＜ダブルフォルト・エンバーミング＞le voeu du clown……

オープニング

●Fiction
　我々が虚構の存在であるというのなら。
　我々の人生は全てが無意味なのだろうか？

●Fiction reality
　R.O.O世界は未曽有の危機に包まれていた。
　R.O.Oを……いや練達そのものを統制しているマザーがウイルスとも言うべき『クリミナル・カクテル』に浸食され、そのコントロールを失いつつあるのだ。彼女の完全反転は時間の問題であり、既に現実側では多数のシステムが練達そのものに反逆を行っている。
　そして虚構の世界たるR.O.Oも、マザーへと干渉を行った者達により事態は急転直下していた。
　その事態に深く関わっている者、その名はHades-EX、或いはクリスト。
　並びに――大魔種イノリ。
　彼らこそが此度のバグ騒動における中核。主犯。元凶であり……

「ん～～～～～今日もいい天気ですねぇ！！　滅びるには絶好の日です！！」

　そして彼らの側として動くR.O.OのNPC達も――存在していた。
　その一人が『ピエロ』と名乗るバンビール。
　翡翠における＜Closed Emerald＞クエストを引き起こした人物であり、『バグ』によりこの世界を滅ぼさんとしている者だ。バグの――つまりクリスト達に与している者には、バグにより唐突に生じた様な存在もいない訳ではないが、しかしピエロは些か違う。
　彼は元々この世界に存在していた只のNPCだった。
　世界的に有名なサーカス団『シルク・ド・マントゥール』の団長。
　……史実において彼がシルク・ド・マントゥールに実在していたかは分からない。
　少なくとも現実において魔種の集団であったかのサーカス団が起こした事件の折にはジャコビニと言う者が団長であったし、バンビールという一個人は確認されていないのだ。が、少なくともR.O.Oの世界では彼は存在していて。
　そしてイノリらに与し、この世界を滅ぼさんとしている。
　イノリがいるのはこっちの方だろうかと、南を見据えながらラジオ体操でもする様に――背筋を伸ばして。
「さぁさぁ南の方ではアリスが終焉獣の……え、なんですって？　ベヒーモス？　んまっ！　なーんてカッコいい名前なんでしょう・か！　あんなんバカデケーもの、でっか君で十分ですよでっか君！　ねぇそう思いませんかみーなさん！！」
「……さて。どうでもよろしいと言えば、正にどうでもよろしいのですが」
「ハーーヒャヒャヒャヒャ！　まぁこんな世界の終焉が遂に来たって訳だ。
　ならよ、精々楽しもうじゃねぇか！　泣こうが笑おうがこれが最後だぜ！！」
　それは――翡翠の騒動でログアウト・ロックされ、パラディーゾとしてコピーされた者達。
　イデア。ダリウス。ルフラン・アントルメ…………あと、きうりん。
　きうりんは以前からパラディーゾとして発生していたが――それ以外の者達は、この日の為に戦力として顕現させたのか。いずれもが『本物』の彼らと姿は非常に酷似している。無論、中身はバグそのものなのだろうが……
「ピエロさん。これはこの辺りで良いの？　こう、ぶわーって撒いてればOK？」
「あっ。ハイお願いします。これね、なんだと思います？　大樹の苗木」
「苗木？　あの翡翠で発生させてた大樹の嘆き関連？　でもこれどう見ても種……」
「んそうそうそうそう！　ルフランちゃんは賢いですね～～～！　よ～しよしよしよし！
　パラディーゾのルフランちゃん……略してゾフランちゃん！！　よーしよしよし！」
　ピエロはおどけて苗木などと表現しているが――実際は『源流の種』と呼ばれる代物だ。
　単純には大樹の嘆きを発生しる要素を秘めたバグの塊。
　本来であれば嘆きは、なにがしかの理由で傷ついた大樹の近辺でしか発生しえないのだが――これを用いれば大樹を無視して嘆きを――つまりモンスターをスポーンさせられるという訳だ。
　マザーの制御が離れつつあるが故に、いよいよこの世界の法則をも捻じ曲げるバグを乱発してきているのだろうか――？　えへへとルフランは次々と地中に種を埋め、大地の栄養をその種に吸い上げさせ――顕現させていく。
　さすれば戦力が次々と増えるものだ。
　これらをもってして、来るであろうイレギュラーズを迎撃せんとピエロは満足げな顔を――していれば。
「でもぴえぴえ。なんかログアウト・ロックされてる奴って強くなるんでしょ？　告知出てたよ？　見てないの？」
「――はっ？　んあぁ！？　んキ――ッ！！？　なっぁですってぇ！！？
　もう。ハデス、もといクリストちゃんたら、わざわざこんな時まで『ゲーム』の体を取るだなんて！
　――んまぁ良いでしょう。これが最後の花火だってなら、付き合ってあげますよぉ！」
　しかしそうは問屋が卸さないというか、どこまでも『ゲーム』とするクリストの計らいか。
　勝率0など認めないとばかりにクリストが様々な要素を追加してきたのだ。
　それが、ログアウト・ロックされている者達の強化。
　今まで死んだデスカウントの回数に応じて能力が強くなっていく補正がつくらしいのだ……デスカウントが多ければ多い程クリストが干渉しやすいデータの隙があった、という訳だろうか？　まぁなんにせよ強くなる事に関していえばイレギュラーズ達にとっては有利になる以外の要素はないだろう。
　きうりんの言に、大仰な反応を取るピエロ。
　それが素なのか演技なのか――誰にも分からない。
　だって彼はどこまでも踊り続けるピエロ（Clown）なのだから。
「はい！　それじゃあ皆さん邪魔な人たちにはご退場ねがいましょーね！
　アリス達が着くまで頑張り所ですよ――ね！！」
　そして――言うピエロの視線の先にあるのは、伝承国。
　更に近くに転がっているのは伝承国の、兵士達だ。

　先遣隊として派遣されていた伝承の軍勢が壊滅している。

　それは本来ならば援軍として終焉獣の方面に向かうはずだった部隊で……つまりピエロ達はアリスらの援護の為にここに陣取っている訳だ。終焉獣が向かう先、この伝承国との国境――つまりゴールにて。
　彼らは唯々希望を阻害し続ける。
　この世界に爪痕を刻む為に。
「ま、こういう雑魚じゃあ張り合いがないってもんだよなぁ」
「しかし本隊はこれからでしょう。『現実』にしろ『この世界』にしろ……まだまだ」
　周辺にはバグ勢力としての戦力だろうか――パラディーゾの面々以外にも、大樹の嘆きや終焉獣ベヒーモスより零れ落ちた終焉獣（ラグナヴァイス）達がいる。ダリウスは終焉獣らを統括するかのように中心に座し、イデアは同様に大樹の嘆き側に。そしてさらに傍には大量のきうりんが布陣していて……んっ？
「あっ、こら！　なんですかこのきうりの数は！！
　アンタ増えすぎですよ！！　なにしてくれちゃってるんですかホントにもう！！
　まーたシャブ（栄養剤）やっちゃって、もう！！　没収ですよ没収！！」
「セクハラだっつてんでしょぴえぴえ！！」
　あふぅん！！　また、きうりんにビンタされ吹っ飛ぶピエロ。笑うダリウスに吐息を零すはイデアか。
　ともあれこれが――きうりんのパラディーゾとしての権能だ。
　『再生と増殖』
　……ルフランやイデア、ダリウスにもなにがしかの権能があってもおかしくない。
　状況は、決してイレギュラーズ達にとって優勢とは言えなかった。
　だが、やるしかない。
　ここでR.O.Oが陥落すれば、現実にも間違いなく影響が及ぶのだから。
　最悪――練達という国そのものが滅びかねない。
　だからサクラメントが起動する。そこより至る、多くのイレギュラーズを確認すれば。

「さぁ来ましたよ――では行きましょうね皆さん！！
　虚構の我々が現実に爪痕を刻むのです。
　存在しえない我々が！！　確かに現に存在している奴らに！！」

　ピエロは高笑う。どこまでも、どこまでも。
　ああやっとだ。やっと私達の目標が達成されようとしている――
　我々は確かに。
　『此処』にいたのだと。
　――虚構の牙が現実に襲い掛からんとしていた。

●……
　我々が虚構の存在であるというのなら。
　我々の人生は全てが無意味なのだろうか？
　我々に家族がいて。我々に友がいて。この世界がどれほど愛おしくても。

　……我々は無意味なのだろうか？

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第3章

第3章 第1節

■第三章概要
　伝承と翡翠の援軍に加え、正義国からも援軍が訪れました！
（＜ダブルフォルト・エンバーミング＞ワールド・エンド・ゲーム　による影響です）
　また、パラディーゾ・ルフランの脱落により敵陣に大きな隙が生じています！
　これらに対し『総攻撃』が開始されようとしています！
　ピエロが打倒されれば完全に瓦解する事でしょう。

　伝承、翡翠、正義援軍と共にピエロの打倒を目指してください！
　健在な他パラディーゾへの攻撃や、終焉獣・大樹の嘆きへの攻撃も有効です。
　最終局面です。ご武運を！

■伝承側援軍
・ガブリエル・ロウ・バルツァーレク
　遊楽伯爵。多くの軍勢を引き連れ、援軍に駆けつけました。
　本陣で多くの指揮を執っている様です。
　事態の進展に伴い総攻撃の指示を出さんとしています。

・『クオリア』
　ガブリエルの傍仕えの暗殺者兼護衛者です。
　基本的にはガブリエルの傍で護衛しています。
　総攻撃が始まろうとしているので、一層ガブリエルの護衛を固めんと傍に寄り添っている様です。

・幻想騎士
　各所に援軍として到来しています！
　主に終焉獣などの多くのバグ・エネミーの相手をしている様です。

■翡翠側援軍
・カノン・フル・フォーレ
　翡翠の巫女の妹です。姉の代わりにこの戦場へと援軍に駆けつけてきました。
　周囲の人物に治癒魔法を降り注がせています……が、翡翠の事件を起こしたピエロに対してはかなり、かなり思う所がある様なので前に出て攻撃魔法もその内繰り出すと思われます。

・クラリーチェ・カヴァッツァ
　R.O.Oのクラリーチェ・カヴァッツァさんです。
　迷宮森林警備隊副官。優れた戦闘力を持っており、皆さんを援護します。

・『キラーアイヴィ』フラン・ヴィラネル
　R.O.Oのフラン・ヴィラネルさんです。以前は非常に過激な人物でしたが『＜Closed Emerald＞killer ivy』を経て、その魂は軟化している様に感じます……現在は戦場を駆け巡り状況を確認している様です。

・ラブリーザントマン
　滅茶苦茶耐久力のある壁。基本的にまめ吉を護る様な行動をします。 まだまだ体力には余裕がありそうです！

・まめ吉
　正体不明の妖精……？　です。ラブリーザントマンと仲良し。戦闘力の程は不明ですが、まめ吉の近くに『大樹の嘆き』がいると、彼らの動きが鈍る様です。理由は不明ですが……

■正義側援軍
・レオパル・ド・ティーゲル
　正義聖騎士団副団長です。＜ダブルフォルト・エンバーミング＞ワールド・エンド・ゲームの戦線に参加していましたが、馬を使い潰す勢いで駆けつけてきた結果迅速に戦場へと辿り着きました。皆さんと共に敵の排除を行わんとするでしょう。

・正義国騎士
　信仰に厚い騎士達です。強行軍でやってきたので数こそ伝承などより少ないですが、精強なる者達であり戦闘能力に衰えは在りません。また、時間が経つ事に少しずつ増えていく（辿り着く）と思われます。


■各パラディーゾの状況
・ルフラン：激戦の末に撃破されました――

・イデア：攻勢が加えられており、体力と指揮能力の低下が見られます。また、イレギュラーズの言になんらか揺らいでいる様な様子が見られます。

・ダリウス：終焉獣らを指揮し、援軍勢への突入を繰り返していましたが、正義国の援軍により足止めされています……！　攻撃のチャンスでもあるでしょう！

・きうりん：たくさんいる……様に見えますが数が確実に少なくなってきています……！

・ピエロ：明らかに身体に傷が増え始めています。もう一押しでしょう！！

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第3章 第2節

　正義軍参戦――その報は瞬くまに戦場へと広がりつつあった。
　ただでさえ突入がイレギュラーズ達により食い止められているというのに、そこから更に増援……バグ・エネミー達にとっては悪夢とも言えようか、この状況は。
「スターイーターにその配下終焉獣を抑えた正義軍参戦――っとね。
　横から殴りつけるチャンスだ！　レオパルと俺に続け！　勝利は目前だぞ――！」
「おおお！　正義の騎士達よ、激戦を経た後であるが――ここが正念場！　死力を見せよッ！」
　さすればグレイは周囲を鼓舞する声を張り上げつつ、攻勢を仕掛けるものである――
　パラディーゾ・ダリウス率いる終焉獣らを押し返し反撃と行くのだ。
　世界を救わんと士気に燃える正義騎士達と共に――鬨の声が地を揺らす。
　正義騎士副団長たるレオパルも大剣を掲げながらグレイの言と共に……往く。
　敵陣を突き崩すべく突入するのだ。アクセル吹かせ、グレイは敵を切り刻め、ば。
「――援護します。強行軍で訪れた皆様は無理をされません様に」
　その動きを支援する様に黒子が回るものだ。
　彼らは強さはそのままと言えど、この戦場に到達したばかり。故に偽きうりんなどの情報を彼らに齎すべく各地を巡るものだ――情報もまた力。周辺の状況を素早く察知し、必要な場所へと必要な時に彼は赴こう。
「此処で隙を見せるわけにはいきませんね……後は、ダリウスさんの方を狙いましょうか！」
　さすればカノンもまた、指揮するパラディーゾ・ダリウスを狙う。
　優位を得ているこの状況こそ堅実に。まだまだ多い、終焉獣らを倒す必要もあるのだから！　混迷する戦況にて探るは彼の隙――一撃の重みを重視し、痛打を与えるのだと。
「ここですッ！　その命、頂きますッ！！」
「――とぉ！　まったく、うざったらしい事この上ねぇな！！」
　放つはカノンにとっての切り札たる術式。
　己が魔力を収束させ、刃状に束ねる――全力の解放たる斬撃だ。
　それがダリウスを襲う。正義の騎士なども相手にするパラディーゾ・ダリウスは隙を突かれ……
「おいおいおい、いよいよクライマックスって奴だよなぁオイ。てな訳でよ――ここいらで、とっととくたばりやがれ！　こっちにゃ愛しの上司サマからシャイネンナハトには帰って来いって指令があんだよ！」
「知るかよんな事ォ！　まだまだまだまだ『これから』が面白い所じゃねぇか！！」
　次いでダリウスも引き続き――『俺』を狙うものだ。
　ここまで『俺』と幾度となく対峙して来た。
　『俺』を堰き止め続けた故に更なる援軍も到来し――今や終幕が訪れんとしている。
　故に、あぁ。終わらせよう。
　身が削れる程に魂が輝く――ダリウスの斬撃は、死闘の果てにこそ真価が紡がれ。
「悪いねー、今横から噛みつかれると困るんだ！
　だって横から噛み付くのはこっちのモノなんだから、さ」
　更にメレムもまた偽ダリウスの陣へと撃を一つ。
　顕現されし影の刃が、正義国の合流なる前にと突出していた所へと襲い掛かる。逃れられぬ死の予兆は終焉獣らの足を止める様に――幾度となく放たれるかの一撃は、繰り返されれば刻まれる恐怖となって。
「戦力はあっても、協力出来る相手が居ないっていうのも大変だね！
　無茶ぶりされても応えないといけない。中間管理職ってこんな感じなのかな？」
「ったく。柄じゃねぇよなぁ――やっぱこういうのはよ」
　であれば偽ダリウスの周辺から少しずつ、戦力が減るものだ。
　グレイらの突撃。メレムの一掃。数多の攻撃は確かに彼らにダメージを与えて……
「ケジメをつける刻よモノホンダリウスちゃん」
　故に。グレイはまた一体敵を刻めば本物のダリウスへと視線を移す。
　――パラディーゾ・ダリウスへの道は拓かれ。そして奴自身にも疲労が見られるのであれば。
「おぅおぅ。そろそろ青色吐息でいるのもつらいだろ？　介錯するんなら任せろよって。殺しの仕事なんぞいつもやっているからな、腕は上等だ――今更死にたくねぇだなんてフケた事抜かすんじゃねぇぞ！　イテェのが嫌だなんて喚く様な『俺』じゃねぇだろ！」
「ったり前だろうがボケェ！　まだ俺は生きてるぞ。まだ俺は此処にいるぞ！
　――来いよ『俺』！　最後の最後までやり続けてやらぁな！！」
　激突する。自己と自己が、まるで尾を喰らう蛇の様に。
　しかしかの食らい合いは――永遠でも無限でもない。
　高揚する胸の鼓動が高鳴りを得る程に終焉へと近づき。
　そして、先に食らいつくした蛇は――
「――じゃあな『俺』よ。散々しつこかったぜ、マジでな」
「――散々蘇ってはかかってきた『俺』が言う事かよ！」
　本物の、ダリウスの方であった。
　パーカーを被るその表情もまた黒き靄に包まれており、感情の色は推察しにくいものの。
　されど勝利の笑みが其処に刻まれていたのは――確かだったかもしれない。


■戦況報告
　※パラディーゾ・ダリウスが撃破されました！！
　※伝承・翡翠本陣に突入しようとしていた敵軍勢は総乱れとなっています！！

成否

成功

状態異常

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第3章 第3節

　が、がびーん！　旧言語……ピチピチイデっち、結構辛辣でぴえん！
「そう言う所ですよ、旧言語とは」
「心呼んだ！！？　あ、いや呼んだのは感情！！？
　――まぁいいや！　でもいーじゃんホントさ、いい顔してきたよ」
　パラディーゾ・イデアの下へ。周辺の、強まる勢いと共に向かうのは――エイルだ。
　ピエロから言われた事だけを成していた人形とは違う顔になってきたと。
　ならあとはさ――自分で選んで掴み取るだけじゃん。
「辛いかもしれないわよね、自分で選ぶのって。何も見えない所に飛び込んでいくような感じ……でも――生きるって、そんな選択の連続なの。その選択を自分で選び続ける事が――『生きている』って事なの」
　更にタイムもまた言を重ねる。
　駄目だ、無理だ、他に道はないと、役割を全うしてれば何も選ばなくていい――
　それは楽だ。楽だけど、違うの。
「選んだから正解だなんて事はない。私だって、今まで生きてきた全部正解を引けたってわけでもないよ！　でも――悩むのはみんな一緒！」
「――一緒？」
「ええそうです。悩み、悔やみ、それでも進んでいくのが……生きている証ですよ」
　只のデータであれば。真に只のデータであれば思い煩う事もないのだと。
　本物のイデアは紡ぐ。
　『私』は自分勝手なのですよ。やりたいことをしているのです。
　だから『私』である貴女も自分のために動きましょう。
「存分に悩み、揺れる心に従って自分の足で歩くのです」
　故に、一息。
　彼女の揺らぐ糸を受け止め――
「『イデア』」

　貴女のしたいことはなんですか？

　――まっすぐに見つめる。本物が、偽物を。
　しかし彼女は見据えながら呟いたのだ……名前を。
　『イデア』と。
　さすれば――その視線を躱せぬ。外せぬ。ままに、パラディーゾ・イデアは……
「……分かりません。私は、私は何をしたい……？　分からない、けれど」
　ただ一つ確信しているのは――分からないまま終わりたくはないという事。
　ここでイレギュラーズらを倒さねば己がどうなるか分からない。
　けれどこのまま戦うのは。『何も分からない』まま戦うのは――嫌だった。
　……もしかしすればマザーのコントロールが戻ればパラディーゾは消えるかもしれぬ。
　けれど。ここでこのまま終わりたくない――なら。
「命短し恋せよ乙女って言うわけで――恋じゃなくてもいーよ、なんでもやっちゃおーよ。
　例えばさ、反抗期的に親に歯向かってみるとかさ！」
「そうよ！　あのピエロに一泡吹かせられたら――きっとスカっとするよ」
「……いえそれは出来ません。少なくとも私はピエロに反抗できるようには作られていない。ですので、味方は出来ません――」
　エイルとタイムが畳み抱える様に――原因たるピエロへの反抗を提案する、が。
　『親』には逆らえぬのか、イデアは丁重な形で断る。
　――それだけは出来ぬのだと。しかし。
「……思考の時間が欲しい所です。故に私は――参りましょう」
「『イデア』――どこへ？」
「『どこか』へ。私が答えを出せる場所へ……」
　この世界は広いのだからと。もしかすればあと少ししか時間が残されていなくても。
　その一時を――自らの『答え』を模索する時間に使いたいと。
　パラディーゾ・イデアは深い一礼と共に……その場を去る。
　彼女の姿が消える。終焉獣や、大樹の嘆きの影に紛れて。
「イデっち――またね」
　いつかリップの色どーするとか今日の紅茶に合わせるおやつとか一緒に――考えようね。
　エイルは言を零した。風に蕩けて、彼女に届くように願いながら……


■戦況報告
　※パラディーゾ・イデアが戦場を離脱しました――
　※彼女が指揮していた、大樹の嘆きの動きが鈍っています！！

成否

成功

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第3章 第4節

　蕭条は確信していた――敵が怯んでいる。今が総攻撃のチャンスだと！
　が、その前に。
「さきほどから気になっているのですが、あちらの敵にいる偽きうりさん。かなり食べられてますが……美味しいのでしょうか（凝視）？　おいしいのでしょうか（ガン見）？　いえ別にそこまで興味がある訳ではなくただ、そう――お腹が空いてきただけで」
「ひぃ！　どいつもこいつもなんなんだよぉ、正気かよぉ！！」
　蕭条は眺めるものだ――偽きうりん共を。
　いえいえそのですね。浅漬けとかサラダとか梅干し和えとか塩昆布とか胡麻油とか中華風炒めとかお腹がすく単語が聞こえてきたものですから、つい気になってしまって。お恥ずかしながら私、野菜が好きなんです。ね、だからちょっと。ちょっとだけ……いえ、ダメです！　まだ未熟な身、ここで気を抜いてしまっては戦意にも影響が出る恐れも――ッ！

　ﾊﾟﾘﾎﾟﾘﾊﾟﾘﾎﾟﾘﾓｸﾞﾓｸﾞ……

　……あぁ咀嚼音が響き渡る。
「ううん！　我慢は体に毒、だよ！　増援も来た所だし――正義の人達にも食べてもらおうか！　収穫タイムだ――！！　あ、血抜き忘れないでね。青汁平気なら問題ないだろうけど」
「これがきうりん……料理のし甲斐がありそうだな！　さぁまずは収穫からか――！」
　でもそうしてるのは蕭条だけではない。すあまやフェアレインも同様に、だ。
　きうグラと名付けるすあまは彼らを一斉に狩っていく。下処理万端ならいよいよ収穫タイムなのだから！　余分な葉っぱや蔦を取り除いて出荷体制に入れば、待ち構えているフェアレインがさぁエアークッキングの時間である！
「今回使う調理器具はこちらの荷電粒子砲！
　この砲にて一列に並べられたきうりんを焼けばなんと――おいしい空気に変化する！」
「ねぇねぇそれって俗にいう消滅って奴じゃ、ぎゃあああ――！！」
　たぶんな、とフェアレインは紡ぎながらきうりん一掃！　これも調理さ調理。
　――だが。こうやって調理のし甲斐があるのであれば――狙うのはやはり一番美味いと思われるパラディーゾ・きうりんか。探してればこっそり後ろの方に下がらんとしていた奴を見つけて……
「さあ、次はきうグラよー！　お代わりお代わり――！！
　おおっと！　フードファイターすあま！　現在の捕食記録はな、なんと！　きうりん1184体！　ごめんカウント適当言ったけど、とにかくなんか凄い勢いで食べている――！！　すごいぞ！　勢いが止まらないぞ！　俺の胃袋はコスモとでもいうべきかぁぁあ！」
　と、その時。駆けつけてきたグレイが――きうりん実況！！
　本当に1000体以上食べたかは定かではない。他人にも振舞ってるし。まぁとにかく偽きうりんが沢山近くに来たので、はいマイクを投げつけファイト開始！　きうグラ退治だ、えっさ、ほいさ！　斬りまくってオリーブオイルでスライスオニオンと共にサッと強火で炒めて塩コショウ少々――！　ぎゃ――！！
「さぁ、いちどデスするまで食べたわけで、はらごしらえは十分……なんて、いうと思いましたか？」
「な、なんだよぉお前！　もう十分食べただろ！」
「しらなかったのか、じゅりからはにげられない、というやつですよ？」
　ましてや『じゅり』が一度だけで満足するとでも――？　言うは、樹里だ。
　わたしはまだ言葉を尽くしていません。ならばまだまだ食べつくせるはずです。
『我が声に応えよ。更なる受理を！』
「や、やめろ――！！」
　そしゃくするきうりでさえも、この唇からは言葉をうばえはしないのです。じゅりの呼吸的パッシヴを……あの、間に合わなかったのでアレだが……ともかく唇を動かし続けて喰らうのだ――
　えぇ、えぇ。別に食べつくしてしまっても構わんのだろう――？　という事で。
　いただきまーす♪
「さて……しかしここが最後の攻め時でしょう。連携を密に、反撃を許さぬ様に。
　一瞬の油断が戦線の崩壊を招く事も……珍しくはない事です」
　同時。きうりんの戦線へと黒子もまた、やってくる。
　彼は引き続き正義軍の損耗を最小化させ、次の攻勢への余力を残す事を念頭に動くものだ。更には唐突に終焉獣らが襲い掛かってくる事も視野に――石花病の治癒のタイミングも計る。アレは厄介なのだからと。
「へいへい、きうりん！　どしたどしたぁ！　なーにこっそり逃げようとしてんだよ！　そろそろ出荷停止処分入りそう？　大丈夫？　電撃いる？　大丈夫大丈夫これ電気を流して成長を促進するってヤツ。アレだから」
「うーん、なんで私を攻撃してくる連中って謎調理砲や謎電流育成論を掲げてくるかなぁ！」
　さすればTeth=Steinerが往く。なに、それはシイタケ――？　よし、ならここで死んでシイタケに転生してこいやぁ！

　＼シイタケ転生～電気刺激でにょきにょき最強ライフ／

　――彼女の一撃がきうりんに包まれる。
　再生の力を宿す本体きうりんはかなり耐えていたが……しかし、これほど多くの攻撃を放たれればやがて限界も見えてくるものである。大半喰われたし。細胞分裂にもやっぱり限界があるのだと。
「まぁ、なんだ。お前は良くやったよ、きうりん。
　もう存分に、その存在を見せつけまくっただろう？
　……いやマジで鬱陶しかったよ、お前の能力。だからさ――もう、ここで終わっとけや！」
「さぁ。最後に素材の味をそのまま堪能しようね……頂きます！！」
「――うぉぉお流石にこんな形じゃ終われねー！　ガチで行くぞ！」
　で、あれば。パラディーゾ・きうりんの全力の抵抗が注がれる。
　Teth=Steinerが薙ぎ払い、その渦中へとすあまが一閃。
　増えるきうりん。されどその度に焼き尽くさんとフェアレインがエア調理。蕭条がポリポリ。樹里がもぐもぐ。グレイがブオンブオンぎゅいーん！
　――何度も攻撃して追い詰めよう。
　きうりんの反撃の一手を紡いでくるが、段々と押され始め――さすれば。

「くっ――！　ちょっときうりんさん！
　こっち忙しいのでイレギュラーズ連れてこないでくださいよぉ！」
「あれ、ぴえぴえ？　マジかよここまで押される？」

　――いつの間にかピエロの付近まで退かされていた。
　そこは敵陣中枢。もうこれより後はなく、撃滅されるかされないかの瀬戸際――！
「きうりん畑からこんにちは。にゃっはっは！　まさに最終決戦じゃな！
　敵も味方も入り乱れての混戦よ――！　終焉が近いのう、退屈せぬのう！」
　さすれば玲がきうりん畑をかき分けて再びピエロの下へと。
　スッキリキメてエンディングからのカーテンコールの準備としようではないか――！
「さぁさ遠からん者は音にも聞け！　近くば寄って目にも見よ！」
　我が名は緋衝の幻影！　真なる闇（バロックナイト）のヴァンパイアなり！
　いざ、いざいざいざ！　ひれふすがいい！！
　紡がれる一閃。ピエロの懐へと潜り込んだ彼女が決着を付けんと踏み込めば。
「名前ぐらいは聞いておくっす。あ、リュートはリュートっす！　ピエロちゃんのお名前はなんスか？」
「はぁ～ん！　これはご丁寧にどうもどうも、バンビールと申します。忘れて頂いても結構！」
「……バンビール、覚えたっす。リュートに覚えられたこと、誇りに思うといいっすよ！　ちゃんと記憶しておくッスからね！　忘れてなんてあーげないッス！」
「んま！　ああ言えばこう言う小動物ですねぇ～！」
　更にリュートも近くへと。じゃれ付く様に挑む近接の俊敏さでピエロへと一撃。
　――リュートの事も覚えておくっすよ。全力で遊ぶッスよ！
　可愛らしい声が耳に残る。探していたその声を――ああ面倒くさくも忘れられない！
「……やぁ、ピエロ……また会ったね……」
「ああ、またまたまた狼さんですか！　貴方もしつこいですし戻ってくるのが早いですねぇ！」
「……足には少しばかり自信があってね……何度やられても僕はすぐここへ戻ってくるよ……トドメを刺すまでは……何度でも立ち向かってやる……！」
「バンビールッ！！
　鋼鉄、正義の争乱は収まった！　あとは貴様を倒し、伝承国を救うでありますッ！！」
　更に続く形で訪れるのはアルヴとゼストだ。どこまでも畳みかける心算のアルヴはピエロの下へとその俊敏性から一気に移動する――共にゼストも連れれば果敢に攻め込むものだ。ピエロの一撃を回避する事を優先しつつ、爪で薙いで。
「自分はこの世界の人に、『ヒーロー』と認めてもらったからこそッ！　今でも『ROO刑事』を名乗って、戦っているッ！　自分が虚構だなんて蔑むなでありますッ！！　この世界も立派な意味があるのであれば！！　それでも分からぬというのなら……分からせてやるでありますよ……ッ！！」
　更にゼストも言と共に。
　存在を刻みつけようと躍起にならなくとも。色んな人の心を動かしたのは事実。
　――それを分かるんでありますよバンビールッ！！
　全霊の一撃を此処に。ピエロに忘れられぬ一撃を刻まんと全力を振るって。

「少しずつ戦況はこちら有利に傾いてる……あと少し。あともう一押し……！」

　と、同時。戦場の変化を感じ取っていたのは――パンジーだ。
　パラディーゾ達が倒れ、ピエロもまた押されている。
　ならばと往くものだ。戦場にいる『同じ名前の少女』を見つければ……
「この前は、一緒に戦ってくれてありがとう……ひとことお礼が言いたかったの」
「――お礼？　どうして。私は貴女たちを……」
「ううん。いいの。私が言いたいの」
　あの時は翡翠の混乱もあってか『私の未来だったかもしれない』彼女は、外の者を激しく敵視していた。けれど、終わりには一緒に戦う事が出来たのだ――
　ねぇ、もしも。
　もしも『私もクラリーチェである』と言えばどんな顔するかしら。
「言いたかっただけなの――だから、今日は一緒に行きましょう？」
　嗚呼。
　修道院に押し込められず彼女達のように生きたかった。
　そんなの口にはできないけれど。せめて今だけは、心のままに。
　ありのままに――この一時を過ごそうと、翡翠の者達と共にピエロへと撃を。
「嘆きの涙を吹き払う一陣の風、ストームナイト！
　正義を掲げる騎士たちと共に、ここに推参！！
　我が嵐を止める事が出来るのならば止めてみせよ、ピエロ！！」
　さすればその流れに乗る様にストームナイトも往くものだ。
　ピエロも恐らくあと一息。ならば！　その一息を私が担ってみせよう！
　尤も我が身が往けば息どころか、嵐となってしまうがな！　はっはっは！！
「……っし！　ではいくぞ！　勝利の為に……優しき森の大いなる嘆きを止めるため！」
　翡翠の国よ！　――私は戻ってきた！！
　誰も彼もの道を切り開くためにストームナイトが進撃する。
　眼前には大量の終焉獣達。されど、先の戦場で嫌というほど相手をしてくればもう慣れたもの。荒れ狂う一閃が奴らを切り伏せ、薙ぎ払われる様な太刀筋の衝撃波が道を切り開かんとして――
「よぉピエロ。お前さんに借りを返したいってやつがいてな……そいつをエスコートしてきたぜ」
　其処へリュカが至るものである。その傍らにはカノンの姿もあって……
「ええ――ありがとう、リュカ。
　これからちょっとだけ『暴力的』になるかもしれないけれど……」
「やりたきゃやればいいのさ。存分にやっちまいなカノン。助けるぜ」
「カーぺっぺっぺっ！！　翡翠のお嬢さんの手を引いて王子様気取りですかぁん？　気に入りませんねぇ！！」
　瞬間。ピエロの放つ閃光が――二人の下へと。
　が。それは予測していたのか二人とも動じぬ。躱し、カノンが魔力を収束させて術式を展開。さすればリュカは一気に踏み込んで――自らの全霊を此処に宿すものだ。
　それは気に食わない運命を破壊するかの如く。
　最善を手にする為の一撃を――込めて。
「どうやって生まれたかなんて関係ねえ。人に作られようが、カミサマに作られようが、何も違わねえ……自分を決めるのは、いつだって自分自身だ。お前にはそれが見つからなかったんだろう」
　微かに。ピエロを憐れむ様な視線を向ければ、しかし。
　――その何百倍もカノンを傷つけた事を許せねえ。
　剛閃。続けてカノンの魔力も叩き込まれるものだ――
　かつて。敵として相打った二人が、この世界では共に同じ方向を見据えながら……撃を成し。
「まめきちー！　ラブリーザントマンさーん！　ほんとはそっちに助太刀に行きたかったけど、ちょっともうシリアスモードだから(？)あとはそっちで頑張ってねー！　応援だけはしてるよー！　ちょっと大一番の場面だから、また後でねー！」
「待ってですぞぉぉおっぉ私にとっての大一番は今この瞬間なのにいぃぃぃ！！」
「きゅっきゅ～♪」
　そして『偽物』を撃破したルフランは――ピエロの下へと急ぐものだ。
　道中悲鳴を挙げるザントマンと手を振るまめ吉を見かけたが……今はピエロへと。
　……偽物のあたし、いっぱい甘いもの食べられたかなぁ。
「食べれてたら、いいな」
「――何よ『私』。感傷にでも浸ってるの？」
「あ、むー！　さっきなんか撫でられてたよね！？　むー！　むむむー！！」
　呟いた一声。それを察知したのは――キラー・アイヴィだった。
　それはもう一人のフラン。偽物ではない、この世界の本物……
　『さっき』のはちょっと羨ましいけど、でもそうやって誰かに触れられるのを許せるようになったのは嬉しい。以前会ったときはまるで薔薇の棘の様に……触れる者全てを敵視していたから。
　だから。ね、あたし。
「一緒に悪ーいピエロをぶん殴りに行こ！」
「ええ――あれには借りを返さないと」
　突き進もう。翡翠を滅茶苦茶にしたピエロへと、殴らなきゃ気が済まないから！
「ゾフランが倒れたな……同情はしよう……
　だがまだ戦いは続く。いやむしろここからが本番だな！　皆、行こうぜ！
　ガハハハ！　これが俺の最初の強撃だ！　受け取れピエロ！」
「さぁ、私の作品を容易く終わらせる事が出来るとは思わない事です。職人魂は不屈の心！
　崩せるものなら崩して御覧なさい！　尤も――黙って見ている訳でもありませんが！」
　同時。パラディーゾ・ルフランの脱落に刹那の思考を馳せながらも――オウェードは動き続け、ピエロへと一撃。更に陣地の中で死力を尽くす壱狐もまた敵への反撃を行うものだ。
　勿論更なる修復・増築も忘れない。
　壱狐の築き上げた要塞とも言うべきこの領域は正に援軍勢にとっての有利位置。
　――崩させない。崩させてたまるかと。
　撃を成しつつ未だこの戦線を――維持し続けて。
「とにかくここまで来たら後は押し込むのみ、だね……もう少しだよ」
　そしてダリウスの戦場でも戦っていたスイッチが――此方でも。
　正義の騎士達も来ているのだ。押し切るに申し分ない状況……！！
「それじゃあ、そろそろ決着を付けようか……！」
　彼は全霊を此処に。今まで戦場を駆け巡った全てを此処に。
　全て――この戦いに決着を付けんが為に！
「がー！！　おのれおのれおのれ！！
　どこまで来るのですか。どこまでやってくるのですか貴方達は――！！」
「残念だったな道化野郎、前を向いた人間の強さを知らなかったお前の負けだよ」
「今ピエロさんがされていることと、あちらで懸命に戦っている人々。
　――果たしてどちらがこの世界に自分の存在を刻みつけてるのでしょうね」
　さすればピエロが苛立ち始める。いや元々していた様なモノではあったが。
　正義の騎士達も参戦し、自らに対する圧が強まれば余裕が完全に剥がれ落ちているのだ。
　パラディーゾ達も脱落し――残っているきうりんも後どれ程保つか。
　故、Dr.Sが語る。誰も彼もから目を逸らしたお前の負けだと。
　ハルツフィーネも語る。今、抗っている者達の輝きこそが――眩しいと。
「……ピエロさんはどうでしょう？　今、未来を求めて戦っている人達の様に……何かないのですか？　私はあなたのことは何も知らないですけど。この世界でやりたいこと、何もないのですか？」
　私はある。
　晴れてこの世界を救った後、チャンプに挑めるまで強くなるとガイウスさんに宣言しましたし。クマさんの素晴らしさを世界に広める義務もあります。だから、こんな所では終われないのだと――全力の一撃を。
「はぁ、はぁ……！　この世界でやりたい事？　ありませんねぇ、作りモノだと気づいたその時から！！」
「そうか――だがよ、何も奪わせねぇぞ。
　俺は救えるもんは全部救うんだよ、医神の息子だぞ？　傲慢なくらいで丁度いい」
　直後。ピエロが再び閃光を放つ。それは治癒の力を阻害し、命を奪う、が……
　Dr.Sはそれでも治癒を止めぬ。
　――生命への希望は必ず病魔を払う力になる、俺はそれを知っているから。
　己が医者であり続ける限り、力を振るい続けようと。
　くだらない？馬鹿馬鹿しい？
　――笑いたきゃ笑えよ、その倍笑い返してやる。これが、俺の傲慢だ。俺の、在り様だ！
「人によって作られて、人の都合で使われて。
　使い終わったら記憶消されて再利用、使えないなら殺処分。
　……君の事じゃないよ？　召喚されなかった場合の、僕自身の事を言っただけ」
　同時。周囲を薙ぎ払わんとしたピエロへと一直線に火力を放つのは――ナハトスターだ。
　彼の言の僕とは――『僕（ヨゾラ）』の事だ。
　かつての世界での出来事。忘れられぬ出来事を想起しつつ……
「何かに作られたからなんだっていうんだ。
　君は君だし、大切な人は大切な人だろ。生きてるだろ。
　『同じ立場の人達や君の大切な人達ごと』世界壊そうとするのか馬鹿！」
「――喧しいッ！！　最早ねぇ、私は止まれんのだ！！　知ってしまったのなら最後まで突き進む！　どこまでも――どこまでも！！」
　文句はそんな風にした奴に言え。皆と僕等に八つ当たるな。
　君が作られたからって、やった事の罪重すぎるんだよ。この……！
「大馬鹿野郎――――ッ！！」
　腹の奥底より紡いだ言は彼の真実。火力を絶やさず降り注がせれ――ば。
「おい、クソピエロ！　鋼鉄ではあたし達が勝った！　正義ではスターイーターが滅びた！　この戦場も徐々にこっちが押している！　いつまでムキになってんだよ、いつまでその姿勢を続けるんだよこのクソピエロ――ガキかお前は！」
　更にP.P.もまた、声を張り上げる。
　あの肌を滅茶苦茶晒す黒髪女はともかく、ガブリエル様を護るためにはピエロを一刻も早く打ち倒すのが先決と。だから――言う。
　あたしね、やけっぱちになってるクソガキを黙らせるのは得意なのよ。
「歯ぁ食いしばれよ！！　きうりんや皆の言ってる事が聞こえないってんなら……聞こえる様にはっ倒してやるわ！　沢山の人がデータなんかじゃなくて、『バンビール』って存在を見ているんだよ――お前の物差しで勝手に世界を測ろうとしてんじゃねぇよ！」
「ぬ、ぐぉ――！！」
　ピエロへ一撃。奴からもナイフが投じられるが――知った事かと。
　P.P.が向けた視線の先には、件のきうりんもいて……
「私が救うっつってんだから大人しく救われろよ！！　現実に混乱を起こしたいんじゃなくて自分が生きてたって証を刻みたいんでしょ！ 目的と手段逆になってるよ！！　ねぇ、私が手伝うから！　なんかしようぜ！　――まだ間に合うって！！」
　ほらサーカスの映像とか外部出力しようぜ！　そういう楽しいことしよう！
　ぴえぴえに羽交い絞め。彼女はふざけてなど一切いない――全て心の底からの真実。

「あ、そういえばまだきうり食べてなかったよね！　ほら美味しいよ！！　世界を滅ぼしたらこれも食べれなくなるんだよ！　だからさ――ねぇねぇねぇねぇ！！」
「――――ええぇい！　邪魔ですよ本当にもう！！
　馬鹿なお人ですねぇ。敵なんてねぇ、倒しゃ一番楽でしょうに」
　――だが振り払う。きうりんの、どうにかせんと藻掻く有り様を払いのける様に。
　もう。駄目なのだから。
　知ってしまわなければ誰しもと仲良く出来たかもしれない。
　けれど知ってしまった身としてはもう、駄目なのだ――
「ピエロ……いや、バンビールさん。
　貴方は決して無意味な存在などではない。
　それは貴方だけではなく、この世界に生まれた全て人に言える」
「ピエロよ。俺にはお前に対してどうすることもできない。
　ただ弓を番え、撃ち続ける。それが俺の仕事で、俺の在り方だ。
　――ただ。そうじゃない奴がいる様でな」
　直後。続く形でじぇい君やCALL666達も撃を重ねるものだ。
　射撃を続けるCALL666だが……その視線は周囲の味方へと。
　じぇい君は――ずっと見てきた。R.O.Oを通じてこの世界に人達を。
　皆必死に生きていて眩しい輝きを放っていた……そして。
「貴方だってその一人だ」
　僕は貴方がこの世界に存在していたことを忘れないし。
　貴方が愛したR.O.Oも守ってみせる――だから、貴方の想いは僕が全て受け止める！
　ああ、やっとわかったよ。
　何で僕がここに来たのか
「そうさ――僕はバンビールさんと友達になって一緒に笑いたかったんだ」
「――酔狂な人ですねぇ。世界を滅ぼさんとしている人とお友達にぃ！？」
「何言ってるかわからないか？　だろうよ」
　さすれば『俺もどうかしてると思う』とCALL666は続けるものだ。
　――しかし。だが、そのどうかしている案に本気で乗るやつがいるなら。
　それを叶えさせるのも道を作る者の役割だ。
　だから紡ぐ。CALL666はピエロへと、隙を作るために――さすれば。
「ねぇ、宮廷道化師ってご存知かしら？　王お抱えの道化師……ってだけじゃないの
　慧眼を持ったウィットに富んだ人物よ」
　ファントムも言う。王の批判や、他の人が言いにくいことを率先して行なったりした……特別な道化師の事を。味方を支援する様に加護を紡ぎながら――
「アナタは……どうかしら？　人を楽しませるって難しいことなのよ。
　知ってるでしょう――？　道化師の一人であるならば」
「ピエロの方。
　ピエロであるということに、敬意を持って私はそう呼びますが。
　――あなたの心に、私達の光を焼き付けましょう」
　その加護はアメベニにも辿り着く。
　今、私達は、同じ舞台に立つもの。だからこそ届かせ得る照明も……光もあるのだと。
　あなたと同じ舞台であれば、届きうるものもあるのだと。
「叶うならば、あなたの平和な舞台を見たい。眩いばかりの光で包まれたステージを」
「……残念ですがそいつは叶いそうにありませんねぇ」
「どうでしょう。まだ手遅れとは限りません」
　――幕引きまで、お付き合いくださいませ。
　炎の演舞。味方を治癒するソレが、一言でも多くの言を導かせる時を作りて。
「――さて、だがそれでももう一度聞くが投降する気は無いかな？
　君の仲間も、その在り様を変えた者もいる。それは僕らの記憶に残っている
　それは君の言う『爪痕』に他ならないと思うがね」
「イレギュラーズが伸ばした手を取らなかったら、首根っこを掴まれると思うぞ。サーカスの仲間には相談できず、知らない相手の善性を信じるのは不安しかないだろうが……まだ道はあるものだ」
　直後。紡ぐのは流雨と梨尾だ。
　彼女らもまたピエロの抵抗を止める様に言を重ね続ける――
　彼方此方から増援が来ていて、最早完全に押し込まれている段階。
　ピエロにとっては計算外だったようだが。この世界が抗っているんだろうさ。
「滅びたくは無いと。滅ぼすわけにはいかないと。
　そして――これがお前さんの愛した世界という事だ、とは思わんかね？」
「…………フンッ。死に抗うのは生物として当然の出来事。それだけですよ」
　君も、どこまでも不器用だな――
　流雨は紡ぐ。一撃を。いや二撃でも三撃でも。
　――百聞は一拳に如かずとも言うしな。言うだろう？
「爪痕、反逆。
　……バンビール。望みがそれだとしても……手段は其れだけの筈がねぇだろ。バグならいっそ世界のルールに縛られず世界の外へ飛び出したっていいじゃぁねぇか！　――やろうと思えば可能性は無限大だ、俺は協力するぜ！」
　さすれば続くのはアイだ。彼女にとっては混沌も此処も異世界に変わりはない。
「俺に取っちゃぁどっちも真だ！　だから！　俺はお前も失いたくはない！　生きててほしい！　お前のその行動は、確かに俺たちの心に刻んでるからこそ！」
　殺したくない想いがある。世界を護りたい想いもある！
　――だから俺は、全部果たす為に死力を尽くす！　強欲に生きるとも！
「バグって言ってもねぇ、それはこの世界だけの存在なんですよ……分かりますかァ！」
「ああ。だがその上で言ってるのさ！　可能性はあるってな！！
　だからまずは……動きとめろやバンビィィィィル！！！
　多くの者が不殺の意志で狙わんとする……しかし、ピエロは止まらない。
　いや『止まりたくない』のだともう――叫んでいるかのようで。

「さぁどうしたどうしたどうしましたぁ！　私はまだ、此処にいますよッ――！」

　それは周囲に。いや、まるで世界へと叫んでいるかのような……
　だから。
「……わかったぜ、ピエロのにーちゃん。もう説得とか文句とか無粋な事は言わねー。
　にーちゃんは自分の意志を貫いて世界を壊しに来いよ。
　おれは世界を護るために、そんなにーちゃんを必ず倒す！！」
「聴こえるだろう？　援軍の上げる声が、戦う音が。
　終演が近づいているよ……終焉ではなく、ね。
　さあ、もっと踊って、共に。ピエロさんが生きた証を、歌って？」
　ルージュとイズルが――ピエロを討つべく決意を固めるものだ。
　ピエロの気持ちは悲しいほどに理解できた。けれど、ルージュは……
　それでも私は自分の世界を、この世界を護るために……ピエロを、倒すッ。
「……なぁ。にーちゃんは、バグが起きなければ幸せだったのかな」
「『もし』の話はないんですよ――でもまぁ『もし』が無ければ――私はまだ団長だったでしょうねぇ」
　明確に。殺すための一撃の領域へとルージュが踏み込み、一閃。
　ピエロが零した言葉があれば、更にイズルも続くものだ。
　思う所は在れど、キミの気持ちを考えると……止め難い。私がキミの立場ならきっと同じ事を……いや、しないだろうけれど。
「私は往生際が悪いからね」
　あらゆる手段を模索し。世界を延命する方法を探して……
　それが叶ってから、元凶をこっそり始末する算段を考える、かもね。
「大切なものを、自らの手で壊す、その勇気がないだけさ」
「――――勇気ですか」
「そう、勇気さ」
　周辺の終焉獣らも纏めて薙ぎ払えば。
「……私は皆さんが羨ましいです、彼らを生きとし生けるものとして助けることを望むことができる。結局私は割り切って倒す事を選ぶことしかできません。どうしても……それ以外は……」
　奥歯を。噛みしめる様に戦況を見据え、力を振るうのは――シフォリィだ。
　倒す事を選択したのに、自らの手で引導を渡すことが今の私では出来ない。けれど。
「……私は、眼を逸らしません。
　前往く皆さんを援護しましょう。そして少しでも共に――参りましょう。
　この世界のバグを屠る罪を、共に背負っていきます」
　これが私の決意です――シフォリィの瞳には意志が宿りて、決して退かぬ。
　手はかけなくても。その一助を成すのであればと……
「あなた方が諦めぬように、わたくしたちも諦めない。
　――この世界は滅びずに明日へ向かうのです。そうでしょう、グリース様」
「ええ勿論。そして――こんばんは、ピエロ」
　パーティの終わりには間に合ったかな？　言うはシュネーとグリースである。
　生きてくれて助かったよ、これでお礼もできるというものさ――！
「遊びが終わったのなら始めようじゃないか、全力のぶつかり合いってやつをさ！」
「援護いたします！　存分にぶつかり合って下さいませ！　この一時が勝負ですッ！」
「はっはっは！　よろしい！　ここまで来たのなら――ええ付き合って差し上げますよぉ！」
　ぶつかり合う。グリースの邪魔する個体がいればシュネーが排除し。
　開かれた道筋をグリースが踏み込み、肉薄する。
　二刀の連撃。息をもつかせぬ、ソレは『ある男』の剣筋をイメージした――数閃で。

　さすれば一瞬。ピエロの身が、揺らいだ。

「ぬ、ぉ……ぐぅぅぅう！！」
　それは体力の限界が近い証。最早余力なく、あとどれだけの力が振るえる事か。
　刹那――周辺を薙ぐが如き、強烈な閃光がピエロより突き走る。
　最後の抵抗とばかりに。吹き飛ばしたイレギュラーズ多数。
　死んでしまった者もいるだろうか――しかし、それでも！
「バンビール……アンタらの公演もそろそろ閉幕にしよう。
　俺はよ……アンタの楽しいサーカスが見たかったぜ。
　ステージの上で道化をやるアンタの姿をな……」
　天川が踏み込んだ。再び真正面より。
　それが彼へのせめてもの誠意。暗殺者でもなく復讐者でもないなく――
　ただの剣士として一人の男として剣を振るう。
「わりぃな！　ここじゃこれしか使えねぇ！　だがそれでもアンタを斬ってみせる」
　――死ねばアンタは苦悩から解放されるのか？　それしか方法はないのだろうな……
　俺は混沌でもう一度チャンスを得た。もういいと諦めていた生に意味を与えてくれた。
　……出来ればバンビール……アンタにもそんなことがあれば……
「人生にねぇ意味を求めたらぁヒトはぁ生きていけないんだよぉ？
　ねぇ、バンビールぅ……それをね、もっと早く気付けば――良かったねぇ？」
　同時。先の閃光を凌いだエイラもまた往くものだ。
　――意味があるから生きてるということはぁ意味がなければ生きられないという事。
　だから。生きるのに、意味なんて要らない。あってはいけないのだ。
　『理由なく生きていい』のだと。
「そんな事が……認め、られるかぁ……！！」
「……ピエロ。その思考を否定はできないが。では、混沌に生きる俺の心や魂に実体はあるか？　質量と体積を測れるか？　……測れやしない。分かるか？　ならばデータと何が違うと」
　足掻く様にピエロが天川を弾き、それをエイラが庇いて。
　しかし疲労困憊気味の動きの隙に――アズハが撃を差し込む。
　肉体が、記憶媒体が壊れれば消えるのも同じ。
　それでも俺は確かに存在するし、生きている。
　――貴方もそうじゃないのか？
「知れ――無意味などでは、ないと！」
　自らの身体を強化し。ピエロへと言葉を繋ぎながら――彼は穿つ。
　この世界に確かにいたピエロを。『同じ』なんだと紡ぎながら。
「全てはきっと繋がってる。確かに貴方達は多くの事件を起こした。
　――けど、その一つ一つが積み重なって、繋がって。
　絆になって今こうして形になったんだ」
　そして。ピエロの放つ閃光を躱したネイコが――斬撃一閃。
　この成果は、ある意味では貴方達が齎したモノなのかもしれない。
　貴方達が事件を起こさねばこうも結束は出来なかったもしれないのだ。
　――だから、これはピエロ達の成果だと。
「黙れ……黙れ黙れ黙れ！　私は……このような、光景が、欲しかったのでは……！」
「うん。だろうね――でも、きっとそれが真実なんだよ。
　貴方が紡いだ物語があったんだ。
　――貴方は確かに此処にいたんだ」
　だから、決着を付けようと。
「……ピエロ。あぁ、もう……お前は、自分で止まる事が出来ねぇンだな」
　ヨハンナも、言う。
　『愛する者』の為に止まりたくても……自分の中で燃え盛る感情、理不尽な現実への怒りが其れを許さないのか。こんな事をしても無意味だと、もうきっとお前は分かっているだろうに……皆が紡ぎ続けた言葉への否定も、引き返せぬからであって……
　なら、誰かが止めてやるのが。彼への唯一の救いになるのだろうか。
「なぁ、バンビール」
　何れあの世でまた会おうぜ。
「どんな理由や心境があろうとよ、やっちまったもんは二度と取り返せねぇ。
　……どうせ、俺の行き先もアンタの行き先も地獄だろうしなァ。
　てめぇは先に行ってろ。俺は――まだやる事があるンでな」
「ハンッ――地獄への切符なんて、破り捨ててしまえばいいでしょうに」
「それが出来りゃ……苦労はしねぇさ」
　指先に込められた力が――ピエロへと紡がれる。
　それは憤怒ノ焔。獲物を呑み込み、命を喰らう魔術――

「ぉ、ぉぉぉ、ぉおおおおお――！！」

　もはや、ピエロには躱す力も迎撃する余力もなければ。
　包まれる――ピエロの身が。その魂が。そのデータの全てが――
「ぁ、ぁあ――これで、終わりですか。ああ、無念だ――
　現実に爪痕を――私達が生きていた証を――どうしても――」
「おいおいまーだ言ってるのか。しゃーないなぁぴえぴえ。一緒にいってやるよ」
　刹那。その炎の近くへと――パラディーゾ・きうりんが至る。
　その身は崩れかけており、彼女もまた満身創痍。
　ならば……パラディーゾに付いていくのは、同じパラディーゾたる私の専売特許だぜと言わんばかりに。パラディーゾ・きうりんもまた……そのデータの崩壊を共にする。
「……ばいばいぴえぴえ。もしもう一度。来世ってものがあったなら……」
　その時は、友達になろうね。
　本物のきうりんは紡ぐ。
　羽交い絞めしてでもこの世に縛り付けてやりたかった、道化師の事を……

「……カーテンコールだよぉ、バンビール」

　さすればエイラは見送る。道化師の終わりを。
　公演の終わりを。
　――彼の続きが無い事を惜しみながら。それでも。
　最後は沢山の沢山のヒト達に見送られて。
　道化の生は終演を迎えるのであった……

成否

成功

状態異常