴァレーリヤはほぼ根性で再び立ち上がると、イレギュラーズの猛攻にいよいよ死に体のヴァルデマールを見た。
 ふらふらの身体を引きずるように前へ。
「主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え。毒の名は激情。毒の名は狂乱。どうか彼の者に一時の安息を。永き眠りのその前に」
 聖句は魔力を帯び、思いっきり振り抜いた。
 インパクトの寸簡、放たれた衝撃波が幾重もの傷を与えれば、一つ呼吸を入れる。
「――――どっせえーーい!!!」
 そのまま、引いて――あらん限りの力を込めて、思いっきり殴りつけた。
「……最期のダンス、お相手するわ」
 レイリーは一歩前に出た。
 全霊を以って突っ込み、全体重を乗せた刺突を放つ。
 真っすぐに伸びた刺突がヴァルデマールの身体を穿つ――そのぎりぎりでふらりと身体が動き躱された。
 返すように振り抜かれた剣は余りにも軽い。
「本気で戦いたいなら民など巻きこまないで。
 私も死線の戦いすきなのよ……残念」
「はっ……それじゃあ、ここまでのもんを見れたもんかね……」
 そう言った魔種に、競り合っていた身体を押しのけられる。
「く、くはは、これで終わりか……しゃあねぇ、最期の一発だ――」
 乾いた笑みを浮かべたヴァルデマールが口元から血を溢れだす。
 ゆらゆらと切っ先を上げた蛇が躍る。
 それを見据え、ラダは静かに銃口を抜けた。
「……一度見た。だったら――二度目はない」
「――次は叩き落とす。剣砕きの弾と勝負してもらおうか」
 振り下ろされる刹那、銃口から離れた弾丸は真っすぐに戦場を駆け抜け、振り下ろされた剣の切っ先へ炸裂。
 そのまま銃弾はのたうつ刃を真っすぐ突っ切るように走り――

●魔将堕つ
 心臓を捉えた。
 その感触を、ヴァルデマール自身、驚くほど冷静に受け取っていた。
「はっ――いいねぇ、これぐらいでなくちゃよ」
 そうだ、これでいい。
 微かな草の感触が背中に走った。どうやら倒れたらしい。
 肉体が裂けた激痛が身体中から聞こえやがる。

「楽しかったわ。貴方は?」
 レイリーはあおむけに倒れたヴァルデマールへと問いかける。
「……言わなくても、分かんだろ」
 そういう魔種の声は、酷く穏やかだ。
「でも、私の……私達の勝ちね」
「はっ……そうみてぇだなぁ」
「最期に一つ教えて頂戴。ベルガは祖国の魔獣を見たいと言っていましたわ。
 そのために、貴方達、戦争屋の小目標が必要だとも。
 貴方達に求められていたことは、何? 彼女の祖国は、どこにありましたの?」
 ヴァレーリヤは倒れ伏した魔種へ問いかける。
「はっ……瀕死の奴に聞く量じゃねえなぁ……まぁ、いいけどよ」
 仰向けに倒れたヴァルデマールが笑って、眼を閉じる。
「……俺達に求められたのは、沢山の怒りを買う事だ。
 俺達はその結果として、戦争を引き出した。
 ――あいつが欲しかったのは、その前段階さ……」
 そういうヴァルデマールの呼吸が浅くなっていく。
「あいつの祖国……なんざ、何処か知らねえ……よ。
 あったところで、遺跡の一つだって残っちゃいねえだろうさ……」
 男は目を閉じる。
「あぁ、嬢ちゃん……言い忘れた」
 こと切れる寸前、ヴァルデマールが目を開けてラダを見据えた。
「俺は、あんたらと初めてやった時、こうなることを楽しみにし始めたんだぜ。
 いつかまた会えた時には、思う存分の戦場を――ってな」
 それっきりヴァルデマールは目を閉じて――原罪の呼び声が止まり、酷く冷たい風が頬を差す。

成否

成功

MVP

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女

状態異常

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)[重傷]
祈りの先
レイリー=シュタイン(p3p007270)[重傷]
不屈の白騎士
リースヒース(p3p009207)[重傷]
葬送の剣と共に

あとがき

おつかれさまでした、イレギュラーズ。

大変お待たせいたしまして申し訳ございません。

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