シナリオ詳細
うす紫は皐月に揺れて
オープニング
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天蓋を覆ったうす紫は何処までも鮮やかに。
吹く風は春と夏の気配を混ぜて、柔らかに頬を撫でた。揺れた天蓋より下がるうす紫は和やかな午後に揺れるカーテンを思わせる。
混沌世界の春は何処までも穏やかだ。暖かな空気を感じさせるのは幻想国の気候もあるのかもしれないがどれも満足いくものではなかろうか。幻想の片田舎――旅人たちは懐かしいと口にする事があるかもしれないが『和』のテイストを感じさせたそこにはフジと呼ばれる花が咲き誇る空間があった。
うす紫は風にゆるりと揺れている。晴れ渡った青さえも覆い隠してしまうその気配に身を委ねれば、気付けば世界は色を変えることだろう。
「あー……」
ずず、と鼻を啜って『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)は世界が変われど花粉症は変わらないのだと現実逃避を行っていた。
「超戦隊ギガレンジャーでもあったよね。ヒロインが花粉症でさ、何で泣いてるのって?
はは……俺にヒロインいないんだけど……あ、どもども」
待ってましたと言わんばかりに美少女キャラの描かれた紙バックを手に提げて雪風は手を振った。
「藤って知ってます? そう、紫色の。
藤棚とかからつり下がってるやつ……カーテンみたいなんだけどね、あれを見に行かないかなあって」
眠たげな目を擦り、ベンチに腰掛けた雪風はローレットから聞こえる喧騒に心地よさそうに目を細める。猫のように眠たげな仕草を見せた彼はうんと一つ伸びをした。
「俺も馴染みなないんだけど……幻想の田舎の方に藤がきれいな場所があって。
団子とかお茶とか美味しいし、藤見とか通り抜けとかどうかなーっていうお誘い」
ぽそりと、プチレディきららちゃんの5話でもあったなぁ、と雪風は小さく呟いた。
三食団子に、香ばしさを感じさせる日本茶。その場所はファンタジー世界の幻想とはどこか掛け離れて感じられるのかもしれない。
だからこそ、現代日本から召喚されたという情報屋はその場所を特異運命座標たちに紹介したかったのだろう。
「……まあ、休憩も必要だとおもうんだわ。のーんびりね。花でも見てみようよ」
鮮やかな藤色の下、さあ、どうぞ、うす紫の世界へと。
- うす紫は皐月に揺れて完了
- GM名日下部あやめ
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年05月09日 21時30分
- 参加人数50/50人
- 相談10日
- 参加費50RC
参加者 : 50 人
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参加者一覧(50人)
リプレイ
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天蓋の紫を見て、美しいと感じるのは当たり前のことで。
春と夏の混ざり合う気配の中、指先を伸ばせば小花はどこか恥ずかしそうに白磁の膚を擽った。
「美しいお花を見ると心が落ち着きますね」
藤棚を眺め、椅子に腰かけたアズライールはほ、と胸を撫で下ろす。手にした茶器の中では淡い色が揺れている。
情報屋より『団子がおいしい』と聞いてはいたが団子と言うのは何なのだろうかと彼女はゆっくりと首を傾いだ。
「んーっ、美味しいぃぃ!」
藤棚の通り道に、美しい道程にはしゃぎつかれたアリスは幾らでも食べられると頬に手を添えた。
美しい藤の花を教えてくれた雪風に礼を言わなくちゃという考えは団子で倍増されていく。
「最初のオススメの藤棚があんなに綺麗だったんだからこっちも期待できるよね!」
膝の上に並べた皿の上で三食の団子がアリスに食べられることを待つように佇んでいる。
一口、口に含めば頬が緩むのは仕方がない。魔法少女だって食事には負けてしまうのだ。
「あ、すいませーんっ。お団子の追加お願いしますっ! 大変な事があった分、やっぱり楽しい事がないとだよねっ!」
アリスの様子にぱちりと瞬いたアズライールはあんみつ、抹茶のアイス、と指先を揺れ動かした。
折角の茶屋だ。精一杯に楽しもう――美味しいものは心の健康にも良いのだから。
「ほう、これはこれは……」
見事だ、と手を伸ばせば花は挨拶をするようにレオンハルトに寄り添った。園庭の息子として、見慣れた花々であれど、この場所に咲く花は見事だと感嘆を漏らすほどで。
誰ぞが愛情込めて育てたのだろうか――藤の花は歴史が長い。流るる時を曖昧に過ごしながらもその花は季節になれば花開く。
揺れる藤の花を労わるように添えた指先に花はゆるりと寄り添った。
(さて、お団子でも貰って、スケッチブックでこの花を描くか……一流の画家には劣るが、少しでもこの風景を保存しておきたい)
色鉛筆の紫と白。使う色はどれも美しいものだ。揺れる藤の花を目で追って、ティエルは気になるにゃあと瞬いた。
――なぁご。
喉が鳴り、指先は咲いている花へと伸びかけてティエルは首を振る。いけない、折角咲いている花なのだ。あまり乱暴はしない方がいいだろう。
「にゃぁ……お団子おかわり」
花は見るから美しい。ついつい『猫』の気持ちでじゃれついてしまっては――
「わーっ、幻想にこんな立派な藤棚があるなんて!」
見渡す限りの紫に目を輝かした津々流は藤棚を眺める背中に気付き、ぱちりと瞬いた。
(ん……、この場所……何だか、不思議な所。
ぽかぽか……暖かくて、良い天気……だから。美味しい物、食べて。過ごせたら、良いな)
はあ、と深く息を吐きだしたチック。鼻孔を擽る香りの心地よさに胸の奥に穏やかな気配を感じる。
茫と見上げるチックは藤の花に攫われるかのような気配を感じさせて。きっと彼もこの穏やかな花の日を楽しんでいるのだろうと津々流は目を細めた。
「こんにちは。君も観光かい? あっ、僕は鳶島津々流っていうんだ、よろしくね」
「……ん、と。おれは……チック・シュテル。よろしくね、津々流」
こて、と首を傾げたチックに津々流は「山田さんが言っていたお茶屋さんにいってみない?」と柔らかに語りかけた。
噂の団子を三串とお茶を、という津々流にチックは「ダイフク?」とぱちりと瞬く。
「……! これ、もちもち…柔らかくて、美味しい」
「こっちも本当においしい。……チックさんもおひとついかがかな?」
こんなにおいしいのだから、どうせなら分け合いたいその言葉にチックは大きく頷いて見せた。
「藤の花がとてもとても綺麗で、見ているだけで和みます……」
幸福そうに微笑んでマナは椅子に深く腰掛けた。決して柔らかくはないが赤い敷物が敷かれたそれはどこか心地よい。
藤の香りと団子、それに二人とお茶が出来てほっこり気分。そんなシオンは藤の花びらが飛んできたと手を伸ばす。
「そーだ……二人は和菓子って言うんだっけ……和菓子はどんなのが好き?
俺はお団子と最中と羊羹と……というか全部好きだけど……本当なら全部頼みたいけどね」
――レオンにツケで。
なんて、囁いたシオンの言葉にミディーセラは小さく笑う。旅人たち曰く『見慣れた花』はミディーセラには不思議なもので。
ツケという言葉に慌てるマナにミディーセラはくすくすと笑みを漏らし、和菓子、と呟いた。
「聞いていた通り、この……三食団子? もおいしいのです。昔食べた……きなこ? がとても記憶に残っていますわ」
日本茶も美味しいけれど、日本酒も美味しい。『日本』と呼ばれる場所に何時か旅してみたいと瞬くミディーセラにもちもちと団子を頬張るマナはこくりと頷いた。
「ん……何だか眠くなってきた……ミディー尻尾かしてー……」
「はい……藤の香りと暖かな陽のせいか、少し眠くなってきますね………ゾーンブルク様の尻尾……もふもふで気持ちよさそうです……」
目を擦るシオンに釣られた様にマナはふわ、と小さく欠伸を一つ。穏やかな陽気は三人を包み込む様に藤の香を運んで。
●
幻想にこういった場所があるのは珍しい――最近の騒動は心を騒がすものばかりだから。
ハイドにとっても鮮やかな景色とお菓子を味わえるのはとても嬉しい事に感じられる。
(藤棚の花は、ゆるりと見ていくつもりで行きますよ。
なるほど。別世界の……確か『ニホン』という場所でしたか)
旅人たちの中でよく口にされる『ニホン』という世界軸。その場所には同じく藤が咲いているのだろうとハイドはゆるりと顔を上げた。
鮮やかなうす紫を見遣りながら和菓子を楽しもうとハイドはゆっくりと腰掛ける。雪風が口にした団子のお味は――噂と違わぬ美味しさで。
「きれーな花があんだってさ、リヴ。あーしらの故郷にはない花なんだって」
行ってみない? と首を傾げたマリネにオリヴァーは大きく頷いた。観た事ない奴をマリネが見たいなら、と頷くオリヴァーに満足げにマリネは微笑む。
「わー……紫で、沢山。隙間、無いくらい……富士っていうの? 凄い、ね」
「ね、リヴ、ここ、飛んだら気持ちよさそーじゃね?」
うす紫のカーテンを掻き分ける様に飛べば、きっと心地が良いはずだ。見慣れた景色も新鮮に見える様な――そんな楽しい飛行が楽しめる筈。
「あ、あーし好きだわ、この香り」
「……匂い、凄い、ね。……なんだか……心地、いい?」
こくりと頷くマリネにオリヴァーは頷いた。マリネから香った藤の香り。それも心地よくって。いつもと違って世界は新鮮だ。
「……ねむねむ、エネルギー不足」
眠たげなマリスの傍らで鈴音はしっぽをゆらゆらと揺らす。鈴音が居た世界には藤の花も藤棚もあったのだと幸せそうに尾は揺れた。
「ふにゃっ!?」
転びかけた鈴音に笑って手を差し伸べたマリスは「茶屋があるとか? 少し休みましょうか」と鈴音を誘った。
席に着き20本の団子を頬張り始めるマリスに鈴音はぱちぱちと幾度も瞬く。
「んー、デザートだけに無駄な出費はしたくないんですが。常時眠気ありだと、頭の回転も鈍ってしまうので……」
「す、すごい量ですの……」
どうぞ、と渡された団子に猫耳をへにゃりと折って鈴音はいいですの?と首傾ぐ。
「ええ。のんびり花見団子も悪くないと思うのです」
「綺麗なお花と甘味ですものね、のんびりも素敵だと思いますにゃ~」
雪風から聞いた藤棚が気になったとジェーリーはのんびりと藤棚を歩む。陸に上がって数十年――こうして季節を楽しむ草花の風習はやはり素敵に感じられる。
一年を変わりなく過ごすのではなく、一つ一つの季節を大事に過ごすのはとても素晴らしい文化に思える。
「そうだわ、藤をモチーフにしたお菓子とかあったら食べたいわね!」
へらりと笑ったジェーリー。お茶も好きなの、と合わせて出されたうす紫のセットは心を穏やかにさせた。
「すごい……私の、髪の色と……同じ花。まるで……私も、花の中に……溶け込んでいくみたい」
はあ、と息を吐きだしてウォリアはぱちりと何度も瞬く。手袋をはずした指先は優しく花を撫でつける。
花に見とれているから――つい足先に絡んだ小石に気付かない。
「わ、」
小さく声を出して頬を赤らめる。ああ、けれどその姿さえ隠してしまうような藤色が何所までも美しいから。
「ふぅ……ここまで、足を伸ばして……良かったです」
もう少しその色に溺れて居よう。綺麗な思い出が何よりも幸せだから。
「こっちの世界にも藤の花があったんだ、ちょっと懐かしいなぁ」
顔を上げ、藤に頬を緩ませた焔が向かうのは茶屋。どうやら藤が良く見える席には先客がいる様で……
「花より団子。とはいうけれど、どっちも堪能したいよねぇ」
団子をもぐもぐと頬張るルアナはぱちり、と瞬く。美味しそうだなあと少し控えめに席に着いた焔。
おいしそうだなあとルアナの手にした団子を注文した焔にルアナはにこりと微笑んだ。
「ねぇねぇ。あなたも一人でお団子食べてるの? よかったら一緒にたべない?」
かち合った宝石の様な美しい瞳。それに魅了された様に焔は大きく頷いた。
「うん、もちろん!誰かと一緒に食べた方がもっと美味しくなるもんね!」
新しい友人も、共に食べればとても幸せだ。
「あ、貴方はパンティの時の御仁! お久しぶりです! ピンク殿は初めてですね!」
パンティの御仁という言葉に勇司の表情がひきつった。
「あらぬ誤解を招きかねない――!」
悲痛なる勇司の声。それにくすくすと笑みを漏らしたのはアマリリス。「うへへ」と笑ったアマリリスが持参したのはお弁当――だが「アマリリス! 手!」と勇司のツッコミが入る。
「え? あ、大丈夫です。見た目と指先に難ありですが、多分味は大丈夫です! 味見もちゃんとしましたからー!!」
「お弁当、わかってますよ! こちらも用意しました、お師匠が!」
ルル家の面倒を見ようか――なんて、竜胆の考えは突然の『パンティ殿』の襲来で可笑しな状況に陥っている。
アマリリスの友人だというレンが増えれば竜胆は「ダブルデートなの? 見せつけてるのかしら」とつい、口から出てしまう。
「ああ、自己紹介が遅れたな。鉄帝から召喚されたレンだ。拳闘士をやっていた」
「ええ、よろしくね? それで、お弁当……だけれど」
トカゲもありますと微笑むルル家をちらりと見やってから竜胆は首を振る。それは食べ物ではない気がする――生だし。
「じゃじゃーん! これがルル家特製おにぎりです!
具はタコとか入ってます!直径50cmの食べごたえのあるおにぎりですよ!」
「二人とももう少し勉強が必要みたいね」
アマリリスの手の怪我とルルイエのおにぎりを確認して竜胆は肩を竦める。勿論、竜胆の料理は確りと美味しい出来だ。
「ふふふ、レン殿、踊り食いは癖になりますよ!」
「成程、トカゲの丸のみか。良質な蛋白質だ、効率がいい。されど罪悪感があるな踊り食いは」
頷くレン。その様子にアマリリスは「旅人なら食べれるのでしょうか……」と声を震わせた。
「きゃあレンくん! だめぇとかげたべちゃだめ!」
「ルル家の言った事を本気にするなそいつは食べ物じゃ……蛋白質って食うのか!?」
慌てるアマリリスと勇司。もはや慣れ切ってしまった竜胆は肩を竦めて弟子の様子を伺っている。
「ところでチューリップって食べれますか?」
――マイペースなルル家はまだまだここからだ。
●
「薄紫のベールをまとったみたい。これは見事な……」
空に混ざりそうな淡い色。藤色を見上げたクラリーチェは目を細めてはあ、と溜息一つ。
「よぉ、クラリーチェ。奇遇だな」
ひらりと手を振ったウィリアムの声音にクラリーチェはぱちりと瞬いた。奇遇ですね、と小さく告げて。
傍らに座り並べた団子に手を伸ばし、話すは取り留めのない会話。ウィリアムにとっては研究と違う対話はどこか擽ったい。
「お前って、依頼の無い日は何してるんだ?」
「依頼……ギルドのお仕事の無い日は、教会で日々のお勤めを。信者さんのお話を聞いたり、お祈りをしたり。ウィリアムさんは?」
「俺は読書とか、魔術の研究とか……最近は、街角で知り合いと話す事も多いかな」
そうしてたくさんの話をしよう、ひとつ、ひとつと重ねて知ればきっと新しい世界が見えるはずだから。
「藤棚も綺麗だったが、ピクニックもいいな!」
開いたレジャーシート。リゲルの傍らでポテトは「じゃーん」と幸福そうに笑みを溢した。
「お勧めは自家製ローストビーフたっぷりのサンドイッチだ。リゲルの為に作ったから、リゲルが喜んでくれると嬉しい」
ポテトのきらきらと輝くその瞳にどこか照れくさささえも感じてしまう――暖かい紅茶を手渡して、リゲルは柔らかにはにかんだ。
「俺は器用な方だから花冠の作り方を教えて貰えば、きっと作れる……教えてくれるか?」
「あ、ああ。こうして――」
ポテトに教わりながらリゲルが用意したのは花冠。花の指輪を指先飾れば、其処だけ違う世界のようで。
「花の指輪は初めてだよ、可愛いな。そんな指輪を作ってくれるポテトは、もっと可愛らしいぞ!」
ぎゅ、と抱き締めれば幸福さが胸に登る。幸せな一時は、心も陽溜りのように暖かい。
「皆、集まってくれてありがとう。それから、初めまして、かな。僕はマルク。よろしくね」
柔らかに微笑むマルクにシュルクは大きく頷いた。まるで見た事のない世界――それは彼にとってはとても新鮮で。
「へー、これが本物の藤の花かー。絵では見たことあるけど、本物は絵より繊細な色なんだな」
「私がいた神社の近くにも藤棚がありましたが、こちらの藤棚も綺麗ですね……! そしてこのみたらし団子も美味しいです!」
香澄にとって、藤棚は見慣れたものなのだろう。だが、こうして様々な世界の人々と共にうす紫に染まる世界を見るのは新鮮だ。
茶屋の椅子に腰かけて肺いっぱいに爽やかな風を吸い込めば心はどこか踊りだす。
口に含んだみたらし団子。その甘さに頬が緩み香澄は幸福そうにその白い頬を薔薇色に染め上げた。
その甘いにおいにラクリマは幸福そうに頬を緩める。
――♪
鼻歌交じり、藤と共に楽しむ甘味は何処までも幸福なものに思えるから。マルクの声かけに集まってよかったと整ったかんばせを緩めて見せて。
「あー……やっぱ良いなぁ、こういうの」
こうした平穏も嬉しいとゴリョウは大きく頷いた。健啖に団子を口に運ぶゴリョウの傍らでニーニアは「それが雪風君のおすすめ?」と首を傾げる。
「ああ。言ってたやつだな」
「食べない手はないよね!」
ローレット・トレーニングでも連携した相手であるからか、気さくに会話を交えることもできる。ゴリョウにニーニアはへへへと微笑んだ。
「おっと! こればっか食べたら種類が食べれないな!」
「皆、色々違う味の頼んでるならちょっとずつ分けて欲しいな?
ほら、いっぱい食べちゃうと太っちゃうから……必殺ちょっと分けて作戦だよ!」
ゴリョウの言葉にニーニアは大きく頷く。シュクルはぱちりと瞬き「美味しいのか、これ?」と恐る恐る団子を口に運んだ。
お茶も良いというラクリマの提案にシュクルは大きく頷く。そうした時間も、尊いもので。
「今日は集まってくれて、ありがとう。折角知り合ったんだし、またどこかで会いたいな」
その言葉にまた一緒に、と大きく頷いたシュクルは「みんなと友達になりたい!」と柔らかな笑みを見せた。
すんすん、と涙声の雪風に「花粉症、って大変なのね」とシーヴァは緩く微笑んだ。今日は素敵な場所を教えてくれてありがとう、と告げた言葉に人付き合いが苦手な情報屋はこくこくと頷いて。
渋みや清しい茶葉ではなくて、とろりと甘いものを頂けるかしらと柔らかに告げて。茶屋の椅子に腰かければたなびく風が藤を揺らす。
それは紫雲のように揺れ。花房に触れればどこか遠くの場所へと連れて行ってくれないだろうかと指先に擦り寄る花に強請る様に瞬いて。
「……ふふ、つれないわね」
頬を撫でる様に花に触れて。うす紫のカーテンを開いてゆっくりと歩き出す。
ああ、心地いいの――このまま、眠ってしまいそうなほどに。
「ヤダ! このお団子すっごく美味しい……っ! ねえ、アンタも食べてみない? こんなに美味しいの、食べずに帰ったら勿体無いわよ!」
がたり、と立ち上がったジルーシャは周囲の客たちに声をかける。
鼻先を擽った藤の香は日頃の疲れをとるのと同時に調香師という職業心を擽った。
いろいろな香りに出会うけれど、これは次の新作のベースに使えると、ワーカーホリックじみた考えに少し笑って。
これ位のうす紫が好きなのだと花を褒める様にジルーシャは何時も通りの微笑みを見せた。
「ルナは藤棚って見たことある?」
ルーキスは見た事ないのだと首を振って。ルナールは知っているけど観た事なかったと藤棚をしみじみと見つめた。
「薄紫で綺麗だ、あー……でも藤の花よりルーキスのほうが綺麗だけどな?」
そういえば、とくるりとルーキスは振り返る。藤の花言葉って知っている?と僅かに冗談めかして見せて。
「【決して離れない】もしくは【恋に酔う】。良い花言葉だよねー」
そんなことを言われれば、少し照れくさそうに笑う彼女の手を引いて。ルナールはゆっくりとルーキスの顔を覗き込む。
「やっぱり花よりルーキスが綺麗だ。決して離れないっていうか、離れられないが正解だな」
今日のオーダーは親友をナンパすること。藤を見つめるノースポールを『ナンパ』するのだと普段とは違うカジュアルな格好でルチアーノはやあと声をかける。
(ナンパ……何処かで勉強したっていう成果が気になるのと――……やっぱ、好きな人からされてみたいし……?)
そんな思いは秘密にして、ルチアーノはゆっくりとノースポールの側へと寄り添った。
「あまりに綺麗な雪色の髪だから……雪の妖精かと思ったよ。それとも天使様かな?
孤独で寂しい哀れな人間に、ひと時のお時間を頂けませんか?」
ああ、そんなの照れてしまう。かくかくとロボットのように頷くノースポールにルチアーノは小さく笑う。頬を染めた彼女の小さな手を取って、ルチアーノはどうぞ、とお茶を手渡した。
「君の姿が愛らしすぎて、胸が一杯なんだ。このお団子も、君にあげる。その代わり……君が欲しいんだけど。拒否権は、あげないよ」
そんなの、もう――限界が近い。団子を食べてる場合じゃないとノースポールは茹で上がったかのように赤に染まる。
ああ、だめだ。「勉強の成果でたかな」なんて笑わないで――そんなの、わたしみたいに『すき』になっちゃう。
●
ぐんぐんと歩むセララは『都会っ子』。こうした自然いっぱいな場所は彼女の知る所にはない。
「お日様ぽかぽかでいい天気!」
ごろりと横になって、手を伸ばす。遥か上にある空はどこか心地よさまで感じて――
「えへへ、こういう感じに原っぱでお昼寝してみたかったんだよね。今日は怒る人もいないし」
だから、おやすみなさい。
瞼はゆっくりと――ゆっくりと、下がっていく。
かしゃり、かしゃりと撮り続ける写真。小さい頃に家族で似た場所にピクニックに来たなあと詩乃は周囲を見回した。
「あの時のお母さんのサンドイッチ美味しかったな……」
お母さん、お父さん、弟――それから『私』
齧ったサンドイッチは母の味からかけ離れていて。周りには誰もいない。詩乃はゆっくりと膝を眺める。細い脚は、立って居るのもできなくて。
「やっぱり、寂しいな……『私』無事に帰れるかな……死ぬの、嫌だよ……帰りたいよ……」
囁いて、詩乃は首を振る。何も我慢する必要はない――一人なら笑顔になる必要もない。
今は『私』で居られる。また頑張るから、『あーし』。少しだけ、待って居て?
「ピクニックだーーーーー! シロおじまんの、うでに塩をかけた? とぉってもおいしいお弁当も持ってきたし、今日はのーーーんびりするんだー!」
腕に『塩』をかけたご自慢弁当の中身はスモークチキンにレタス、マスタード、レモンを挟んで1日置いたチーズを挟んだサンドウィッチ。
たこさんウィンナーとあまからタレに二度付けした肉団子。苺のスライスも用意して。
ぽかぽかお天気を喜ぶようにシロは足をぶらりと揺らす。
「行くぞシフォリィ、今からオレらは風になる!」
速くないですか、と声を上げたシフォリィに気を止める事無くクロバは激走する。
いつもと違うおめかしは折角の『おでかけ』の為で。
景観を眺め走るバイクの速度に身を任せれば、ああ、深緑が美しい――
「ぷっ……あっはははは、初めて作っただろそのおにぎり! いや、悪い。ちょっと懐かしくてな」
笑った彼にぱちりとシフォリィは瞬く。気に入ってくれなかったのだろうか――喜んでくれなかったのだろうか。
乙女の四苦八苦にクロバはただ、嬉しそうに小さく笑う。
「手、火傷してるな? 熱いご飯触ったからだろ。女の子なんだから大事にしろよそういうとこ」
その言葉にシフォリィは柔らかに微笑んだ。火傷しても彼が嗤ってくれるなら作ってきた甲斐がある。
「チューリップの花言葉は『思いやり』です。色によってまた別の意味を持つのですが……」
サンドウィッチの入った籠を抱えたルミはアランを振り返る。木陰に敷いたレジャーシート、水筒を据えた彼がこっちだと小さく手招いた。
少し緊張した様子のルミは、初めての手料理の事ばかりを考える。
口は何時もの通り上手く回っているけれど――城お抱えの料理長の指導があったけれど。
大丈夫だろうかと表情は崩さず内心は冷え切って、落ち着かない。
「ご希望のサンドイッチです。お口に合うと良いのですが」
「お、センキューな。こんな無理飲んでくれてよ」
頂きますと口に含んでアランは美味いなと一言返す。立場もしがらみもない別世界のような感覚――ふと、ルミの視線に止まったのは。
「ピンクのチューリップ? ……あの花言葉は?」
その花言葉は――
紫の回廊を歩みながら幻は肺の奥深くから息を吐きだした。アメジストのシャンデリアのように垂れ下がる花の向こう木漏れ日がオーロラを作り出すようで。
――美しい、けれどそれは傍らに居る彼のおかげだろうか。
「なんて綺麗なんだろ?」
首傾げる様にジェイクは言う。紫のカーテンに魅了され、つないだ手の温もりと共に幻の顔を見遣る。
きれいなものも幻想的なもの全てを眺めるのが好きな幻がこの景色に魅了されているのはよくわかる。
けれど、彼女のそのうっとりとした表情に魅了されている自分がいるのもまた事実で――指先絡めるだけで頬が赤くなっているなんて悟られないかと幻は瞬いた。
「綺麗だよ、幻」
不意を衝く様に抱き締めて。溢れる愛情をこめて口付けた。胸は甘く疼いて、ほら、もっとと強請る様に彼の肩をきゅっと掴む。
番傘の朱が揺れる。くつくつと笑う軽口に蜻蛉は緩く瞬いた。
「こんな天気のいい日に、お前さんみたいな綺麗な嬢ちゃんと歩いてるなんて、いつ後ろから刺されてもおかしくねぇな」
「刺されたら、その後の骨はちゃんと拾って、海へ返したげるわ……にしても、ええお天気」
毒を含んだ彼女の笑みに構う事無く縁は緩く頷いた。見事な藤棚に暫し見とれればこの景色は物騒な世相には汚れないでいて欲しいと彼は小さく呟いた。
「花は変わらしまへん、咲いて……その次の年も、またその次も――変わってしまうんは、お人の心くらいやないやろか」
「時が流れても、世界が変わっても、いつか俺が――……あぁいや、何でもねぇ」
旦那、と。小さく呟いた蜻蛉の言葉に縁は何もないふりして小さく笑う。傘をたたんで彼の側へ。
するりと入り込んだ蜻蛉の影が僅かに交わる。傾けられた傘の影の下。こうした時間は消えずに残る――いつか、貴方がいなくなっても。
世界が、変わってしまっても。
――この色は変わらないでいて。鮮やかなるうす紫。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
この度はご参加ありがとうございました。
菖蒲も藤棚を見に行きたいと考えてはいたのですが、なかなか機会がなく。
行ってみたいのは九尺藤等なのですが……花の見ごろは儚いものですね。
皆様の思い出に残りますよう。
GMコメント
菖蒲です。うす紫色のお散歩です。
●淑やかな紫
藤の花が咲く穏やかな午後です。
なだらかな丘陵と藤棚が存在するのんびりとした片田舎です。
暴力行為などは禁止です。穏やかな一日をどうかお過ごしくださいませ。
(1)藤棚と喫茶を楽しむ
空をも覆い隠すかのような藤棚がずらりと並んだ空間は通り抜けをする事が出来ます。
また、その近くに存在する小さな茶屋では団子や喫茶を楽しむ事が出来ます。
雪風曰く「お団子すごくおいしい」のだそうです。団子の他にも簡単なメニューが存在しております。
(2)丘陵をお散歩
何もない草原がなだらかに続く丘陵です。チューリップの花など自然も豊かで自然観察には打ってつけです。
お弁当を持ってきてのピクニックなども楽しいかもしれませんね。
(1)、(2)のどちらかをお選びください。
両方ともに「こんなメニュー有りそう」「こんなお花があればいいな」など現実的な範囲でしたら構いません。お好きに日常をお過ごしください。
●同行者や描写に関して・注意事項
・ご一緒に参加される方が居る場合は【同行者のIDと名前】か【グループ名】をプレイング冒頭にお願いします。
・暴力行為等は禁止させていただきます。他者を害する目的でのギフト・スキルの使用も禁止です。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
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