シナリオ詳細
小雪の舞う
オープニング
●
傷というものは、塞がるまでは血を流し続ける。
失血が多となれば命にも関わり、病も呼び寄せよう。
終わった後にも、そこには傷痕が残り続けるものだ。
そして動乱の終結もまた同様に、必ずしも即時の安寧を約束しない。
――昨年の晩秋。豊穣郷カムイグラで勃発していた霞帝と天香――イレギュラーズとデモニアの決戦は、イレギュラーズの勝利によって終結した。
魔は祓われ、神は穢れを落とし、天香は義弟の手に渡る。
戦勝を祝う者、喪に服する者、戦禍からの復興に勤しむ者、国の行く末を見定めんとする者――
人々は様々な思いを年の瀬に響く百八つの鐘の音に重ね、年が明けた。
この地『黄泉津』において、正月というのは重要な祭事である。
人々はこの日のために豪勢な食事を用意し、親族が集まり、一週間程の休暇を過ごす者が多い。
家を飾り、年賀の挨拶に回り、子供達にお小遣いを配り、神社仏閣に参拝する。
今年の運勢を占うクジの結果に一喜一憂し、独特のアミュレット等を購入したりもする。
家ではどのような夢を見たかを語り合い、今年の抱負を書にしたため、独楽や凧、羽子板等で遊ぶのだ。
さて。動乱において、戦場の一つとなった此岸ノ辺の社達は、修繕の真っ最中である。
例年であれば『初詣』等と呼ばれる催しが開かれるのだが、今年はそれを最小限としていた。
大きな影響を受けたのは、この神社の二人の巫女達――つづり(p3n000177)とそそぎ(p3n000178)だ。
いくつかの重要な儀式や挨拶回り、帝達との祝賀会等、諸々の行事を終えた二人は、さっそく暇を出される事になったのである。
戦禍の影響を受けなかった、京の西部にある大きなお寺『京護武正院』で、正月を過ごせとの達しだ。
大きな門の他に鳥居を構えた、神社なのか寺院なのかはっきりしない寺である。
門の前にはいくつもの出店が並び、地元の人々で賑わっている。
寒空の下で何か頬張ったり、手を擦り合わせたり――
鳥居の向こうでは初詣の参拝客達の行列や、巫女達の姿も見えた。
「……そそぎ、こっち」
「ん……」
手をつなぎながら石段を登る双子の後ろには、大きな荷物を抱えた獄人――社の人が付き添っている。
きっと着替えなどが詰め込まれているのだろう。
つづりとそそぎ、『此岸ノ辺の双子巫女』は、この地に蔓延る穢れをその身に集め、祓う役目をになっている。職務がらどちらも体調を崩しがちであるのだが、この日はずいぶんと元気そうだった。
穢れの多くは、カムイグラの社会で虐げられている獄人達の怨嗟であると推測されている。
最高統治者である霞帝は改革を続けているが、社会というものは、一朝一夕には変革出来はしない。
魔種となった天香長胤もまた偉大な政治家であったが、彼をしても獄人達が虐げられる社会を覆すことは――たとえそれを真摯に目指せども――遂に叶わなかったのだ。
けれどそうした社会において、八百万の代表格である長胤が伐たれたという事実は、獄人達の溜飲を幾ばくか下ろしたに違いない。背後に横たわる事情は複雑かつ大きなものであるが、市井の民にといっては無理からぬことであろうから――
「がおー! 久しぶりだね!」
「…ん。お久しぶり」
「ん」
石段の上からいたずらげに顔を覗かせた小さな少女は、白虎(p3n000193)は満面の笑みで両手を広げた。
「二人とも頑張ったって聞いたよ。偉かったね。
そうそう、和尚さんに神使(この地ではイレギュラーズをそう呼ぶ)も呼んでって話したんだ!」
白虎はこの寺院の社(という表現が適切かはさておき)で、祭られている神霊だ。
大陸風に表現するのであれば大精霊であり、乱暴に言えばグリムアザース(八百万)の遠縁である。
仮にも神として祭られているならば、参拝客の言葉を聞いてあげて欲しいものであるが――
問えばきっと「今もちゃんと聞いてるし、本殿の扉は閉まってるから平気だよ」なんて言うのだろう。
それはさておき――この地の『神』というのは、ひどく気まぐれな存在なのかもしれない。
「これはこれは、ようおいで下さいました。神使殿方がご到着めされるまで、しばしおくつろぎくだされ」
和尚の案内で客間に荷物を置いた双子は、縁側に腰掛けて遠く祭りの様子を眺めていた。
白虎はというと、ようやく参拝客の話を真面目に聞く気になったのか、一陣の風と共に姿を消した。
ともあれつづりとそそぎ、二人にとってめずらしい『忙しくないお正月』を『どうすごす』のか。
――それはイレギュラーズにかかっているのかもしれない。
- 小雪の舞う完了
- GM名pipi
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年01月20日 22時05分
- 参加人数30/30人
- 相談6日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
サポートNPC一覧(3人)
リプレイ
●
しんと冷え切った朝の大気に、からころと下駄の音が響く。
「新年明けましておめでとう御座いますっ!」
「……あけましておめでとうございます」
「おめでと……」
元気よく挨拶した花丸に、つづりはぺこりとお辞儀を返し、そそぎはその後ろに隠れた。
「つづりさんとそそぎさんとこうしてお話するのは初めましてになるよね?
花丸ちゃんは笹木 花丸って言うんだ! 改めてこれからよろしくね、二人共っ!」
「「よろしく」」
「……あ」
声を重ねた二人に微笑んだ花丸は二人をお祭りに誘ってみる。
せっかくだから、皆でわいわい見て回ったほうが楽しいだろうから。
そんな訳でお祭りにレッツゴー!
「あけましておめでとう、つづりさん。そそぎさん」
「あけましておめでとう」「おめでとう」
「おや、そそぎにつづりじゃないか。今日はそちらも気分転換か?」
通りを歩けば、津々流にオデット、ベネディクトもまた一行に加わる。
「お正月は忙しいみたいだけど、今年は余裕があるって聞いてね」
「……ん、ありがとう」
津々流に頷く二人。
人見知りのそそぎも、どこかそわそわとしていて、楽しげだ。
「あ、食べたいものとかやりたい事とかあったら遠慮なく言ってね!」
「……ん、じゃあ」
花丸の声につづりが指さしたのは――
「ぶはははっ、さあさ見てった見てった!」
ゴリョウの屋台であった。さすが領主!(?)。
「焼きたてだぜ!」
二人の分のお小遣いも用意した花丸がさっそく買ってあげることにした。
小豆餡を薄い餅の生地でくるみ、虎の刻印が入った鉄板で焼く焼餅は、 パリッとした薄皮の香ばしさが鼻腔をくすぐり、上品な甘さの餡が口の中でとろける。
ゴリョウによるといわゆる梅ヶ枝餅というものらしい。
なんでも知り合いの『ニホンジン』に聞いたとか。
「ぶはははっ、冷えたら炊飯中の釜蓋の上にでも適当に乗せときゃ温め直せるぜ!」
「……二人はどんな食べ物が好きかな」
「おにく」
肉! ゴリョウを見たから!?
出店の数は多く、たこ焼きも焼きそばも、できたてあつあつで美味しそう。
「あっ、このわたあめ、ほんのり紫色で何だかつづりさんとそそぎさんみたいだ」
お餅も買ってみたり。
「買いすぎてしまったな」
端正な面持ちを崩さぬベネディクトだが、両手一杯に熱々の食べ物が抱え込まれている。
「ねぇねぇ、あれってやってみたことある?」
「射的のお店だねえ」
オデットの問いと津々流の言葉に、双子は首を横に振るが、じっと見ている。興味はあるらしい。
射的のお店では、ワルツが小弓を楽しんでいた。故郷での修練を思い出す。
今日は可愛らしい振り袖スタイルでの参戦である。
秋の戦いの後で手に入れた領地から、散歩がてらにふらりと寄ってみたのだ。
思えばこの国では、お酒を飲んだり温泉に入ったり、ぐうたらすることが多い。
ベネディクトもまた、戦いを思い返す。
「あの戦いから、幾つか経つ。色々とあったが、そうして二人が元気で居る姿が見れて良かったと思う」
双子が笑っていられるなら、少なくとも戦いは無駄ではなかったということだ。
「今度は機会があれば共に雷舞でも見に行くか?」
「「ん」」
返事は良好。
続々と仲間達が集う中で、ワルツはほんのり面映ゆい心地だった。
こちらにはあまり知り合いもいないから、いつかは好きな子を誘って一緒にのんびり過ごしたい――なんて考えてしまって。しかしこんな所まで来てくれるだろうか。
誘えば来ると分かっているのは理性の側であり、いざ言葉に出すには、かなりの気合いが必要なのだ。
「そうだ、どちらがたくさん的を倒せるかちょっと勝負してみないかい?」
津々流に乗ったのは、意外にもそそぎだった。
そんな訳でいざ尋常に勝負。
「負けないから」
「こっちも負けないよ。それっ!」
小弓に手こずったオデットは、けれど首を振る。双子の前で風精の手を借りるのは野暮だろうから。
「一緒に巡るお祭りは楽しいわね」
「「ん」」
こくりと頷く二人に、今度はリンゴ飴を手渡して。
オデットが食べたかっただけだけれど。良いのだ、だってリンゴが好きなのだもの。
日は徐々に高くなり、昼時だ。
『祭りが開催されるなら十分と言えるな』
「だね」
こうしてみれば、豊穣郷もずいぶん平和になったものだと感じる。
そんなティア達の前で辺りを見回しているのはリコであった。
初めてのお祭りを楽しんでいたのだが、迷子になってしまった。
「豊穣は初めて?」」
「道に迷って困っていたの、もしご迷惑じゃなければ案内して貰えないでしょうか」
「うん、大丈夫。案内するよ」
「ありがとう」
「っと、私はティア、貴女の名前は?」
「私はリコ、リコ・マールエスカよ」
自己紹介を終えた二人は出店の並ぶ参道をゆっくりと歩き出す。
「向こうには何があるの?」
「それはりんご飴だね、小さな林檎を飴で覆ったお菓子だよ」
「キラキラしてて素敵ね! あっちのあれはなぁに?」
「たこ焼きだね、蛸の足を小さく切って生地で包んで焼いた物だよ」
「た、たこさん……?」
「食べてみる?」
「えったべ……あっ美味しい!?」
リンゴ飴にたこ焼きに。初めての味に、ついつい笑みがこぼれる。
お次のこちらは。
「わたあめ、砂糖を焼いて柔らかい綿の様な飴を作って纏めた物かな」
「ふわふわしてて可愛い! ティアちゃんみたい!」
●
広いお寺の庭では、振り袖を着付けて貰ったエルが、庸介を羽根突きに誘っていた。
回りを見たエルは、同じように遊んでみたいと思ったのだ。
「……昔にやって、いつ以来であろうか」
「えいっ」
遊び方を教えた庸介は、無心になって、撃ち返しやすい場所に返してやる。
思えば不思議なものだ。
ただ羽を打って返すだけの遊びだが、子供の頃は夢中になって遊んでいた。
気付けばエルが息を切らせているから。
「お茶にしようか」
「ありがとうございます」
煎茶を楽しめば身体の中からぽかぽかと温かくなってくる。
「浜地さんは、とってもお上手だって、エルは思いました」
「俺は上手などではない、普通だ。だが、故郷を思い出した」
ほっこりとした時間が過ぎて行き――
「皆、あけましておめでとー! 今年も仲良くしてね!」
「おーっす! あけましておめでとう! 今年もよろしくな!」
「……あけましておめでとうございます」
双子が境内に帰ってくるとクレマァダに焔、風牙にルカ、それから炬燵(?)が次々に集まってくる。
「去年は変化の年だったから、今年は飛躍の年だ! 気持ちよーくババーンと飛ぶぜ! みんなでな!」
そう『みんなで』。
「お前らと遊びたくて、さっそくこんなに人が集まっちまった。
こりゃあ、今年は忙しいぜ? 楽しくってな?」
「うん、お正月らしい遊びをいっぱいしよう!」
風牙と焔に双子が頷く。
「実はボクも元の世界では御役目があったからお正月に遊んだりしたことって殆どないんだよね」
焔も巫女仲間故、よくわかる。
「あっ、でも皆が遊んでるのを見たりはしてたし、ちゃんと遊び方はわかるから大丈夫だよ!」
「……ん、わたしも」
「そうね」
そんな訳で、さっそく楽しく行こう。
「外で炬燵に入るのもなかなか乙なものだと思うが、二人はどうだ。炬燵に入っていかないか?」
「……妖?」
妖ではない。
「ふ、二人ともお疲れ様だな。色々、あっただろう。これからも色々あるだろう。
だが、姉妹仲良くな。時にはこうして自堕落に過ごしてみるのも悪くないだろう」
「お前ら、のんびりできる正月は珍しいんだって? 何かやりたいことあるか?」
風牙の問いに考え込む双子。
「正月といえば色々あるよなー。 凧あげ、独楽回し、羽子板、福笑いとかもあるか?
「凧?」
まずは凧揚げだ。
「ほう、独楽に凧。海洋の凧はこう、菱形になっておってな……」
「あまりしたことはないから」
「なーに、我も遊びなんて然程やったことはない。一緒に覚えよう!」
幾度か落としてしまったが、ついに凧が風に乗った。
腕に伝わる風の手応えが心地よい。
纏はこちらに来て日が浅い自身に出来る遊びは何かと考えていた。
独楽回しやけん玉はハードルが高そうだ。
器用さより反射神経に自信がある。
ならば羽子板の壁打ちを練習してみよう。
「いっしょに、どう?」
つづりの提案に纏も参戦だ。
そんな訳で、お次は羽根突き。
「って、焔に風牙も何やら詳しそうじゃのう……
名前の感じからして豊穣とよく似た文化の世界から来たのはわかるが」
「……羽根突きは、そそぎと少し遊んだことがある」
「そうね」
「ふむ、お主等もか」
「ふふ、羽子板か。ばっちり教えるぜ」
ニヤリと笑った風牙の提案に、クレマァダが胸を張る。
「よし、初心者には丁寧に教えるが良い!」
やるのは初めてだと焔。
ならばクレマァダと纏と双子チーム、焔と風牙チームだ。
「でも四人相手だって負けないから!」
「もちろん、負けたら顔に墨だ! ヒヒヒヒッ」
「私達も、負けない。ね、そそぎ、クレマァダ」
そんな訳でまずは練習。
「お顔が真っ黒になる覚悟をしておくよいいよ! それっ!」
これが意外と難しい。
「……あれ? これ、ちゃんと当てるの意外と難しいね?」
「やはり勝負が絡むと実力差が出てしまうのう」
クレマァダが考え込む。さすが現地民、この双子は息も合っており意外と強い。
ともあれ、そろそろ慣れてきた頃。
「負けた者は顔に墨でどうじゃ!」
戦いはいよいよ真剣勝負に突入する。
「だったら俺も参戦するぜ」
いくらかの墨が描かれた頃、ルカが乗った。
「俺は大人だからな。ガキ二人相手にするぐれぇ余裕だ。二人同時にかかってきな!」
ルカの言葉に頬を膨らませたそそぎが思い切り打ち込む。
これは――!
「いや、難しくねえか? ていうかお前らうまくねえか?」
羽子板で羽を破壊する――とかなら負けないのだが、なかなかどうして難しい遊びだ。
「よし、俺も男だ。負けたんだから四の五の言わねえ。顔に落書きしろ! ほら、つづりも遠慮すんな。そこまで含めて遊びだろ」
「……じゃあ」
\石油王/
どこで知った、そんな単語。海外ニュースか。
勝負の行方は――結局全員が墨だらけになった。
微笑むつづりとふくれつらのそそぎだが、楽しそうでなにより。
そんな様子を眺め、和尚と書き初めをするのは鬼灯であった。
忍集団『暦』の頭領なれば、字もまた美しい。
「ん? どうした章殿」
「私も書き初めをしてみたいのだわ!」
両手で筆を握る章の姿が愛らしく、つい笑みが零れる。
「かけたのだわ! えへへ」
「そうか、自身の名を書かれたのだな章殿。上手に書けたな」
章姫と懸命に書いてある、これは額に飾らねば。 暦の皆もさぞ驚くだろう。
「お見事ですな」
頷く和尚。
晴れ着と顔と手が墨で汚れてしまったが、楽しそうだからヨシ! 後で洗ってやろう。
●
昼食時を過ぎ、境内のほうは人もまばらになってきた。
鳥居の向こうは白虎の社になっている。
つづりとそそぎを連れた朝顔が、おみくじを引こうとやってきた。
同じ獄人ではあったが、あまり関わっていなかったし、二人のおみくじ代なら持てる。
「はじめてひく」
意外にもつづりはそう述べ、そそぎも頷く。
朝顔は何より恋愛成就のために、今年は特に頑張らないといけないと感じているのだ。
「それでは引きましょうか。……どうか良い運勢でありますように!」
中吉。悪くない、気になる恋愛は『心に寄り添い、苦難を支えよ』か、これは気が引き締まる。
「お二人はどうでした?」
「……吉」
「私は……中吉?」
悪くない感じで良かった。
自身を戒める気持ちで持ち歩き、境内に結ぶのは後日としよう。
後は――天香家へ行くのだ。胸を焦し続ける想いと向き合うために。
澄恋も今年の運勢が知りたい。
やはり最重要なのは恋愛運(らぶらぶ・ぱわー)!
去年は凶で、沢山の人にフられたり結婚詐欺にあったりと、芳しくは無かった。
( ……ええ、全て凶のせいです。
わたしが悪かったのではなく、たまたま運が悪くて、全財産騙し取られただけですよ)
今年こそは大吉を引いて、運命の人と出会いたい!
という訳で。
――大。
これは?
\大凶/
「すみません、恋愛成就のお守りあるだけください……」
つい美味しそうで、焼きたての紅白餅を頬張ったメイメイもまた社に足を運ぶ。
教わった作法通りに礼と拍をして。
――白虎さまのように、つよく、なれますように。
「なれるよ、がおー!」
「……わ」
現れたのは白い髪に虎の耳と尻尾の小さな少女。
「が、がおー……新年、おめでとうござい、ます」
祀られている当人と話すのも、なんだか不思議なもので。
「今は汝達、神使しか居ないからね!」
ではお次のおみくじは、なんとメイメイは大吉だ。
お供えを、と思って出店で買った食べ物を持ってきた黒子であったが、この目の前の少女が白虎らしい。
「ありがとー! うん、おいしい!」
念のために猫科がダメなものは避けたが、大丈夫そうな気もする。
豊穣に領土を預かる身としては、この後は宮中に顔を出しておきたい所だ。
まず内政を落ち着かせ、自凝島の後片付けを行う為に。
根回しと情報収集も重要そうだろう。
そんなこんなで夕暮れ時。
「ねぇ! ヴァリューシャ! 白虎君も呼んで羽子板って遊びしてみないかい?」
マリアの提案に、ヴァレーリヤが小首を傾げる。
「『はごいた』……そういう遊びもありますのね?」
「私もやったことないんだけど、失敗すると墨で顔に落書きされるんだって!」
「私もよく知らないけれど、顔に落書きできるって楽しそうですわねっ! やりましょうやりましょう!」
「汝等、呼んだかい? 羽子板だね? だったら負けないよ!」
「白虎君! うん、やろうやろう!」
「ホワイトタイガーくんですわね」
「そうだよ!」
「ふふー! 三人で三角ラリー形式にしましょう! 途中反対回りにすれば皆で打ち合えるはず!」
そんな訳で試合開始!
「負けないよ!」
「私も負けませんわよー! どっせえーーーい!!」
早速ヴァレーリヤが打った。
一つ分かったことがある。三人(?)とも、ド下手くそだ!
白虎に書かれたのは『可愛い虎』や虎の顔、それから虎のお髭。
「ヴァリューシャ!? 羽子板貫通はずるいよ!?」
「作戦勝ちですわ? ではマリィ、覚悟して目を閉じてくださいな」
「どうして……」
気付かれぬよう、頬にそっと口づけ一つ、それから書いた文字は――『好き』。
人差し指を唇にあてて白虎を振り返れば、白虎も楽しげに頷いた。
「次は負けないよ!」
「あっあっ、簡単に打ち返すだなんて卑怯でしてよ! むう、私が完全勝利の予定でしたのに……」
書いた文字は『大好き』『愛してる』。
マリアも白虎と顔を見合わせてにっこり。
内緒と言われたものだから「これ皆に見られる」だとか「鏡を見たら気付くかもしれない」だとか。
そんなこと、いたずらっ子の白虎は教えてなんてあげなかった。
●
夕暮れ、お寺の土間から美味しそうな香りが漂ってくる。
「正月……年賀……ごはん……」
人は美味な食べ物を望むもの。
貧しき者も富む者も、美味しい食べ物があれば皆嬉しいのだ。
アヴニールに寛治、沙月、アーリアと白虎、それから双子巫女は客間で夕食の時間だ。
(つまり、美味シい食べ物はヒトノ幸福ノひとつノ形。
美味シいもノを食べるお正月、お年賀は幸福を目に見える形で示す行事)
アヴニールは思う。
この幸福が一年続くように、身体に取り込む大切な儀式だと。
「遊んでお疲れのようですし、ゆっくりしましょう」
「よく遊び。よく食べ。よく眠る。君達くらいの年齢なら、それが一番だろう」
「……はい」
「ん」
沙月と愛無の声に、双子が頷いた。
さてどれが食べやすいだろう。愛無は思案する。懐石は大人好みの味が多そうだ。
「どれ。何が食べたいかな。よそってあげよう」
「これ」
つづりは早速、愛無によそってもらったかぼちゃの天ぷらに手を付けているが、そそぎは――
「あぁ、でもそそぎ君。干し柿は最後にしておきたまえ。他の物が食べられなくなるからね」
「べ、べつにいいじゃない」
「冗談だ。それにしても、二人で新しい年を迎える姿がみれて良かったよ」
「ほらほら和尚さん、前に飲んだのとまた別のもきっと隠してるんでしょう?」
「あ、あの! 神使様」
「新年よぉ、おめでたい日よぉ?」
「はい……こちらに」
よし、般若湯確保だ。
「精進懐石とは、年末年始の暴飲暴食で疲れた胃に優しい食事になりそうですね」
そんなことを言いながら、寛治も早速般若湯を頂く。
「さあ夜はこれから!」
そんな訳で、アーリアと寛治が乾杯の音頭を取る。
「乾杯!」「「乾杯!」」
精進といっても適度に肉や魚が混じる、素人にも優しい品書きだと嬉しいが、はてさて。
「それにしてもこの精進料理って不思議よねぇ。
お刺身っぽいのに違うし、お肉と思ったらお豆腐だなんて!」
アーリアの言葉通り、こんにゃくや生麩に高野豆腐はなんとも不思議な料理だ。
沙月がお願いしたのは、豆腐尽くしの優しい懐石だ。大豆香る湯葉のお刺身からスタート。
「おや、もう早い所では筍ですか」
「これはどんな食べ物? 何で出来ているノかな?」
「柔らかい内の生筍をじっくりと焼いていますね、焚藻塩を振っていただくだけで美味しいものです」
寛治の説明にアヴニールも一口。香り高くて美味しい。
「美味シい料理を作る人は『美味シい』ノ祝福を与える巫(かんなぎ)。与える事を知る者。
そノ想いを、食べ物を粗末にするノは『良くない』事……大事に、美味シく食べよう」
おひたしは菜の花。
「早い所では、来月頃から開花でしょうか」
ねっとりとした海老芋の天ぷらは、皮ごと香ばしく揚げてあるのが良い。
「これを」
アヴニールが差し出した海老芋を、つづりが頂く。
幸福のお裾分けだ。
「我はお肉がいいよ!」
「わたしも」
白虎とそそぎが早速生臭を所望する。
「皆さんもお召し上がりになられますか?」
「これはありがたいですね」
白虎も居るからか、ワカサギの天ぷらや、炙った鹿肉もあるらしい。これには寛治もにっこりだ。
「白虎ちゃん、今年もよろしくねぇ」
「うん、よろしく!」
「またお手合わせもお願いしたいし、色んな国の美味しい手土産も持ってくるから!」
「すっごく楽しみ! ねえ、もっと飲もうよ!」
「もちろんよぉ」
ほっぺをつついたり耳を撫でたりすると、白虎が目を細める。
神様とは解っているけれど、この可愛さは愛でてしまうのだ。
「お二人はどれがお好みでしたか?」
「このお肉」
「……私はこれ。沙月は、どれが好き?」
そそぎは肉、つづりはアヴニールに貰った海老芋がお気に召したらしい。
「どれも美味しいと思いますが、湯豆腐が特に良いですね」
温かい物が骨身に染みるのは冬だからかもしれないが。
寛治はお雑煮のスタイルが気になる所だが。
「ほう、これは」
白味噌と昆布。なにより丸餅にきなこを付けるのは珍しい。
それから――
「いいの?」
「どうか遠慮なさらずに」
沙月が甘味の小皿を差し出した。つづりとそそぎにプレゼントだ。
「これからも二人が、そうして並んでいられるよう、僕も祈っているよ」
食べ終えた双子を愛無が見送る。
もちろん何かあれば手伝う所存だ。
夜も更け――
ヒノキの浴室に音が響く。
外との温度差で煙る湯気に、陽気な歌声が響く。
美しい金色の長い髪を濡らさぬよう、頭の上でまとめているのは、豊満なシルエット。
身体の芯から温まり、頬が、首筋が、肩が、胸が艶やかな朱に染まっている。
顎先の雫が流線型を描き、胸をくすぐり湯船に流れ――
誰かがごくりと喉を鳴らした。
「ふふっ美女だと思った? おしいね! ハンモちゃんだよ!!」
――男湯だ!
「貴方達も元気そーだね、良かった……」
女湯ではミルヴィと双子がゆったりと湯を楽しんでいる。
天窓から注ぐ月光が美しい。
やはり家族は一緒が良い。背を流しあうこの二人なら大丈夫だろう。
また何かあったなら力を貸すつもりだ。
「ん、辛いかもしんないけど夏になったらお墓参りいこっ」
「……ん」
「そう、ね」
亡くなれば皆仏。敵も味方も関係ない。
死を悼み、悲劇を繰り返さぬことが肝要だ。
ところでそそぎの視線がミルヴィの肢体をちらちらと眺めている。
「アタシのスタイルが気になるの……?」
「そんな、こと、ない」
そうは言うが、強がりは見てとれる。
もう十代ならば体型が気になる年頃だろう。
「秘訣は無いけど、見られる事かなー?
アタシ人前で踊るから見られるならキレイなほうがいいって色々気を使ってるよー
貴方達にも今度美容法おしえたげるねっ♪」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
のんびりとした年明けをお楽しみいただければ幸いです。
そういや今年お雑煮食べてないな……。
それではまた皆さんとのご縁を願って。pipiでした。
GMコメント
pipiです。
お正月ですね。
このたび、皆さんにお誘いがありました。
カムイグラの京護武正院(白虎が祀られている所)で、のんびり遊びましょう。
●目的
高天京西部に位置する京護武正院でお正月を楽しく過ごす。
日帰りでも一泊でも、ご自由に。
●プレイング書式
【グループor同行者ID】
【A】
本文
上記の形式でお書きください。
例:
アルテナ・フォルテ(p3n000007)
【A】
ごはんたべるぞ!
●ロケーション
京護武正院という神社なのかお寺なのかよく分からない場所です。
敷地はとても広いです。
そこそこの人手ですが、今年はとても控えめなようです。
時刻は朝から夜中ぐらいまでを扱います。
『A:お祭り』
門の前で出店が並んでいます。
たこ焼き、焼きそば、わたあめ、お面、射的(小弓でやる)など、様々。
紅白のお餅を焼いたりなんかもしています。
『B:お寺の庭』
あちこちでお経を読んだり、護摩を焚いたりしています。なんだかウッディな香り。
とても広いので、裏の方で凧揚げや羽子板などで遊んでも良いでしょう。
遠くの小山には鳥居があり、白虎の社もあります。
そっちでは巫女さん達がお守りやおみくじなんかを売っています。
古いお守りなんかを納札させてくれたりもするようです。
来週あたりに、それを焼いて天に還す行事をするようです。
『C:屋内』
書き初めなどはこちら。
他にはお茶を飲んだり、ご飯を食べたりも出来ます。
メニューはお茶菓子にお茶、お寿司や鰻、お豆腐尽くしの精進懐石……それから般若湯(!)。
寝泊まりは客間とヒノキの広いお風呂が用意されています。
お風呂は男女別。混浴はなぜか水着で(性別不明も混浴で)お楽しみ下さい。
・精進懐石メニュー(夜)の一例
さきづけ:胡麻豆腐、切り干し大根と厚揚げの煮付け、ふき味噌
おさしみ:こんにゃくと湯葉
あげもの:春の山菜とお野菜の天ぷら
にもの:高野豆腐と根菜の煮物
やきもの:がんもどき
しるもの:小椀のお雑煮
あつもの:湯豆腐
くわいの炊き込みご飯とお吸い物、香の物
甘味:干し柿
『D:その他』
ありそうなものがあり、出来そうなことが出来ます。
●諸注意
未成年の飲酒喫煙はできません。UNKNOWNは自己申告です。
●同行NPC
呼べば行ける場所には行きます。
なにもなければ特に描写はされません。
『武神』白虎(p3n000193)
ここに祀られている神霊。
皆さんの前には、可愛らしい猫耳猫尻尾の、小さな少女の姿で現れます。
呼べばどこにでも現れます。
『此岸ノ辺の双子巫女』つづり(p3n000177)
遠慮がちで控えめな性格ですが、皆さんには極めて強い好意を持っています。
呼べばそそぎと一緒に現れます。
『此岸ノ辺の双子巫女』そそぎ(p3n000178)
意地っ張りで人見知りする性格ですが、皆さんには極めて強い好意を持っています。
呼べばつづりと一緒に現れます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
なぜならば、ありそうなものは、あって良いからです。
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