PandoraPartyProject

シナリオ詳細

玲瓏なる星合ひに

完了

参加者 : 46 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 りん、と音鳴らす。天を流れた星々は逢瀬の時を待ち望む。涼やかな風鈴が飾られた街道を往く人々の内輪が仰いだ夏風は雨の気配を遠ざけて。潮騒誘った神ヶ浜に愛を詠む事も無く。日々の営みのかたわらで、今宵も星が愛しき声を囁けば――七夕祭りの日がやってくるのだと。
 提灯飾られた屋台より馨しい香りが立った。くう、と腹を空かせた子供達がからりころりと下駄を鳴らして。
 星の逢瀬を楽しみながら、未来を乞うて短冊に夢連ね。星の川を渡り愛しき人の腕に抱かれることを願った姫君に手を差し伸べるが如く。
 天蓋飾った星々の、流れる様を指先なぞり、今宵も恋を連ねませう。

「風鈴の、音色が心地よいですね」
 ちりり、と音鳴らしたそれを手にしながら『聖女の殻』エルピス(p3n000080)は首傾ぐ。澄んだ青色、美しい瞳だと褒めてくれた友人を思い出しては目を細める。夜の色は深まるだろう。友をもすぽりと覆い隠してしまうその中で、わたしが瞬く星にもなれたなら。そんな思いを抱くようになったのはイレギュラーズ達との逢瀬を重ねたからかも知れない。
「わたしは、今夜は、おねがいごとを書きたいなと、思ったのです」
「七夕祭りの短冊か。うん、良いと思うよ」
 小さく笑った『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)にエルピスはほっと胸を撫で下ろした。
 足を止めてばかりの自分の手を引いてくれる沢山の愛しいひとたちに、自分も進めるのだと胸を張りたくて。
「私もお願い事を書きたいかも! それより、カムイグラの屋台も回ってみたいと思って。
 みた? こんにゃくの串があったの! 面白山高原先輩と蛸地蔵君もご一緒しましょうね」
 にんまりと微笑んで蛸地蔵君の両手をきゅっと握った『探偵助手』退紅・万葉 (p3n000171)に「にゃあ」と低く声を返す。その身体を預けられていた面白山高原先輩は旅行かと大きく頷いた。
「浴衣も借りれるそうだよ。二人とも着てみたら?
 神ヶ浜まで散歩に行って、星を見るのも良いかもね。あの地は……天香長胤公の句が有名だったから」
「どんな?」

 ぬばたまの 夏の夜に出る 蛍火は 神ヶ浜にも 恋ひ渡るかな
 ――音に聞く 神ヶ浜の 夕凪に にほひを愛でて 出でて来にけり

 その二つは、恋の句として語られる。潮騒を聞きながら恋を語らうたその地の天蓋で、天の川を渡り逢瀬を重ねる織姫と彦星がいると言うならばなんと浪漫の溢れる日であろうか。
「海で足先を浸けて少し涼んでみるのも良いと思う。アルコールは……万葉さん、分かってる?」
「ええ、ええ! 許容量を見定めて。お酒に酔って折角の素敵な夜空を忘れてしまっては勿体ないもの!」

 美しき星々飾った天の川。七夕伝説を涼やかに彩った風鈴市を。
 どうぞ、楽しんで見ませんか――?

GMコメント

 日下部あやめと申します。何卒宜しくお願い致します。
 夏はイベントが盛りだくさん。カムイグラで穏やかな風鈴市と七夕を楽しみませんか?

●星泳ぎの風鈴市
 豊穣郷カムイグラでの風鈴市&七夕祭りです。時刻は夕刻~夜。涼やかな風が心地よく、灯籠や提灯が並んだ街道では屋台が出ています。
 プレイングでは時刻(冒頭一行目)と行動番号(二番目)をお選び下さいませ。
 神ヶ浜は海洋王国と合同での夏祭りが行われた地であるそうです。かの天香長胤氏が妻・蛍に向けて句を詠んだ場所とも言伝えられているそうですが……。

【時刻】1行目
 夕or夜

【行動】2行目
(1)風鈴市に参加する
 浴衣の貸し出しがございます。希望がある場合はどうぞご利用下さい。
 ちりん、と涼しげな音の鳴る風鈴は豊穣郷の各地より集まったものばかり。その数も800以上だそうです。
 可愛らしいブタ、向日葵やだるま、切子硝子、くらげなど種類は沢山。街道沿いに並んだ風鈴を眺めながら買い物も可能です。

(2)七夕祭りに参加する
 浴衣の貸し出しがございます。希望ヶある場合はどうぞご利用下さい。
 街道には沢山の屋台が並んでおり、さながら夏祭りのように食事を楽しむことが可能です。
 普通のお食事からアルコールまで。何でも取りそろえられています。
 七夕伝説に肖って、短冊を書き連ねることも可能です。お願いが叶いますように。
 食事を手に、街道を歩き、美しい星々と天の川を眺めることが出来ます。

(3)海を散歩する
 鮮やかな星を見ることの出来る神ヶ浜をお散歩します。海に入ることも出来ますが、夜の海はとても冷たいので注意をなさって下さいね。
 星々は海へと光を反射して、美しくも切なげな空気を作り出しています。のんびりと散策するのも良いですし、海で遊ぶのだって楽しいでしょう。

(4)その他
 何か御座いましたらご指定下さいませ。無茶な事以外でしたら対応可能です。

●同行者や描写に関して・注意事項
・プレイング冒頭に【時刻】夕or夜の指定を、二行目に行動(1)(2)(3)(4)の何れかをご記載下さい。
・ご一緒に参加される方が居る場合は【同行者のIDと名前】か【グループ名】をプレイング冒頭にお願いします。
・暴力行為等は禁止させていただきます。他者を害する目的でのギフト・スキルの使用も禁止です。
・飲酒喫煙は未成年の方はご遠慮下さいませ。公序良俗に反するプレイングも描写致しかねます。
・たくさんの方にお越しいただいた場合は一人当たりの描写量がワンシーンのみの場合がありますので、プレイングを掛けられる際は行動を絞って下さるとよいかと思います。

●NPC
 山田・雪風とエルピス、退紅 万葉(with面白山高原先輩、蛸地蔵くん)がご一緒させて頂きます。
 万葉はお祭りを楽しみにして旅行気分で再現性東京より参りました。
 何かございましたらお気軽にお声かけ下さいませ。

  • 玲瓏なる星合ひに完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2021年07月26日 22時45分
  • 参加人数46/50人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 46 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(46人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
知識の蒐集者
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
絶望を砕く者
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
古木・文(p3p001262)
結切
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
蜻蛉(p3p002599)
羞花閉月
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
深緑魔法少女
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
竜剣
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
鹿ノ子(p3p007279)
涙の約束
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
騎士の矜持
レニー・エメディア・オルタニア(p3p008202)
半百獣のやんちゃ姫
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
先導者たらん
シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
紫煙揺らし
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
隠岐奈 朝顔(p3p008750)
共に歩む道
ノルン・アレスト(p3p008817)
願い護る小さな盾
ルーキス・ファウン(p3p008870)
導きの双閃
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸
柊 沙夜(p3p009052)
特異運命座標
ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)
ワルツと共に
ニル(p3p009185)
あたたかな声
ルビー・アールオース(p3p009378)
正義の味方
玄界堂 ヒビキ(p3p009478)
斧鉞
ノア=サス=ネクリム(p3p009625)
春色の砲撃
アリス・アド・アイトエム(p3p009742)
泡沫の胸
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)
百合花の騎士

サポートNPC一覧(3人)

山田・雪風(p3n000024)
サブカルチャー
エルピス(p3n000080)
聖女の殻
退紅・万葉(p3n000171)
探偵助手

リプレイ


 神威神楽の祭り囃子を耳にしてルビーは浴衣姿でスピネルの手を引いた。「縁があるね」と口にすれば幼馴染みは小さく笑う。
「こういうお祭りでの振る舞いは小さい頃からホント変わらないよね」
「そうかな? あ、ほら、スピネル。あの時はゆっくり回る余裕なんて無かったけど今は違うから、色々見て回ろう!
 射的・くじ引き・ヨーヨー釣り! どれからしようかな。それじゃあまずは――ああホラ、おじさん当たったよー! 見てスピネル!」
 手招いて微笑むルビーの手をぎゅうと握ってからスピネルは「本当だ」と揶揄い笑った。幼い頃から変わらない彼女に安堵が滲んで笑み溢す。
「ルビー、短冊に願い事を書きに行こうよ。ルビーの願い事は知ってるつもりだけど」
「ふふ、小さい頃からずーっと同じだから。でもね、異世界にある星の神様を祀る神社でも同じ七夕のお祭りをしてたから、願っておいたんだよ。
 ……これからもそれを叶えていこうね。ね? スピネル」

 ――私とスピネルがずーっと一緒に素敵な冒険を続けられますように。

 そんな彼女の願いに、スピネルは同じお願い事の裏にこっそりと描いた。君を守る力が欲しい、と。
 何かあったときに側に居たい。だから、君に手が届く特異運命座標になれるようにと。そう願わずには居られなくて。

「浴衣、ですか?」
 何だか不思議な感じです、と首を傾げたニルの足下で蛸地蔵くんが似合って居るぞと告げるようににゃあと鳴いた。
 飼い主である万葉が蛸地蔵くんにも浴衣を着せたのだろう。「似合っていると思います」と微笑むニルに蛸地蔵くんも恥ずかしげだ。
 ちりん、と涼やかな音が鳴る。誘われるように歩は軽やかに屋台の中へとニルを誘って。
「わぁ、風鈴がいっぱい! ニルは、風鈴を見るのはじめてです。風に揺れてキラキラ。音もとってもキラキラするのですね。
 風に音が乗ってるみたい。見ているだけで、聞いているだけで嬉しい気持ちになります」
 風鈴が欲しいけれど、どれにしよう。きれいなの? かわいいの? 食べ物の形だって沢山あるから。
 気に入った『かわいいこ』を見つけるまで、今はゆっくりゆっくりと歩み続けよう。
 のんびりと風鈴を眺めて沙夜はくすりと笑みを零して。浴衣を借りて、長い髪は簪でひとまとめ。うなじを覗かせれば涼やかな風が肌を撫でて心地よい。
 汗ばんだ頸筋を撫でた夏の気配に擽ったいと目を細めればちりり、と風鈴が音鳴らす。
「んふふ、ええねえ、風鈴。こない沢山見るのは初めてやけれど、どれも違ってすごいなあ。ブタさんにクラゲ、あれは……なんの形やろ?」
 綺麗なものからすこしヘンテコなものまで。なんだって揃っているから。耳を澄ませて、音をなぞって、目で見て。楽しみ方は無数に広がって。
 茹だる暑さの残滓に風鈴の音が涼やかさを届けて押し流す――そういえば、もうすぐ夏祭りがくるのだろうか。
 何が有るのかと七夕祭りにまで訪れてシューヴェルトが興味を抱いたのは射的の屋台。銃を使わなくなって久しいが、勘を取り戻すためにいざ実践。
「悪いな、この僕の腕前をなめてもらっては困る」
 ひとつ、景品を倒せば店主がああと唸る声を上げる。全弾必中を目標に掲げはするが目標は景品では無いのだと途往く鬼人種にシューヴェルトはぽんとぬいぐるみを投げ渡した。
「景品なら君に渡すよ。僕としては銃の腕前を試したかっただけだしね」


 浴衣を借りて夕暮時の風鈴市を眺め見遣る文に「私が選んだ浴衣、とーっても似合ってる」と万葉が微笑んだ。
「有難う。風鈴市、眺めて楽しむだけのつもりで訪れたけど、良い音が鳴っているね。
 窓辺に飾る用として、一つくらい買って帰ってしまおうか。……良い子が見つかると良いのだけれど」
 どれにしようかと一人、迷って迷って。友人への手土産は直ぐに見つかれど、自分のものは見つからなくて。
 悩ましいけれど、七夕に『また来年も平和に過ごせますように』と願う心は忘れずに。
 のんびりと、穏やかな時を演出する風鈴をひとつ。選び取りたいとそう願って。

 浴衣に身を包んで涼やかな音を聞くだけで、日中の暑さも忘れられるとシガーはそう囁いた。からころり、音を鳴らして希紗良は「風情ありますな」と彼を見上げる。
「風鈴、と一言で言っても、色々な種類があるねぇ」
 街道に祭り囃子を齎すように並んだ風鈴をシガーはおっかなびっくり眺めて居た。こんなにも沢山の種類があれば目移りすると微笑む希紗良に違いないと頷いて。
「音だけでなく、目でも楽しめるというのは良い物だ…折角だから、一つ買っていこうかな?」
「いいでありますな。どれにするでありますかね……」
 指でなぞるように一覧を眺め見ゆる希紗良は「あ!」と手を止める。猫の耳がぴこりと映えた小さな風鈴は子猫のようで愛らしい。
「可愛くて一目惚れでありますよ! アッシュ殿はどれにするでありますか?」
「なかなか可愛いねぇ……うん、希紗良ちゃんにぴったりだ。俺は……そうだな、これを貰おうかな」
 蒼く透き通った硝子に煙管の形を添えて。そんな彼らしい風鈴にアッシュ殿らしいと微笑んだ希紗良は今日の思い出をそっと抱き締めた。

「実は欲しいのは決めてあるんだ」
 シラスにアレクシアは「実は私も」と頷いた。二人で探したいのは麒麟や黄龍のモチーフの風鈴。
 彼女は麒麟、自身は黄龍。自凝島から生還した記念のお守りのつもりで、また離れ離れになっても戻りますように。そんな願掛けを。
「豊穣と言えば俺の中ではすっかりキミが攫われた事件だよ。
 戻って来てくれてありがとう……俺の手を離さないって約束してくれてたもんな」
「……あはは、そういえば、あの時はシラス君にもとっても心配掛けちゃったね。
 それでも、私が約束を破るわけないでしょう? ね? 何があったって絶対に帰ってくるんだから。それでこそ、ヒーローってものだからね!」
 ふふん、と微笑んだアレクシア。麒麟に何時か会いに行くという彼女の気持ちは知っている。だからこそ、願掛けをしておきたかった。
 シラスにとって思い出せば恐ろしい記憶と、それ以上に心強さが感じられて。人通りが多いからと繋いだ手は離れない。
 上機嫌なシラスは七夕は特別なのだとこっそりとお菓子をアレクシアへと差し出した。二人きりで、この時が来て何よりも嬉しくて。
「――お誕生日おめでとう」
 ぱちり、とアレクシアは瞬いた。
「……誕生日! そういえばそうだったね! イレギュラーズになってから、ずうっとバタバタしてて毎年自分の誕生日を忘れてる気がする!
 でも、こうして家族以外の人にも祝ってもらえるようになって、すっごく嬉しいなあって毎年思うんだ!
 昔の自分がこんなに誰かと繋がりを持てるとは思ってなかったから、とっても幸せな気持ちで……その……本当にありがとね!」
 このお礼は必ず、あれ、おかしいかな。そうやって笑ったアレクシアにシラスは小さく笑う。彼女らしくて、どこか擽ったい。
 有難うと綻んだ花のような笑顔が、シラスは何よりも好きだから――


 折角だからと浴衣に身を包んだベネディクトは「リュティスもどうか」と給仕用のエプロンの付いた着物を奨めた。そうして雰囲気を共に感じるのも良きことで。
 りん、と響いた音に顔を上げたベネディクトはふむ、と小さく首を傾いで。リュティスも彼も、慣れぬ響きは心地よい。
「風鈴か……心地良い音色を出すんだな、豊穣では夏ではこれを聞いて過ごすのか」
「豊穣では変わった楽しみ方をするのですね。ですが、涼し気な音を聞きながら過ごすというのも良いかもしれません」
 ならば、屋敷にも1つ土産にするのはどうだろうかと。微笑むベネディクトにリュティスは「皆で楽しめるものですか」と使命を帯びたように悩ましげに首を捻って。
 柘榴の瞳が吟味する様子を傍らで眺めたベネディクトの蒼がそうと細められる。色や、形や音。そんな様々なものに考えることは多いけれど――
「……この風鈴、ちょっと見た目が丸いがポメ太郎に似ていないか?」
「確かにポメ太郎に似ていますね。
 ふむ……黒狼隊のマスコットと言っても良い存在ですし、飾るのも良さそうです。
 本人がどう思うかわかりませんが、たまにはこういうのも良いでしょう」
 如何ですか。そう問うたリュティスにベネディクトは愛嬌があると頷いた。こっそりとリュティスが選んだのは豊穣らしい風鈴。
 気がついた頃に主人の部屋にも涼を運ぶ為に。ちりん、と隠れて鳴った音は軽やかで心地よい。

 白地に花を咲かせて。揃いの浴衣の帯は互いの色を。ミディーセラとアーリアは涼やかな気配を追いかける。
 結い上げたラベンダーの髪先の後れ髪に「あら、色っぽい」と揶揄うミディーセラを扇ぐアーリアは「大丈夫?」と囁いた。
「きつかったら、すぐに休憩しましょうね?」
「偶に。そう、偶になのですが。暑さに負けて髪を短くしてしまおう、だとか。
 アーリアさんに扇いでもらっていたら、何だかそんなことを思い出しました」
 そう囁く彼を扇いでアーリアはばたばただったから、と手をぎゅうと繋いで歩き出す。久々に共に歩けるから、もう少しだけ『一緒に』と願う彼女に応えるように「涼しい音ですね」とミディーセラは言葉を返す。
「風鈴、とは。確かに音色が綺麗で……りいぃん、と。……暑い。
 そう……涼しい部屋で聞けばもっときれいなのでは? 間違いありませんね。どれかひとつ買って……ひとつに絞る?
 アーリアさんに似合う色もいいですし、形の方も……ううむ。選択肢がここまで多いとは」
 悩む彼に「金魚に花火、いろんな色があるのねぇ。とっておきを選びましょう?」と囁いた。
 握った手の熱が、嫌いではないから。ミディーセラは特別中の特別な愛しい人のぬくもりを掌にぎゅうと収めながら背伸びをする。
 風鈴を探した彼の横顔が愛おしい。繋いだ手をそうと頬に当てたアーリアは「好きだなぁ、って想ったの」と小さく呟いた。
 風鈴が? それとも、なんて野暮な事は聞かないでミディーセラはそのぬくもりに笑みを零して。

 弾むような声に下駄の音。からり、ころりと音鳴らして蜻蛉はくるりと振り返る。
「はよお、こっちこっち。……可愛い子が先にお嫁に行ってしまう」
 音に誘われて、逸る彼女の心に揶揄うように縁は唇にゆっくりと笑みを乗せた。前行く浴衣のその背中、見慣れたけれど、見慣れない彼女の姿に。
「そう急がねぇでもいいだろうさ。本当にいいモンは、そう簡単に買われたりしねぇって話だぜ」
 ――嬢ちゃんみたいにな。
 そんな言葉は風鈴が音鳴らして攫ってゆく。「旦那、最後……何て言うたん?」と問うた蜻蛉に何でも無いと縁は肩を竦めて。
「お店の…潮騒の軒先に、ひとつ買うてく? これなんて、綺麗やない」
「ならそいつと――ほら、こいつはお前さんが連れて帰ってやったらどうだい?」
 海月を模した青い風鈴を選んだ蜻蛉に縁が差し出したのは和柄の赤い風鈴。夜目にもよく目立つ豊穣らしいその色と同じ彩が蜻蛉の頬に灯った。
 何故なんて。赤い赤い林檎のようなこの色は、赤くなって怒る蜻蛉に似ていた――なんて冗談だ。
「……ほんまに、ずるいんやから。……嫌いよ、でも」
 ぽつり、溢した『好きよ』の言葉は風鈴に攫われた。縁は小さく笑みを零して。狡いのはお互い様じゃあないか。

 夕涼みの神威神楽を浴衣姿でぶらりと歩む。はぐれないようにと差し出された手に子供扱いは恥ずかしいと頬を染めたノルンはそっとアリスの手を握りしめた。
(ノルン……また照れちゃうかも……ね……アリスも少しどきどき……しちゃう……
 ……かもだけど……アリス……リードする……お姉さんだから……ね……)
 ぎゅうと握りしめた掌を握り返せば自然に笑顔が漏れる。誰かに手を引かれるのは不思議だとノルンは手を引くアリスをそうと見上げて。
「浴衣……どうかな……えへへ……ノルンも……似合ってる……よ……! やっぱり……ノルンと一緒は……楽しい……!」
「可愛らしくて、良く似合っていると思います。ちょっと恥ずかしいですけれど、こうして一緒に遊べるのは嬉しいです」
 甘いものを『あーん』とされるだけで頬は紅色に華やいで。時は光のように早く過ぎ去ってしまうから。
 ノルンとアリスは短冊にお願いを共に描いて――ノルンは『おとこのこ』だけど、アリスはもっとたくさん一緒に居たいと願ってしまって。
 不思議な気持ちを抱えたまま、「書けた……?」と問えばノルンは「はい」と柔らかに微笑んだ。

 ――ノルンのこともっと知りたい、ノルンともっと仲良くなりたい。

 ――来年も、ここに来れますように。できれば、アリスさんと一緒に。

 だから、また。次も共にと願う二人に沈む夕日が微笑みを浮かべているかのように。

 星輝かした浴衣はお揃いで。まだ明るい空色のステラの傍らで紺の夜を纏ったウィズィは手を引いて屋台を巡る。
 普段は『お姉ちゃん』のウィズィをエスコートするステラは少し誇らしげ。
「お祭りの屋台って不思議ですね、何故かどの食べ物もいつも以上に美味しそうに見えます……。
 お姉ちゃんは何か食べたい物、ありますか? ふふふ、拙がごちそうしちゃいますから!」
 そんな彼女が愛らしくて。ごちそう、と呟いた後、ウィズィはその瞳を覗き込む。
「じゃあ、わたあめ、半分こしよ?」
 ふわふわと口の中で溶けてゆく空を隠した雲を食べてしまうように。二人で書いてきた短冊を見せ合いましょうと顔を見合わせ笑い合う。

 ――ウィズィお姉ちゃんの――ステラちゃんの――願い事が叶います様に。

「………ふふ、願い事、被っちゃいましたね?」
 思わず漏れた笑みは愛しくて、おかしくて。空の向こうに願うまでも無かったと、ウィズィは彼女の手をぎゅうと握って。
 願いを叶えてくれる私の『Stella』は、直ぐ隣で眩いほどに輝いているのだから――


「ふははは、賑やかでよいな。ん、短冊とな? ……なるほど、願い事を書くと叶うのか。
 うむ、であるならば今後の健康でも願っておくか」
 浴衣を身に纏いヒビキが短冊に願いを描く。さて、これから屋台で食べ物を買い酒でも煽り空を眺めようか。そんな穏やかな夜もまた良いだろう。
 身を包んだ天色は、彼の色。朝顔にとって『向日葵』と呼んで笑ってくれる彼の彩。
 短冊と向き合えば、過ぎた時を思い返して朝顔は小さく息を吐く。
(――去年は遮那君が魔種にならないようにって願ってたなぁ……。
 彼が魔種になる事は無かったけれど、今も困難は待ち受けていて。少しでも彼の力になりたい……少しでも、彼に1番愛されたいって思ってて)
『素敵な女の子』なら、『彼を想う人』なら。屹度、彼の幸福を。彼の困難を退ける力を願うのかも知れない。
 けれど、朝顔は「ごめんなさい」と呟いた。自分のことばかりだけれど、それでもこの想いは本当だから。

 ――天香遮那君の最愛になれますように。

「天の川の伝説は知ってるよ。年に一度、七夕の日の逢瀬かぁ……もし自分なら、手を尽くして相手に逢える方法を探してみるかな」
 だって、好きな人とは毎日でも会いたいと思う。そう告げたルーキスにエルピスはぱちりと瞬いて「ルーキスさんらしい」と笑みを零した。
「エルピスは、短冊に何書いた?」
「ルーキスさんは?」

 ――エルピスに想いが届きますように。

 少し照れた頬は陽に焼けたように赤く。真っ直ぐにルーキスはエルピスのかんばせを眺めて。大きな青空の色が花瞼に隠される。
「この想いっていうのは…君だけに向けた、とっておきで特別なものだよ彦星が織姫に向けた『好き』と同じ、って言ったら伝わるかな……」
「はい、分かります。けれど、」
 そっとエルピスが見せた短冊には『もっと、つよくなれますように』と書かれていた。誰かの想いに応えることさえ、臆病な自分には『怖くて』堪らない。そう告げた彼女が『つよくなれる』その時を願う様にルーキスは「星に託そう」とその手を引いて。

 からり、と下駄鳴らす。
 祭り囃子に誘われて。レンタルした浴衣に身を包んだ咲良は手を振った。
 柔らかな銀髪を結い上げて、慣れぬ浴衣に身を包んだフィリーネは明るく微笑んだ咲良に気付いてぱあと華やぐ笑みを見せる。
「咲良、とても浴衣が似合っておりますわ」
 彼女は準備万端。浴衣だって毎年着用していた経験から自分で準備したのだという。お待たせして、と謝罪を告げる唇に首を振った咲良は「フィリちゃんも、とてもよく似合ってるよ!」と輝く笑みを零した。
 屋台を巡って腹を膨らませて短冊を。揃いの林檎飴を手に「おそろっち!」と微笑む彼女にフィリーネの表情は和らぎ咲いて。
「そういえば咲良はもう書くことを決めておりますの?」
「あたしは書くこと決めてるよ! フィリちゃんは?」
 待ってましたと揶揄うようにフィリーネは「書き終わったらお互い見せ合いませんこと?」と微笑んだ。
 短冊に描いた願いは二人とも『何時もの自分』を顕わす様に。

 ――皆を護れますように。

 ――皆の正義の味方になる!

 フィリーネの「ありきたりなお願いですけれどね」という囁きは、咲良がもう一度遮るように首を振る。
「ありきたりでも良いんだよ。人を守りたいって、素敵なことじゃない?」
 だから、一等高い場所に。お天道様も見てくれる位置を目指して――初めての友達にこっそりとフィリーネが書き加えたのは『もっと咲良と仲良く』という可愛らしいお願いだった。


「ぶはははっ! 俺ぁ折角だし七夕祭りで屋台を出す側として参加するぜ! 冷やしトルネードきゅうりの一本漬けだ!」
 どうだ、と微笑むゴリョウのキュウリを眺めるのは面白山高原先輩だ。犬である彼はどうやら興味深いようだ。
「犬も食べれるのかしら? ムリなら私が……うそよ、先輩怒らないで」
 慌てる万葉の様子にゴリョウがからりと笑う。
「うちの領地で作ったキュウリは触感が良いぜ!
 ベーシックな白出汁、唐辛子を加えたピリ辛、爽やかな甘酢といった漬け汁は青臭さを抜いてくれるから子供らも食べやすいぜ
 何より安く素早く提供できるから誰でも買いやすいしな! 米も良いが、たまにはこういうさっぱり系もいいもんだろ?」
「ええ! 一本――って先輩、怒らないで!?」

 喧騒の中をのんびりと歩く雪之丞は浴衣を共に揃えてみましょうと提案した。揃いの朝顔の柄にエルピスはどこか恥ずかしそうに目を伏せる。
「とても、よく似合っていますよ」
「雪さんも、似合ってます」
 手を繋いで歩めば、心地よい。夜空の星が瞬くように、掌のぬくもりに安堵を覚えるから。
「屋台も色々ありますから、少しずつ。ですね。食べすぎても、大変ですから。何を買うかは、悩んでしまいます」
「どうしましょう? 何が、いいのでしょうか」
「そうですね……綿菓子はどうでしょう? 雲のようで、食べると口で溶けてしまう不思議な砂糖菓子ですよ。
 ちぎって食べれるので、これなら、一緒に食べれると思いますから」
 ほら、と綿菓子を一つ。差し出されたそれに口を近づけてからエルピスはぱちりと瞬いた。
「雪さん、どうしましょう。溶けて、しまいました」
「ふふ。そうでしょう? 面白いものが沢山なのです。ねぇ、エルピス。次はどの屋台へ行きましょうか」
 なら、とエルピスがそっと手を引いた。楽しいものを探しに行きましょうと、心躍らすように囁いて。

 藍染に小菊を飾って。リディアは髪をリボンで纏め上げた。雪風に「体は大丈夫ですか?」と問えば「誘ってくれてありがとう」と彼は嬉しそうに微笑んだ。
「……焼きおにぎりとかどうでしょう? 食べ歩きを……それから、その、手を繋いでくれませんか?」
「手!? あ、へへ、何だか照れるね。うん、どうぞ」
 逸れちゃわないように。微笑んだ雪風にリディアは小さく頷いた。
 可愛いと、そう笑う彼が仕事のせいか、本人の性格か、それ以上踏み込んでこないことが少し寂しいけれど――
 距離を近づけて、『彼が好きになってくれる大人』になれるように。リディアはそう決意を星に乗せる。
「あ、ごはん粒ついてますよ」
「わ」
 摘まんでぱくりと口に運べば彼の頬が赤く染まる。「リディアさん」と名を呼ばれてリディアは彼をまじまじと見遣った。
「めっちゃ、恥いです」
 そんな風に照れ笑った彼に、リディアは少しだけ勝利を噛み締めて「ふふ、そうですか?」と彼をからかった。

「浴衣の貸し出しとかもしてるのねぇ」
 折角だからとレジーナにミニュイは着ていこうと提案した。「みにゅが言うなら」と微笑む彼女に「レナなら似合う」と軽口で応えて。
「ねえ、星が綺麗ね。地球だとアルタイルとベガという星が織姫と彦星だったけれども、混沌ではどういう解釈なのかしら?
 けれど、所変わってもお願い事は同じなのね。ねぇみにゅはお願い事、なんて書くの?」
「願い事か……。思いつかないな。昔はあったはずなんだけど。
 白紙で吊るすというのも具合が悪いし、何かは書こう。……世界平和? 流石にナンセンスだ」
「ふふふ、じゃぁ我(わたし)はまた来年もみにゅと一緒にお祭りに参加できますようにって書こうかしらね?」
 そうして、目を合わせればミニュイは「ああ、そうだ」と思いついたようにレジーナを見詰めて短冊に文字を滑らせて。
「…………まあ、『横にいる友人の願いが叶うように』とでも願っておこうかな?」
「まあ! 聞いて、みにゅ。みにゅとこうして今いられる瞬間、この時間がとても貴重だと思うから。なら、叶ってしまったかしら? ……なんてね」
 揶揄う友人にミニュイはどこか曖昧な笑みを浮かべてから「そうだね」と小さく返した。
 まだまだ七夕祭りは始まったばかりだから。心の底から楽しもう。屹度、『君の願い』はきちんと叶うから。

 借りた浴衣に身を包んで、シャルティエと並んで歩むネーヴェはそうと視線を逸らす。
 格好良い、そんな風に感じてしまえば直視することも出来なくて。それはシャルティエも同じ。綺麗だと言葉にするのも途惑うような感情に、彼女を見詰めていられなくて。
「あちらも、こちらも、風鈴ばかり! これだけ集まると、壮観です、ね」
「あ! 風鈴がこんなに沢山……!
 あっちこっちから綺麗な音がして、それにどれも形や色が違ってて……こんなに種類があるんだ。
 ……心なしか、どれも違う音に聞こえる気がする。実際に違うのかな?」
「どう、でしょう? 風が吹くと、一斉に揺れて、人々の賑やかさにも負けない、風鈴の音が心地よい、です」
 気を逸らすように風鈴の話を行う二人は、顔を見合わせて蕩けるように笑みを零して。
 シャルティエは囁いた。動物の形の、猫の風鈴を探しませんか、と。屹度彼女が気に入るだろうと提案すればその紅色はきらりと光を帯びる。
「まあ、動物の! かわいい動物の風鈴、あるかしら? はい、一緒に探しに……」
 先行こうとする彼の袖をちょい、と引く。花瞼に隠した紅色は、別の気配を滲ませて。
「……あの、人が多くて、はぐれてしまいそう、だから。手を、繋いでも、良いですか?」
 次に瞬くのはシャルティエの方。こうやって手を繋ぐのは、初めてで。手に触れて、体温が伝わって。そんなことが妙に気恥ずかしくて。
 シャルティエの鼓動がとくり、とくりと音鳴らす。前までこんな事は無かったのに――けれど、悪くはない。
 この心地よい時間が、ほんの少しでも良い。続いてくれれば良いと、そう願いながら。



 青い浴衣のアルテミアを眺め見て、見事な出来映えの飴細工に喜ぶその横顔が楽し送電亜シンしたとウィリアムは目を細める。
「どうしたの? ウィリアムさん。私の顔に何かついてる?」
「いや、何でもないよ。いよいよ夏だね」
 小ぶりの林檎飴を手にしたアルテミアはぱちりと瞬いた。昨年の動乱が嘘のような、そんな穏やかな日常が此処には在る。
「最近暑さに負けそうだったけど、お祭りとアルテミアのおかげで元気が出たよ。
 今日は一緒に来てくれてありがとう、アルテミア。浴衣姿とても綺麗だよ」
「こちらこそ誘ってくれてありがとう、ウィリアムさん。あなたの浴衣姿もとても素敵よ。
 それにしても、ホントに夜空に浮かぶ満点の星々と天の川もとても綺麗で、いつまでも眺めていたくなるわよね……きゃっ」
 転び書けたアルテミアを支えて「びっくりした……転ばなくて良かったよ」と微笑んだウィリアムにアルテミアの頬が紅色に染まる。
「……あはは、夜空ばかり眺めて歩いていたら躓いちゃったわ。支えてくれてありがとう、ウィリアムさん」
「浴衣、褒めてくれて僕の方こそありがとう。この格好気に入っているからとても嬉しい……うん、本当に素晴らしい星空だね」
 短冊に願いを込めて飾りに行こうと微笑んだウィリアムにアルテミアは頷いた。
 短冊の一つ一つに願いが込められていて。アルテミアが書いた願いは『皆に幸せが訪れますように』というありきたりだけれど、尊い願い。

 ――来年もアルテミアと一緒にこの星空を見れますように。

 彼の願いは知らないまま。アルテミアは「もちろん、私にも幸せが訪れれば良いなぁ、ってちょっと期待しているけれどね?」と微笑んだ。
 君が幸せなら一緒に来年もこの星空が見れるはずだから。ウィリアムはアルテミアに「叶うと良いね」と柔らかな笑みを浮かべて。


 ノア=サス=ネクリムは星を見に来た。故郷の世界は星の輝きすら塗りつぶすほどの目映さで、『宇宙の遠くで燃え上がる恒星』という文字列でしか星を知らなかったからだ。
 夜空と、夜空を映す鏡のような海を眺めて手を伸ばす。
 ああ、『私の故郷は見上げればそこにあるはずの美しい物を忘れてしまった』のだ。人々の営みによって作られる夜景は美しい。けれど、見上げれば何時だって其処にあるという輝きは、ノアの心に、網膜に、記憶に焼き付いては離れない。
「元の世界……今頃どうしてるかしらね」
 戻れぬ世界に郷愁を抱いて――夏空は瞬くように輝いて。
「七夕の夜に海を見に来る……なーんて、アタイらしくもないや。
 ホントは屋台でパーッと遊んで色んな人に声掛けて掛けられて、女の子っぽくないくらいがちょうどいいのに。
 こんな浜辺でしんみり……短冊じゃなくて、綺麗な海にお願いするのも悪くは無いのかな」
 そう小さく微笑んだレニーは天蓋を眺める。潮騒に混じり込んだ海を映した空の色。美しいそれを眺めて首を捻って。
「でもお願い……お願いかぁ。何をお願いしよう? もっと、色んな人と仲良くなる? 自分を鍛え上げる?うーん…………」
 流れ星が流れればこう願うのだ。綺麗な星と海へ『アタイの運命、とんでもなく変えちゃうような人と出会えますように』なんて。
 そんな乙女の素晴らしい夢を掲げて願いをなぞり数えて。
「鬼灯くん! みてみて、とっても綺麗!」
 愛らしい浴衣姿で章が腕からぐんと背を伸ばす。その体が零れぬように抱き締めて鬼灯は頷いた。
 星散る無邪気な眸が愛らしい。輝くその眸に映った星に願いを宿してしまいそうな、そんな甘い輝きに。
「ねえねえ、鬼灯くん。お水に浮かんでるお星様は空から降ってきたの? お家に持って帰れるかしら?」
「そうだな、持って帰れるかもしれないがお星様は入っていないぞ? これは空の星が反射しているんだ」
「あらそう、みんなに見せてあげたかったのだわ……」
 屹度、彼女は沢山のたいせつなひとに分けてやりたかったのだろう。ならば、その眸に焼き付けると眺める横顔が可愛らしくて。
 一人の女性の凜とした美しさ、それに寄り添うような幼児のかわいらしさが。太陽のような君を更に愛おしく感じさせるから――

「みんないちゃいちゃしながら風鈴市楽しんでるんだろなぁ。色んな形の風鈴を浴衣を着て見て回る、そんでもって海にいったりしちゃったり?
 かぁーッ! 羨ましいねぇ!! 独り身さみしいねぇ!!! まぁまぁまぁ、こういう時は何かでぱぁーッと気分を切り替えるものだし?」
「だし?」
 繁茂が先行体験の『HANABI』と燥げば傍らで万葉と面白山高原先輩が何をするのと瞳を輝かせて。
「風向きよし、周囲の安全よし、花火よし、ハンモよし♡ そんじゃまぁハンモのついでにみんな幸せになっちゃえ~! 打ち上げ装置点火!
 ――お空に輝け幸せ色の花火達よ! ハンモのハッピーなハートをみんなに届けてね!!」

 天蓋を眺めれば繁茂の花火が星空を彩って。マリアとヴァレーリヤは夜の海にぷかりと浮かぶ。
「ふふ、こうしていると、なんだか夜空に浮かんでいるみたいですわね。
 空にも波があって、お魚が住んでいて、漁師さんがそれを船で獲っているのかしら。
 ……実際に行って確かめる手段はないのでしょうけれど、きっとこの海みたい素敵な光景が広がっているのでしょうね」
 幻想的な風景に手を伸ばした彼女の指先を絡め取ってからマリアは小さく笑みを零した。
「本当だね……夜空に浮いているみたい……。ふふ…。そう考えるとなんだかロマンチック!
 星の海を泳ぐ魚もいて、それを獲る漁師さんもいるかもしれないね」
 混沌世界なら、空に魚がいるかも知れない。なんて揶揄い笑えばヴァレーリヤは「本当に?」と問い掛けた。
「そうだ! いっそのこと将来的にお空を冒険する計画でも立ててみるかい?
 可能不可能はせておき、君と一緒ならきっと楽しいと思う! 世界中を旅しながらさ! ――だから」
 大切な君が風邪を引いてしまわぬように。マリアはその体を抱き上げた。
「ふふー! このままお部屋にGOだよっ! 下してあげなーい! 恥ずかしがらせたお詫びに晩酌は任せておくれ!
 一緒にお風呂に入った後、一杯やろう! いいお酒を用意してあるんだ!」
 目を合わせれば「絶対ですわよ」と揶揄い笑う君がいる。マリアはそっと抱き上げたまま夜の海を「約束」と歩んだ。絡み付く波が、心地よく、その背中を押してくれるから。


「ねぇねぇ星が綺麗だよサンディ君! ゆっくり見ることもないから新鮮だなぁ」
 ブーツを脱いで、コートを持ち上げてシキは海をゆっくり進む。海なら昼間の方が良いんじゃと呟いたサンディは「悪くねーな」と揶揄うように笑み溢す。
「うわ、思ったより冷たい。ふふ、でもこうしてると星空の中に立ってるみたいで気分が良いね」
「ああ。綺麗な星空。これで舟にでも乗ってたら完全に囲まれて――って、シキちゃん、海に踏み込んでるっ!」
 駄目だなんて笑わない。素敵だと笑うシキを追いかけてサンディはまじまじと眺め続けるだけ。
「今日はえーっと、なんだっけ。たなばた? 一年に一度しか会えないなんて酷い話もあったものだよね。橋くらいいつでも掛けてあげればいいのに。
 ……それに、どうしても隣にいたいと思うなら、夜だって川だって超えて走って行けばいいのにさ……なんてね」
「そーそー、七夕。天の川に橋が架かって、織姫と彦星が1年に1度会える日って話だったかな。
 ま、確かに、お互い別の岸に戻んねーで、そのままどっちかに行っちゃえばいい気もする。……それはそれとして、シキちゃんがそう言うのは意外な気もするぜ。や、別に悪いとかじゃなくて」
 彼女のイメージと違うんだ、とそう囁くサンディを覗き込んでシキは小さく笑みを零した。
「おや、意外かい? だって私ならそうするからさ」
 おいでと手を伸ばすシキは「転ばないよう気をつけてね、隣にいさせてよ」と悪戯めいて囁いた。
 離れているのも寂しいからと踏み込むサンディが冷たいと笑ったその笑顔にかたわらの心地よさへとその心を寄り添わせて。

 耳を澄ませば、潮騒に紛れて微かに風鈴が聞こえてきそうな、そんな夏。
 空は冬よりも遠く。海に訪れた行人にアントワーヌは「行人君と夜の海に来たのはシャイネンナハトのあの日以来だったかな?」と笑みを零す。
「さあ、お手をどうぞ、プリンセス?」
 季節は真逆なのに。星屑が散りばめられた海はあの人変わらずとても綺麗だから。恭しく微笑んだアントワーヌの掌に行人はそっと重ねて。
「あぁ、手を離すなよ?」
 エスコートだと先導する彼女が転びそうになったら、直ぐに引っ張り上げてやろう。何処へ行くと問えば、彼女は「海に」と囁いた。
 外套は砂浜に投げ入れた。アントワーヌの火照った体を醒ます夏の夜。海水の中で心臓の音が聞こえないようにとアントワーヌは言葉を選ぶ。
 夜の冷たさに、星の煌めきが歓待を告げる海の中で、行人は名を呼ばれてアントワーヌを見詰めた。
「ねえ、行人君……なんでもない、星が綺麗だね」
「あぁ。ここに……君と来れて良かった」
 君と、わかり合うように。ゆっくりと歩む。我儘を告げればどんな顔をするだろう?
 例えば――ずっと、一緒に居たい、だとか。

 大人の姿に、子供の心に。「おじさま」と呼ばれたグレイシアは彼女の背を眺め見遣る。
「夜の海って静かだねぇ」
「そうだな……波の音は心を落ち着ける作用もある故、リラックスできて良い」
 ちぐはぐな彼女はどこか拗ねたように、グレイシアの元へと近付いてそうと唇を尖らせた。
「……ね。もう一人の私と、普段どんなお話してるの?」
「どんな話……改めて聞かれると悩むが、軽く言い合いをする事が殆どだろうか」
 大人の心を持ったもうひとりの『私』。『わたし』の体を使った『私』は彼にとってどんな存在なのだろう。
「怒るとか、珍しいねぇ。でも、羨ましいな」
 わたしには怒ってくれないもの。そう呟いたルアナを不思議そうにグレイシアは見遣って。
「羨ましく思う事等、余り無いと思うのだが……ふむ」
 ルアナが知らないグレイシア。それはルアナが『魔王であるグレイシア』を知らないが故。
 もしも、知ってしまったら? ――そう考えてグレイシアは奇妙だと胸を押さえた。それを苦しいと、そう感じた自分は一体如何したのだろう。
 ルアナは彼を見上げて首を傾いで。元々は大人だったわたしが『私』にやきもちを焼くなんて。
 ……あれ? 元々は大人だった、わたし。なら、子供のわたしは間違った存在なのだろうか。

 神ヶ浜に残された恋の句。天香遮那の姉と義兄の、恋伝説のような――そんな甘い物語。
 鹿ノ子の唇はその名をなぞる。蛍火の、ほのかな光。それが恋だというのなら。
 それは僕にはとても似つかわしくない、と。鳴かぬ蛍で等居られない。光るだけの戀でなど終われない。全身で好きだと叫びたい。
 鹿ノ子はその名を呼んだ。
「遮那さん」
 未だ恋を知らぬ貴方へ届けるのならば。
 鳥が囀るようなものでは足りない。
 風が囁くようなものでは足りない。
 月のように静かでも、星のように清かでも、この想いを語るには足りない。
 鮮やかな花が良い。この夜空に咲いて、海に咲いて、極彩色で、貴方の虹彩に焼き付いて離れない、焦がれる花となりたい。
 そうして、刹那で消えてしまっても――きっと僕は後悔なんてしないから。
「……さて、貝殻でも拾って帰るッスかねぇ」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度はご参加有難う御座いました。
 とても素敵な夕闇に、ちりりと風鈴の音を鳴らして。

 皆さんにとって素敵な思い出になりますように。

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