PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<大願成就>穏青の水面

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 パライバトルマリンの水面が揺れる。
 荒れ狂う海とはほど遠い、波の音が揺り籠の如く緩やかに耳を打つ。

 手を伸ばせば陽光が指先を赤く染めた。
 ローレンスは廃滅病が無くなったその身の軽やかさに微笑む。
 鮮烈な嵐は余韻すら遺さず、後の静寂が物悲しいとさえ思えてくる。
 胸を擽る痛みは僅かばかり在れど。頭を撫でる温もりは覚えているから。

 終わったのだ。何もかも。
 この青の底。海に抱かれて泡沫の一粒となって消えて行った。
 父も母も兄もこの海に還ったのだ。自分も何時か揺蕩う時がくるだろう。
 それが何時訪れるかは分からないけれど。その瞬間まで『太陽』と共に在りたいとローレンスは願う。

「おい、ローレンス」
 聞き慣れた声がする。太陽の様に強い輝きを持った赤の王。
 その傍らに金の髪を揺らし、青年は静かに寄り添う――


 熱気がクローム・オレンジの空を覆う。
 黄昏時のリッツバーグは何時もにもまして喧噪で溢れていた。
 忙しなく駆けていく街の人々。その瞳は爛々と輝き何処か楽しげである。
 ランプの灯りが至る所に点されて、街中が温かな光に包まれた。
 宴の予感に身体の芯が震えてくる。

「カルナヴァル・アスル……ですか」
「ああ、そうさ! うちらの悲願。絶望の青の踏破が叶ったんだ。祝いだよ!」
 軽快に笑う『看板娘』ヨナ・ウェンズデーはローレンスの問いに頷いた。
 青の宴(カルナヴァル・アスル)と呼ばれる祭りは普段はもう少し先に行われるものだ。
 けれど、今日という日を祝わずに何とするか。

 宿願――絶望の青の踏破。
 海洋王国の民ならば誰もが目指した果て無き夢。
 それが成されたというのだ。祝いはこの日の為にこそ在り。
 街は俄に活気づき、色を増していく。
「それに……」
 折れた義足の先に添え木を着けたまま、ヨナは一歩前に出た。
 少しだけ瞳に悲しみの色を浮かべた彼女はサルビア・ブルーに染まって行く空を見上げ強気に笑う。
「勇敢に戦った仲間を盛大に送り出してあげなきゃね!」
「はい」
 共に戦った仲間が居た。散って行った仲間が居た。
 名も知らない船員達が船と運命を共にして海に沈んで行った。
 けれど、ローレットと海洋王国は勝った。
 犠牲を払い。それでも勝ち取った杯で祝うということは。
 此処に居ない者達へ紡ぐ凱歌そのもの。

「こうやって生きてる奴らがいっぱい騒げば、海の底に居ても勝ったぞって分かるからな」
 沈み往く夕陽を携え『赤髭王』バルバロッサが姿を現す。
 たとえ絶望の青の只中に取り残されて居ようとも。

 宴の声は届くと信じて――

「だから、今日は盛大に呑むよ!」
「おう! ヨナお前さんには負けねえよ」
「何をぉ!」
 カラカラと豪快に笑い合うヨナとバルバロッサ。
 何時もより元気で楽しげな様子にローレンスの心が僅かに痛む。
 嫉妬ではない。二人の背中に僅かに感じた哀愁を感じ取っての事だ。
 悲しくない訳がない。目の前で死んでいった人が。助けられなかった人が居たのだ。
 それでも、二人は前を向いて笑うのだろう。それが手向けとなると信じているから。

 ならば、自分は。
 紺に変わる空を見つめ。ローレンスは浮かんだ涙をそっと拭った。


 大桟橋から大通りに掛けては盛大な賑わいを見せていた。
 オレンジ色のランタンが揺れて、子供のはしゃぐ声が聞こえる。
 キラキラと光るアクセサリーの出店には恋人達が仲睦まじく肩を並べていた。

 その様子を船内ラウンジから眺めているのはアドラー・ディルク・アストラルノヴァだ。
 傍には『星守の白蛇』伏見 桐志朗も控えている。
「ようやく、だな」
「はい」
 暗い海に浮かぶ大小の船。零れる灯りはまるで星のように揺れて煌めいていた。
 桟橋に波が寄せる音がする。カランと冷たい紅茶の入ったグラスが鳴った。

「なあ伏見。楽しみではないか」
「私が言うたら嫌味にとられてしまいそうどすわ」
「は、は、は……!」
 笑わぬ事で知られる老人は、厳めしい表情を俄に崩した。
 アドラーはこの日、旅一座【Leuchten】の公演をしてほしいと招待状を出している。
 息子達は、果たして来てくれるのだろうか。

 僅かな期待をその瞳に揺らし、アドラーはグラスを手繰り寄せた。
 戦場で目にした息子の姿。凜々しく己の力を存分に振るったそれは。
 アドラーの内にかつて在った熱を感じさせたのだ。
 夜空に極彩色の花が咲く。
 身体に響く音と凱旋の宴は始まったばかりだ――

GMコメント

■シナリオ詳細

 もみじです。決戦お疲れ様でした。

 戦いの後の昂ぶりと物悲しさを連れて。思い思いの場所で凱歌の余韻に浸りましょう。
 楽しく笑顔で飲み明かすのも。しっとり海や花火を眺めるのも良いでしょう。

●ロケーション
 海洋王国首都リッツバーグの港町。
 ありそうなものは大体あります。

A:浜辺
 街中から少し離れた場所にあります。
 波の音が静かに揺れています。花火が遠くで打ち上がり、水面に映り込む姿は幻想的です。
 勇敢に戦った人達に思いを馳せたり、ゆっくり過ごしたい人はこちらへ。

B:毎日週末亭
 アーリア・スピリッツ(p3p004400)さんの関係者ヨナ・ウェンズデーが看板娘をする知る人ぞ知る名店。活気のある居酒屋。
 冷えたワイズ・ラガーは暑い夜に最適。料理とお酒に定評のあるお店。
 フードやドリンクはもちろんお酒なんかも沢山あります。
 わいわい騒ぎたいならここ。

C:船内ラウンジ
 停泊しているキャラック船サンタローザのバー。
 船内の席と、甲板の席があります。
 花火を見ながらお酒やソフトドリンクが楽しめるようです。
 カクテルやスピリッツなどよりどりみどり。軽食もあるようです。
 公演するならここです。

 甲板のテーブル席にはヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)さんの関係者である、アドラー・ディルク・アストラルノヴァが、家臣団と共に居るようです。
 ご本人はお酒は飲んでいないようですが。
 家臣団の中にはRing・a・Bell(p3p004269)さんの関係者である『星守の白蛇』伏見 桐志朗も居るようです。

D:大桟橋ストリート
 大桟橋と、そこに繋がる大通りです。
 様々な屋台やお店が立ち並んでいます。
 飲食や、お土産物、雑貨類、めずらしい舶来品などなど。
 お揃いのアクセサリーって素敵ですよね。

E:その他
 出来そうなことが出来ます。

●諸注意
 未成年の飲酒喫煙は出来ません。
 UNKNOWNは自己申告。

 一行目にどこに行くかを記載をお願いします。
 二行目に、他のPCと同行する際には、お名前とキャラクターIDか、グループ名のタグ記載をお願いします。 三行目以降。自由に記載下さい。

 例:
  B
  【赤髭海賊団】
  ローレンスと一緒に飲み明かす。
  他の奴らも来る者拒まず。一緒に呑むぜ。
  今日は俺のおごりだからな、じゃんじゃん飲めよ!
  約束しただろ? 全部終わったら好きな酒奢ってやるってよ。
  だから、ほら。一緒に呑もうぜ。

●同行NPC
『赤髭王』バルバロッサ(p3n000137)とローレンス
 Bの毎日週末亭でお酒を飲んでいます。呼ばれれば別の場所にも行きます。

 他、海洋のお祭りに来そうなNPCは現れる可能性があります。

  • <大願成就>穏青の水面完了
  • GM名もみじ
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年07月03日 22時05分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
古木・文(p3p001262)
文具屋
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
Ring・a・Bell(p3p004269)
名無しの男
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
アオイ=アークライト(p3p005658)
機工技師
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
叡智の娘
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ポムグラニット(p3p007218)
慈愛のアティック・ローズ
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
エリス(p3p007830)
呪い師
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士

サポートNPC一覧(1人)

バルバロッサ(p3n000137)
赤髭王

リプレイ


 宵闇に浮かぶ大輪の花。海に咲く美しい花は頬を撫でる風に揺らめいて寂しげに散って行く。
 夜空の花火を新鮮だとベークは紡いだ。絶望との戦いが終わった、ひとときの休息。
「おかえりなさい べーくちゃん」
 隣に寄り添うポムグラニットが微笑む。
 ベークの身を蝕んでいた嫉妬の鎖は消え去り、彼女はほっと胸を撫で下ろした。
「まぁ、別にこの程度のことなら今まで通りですから」
 人生の中で最も死に近かった。それほどの死闘であった。
 故に、ポムグラニットは己の無力さを感じ、アティック・ローズの視線を落とす。
 波の音に花火が弾けた。
「ねぇベークちゃん」
 ポムグラニットは桃色の唇を震わせる。
 この身は薔薇。海を泳ぐことも、花火のように空に咲くことも出来ないけれど。
 いますぐにでなくともいいから。
「おともだちになってくれる?」
 真剣な瞳に思うところがあるのだろう。ベークはゆっくりと頷き、言葉を紡ぐ。
 もう友達なのだと――

 静かな海をグレイルは眺める。
 荒々しく全てを飲み込んでいった青が嘘のよう。
 海の化身。叶うはずも無い相手と戦っていた。
 打ち上がる花火がグレイルの瞳に煌めく。
「……僕は……この戦いで……何か出来たのかな……?」
 ぽつりと漏らした言葉。
 誰かの為になることが出来ただろうか。戦いの余韻が齎す揺り返しの不安。
 けれど、負けてしまえば多くの無力な命が消えていた。
 だから。その手はきっと誰かを救ったのだ。
 花火の音が響く。
 強くなりたいと思ってしまったのは罪なのだろうか。
 シキにとって『心』は遠く置き去りにしたもの。処刑人にとって不要なもの。
 けれど、強大な敵の前で。傷ついた友の前で。揺るがぬ程鋼鉄ではなかった。
 一度ひびの入った藍玉は砕けやすい。こんなにも欠片を零しているのだ。
 ならば。と過去を問う。
 幾重にも積み重ねられた名も無き命に。その重さに耐えることができるのか。
 処刑人では無くなった己の心はグラスに注がれたジュースのように。
 伝う涙はグラスの中に消えて行く。

 青い瞳が黒い海を見つめていた。
 砂浜に膝を抱えて座ったアレクシアは小さく息を吐く。
 戦わなければ良かった等と言うつもりは無い。誇るべき勝利だ。
 けれど、それでも。浮かぶ涙を止めることなんて出来るはずが無い。
 泡沫の青となった者達を想えば。悲しさが雫となって落ちていく。
 何度経験したって辛いのだ。
 散って行った人々に恥じぬよう護り続けるから。
 夜が明ける頃には前を向くから。
 だから。今だけは――
 静寂の中波の音だけが彼女を包んでいた。

 自家製の酒と海洋の特産を抱え浜を鳴らすゴリョウ。
 普段の彼ならば酒場で祝杯を上げていることだろう。
 けれど、今夜は馬鹿野郎(のみなかま)の為にこの場所を選んだ。
 嘆き悲しむ程子供でも無い。紛らわせる為に騒ぐほど若くも無い。
 ただ、静かに杯を交したいだけ。その相手が海に居るだけのこと。
「ったく、せめて仕上げたこいつを呑んでから行きやがれっての。
 どこまでも自己中な格好付けめ」
 己が信念を突き通した友に捧げる夜月の杯。

 瑠璃の夜に赤花が咲き誇る。
『鬼灯くん! 今お空に光ったものは何かしら!』
 愛らしい声で鬼灯を見上げた少女。
「あれは、花火だよ」
『綺麗ね』
 夜空に咲く花は美しいのに。鬼灯の心は何処か寂しさを纏っていた。
 人の命が失われるということ。こうして彼女と過ごす日々が当たり前ではないこと。
 そして、『人魚姫』と分かり合えなかったこと。
 冠位魔種であるから分かり合えないなんて、寂しすぎるではないか。
 己が矜持を貫いた彼に想い馳せ。抱く少女の友人になってくれただろうかと海に問うた。

 ざわめきは遠くレイチェルの耳に届くのは波の揺り返しと花火の音。
 黒を纏った彼女の手には青い花が一輪。
 片方の手は恋人の存在を確かめるように強く握られていた。
 喪失の怖さはレイチェルの身体を蝕むようで。
 勝利を喜べない自分を責めるように俯く彼女の手を、シグは優しく握り返す。
「皆に怒られちまいそうだけどさ」
 勝ったのだから笑えと言う人々の中にもきっと渦巻く心がある。
 それは彼等なりの区切りなのだろう。
 けれど、レイチェルにとっての別れは『笑顔』であった事なんて一度も無い。
 頬を伝う雫に花火の光が映り込んだ。シャルロットがレイチェルを写したのと同じように。
 それはぽたりと落ちて砂浜に染みを作る。
「――私が今に至るまで、唯一得られなかった知識、得られなかった力がある」
 時間を巻き戻すこと。死んだ者は戻って来ないこと。
 だから、知識を糧とし。二の轍を踏まないよう模索する。
 それを理解するのは、悲しみを負った後。
 だから、今は。
 落ちる雫と共に在る。

 戦いの後の静寂。美しい海を眺めベネディクトは浜辺に足跡を付けながら進んだ。
 隣にはリースリットが静かに寄り添う。
 花火が宵闇を照らせば水面を星屑みたいに跳ねた。
「この間、願い事は領主代行の任が上手く行くようにと言ったが」
 ぽつりと呟かれた言葉。昇華しきれぬ想いを滲ませ目を伏せるベネディクト。
「──あれは本当の願い事ではなくてな」
 人々の願いを口に乗せた。それが望まれる事だと思ったから。
 本当に叶えたかったもの。取り戻せぬ過去。この手からこぼれ落ちた後悔。
「それは、貴方が召喚される前の……?」
 リースリットの言葉にベネディクトは頷いた。
 誰にも明かさなかった心。奇跡の絵空事。後悔、未練。己の弱さを彼女に伝う。
「──解らないんだ、俺は、何の為に命を犠牲にし続けて来たのかが」
 吐き出した慟哭にリースリットは眉を下げた。
 此処に居るのに、何処か空虚だったのは。
「想いは、心は残してきてしまっているのですね……」
 弱さを見せてくれた彼に何もしてあげる事は出来ないけれど。
 今はただ、傍に――


 アプリット・オレンジのランプが揺れる毎日週末亭。
 海辺の香りと美味しそうな匂いに誘われて――

 サクラとスティアはメニューを覗き込んでいた。
 そこに並んだ宝石の様なカクテルに目を輝かせる二人。
 けれど、悲しいかな二人はまだ酒の飲める年齢ではない。
「ちょっと羨ましいよね」
「うん。気にはなるよ」
 周りで大人が飲んでいるものに興味を示す。年頃の少女たちの顔。
「スティアちゃんは誕生日3月だったっけ? ふふーん、私のほうがちょっぴりお姉さんだね!」
 僅かな差。胸を張ったサクラの頬にスティアは指を乗せる。柔らかい頬をつつく。
「わわっ!」
 不意に触れられた感触に驚いたサクラはニヤリと笑って応戦した。
 少女達のじゃれ合い。美しき花園。幸せの時間。
 けれど。彼女達は常に戦いに身を置く。いつ途切れるかもしれない未来。
 だからこそ、スティアは小指をサクラに差し出す。約束の印だ。
 二十歳になれば、お酒を飲みに行こう。
 紡がれた指先。願わくば、ともに――

 伝説の龍は眠りについた。
 支配者が居なくなった海は静寂を取り戻し廃滅病も消え去った。
 けれど、十夜の首には痣が残ったまま。忘れる事の無いよう、消えぬ呪いが刻まれていた。
 それでも勝利の美酒は注がれていく。

「お前さん方はまた大海原に漕ぎ出すんだろ?」
 問いかける十夜に「ああ」とバルバロッサは頷いた。
「だったら、今度近くまで来たらうちの店にも寄ってくれや」
 旨い酒と料理を用意するから。
 未来への約束。それは『上手く』死ぬ事ばかり考えていた十夜の心の変化だ。
 忘れられぬ人が居た。
 それでも、傍に居て欲しいと。居たいと願ってしまった故の。未来への道筋。
 浮かぶ涙を隠すように十夜は酒を注ぐ。

 喪った代償は大きい。けれどこの国に住まう人々は笑顔で進んでいくだろう。
 だから。
「今日はぱーっと飲みましょ! ね、ヨナちゃん、バルバロッサさん、ローレンスさん!」
 アーリアは屈託の無い笑顔でワイズ・ラガーの大ジョッキを掲げる。
「まったく、アンタって子は」
「ははっ! 辛気くさいよりはアーリアみたいなのが良いってもんよ」
 そこへやってきたリゲルとポテト。
「皆お疲れ様。ヨナもバルバロッサもローレンスも無事で良かった」
 輪の中へ入って来た二人を歓迎するアーリア。
 そして、其処に集まった皆の顔を一人一人見つめて頷いた。

「「かんぱぁーい!」」

 盛大に放たれた言葉に。毎日週末亭に集まった全員が続く。
 くすくすと笑い合いながら、サクラとスティアも杯を上げた。
 絶望的な戦いの余韻はリゲルを包み、ようやくこの場に置いて力を抜いて良いのだと息を吐く。
「リゲル、大丈夫か?」
「ああ」
 問うたポテトの指先に触れれば。僅かに震えているのが分かる。
 彼女も同じように戦いの余波に心を囚われていたのだろう。
 握り返した手の温もりを、お互い噛みしめ合う。
「壊滅病にかかったときは本当に怖かったけど……無事で良かった」
 震える手をしっかりと握りリゲルはポテトを見つめた。
「……今俺が生きてこの場にいられるのは、きっとポテトのお蔭だよ」
 真っ直ぐに向けられたシリウス・ブルーの瞳。
 そっと落とされた唇にポテトは蜂蜜金の瞳をゆっくりと閉じた。

「脚、大丈夫?」
 接ぎ木されたヨナの義足を視線で追い、アーリアはグラスを傾ける。
「ああ、心配ないさ。そのうち技師に直して貰うよ」
「……また、海に出るんでしょう?」
 海賊とはそういう生き物だ。バルバロッサやローレンスとて同じ。
「それが海賊だからね」
 傾けたガラスの氷がカランと鳴った。
 友人に無茶はしてほしくない。けれど、海の上で煌めくヨナは誰よりも輝いているだろうから。
「なら今度は船上で、手合わせでもお願いするわねぇ!」
「ああ! 任せときな!」
 朗らかに笑う彼女につられてアーリアも目を細めた。
「バルバロッサ君! 先日や依頼の時は世話になってね! 本当にお疲れ様!」
 一際大きな声でマリアは笑った。
 悲しみを見せないように振る舞っているのだろう。
 元の世界の職業柄彼女はあまり酒を飲まない。
「呑もうと思えば結構呑めるんだよ? こう見えて軍人だからね!」
 ふふんと胸を張ったマリアにバルバロッサはグラスを寄越す。
「じゃあ、これを」
「望むところさ!」
 飲みやすいカルーアミルクをごくごくと飲み干すマリア。
「お、行けるな! じゃあこっちも」
 次々と出て来る酒を口に流す。次第に彼女の頬は赤く染まり目が虚ろになっていた。
「お水飲みましょう」
 ローレンスが差し出した水を持って、バルコニーへ歩いて行くマリア。
 インク・ブルーの夜空に花火が上がった。
 風は彼女の赤い髪を揺らす。
「縁がなくとも。やっぱり慣れないね」
 仲間を喪う、悲しみが小さな言葉と共に夜空へ流れた。

 多くの犠牲の末に得たものもある。
 悲しみだけが全てではないとジェイクはグラスを傾ける。
「ローレンスは俺とは初めてだっけ? 赤髭からおめえの話は聞いているぜ」
「ふふ、何を話したんでしょう?」
 ジェイクの言葉に目を細め、バルバロッサを見遣るローレンス。
「あん? 何も悪い事は言ってねえぞ」
「それにしても、助かったぜ赤髭。あのデカ物とやりやってた時だ」
 友に戦場を駆け抜けた。ジェイクは普段より饒舌に言葉を繰る。
 そうしなければ心が曇りそうだから。その機微を感じ、バルバロッサは彼のグラスに酒を足した。
「今夜は飲むぞ」
「ああ。祝杯だからな!」
 涙の代わりに酒を浴びるのだ。

「なあ、酒って美味いのか?」
 ウィリアムはバルバロッサに問う。
 冬には成人する彼は辛い気持ちを忘れられるという酒に興味があった。
「そうさなぁ、気持ち次第だろうな」
 最初に出会った時はこうして飲み交わすなど思ってもみなかった彼の横顔。
 騒げば勝利の凱歌は海底へと届く。
 散った仲間、友人達。彼等にはこの祝杯が届いているのだろうか。
 安堵と参加出来ない悔しさを抱くのだろうか。
 もし、そうなら。
 冬になれば、彼等を想いまた祝杯をあげようではないか。


 ヨタカは舞台衣装に身を包み招待状を眺めていた。
 その肩に武器商人の手が乗る。大丈夫だというように小さく口元が綻んだ。
 後ろにはBellが控えている。乗り気では無いこの場所だけれど。
 それでも旅一座が呼ばれたのだ。一員である自分が行かないわけにはいかなかった。

「さぁ、祝祭を始めようか……!」

 光に照らされた舞台。彼等の為に用意された幕だ。
 武器商人の語りから始まった物語。
 大海原を思わせる壮大な海の音色をヨタカは奏でる。合わせる魔術は青の色。
 ヴァイオリンが震わせる音は次第に大きなうねりとなっていく。
 Bellによってスモークが焚かれ、武器商人は雷の魔術を打ち鳴らした。
「現れるは、猛き神竜――リヴァイアサン」
 悍ましく鮮烈なる武力は人々を焼き。海の泡と散って行った。
 敵だった者がその身を賭した。奇跡の歌声は降り注ぎ、己が矜持と他の未来を願った者達が居た。
 全ての人々が繋いだ襷。
 ヨタカの演奏は激しく鼓膜を打つ。
 見てきたのだ。この目で。あの戦場を。
 言葉で語り尽くせぬ物語ならば。光音の舞台で演じよう。
 この物語が永遠に紡がれるよう――
 湧き上がる拍手の中、ヨタカは父親の前に立ち深々と頭を下げた。

「さーて」
 壮大な演奏を見届けたBellは人々の合間を縫って料理の前に立ち尽くす。
「あら、わんころがこんな所で何してはりますん?」
 黒髪を揺らした伏見が居たからだ。何処か口調が柔らかいのは宴の席だからだろう。
「裏で、手伝ってたんだよ」
「そうどすか。まぁ、ほんなら」
 少しぐらい祝杯を共にしても良いだろう。あのアドラーが何時になく上機嫌なのだ。
「明日は雨か?」
「何やゆいはりました?」

 愛用のヴァイオリンを奏でるのはアリアだ。
 船の上から陽気でリズミカルな音色が響き渡る。
「みんなー! 盛り上がってるー?」
 アリアの声に観客が思い思いの声を張り上げた。
 同時にインク・ブルーの夜空に花火が打ち上がる。
 この演奏は願いだ。しんみりしないようにアリアが奏でる凱歌。
 届け海の底へ。勝利を成したのだと酔いしれろ。
 サンドイッチを摘まみながらアリアは空に咲く花火を見上げる。
 夜通し続く祝祭をその手で奏でるのだ。
 流れる音色を聞きながらエリスは人混みの中を進んでいく。
 大桟橋からは通りの賑わいがよく見えた。
 遠くに見える花火の音。
 オレンジ色に揺れるランプに吸い寄せられるように、文は屋台の前で立ち止まる。
 其処には海のお守りや星砂が沢山並べられていた。
 海の都ならではの舶来品に、文は頬を緩める。
 一つ手に取ってみたのは表紙に航海図が描かれたノート。それに、吊された酒も気になる所。

「アオイ! あっちの桟橋の方、賑わってるよ!」
 リウィルディアの声にアオイは瞳を上げた。
 戦いが終わってみれば平和としか言い様がない光景が目の前に広がる。
「おや、魚のつみれ串かな?」
「俺はカニのフライだな」
 お互いの串を半分に分け合って、美味しいと笑った。幸せの時間。
 通りには雑貨も並んでいた。
 貝殻や真珠のアクセサリーに美しい柄のミサンガ。
 海竜の鱗を模したお守りもある。
「――あ、これどうかな?」
 リウィルディアが指さしたのはペアアクセサリー。
 二つ重ねれば、一つの形になる。星の形をしたものだ。
 海で迷わないよう、無事に帰ってこれるよう航海に出た船乗りが家族と共に着けるお守り。
 星の導きは、真っ暗な夜であっても空に浮かんでいるから。
「着けやすそうだしデザインも無難って感じだしな」
 歯車ばかり着けているアオイが、たまにはありかと微笑んだ。
「……ふふ、いいね。似合ってる」
 お互いの首に掛けられたお守りがアプリット・オレンジのランプに輝いていた。

 花冠を首に掛けて未散は桟橋を歩く。
 穏やかな海。賑やかな街。
 沈んだ後悔を隠せずにいるヴィクトールの横顔。
 理由は分かる。だからこそ。
 未散はぱんぱんに膨れたお財布を見せた。
「お買い物をしましょう、ヴィクトールさま!」
「……ええ、そうですね。色々買おうというはなしもしていましたし、ね。チル様」

 プルメリアとハニーミルクの石鹸。優しい香り。
 潮風が纏わり付いた髪も綺麗になるだろう。
 甘くて妖精が住まう世界の香り。ふわふわのタオル。想像しただけでも安らぐよう。
 ハイビスカスティーを手に取ったヴィクトール。
 鼻を抜けるペパーミントとレモングラスの香りがする。
「これは……夏の香りです」
「お好きそうな香りですか?」
 頷いたヴィクトールに未散は微笑んだ。
 独特の酸っぱさは夏の海辺に丁度良いだろう。桂皮茶と共に買って帰路につく。
 沢山の香りに包まれながら眠ればきっと。
 胸を刺す痛みも夢の中に置いてくることができるから。

 打ち上がる花火の色彩が、夜の海に繊細に煌めいた――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 またのご参加をお待ちしております。

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