シナリオ詳細
<ダブルフォルト・エンバーミング>le voeu du clown……
完了
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オープニング
●Fiction
我々が虚構の存在であるというのなら。
我々の人生は全てが無意味なのだろうか?
●Fiction reality
R.O.O世界は未曽有の危機に包まれていた。
R.O.Oを……いや練達そのものを統制しているマザーがウイルスとも言うべき『クリミナル・カクテル』に浸食され、そのコントロールを失いつつあるのだ。彼女の完全反転は時間の問題であり、既に現実側では多数のシステムが練達そのものに反逆を行っている。
そして虚構の世界たるR.O.Oも、マザーへと干渉を行った者達により事態は急転直下していた。
その事態に深く関わっている者、その名はHades-EX、或いはクリスト。
並びに――大魔種イノリ。
彼らこそが此度のバグ騒動における中核。主犯。元凶であり……
「ん~~~~~今日もいい天気ですねぇ!! 滅びるには絶好の日です!!」
そして彼らの側として動くR.O.OのNPC達も――存在していた。
その一人が『ピエロ』と名乗るバンビール。
翡翠における<Closed Emerald>クエストを引き起こした人物であり、『バグ』によりこの世界を滅ぼさんとしている者だ。バグの――つまりクリスト達に与している者には、バグにより唐突に生じた様な存在もいない訳ではないが、しかしピエロは些か違う。
彼は元々この世界に存在していた只のNPCだった。
世界的に有名なサーカス団『シルク・ド・マントゥール』の団長。
……史実において彼がシルク・ド・マントゥールに実在していたかは分からない。
少なくとも現実において魔種の集団であったかのサーカス団が起こした事件の折にはジャコビニと言う者が団長であったし、バンビールという一個人は確認されていないのだ。が、少なくともR.O.Oの世界では彼は存在していて。
そしてイノリらに与し、この世界を滅ぼさんとしている。
イノリがいるのはこっちの方だろうかと、南を見据えながらラジオ体操でもする様に――背筋を伸ばして。
「さぁさぁ南の方ではアリスが終焉獣の……え、なんですって? ベヒーモス? んまっ! なーんてカッコいい名前なんでしょう・か! あんなんバカデケーもの、でっか君で十分ですよでっか君! ねぇそう思いませんかみーなさん!!」
「……さて。どうでもよろしいと言えば、正にどうでもよろしいのですが」
「ハーーヒャヒャヒャヒャ! まぁこんな世界の終焉が遂に来たって訳だ。
ならよ、精々楽しもうじゃねぇか! 泣こうが笑おうがこれが最後だぜ!!」
それは――翡翠の騒動でログアウト・ロックされ、パラディーゾとしてコピーされた者達。
イデア。ダリウス。ルフラン・アントルメ…………あと、きうりん。
きうりんは以前からパラディーゾとして発生していたが――それ以外の者達は、この日の為に戦力として顕現させたのか。いずれもが『本物』の彼らと姿は非常に酷似している。無論、中身はバグそのものなのだろうが……
「ピエロさん。これはこの辺りで良いの? こう、ぶわーって撒いてればOK?」
「あっ。ハイお願いします。これね、なんだと思います? 大樹の苗木」
「苗木? あの翡翠で発生させてた大樹の嘆き関連? でもこれどう見ても種……」
「んそうそうそうそう! ルフランちゃんは賢いですね~~~! よ~しよしよしよし!
パラディーゾのルフランちゃん……略してゾフランちゃん!! よーしよしよし!」
ピエロはおどけて苗木などと表現しているが――実際は『源流の種』と呼ばれる代物だ。
単純には大樹の嘆きを発生しる要素を秘めたバグの塊。
本来であれば嘆きは、なにがしかの理由で傷ついた大樹の近辺でしか発生しえないのだが――これを用いれば大樹を無視して嘆きを――つまりモンスターをスポーンさせられるという訳だ。
マザーの制御が離れつつあるが故に、いよいよこの世界の法則をも捻じ曲げるバグを乱発してきているのだろうか――? えへへとルフランは次々と地中に種を埋め、大地の栄養をその種に吸い上げさせ――顕現させていく。
さすれば戦力が次々と増えるものだ。
これらをもってして、来るであろうイレギュラーズを迎撃せんとピエロは満足げな顔を――していれば。
「でもぴえぴえ。なんかログアウト・ロックされてる奴って強くなるんでしょ? 告知出てたよ? 見てないの?」
「――はっ? んあぁ!? んキ――ッ!!? なっぁですってぇ!!?
もう。ハデス、もといクリストちゃんたら、わざわざこんな時まで『ゲーム』の体を取るだなんて!
――んまぁ良いでしょう。これが最後の花火だってなら、付き合ってあげますよぉ!」
しかしそうは問屋が卸さないというか、どこまでも『ゲーム』とするクリストの計らいか。
勝率0など認めないとばかりにクリストが様々な要素を追加してきたのだ。
それが、ログアウト・ロックされている者達の強化。
今まで死んだデスカウントの回数に応じて能力が強くなっていく補正がつくらしいのだ……デスカウントが多ければ多い程クリストが干渉しやすいデータの隙があった、という訳だろうか? まぁなんにせよ強くなる事に関していえばイレギュラーズ達にとっては有利になる以外の要素はないだろう。
きうりんの言に、大仰な反応を取るピエロ。
それが素なのか演技なのか――誰にも分からない。
だって彼はどこまでも踊り続けるピエロ(Clown)なのだから。
「はい! それじゃあ皆さん邪魔な人たちにはご退場ねがいましょーね!
アリス達が着くまで頑張り所ですよ――ね!!」
そして――言うピエロの視線の先にあるのは、伝承国。
更に近くに転がっているのは伝承国の、兵士達だ。
先遣隊として派遣されていた伝承の軍勢が壊滅している。
それは本来ならば援軍として終焉獣の方面に向かうはずだった部隊で……つまりピエロ達はアリスらの援護の為にここに陣取っている訳だ。終焉獣が向かう先、この伝承国との国境――つまりゴールにて。
彼らは唯々希望を阻害し続ける。
この世界に爪痕を刻む為に。
「ま、こういう雑魚じゃあ張り合いがないってもんだよなぁ」
「しかし本隊はこれからでしょう。『現実』にしろ『この世界』にしろ……まだまだ」
周辺にはバグ勢力としての戦力だろうか――パラディーゾの面々以外にも、大樹の嘆きや終焉獣ベヒーモスより零れ落ちた終焉獣(ラグナヴァイス)達がいる。ダリウスは終焉獣らを統括するかのように中心に座し、イデアは同様に大樹の嘆き側に。そしてさらに傍には大量のきうりんが布陣していて……んっ?
「あっ、こら! なんですかこのきうりの数は!!
アンタ増えすぎですよ!! なにしてくれちゃってるんですかホントにもう!!
まーたシャブ(栄養剤)やっちゃって、もう!! 没収ですよ没収!!」
「セクハラだっつてんでしょぴえぴえ!!」
あふぅん!! また、きうりんにビンタされ吹っ飛ぶピエロ。笑うダリウスに吐息を零すはイデアか。
ともあれこれが――きうりんのパラディーゾとしての権能だ。
『再生と増殖』
……ルフランやイデア、ダリウスにもなにがしかの権能があってもおかしくない。
状況は、決してイレギュラーズ達にとって優勢とは言えなかった。
だが、やるしかない。
ここでR.O.Oが陥落すれば、現実にも間違いなく影響が及ぶのだから。
最悪――練達という国そのものが滅びかねない。
だからサクラメントが起動する。そこより至る、多くのイレギュラーズを確認すれば。
「さぁ来ましたよ――では行きましょうね皆さん!!
虚構の我々が現実に爪痕を刻むのです。
存在しえない我々が!! 確かに現に存在している奴らに!!」
ピエロは高笑う。どこまでも、どこまでも。
ああやっとだ。やっと私達の目標が達成されようとしている――
我々は確かに。
『此処』にいたのだと。
――虚構の牙が現実に襲い掛からんとしていた。
●……
我々が虚構の存在であるというのなら。
我々の人生は全てが無意味なのだろうか?
我々に家族がいて。我々に友がいて。この世界がどれほど愛おしくても。
……我々は無意味なのだろうか?
- <ダブルフォルト・エンバーミング>le voeu du clown……完了
- GM名茶零四
- 種別ラリー
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年12月14日 20時35分
- 章数3章
- 総採用数229人
- 参加費50RC
第2章
第2章 第1節
「ンキ――ッ!! どこまでも洒落臭いお歴々ですねぇ、貴方達は!!」
伝承と砂嵐の国境線。そこにて響くは甲高い悲鳴――
かの戦場では終焉獣ベヒーモス到来を待ちわびるピエロがいた。彼は伝承からの援軍をせき止める役割を担い、既に伝承先遣部隊を壊滅させていたのだが……イレギュラーズの猛攻に遭い、その軍勢をすり減らしている。
そしてその壊滅させた伝承の部隊も残存戦力をシラス(p3x004421)やグレイ(p3x000395)が救出した事により態勢を立て直しつつある真っ最中だ。
それ自体がピエロにとっては苛立たしい事態であるのは間違いないが――その他にも、戦力として呼び寄せた『パラディーゾ』へと加えられている圧も強まっており、思った戦果が出せていないのも悲鳴の一端だろうか。
コピーされたルフランには、本人たるルフラン・アントルメ(p3x006816)を中心に、ハーヴェイ(p3x006562)やマーク(p3x001309)など多くのイレギュラーズが攻勢を仕掛けており、大樹の嘆きを増やす速度が減少している段階。
終焉獣を統括するダリウスの下にはアズハ(p3x009471)やスイッチ(p3x008566)などが圧を加え、生み出された大樹の嘆きを指揮するイデアにもタイム(p3x007854)やイデア(p3x008017)の撃が降り注いでいる様子――そんでもって偽きうりんは、すあま(p3x000271)に死ぬ程食べられてる。
未だ多くのバグ・エネミーが彼らを阻んでいるが。
幾らでもリスポーンしてくるイレギュラーズは正に不死身の如く。
ピエロが苛立つのも当然と言えたか――彼は、現実に『爪痕』を刻む為に只管にベヒーモス到来を待つつもりだったのだが……このまま彼らを放置していてはやがて戦線に穴が出来ぬとも限らぬ、か。
「ピーエロちゃーん! どこっすか! お人形遊びばっかりじゃ飽きるっすよ!
ピエロならお客さんは楽しませるものじゃないんすか? お喋りもしたいっす!」
「高みの見物ばっかりしてんのはピエロ失格じゃねーか?
いいかげん、そろそろ直接殴らせろよな!!」
その上で――ピエロ本人を直接探すリュート(p3x000684)やルージュ(p3x009532)の声が聞こえてくれば、もうあまり隠れられなさそうだとピエロも悟るもの。
……自らが倒れれば戦線の崩壊は確実。
故に目的の達成を至上とし姿を見せぬ様にしていたのだが……
「んっ、いいで・Show! そんなに私と会いたいなら――遊んで差し上げますヨォ!」
遂にここに至りてピエロが到来する。
終焉獣や大樹の嘆きなどの影より攻撃を加えていた道化師が、戦局を覆さんと姿を現したのだ――
その力は正に『バグ』の如く。超質量の閃光が敵を焼き払う――
「ひょひょひょ~!
でっか君が来るまで、皆さんにはどこまでも退場してもらいましょうかァ!」
このクエストだけは成功させてはやらないと。
世界を滅ぼし――マザーを狂わせるのを成功させ――
そしてこんなクソみたいな世界を作った練達の住民共に思い知らせてやるのだ!
ピエロの反撃が始まろうとしていた――その時。
「さて。間に合った様ですね……では参りましょうか皆さん」
戦場の後方。伝承側の国境に――幾つもの人の影が見える。
それは軍勢。前線で戦う者達の下へと駆けつけんとする意志の波。
ガブリエル・ロウ・バルツァーレクが指揮する、伝承の援軍部隊だッ!
多くの騎士達が鬨の声と共に終焉獣や大樹の嘆き、そして大量の偽きうりんと激突。
自ら達の国を、故郷を。そして世界を護らんとしている者達の指揮は高く……
「残存部隊を収容します。右翼と左翼は前進し、敵軍勢と交戦を開始してください」
「ガブリエル……様。しかし、あまり前線に出るのは危険では?」
「ふふ。心配してくれているんですか『クオリア』さん?」
「なっ! ち、違! 私はただ、指揮官たる貴方が前に出すぎると私にも危険があるからで……なにを笑っているの! こんな戦場の真っただ中で! ああ、もう!!」
その中央ではガブリエル本人が各所の指揮を執っていた。その近くには――ガブリエルと会話、というか滅茶苦茶早口になる『クオリア』という女性の姿もある。その姿は現実のリア・クォーツと酷似しているか――
彼女はガブリエルの傍仕えの暗殺者兼護衛者の役目を持つ人物だ。
事、大一番の場面において『貴女の力が必要です』という言葉に乗せら……違う。これは、絶対に言う事を効かないといけないって言う首輪があるからッ! で! くっ――ともかく、彼女はガブリエルの護衛として周囲の警戒に当たっている。
先遣部隊が壊滅し、イレギュラーズが個々に敵に当たらねばならぬ状況ではあったが――この大部隊の援軍により状況は変わりつつあった。
単純にイレギュラーズの負担が減る。
これからはピエロなど指揮官の役目を担うパラディーゾを直接狙いやすくなるだろう。
或いは彼らと共に戦ってもいい。彼らを援護すればそれだけ大勢が効率的に動け、なだれ込んでくるという事でもあり――それもまた戦場の有利な流れを引き寄せる事も出来よう。
「な、ななななんですってぇ~~~!! こんなタイミングで正義の味方ですかぁ? こざかしい! 全部吹っ飛ばして――ぬぉ!?」
しかしそれならそれでと、ピエロは伝承の部隊も纏めて相手どる――つもりだったが。
「……借りは返しに来たよ、ピエロ」
「翡翠の国で暴れてくれた礼を――させてもらうしましょうか」
反対方面からも何者かが現れた。
伝承程多くの軍勢ではないが、その者達は――翡翠の迷宮森林警備隊か!
深緑の巫女の妹たるカノンを中心に、R.O.Oのクラリーチェ・カヴァッツァ。『キラーアイヴィ』フラン・ヴィラネルの姿も確認できる――ピエロは先日、攪乱の為に翡翠で大規模な事件を起こしたばかりだったが……それのお礼参りと言った所か。
「おお! 奴をぶち殺してやれ!!」
「大樹を折った報いを此処に! 殺せ――!!」
……後、過激な翡翠の幻想種達も引き連れている。
彼らの過激な思考こそが排他的な国境封鎖を迅速に行った原因でもあるが、こうして一度『敵』に対して振舞われるとなると――なんとも恐ろしい勢いである。まぁ今回は味方でよいと考えるべきだろうか、と?
「いやああああ!! どうして!! どうして私も来ないといけないんですぞー!
私、私はただの商人ですぞ、いいやああああああ――!!」
「きゅ! きゅ!」
……後、引っ張られてラブリーザントマンが連れてこられてた。
現実では悪意の権化とも言うべき邪悪なザントマンも、この世界では只の妖精の一体に過ぎない。危険はなく、なぜか耐久力は滅茶苦茶堅いので、壁として役立つと連れてこられたのか――心配した友達のまめ吉もいるようである。
ともあれこれで二方面から援軍が現れた事になる。
ピエロもいよいよもって余裕とは言えまい――自らも動かねば、逆に。
「飲み込まれちゃうかもねぇ……! 覚悟しなよ、ぴえぴえ!!」
「――やかましいわ現のクソ共が! 全部薙ぎ払えば問題ないでしょうが!!」
へいへいぴえぴえ余裕崩れてるよ~! と、雑草の一撃打ち込むきうりん(p3x008356)。
救おうとする意志。滅ぼさんとする意志。
数多が集いて――どちらの色に染まるのか。
国境線での闘争は更なる展開を迎えようとしていた――!
※伝承、翡翠より援軍が到着しました!!
※情報が更新されています……少々お待ちください……
第2章 第2節
■第二章概要
伝承と翡翠より援軍が訪れました!
彼らは皆さんと共に戦います。また、皆さんの活躍により『ピエロ』の具体的な位置が判明しましたので、これよりは【ピエロと直接戦闘する事も可能】です。主に以下の様な事が行えるかと思います。
1:ピエロやパラディーゾとの戦闘
2:伝承、翡翠援軍と共に戦闘
3:その他(出来そうな事全般OKです)
1は第一章と基本的には同じです。ピエロは位置が判明しましたので直接攻撃してもOKです。ただし周辺にはまだ多くの終焉獣、大樹の嘆き、偽きうりんなどが存在しています。彼らの排除を先に行い、ピエロなどに攻撃しやすくするのも手でしょう。
2は援軍と共に行動を共にする行動です。
伝承の援軍は壊滅した先遣隊や負傷者の【救助】を行っていたり、多くのバグ・エネミーに対する【攻撃】を集団で仕掛けていたりします。それらと共に戦う事によって、戦場全体のバグ・エネミーの数を減らすことが出来たり、或いは向こうから治癒や攻撃などの援護をもらえるかもしれません。
また、状況の変化や進行に伴って更なる【援軍】が訪れる可能性もあります。
それでは皆さんご武運を!
■伝承側援軍
・ガブリエル・ロウ・バルツァーレク
遊楽伯爵。多くの軍勢を引き連れ、援軍に駆けつけました。
本陣で多くの指揮を執っている様です。
・『クオリア』
ガブリエルの傍仕えの暗殺者兼護衛者です。
基本的にはガブリエルの傍で護衛しています。
・幻想騎士
各所に援軍として到来しています!
主に終焉獣などの多くのバグ・エネミーの相手をしている様です。
■翡翠側援軍
・カノン・フル・フォーレ
翡翠の巫女の妹です。姉の代わりにこの戦場へと援軍に駆けつけてきました。
周囲の人物に治癒魔法を降り注がせています。
・クラリーチェ・カヴァッツァ
R.O.Oのクラリーチェ・カヴァッツァさんです。
迷宮森林警備隊副官。優れた戦闘力を持っており、皆さんを援護します。
・『キラーアイヴィ』フラン・ヴィラネル
R.O.Oのフラン・ヴィラネルさんです。以前は非常に過激な人物でしたが『<Closed Emerald>killer ivy』を経て、その魂は軟化している様に感じます……現在は戦場を駆け巡り状況を確認している様です。
・ラブリーザントマン
滅茶苦茶耐久力のある壁。基本的にまめ吉を護る様な行動をします。
・まめ吉
正体不明の妖精……? です。ラブリーザントマンと仲良し。戦闘力の程は不明ですが、まめ吉の近くに『大樹の嘆き』がいると、彼らの動きが鈍る様です。理由は不明ですが……
第2章 第3節
援軍到来。その報から戦況は一変していた――
数で勝っていたバグ・エネミー達。それらが援軍勢力によって押し返されているのだから。いや、厳密には押し返しているといっても、元々不利な数の差がかなり打ち消えている……と言った意味でありまだまだ優勢とは言い難いが、しかし。
「みー……こみお、皆さんと一緒に頑張りますにゃ……! ここが攻め時です、にゃ!」
「ハッハ――ッ! 右を向いても左を向いてもきうり(Cucumber)じゃねーの!
いいぜ収穫してやるッ! そこに並びな――!!」
少なくとも対応する数が減るだけでも十分以上に意味はあるものだ――
伝承や翡翠の援軍と共にろおもこね・こみおが往く。彼らをやらせはしまいと、前に出て敵を引き付けるのだ。さすれば崎守ナイトもまた、豪快な言と共に並み居る偽きうりんへとdanceをrevolutionし。
「ところでお前達、ピエロの給料未払いに困ってるって風のうわさで聞いたんだが。
ここだけの話、いい転職先を教えちゃおうじゃねーの――その名もB.R.C!」
「B.R.C!? なにそれ福利厚生完備!?」
「ああ。本社はレジェンダリア伝承王国首都郊外でアクセス抜群、金ぴかのクソデカビル(外見だけは)で日当たり良好! きゅうり関連の事業だって立ち上げようじゃねーの! 何より社長はこの俺(ORE)だー! 幾らでも契約内容を更新できる!!」
「ぬぐぐ! 美味しい提案じゃないか――ならば君を殺して全てを奪う!」
上等だやってみなぁ――!!
ナイトに襲い掛かってくる大量の偽きうりん。交渉決裂――? ならば次のスカウトをするだけさ! と、彼はきうりんへと衝撃を加えながら、きうりんの波に飲み込まれて。
「敵にあげるパンはないですにゃ、やるのはパンチなのですにゃー!
この! この! 爪とぎしてやるんですにゃー!」
「うわなんだコイツ! 爪とぎするんじゃねー!」
そして、こみおもまた偽きうりんへと猫パンチ炸裂。
執拗なる撃をもってしてきうりんの身を削っていく――と、直後。
「アアアアア! 助けて! 助けてですぞ! 死ぬ、死んでしまう――!!」
「きゅ。きゅー!」
こみおは聞いた。助けを求める声を――
その声はラブリーザントマン。まめ吉を庇う奴めは大量のバグ・エネミーに攻め立てられているのだ――攻撃力はからっきしだが、何故か非常に堅牢たるザントマンであればまだまだ保ちそうではある、が。
「お待ちなさい! これ以上の狼藉は許せません――お覚悟をッ!!」
瞬間――そこへと現れたのはかぐやである!
まめ吉を護るザントマンを更に護る様に彼女は布陣。さながら敵の突破を許さぬ竹の防壁の如く……
「ぬぁ!? 援軍ですぞ、感謝しますですぞ!!」
「ええ――ここはお任せを! わたくしの予感が正しければ、まめ吉はラブリーザントマンの死によってスーパーまめ吉へと覚醒するハズですが、今はまだその時ではありません。然るべき時が至るまで、護って護って護り切りますわ。さぁ私の後ろへ!」
「ちょっと待つですぞ。私の死が前提になってないかですぞ???」
「大丈夫ですにゃ? 助けてくれるの嬉しいけど無理はしないようにーですにゃー! こみおも助けるですにゃー!」
「うう! 私の味方はいつも優しい動物達だけですぞ!」
ザントマンのなんか抗議する様な声が聞こえた気がしたが、かぐやは敵への攻撃を捌くのに忙しいのか『さぁ掛かってきなさい!』と返答はせず威風堂々。数多の攻撃を凌ぎながら――その敵陣へと、こみおの一撃が紡がれて。
「護るのはぁ任せてぇ。傷ついちゃった人は、後ろの方にねぇ」
「援軍ですか。これで崩壊した部隊の合流と再編成が更に加速できそうですね――
では参りましょうか。ここを押さえる事によって、先の展開も有利になれば良いのですが」
そして戦う者達を援護する流れはエイラや黒子の方でも行われていた。
残存の先遣隊回収を推し進めるべく黒子は周辺の状況をまずは把握。どこで攻撃が行われているか――どこで治癒や残存部隊の回収が行われているか――簡単な『別け』だけでも出来れば違うものだと。
「……しかし石花病の呪いだけは厄介ですね。時限爆弾の様なものでしょう、アレは」
同時。進路を阻む者らがいれば穿つものだ。
放つ一閃。着弾すれば闇色の渦が敵を呑む――狙うは大量に聳える偽きうりんか、石花の呪いを齎してくる個体共。あれらを放置する訳にはいかぬと……さすれば黒子の開けた敵陣の穴へとエイラは往き。
「君達はぁまだ終わらないんだよぉ」
紡ぐ。言を。
終焉の獣がこちらに向かってきている――それでも暗い雰囲気ばかりではないのだと。
この世界にはまだまだ『先』があるのだと。
「エイラがぁ、きっと見せるよぉ。だから」
一緒に行こうと鼓舞するものだ。
瞬く光が先遣隊の目印となり、そして敵に対しては目立ちて己に引き寄せんと。
――不滅の盾になり続けることが、身体だけでなく心も護る希望へと繋がると思えばこそ。彼女は前線へと向かうのだ。幾つもの攻撃を受けようと滅びがたき絶対の堅牢さと共もに……
「――ハッ! そうだよこれだよこれこれ! 戦争らしくなってきたもんだ!」
同時。騎士と終焉獣らとの戦場に介入するは――ゼロだ。
展開されし幻影の刃が無数に。そして超速の領域にて動くゼロと刃が敵陣に至れば後は蹂躙するばかり、だ。数多の敵を切り裂き、そして同時に……彼は共に戦う者らを横目にて。
――誰もが思い描いた勝利を、未来を掴もうと必死になっている。
この世界が例え虚構だとしても。斯様な『騎士道』を見せつけられて、は。
「やる以外に――他があるか! さぁ一度後退しろ! ここはボクが支える!」
「し、しかし敵の大群が来ているぞ――!!」
「今のを見てただろ? 周囲に人がいない方がやりやすいのさ。早く行けッ!」
集団を統率するようにゼロは紡ぐ。不利な場所で戦い続ける必要はないと。
――無論。さすればそれはゼロ一人が取り残される様な形になるのだが。
「グハハハハ! 殺して死ぬのがボクの仕事だ!! もっと、もっと、もっと血を!!」
求める。彼は闘争を。燃え盛る様な魂を。
――これが終わったら行くぞぉ。
――ピエロ君のもとへ逝くぞぉ。
血飛沫。高笑うゼロは――果てるまでに数多の敵を屠り続けた。
成否
成功
状態異常
第2章 第4節
――援軍と共に戦うイレギュラーズ。
彼らの奮闘こそ正に燃え盛る炎の如く。連携し、共に敵を押し返し始めて……
「そうはいきませんよォ! 全部ぜ~~んぶ吹き飛ばして差し上げます!!」
されど中核たるピエロもいるのであればそう好きにはさせぬと。
彼が放つ一撃が――戦場を貫く。で、あれば。
「どうやらこれまで好き勝手にやってきた報いを、受ける時が来たようですね。
――私達だけではなく、この世界の人々にも追い詰められていくのはどんな気持ちですか?」
その、ピエロへと。往くのはハルツフィーネだ。
遂に見えたそのピエロの姿へと――クマさんの爪で一閃。躱さんとするピエロだ、が。
「逃しませんよ。一発でも二発でも三発でも……殴って引っかいてぶっ飛ばして差し上げます」
「んマ! 悪い子ですねぇ……お仕置きしちゃいますヨォ!?
下らん虚構にしがみ付くこの世界の馬鹿共と共に、朽ち果てるがいいわッ!!」
「それが今の気持ちですか? ――彼らはこの世界で生き続ける為に叫び、抗っています」
この瞬間を生きていると証明する為に。
ピエロとは違うのだと。私とクマさんもそれは一緒です。
――だから戦う。『ビーム』に穿たれようとも、その爪が喉笛を切り裂くまで。
「時間稼ぎなのはわかっています――
ですがここで押していけば稼げる時間はどんどん少なくなります!
行きましょう! 私達は、まけません! 必ず――勝利を掴んでみせます!!」
「――一度。いえ二度は全力で殴らなければと思っていました。
覚悟して頂きましょう……この世界を滅ぼさせる訳には行きません」
もう一つ。『私』の分も込めて、と。
言うは周囲に活力を齎すシフォリィからの加護を受け取るカノンだ――
複雑な気持ちがある。けれど、一発殴る権利だけは譲らないし捨てもしない、と。遂に見つけ出したピエロの姿へと猛攻を仕掛けよう――! 邪魔する輩がいるのならば捻じ伏せる。
自らの全霊を此処に。纏えば放つ妨害の神秘が敵を包み込むのだ。
「道を開けていただきます――私達の狙いはピエロ一人なのですから!」
「小賢しいですねぇ。たかが何度も来れる程度で私を倒せるおッつもりですか!」
「無論!」
――ゾンビアタックできる私達を前に不治は有効に使えないでしょう!
恐れぬ。いざとなれば死しても戻れるのだからと、収束させた魔力の斬撃一つ。
「ピエロ……この世界が貴方達にとって唯一であるとしても、その向こうにある私達の世界にまで来させるわけにはいきません! いえ、そして何より……この世界を崩壊なんてさせません! この世界には――『未来』があるんですから!」
そしてその動きを更に援護するよ様にシフォリィも力を尽くす。
――幸せな『私』の可能性がここにはあるのだ。
得られなかった分岐。歩く事の出来なかった道筋の果てが此処に在るのなら――
「両方の世界を守ります、私達は!」
「ケッー! ペッペッペ! んな戯言私には関係ありませんね!
そんなに『幸せ』が未練なんですかぁ――? ぶっ潰してやりますよ!」
シフォリィの紡ぐ加護は、皆に力の反射を齎す。
それは決してピエロですら躱せぬ一撃となろう――必ず、奴の力に抗い続けて見せると、周囲から圧を加えられ傷を負おうとも――負けぬ瞳の意志が其処にあるのだ。
「成程、あれがピエロ……ツルギさんはむっちりがお好みなんだね……」
「誤解がある様ですがイズルさん以上に好みのタイプなんていません。
俺がピエロに執着するのは……そうですね」
同族嫌悪、と言った所でしょうか――
同時。見えたピエロに対して言を零したのはイズルとツルギだ。
アレに興味? 否、否。そうではない。あの姿に対して思うはただ一つ。
悪役の癖に悩んで、泥臭く足掻く様は。
「――『現実』の俺によく似てますから」
直後、跳躍する。目指すはピエロ只一点。
――ずっと、現実世界で何者にもなれない自分に苦しみ続けてきた。
確かに此処にいるのに、どこにもいない気がする毎日。
けれどR.O.Oで決死の戦いを繰り返すうち、この世界だけの家族が出来て、仲間が出来て、守りたい場所が出来た。
「――貴方もこの世界も、無意味なんかじゃない。虚構だなんて言わせない!」
「ンンン! 色男が煩わしいですねぇ。所詮外の世界の人間がこの世界を語るかァ!!」
交差する一撃同士。ピエロの力は正真正銘『バグ』っており、一人ではとても抗えぬ――が。
「やれやれ、なんていう無茶を……まぁ、ちょっとの無茶ぐらいは付き合ってやろうか。
――劇毒の紫、獄炎の赤。彩の旋律よ、私の敵を殺せ!」
「ふふ。そういう所も良いんじゃないか――さ。あの白顔に『めっ』としようか」
ツルギは一人ではない。スキャットに、先程語らったイズルもいるのだ。
ツルギが存分にピエロへと向かえる様に。イズルはピエロへと生成したポーションを投げつけながら接近すれば――周辺の終焉獣らを弾き飛ばすように撃を成すものだ。更に続けざま、スキャットの『お父様』たるツルギへ近付く者らを薙ぐ様に。
――現実でうっかりお互い身バレしたせいで、ツルギをお父様と呼び続けるか正直迷ったが……現実の彼とは、改めて見ると別の良さがある。吐息一つ零しながらも、スキャットは近づいてくる敵を払い続け……
「それにしてもキリがな……ヒッ!? イ、イズルさ……?」
瞬間。山ほどいる敵の波を凌ぎつつイズルに視線を――向ければ。
そこには『暗黒微笑』の表情を身に纏うイズル。思わずスキャットも心の背筋をなぞられたかのような――刹那の恐怖が駆け巡るものだ。実際の所はオートエモート機能っぽいのがあったのでぽちってしてみたら、口端が微かに吊り上がる動作になっただけなのだけど!
「……ふふっ。私のツルギさんと仲良く楽しんでいたらしいね?」
でも折角なので気分のままに。敵を打ち消すべく――イズルは往く。暗黒微笑の儘で!
「ぬぅぅバンビール! この世界を無情にも消し去らんとする貴様を倒して世界を救うッ! それがこのゼスティアンの任務でありますッッ!!! この世界に生きる人たちのためにッッ!! いざッッ!!」
「暑苦しい奴ですねぇ、ぶっ壊して差し上げますよぉ!」
そして――更に続けざまゼストが訪れるものだ。
人はいつか死ぬ。誰しも……その業から逃れる事は出来ない。
だが今日ではない。
「この場にゼスティアンがいる限りッ!! この世界は滅びたりしない……ッ!!」
ピエロの閃光。あれをマトモに受ければ生き残るは難しい――
けれどゼストは恐れず往く。むしろ迎え撃つ勢いと共に。
フルパワーゼタシウム光線、セット。目標イン!
「ぉぉぉぉぉおおお! ゼスティアン、行くでありま――すッ!!」
放つ。輝かしき超必殺の光線が此処に。
抑える。抑える。抑え込む――例えこの先に敗れる事が仮にあろうとも。
ここで抑えた一秒一分がやがて実を結ぶであろうから。
だから奴の閃光に飲み込まれようとも敗北ではない。
――魂が折れぬ限り、刑事ゼスティアンは決して破れぬのだから!!
成否
成功
状態異常
第2章 第5節
攻撃は続く。敵に態勢を立て直させる暇など与えない――
「ガハハ! 祭はお前さん達だけ楽しけりゃ良いものじゃないぜッ!」
その渦中にてオウェードは己が武を振るう。大樹の嘆きがなんぞやのものであろうかと。
出遅れを取り戻すかの如く前線にて敵を両断。
――無論。雑魚散らしだけが目的ではない。その最終的な目的はゾフラン一人!
「援軍の到着で潮目が変わったね……ここは、押し切るべき局面だ。
もう好き放題十分にやったろう? そろそろ退場の時間だよ」
「邪魔するのは私が何とかしてみせるから、皆はもう一人のルフランさんの下へ――急いで!」
故に。マークは援軍の到来により変わった戦場の流れに『乗る』ものだ。
ここが敵の軍勢を押し返す時であると。まめ吉の力によりゾフランの周囲にいる大樹の嘆きも弱っている……ならばと、ネイコが更に周囲の敵を引き付ける様に動けば、ゾフランへと接近する為の一助となろう――
輝かしき剣閃が敵を薙ぎ払い、その目立つ在り様に敵の目も向くものだ。
追い詰めていく。ここは将を狙い、戦いの趨勢を手繰り寄せるのだとマークは――
「もしも。いつかもう一度R.O.O(このせかい)で会えるのなら」
フランのそっくりさんとして仲良く出来れば。
「――素敵だろうね」
その為に一撃を紡ぐ。立てて構えた天上よりの一撃が――ゾフランを追い詰めるのだ。
「ひゅー! 豪華メンバー続々登場で盛り上がってきたなー!!
でも、今は余裕がないからまた後でな、ラブリーフレンド!!」
「いやあああああ!! 後じゃなくて今助けてほしいですぞおおおお!!」
開けた道筋へと往く一人がハーヴェイだ。彼は近くでまめ吉を連れながら逃げ回っていたラブリーザントマンへと声を掛ける――なんか大変そうだけど目の前の事に集中しないといけないし、いつもの事だからまぁいいやと!
「さあ、ぶつかり合いの続きだ! 今度こそ打ち取ってやるぜゾフラン!!」
「むむむー! まだ来るの!? 捕まえてケージの中で飼ってあげようか!」
故にハーヴェイは突撃する。ゾフランの放つ魔力の飴を掻い潜りながら――体当たり。
とりあえず前回ぶつかってみた感想は『強い事しか分からん』でした。てへ。まぁパラディーゾというバグった存在であればそういうモノなのかもしれないが……しかし、ゾフランは魔力を放ち敵を圧倒する様な――いわば後衛型と言っていい存在なのかもしれない。
だからこそ近付く。彼女に接近し、体当たりを繰り返し、魔力を彼方に放つ余裕を削り取るのだと。
「――よぉ、フラン。助けに来てくれるとは嬉しいな。助かったぜ。
……笑えるようにはなったかよ?」
「……そんなに簡単じゃない」
同時。それでもいいさと、援軍に来たキラー・アイヴィ……
つまりこの世界のフランに対して、くしゃりと。己が五指で髪をかき混ぜる様にしたのはリュカだ。まだなんとなし堅い感じが残ってる気もするが、しかし以前よりも幾分異なる気はすれ、ば。
「それにカノン……安心しな。俺がお前を守る。今度は絶対にな」
「……? 『今度は』?」
「――いや、なんでもないさ」
更に治癒魔法を振るいイレギュラーズを援護するカノンにも言の葉を――
さすれば首を傾げるカノン。『この世界』ではあの戦いはない――けれど。
魂に誓った意思があるのならば同じことなのだ。それに何より……
「お前が傷つくところは、もう――見たくねえからな!」
あんな光景は一度でも多すぎるぐらいだと。
――跳躍する。翡翠の援軍と協力して敵を掃討するように。
再びゾフランを護らんと集まってくる敵影を潰さんと、一撃を叩き込んで。
そして。キラー・アイヴィの姿を見たのはルフランも――だ。
……こっちの本物の『あたし』が来てくれた。
外も、あたし達の事も大嫌いで――何度もぶつかって、それでこうやって芽吹いたんだ。
それが、とっても嬉しい。
「ほんとは、お話したいけれど……でも、ううん! 今は、だからこそ!!」
けれど飲み込む。今は『偽物のあたし』に――行く時だからと!
「偽物のあたしは、外だけ似せただけの嘘っぱちだー!
だから負けないよ! 何度だって何度だって……立ち向かうんだから!!」
紡ぐソレは黄金の輝き。纏う、蜂蜜の如きコーティングが力を齎して。
そして破壊の力を齎す偽物とは対照的に。優しき光が味方を包むのだ。
アン、ドゥ、トロワ。元気になぁれ――!
「そういえば、なんか暗い感じのフランはさ。いわし好き?」
「……いわし? いわしって海にいる魚?」
同時。その加護を齎された一人であるアンジュは――キラー・アイヴィへと言を。
……海なんか見た事なさそうな顔してるね。森にずっといたからかな?
「なら、これが終わったら海に連れてってあげるよ!
いわしの回遊ショーを見たらきっと感動するよ。その為にもまず──
邪魔なやつを全員ぶっ飛ばそうね!」
跳躍。いわしセイバーの一閃が敵を穿てば。
「どうにも知った顔が相手っていうのはやりづらいけれど……似ているのは姿だけみたいだね! 魂が違うよ……少なくとも、本物のフラン君は自然を、誰かの痛みを喜ぶような人じゃない!」
「幾ら死んでも蘇る体ならば、何度でも死んで仕掛けてやる――
そうさ。『本物』が言った用に何度でも、な」
更に続けざまアレクシアとCALL666の撃がゾフランや大樹の嘆きへと。
速度が落ちようとも撒かれている『種』を止めねばと、アレクシアは思考すれば――狙うはそれらを纏めて引き付ける事。防御を固めた上で執拗な攻撃を重ねれば怒る存在もいるものであり……そしてCALL666もまた彼らを穿つ。
例えどんなに絶望的な状況でも、蟻が像を倒すように積み重ねれば倒す事が出来るのだと――彼は知っているから。
「仮に死んだとしても。どれ程死んだとしても――次は、もっと強い俺で挑むのみだ」
「む、むむむー! 折角撒いた種を、よくもー!」
雑魚でも死に物狂いの一撃は牙を剥く物だぜ。
ゾフランが焦り始める。複数人いるパラディーゾの中でも彼女に対する圧は特に強く、近くに大樹の嘆きなどが存在していても――次々とイレギュラーズ達が押し寄せてくれば疲労も蓄積されていくものだ。
「自然がこの大地にもたらすのは、こんな戦いであってはならないんだ!
嘆きも悲しみも、必要ないんだよ!
それが分からないなんて――偽物以外の何物でもないよ……!」
故にアレクシアは更に彼女の守りを手薄にせんと前へ、前へ。
大樹の嘆きやゾフランの甘き魔力が降り注ぐ――それでも、往くのだ。
これ以上悲しみを齎させないために。
――追い詰めていく。
ゾフランの体力は確実に削れている。彼女達やピエロは、その能力値が文字通りに『バグ』っていても無敵ではなく、いつか必ず倒し得ることが出来る存在であれば――
「はぁ、はぁ……! し、しつこいなあ! どうしてそんなに来るの!!」
「――当然だよ! だって……『あたし』を放ってなんかおけないんだから!」
ルフランは息を切らすゾフランへと言うものだ。
あたしはフランでルフランで、ゾフランなんかじゃないのだと。
だから見過ごせない。だから幾度も挑むのだ。数多を傷つけんとする偽の精神に!
思わずピエロのいる方へ退かんとするゾフランへ――数多の痛みを乗せた一撃を紡いだ。
■戦況報告
※ルフラン(パラディーゾ)へのダメージが大きく増加しています!
※大樹の嘆きを生成するスピードが更に衰え、ピエロのいる方面へと逃げんとしている様です!
成否
成功
状態異常
第2章 第6節
「――いやぁ助太刀来たけど本物イデっちピキってんねー
でもわかるわかる、自分の顔してげろげーろなヤツとか無理み溢れるしね!
てかさ。援軍って事はシルトっちもいたりするんじゃね?」
「…………さて。しかし今は目前に集中すべき事でしょう」
各地の戦況が激化する中、エイルとイデアは『パラディーゾのイデア』の下へと――いやちょっと待ったエイル様? 今なんて言いました? ん、んん!? まぁ不穏な言葉が聞こえましたが今は無視しておきましょう。後でオハナシです――と心中はともあれイデアは表面上冷静を保って!
「援軍が訪れ、数で押すというのも難しくなったわけですね――尤も。どれだけの数に囲まれていようと、たった独りの貴女に私たちが負けるはずがありませんが」
「戦いを数の上でしか見れてないようですね? 纏めて叩き潰せば済む事……」
「――心の話ですよ」
往く。偽のイデアは――ずっと一人だ。
終焉獣らに囲まれようとそれがどうした。彼女からは何も感じえない。
メイドとは誰かのために動き、動けるもの。しかし――偽イデアからは『誰か』の為という心算が一切感じられない。一人なのだ。ずっとずっとどこまでも。
一人で……だからこそどれだけ強い力があろうとも。
超えられぬ山であると感じない。乗り越えられる脅威であると感じえない。
――必ずいつか倒せるのだと確信できている。
故、封じる。彼女の糸を本物の――『誰か』の為の糸をもってして。
「一人でずっと戦ってさ。結構疲れてきたっしょ偽イデっち!
そろそろお肌もボロボロで見る影もないし、おやすみの時間じゃん?」
「――くだらない戯言を」
「いやいや本気っしょ! 乙女にはね、睡眠がパないぐらい大事――だからね!」
そこへエイルの一撃が紡がれる。指揮などさせぬ様に。後続につなげる様に。
防御をかなぐり捨てて――ぶちかますのだ。
飲み干したジョッキで一撃! 糸の防御が――『本物』の妨害があらば間に合わず、更に。
「イデアさんがそのつもりならわたしも全力でいくよ……!
ねぇ。これだけの状況で――それでも戦い続けるの? イデア。
何の為に? 一体何の為に意地を張るの?」
「何の……為に?」
「そうよ。人はね、誰だって――譲れない『何か』があるから戦うの!」
タイムも往く。幾度か接した奴らの戦い方――分かってきた。
あとはやり遂げる気持ちだけ。一歩を踏み込む心だけ。
五指を固めて拳一閃。偽イデアに紡ぐ言の葉を交えて彼女の心にも踏み込まん――
ピエロは姿を現し、援軍も到着。マズい状況と分かってなお戦う理由は何か?
――問われれば窮するのが、きっとパラディーゾだ。
彼女達はバグNPC達の都合によって生み出された尖兵達。
……譲れぬモノがあるから。許せない事があるから。
数多の『理由』があって戦うのが『本物』達だが――しかしつい最近生み出された者達は――
「……いいえそんな筈がありません。私は、私の存在意義の為に此処にいる……!」
だが同時。偽イデアはそんなタイムらの言葉を否定するかのように――力を振り絞る。
そんな言葉を認めてしまえば、まるで、まるで己の否定の様であるから。
だから――全てから目を逸らすが如き一撃を。全霊の糸をもって振り払う――
心の奥底にある何かをも、振り払うように。
「バンビール――覚悟を。この世界を壊させる訳にはいきませんので!!」
「ええい。ワンちゃんは骨でも齧ってればいいんですよ! 死になさいなァ!」
同時。イデアよりも更に後方の方では――ピエロとの激戦も続いていた。
姿を現した道化師を狙う絶好の機会であると。逃がさぬとばかりに梨尾が往く。
その身に纏わりつき逃がさぬかの様な炎を纏わせて。
「……ピエロ……やっと見つけた……!
……戦いはここから……だね……あの怪物が来る前に……消えてもらうよ……
……そっちの好きに……させるわけには……いかないからね……!」
「全く。ようやく出てきたのか――散々隠れてたから実在を疑っていたよ。このまま出てこなかったら『ピエロなんて存在しなかった』ってことにしようかと思ってたところだ……なんてね」
無論。往くのは梨尾だけではない――アルヴとアズハもだ。
もう隠れさせはすまいと『布石』を紡がんとするアルヴは『目印』を投じる。当たればピエロが再び隠れようとも追跡できると……完全なる狼の姿を用いて俊敏に移動する彼は正に獲物を狙う獣の如く。
そしてアズハは自らを強化する加護を纏えば、撃を放つものだ。
先往くアルヴには当たらぬ様にピエロを狙い撃つ。
立ち位置も調整すれば、奴がビームを放ってこようとも敵を纏めて巻き込まめるか――
「ところで姿は見えないのにどこからか声は聞こえてたけど、アレどういう理屈なんだ?
バグとしての改竄か? 特権か? それとも声を大きくする技能でもあったのか?」
「ンふふふ! そこはそれ、道化師が全てのタネ明かしなんてしたらツマラナーイでしょ! まぁぶっちゃけその辺りのどれかってだけですけどねぇ。ま、些細なモンですヨォ!」
同時。疑問を口にしたアズハ――を穿たんとピエロより閃光一つ。
射線上にあるバグ・エネミーをも巻き込みながら全てを光に飲み込まん……アルヴは辛うじて躱し、自らの爪をもってしてピエロに一撃紡い、で。
「よぉ! ピエロ! 待たせたなぁ! とりあえず挨拶代わりに一回斬らせろや!」
であれば今度は天川だ――ピエロの壮絶な一撃が放たれたばかりだが、恐れはない。
むしろその姿は正面から突っ込む形。
ある程度のダメージなど望む所なのだと。ピエロの能力と情報を探らんと往く――
「はは! 我ながら、らしくねぇ戦い方だとは思うがな――今回は独りじゃねぇんだよ! 俺が死んでも代わりにぶっ飛ばしてくれる奴らがいるってのは存外気楽でいいもんだなぁ! おい! お前にはいるのかよ――こういう仲間がよ!」
「そういう大事な子達はね――置いてきましたよぉ!」
激突。ピエロが懐から出したナイフと天川の小太刀が――激しき金属音をかき鳴らせば。
「よぉ。漸くかくれんぼは終わりか? バンビール」
瞬間――追撃するように現れたのは、ヨハンナだ。
彼女もまた再び隠れさせるのは許さぬとばかりにピエロの姿を視認すれば。
「俺らが『現のクソ共』なら、てめぇは『虚構の臆病者』だろ。今までこそこそ隠れながらビーム撃ってたンだからな。ああそれとも……てめぇの魂はそんなもんだった、って訳か。ハッ――生まれつきの負け犬根性はどうしようもねぇな」
挑発するように言を重ねるものだ。
それは注意を引く為もあるが、何より心の奥底を覗き込む為――魔眼を用いて深淵を。
ピエロの奥底には何があるのかと。己の存在理由を問うなら、堂々としてろ――
虚構だろうが、生きてるのは事実なんだ。何故、堂々と出来ない?
ピエロを見据えながら紅蓮の焔を纏った大槍を投じる――敵を纏めて薙ぐ様に。
「滑稽だなピエロ。もっと素直に生きればよいものを、なまじ真面目に考えるからそうなる」
であれば、ヨハンナと言と撃に追撃するのは流雨だ。振るう刃が奴を襲いて。
「自身の意味など考えても詮無い事だ。それこそどうにも為らぬと分からぬか?」
「――黙れぃ! 外を謳歌する現の者共が何をほざくか! 貴様らはデータではあるまいよ! 創造主の意思一つで吹けば飛ぶ我ら……親しき者も。愛する者も。その愛しい生の鼓動が偽物であり、何をしても塗り替えられぬ絶望が分かるかぁ!」
瞬間。ヨハンナや流雨の言に激昂したかのように――ピエロが言う。
どこかおどけた口調は穴倉に潜る様に。
自らの戦う理由は其処にあるのだと言うように。だが。
「ソレが詮無い事だというのだ」
ピエロが憤怒しながら放つ一撃――それは数多の命を奪うに足る程の威力を秘めている。
だがピエロよ。分からぬか? 現実もそう大して変わりはしないのだと。
――なんにせよこの世界は守らねばならぬ。
「死ぬのはこっちにとって好都合だ。まだまだ足りぬくらいなのだからな……倒すべきには、まだ遠い。己の生を刻むというなら、もっと激しくしてくれたまえ」
「まーったくっ!! 正直言うぜ、中学生みたいな理由でふてくされてるんじゃねーー!! 何も残らぬ恐怖とか、外の世界だって死んだら同じだろうが――!! 自分たちだけが特別だとかでも思ってんのか、このやろ――!!」
吹き飛ばされる流雨ら――の直後。全霊をもってして一撃を放つのはルージュだ。
閃光を躱し。ピエロに激突する彼女が紡ぐ言はありのままに……
「あんたの言ってる事はな、人はいつか死ぬから、生きる事は全て無意味だ。みたいな感じで後で黒歴史になるような考え方なんだよ!! 若気の至りってんならまだソレだけで済むけどよ、世界を巻き込んで自殺紛いの事してんじゃね――!!」
「小娘ェ! 届かん届かん届くものかそんな言がぁ!
所詮『外』と『内』は永遠に分かりあえんのだッ!!」
「殴ってでも認めさせてやる!!」
――おれはこの世界で出会った全ての人達に感謝してる。
この世界であった全ての出来事が、今のおれを作り出している。
だから、殴るぞピエロのにーちゃん。
愛だって怒りだって悲しみだって、いつか消える運命だったとしても――
「だったらよ――殴ってでも認めさせてやる! その行動と想いには、意味があるんだってな!!」
「そーだよおい! なぁーにが現のクソ共だよ!
変なことで拗ねてないで1度きりの人生謳歌しろよ!」
同時――接近するのは本物のきうりんだ。
分かったふうなこと言ってんじゃねぇよ。ムカつくんだよそういうの。
私達の現実がちゃんと現実だって証拠がどこにあるんだよ。というかだなぁ、むしろ。
「私はキミが羨ましいよ。自分の世界が作り物だって分かってるんだから」
もしかしたら? 或いは? などと考えても分からぬ自分たちと違って。
キミは充分がんばってるよ。必死に今世を生きている。
キミ達は無意味なんかじゃない。
だからこそ。少なくとも私は。
「――私はキミを救いに来たんだよ!!」
その腐りかけの性根を完全に腐敗させてやるよ! くらえ雑考の一撃、雑草の執念!!
お茶菓子だせやお茶菓子ィ――! 全霊の一撃がピエロの腹部へと紡がれれ、ば。
「まずい、ぴえぴえを護るんだ! うおおおお私達の明日の給料袋を奪わせるかー!」
「いやー長い前菜だったね、やっとメインいけそうだね! まぁでも前菜でおなか一杯になってちゃコースは楽しめないもんね! だからお腹の隙間はまだまだ平気……それじゃ早速いただきまーす!」
「うわあああああまた来たああああ!! どっか行けよお前!! えいえい!!」
大量の偽きうりん達がピエロを護らんと動――こうとしたので、すあまが立ち塞がった。
じゅるり。偽きうりん達が殴ってるが、物ともしない勢いで食べていく……
が。すあまの狙いは『コレら』ではない――偽きうりん達の、本体だ。
「まだかな? そろそろ? もういける? あ、いたね。じゃいただきまーす! 一番活きの良いきうりもーらい! がぶがぶがぶがぶ……あ、ちなみにきうりん的おすすめレシピってある?」
「ちょっと!! 私の肌は安くないよ!! 栄養剤でも持ってこなきゃ食べさせてあーげない! えっ。シーザーサラダとかどうかな。多分おいし……って何言わせるんだよー!」
伝承や翡翠の援軍が偽きうりん達を押さえてくれている事もあり――遂に辿り着いたのである。多くの偽きうりんがこの戦場にはいるが、パラディーゾとしてのきうりんは『コレ』のみと。すあまが踊り喰う様に――薙ぐ。
捕食。捕食。捕食。傷つきながらも喰らうその姿、正に獣の権化。
援軍の到来の勢いと同様に。敵陣を貪り喰らう様な前進が――続いていた。
成否
成功
状態異常
第2章 第7節
戦場の後方に旗が見える。
それは伝承の旗。そして、遊楽伯爵の家紋たる金色の雌鹿の旗もある……
あそこが本陣という訳か。多くの騎士がいるとはいえ、危険に変わりはないだろうに。
故にP.P.は――伯爵がいるであろう方向に視線を向けていた。
『そういうお方』だという感情の色を滲ませなが……ら……んんっ?
「ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!!!!!」
待てや。待て待て! ナンカミエタ。
P.Pは往く――恐ろしい程の俊敏さを伴って伯爵の前に馳せ参じれば。
「――御機嫌よう、バルツァーレク伯爵様。
あたしは通りすがりの謎の黒猫X、皆さんの味方です。
これより先の危険は―― 私 に万事お任せください。ええ 私 に」
「おや。ふふっ、なんとも可愛らしい子猫さんですね……どこかでお会いしたことは?」
「――ガブリエル様。もしや敵の刺客かもしれません、あまり近づかれません様に」
あ”っ”? 黒猫X、威嚇モード。
やったら肌の露出が多い『クオリア』が黒猫Xとガブリエルの間に割り込めば――おい。おい! ふざけんな、そこの黒髪の女! そんな……そんなガブリエル様の前で肌思いっきり出して……! ていうか、人前でそんな恰好するとか頭おかしいだろ!!
「恥じらいを持て恥じらいを! 鏡見た事あんのか!」
「はっ? 護衛が近くに居てなんの文句が?」
自然に寄り添うなコラ! さっきより一歩近いぞ!! キレそう。
憤怒の感情に染まる黒猫X――が、くそ! この女と言い争っている場合ではない……! 終焉獣も近付いているのであれば――ええい! いいか、この辺りの敵は全部片づけてやる! だから安心して離れてろ! いいな!!
「――相手は大量です。野戦で真正面から迎え撃つよりは簡易的でも陣地がある方が貴方たちも動きやすいでしょう、案内します! 此方へ!」
「おお! よし、皆続け――! 一度立て直すんだ!!」
そして本陣にほど近い戦場では――壱狐も動いていた。
前線ではやっとピエロが動き始めたようだが……敵は奴一人ではないのだ。折角にも作り上げた拠点を無駄にしないためにもと。空を飛翔しながら壱狐は幻想騎士らへと声を掛ける。彼らを拠点へと誘い、少しでも有利な地で戦わんと。
同時。一時撤退を援護する為に壱狐は撃を放つ。
構成される術式から顕現する刃文が斬撃となりて――追撃せんとする終焉獣を薙げば。
「ここです! ――ああ、連中の攻撃で幾つか崩れていますね……
補強しておくとしましょうか……!!」
辿り着く。事前に壱狐が用意していた拠点の一つに。
――だがこれでは不足だと陣地の修理改築も進めるものだ。
少しずつ。少しずつでも拠点を拡張していく――更に大人数を収容できるように、と。
「翡翠との関係も構築したい所ですが……
流石に異なる国家の軍勢と共同させるには、時が必要でしょうかね」
そして黒子は伝承軍の再編成の補助に努めていた。
可能であれば翡翠とも共闘連携すれば最上――だが。この未だ混迷している戦場では『互恵』になる程度の立て直しが先かと。故に周囲の味方の状況を大まかに把握しながら、黒子は己がどこへ往くのが最善かを割り出すものだ。
――敵が接近していれば大群の群れの中に黒色の渦を。
――味方が劣勢であればその動きを支援するように援護を。
「相手の勢力が大きく広がっています――狭めましょう。
火力を集中させ、端から削り取るのです。手早く仕留めなければ増殖の方が上となります」
献策し、戦場の流れを少しでも優位な方へせんと。
「っらぁ!! 獣如きが邪魔だテメェら、そこをどけぇ!!」
直後。そうした味方の騎士らの到来によって生じた敵陣の隙間へと――ダリウスが往く。
ようやくだ。ああようやくだとも! 遂に『俺』と面談できそうならば行かぬ理由があろうか! 終焉獣を殴り飛ばし。視線はただ一つ――この先にいる『俺』のみ!
「よぉ――やっと会えたなぁ。ブチかましてやるよォ!」
「ハッハ――! なんだ『俺』かよ! いいぜ、分かってるじゃねぇか――楽しもうか!!」
激突。喰らい合う悪しき蛇の一撃は、互いの尾から喰らう様に。
その狭間より斬撃一つ。
互いに攻撃を躱すのが得手であれば致命傷を負うのがどちらが先か――
「ハッ! 身のこなしも一緒とはよ……ま、俺が俺だってんならそれも当然か!」
ならば。バグの一端として優れた力を持つパラディーゾ側の方が優勢になるものだ、が。
しかしそれも承知の事。微かな癖や、躱す際の条件反射的な動きからダリウスは見定める。
――全てを理解した上での一撃をブチかましてやる為に!
「ぬ、ぐ、ぉぉ! やるじゃあねぇか……流石『俺』だぜ! ――なら死になァ!!」
故に。ここぞという刹那の瞬きを――彼の斬撃は見逃さずに叩き込んでやった。
パラディーゾの口端が歪む。同時。返す刀の一撃が本物のダリウスの首を抉る、も。
確信していた――ああ。コレは決して、何をしても届かぬ様な存在ではないのだと!
「うん、賑やかになってきたね。とっても心強いよ。
――この勢いのまま騒々しいピエロやパラディーゾ達にはご退場いただこう!」
で、あればと。その動きにはスイッチも続くものだ。
彼もまたパラディーゾのダリウスを狙う――彼を倒せば終焉獣らの統制も乱れるのであれば、狙わぬ意義があろうかと。偽ダリウスへと圧を掛ければ巡り巡ってピエロへと攻勢を仕掛ける者達への援護ともなる筈だ――
「指示なんて出させやしないよ。ここでずっと俺たちと遊んでもらおうか!」
「ったく。お客さんが多いじゃねーか――まぁいいさ全部相手してやるよッ!!」
ターゲットスコープ展開。偽ダリウスをセンターに入れて……刃を投じる。
それは雷撃の一閃が如く。彼の注意を此方に引き、終焉獣らから突き放さんと。
交差する闘争の意志と意思。
放たれる斬撃は幾重にも重なり――偽ダリウスの身を削らん。
勿論。敵もパラディーゾであればさる者。彼の攻撃は鋭く激しく……しかし。
「――近付けばなんとでもなるなんて動き方でやられる程、甘くないってところをみせてあげるよ」
スイッチは奮戦する。その身に幾つもの傷を負いながらも。
その身に食らいつくが如く。只管に粘り、そして……
「――かくれんぼの二回目は僕の勝利って事でいいよね?
じゃあ今度は……見つかっても足掻く君を捕まえる鬼ごっこと行こうか!」
同時。そのダリウスの戦場からほど近い場所にて――ピエロの攻防も続いていた。
奴を見つけたじぇい君が立ち回る。仲間を鼓舞するように、声を張り上げて。
「僕達の果敢な攻撃はピエロから余裕を奪いました! ピエロが苛立ち僕達に姿を見せたのがその証拠です――この戦いは勝てます! 勝利の時は近いのだと、皆さんも分かる筈です! であれば今こそ力を合わせて――ピエロを討つ時なのです!」
明るき笑顔が。その雰囲気が――混迷する戦況の中に眩いばかりに。
ピエロを叩くのだとじぇい君が人々の背を押せば。
「ははは! その通りその通りッ! 今こそピエロを追い詰め、果たすのみ!!
――ならば拙者はエスコートしましょう皆様を。
さぁ! ネクストの未来はすぐそこに――ありますよ!!」
ピエロへの途上の邪魔となる大樹の嘆きや終焉獣へと――マリ家が撃を成す。
体力や気力など後で考える。片っ端から目についた連中を穿ちて、求めるべくは道。
この先に勝利があるのだと皆に示すのだ。
彼女の咆哮が敵の怒りを誘いつつ、集まればバルカン砲で敵を薙ぎ。
鋼鉄魂を此処にあるのだと言うかのような戦いを――いざや虎の帝が身をもって示さん!
成否
成功
状態異常
第2章 第8節
マリ家やじぇい君達が敵を薙ぐ。その勢いに次ぐのはアメベニもだ――
「ああも言われると、意地でも同じ舞台に立ちたくなりますね。
――舞台は一人では成り立たないのですから。
……むしろ。ピエロである方がそれを存じていないとは思わないのですが」
炎纏う舞が終焉獣や偽きうりん達を燃やし尽くさんと襲い掛かる。
ピエロの方、芸人の方――あなたは、いったいそこから何を見たのです?
私が憧れる方々のかたちをしたあなたが、一体何を……
思いと共に道筋を切り開かん。さすれば見えてくるピエロの姿――
――ああ煩わしい。何もかもが煩わしい。
ピエロの脳裏には――いや。ピエロの視界には只管に立ち向かってくるイレギュラーズ達の姿が映っていた。アメベニ達が取り巻きのバグ・エネミー達を切り払い、そうして開けた場所から次々とやってくる者達を……
馬鹿な。どうして。何故だ。
今まで幾度も吹き飛ばしてやったというのに――まだ来るのか?
さっさと逃げ帰ればいいものを。なぜ立ち向かってくるかッ――!
「ようやく対面できましたね、ピエロ……いえ、バンビール。
――あなたはこの世界がデータだと、偽りだと言いますが、本気でそう思っているんですか? 何もかもが偽りで無意味なものであったと……この世界に生きる貴方、自らが!」
そこへ往くのはハウメアだ。
ピエロ。貴方にも生きてきた全てがあった筈だ。
あなた自身がこれまでしてきた事、感じてきた感情、想ってきた仲間――
「ハァン! そうですよ空虚空虚ぜ~んぶ偽物!! むしろソレ以外のなんだと?
手を取り合って感じた肌の熱が真実であるなどと、アナタは思ってるんですかぁ!?」
「少なくとも――私は、偽りだと否定しない」
投じるは光の矢。ピエロに届く様に穿つ一閃に込められしは――彼女の想いだ。
助けた『あの子達』は……紛れもなくここで生きている存在なのだ。
――それを嘘などとは言わせないし思わない。
0と1の狭間に見据えた。己が心に確かに残った想いが――示している!
だからこそ、私はあなたを『要らないモノ(偽り)』としてではなく。
「――『敵(対立する者)』として止めます。あなたもこの世界に存在する、真実の一人です!」
「ええ。何もかも……下らないとは言わせません。
私とクマさんがこの世界で生きてきた重みを――味合わせてあげましょう」
直後。襲来するはハルツフィーネの一撃だ。
彼女は常にピエロを狙い続けてきていた。幾度倒されようと、諦めも折れもせず。
神々しい輝きを身に纏いて――紡ぐ爪の一閃がピエロを抉る。
どうせ長く耐えられはしないのだ。
ならば最初から苛烈に。激流の如く攻め立てるのみ。
この世界を、下らない虚構などと言う奴へと。
「『そう』でしょう!? この世界は意味がない! 電源を落とせば明日には終わる世界――違いますか! 私の言っている事になんの間違いがありますか!!」
「そうですね、この世界は……こんな風に脆く簡単に壊れてしまいそうな世界です。けれど世界がそうだからと言って、そうやって全てを見下し平気で踏みにじる事と何の関係がありますか――貴方が一人でこの世界から目を逸らすのは結構。しかし」
下らないとは。無意味とは――言わせません。
もしも。貴方が敗れるのだとすれば。
――それは懸命に生きようとする人々にだ。
「わからないのであれば、その身体に叩き込んであげます!
分かるまで。クマさんと、仲間たちと――研鑽してきた力で!」
「ああ。自分達だけが被害者だって振る舞って、世界に八つ当たりして……ふざけんなよ
外の世界だったらそんな事はねぇとでも思ってるのか? ――理不尽ばっかりだぜ」
激突する。分らず屋の頭を殴りつけ、戯言ばかりを発する喉笛を――潰す為に!
更に続くのはヨハンナもだ。ピエロへと、言を重ねながら……引き続き槍を放つ。
己が全霊を此処に。全身の膂力をもってしてピエロまでの全てを貫かん。
(親しき者、愛する者──バンビールにもいたのだろうか。この世界の中に)
同時。ヨハンナの思考はピエロが纏う、その白い顔の下へと。
誰だ。奴にとっての親しい者とは……愛しい者とは……まさか。
「――さて。それはサーカスの仲間たちかね?」
そして。『辿り着いた』のは――流雨だ。
「噂に聞いたが君はサーカスを辞しているらしいね。彼らも君にとって数字の羅列にすぎないのかね? ただのデータにすぎないと言えるのかね? 0と1の集合でしかない、君の言う――『くだらない』の一部だと」
「ぬかすなァ!! 『そうではない』としたいから私は此処にいるのだッ!!」
必殺のぱんだくろーがピエロへと襲い掛かり――しかしピエロはそれを。
まるで強引に引き千切る様にただただ『力任せ』に迎撃した。
言葉に力と――魂を乗せながら。
「彼らの愛しさは私だけが知っている。
明日の人々の笑顔を得る為に毎日を修練に割り当てる彼らの日々を――
それが! データであると! 修練も語らいも成功も失敗もただただプログラミングされた……そう『定められた』モノでしかなく、創造主の気分一つで明日に消えてもおかしくなくと知った時――私は決意したのだ!
現実に爪痕を残し、我々は確かに此処に存在していたのだと示す為に!」
「そうだな。違うよな。もしそうならば、君の力で幾らでも利用する術はあったろうさ。それが君の限界だ。大人しく投降したまえよ。『中』も『外』も、そう悲観したモノではないかも知らぬ」
「それもまた下らん話よォ! 投降? 投降した所でこの世界が変わる訳でもない! 私は突き進むのみだ――最後の最期まで!」
ピエロが語るは――彼の本心か。
創造主への反抗は自らの存在の誇示の為。
この世界がどこまでも無為だと思っている彼の叫び。
R.O.Oを通じてマザーが瓦解すれば現実にも影響が出るのは確実。
そう。虚構であり、決して『外』に手出しする事が出来なかった者が――『外』に影響を残す事が出来るのだ!
それこそが『爪痕』
例え明日この世界が消えようとも消えぬ、この世界が存在した証! ピエロの本懐――
「なぁ……ピエロ……いや、バンビール。お前、本当にこれでいいのかよ。データであろうとお前はまだ生きてるじゃねぇか! お前の慟哭は聞いた! だがそれでもやっちゃいけねぇことはある!」
――お前が進もうとしている先には何もねぇぞ!
高笑うピエロに天川は斬撃一つ――だが、彼の心は苦悶の色で塗りつぶされんばかりだ。
今からでも遅くねぇ! もうやめろ! 俺に刀を振らせるな――!
例えお前の思惑通り爪痕を現実に残せたとしても。
それは何の意味もない。悲しみと痛みに塗れた、忘れるべき時が刻まれるだけなのだと。
――だがそれでも。
「止まらない。止まりませんねぇ。止まる意味が見いだせない!
ぜ~んぶ全部破壊するッ! ヒッヒッヒヒヒハハハハハハ――ッ!!」
「……ッ! ああそうかよ、なら!
俺は俺が! 護るべきものを護るために――やらせてもらう!」
振るう小太刀。かつては救えなかったが、今は救えるものを救う為に――彼は立ち向かいて。
「バンビール、知ってるかイ?
僕はネ、元はこの世界に居るイデアとエイスって子と友達になる為ニ……
その為ニ、この世界に来タ」
同時。ピエロへと言を投げかけるのは――アイだ。
虚構だとか現実だとか……そんな事を彼は考えた事などない。
唯々目の前だけを見ていた。この世界にいる、子達と会う事以外眼中になかった。
「それニ、君は気づいてるかイ? 君らって目的が同じってだけデ、手段は其々『自由』にやってるじゃないカ。其処には確かに意思があル、魂が宿ってル――つまリ、君はただのプログラムなんかじゃなイ。そうサ……だからこソ、僕達は君に翻弄されちゃってる訳サ!」
「――――戯言を」
「戯言? いいヤ。ただの無味薄っぺらな言葉じゃぁ心は動かねぇんだゼ?」
心動いたからこそ。
「僕は今君の前に居ル!」
アイは込める。その一刀に――魔力気力筋力、己が持ちうる全身全霊を。
空間そのものを切り裂かんとするばかりの一撃は彼の心に応え得るのだ。
天の星の輝きを宿す刀が――至高の如くに煌めきながら。
「貴方は一人なのですね、ピエロ。背中を預けるに足る『誰か』が――いませんか」
「あのピエロがツルギさんと似て……うーん??? まぁその話は……あとでゆっくり、ね?」
更にピエロへと向かうのはツルギとイズルだ。
ツルギの思考には一つの結論があった。ピエロがこの世界に感じたのは――疎外感か。
此れがゲームであると悟った者は、その自覚がない者達との間に『線』が出来る。
隣人を隣人と思えなくなる病に掛かっているのではないかと。
……嗚呼、死闘の中で『あとで』と約束できる相手がいる幸福を知らぬとは。
己が隣にいるイズルに微かな視線を寄せながら――往く。
ピエロへの撃を途絶えさせぬ様に。連携しながら息をつかせず立て続く。
さすれば――そのツルギの動きを援護する様な形でイズルも介入するものだ
ピエロの周辺に座す終焉獣をも纏めて薙ぎ払う様に。
その足を止めよう。先往く者達が、終焉獣なんぞに煩わされぬ様に。
「分かるだろう? ピエロは……退場時が見せ場だからね。幕の準備はいいかい?」
「ぬかせ! この程度で演者が袖に下がるものか!
フィナーレは……最後を飾るのは道化の退場ではなく、世界の滅亡以外に他はない!」
対し。ピエロの反撃もイレギュラーズへと。
彼の放つ一撃は未だ強力。周辺を根こそぎ抉る様に放つ閃光が皆を照らす――
だが。そこへアメベニの治癒の力が皆に行き渡るものだ。
ピエロの攻勢には治癒を阻害する様な力があり万全とはいかないが――しかし治癒術が無意味になる程の効果ではない。故に彼女の一手が死への歩みを遅らせ、紡がれた一筋がピエロに更なる一撃を齎す時を作り出そう。
どこまでもどこまでも。その道化顔を歪ませる為に。
「やぁぴえぴえ。また来たよ――ふふっ!
ねぇねぇ気付いてる? 私はキミが好きなんだよ」
瞬間。おどけた様な口調で閃光を躱しながら向かって来たのは――きうりんだ。
ラブではない。ライクの意味……いや憧れにも近いかな?
私はキミみたいになりたい。
必死に考えて、頑張って、挙句の果てに世界まで壊しちゃおうとする君が――好きなんだよ。
だからね。
……えっと、だから、あれだよ。
上手く言えないな……えーっと。
「――しゃらくせぇ! 全部受け止めてやるからかかってこいよぉ!!」
「あんたねぇ、そういうのはセリフ考えてから来なさいよぉ!!」
「うっさいなぁ! 考えるより先に足が出てたんだから仕方ないじゃん!!
でもとりあえず私が耐えきったら友達になってください! きゃっ言っちゃった!!」
「やーなこったですよぉ!! 死んでから出直しな・サーイ!」
もうなにもかも全部わっかんねぇ! とりあえず一旦死んで落ち着こう!!
ふざけている様に見えながらも――しかしきうりんの言と心に嘘はない。
自らに数多の加護を降り注がせ。万全をもってしてピエロへと向かう。
傷が治りにくいからなんだよ――治すんだよ! うら行くぞぴえぴえ――!!
決して目を離させぬとばかりに。『友』へと向かうきうりんの魂が輝いていた。
成否
成功
状態異常
第2章 第9節
「つーかまーえた!」
その時。戦場の一角で――すあまの声が響いた! モウニガサナイ。
「最初に言ったよね。聞こえてたかな?」
わたしご飯は残さず食べる主義。さぁ――メインをいただきます!
「うわあああああ! くそ! 離せ、離せよ!!
きうりの無断収穫は罪だぞ!! 農協に訴えてやるー!」
「大丈夫、大丈夫――コピー達もちゃんとお腹に納めてごちそうさまするからね」
「そういう問題じゃねー!」
食べる時はちゃんといただく命に感謝するのが大切で礼儀――すあま、分かってる。
偽きうりん本体を中心に狙うすあまは、分裂した個体達ももののついでに捕えている様だ……あとでちゃんと食べるから、今はちょっと待っててね。『ヒィィ! 鬼! 悪魔! すあま!』という声が聞こえてくるが、とにもかくにも本体きうりんを爪で狙う――!
「おお、おお……数ある偽きうりんからモノホンの新鮮なパラディーゾ偽きうりんを見つけられた……食べに食べ続けて見つけたすあま……すごい。これが……食欲の導き……!」
そしてその有り様を見ていたグレイは思わず素直に感嘆を零すものだ。
ただ思うんだけど、偽きうりんの中のモノホンの偽きうりんってなんかややこしいな? 別の仇名でもつけた方がいいかな? うーん、きうりんグランマ? 略してきうグラ?
「まぁとにかく――きうグラを倒さないとね。きうりは袋に入れて粉々に砕いてごま油と醤油、あと少量のラー油とかいうのと一緒に揉み揉みすると美味しい酒のつまみになると噂で聞いている……折角の試すチャンスでもあるし」
「わぁ! こいつら皆食欲しかねぇぞ!! 一大決戦って分かってるのか!? そんな最中に食欲が前面に出てていいのか!? きうりの人権を守れー!」
バリバリムシャムシャ。おっとっと、つい生でちょっと食べてしまった。
まず初めに切り分けて砕かないといけない――グレイの凶悪たる機械鋸が稼働すれば、草刈りが始まらんとしていた。アクセル全開、木っ端微塵にしながら――さぁ採取していくとしようか!! あ、きうりん達が必死の抵抗を……ぐあああ!!
「か、壁の人大丈夫ですか? ごめんなさい、つい謎の先入観で『壁』のイメージがあって送れました……まめ吉さんも無理はしないでくださいね」
「壁じゃないですぞ~! 愛の妖精ですぞ~!!」
「きゅ、きゅっ!」
と。きうりんが大量に刈られている傍で――必死の防戦をしていたラブリーザントマンへと声を掛けたのは蕭条だ。蕭条に手を振るまめ吉。かわいい。
可能であればザントマンの治癒でもしてあげたい所だが……治癒術の類は持っていないので仕方ない。ので、身体はって集めていただいた敵をドーンとしていくとしようッ――!
「くらえ壁さんの仇――! 征きますよ、サメくん! 彼の無念をこの一撃に乗せて――!」
「まだ死んでないですぞ~~!!」
ザントマンの悲痛な叫び。応じるかの如く――蕭条は敵陣へと一撃を炸裂させるのであった。
「いやねイデっちさっきのはちょっと独り言がね?
別にイデっちの中のお話をした訳じゃあっハイお話承知っす。お手柔らかによろ」
同時。某同僚からの指摘に微かな恐怖を抱くエイル――お手柔らかによろ~マジで!
ともあれ偽イデアへと彼女もまた向かうものだ。
どうにもこうにも此方のイデアは――随分悩み多きお年頃な様で。
「存在意義……存在意義、か……
皆様、申し訳ありません。あちらからの攻撃はお任せします」
「おっけ~~万事お任せっ!」
故に本物のイデアは歩みを止めずに思考を重ねる。
ああ、やはり貴様も私――『同じこと』で悩むのだな、と。
重ね合わせていた糸を、緩め。狙いを彼女の四肢へと切り替える。
意思無きマリオネットに糸を繋ぐ様に――
「笑止。この程度で私の身を縛れるとでも――? そう甘くはありませんよ」
「さぁ――それはどうかしら、ね!」
無論。狙ってもパラディーゾの身を縛るなどそう簡単にいくものではないが。
されどエイルに加えタイムもその流れに加わるのであれば。
「また貴方達ですか。『私』自身はともかく……貴方達は何故此処に来るというのか」
「――大切な人の笑顔がまた見たい。それだけよ。
絶対に譲れないものがあるから……此処にいるの」
そしてタイムはイデアの心を揺さぶる様に――言を重ねる。
どれだけ素晴らしい事なのか。大切な人を……他者を理由に戦えるというのが。
でも便利な駒として生み出されたあなたには、たったこれだけの理由で戦えるって事すらきっとわからないのね。歪められた意思は只一人の兵として振舞うだけであり……
こんな馬鹿げた殺し合いより、その可能性を信じてみない?
どうしても、駄目なら。
「今ここで貴方を倒すわ。イデア!」
もしも次があるのなら、バグでも誰かのコピーでもないあなた自身として生きて欲しい。
――きっとこの世界が続く限り、そんな未来もきっとあるのだから。
……あーあ
らしくない嘘ついちゃった。
でも、本当にそうなればいいなあ。
脳裏に浮かぶ穏やかな光景――
この戦いの先にあるのだろうかとタイムは気持ちを零す。
もしも。一片の可能性があるなら、きっとと……
ねぇ。
「まだ何も知らない無垢な貴女」
瞬間。本物のイデアは狙う。
「世界はとても広く、とても自由なものなのです。
――それを知らないというのは、あまりにも勿体ない」
だから共に歩みましょう。
人形をもう一つくらい、持てますから。
「……下らないッ!
そんな世界など知らない。要らない。不要です。私は、その為に――!」
「おっとっとぉ? それが本当にマジヤバの本心ってやつ?
悩んで夜更かしして肌ボロボロじゃ素敵な王子様もげっちゅーできないよ?
よーく考えてみ? 白馬の王子様の顔が思い浮かぶっしょ? ほらほらどうなのさ!」
どこまでも拒絶するパラディーゾ。まるで殻に閉じこもる様に……
だけれども。見えた隙があらば――エイルはその胴に蹴りをぶち込んだ。
いーじゃん、悩んだって。認めたくなくたって、それがヒトだよ。
笑って泣いてそんで悩んで。嫌な事があったら『くっそー!』って叫んでさ。
そゆのが最高の人生じゃん?
なっ。もしも今のに少しでも感じる事があったんなら。
「――もう終わりにしよーぜ☆彡」
きっと分かり合えるさと。パラディーゾへと気合を入れた一撃を――打ち込んだ。
成否
成功
状態異常
第2章 第10節
――ピエロとの激闘は続く。
伝承と翡翠からの援軍が至り、戦場は拡大し。
故に敵陣の隙を突いてピエロや各パラディーゾへの接近も容易くなっていた。
「ぬぁああ! ぜぇ、ぜぇ……なんてしつこい奴らなんでしょうかね!
特にハデスちゃんルールで強くなってるのもいますし……くそう!」
そして当のピエロは――未だ健在なれど、その攻勢が故か疲労も見え始めていた。
ピエロがでっか君と呼ぶ……つまり終焉獣ベヒーモスはまだ到来しない。
というよりも向こうにもイレギュラーズが大挙し攻撃が激しくなっているようだ。
――どうしたものか。まだまだまだまだイレギュラーズを相手にしてもよいが……!
「ん~~~まっ! よろしい! こういう時はですねぇ。
連中が調子に乗るようなった原因を排除してあげるべきでしょう――
ねぇ! 現場のダリウスさ~~ん!!」
「――たくよ! こちとら忙しいんだぞ!! コキ使ってくれやがって!!」
しかしピエロは閃いた。
今のイレギュラーズの攻勢があるのは――伝承や翡翠の援軍が来たからだ、と。
ならば逆説的に考えればそれらを粉砕すればまた初めの段階に戻るのでは?
いや勿論、ピエロの位置がバレている今となっては完全な意味での元通りにはならないだろうがそれでも意味はある筈だと。故に終焉獣らの指揮を執っているパラディーゾ・ダリウスへと声を掛けて……
「はいはいはい分かったよ。行きゃあ良いんだろ行きゃあよ!」
「えぇえぇ頼みましたよ! ゾフランちゃんはちょっと危ないみたいですし。
大樹の嘆きと連動させたいイデアさんも前にはねぇ。だからおねがいしまーす!」
「ぴええ! あたし結構まずいんだけど、どうしよー!」
「ゾフランちゃん頑張って! 応援してますから!」
「ぴえぴえ! 私も大分喰われてまずいんだけど、どうしよー!」
「あんたはもうちょっとサラダにされててくださいお願いします」
ぴえぴえ! なんかルフランと対応加減違くない!?
パラディーゾ・きうりんからの抗議が行われるが――それ所ではなかった。パラディーゾ・ルフランへの攻勢は思った以上に激しく、大樹の嘆きを増やしている場合でもなくなっているのである。
そしてパラディーゾ・イデアにも――イデア本人やエイル・サカヅキ。タイムらの攻撃が仕掛けられ続けている。彼女らは言によっても揺さぶりをかけており……偽イデアは少し、揺らいでいる程だ。
――このまま散発的にイレギュラーズの対処を続けているだけでは、いずれ盛り返されてしまうかもしれぬ。
故にピエロは起死回生の一手を打たん。
伝承と翡翠の本陣を叩き潰し――戦力を瓦解させ、イレギュラーズを包囲してやるのだと。
「さあ――希望なんてものはないんだと、連中に指し示してあげようではありませんか!」
軍勢を大きく動かす。
総攻撃。これが成功するか否かによって大きく流れが変わりそうだと――誰かが予感していた。
■戦況報告
※ピエロの軍勢に、伝承と翡翠の援軍本陣を突かんとしている動きがあります!!
※この行動に対し、伝承と翡翠は防御を固めんとしている様です!!
※反面、ピエロやパラディーゾ周辺の戦力が割り振られ、低下している様です! 攻勢のチャンスでもあります!!
・翡翠にも伝承にも自前の戦力がありますので、そうすぐに瓦解したりする事はないでしょう。ただ、援軍勢と共闘防衛するだけでも敵戦力を削ぐ事が出来ますので、彼らを援護する事にも引き続き大きな意味があります。この攻撃を凌ぐことが出来ればこの戦場の流れは大きく波及し、全体的に有利となる事でしょう。
・勿論ピエロを撃破すれば勝利ですので、引き続き彼を集中的に狙ってもOKです!
■各パラディーゾの状況
・ルフラン:かなり体力が削られており、体力と大樹の嘆きの増産速度に大きな低下が見られます! ピエロのいる地点へと撤退しようとしている様です。
・イデア:攻勢が加えられており、体力と指揮能力の低下が見られます。また、イレギュラーズの言になんらか揺らいでいる様な様子が見られます。
・ダリウス:攻勢が加えられていますが、まだもう少し余裕がありそうです! また、援軍勢への攻勢を掛けんとしている様です!
・きうりん:まだめっちゃ沢山います。うおー喰われてたまるか!
・ピエロ:イレギュラーズの言などにより口調の変化などが見られますが、撃破にはまだ攻撃が必要そうです!
第2章 第11節
これが敵にとっての起死回生――援軍潰しとは悪くない手だ。しかし。
「やあやあピンピンしてるメレムちゃんだぞ☆
ふんふん。凄い数がいるなぁ……みんな、楽しんでいってネ――」
嫌がらせを。と、自己紹介がてらに紡ぐのはメレムだ。
夜を司る鴉の魔術が地上に炸裂する……それは音響の一端。
歌とも声とも区別つかぬ波が到達し、その内なる精神より食い破らんとする――
「器用貧乏なものでねー、嫌がらせは得意なんだ。だから……たっぷりと、ね」
笑みの色を口端に浮かべ。少しでも彼らの進軍を阻みて援軍勢の援護としよう。
敵の総反撃。これを挫けば、いよいよ敵にも後はなかろうと――
「フッ……本陣強襲――しかし甘いッ!!
こんなこともあろうかと!! 防衛陣地を整えておいたのです!!」
さすれば。幾重にも準備を重ねていた壱狐にとってこれは絶好の機会であった。
この戦いに馳せ参じた時より構築し続けていた陣地――ソレらは守備にこそ最大限の効果を発揮するものだから。堡塁の様に点在するソレらが的確な防衛線を構築し、終焉獣らの進軍を阻み続ける。
それもこれも先んじて準備し続けていたからだ。
その成果が表れる。味方の被害を減らし、敵の進軍は明らかに減速していて。
「さぁこちらへ! まだまだ増やしていきますよ、改築の余地はあるのですから!!」
「おぉ……! よし皆、ここを拠点に防衛隊を張り巡らせろ! 迎撃開始ッ――!」
だがまだ終わらぬと。騎士らに案内を飛ばせば――壱狐は更なる増築・修理へと励むものだ。
まるで陣地を要塞化せんが如く。何者にも屈さぬ――堅牢さを作り上げるべく。
「猫来い猫! 援軍に来てくれてる皆を癒すんだー☆
絶対にここは通さないぞー! さぁ猫ダンスだー! 至福の猫ぱんちだー!」
そして拠点の中から周囲を援護するのが――ナハトスターだ。
彼が呼び覚まし猫達が周囲に癒しを齎す。ふくよかな猫。可愛い子猫。皆違って皆良い……! だが無論ただ可愛いだけではない――治癒の力を宿したその猫達のやすらぎが、皆の傷を癒すのだ。あ、待って! 猫いかないで、猫ー!
「うぉぉぉぉ猫ちゃんを護るんだー!」
「ぬこちゃんバンザーイ!!」
何故か士気も上がった来がする援軍勢。終焉獣らを押し返さんと奮闘し。
「貴様等なんかに援軍の皆をやらせるか! ウィッシュ・スター・ランチャ――!!」
更にナハトスター自身もその勢いに乗る様に――敵陣を穿つものだ。
味方に当てぬ様に注意しながら。猫の神秘が全てに打ち勝つ! にゃー!
「いいぞ! 生きたいと願え! 死に抗え! 生命への希望を捨てるんじゃねぇ!!
前を見ろ! 後ろを見たって――そこにはなにもありゃしねぇ!!」
更にはDr.Sの支援も満たされれば万全に近い状態で戦えるものである。
彼は仲間を癒す。只管に……あまりにも多くの敵と味方がいれば何人いても足りないぐらいなのだから。救える生命は全て救わんとするばかりに! 周囲を鼓舞し、彼は力を振るい続ける。
そうだ――ゲームの中だから関係ない、なんて思えなかった。
現実で、暴走させられていたロボットを見た時に。
……だからいても立ってもいられなかった。急拵えのアバターであろうとも。
「誰も落とさせねぇ……! 精々利用させてもらうぜ、この世界の『法則』ってやつをよ――!」
死んでも死なない。蘇る――それがゲームであるR.O.O世界。
生命への冒涜みたいで気に入らないが、今この瞬間は都合がいいと。
迫りくる終焉獣に一歩も退かず――彼は彼のままに在り続ける。
「……希望なんてない、といくら押し付けたとしても。
私達が今ここにいる事こそが希望になる、そう信じています。
――どれ程強大になろうとも。折らせる事の出来ない意志はあるのだと――ッ!」
更に。シフォリィも伝承本陣の近くで力を振るう。
ピエロ――彼が希望などないと幾ら言を重ねようとも、無駄だ。
壊すよりも難しい事をしようとする此方側が、この程度で諦めようものか!
――ナハトスター、Dr.S、シフォリイらの輝きが戦線を支える。
彼らの治癒が味方を倒させぬのだ。援軍の者にも及び、終焉獣の突進を阻んで。
「むむむ、せっかく最初に戦線持ち直しをはかったのに……
また突き崩されようとするのは、なんか嫌」
であればグレイが往くものだ。『二度目』はないのだと言わんばかりに。
「伝承の清掃活動から成り上がった義勇兵、助太刀いたす! ……なんてね。
ダリウスちゃんが暴君プレイするのならこっちだって負けない暴君プレイするもん。
――覚悟しといてほしいよね。食らいつくまで諦めないよ」
振るう一閃。敵を薙ぎ、フルスロットルのままに敵陣を横断する。
さて。どこまで振り回し続けられるかな。
いずれは止まるだろう。敵の牙がこちらに突き立てられてくるだろう。
けれど――それまでは『止まらない』のだ。
グレイ一人を食い破るまでに、グレイは敵陣そのものを食い破らんとすれ、ば。
「キャハハハ! なんでぇまだまだ余裕そうじゃねぇか。
つまりはまだまだ殴り甲斐斬り甲斐があるってことだよなぁ!? オイ!
やろうぜ――最期までよぉ! まさか逃げたりしねぇよなぁ!!」
「あーあーあー! 『俺』ながらしつこいよなぁ!! 何度死んでも折れねぇたぁ――なッ!!」
『ダリウス』同士がぶつかるものだ。
突撃により多くの混戦状態に陥った状況を利用し、強襲する様に一撃ぶち込んでやる。
互いに。高笑いしながら。
――横っ面をシバキ倒してやる。
「タマ獲りにいったらぁ!! 指の一本で済むと思ってんじゃねぇぞ、おぉッ!」
逃がさぬ。絶対に逃がさぬ。本物のダリウスは執念の様に蛇の尾にて偽物を掴まん。
――奴の体力も確実に削れているのだ。
今一歩。もう少し。後一撃――叩き込んでその命へと届かせるために。
「それにしても、なんだかんだ面倒見いいっぽい? パラダリウスって。
乱暴そうに見えても……ってやつなのかなぁ? 終焉獣統括してるのも納得だねぇ」
「はっ! 他にやれそうな奴がいねぇってだけの話さ!
全くピエロの野郎には迷惑してるぜ、ヒャハハハッ!!」
続けざまにエイラはパラディーゾのダリウスを一瞥しながら――援軍本陣に突入を仕掛けんとしている敵を引き付けんとする。風に乗って彷徨うくらげ型の火の玉が敵の中心に襲来し、炸裂するのだ――
さすればエイラはそのまま別方向へと奴らを誘き寄せんと。
「ええと、こういうのなんていうんだっけぇ……トレイン、だっけぇ? お約束だって聞いたよぉ?」
それが阻害となるのだ。勢いを停止させ、無駄な足を踏ませる。
そのまま元の敵陣の方にまで行ければ大渋滞が起こるだろうか。勿論、引き付けるエイラにとっては危険な役回りとなるが……しかしR.O.Oの世界であれば死は左程の問題でもなく。
「ぬわああああ――! 私も助けてほしいですぞ~!」
「きゅっきゅ」
と、一方で翡翠側――の方でラブリーザントマンが叫んでいた。
まめ吉を護る様に立ちはだかり、大樹の嘆きなどから攻撃を受けているのだ。なんだか言動に余裕そうな面も見えてる気がしないでもないが……しかし。
「なるほど――ならば、俺も加勢しよう。
危なくなったら下がってくれても良いんだぞ。ラブリーザントマン」
そこへと。まるで救世主の様に至ったのが――ベネディクトだ。
周囲に現れし敵を薙ぎ払う。竜の血が滾り、敵を屠らんと斬撃一閃。
――突如現れたイレギュラーズの勢いに怯む敵。さすれば。
「お前はポメ太――いや、まめ吉というのか、すまん。似た様な毛色を見た事があってな。
犬……たぬ……動物違いだった」
「きゅ? きゅきゅきゅ~♪」
「なんだ、許してくれるのか――? すまんな」
「うう! こんな、こんな言葉を頂けるとは、数少ない優しい人に出会えた気がしますぞ……!」
刹那。まめ吉達へと言を投げかける。まめ吉はにっこり顔でベネディクトに擦り寄ってきて、なんだか随分ポメ太郎に似て人懐っこ……いやもしかしたら本当に犬かもしれないぞコイツ。
まぁそれはともかく――まめ吉が居れば大樹の嘆きの動きが鈍くなるというのなら守るだけの価値はある。理由が今一つ分からないが……まめ吉の大樹の嘆きとなんらか関わりがあるのだろうか? もしかするとまめ吉自身も……?
「ぬわー! なんなんだよお前ら! 一ついい? これ、きうり喰うゲームじゃねぇから!」
と、その時。なぜか喰われる事が多いが、ちげー! 倒すだけで良いんだって! なんで食おうとするんだ君ら!! と叫ぶ声が聞こえる――パラディーゾのきうりんだ。
「えっ――『いただきます』って言ったなら『ごちそうさま』もしっかりしなくちゃいけないよね……? きうグラ? きうグラでいい? きうグラー! 牛乳もあるよ――!!」
「はいはいグラノーラとの詰め合わせ、ってそれもちげー! あ、ミルクは新鮮な奴でおねがいね! この前賞味期限切れ行けるかな、って思ったらいけなくて大変な事になってぬわああああだから喰うんじゃね――!!」
その偽きうりんを追い詰めていた一人は、やっぱりすあまである。
せっかくここまで来たのだ――フルコースで付き合ってもらおうと。
本体きうグラを襲いながら、ついでに分裂きうグラも食べていく――! うーん、きうりサンドもいいかもなー。どっかにベーコンとトマトあったけ。きうグラ、はやく生やして。
「これが――これが噂の動くキュウリサラダきうりん!! このままだとR.O.Oでの主食がきうりんになってしまう! くそ、世界的陰謀を目の当たりにすることになるとは……一刻も早く止めなければ! ……そういう話でいいんだよな?」
違うけれど、そういう話でもいい気がするのはロードだ。彼もまたきうグラの戦場へと駆けつけてくれば、おぉおぉなんという食事会場だろうか。あぶって(炎獄)刻んで(失血)調味料(致死毒)を加えてやろうではないか――!
「うーん、よし! これで食べたやつも一緒にぶっ倒れる! やった!」
「傷つけないように遠回しに言うんだけどさ――頭おかしーんじゃねーの!? きうりに振りかけるのはドレッシングだって歴史が囁いてるでしょ! え、これがドレッシング? あぁ~だとすると納得~! ぎゃー!」
ぶっ倒れていくきうグラ達。もののついでに終焉獣の方にフルスイングすれば――あ、尾で弾かれた。なんで? なんで食べない? ねぇナンデ?
「なんで俺の作ったものが食えないんだよ! お残しは許さないッ!!」
やりたい放題のロード。きうりんと終焉獣を纏めてバァンだ! バァン!!
「これが……原動天……シャブという名の栄養剤与えられて端正に育てられている……」
同時。燃やさなくては――と決意を固めるのは梨尾だ。
モンスターペアレントとして焼き尽くす。うちの子よりもこんなきうりが、きうりがどうして栄養剤を与えられているというのか――! 俺の次男が、理弦が選抜とか育児放棄とかされてるのに……!
梨尾は怒りと共にきうりを刻む。燃やして刻んで分裂するよりも早く破棄処理だ。
「燃えろ――ッ! 二度焼きでこんがりにしてやるからさっ!
大丈夫大丈夫料理スキルが最低限の保証はしてくれるッ――!」
「ぎゃああああ火力強すぎー!! これ料理じゃなくて炭の創造――!!」
おいしい炭になってくれよな? なっ! これもきっと料理だって!!
■戦況報告
※伝承・翡翠援軍勢への援護が行われています――!
※壱狐の用意していたた防御陣地により当戦場の被害が軽減している様です――!
※パラディーゾ・ダリウス、きうりんへの圧も強まっているようです!!
成否
成功
状態異常
第2章 第12節
「合流ですか――成程。理にかなっていますが、そうさせる訳にはいきませんね」
パラディーゾのルフランが撤退する。厳密には合流というべきだろうか――
ピエロの方面へと撤退する彼女を追う一人が黒子である。
目標の退路遮断。周辺の状況確認と攻撃の減衰が無いかを高速で確認……
ここが正念場だ。パラディーゾを合流させ、態勢を立て直させる訳にはいかないのだから。
故に――黒子は目標直衛へと撃を成す。
「退路を断つ。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ――と言った所でしょうか」
ゾフランの護衛を蹴散らし、彼女の余裕を奪う為に。
それが引いては主攻の一助となろう――さすれば。
「有利とは言え……ここが一番慢心になりやすい所だな……身が傷つき、体力も活力も疲弊している――だが、追い詰められた者こそ何をするか分からん」
オウェードもまたゾフランを追う者である。伏兵や誘い込み……ゾフランがどれほどそういった戦術眼を宿しているか分からないが、彼の戦略思考はそれらの警戒を行いつつ――逃げ道を考察せんとする。
どこへ一撃を叩き込むのが正解か。追い詰められている彼女は今、何を考えているか。
「『このままでは危険! だから一刻も早くこの場を突破しなきゃ――』
と、お前さんは考える……急ぐ足が仇となるな」
「ッ――!! もう、しつこいなぁ!!」
故に彼は先読みしよう。彼女の行動を。彼女が紡がんとしていた言をッ――!
繰り出す一閃。傷ついたゾフランの身を更に出血させる為に。
あと一歩。あと一手なのだからと――ッ!
「――やっぱりフラン君本人とはぜんぜん違うんだね。それもピエロの仕業だから、なのかな? それとも……ううん、考えていてもしょうがないね……!」
「なーにー!? ぴえぴえとの合流だとぅ!! ひゃっはー! そうはさせねぇ!! 折角ここまで来たって奴なんだ! このまま9回裏3アウト・ゲームセットまでお付き合いいただくぜー! よっしゃー追撃じゃい!! ふぁいあー!」
そしてその一助とならんとするのがアレクシアとハーヴェイだ。
ゾフランの護りを剥がさんとアレクシアが弓を引く。絞り上げる弦が鳴く様に。
――外は似ていても中身は全く違う。ただ、なんとなくだけど……無邪気にすぎる気がするのがゾフランだ。まるで子供の様な……いやもっと、生まれたての……それが彼女の根っからの部分なのか、何も知らないが故なのかは分からないけれど。
「……『こういう形』で出会わなければもう少し話ができたのかもね!
だけど『こういう形』以外はなかった。なかったんだッ……
だから、止めさせてもらうよ!」
「わわわっ。アレクシアさん、ひどいよー! あたしはただ、種を撒いてただけなのに~!」
「それ自体が、大地を傷つけてるんだよ!」
これ以上逃がす訳にはいかないと。相も変わらぬゾフランの様子――されど容赦は出来ないと奥歯を少し、噛みしめて。
穿つ。彼女の撒く種が大地より養分を吸い取り、大樹の嘆きを生み出しているのだから。
同時――そのアレクシアの一撃が着弾すれば、ハーヴェイもまた接近する。
彼女の歩みを止める為に。俊敏に戦場を駆け抜けて――体当たりするのだ。
「ディーフェンス! ディーフェンス! へへ、通さないっていったら通さないぜー!」
「うんうんゾフランをピエピエと合流させるわけにはいかないねぇ。ここで絶対、止めるんだよぉ」
更にはハーヴェイのみならず、身を呈してゾフランを阻まんとするのはエイラもだ。
電撃纏うクラゲとなるエイラには触れれば痛みが走ろう。ただでさえ負傷しているゾフランにとってこれ以上の痛みは避けたいものだ――故にエイラの存在は実物以上の壁とも感じられて。
「うわー! ひどいよひどいよ! どうして皆、私の邪魔をするのー!?」
「しつこいと言われようが、俺は仕事は果たす主義でね。
ああ、どこまでも食らいついてやるさ――さあ。追い込み漁だ」
嘆くゾフラン。奔流する魔力をぶつけてくるものだが、しかしCALL666もまた反撃の一手を。
その命をもらい受けなければ終われない。いや此処にいる誰もがそうだ。
お前の存在を放ってなどおかない。どこまで逃げても、必ず追いつく。
「どれだけ喚いても無駄だ。怖いか? ならいいさ――殺しに来い」
ただし。と、彼は延々と必ず当たる必中の弓を放ち続けて。
「その手数分、俺以上の一撃を喰らう事を意味するがな……! さぁ、死がお前に追いつくぞ!」
「源流の種ぇここでぇ断たせてもらうねぇ? 痛み嘆く存在としてぇ生み出されるのはぁとっても辛いことだろうからぁ。もうこれ以上、そんなのを増やしてあげる訳にもいかないんだよぉ」
宣言する。もう幾度言ったかもしれないが――逃がさない、と。
エイラもまた自らに再生の力を齎し戦場に立ち続けて、どこまでもゾフランの前に。
大樹の嘆きが至ろうと止めるものか。むしろ引き付けんばかりにクラゲ型の炎弾を飛ばせば。
「ピエロの所へ行くのが君の幸せなのかな? そうは思わないけれど。
まぁいずれにせよ……ここで止めさせてもらうよ。絶対にね」
彼女の行く末に更に立ちはだかるのが――マークだ。
エイラらと共に彼女の眼前へ。ピエロへと合流させる訳にはいかない……ここでゾフランを止めて、そして終わらせる。伝承と翡翠への戦線に、負傷しているとはいえ彼女の様な特記戦力を合流させる訳にはいかないのだから。
だから――穿つ。ゾフランの先手を取る様に。
彼女が魔力を再形成する前に距離を詰めて、捧げる一撃は地を踏みしめて。
「はぁ、はぁ……マ、マークさんまで追いついてくるなんて……げほ、ごほっ!」
「――ねーねー『あたし』。ねぇ。大樹の嘆きを撒くのは楽しかった?」
さすれば、ゾフランが吐血する。内臓のどこかへと遂にダメージが辿り着いたか――?
疲労困憊気味の彼女へと。紡がれた言の葉は……本物のルフランだ。
「たっくさん撒いて。たっくさん作って……それで満足だった?」
「ふふ、ふふ! まだまだだよ! もっともーと作るんだ!
そうすれば、そうすれ、ば……みんな、皆見てくれる!」
分かり合うことはきっとできない――けれど対話は出来ると。
故に交わした言の葉から導き出されたのは……彼女はどこまでも『楽しんで』いたという事。
――ルフランの人懐っこい気質が捻じ曲げられ、皆が『来てくれる』からと大樹の嘆きを発生させる尖兵と化していたのか。無邪気なままに。皆と遊びたくて遊びたくて仕方がないような性質にさせられていた――のかもしれない。
誰かの記憶に残りたい。
それは、コピーを発生させたピエロの心境も幾らか反映させられていたのかもしれないが。
「ルフランさん……ううん! どんな理由があっても、見過ごせないんだ!」
けれどその無邪気さ加減が他者への攻撃となるのであればネイコにも迷いはない。
飛行し。誰の邪魔も入らぬ様に跳躍、飛行しながら――まっすぐにルフラン、もといゾフランの下へと向かえば。
「――友達が頑張ってるんだ!」
私だって負けてなんかいられない――ッ!
放たれるゾフランの甘い魔力を寸での所で躱しながら、撃を放つ。
周囲に聳える大樹の嘆き達諸共巻き込むかのような一撃を。
……さすれば遂にゾフランの身が崩れ始める。
「あ、れぇ?」
立つも困難になる程に。足が震え、紡がれた魔力も収束させることが出来ず霧散し……
「――さよならだ」
であればマークは紡ぐ。彼の言には何も偽りなどない……
もしも。もしももう一度、君とどこかで会う事が出来たのなら。
仲良く出来ると――嬉しいな。
放たれた一閃。それはパラディーゾ・ルフランにとっての致命傷となり。
「――あーあ。ここまで、かぁ。ふふ、ふふ……楽しかったなぁ……
ねぇ……また、いつか、あそぼ……ぅね」
「……人を傷つけないなら、そうだね。いつか遊ぼう。笑って、ね……」
倒れ伏す。その顔には、最後まで笑みの色を張り付けながら。
消えていく。バグ・データである彼女は本来『存在しない』者。
力が失われれば――全てが正常な状態に。そう、消え失せるのだ。
だからルフランは言う。許せないし、倒さないといけない。それは変わらなかったけど。
もしも『次』があるのなら――皆笑った世界が良い。
優しい。誰もが暖かい気持ちに包まれる世界で……
終幕。最後にルフランが降り注がせるは沢山の砂糖菓子。
いつだって食べたいお菓子で送ろう。間違っていたけれど『あたし』は『あたし』なら。
今。せめて食べたい砂糖菓子の中に包まれて……
幸福な中で。さびしくない最期を迎えてほしいから。
沢山のキャンディ。ああ――とっても美味しそうだと。
ゆっくりと、ゆっくりとパラディーゾ・ルフランは天へと手を伸ばす――
指先がお菓子に触れる、直前。
閉じられる。瞳の力が、なくなれば。
泡の様に。彼女は一抹の夢だったのかの様に――消えてなくなった。
ルフランが手を伸ばしていたリボンも、微かな感触だけを残して――なくなる。
けれど忘れる事はないだろう。
彼女の様な存在が、此処にいたことは……
■戦況報告
※パラディーゾ・ルフランの撃破に成功しました!!
※ピエロの軍勢の戦列に大きな隙が出来ています!!
成否
成功
状態異常
第2章 第13節
Teth=Steinerは戦場を見据えていた――きうりんが沢山いる戦場を――
よぉ偽きうりん! 今日も元気よくか遺伝子組み換えしてんのか――って、オイ。
「お前……実に美味そうに食って貰えてるじゃねーか。野菜冥利に尽きるってか?
もうお前は倉庫のダンボールで燻ってた、昔のお前じゃないんだな……」
「へへ……私もさ、出世したもんだろ……? 可能であれば助けてほしいんだけど、どうよ!」
「ああ――それはそれとして、電撃ドーンッ!」
ぎゃあ――! 叫ぶ偽きうりん! 吹き飛ぶきうりん!
ちょっと同情してやらん事もないTeth=Steinerだが、それそれこれこれである。きゅうりは水分たっぷりなので強指向性の雷撃魔術が身を下から上まで貫いてゆく様だ――あぁん? どれが本物かだなんてメンドクセェ!
「全部吹き飛ばせばいいんだよ、こういうのはなぁ! おら、一列に並べ!
纏めて焼き尽くしてやんよ!! 踊れや、きうりんズ!!」
「ぎゃああああIH調理ッ――!」
きうりは焼くものだぜヒャッハー!
「――何故か喰われるって、仕方ないんだよ。
そこに美味しそうなきうりがあったんだから。ちゃんと美味しく食べなくちゃ。
それに――ご飯はみんなで 食べると美味しいからね!!」
更に、うわ『きうりキラー』すあまだ!
偽きうりん達の間に衝撃が走る――収穫されて喰われると――! 今度はサンドイッチかな?
「……あっ、待てよ?
そういえばえっと、獲物はちゃんと血抜きするのが大事って聞いたことある!」
「えっ」
「私一人ならいいけれど、皆にもきうりの美味しさを知ってもらうためには――まずは捕まえて大人しくさせて血抜きしないとね、うん!」
「えっ」
すあまの慈愛。きうりんにとっての絶望。
にっこにこ笑顔のままにすあまが向かってく――いやああああ!! きうりん達、必死の抵抗。それでも捕まった同志達はきうりエキスを抽出されて……うわぁ緑の血(?)が出てきてる! 青汁かな?
「なるほど。これが噂のきうりんですか……ううっ。焼けた良い匂いもしますね。じゅるり」
と、その時。なにくわぬかおをしながら戦場へと駆けつけたのは――樹里だ。
いやね? だってね? センサーにビビッと来てたんですけどね? でもね? 今この機会しかないんだったら、やっぱりにたべにいきましょうか……なんて思っただけで、じゅりセンサーならぬ、じゅるりセンサーが反応したというか……という訳で聖句より一説。
「――『この体は無限の受理で出来ていた』」
「無限の受理!? すげー! クリピン受かった!? って待った待ったぽりぽりらめえええ!」
試食ターイム。きうりん達からのビンタが来るが、自己に回復の力を宿す彼女は攻撃を受けようともそう簡単には落ちぬ。だから限度まで食べ続けよう……あっ、味噌漬けも行けますねコレ。
「うーん前線は賑やかだなぁ! さあさあこっちもじゃんじゃん削るぞー」
きうりん達の悲鳴が轟くのをメレムは確認する。まぁ内容はともあれ、きうりん達が追い詰められているのはまず間違いない――なので引き続き援軍への手助けを行おうとメレムは思案するものだ。
「先陣ご苦労様! 挨拶がわりに刃をあげよう!
やぁやぁそっちからも来るのかい? んー、やることが多いぞ☆
まあ慌しいのも楽しいから良いけどね。忙しければ忙しい程やりがいがあるってものさ!」
ライブ代はいらないから聞いていきなよ――! 彼女の放つ音響の魔術が引き続き敵陣を纏めて薙ぎ払うものだ。その壁を突き抜け、突出して来た敵があらば――その影を操ろう。
正しく刃となりて。背後より襲う一撃が敵を食い止めるのだ。
絶大なる威力が死角より至れ、ば。
「相手の起死回生の一手……確かにかなりの攻勢の様です、が。
ならばそれを打ち破れば更に優位に傾くのもまた当然――ッ! ここが正念場ですね!」
「はっ。いい感じに援軍の士気が上がってきたじゃねぇか……もう少しばかり踏ん張るとするかね」
更にカノンとDr.Sも戦線を支え続けるものだ。
壱狐の築き上げた陣地をカノンは活用し、攻め入る敵を援軍勢と共に食い止める――!
阻害術を放てば足が止まろう。ましてや敵陣の中枢に叩き込めば多くの効果も見込めるものだ。それらを突破し陣地に辿り着く敵がいても――それらからの攻勢はDr.Sの治療が受け止める。
「救える生命は全部救うしその為に使えるもんはなんだって使うんだ」
味方を強化し、治癒を施し。
彼は何人もの生命を支え続ける……いつか消えるかもしれないデータだとしても。
オリジナルを真似たコピーでしか無かったとしても。
――『生きたい』と願う声は、思いは本物なのだ。
だから彼は失わせない。
虚構も現実もあるものか。今、己が瞳に映る世界こそが――真実だ!
「だから俺は何度だって癒す、治す、それが俺だ! それが医者だ!
――世界が違おうが何だろうが知った事か! 誰も彼も『生きて』んだよ!!」
故に。彼は振るう。振るい続ける。
どこまでも己が全霊を――此処に。
「……おっと。パラディーゾ・ダリウスもまた近付いてきたね――
でもさせないよ。援軍の陣地に到達する前に……ここで止めさせてもらう」
そしてスイッチはリスポーン即座にダリウスへと再び。
最早常に稼働させているに等しきホログラムのスコープで敵を捉えるものだ。終焉獣への指示や、突入を阻む為にも――彼への圧を常に掛けんとする。
「何度だって何度だって挑んでみせる」
「その度に死んでもかぁ? 死の恐怖ってやつはぁ――あるもんだぜ?」
「どうかな」
例え間近に迫る死の気配を幾度受けようとも。
心に掲げる剣が折れない限り、俺達に負けは無いと信じてる。
だからスイッチは振るうのだ。己が刃を、相手の首に突き立てるまで。
「さって――と。大分戦場がかき混ぜられてきたな。カノン、お前じゃどうしたい?」
そして翡翠側の戦線では――リュカがカノンへと言を。
「仲間の露払いに徹するか? ピエロ野郎を殴りにいくか? 何でも良いぜ」
「――決まってる。『今は』皆の援護が優先だよ」
であればと。カノンは周囲に治癒の力を齎しながら返答するものだ。
此処には本国から動けぬ姉の代わりに来ている。
故に、己個人だけで動く訳にはいかないのだと――しかし。
「だけど。機を見てピエロは……うん。そうだね『殴り』に行くよ。
前の時に受けた傷の『借り』は返さないと気が済まないから」
「はっ。そうかい――分かったよ。んじゃあその時は俺も一緒に行くぜ」
カノンからはピエロに対する『意志』が確かに感じられた。
――彼女は、意外というかそうでないというか。存外に『熱』を持つ人物だ。
やられっぱなしでは気が済まないのであろう。
状況に変化があればすぐにでもピエロの所へと向かうかもしれない……
故。ならばとリュカは彼女の傍にある。
「自由にやりな。ああ――たとえお前が無茶苦茶しても、俺はお前を守ってみせるぜ」
「……へんな人」
「そうかい?」
籠に入れて後生大事に閉じ込めておくってのは守りやすいのかもしれねえが。
俺はそれを望まねえ。
ただ、大空を見据える鳥の様に自由であってほしい……
そう願いながらリュカはカノンへと接近する終焉獣を薙ぎ払う。
――傷一つつけさせまいと。瞳に意思を宿しながら。
成否
成功
状態異常
第2章 第14節
パラディーゾとはそれぞれがバグの産物だ。
故に本人を模しながらもどこか違う所がある――それが普通である、も。
「会話が通じてる……! 意思のやりとりが、出来る……!」
タイムは直感していた。このイデアとは言葉での揺さぶりが可能だと。ならば――
「ねぇ。この世界を滅ぼせって言われてそれに素直に従っちゃうなんて馬鹿馬鹿しくない? そんなことの為にあなたは死ねるの? 分かってるでしょ――それは自殺しろって言われてるようなものよ。地面がなくなって生きていられる人なんて、いないもの」
「よーするにイデっち、まだ悩み多きお年頃の自分探しってワケね? 自分って奴が見つかってないんだ~エイルちん理解深まりんぐ。んじゃま、一緒に探してあげるし……どーしても殴り合いがやめられないってんなら、拳で語り合おーぜ!」
エイルと共に更に言を重ねるものだ。
勿論偽イデア自体の手が止まる訳ではない――彼女から紡がれる攻撃は未だ健在であり、油断すればその糸にて首を容易く飛ばされよう。だからこそ歩は止めず、彼女を常に見据えながら行動するのである。
特にエイルは隙を見つける為にもやはり胴を狙いて一撃一閃。
まったくもさ~存在意義なんて大層なのなくても。
「『お酒が美味しい』でも十分じゃね? ――あっ。もしかして生まれたばっかりだから未成年判定とか~!? やばすぎんぐ。じゃあやっぱ、大人になるまで頑張らないとね~!」
「御託を……貴女の言葉は訳が分からないモノばかりです。その難解な旧言語も含めて」
「しかし――ようやく貴女の言葉が聞けた気がしますね」
同時。本物のイデアがやはり変わらず――糸を放つ。
何度であろうと諦めぬ。幾度であろうと差し伸べ続けよう。
「私は何も知らずにその姿を使った貴女を許しません。
その姿の、メイドという存在の意味をちゃんと知りなさい。
――知っていますか? 何故、貴女がそんな姿をしているのか。
それに何の意味があるのか。知らないのならば、知りましょう」
「……このような誰かに使える給仕服に、それ以上の意味があるとでも?」
「ええ――ちゃんと私が教えてあげますから」
だから、どこまでも糸を伸ばす。
あと一歩だという確信がある。なぜならば偽イデアの動きにどこか――ブレが見え始めているから。
攻め手を欠いている様な。どこか躊躇いが生じている様な。
……イレギュラーズの言によって微かに。心のどこかに『何か』が生まれつつあるのかもしれない。
ならばとタイムは前へ。前へ。
ここまできたら最後までとことん付き合おう、と。
――だって。『選択』は他の誰にも侵すことはできないあなただけの特権。
「迷うくらいならあんなピエロの支配なんて断ち切っちゃおうよ!
付き合ってあげる理由なんて無いでしょ! ――選ぶことを恐れないで!
貴方の一歩があれば……私達は……!」
故に。そのイデアの行動に被せる様に――更にタイムは告げる。
意思一つで全ては変わるのだと。ピエロなんて輩に従う義理は……
「……おかしな人達です。我々は只のデータ。尖兵たるパラディーゾは、現で言う所の魔種に相当する『世界の敵』にしかすぎぬというのに――倒せばよいでしょう。殺せばよいでしょう。それ以外の道などありはしませんよ」
けれど。パラディーゾ・イデアは言う。
共に歩む道などないのだと。
……世界にとってパラディーゾは倒すべき敵。どこかで必ず決着が必要だ。
もしかすれば『この場では』倒さないという事は可能かもしれないが、しかし。
「どこまでもどこまでも――至るおつもりですか?」
「ええ。私はしつこいのです」
――貴女が掴むまで、何度でも糸を紡ぎます。
差し伸べられる手。それを振り払う様に、パラディーゾ・イデアは糸にて薙ぎ払う、が。
この存在に意味があるのだと。
告げられたその言葉に――彼女自身は、微かな興味が心のどこかに芽生えつつあった……
■戦況報告
※イレギュラーズの言により、パラディーゾ・イデアの攻め手が緩んでいる様です……
※パラディーゾ・イデアは場合によって戦場を離脱する事はあるかもしれません。
成否
成功
状態異常
第2章 第15節
あー恥ずかしい!! でももう言っちゃったもんね!!
本物のきうりんは赤面せんばかりの勢いだ――故にこそもう止まれない。
「やだやだ!! 友達になってくれるまで離さないから!! 悩み事があるなら相談してよぉ! データとかプログラムとかどうでもいいじゃんよぉ! 腹を割って話し合えるのも友達の証じゃーん!
一緒にマザーくんとハデスくんのとこにお願いしに行こうぜ!
この世界をずっと消さないでくださいって!! 大丈夫大丈夫ワンチャンある!!」
「うるっさいですねぇ! そんな可能性あるわきゃ無いでしょうが!!」
第一私も現実を巻き込んで混乱を起こしたいんですよ――!
きうりんを突き放さんと強烈な蹴りを繰り出すピエロ――しかし、きうりんもきうりんで、足を踏みしめ文字通り地に根付く様に。ええい離さない! 絶対絶対ここに食い止める!
どれだけ拒絶されようとも――それでもきうりんは諦めない。
ピエロを、もしも倒す事しかできないのだとしても。
「何度でも言うよ! 私はキミを救いたいんだよ!!」
――その言葉に偽りなんてないから。
「はぁい、ピエロ君。レタスサンドウィッチ食うかい?」
そして戦場の真っただ中。ピエロと激戦を続けている場所で――玲は出現する。
きうりん畑をかき分けて驀進。往くぞピエロの股下ほほいのほい。
妾ちっこいしのー下からぬっといくかのー行けるかのーどこじゃピエロー
「あ、おったおった。
にゃっはっは! 楽しんで居るか喃! 呼ばれて飛び出て玲ちゃんじゃ!」
「ん~~はっは! なんちゅう所から出てくるんですかアンタは、面白いですね~でもダメですよピエロの股下だなんて、そんなへっちな……いやん! 退場ッ!」
ふっ……これがイレギュラーズの。
特異点たる妾達†終焉の先を往く者†の戦の仕方なのじゃ――おっと危ない、ピエロがなんかビーム撃ってきた! ので、玲は急速に飛び出ながら二挺の小銃でピエロを穿つ――さぁそろそろ年貢の納め時だと。
纏めて薙ぎ払う閃光が再び炸裂するが――その瞬間まで彼女は武器を振るい続け。
「お互い譲れねぇなら……後はとことんやるしかねぇよなぁ! バンビール! アンタの想い……悔いのねぇようにぶつけて来いよ! その願いをよ、肯定して応援なんぞはしてやれねぇが……全部受け止めた上で……ぶった斬ってやるからよ!」
更に続く形で天川もピエロへと。
天川はあえて正面から斬りかかる形だ――小太刀でピエロのナイフを受け止め、交差法へと繋げる。所謂かなカウンターの形が紡がれるのだ。斬撃を上中下段に無作為に振り分け、変化を付けてピエロに数撃。
――それもこれもピエロへと言を紡ぐ者達の支援とする為。
「柄じゃあねぇ! だが剣士としちゃあ本望だよな! こういうのはよぉ!」
「――大体間違ってるんだよ、根本的にな!!
ピエロのにーちゃんが望めば、もっと良いやり方なんていくらでもあった。
外の事が認識できてたのならマザーにお願いだってできた!!
なんでそういうのをしなかったんだよ!!」
さすれば。ルージュがまずもって行くものだ。
そもそもがサーカス団の皆だって、あんたに捨てられた形になってると気付かないのか? 帰りを持っている筈の者達。しかしもうあんたは帰ってこないのならば……
「尊敬する元団長が世界を滅ぼそうとする敵になってるとか聞かされてみろ、ふざけるな!! 仮にもピエロが、これまでの客と、仲間達の笑顔を曇らせるような事してんじゃね――!! いつだって笑顔の為の行動するのがピエロだろ、違うのかッ!!」
「だーまらっしゃい小娘ェ! ピエロだってねぇ、人間なんですよォッ!!」
激突する。ハンマーを全力でぶん回して叩きつけながら。
彼が、泣くまで殴るのをやめない。
――涙ぐらい見せてみろよ、ピエロ!
「バンビール……もはやどんなことをしようとも私達は折れません。
ええ。どれだけ貴方が手を尽くそうと、悪辣な事を考えようとも……!」
瞬間。バンビールへと攻勢を仕掛ける者達を支援するのは――シフォリィだ。
片っ端から加護を齎す。彼女より付与された力があれば、前線の皆がより強靭となるものだ――反射の力も宿していれば、その力が確実にピエロへと害をも齎して。
この世界は確かに現実の私たちにとってはゲームです、ですが。
「今ここにいる私たちにとっては本物です! 自分達が生きる世界を守りたい、その想いが潰えることはありません! この世界が唯一あなた達がいられる世界で、それを壊すために生まれてきたとしても! 私達はその存在意義を否定し続けてやります!」
「ええいッ! 知ったような口を……! 殺す。殺して差しあげますよ必ずねぇ!」
故に。ピエロの精神が逆撫でされたのかシフォリィを狙い撃ちする様な――一撃が紡がれた。
それは強烈。されど、隙も出来るものであり。
「本当に世界が虚構だと、どう生きようと無意味だと、心から信じているのですか?
――違うでしょう。そうじゃないって否定したいから、貴方は先程から叫んで、命を燃やして戦って爪痕を残そうとしているのでしょう! 矛盾した自らの言動と魂に――いつになったら気付くのですか!」
故にハルツフィーネも圧を強めるべく――往くものだ。
彼女の、標的に撃を成す命中率は隔絶している。
他を凌駕する彼女の一撃一撃はピエロへと確かに、深く深く刻まれている。馬鹿の一つ覚えと言われそうでも……最善の手を常に紡ぎ続ける事に間違いがあろうか。
「何度も引っかくと言ったはずです。まだまだ……ギアを上げていきますよ!」
「ぬぅ! 少しばかり、厄介なクマさんですねぇ……そのお人形さんごと引き千切ってさしあげますよ!」
さすれば流石のピエロも、幾度と紡がれたハルツフィーネの攻撃に――苛立つものだ。
それは徐々に余裕が失われている証。
言にも、体力にも。どれだけバグの数値が彼に降り積もっていようとも。
彼とて無敵の存在では――ない。
「……道化って自分で言っていたのに……その態度……とても道化には見えないね……
……道化って……みんなを笑わせるのが仕事なのに……今やってることは何……?
……笑わせるどころか……みんなを悲しませてないかな……?」
仮に。成功した所で残るのは悲しみ――いや世界が滅亡すれば無のみか――?
アルヴは疑問視する。ピエロの行動に。ピエロはピエロらしい事をすべきだと。
――誰かの笑顔の為に。
紡ぐ一閃は彼の爪痕。数多の攻撃がピエロに降り注げば……
「なあバンビール。過去、記憶、思い出がデータだと。
設定されたものだということは――俺には否定できない。けれどな」
それでもと。紡ぐのは梨尾だ。
それでもみんな意志がある。現実で起きた悲劇を経験しなかった人、その逆だった人……
様々いるのだ。
――だから爪痕なんか残させない!
修練も語らいも成功も失敗も、生きている『個々』が選んだ選択、行動の結果だ!
「――戦いが終わったら、この世界でしか見られないサーカスの公演を息子と一緒に見に行きたいしな。お前の目論見だけは……阻ませてもらう」
「ハンッ――最高のサーカス団の演技。どうぞお楽しみに……見に行けたら、ですがねぇ」
灰銀狼を顕現。ピエロへと向かわせ――共に奴めを討たんと攻撃一閃。さすれば。
「誰の笑顔もなく。誰の拍手も無い。そんな「幕」が君の望むモノかね。
二度とサーカスの劇も演じさせぬと――愛した者達の日々を君自身が奪う訳だ」
流雨もまた言を紡ぐ。
君が愛した日々は。君が愛した者たちは。そんな幕引きのためにあったのかね?
「彼らの知らぬ所で、君が行おうとしている事は『電源を落とす』事と何か違うのかね?
まさか自分は特別だとでも? 君はそれでいいのかね?」
「――――しゃらくさい。創造主が電源を落とせば何も残らぬが、爪痕を残す落とし方とでもまた違うものがあるのですよ」
「苦しい言い訳だな。人は追い詰められた時に本質が現れる。君が口にしたのは明日の人々の笑顔と掛替えのない無い仲間との思い出だった。それは君達だけのモノだ」
如何に爪痕を残した所で、君が消えれば、全てなくなるモノだ。
それこそ、僕には『データ』だ。記憶ではなく。記録だ。
――どうしても己で止まれぬというのなら、止めてやろう。
「幸い喰い止めるのは得意でな」
「……この世界は作られたもの、電源を落とせば消えるもの……そうかもしれないね。
でも、この世界の外……私達にとっての『現実』もそうではないなんて、言えないよね」
そして同時。イズルも告げるものだ。『外』がそうでない保証など、どこにもないのだと。
誰かが微睡の中で見ている夢で、目が覚めたら跡形も無く消えてしまうかもしれないだろう? そうでなくても……永遠なんてどこにもないんだ。どんなものにだって終わりが来るし、忘れ去られる日がいつか必ず来る。
「もしそうでも、そこに生きている事には変わりがない。
いつか終わる人生だからこそ、どう生きるかが大事なのだろう?」
「ええ――それには心底同意しますがね。
だからこそ私は『生きていた』とする為に、止まれないのですよ」
「……強情だね。死に向かう事を生きている、と表現するのかい?」
自らを強化する揺り篭の力を齎し。イズルはピエロの周辺ごと――薙いだ。 邪魔する終焉獣らを纏めて排除する様に。
「ピエロが、舞台に立つのだと名乗るものが情けない! 舞台に立つものは、観客の心に焼き付く光であって、観客も同じ舞台に立つ方々も消すものではないでしょう! 悲劇ぶらないで頂きたい……ピエロが、斯様な悲劇を演じるなど。道化の心を忘れてしまいましたか」
同時。アメベニもまた――鬼火を纏いて敵にぶつける様に。
阻害する者達を排除すれば皆の支援を齎そう。
治癒の力を宿す鬼火が――暖かに魂を照らすのだ。
……世界を滅ぼそうとしているピエロとは、対極の力を示して。
「こっちを向けバンビール! こっからは僕とも遊ぼう!!」
更にそのアメベニの動きに呼応するようにじぇい君はピエロの方へと立ち向かうものだ。
ピエロの攻撃は未だ脅威。故にその盾として果敢に前へと……
「ねぇ楽しいね――バンビール。こうやって一緒に遊ぶのってさ。
君もかつては一緒に楽しめる仲間が居たのかな」
「ふふん。勿論ですヨォ! ええ、最高の可愛らしい仲間たちがいたものです……」
「だろうね――君と戦って分かったよ。
その道化の化粧は悲しみを隠すためのものなんだってね」
無理やりにでも取り繕う笑顔が君の在り様なんだと。
じぇい君は紡ぐ。ピエロの気を引く様に、しかし本心も述べながら撃を放ちて。
――だったらその想いが果てるまで、とことん付き合うよ。
「あああああ! うざったらしい。本当に煩わしい! どいつもこいつも――!」
「……確かにアンタのやりたい事が成功すりゃ現実に爪痕は残るだろう。ああ、この世界の奴が現実をどうこうしたけりゃ、そうなるかもしれないな――だが。現実が壊れりゃ、この世界の人々にも。お前が『愛する者』達にも影響出ちまうだろうが……!」
それを解ってンのか、馬鹿ッ! 言うのは、ヨハンナだ。
思い至っていない筈がないのだ。この世界が壊れれば、サーカスの者達も潰えよう。
「無論! しかし、しかし――許せぬ! 最早私も止まれない。
『知った』者は何もかもに目を逸らして生きていくか!
或いは――『もう一つの手段』を取るしかないのだよッ!!」
「――それで、いいのかよ。お前は」
『もう一つの手段』……つまり、全てへの反逆……
もう止まれないのかと。もう目を逸らして生き続けるのは無理なのかと。
……バグにならなければ、むしろピエロにとってはそれが幸せだったのだろうか。
もう。もう――分からない、けれど。
(……なら。俺にも退けねぇ。俺は、この世界を護る為にも……)
バンビールを、討つ。
決して交わらない。もはや、ピエロと分かり合う世界線は。
もしかしたらそんな世界もあったかもしれないとヨハンナは刹那。瞼の裏に景色を見ながら。
形成した魔剣の一閃が――全ての想いを断ち切る様に、紡がれた。
成否
成功
状態異常
第2章 第16節
伝承の国境線での戦いは遂に佳境を迎えようとしていた――
状況の大きな変化が訪れたのである。
ピエロは終焉獣ベヒーモスの到来を援護する為に伝承の援軍を潰さんと国境線にて大規模な抵抗を実施していたが、その守りを担っていた一角――ルフラン・アントルメを模したパラディーゾ・ルフランが遂に倒れたのだ。
「な、なんとぉ……!? まさか、ゾフランちゃんが……!?」
その気配を察したピエロは驚愕の表情に顔色が包まれる。
終焉獣ベヒーモスはまだ到達しない。もう少し粘る必要があるというのに。
防衛線の一角が瓦解すれば――それは戦場全体にも波及しよう。
いや、そればかりではない……起死回生の一手として伝承と翡翠の本陣を、パラディーゾ・ダリウスに指揮させながら突入させていたのだが――
「我が名は正義国騎士団が一人、レオパルなり! 義によって助太刀する――ッ!」
――なんと。その本陣の更に奥側から正義国の援軍がやってきたのである。
馬鹿な。早すぎる。
あちらも彼方で『スターイーター』という存在と激戦を繰り広げていた筈だ。
それを無事に倒したのだとしても、これほど早く援軍に――!?
……ピエロはあずかり知らぬ事であったが。正義国の騎士達は軍馬を使い潰すばかりの勢いで駆けつけてきていたのであった。正に正真正銘、世界を救うために。自らたちの役目は此処に在ると確信しているが如く、士気も高々に。
「馬鹿な。どうしてそうなる?
正義にはワールドイーターがいたはずだ。
鋼鉄では皇帝暗殺から散々騒ぎを起こして混乱していた筈だ。
翡翠ではつい先日ダメージを与える事件を私が起こしたばかり。
神光でも大規模な事変があったであろうがッ――!!」
さすれば。ピエロも余裕をもった口調で嘲り笑っている場合ではなかった。
これではダリウスに突入させた軍勢もどれ程意味がある事か――!
いやそればかりか、スターイーターと戦っていた戦力が此方に集まってくる可能性もある。そうなれば最早有利だの不利だのと言った事態ではない……馬鹿な。馬鹿な馬鹿な馬鹿な! こうならぬ様に世界各地で事件を起こしていた側面もあった筈だ!
鋼鉄も神光も翡翠も正義も! どうして誰も彼もがここに来れる!
この世界を統括するマザーの支援も碌に受けられてはいるまいに――!
「いやっほー! きうり狩りだ――! 皆の為に血抜きしておかないとね!」
「うーん前線がどんどん賑やかになってきたねぇ! あと一押しかな?」
同時。『きうりキラー』すあま(p3x000271)や『黒ノ翼』メレム(p3x002535)らが前線に出ている偽きうりん達を薙いでいく――更なる援軍勢の到来に気付いてか、伝承の騎士達の士気も上がっている様だ。
彼らは『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)による、防衛拠点による構築で被害も減っていれば、想定よりも多くの者達が戦える状態で戦場に在り続けている。故に――
「ピエロも壇上に上がった次第……いよいよもって正念場でしょうか」
総攻撃の段階となれば、それもまた想像以上の力が働くものだ。
押し返せる。これだけ多くの味方がいれば心強いと。
いよいよもってこの戦場も最終段階。
――バンビールを、討つ。
『アガットの赤を求め』ヨハンナ(p3x000394)は決意していた。
ピエロのやりたい事を、やらせる訳にはいかない。
周辺の敵も減り、今なら容易くこの手も届くはずだから……
「さぁぴえぴえ! 何でも言うよ――私はキミを救いたいんだよ!!」
そして本物のきうりんである『サラダ無双』きうりん(p3x008356)もまた、往く。
ピエロに、己がありのままの心を伝えながら。
――現実に爪痕を刻みたいと、慟哭するように叫ぶピエロの懐へ。
GMコメント
●重要な備考
当ラリーは『ピエロ』撃破前に、夏あかねSDの『<ダブルフォルト・エンバーミング>Behemoth』のベヒーモスが戦場に到達する、その他現実の練達が敗北(マザーが完全反転する)などの『時間切れ』が発生すると失敗判定となります。
皆さんは<ダブルフォルト・エンバーミング>系ラリーのどのシナリオにも、同時に何度でも挑戦することが出来ます。
●クエスト目標
ピエロ『バンビール』の撃破
●フィールド
伝承の国境線付近です。
なんとピエロ達はアリスとベヒーモスを待っています。(アリス達に関しましては夏あかねSDの『<ダブルフォルト・エンバーミング>Behemoth』をご覧ください)
そして並びに各国の援軍阻止(特に最も戦場に近いと思われる伝承を)の為に砂嵐と伝承の国境付近に陣取っている様です。
周辺は荒野の様になっています。戦うに不足はないでしょう。
近くに幾つかサクラメントがありますので、ここからすぐに戦場へと復帰可能です。
●敵戦力(中核)
・ピエロ『バンビール』
『大樹の嘆き』『<Closed Emerald>』事件を引き起こしたバグPCです。
彼自体はこの世界に元々存在していた普通のNPCだったようです。シルク・ド・マントゥールの団長だったとか……? ただ現在は、何を思ったかジャコビニに団長を譲り、それ以降は本格的にバグの一人として活動を開始しました。
シナリオ開始時点ではどこからかふざけているかのように『ビーム』を放ってきます。
不思議な事に彼から攻撃を受けると『傷が治りにくい』様です。
治癒・再生能力の類が著しく低下する力を持っているのかもしれません……
ラリー第一章時点ではどこかに潜んでいるのか、姿を確認できません……
探知・探索活動やラリーの推移次第で攻撃可能となります。
・『原動天の徒』きうりん(パラディーゾ)
きうりん(p3x008356)さんのパラディーゾです。
『再生と増殖の権能』なる能力をもっており、強力な自己再生と分裂(増殖)機能を持っています。増殖により発生した個体は『コピーきうりん』として戦場に瞬く間に増えている様です。
・ルフラン(パラディーゾ)
ルフラン・アントルメ(p3x006816)さんのパラディーゾです。
後述する大樹の嘆きを生じさせる『源流の種』という代物をばらまいているようです。
彼女が健在だと敵戦力が増えていく可能性があります……!
・ダリウス(パラディーゾ)
ダリウス(p3x007978)さんのパラディーゾです。
終焉獣を統率しています。
彼が健在だと終焉獣の動きが機敏となる可能性があります……!
・イデア(パラディーゾ)
イデア(p3x008017)さんのパラディーゾです。
生じた大樹の嘆きを統率しています。
彼女が健在だと大樹の嘆きの攻撃力が増す可能性があります……!
●敵戦力(パラディーゾ以外)
・終焉獣(ラグナヴァイス)
終焉獣ベヒーモスより零れ落ちたのが、この戦場にいる者達です。外見はトカゲの様な個体が多く、影の如き体を持ち、イレギュラーズ達に攻撃を仕掛けてきます。ベヒーモス程大きくはなく『小型』という程度の大きさです。
非常に好戦的。攻撃力が高めな様なので、お気を付けください。
また、後述する『石花の呪い』という病を振るう事もあります。ご注意を。
●石花病と『石花の呪い』
・石花病とは『体が徐々に石に変化して、最後にその体に一輪の華を咲かせて崩れて行く』という奇妙な病です。
・石花病は現実の混沌でも深緑を中心に存在している病です。
・R.O.Oではこの病の研究者アレクシア・レッドモンドの尽力により『試薬』が作られました。幻想種達はこれらを駆使して、『石花の呪い』に対抗できます。(1Tのギミック解除時間が必要)
・『石花の呪い』はバッドステータスと種別を同じくする特殊ステータス状態です。
・敵の攻撃がクリーンヒットした時に20%程度の確立で『石花の呪い』が付与されます。
・『石花の呪い』に感染したキャラクターは3ターン後に体が石に転じ死亡します(デスカウントが付与される状態になります)
・大樹の嘆き(源流の種)
『大樹の嘆き』事件で生じていた、精霊の様な魔物の様な存在です。
あくまでR.O.Oのデータ改竄による偽物で、無理やり顕現させた存在の様です。本物は周辺を無差別に攻撃する性質を秘めていましたが、この個体達はある程度イレギュラーズ達を狙って攻撃を仕掛けてくるようです。
ただ、無理やり改竄しているが故か『大樹の嘆き』事件の個体達より弱い気がします。
・コピーきうりん(きうりんの苗木)
きうりん(パラディーゾ)の権能により発生したきうりんです。
沢山います。攻撃を受けると一定確率で分裂し、更に増える可能性があります。
戦闘能力は強かったりそれ程でもなかったりと、ムラが大きいようです。
●味方戦力
・ルナ(p3y000042)
リリファ・ローレンツ(p3n000042)のアバターです。
主に接近戦タイプ。皆さんと共に戦います!
・オームス(p3y000016)
ギルオス・ホリス(p3n000016)のアバターです。
近くに浮かんでるミニオームス君を投げて遠距離から援護します!
・伝承国の兵士達
ピエロ達に襲撃され壊滅状態に陥っている先遣隊です。
しかしながら完全壊滅したわけではなく、残存部隊が局所的に抵抗を続けています。
・???
当シナリオでは『各国のNPC』が援軍に訪れる可能性が大いに存在しています。
状況の推移次第で援軍が訪れる可能性があります。
まず『伝承』は間違いなく援軍、というよりも本隊を送ってくるでしょう。
その他『砂嵐』『翡翠』『神光』『航海』からも来る可能性があります。
ただ、現時点では具体的な戦力は不明です。
●重要な備考
<ダブルフォルト・エンバーミング>ではログアウト不可能なPCは『デスカウント数』に応じて戦闘力の強化補正を受けます。
但し『ログアウト不能』なPCは、R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』が敗北に終わった場合、重篤な結果を受ける可能性があります。
又、シナリオの結果、或いは中途においてもデスカウントの急激な上昇等何らかの理由により『ログアウト不能』に陥る場合がございます。
又、<ダブルフォルト・エンバーミング>でMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
予めご理解の上、ご参加下さいますようお願いいたします。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
R.O.O_4.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。
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