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シナリオ詳細

<Spring of Desastre>華も願いも呑み込んで

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 昼下がりだというのに、ちりり、と蝙蝠が飛んでいた。
 こうもりだ、と幼い亜竜種の子どもがいう。だが物珍しいものでもなく、蝶のように美しくもない。ただ其処にいると、こうもりだ、と言うだけ。
 蝙蝠はちりり、とぐるり回ると、とある洞窟へと入っていく。其処は入り口が青く輝いていて、まるで宝石を抱いているよう。
 入ってみると、其処には青く煌めく花たちがひしめいている。
 其れは水。其れは氷。暗闇の中、青く光る花たちはゆらりふわりと奥から吹く風に揺れている。
 其の洞窟が何処へ続いているのか。其れは気にするところではない。
 気にかけるべきは花弁の数。其れは5枚かしら。其れとも、1枚多いかしら。
 ――叶えたい願いはある?
 あるならば、1枚多い花を探して。
 そうしてぱくり、呑み込んでしまえば……願いも花も、貴方のお腹の中。



「という訳で、亜竜集落ウェスタへの招待状がきたよ」
 リリィリィはにこにこと笑顔を浮かべながら言った。
「差出人は、僕、リリィリィだよ。この前蝙蝠くんを遊ばせてたら、不思議な洞窟を見付けてね。入ってみたら、とっても綺麗な花が咲いていたんだ」
 彼曰く、桜のように大きく聳えて優雅に舞うような華ではないらしい。どちらかといえばチューリップなどの花のように洞窟の大地にそっと花を輝かせる、穏やかなものなのだという。
「興味があって聞き込みをしたら、ワタツミの花、ってウェスタでは呼ばれてるらしいわ。水と氷で出来ていて、其れ等を摘む事は出来ないんだけど……呑む事は出来ちゃう。まあ、呑んだところでただの水なんだけど……おまじないがあってね?」

 6枚の花弁をもつワタツミの花を見かけたら、願いを掛けて飲みなさい。
 巡りめぐって、願いを叶える幸いが貴方の元に訪れるでしょう。

「っていわれがあるんだ。だから、探してみるのも一興じゃないかな。――ああ、そうだ。忘れてた。ウェスタに立ち入るにあたっての名目は“ワタツミの花と一緒に生えてる雑草抜き”って事になってるから、暇だったら抜いてあげてよ」

 ――お花見しながらお酒を呑む。此れこそ春の醍醐味だよねえ。

 幼い外見なのに随分と爺臭い事を言うリリィリィなのだった。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 今回は愁GMとの企画イベシナです。
 愁GMの方の覇竜イベシナも見てみて下さいね。

●目的
 ワタツミの花を見に行こう

●立地
 亜竜集落ウェスタにある洞窟、其の中にある小さな花畑です。
 洞窟の中にあるので、出来れば灯りを持って行った方が良いでしょう。
 中には普通の花ではなく、水と氷で形作られた“ワタツミの花”が咲いています。
 これらは物理的に摘む事が出来ません。ただ、呑む事は出来ます。

 普通のワタツミの花は5枚の花弁をしていますが、もし6枚花弁のワタツミの花を見かけたら、ぱくりと口に含んで飲んでしまうと願いが叶う……なんて言い伝えもあります。

●出来ること
 ワタツミの6枚花弁を探したり、お花見ができます。
 お弁当など持って行ってはいかがでしょうか。折角の春ですから、桜以外でもお花見は出来る筈。

EX.雑草抜き
 手が空いたらでいいので、ワタツミの花の成長を邪魔している雑草を抜いてあげて下さい。これは水で出来ている訳ではないので触れます。

●NPC
 グレモリーはワタツミの花をスケッチしています。
 リリィリィは花の密集地に寝転がってお酒を呑んでいます。お酒うめー。
 どちらもお声がけはご自由に。

●注意事項
 迷子・描写漏れ防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは判るように合言葉などを添えて下さい。
 また、やりたいことは一つに絞って頂いた方が描写量は多くなります。


 イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
 皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守ってイベントを楽しみましょう。
 では、いってらっしゃい。

  • <Spring of Desastre>華も願いも呑み込んで完了
  • GM名奇古譚
  • 種別イベントシナリオ
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2022年04月14日 22時05分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
蒼輝聖光
古木・文(p3p001262)
結切
蜻蛉(p3p002599)
曙の花
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
迷い猫
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
メイメイ・ルー(p3p004460)
ひつじぱわー
閠(p3p006838)
真白き咎鴉
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
オフィーリアの祝福
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
毀金
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
黒き葬牙
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
水月・鏡禍(p3p008354)
守護者
花榮・しきみ(p3p008719)
お姉様の鮫
トスト・クェント(p3p009132)
星灯る水面へ
ニル(p3p009185)
陽だまりに佇んで
龔・巳華(p3p010363)
食べ歩き仲間
秋霖・水愛(p3p010393)
雨に舞う
スフィア(p3p010417)
ファイヤーブレス
熾煇(p3p010425)
紲家のペット枠
紲 月色(p3p010447)
紲家
茶寮 コロル(p3p010506)
どたばたロリ店主
ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)
たくさん燃えた
香 月華(p3p010546)
月華美人
紲 雪蝶(p3p010550)
雷霧(p3p010562)
奇剣

リプレイ


「水と氷で出来た花、かぁ……」
 ヨゾラはまるで発光するように輝く花たちを見つめると、ほう、と息を吐いた。とても綺麗だ。そして言い伝えもとてもいい。願望器志望の自分としては是非にあやかりたい。
 入り口で警戒するようにふんふんと鼻を鳴らすのは、付いてきていたドラネコ。
 そうして捜してどれだけ経ったか、見付けた六枚花弁の花はちんまりと咲いていた。
 ――ねえ、僕は願望器になりたいんだけれど。見境なく願いを叶えるんじゃなくて、僕が叶えたい願いをかなえてあげられたらいいなって思うんだ。
 ぱくり、呑み込んだワタツミの花は氷水のように冷たくて。見上げても星はないけれど、花々は星のように綺麗だった。


 雑草をよいしょと抜きながら、リトルはワタツミの花を捜していた。
 抜きながら数えていたら、六枚花弁もいつか見付かるよね、と雑草を引っこ抜いて花を見詰めると、あら? いち、にい……ろくまい。あ! 六枚だ!
 呑み込まないという選択はリトルにはない。勿論ありがたく頂きます。願いは何にしよう? そうだな、“覇竜の皆ともっと仲良く出来ますように”、かな。
 でも、少し大きい。少しずつ呑み込めばいいかな? ――あ! リョク、駄目だよ! これはリリーが呑むんだから!


 クーアの願いは、己を満たす二度目の焔色の末路。だけれど、最近は其処まで飢えている訳でもないし、……なにより、平和に咲いているお花に願うような代物ではありません。
 では花見……いえ。クーアはメイドなので、頼まれたお掃除をやらないのは名が廃るというもの。庭園の管理もまたメイドの本領! クーアはお酒そっちのけで、懸命に雑草抜きに励むのでした。
 発火の恐れのない照明器具をあちこちに置いて、ほんの僅かな雑草も逃がさないように。だってメイドですもの! やるなら徹底的に、なのです!


 アーリアはふらりと酒を片手に花畑へ。選んだのは桜のリキュール。ワタツミとは対照的な感じがして、なかなか粋なチョイスでしょぉ?
「成る程、これは絶景ねぇ」
 ご機嫌に花畑に座り込むと、あら? こんなところに雑草が。なんだか興を削がれちゃうわぁ、とぶちりと抜いてやる。一度摘み出すとあれこれと気になってしまう。――こういう地味な作業って、やりだすと止まらないのよねぇ。
 リキュールを時折煽りながら雑草を抜いて、悪戯にワタツミの花弁を数えていると、あらら? これ、六枚ないかしらぁ?
 アーリアは酔った目で何度も数えて間違いない事を確認すると、ぱくりと花を呑み込んで、リキュールで流し込んでしまった。――今日は一緒に来られなかった大好きな彼。来年、この景色を一緒に見られるかしら。いいえ、叶えてみせるのよ。
 だって来年も其の先も、ずっとずーっと一緒にいたいんだもの!


「ワタツミの花……」
 メイメイはほう、と呟く。水と氷で出来た花は洞窟の入り口から既に幾つか咲き誇っている。ライトを反射して輝く様はとても美しくて、流石リリィリィ様、と思わず手を合わせるメイメイなのだった。
 さて、六枚花弁の花を呑み込むと願いを叶えられるというが。メイメイがランプ片手に探してみても、なかなか見付からない。でもこの清らかで優しい姿は、例え五枚の花弁であろうとも癒される。ほわほわとしていたメイメイだったが、はっと我に返った。そうだ、雑草を抜くのも目的でした。
 ぷちぷちと丁寧に雑草を抜いていく。こうしてお手入れをすれば、きっともっとワタツミの花は輝くと思うのです。
 休憩しているメイメイが花を戯れにつついて、ぷるんとした触感に驚くのはまた別の話。


 わたくし、是非とも、六枚花弁の花を、見付けてみたいです。
 ネーヴェは意気込んでいた。小さな花の花弁を、一つずつ数えていく。これは五枚。これも五枚。これも……うぅん。目が疲れてしまいそう。あんまり集中すると、よくないですね。
 起き上がって、花畑をぼんやりとみる。あの人だったらきっと、この花畑の事を私に教えてくれたのだろうな、なんて。
 何を願えば良いのでしょう。頭にチラつくのは魔種になってしまったあの人の事ばかり。叶わないと判ってる。だから願えない。叶わない願いを抱くことほど辛い事はないし、願ってしまったら、わたくし、悪夢の手を取ってしまいそう。
 ――ふと見下ろした花の花弁を確かに六枚、ネーヴェは数えたけれど、……何を願えばいいか判らなくて、途方に暮れてしまった。


 灯りは持たない。暗い所でも目は見えるから。
 六枚も探さない。出会うべくなら偶然に出会えるだろうから。
 鏡禍は黙々と雑草抜きをしながら、時折ワタツミの花に視線を移していた。これは五枚。これも五枚。つい花弁の枚数を数えてしまって、まるで捜しているようだ、と己を笑う。
 そういえば、この花には香りがあるのだろうか? 鼻を近づけてみるけれど――ない。強いていうならば、真水のようなひんやりとした雰囲気がある。
 香りがないなら、どうやって増えているのだろう。虫に頼らず増えている? 首を傾げながら鏡禍が枚数を数えると――六枚、あった。
 叶えたい願いは、ある。思いを伝えられずにいるあの人に、愛を告げたい。でも、きっと言えないから。
 鏡禍は其の花ごと、思いを呑み込んだ。ああ、呑み込んだばかりなのに喉を這い上がって来るかのようだ。


 トストはカンテラを翳して、丁寧に雑草をより分け、摘む。これを数度繰り返しながらも、六枚花弁のワタツミを捜している。
 カンテラの光がワタツミを照らして、反射したり透き通ったりしてとても綺麗だ。
「……願いかぁ」
 六枚花弁を捜しながら、トストはぷちり、と雑草を摘む。――故郷に、帰りたい。真っ先に浮かぶのは其の願い。でも、ただ其れでいいのかなって、引き留める自分もいる。
 地上の生活を知って、地底湖の在り方に不安が出来てしまった、素朴で平和な故郷で安穏と過ごす。其れで良いのだろうか?
 疑いたい。疑うという事を知りたい。ちゃんと知って、そうして納得できる道を選びたい。
「……ま。まずは何処にあるか見付けないと話になんないけど」
 だから、そうだな。
 願いは“ちゃんと前を向けますように”だ。決意に後押しが欲しい、なんて。情けないかな。
「……あ! 六枚!」


「わあ、ワタツミの花だー」
 水愛はランプを翳して、光を反射する花々に歓声を上げた。実家はウェスタにあるから、割と近場なのだ。
 雑草摘みもそこそこに、六枚花弁のワタツミの花を捜し始める。一輪一輪花弁を数えていくけれども、五枚のものばかり。
 そういえば、昔から六枚花弁を捜すのは苦手だったなぁ、と水愛は思い返す。初めて見付けた時は弟にあげちゃったし、自分で願い事をした事はなかったかも。
 なんて、思い出しながら数えていたからだろうか。ふと一枚多い花がある気がしてもう一度数えてみると、おやまあ。六枚の花弁を持つワタツミだ。
 でも、見付かるなんて思ってなかったから願い事考えてなかったや。何にしよう……そうだ!
 ぱくり、と花を呑み込んだ水愛の願い事。其れは家出した弟が、昔あげた花に何を願ったのか。さて、彼は何を願い、何を求めて家を出たのだろうか。


 スフィアは静かに、ワタツミの花を見詰めていた。
 自分の角みたいな色だ、と思う。透き通っていて、傍目に見ると青い。ずっと眺めていられるから、屈んでずっと、スフィアは見ていた。
 ワタツミの花、だと情報屋は言っていた。神様みたいな名前だ。
 確か六枚花弁があったら、呑むと良いって、言っていた。花弁を数えると六枚ある。……願いが叶う。でも、呑む気にはならなかった。
 スフィアには願いがないからだ。家族が何事もなく生きているように、なんて思ってしまうけれど、其れも願いというと少し違う。
 だから、じっと見詰めている事にした。綺麗だから、記憶に焼き付けたい。


 熾煇は仔竜の姿で羽撃く。其の度にふわり、とワタツミの花が揺れて、わー! と熾煇は声をあげた。
「普通の花じゃないのか? 触ってもへーきか?」
 大地に降り立って、花を鼻先でつんとする。ぷるん、という不思議な感触がして、花が僅かに揺れた。
「つめたい! つめたいぞ? ほんとーに花なのか? 水っぽいな……もぐ」
 おや、熾煇ったら、五枚花弁のワタツミを食べてしまったぞ。冷たいし、水のようになってあっという間に口内で溶けてしまったので、大きな瞳をぱちくりとする。
「んー! 冷たくて気持ちいいな! ん? ワイバーンも食べたいか? 冷たいけどだいじょーぶか? そーか、お腹へったか。なら後でお肉くおーな!」
 それにしても、と花を見詰める熾煇。何故だろう、懐かしい気がするのだ。
「あの、……お腹が減っていますか?」


 コロルは花畑から少し離れた場所に腰を下ろし、輝くワタツミたちを見て目を細めた。本当に、幻想的で綺麗。
 作ってきたお料理を広げる。食べやすいサンドイッチをメインに据えつつ、おかずにはみんな大好き唐揚げ。一口サイズに切ったフルーツも添えて、ウェスタの集落らしく後味を爽やかに。
 自分で食べるよりも多めに持ってきたのは、お腹が減っている人がいるかもしれないから。あわよくばコロルのお料理の味を覚えて貰って、お店にも興味を持ってもらえたら……なんて。
 そうしていると、なんだかもぞもぞしている小さな竜を見付けた。ワイバーンと一緒に、お腹が減ったと言っている。
 コロルはぐくりと喉を鳴らして、勇気を振り絞った。
「あのー……」


「おや。ウェスタにはこのような場所があったのですね」
 いつか父上を連れて再訪したいですが、父上には少々窮屈かも。ヴィルメイズは父と慕う精霊を思いながらぐるりと洞窟を見回す。
 取り敢えず食事にしましょう、と腰を下ろす。食べながら雑草を抜けば、文句も言われない筈。
「――おや?」
 ヴィルメイズは何かに気付いたようで、いちにい、と花弁を数える。なんとそれは六枚花弁のワタツミであった。なんということでしょう。
「きっと日頃の行いが良すぎたのですね……願い事はあるにはありますが」
 社会倫理的に駄目でしょうね……と唸るヴィルメイズ。どんな願い事なんだ、と言わざるを得ない。
 兎も角、別の誰かに譲った方がいいだろう、と見回すと、花畑に向かって絵を描いている誰かがいた。
「もしもし! あそこに六弁の花がございますよ~」
「そう、ありがとう。……。ねえ、君。お腹へってる?」
「え? 減っておりますが」
「丁度此処におにぎりがあるんだ、どうぞ」


「ウチはペイト以外じゃあんまり活動せえへんかったからなあ」
 雷霧はほう、と洞窟の中に咲き誇る花々を見渡す。
「こないな場所があったなんて知らへんかったわ。なんちゅうか幻想的で、綺麗やなぁ」
 暗闇の中で青く輝き、外気にゆらりと揺れる様はまるで見も知らぬ海中のよう。
「しかし、お花見の気分やあらへん。仕事に励むとするかなぁ」
 仕事。即ち雑草摘みである。
 暗いのでよくは見えないが、花がきらりと輝いて僅かな光源になってくれている。その周りの雑草を抜こう、と雷霧は屈みこんで、ぷちぷち雑草を抜いていく。
 六枚花弁はなんとか、という言い伝えを思い出したが――ウチには今は、急ぐような願いはないな、と雷霧は少し笑った。其れはある意味、幸せな事なのかもしれないと。
 ウチは摘まんから、他の誰かの願いを叶えたってや。


 ワタツミの花って、どんな花なのでしょう。“おいしい”のでしょうか?
 ニルはおいしいを知りません。だから、花がおいしいのなら、是非味わってみたいです。
 ――そういえば、六枚の花弁を持つワタツミには言い伝えがあるとか。
 願いを叶える……何を願いましょう。ニルの、すきなひとたちのしあわせ? すきなひとたちと、ご飯をいっしょに食べる時間?
 ううん、それよりも――溶けてなくなってしまう儚い花が、これからもずっと、此処で咲き続けますように、と。
 いつか此処で、いまはいないみなさまとも一緒に、ごはんを食べたいな、食べるのがいいなって、思ったのです。
 だからニルは、雑草抜きを頑張ります。
「――あ」
 そうだ。絵にして描き起こすのはいかがでしょう。
 グレモリー様なら絵の道具を貸してくださるかもしれません。持って帰れなくても、絵なら大丈夫ですよね。


 願いならば閠にもある。
 けれど、其れは他力本願に縋ってはいけないものばかり、だと思っている。何か願えるような事は、と考えていると、ふと、グレモリーと出会った頃を思い出した。
「懐かしいです、ね」
 願いの叶う木、だっただろうか。あの時も彼は変わらず淡々としていた。其れはまるで、大樹のようで。寄りかかりたいという心と、そうしてはいけないという心が相反すれど、足先は自然と彼の方に向いていた。
 さらさら、さらり。
 音を頼りに捜せば、彼は存外近くにいた。
「グレモリーさん」
「……やあ、君は閠」
「はい。……差し入れ、如何ですか」
 暖かいお茶。大丈夫、酔ったりはしない。頂くよ、と答える彼の声はいつも通り穏やかで静かで、心なしか冷たいこの洞窟には、お茶の暖かさはありがたかった。
「ワタツミ。……海に繋がって、いるのでしょうか」
「どうだろう。人によって、海の定義は様々だから」


 ワタツミ。
 その響きに、縁はどうにも心がざわつくのを抑えられなくて苦笑した。
 はて、と首を傾げる蜻蛉に誤魔化すように腕を差し出すと、女は遠慮がちにそっと腕を絡める。
 時折雑草を抜きながら光を辿って行く。水の香り、壁や天井に移る水面模様。まるで海の中にいるようだ。
「怖くねぇかい?」
「え?」
 六枚花弁は何処にやら、と捜す蜻蛉の瞳が、ぱちりと瞬いた。
「怖い事あらへんよ? 一人やあらへんし」
 ね、と絡めた腕を引く女。
 そうか。このワタツミは、怖くはないか。
 視線を逸らした縁が見つけて、ランプで照らした六枚花弁のワタツミの花。
「……。どうする? 呑んでみるかい、嬢ちゃん」
 其の問いに、少しだけ蜻蛉は沈黙して、……いいえ、と頭を振った。
「うちのお願い事はええのよ。今で十分やもの」
「そうかい」
 縁はふと膝を折る。そうしてぱくり、六枚花弁を口に含んでしまった。驚いた様子の女に笑ってみせると、柄にもなく「今を永遠に」なんて願いたくなったのさ、なんて。
 ああ、唇が冷えている。そっと触れた女の指は、男の唇には燃えるように熱く。


「洞窟の中に花畑って、何だか不思議だね」
「そうですね。海の遠いこの場所に、海の恵みのように水と氷の花……」
 素敵ですね、と表情を緩めるしきみを見て、スティアも魔法みたいだ、と笑った。
「其れに、願いが叶うって言い伝えもあるみたい? ならやる事は一つだよね!」
「ええ」
 しきみのやる事はただ一つ。スティアお姉様のために、六枚花弁の花を捜す事。
 スティアはしきみの手を引きながら、「見付けられたらラッキーくらいでね」と進む。ランタンは頼りなく揺れて、でも繋いだ手は確かで。そうして花を見付けたら、大切な人たちの幸せを願おう。
「お姉様、あっちに行ってみませう?」
 しきみが誘うのは暗闇へ、暗闇へ。ふたりぼっちが心地いいから、もっと二人きりになりたいの。お姉様はきっと、花が綺麗だとしか思わないでせうけれど。
 ああ、この暗い中でお姉様は一筋の光のよう。
「……お姉様」
「ん?」
「お誘いありがとうございます」
 ワタツミなんてなくても。全部全部呑み込んで、しきみは笑った。


 イーハトーヴと文は、黙々と六枚花弁を捜しつつ雑草を抜いていた。
「文お兄ちゃん、そっちはお花見付かった?」
「いやぁ……ふふふ。駄目だねぇ」
 見付からない、と文は笑う。見付からないけれど楽しそうだ。
「雑草抜きの方は捗っているんだけどね」
「そうだね、そっちは俺達二人ともばっちりなのにねぇ」
 イーハトーヴが溜息を吐く。――彼にとって、文は理想の大人みたいな友達だった。
 優しくて理性的で、頼もしい。でも、時々危険を顧みないところがあるから、だから、花に祈りたかった。元気でいて欲しい。何処へ行っても無事に帰ってきて欲しい。
 悪戯に花を探りながらそんな事を考えていると、ふと目に留まった花があった。他の花とはシルエットが違う。
「……あー!? あった! 六枚!」
「え! あった!? おめでとう、凄いじゃないか!」
 きっとイー君の日頃の行いが良いからだよ、なんて。理想の大人はそう言って笑うんだ。
 俺の願いはもう決まってる。だから迷いなくぱくり、と花を呑み込むと、休憩しよう、と俺は提案した。
「冷たいレモネードを持ってきたんだ。ちょっとくらい休憩してもばちは当たらないよ」
「そうだね。この辺りもだいぶ綺麗になったし……そうだ、花が見付かった記念に乾杯でもするかい?」
「ふふふ、其れは文の分が見付かったらにしようよ」
 もし自分の分が見付かったら。文は考える。
 イー君はきっと、他の誰かの為に願ったのだろう。だから、イー君の為に願いたい。
 彼の元から、不幸が遠ざかりますように。


 ヴィクトールと未散、二人でたくさんの花を見てきた。
 いつの日だったか、桜の木の下でお酒を頂いて微睡んだ日もあった。
「あっという間でした」
 未散が言う。自分の事が判りかねても、時計の針は進んでいるのですね。
「そうですね」
 ヴィクトールが答える。“なに”も“どれだけ”も判らぬ身ながら、傷跡は幾つか増えました。
 黒猫のランプシェードを連れて、未散は六枚花弁のワタツミを捜す。ヴィクトールはそんな未散のためにワタツミを探す。
「あ、」
 小さいけれど、二つ並んだこの花は確かに六枚の花弁をたたえております。
 ――僕が呑み込みたい願いは、大層なものではなくて。ほんの、ほんの些細な願いなのです。
「ヴィクトールさまと来年も花見がしたい」
 これだけ。
 ねえ、この程度なら小指に誓って下さいますか?
「ええ、かまいませんよ」
 ねえ、きみ。ボクの口から吐かれた言葉に、どれ程の厚みがあるかは判りませんが。小指一つの重量ならば、背負ってもさして重くはないでしょう?
 ――ゆびきりげんまん。
 ――こうして、ひととせは巡ってゆく。


 ベネディクトとリュティスは、灯りをもって洞窟の中。大地に広がる水の花は、曰く摘む事が出来ないらしい。
「物語にでも出てきそうな花だな」
「そうですね。御伽噺などに出てきそうかなと思います」
 なら、後々は此処で私たちが体験したことが冒険譚になったりするのでしょうか。
 リュティスは思う。御伽噺。なんだか遠い響きに感じる。
 ――広がるワタツミの中に、六枚花弁はあるだろうか。
 彼らは目で探しながらも、まずはとリュティスお手製の弁当を広げる。戯れにベネディクトが指をワタツミに翳してみるが、ぷるりとした触感を残してすり抜けるばかりで。
「本当に触る事は出来ないんだな」
「けれど呑み込む――口に含む事は出来る。不思議ですね」
「ああ。何らかの力が働いているんだろうか」
 おっと、お弁当を忘れてはいけない。美味しそうに彩り豊かな具材を一つ、口の中に放り込む。其の様はなんだか幼くも見えて。
「――リュティスは何か願いたい事はあるか? 俺は大丈夫だが」
「私ですか? ……そうですね」
 恋心を知りたい。真っ先に出てきたのは其の願いだけれど、花にわざわざ願う事でもないような。
「強いて言えば、黒狼隊の皆様の安寧を願う、でしょうか」
 でも花を呑み込むほどではありませんね、とリュティスが言ったので、二人は花見に興ずる事にした。


 月華と巳華は二人、洞窟の中にいた。
「まあ……!」
 月華は嬉しそうにワタツミの花を眺めている。ウェスタでは有名なワタツミの花。月華は病弱ゆえに知っていても見る事が叶わなかったが、特異運命座標となった今、こうして見る事が叶ったのである。
「なんて嬉しい事でしょう。誘ってくれてありがとう、巳華様」
「ん……折角だし、お花見がてら……」
「幼馴染の貴方と一緒にお出掛けが出来るなんて夢のよう。思わず気分が高揚して……コフッ」
「……」
 思わず吐血した月華の口元をそっと拭いてあげる巳華。いつもの光景である。
「灯りは、任せて。最近覚えたこの技で……」
 いうと、巳華の全身が淡く輝きだす。傍から見れば非常にシュールな光景だが、まあ! と月華は嬉しそうな声をあげた。
「明るい! 流石ですわ、巳華様! 私もいつかそんな風に……!」
 ならなくていいと思うぞ!
 とボケつつも、二人はゆっくりと洞窟内を歩き、見晴らしの良さそうな場所に腰かけた。月華はお団子を、巳華はお酒を持参している。
「月華がこうやって元気になって、本当に嬉しい……ついでに一緒にお酒も飲めると、もっと嬉しいのだけど……」
「流石にまだお酒はのめませんが……ふふ、一緒にお菓子を食べる事は出来ますわ?」
 静かに風が吹き抜けていく。静寂は苦ではない。月華は嬉しそうにワタツミの花畑を眺めて。
「六枚花弁、もし見付けられたら呑んでみましょうか。巳華様がお腹いっぱいになりますようにってお願いしますわ」
「……。じゃあ私は、月華が健康になりますようにって……」
「まあ。今でも私は十分……コフッ」


「月色、月色。お花見だって!」
 呑めるお花もあるんだって! と行こうと強請る雪蝶に、月色は割とすんなり折れた。折れなけれあ何があるか判らないと思ったからだ。
 そうして洞窟の前で待ち合わせ。お手製でお弁当も作ったんだよ、という雪蝶に、月色は本当に判らなくなった。何がって? 雪蝶が何を考えているかだ。こんな仏頂面の男より、もっと華やかな相手を連れて歩けばいいのに。其の方が花見らしくもなるものだろう。
 まあ、弁当を無下にする理由はないので有難く頂く事に、
「はい、あーん」
「……口を開けろと? 吾輩はもう子どもではないのだが」
「一口食べたらあとは自分で食べて良いから、ね?」
 言い募る雪蝶に、渋々ながら月色は口を開いた。嬉しそうに卵焼きを口に入れる雪蝶。
「……美味い」
「ほんと!?」
「もし次があるなら……卵焼きは甘い方が好みだ」
「やったー! 月色に褒められた! よーし、この調子で僕、六枚花弁のワタツミを捜しに行くね!」
 とどのつまり、雪蝶は月色にくびったけなのである。勿論願うのはただ一つ。運命の人と結ばれますように!

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
素敵な沢山の願いを見せて頂きました。
ご参加ありがとうございました!

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