シナリオ詳細
<鎖海に刻むヒストリア>鉄の名を刻め
オープニング
●
海の果てを夢見た。
かの王国の悲願はそこにある。何があるのかすら分からない『先』を信じて――
多くの海人がこの地へ訪れた。そして多くの海人が帰ってこなかった。
幾つの夢が潰えて、しかし。
それでも。
「夢は見るモノではなく叶えるモノであると彼らは信じているのだろうな」
鉄帝の将校レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルクは言葉を紡ぐ。
水平線の先には何も見えぬ。ただどこまでも続いているかと錯覚するような雲と空と海だけがそこに在り――そしてその海を往く海洋の船が幾つも連なっているだけだ。
……いや『海洋の船』がと言う表現は正確ではないか。
少し前に届いた鉄帝への親書により、鉄帝国もまたこの海『絶望の青』へと訪れたのだから。ここに在りし船は海を生き甲斐とするかの王国だけではなく、軍事に優れし北方の軍事国家のソレも混ざっていて。
そしてその内の一隻――旗艦ニーベルング。
かつてグレイス・ヌレ海戦で海洋と戦った筈のその船が、今は海洋と轡を並べていたのだ。
「さもありなん。もはや既存の大陸に空きは無く、だからこそ奴らは新天地を求めるより他は無い。
尤も、この先に求める新天地が――奴らの言う所の『フロンティア』があるのかは定かでないが」
そしてレオンハルトの言葉に続く様に。
鉄帝国の技術部門に属するルドルフ・オルグレンは自らの見解を述べるのだった。
「誰もが踏破出来ていない魔の海……ここに陣取る冠位のアルバニアとやらを倒したとして。この先に進めたとして。しかし『何もない』と言う事が分かる可能性もゼロではないのだ」
「ふむ――しかしそれならわざわざ冠位魔種が立ちはだかるとも思えんな」
今現在この海の先に進ませんとしている冠位が一角、アルバニア。
廃滅病なる病を振り撒いて海洋のみならずイレギュラーズすら苦しめているという。そんな存在がいるのであれば、この先に『何もない』という事はなさそうだが……
「まぁ儂にとってはこの先に『何』があろうとなかろうとどちらでも良い。海洋の悲願にはさして興味は無い故な……分かっておろう? 儂がこの地に、皇帝からの命在りしとはいえ同行した最大の理由は――」
その時だ。旗艦ニーベルングの艦内で警告音が鳴り響いた。
いやニーベルングだけではない。周囲の船からも慌ただしく動く音が聞こえ。
「敵襲――!! 前方より魔物の大軍です!!」
更にそこへ、兵の一人が腹より声を叫び挙げた。
見れば先程には平穏であった筈の海に黒点が見える。その数は段々と、海中から増えていて。
――魔物だ。海を泳いでこちらに一直線。凄まじい速度でこちらの船へ取りつかんとしている。
「ほほう来たか。魔種めらと無関係な襲撃……ではなかろうな。奴らも冠位の下僕共か」
「ルドルフ技術大佐。貴殿が貴殿の『分野』に精を出すは良いが」
「分かっておる。曲がりなりにも副官として派遣されているのだ――責務は果たすとも」
ルドルフ・オルグレンは古代の遺物について研究を行う家系の者だ。
古代の遺物とは例えば先の鉄帝での事件、ギア・バシリカの様なモノの事である……が。彼は近年その古代研究に平行して『魔種』の特性やその能力も興味を抱いているという。
彼が技術畑の人間でありながら特に反対する事もなく此処へ訪れたのも、特別な魔種である『冠位』の影響と能力をその目に確かめたい事があった故にだろう――尤も、レオンハルトからすれば戦場で研究だけを優先させる気も余裕もない。
だが逆を言えば……その身内に如何なる目的を蓄えていようと。
己が責務を確かに果たすのであれば殊更に『何』を言うつもりもないのだが。
「よろしい。では総員出撃用意。ニーベルングを中心に防御陣を敷け」
さて。
では戦おう。
我らに在りしは海の誉れではない。我らに在りしは武の誉れのみ。
大群なりし海の狂暴者共よ。
血を好む殺戮者共よ――
「我々の戦い方を、存分に知るがいい」
生き様を知れ。鉄の生き方を。
旗艦を援護するべく先行した防御艦に魔が取りついた。鉄で出来た船である鉄帝国自慢の艦隊の腹を食い破るは叶わず――故に魔共が行うは甲板への上陸である。人よ死ね。この先には通さぬと『冠位』の意志を伝えにくれば。
「行っくよ――!! 皆、付いてきて!!」
電光石火の一撃が奴めを貫いた。
超高速。待っていたと言わんばかりの斬撃もまた神速。魔を八つ裂きに一番槍と至ったのは。
パルス・パッション――イレギュラーズを支援するべく自ら志願したラド・バウのファイターである。
「やっほー! パルスちゃんだよ!! 海の化物が多いって聞いてたけど――大した事はないね!」
「あらあら張り切ってるわねぇ。ま、息切れはしないようにしておきなさいよ?
どうせこんな連中は前座も前座……本命は大体後からやってくるものだしねぇ」
そしてそんなパルスに声をかけたのは――なんと――
ラド・バウの頂点達が集う『S級』が一角、ビッツ・ビネガーであった。
『最も華麗で美しく残酷な番人』を自称する彼。グレイス・ヌレ海戦では皇帝ヴェルスからの命令――というよりも『イイオトコだから』という理由で――鉄帝の軍事行動に協力した彼であったが。
「ていうかビッツさん来たんだね? 皇帝は来ないって話だし、残るかと思ってたよ!」
「あら? まぁそうね……確かに皇帝はいないけ・れ・ど」
舌を唇に巡らす。ビッツの視界に映りしはこの船に同時に乗り込んでいるイレギュラーズ達――
「あの子犬達も悪くないと思わない?
ねぇ――ふふ。グレイス・ヌレでの、全身の力を振り絞った動きを魅せてもらいたいものだわ」
誰かの背筋がぞくりと震えた。
それは気のせいだったのか、それとも――いや、あまり深くは考えないようにしておこう。ともあれ曲がりなりにも今回は味方としてここに居るのであれば、先のグレイス・ヌレ海戦の時の様な恐ろしい強さがイレギュラーズ達に振るわれる事はない筈だ。
「撃て――!! 撃て撃て撃て奴らを近付けさせるな――!!」
そして同時。鉄帝の船団からの艦砲射撃による反撃が始まった。
轟音が轟く。血と鉄の臭いが満ちて闘争の気配に鉄帝兵の士気が上がり。
「――アルケイデス殿! アルケイデス・スティランス殿!!
敵の攻撃でございます、どうか支援を――!!」
「左様か。指揮官のレオンハルト殿からは、なんと?」
「最前線の部隊指揮はアルケイデス殿に任す、と! 副官のルドルフ殿からも同様の指示が!」
左様か――そう言うは鉄帝でも有名な武闘派一族の長子、アルケイデス・スティランスであった。
銀の鎧に身を包み長槍を携え。その立ち姿は正に威風堂々。
旗艦にいるレオンハルト、ルドルフの両名が全体の指揮を執る役目を担うのならば、スティランス家の跡取りたる彼はこの戦いにおいて最前線で武力を振るい、鉄帝兵を導く英雄として期待されていた。パルスやビッツは強力な戦力であるのは確かだが――二人は軍人ではなく、人を率いるにも長じているとは限らない。
その点、スティランス家の名声を持つ彼の言ならば鉄帝兵も奮い立ち。
「相分かった。ならばこの船は私に任せられたと、旗艦には申し伝えよ! 往けッ!!」
胸を力強く叩けば、重厚なる声が腹より周囲へ。
されば兵が散開す。皆の輝かしい眼がアルケイデスを見ている。
ああこの人がいれば大丈夫だと――
「…………はぁ……あああ、なんていう事だ……」
だが。当のアルケイデスは誰の目もなくなれば隅で意気消沈していた。
先程までの頼り甲斐のある声からは想像もつかぬ――が、これこそが彼の『素』だ。武闘派のスティランス家の跡取り――勇猛なりしアルケイデス・スティランス――などと謳われているが。実際は恵まれた肉体と武術の才があっただけの『臆病者』に過ぎない。
周囲の期待がある故になんとか気力で戦場に立っている次第だが……
今作戦でも何故か前線指揮官として抜擢され。
個人戦力として秀でているラド・バウの闘士達と共に武威を示せと命じられた次第。
――あ、そうだ本作戦の功をもって職を辞しよう。うん、それがいい。
何もかも終わったら自分の家の庭にある花達の育成に力を注ぐ人生というのも悪くな……
「アルケイデス殿! 二時の方向から魔物が! 狂王種という種族だと思われます!」
「何ぃ――怯むな!! 海の荒くれ者どもに我らが武力を見せてやるのだ!!
海でも我らの力はここに在りしと――覇を唱えぃ!!」
しかしもう条件反射なのか誰ぞの眼がある内では瞬時に彼は英雄へと変じる。
槍を片手に魔を打ち砕き、周囲を滾らせ戦場を熱くする――内心はともあれ、だが。
そんな本来心優しい彼の悲痛なる思惑があろうと、もはや後ろに退く事は叶わず。
戦いは始まった。
絶望の青を踏破する為の決戦が此処に。
鉄帝の船たちはあくまで援軍という立場なれど――しかし。
戦場であるのならば己が立場は関係なし。
鉄帝の血を震わせろ。総員。
――鉄の名を刻め。
- <鎖海に刻むヒストリア>鉄の名を刻め完了
- GM名茶零四
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年05月24日 22時15分
- 参加人数50/50人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 50 人
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参加者一覧(50人)
リプレイ
●
旗艦ニーベルング――鉄帝国海軍の巨大な鋼鉄艦。
迫るは魔物、絶望の青にて育まれた狂王種達。迎撃の構えを見せる場の中で。
「やれやれ……イレギュラーズとして働き始めようと決めた瞬間に……
こんな派手な戦いに参加する事になるとはな」
マジかよ、と修也は呟いて。見据える先には敵、敵、敵……
一体如何程の総量なのか。これが冠位に従う敵達なのか。これが冠位との総力戦なのか。
されど彼は眼鏡を押し上げ調整し、怯む事無く前を見据えて。
「ま、足手纏いにはならないようにするさ。そうでなければここに来た意味がないからな」
「ええ。それでは……」
隣立つは紗夜。
我らには翼なく、尾ひれもなく。天も海も往くに叶わねど。
「畏れず、躊躇わず、風の如く参りましょう」
地を駆け振るう刃は確かにここに在るのだ。
風韻、捉えること能わずと進む修也に紗夜。狙いを定めるはニーベルングに取り付かんとする狂王種であれば――修也の振るう拳の一閃が敵を貫く。甲板上を動き回り、常に敵をその目に捉えて。絶やさぬ駆け足と闘争の意思。されば紗夜の破魔の刃もまた敵を穿つのだ。
優れし目と優れし耳は敵の襲来を逃さぬ。遊撃の構え、押し寄せる敵に対抗すれば。
「海を超えんとする者らに悪夢を振り撒く物の怪共……なればこそ、此処で悉くを断ち切りましょう」
更に敵を一体、ユースティアが打ち砕いた。
此処に在りしは一人ではない。共に動く者がいて。共に歩む者がいる。修也、紗夜、ユースティア……三者は一体の組と成りて、敵の波を叩かんとする。一体一体に注力し、飛ぶ斬撃に一・二撃の赤黒一閃。身が縛られんとすれば祈りの願いがその縛を祓い解き。
「確実なる撃滅を。生き残りは、それだけで悪夢を振り撒きます」
倒す。確とした止めを。確実なる処理を彼女は目指して。
「敵は多数にして巨大。それでも……今、私は私に出来る事を」
更にユースティアに追従する形で――澪音が敵を切り裂いた。
彼女の眼前。水平線の彼方にも『奴ら』が見えて……並み居る敵の大群を目前とすれば、流石に些かの『死』を臭わせる。さてさて、死に直面する時、人は本性を曝け出すとは言うけれど。
「死に近付く心地は、想像に難いわね」
心の臓が掴まれる様だ。気を抜けば呑まれる。死の臭いに、死神の誘いに。
それでも。
今ここに立つ限り。恐れと向かい合い、或いは立ち続ける事が出来るのなら。
「――精々、足掻くとしましょう」
込めるは全霊。一刀に全てを、振るう刃に至高を満たして。
死神などここにはいないと。全てを振り切るように前へと進んだ。
この海域での戦場はおおよそ二つに別れている。一つはここ、指揮官が属する旗艦ニーベルング周辺。もう一つはニーベルングより少し先――迎撃・防衛の為に先行している艦隊の二カ所である。
最善は先行艦で全てを迎撃。ニーベルングは適時戦況に応じて支援の為の行動と指揮を出す……事だが。生憎と敵の攻勢はそのような余裕を許さない。
「ここが崩されては堕ちた女神像も倒せませんね――
先往く方々の武運を信じて、私達は出来る事を。要であるここを守り抜きましょう」
「ああ。この身が続く限り頑張るとも」
どこまで役に立てるか分からないけれどね、とルシオは謙遜しながら初季へと言葉を。
そう。この海域の魔物達の支配者である『女神像』を倒せるか否かは重要な要素である。しかし指揮系統を担っているこの艦が万が一にも落とされればその時点で戦線が瓦解しよう。かような事態は避けねばならない。故にルシオは前線へ。
己が速度を活かし仕掛けるは超接近戦――突出せぬ様に心がけながら。
「スピードには少し自信はある方だけど、力仕事は辛いなあ。でも、頑張らないとね」
敵を倒すのだ。取りつく物らを一撃一撃。
初季もまた同様に。ブルーノートディスペアーの情報、それらを頭の中で回して。
「――これより先には進ませないですよ」
薙ぐは魔力の渦。遠距離に届く一撃が海の中の狂王種を穿った。
「うんうん! ここがきっと最後? の戦いだね! アルバニア? とは直接関係ないけど、カナたちはカナたちで勝たないと、みんなが困るよね☆ だから頑張ってこー!」
それでも海から甲板上へ上陸してくる無数の魔物達――に対して。陽気な声と共に即座なる一撃を叩き込んだのはカナメだ。それは蹴り。こんなのも避けれないの~? だっさ~☆ と言わんばかりに舌を出せば敵意を貰う。
しかしそれこそがカナメの狙い。
「いっけッ――!! どんどんぶっぱなしていくっすよッ――!!」
引き付けた視線を横から、リサの一撃が叩き込まれた。
バリスタ。巨大な弩であり、攻城兵器にも使われるソレは長大な射程と威力を持っていて、敵へとぶち込んでいくに充分な兵装であった。正面に並べば貫く一撃を。密集していれば炸裂する一撃を。
「うげぇ、これだけぶち込んでもまーだいるんすか。
あっちの船よりは少ないっすけどこっちも多いっすねー……」
「うん! でもカナが引き付けるからその間にもっと――わッ!」
その時だ。カナの足を蛸型の狂王種が掴んだ。
一瞬の隙を手にしたか――思いっきり。甲板上にカナメは叩き付けられ、しかし。
「はぁ、はぁ……いいよぉ……もっと。もっと痛めつけてほしいなぁ……!」
死ぬのは怖いが、死ぬほどの痛みは味わいたい……などと彼女は鼻息荒く、ひ、ひぇッ! こ、堪えていなさそうなので良しとしよう……!
さて、ニーベルングで戦うはイレギュラーズのみに非ず。
鉄帝の兵もそうであり、狂王種へと対抗する。
砲弾を海へ撃ち込み、取りつかんとする者がいれば率先してそこへと向かい。
多くの咆哮が闘争の血を沸かす。
「鉄帝の軍人さんは、敵だと非常に精強で厄介ですけれど味方になると頼もしいですねぇ」
かような様子をアレクサンドラは駆けながら見ていた。
絶望の青を踏破するなどと言う一大イベントを商人である己が見過ごせようか。かの出来事が『成れ』ば海洋が湧く。湧けば物流のあらゆるが動き、そしてそれは自らにとっても無関係でなく、故に。
「こちらも負けずに気合を入れて頑張りますよ! 商人魂ふぁい、おッ――!」
駆けるのだ。己が脚を全力に、剣を持って薙ぐは敵を。
傷ついた味方の者がいればその背を掴んで一気に後方へ。馬の足並みどこまでも。
伝令、運搬、救助……縦横無尽に彼女は動き。
「ふむ――流石イレギュラーズ。頼もしいものだ」
さればその活力。ニーベルングの指揮官たるレオンハルトが感嘆した様子を見せて。
ならば負けじ負けれずとレオンハルトが振るう指揮の声に合わせ、より一層の気迫が兵に満ちる。
鉄を謳え。鉄の意志を示せ。鉄は如何なる戦場にても頂点であると。
「ハイデマリー。卿にもまた奮戦を期待する。敵を打ち倒し、己が力を見せよ」
「――ハッ!」
そしてかの指揮官は己が娘にして部下。イレギュラーズであるハイデマリーにも指示を飛ばす――
なお。その姿は軍服モードではなく煌びやかな魔法少女モードであった。
書き間違いじゃないのでもう一度言いますが魔法少女モードです。父親の前ですが魔法少女モードです。え、なんでかってそんな事言われても上官(父親)命令なので……! どうしてもあの時の衝撃が忘れらず見たかったのかもしれません。
「……ともあれ如何なる姿であろうと尽くす力に変わりなし」
少し前は銃口を向けてしまった。それは立場故の事である。
レオンハルトは気にしてもいないが――ハイデマリー自身がそうでないのだ。軍属であれば上官に銃口を向ける事の意味は……だからこそこの戦場では高揚していた。父と一緒に戦うのは久しぶりであり、何より気兼ねない。
向ける銃口は鉄に非ず。海の怪物へである。
思考を巡らせ父の指揮を受けながら彼女は戦場へと往くのだ。
――ただ、その高揚の陰にて。
いつも隣にいた親愛なる彼女が別の場所で戦っている事に、一抹の寂しさが無いかと言えば、嘘になるが。
それでも今は只目前の任務を。冷徹冷静にして強力なる一撃。引き金を引き絞り、敵を穿ちて。
「鉄帝国。ああ、これが、か。なるほど。
深緑に居た頃から噂程度には知っていたけれど……これが本当の武を愛する人達なのだね」
そしてハイデマリーを含み、甲板上に居る鉄帝兵達の気迫を視ればリーシェが言う。
「なら僕も微力なれど一端を担おう。少しでも長く見せて欲しい、貴方達の誇りを、武を!」
この武人達と共に、と! 自らの血をも沸き立たせ、前衛を担い。
繰り出すは格闘術。拳が、掌底が。足の捌きが迫りくる魔を打ち。
のめして心に高揚を。今一時、己が心に武の高揚を!
「全く。敵として戦った鉄帝の艦で、しかも戦った軍の人と共闘なんて……」
そしてリーシェに続く形で。通常あり得ない事だと、メルナは思考しながら歩を進める。
こんな事もローレットが中立の立場だからこそ、と。
尤も『引きずらぬ』のは気が楽な話でもある。
「うん、なら……この魔物の群れを切り抜けよう、一緒に!」
「オイラ達で守り抜こう! 鉄帝の人達と一緒に戦うのなら、大変な戦いでも行けるさ!」
ならばとメルナは剣を構え、チャロロと共に防衛の構えを。
守護せしは指揮官のレオンハルトとルドルフ達だ。レオンハルトとはグレイス・ヌレ海戦では敵として相対した人物だが、それは過去の事。むしろあの時の力と指揮を知るメルナとしては、頼りになる事を身を持って知っている。
故に過去を想起し連携を試みる。彼の指揮の動きに合わせ薙ぐ炎の剣。
チャロロもまた彼らの位置をしかと記憶し。万一の敵の襲来があってもすぐさまカバーできる位置を取りながら、狂王種へと相対。
「この船も皆の希望も、沈めさせはしない!」
一撃おみまいしてやるのだ。両の盾を駆使して破壊の力と成し、相手の腹へと叩き込み。
「――何が来ようと私の戦い方は変わらない。この艦は、ニーベルングは決して沈めない」
更に呼応する形でエミールもまた往く。
「我が名はエミール! 魔物はここより先には通さん! 通りたくばこの身を超えてみるがいい!」
高らかに宣言し、チャロロ達と同様に彼もまたレオンハルトの元へ敵を通すまいと。
引き付けるだけ友軍の負担が減るのだ。故にこの戦いでは守勢一辺倒。
躱し、捌き。魔物達の攻撃から決して目を離さない。
傷を負っても尚恐れず。死への臭いに乗る事無く、生を求めて立ち続ける。
金の獅子を中心として。確固たる意志と、確固たる強さを――振るいながら。
「いやぁ、はっはっは! やはり戦場の空気は良うございますなぁ!」
そしてかの沸き立つ風こそ愉快であると、ヨシツネは刀と共に戦場へ馳せ参じ。
「些か潮の香りが強いですが、宜しい。かような戦場もまた一興でしょう。くく、いやぁ上等上等!」
鞘より抜きて、これより先は死会いの世界。白刃を煌めかせ、素早き一刀は『赤』を刻み。
斬って、斬って、斬り結んで! 戦場を駆けようじゃないか!
「――俺達から目をそらすんじゃないぞ、狂王種共」
焼き付けろ。その目に、我らの輝きを。
いざ尋常に……の一声と共に。彼の世界は紡がれる。
血沸く、血沸く。誰もが彼もが。これが戦場。これが――決戦。
「平和な世界には無き概念。この世界では戦争やらなきゃならない時があるんですよ」
エアルは戦う。ニーベルングを護るために、水中でも呼吸できるポーションを服用すれば。
「触感は餅……む、なんと? 這い上がってきた海の幸がいるだと……? それは――」
食べて調査せねば。
そうこれは調査。調査と言えば調査である。だから往こう。
身を茨の如く強化し、狙い定めるは美味そうな海の幸……もとい狂王種! 覚悟!
「防衛戦、か……鉄帝の旗艦は硬いみたいだけど、あまり好き勝手させたくないね……
……ただ、集団戦とかそういうのは、あまり得意じゃないんだよね……」
「あら奇遇ね、私もよ。ま、折角来てくれたんだし、みんなで思いっきりやりましょうか」
アイゼルネとセリア。二人は範囲に優れたる攻の持ち主ではなく、故に集団戦は向かぬと。
「ま、でもわたしもラドバウとか行ってお世話になってない訳じゃないからね――」
それでもやれる事はあると。セリアは敵の距離を見極め、魔力の質を適時変更。
的確に穿ち、削り敵を倒してく。アイゼルネもまた、劇薬を塗布したナイフを投じてレオンハルトとルドルフの二人に視線を。彼らの様子に注意しながら、慎重に立ち回るのだ。
「……なるほど。この者、中々鉄帝の動きを見た事はなかったが、興味深いものだね」
そして彼女らと同様にレオンハルト達を見据えるは――ロゼット。
より厳密に言えば見ているのはその戦術である。次合う時は彼らと敵か味方か分からぬが。
「知識を増やして困る事はないだろう」
故に注視する。無論、観察だけに徹せる余裕はない故敵がくれば前衛として。
瞬間的な能力向上を。そして敵に光り輝く羽めいた収奪の一撃を――
「初めての実戦がこんなに大規模だなんて、ちょっと緊張するけど……
でも! 私に出来る事を頑張って、皆で勝利を掴もう!」
そして紅葉もまた己の力を全力に。狙うは船に上がらんとしている狂王種。
死霊の力を溜め込みし弓で一閃するのだ。一で足りねば二で三で。
「くっ! でも流石にこれだけの敵がいると、矢の数の方が間に合わないね……!!」
「よっしゃ――!! ならアタイにも任せろ――ッ!!」
しかし困った事に狂王種の数が多く、紅葉の矢だけでは手数が足りぬ――と思った矢先に。正に甲板上に到達せんとしていた一体を、レニーがはっ倒した。
「止めを頼むよ! アタイでやれればやるけど、中々全部とはいかないからね!」
その身は素早き加護を身に着けて、次々と狂王種へと攻撃を繰り出していく。紅葉の矢。レニーの一撃――掌底からの強烈な炸裂で、敵を振り落とすのだ。
『ガァアアア!!』
激戦。海に浮かぶ鋼鉄艦は魔物の群れに取りつかれ。
されど速度を落とすことなく群れを潰して進み続ける。
「――これでよしっと、動きに異常はあるかぃ? いくら戦好きでも、無理はすんなよ」
その邁進にはヨシトの様な治癒を担当する者達の働きもあったが故だろう。
彼の様な、治癒を担当する者達もいなくば体力も保つまい。その観点ではルリもそうだった。後衛の側に位置し、特に指揮官の二人を範囲に定めながら。
「まぁこの位置であればボクの恵みもいつでも届くでしょう――感謝して崇めてもいいのですよ?」
そしたら幸せの加護でもあるかもしれないですと、複数の癒しの術を紡ぎ。
ヨシトと同様に皆を癒す。回復に専念し、戦線を支えんと。
「ルドルフの旦那、全体の『見』は任せるぜ……俺は、戦う奴らを生き延びさせる!」
継続的な回復を。皆の命を繋ぐべく、ヨシトは駆ける。己が力を少しでも皆に――と。
「……ふむ。敵の攻勢が東よりやや激しい、か? やむを得ん、そこは私が往かねばならぬか」
そしてヨシトや偵察に赴いている鉄帝兵からの報告で、副指揮官としてここに居るルドルフは動く。レオンハルトは主たる指揮官として動いており、ならば細かな所をカバーする事こそが己の役目であると。
されば敵もルドルフの気配を察し、鋭き爪を突き立てんと――するが。
「邪魔だ雑魚共が」
自らに強化魔法陣を敷いて、高速の身へと至った拳を狂王種へと突き立てる。
鈍い音。それは威力を物語り、成程。技術士官という職であるが、とてもとても。
「流石は鉄帝の一人……と言った所ですか。あれが、ルドルフ・オルグレン大佐……」
その様子を視界の端に。リースリットは言葉を紡ぐ。
指揮系統に影響や問題が無いか彼女は真っ先に確認しに来たのだが……これは、杞憂であったか。ヴァイセングルク殿の方も問題なさそうだと思えばリースリットは。
「――リズ! どこだ、無事か!!」
「カイトさん。ええ、私は此処です。こちらは大丈夫ですよ」
狂王種を一体切り伏せるカイトの下へと合流する。
風の精の力も借りれば飛行も出来、翼を持つカイトとも共に歩めて。
「クソッ、あの女神野郎……ふざけやがって! 魔物を従えてなんて姿だ……!」
されば彼は怒っていた。見える先は――先行艦の更に先にいる女神像。
巨大なりしその姿。醜悪なりし、その姿。
神への冒涜か? 己が前で、かような姿をよく見せた。怒りは力へと。
リースリットの治癒が、あるいは魔力の奔流が戦場を襲い。カイトの刃は敵を襲いて。
「誰一人として落とさせるものか! 軍門に下れ――狂王種!」
彼の剣が戦場に輝く。彼の力が、翼が、正義が――此処に。
そして騎士のカイトに続く形で鉄騎種――いやサイボーグのカイトの攻撃が紡がれる。
それは凍れる雨。無差別なりし残酷な一撃が海へと襲い、海中にいる敵を定めてその身を穿ち。
「群れをどさーっと盛り込んだら終わるのは自明の理……ま、鉄帝の船の硬さは評判通り、って事実をどっちのおエライサンにも示してやんねーとさ」
鉄帝自慢の鋼鉄艦。さぁその耐久性はどれだけか……
「これはまた……凄い数だね! 流石、絶望の青と言われる本領なのかな……!」
そしてマリアは言う。敵の数に思わず感嘆の声を漏らし、しかし。
身に纏うは強烈な放電。超速の世界が、彼女の身に顕現し。
足を止めず只管往く。地を駆け、敵陣を駆け、紅雷の蹴撃。
「――私ってそれなりに速いと思わないかい?」
されば穿つ。敵の身を、敵が痛みを知覚する前に。
一拍置いて、狂王種の身が破裂した。
ニーベルングでの戦いは順調。各々の奮戦が、数多なる襲撃全てを押し返していて。
そうだ負けられぬ。
ここも重要だが、先行艦では――そう。パルス君達も頑張ってくれているのだから。
戦おう。
全てはこの海域の首魁を倒すまで。
●
「パパパパパ、ぱっるすちゃーん!!」
ニーベルングの戦線から少し前方。先行艦防衛ラインの一角にて、焔は涙していた。
いる。あのパルスちゃんが。ラドバウのパルスちゃんが。パルスちゃんが――!!
「うん! 今回は宜しくね、焔ちゃん!」
「はう!! 待って! いきなりの名前呼びは心臓とパンドラに悪いよ!!」
ええっ!? と困惑するパルス。思わずパンドラ消費するかと……いや冗談はともかく。
憧れの対象が近くに居るが緊張している場合ではない。
なにせここは旗艦に進まぬ様に可能な限り押さえつけている最前線なのだから!
しかし考えようによって己の武が映える場面。
幸いにしてパルスちゃんがいる船に陣取る事が出来た。彼女の動きを見て参考にしつつ。
「いっくよ――! 突撃だ――!!」
己の炎を戦場に舞わす。振るった武器の先から炎が敵を焼かんとして。
「よし! 負けるな、続けっす! 今こそ鍛え上げた武を魔種と海洋国共に見せ付ける時っすよ! 鉄帝兵一斉に構えっす! この青に――絶望の色の上に――鉄の覇を唱えろっす!」
そして最前線で皆を鼓舞するはレッド。レッドもまたパルスちゃんの船にいて。
「怖気付く奴は死ぬっすよ! そんな暇はどこにもねーっす!」
大いなる盾を構え、この戦場に要るのは真の鉄帝者だけだと。
迫りくる魔物を押し返さんと掛け声とともに、衝突。
そう、レッドの言う様にもはや暇などないのだ。先行艦ワルキューレはニーベルングより小型である事も相まって、戦力を一点に集中させての防衛という事は出来ない。各地で奮戦するしかないのだ。出来ねば呑まれて死ぬのみ!
「パルスちゃん後方から援護するね! 自由に戦場を動いて!!」
「うん、ありがと! 一緒に奴らをたたいてやろうね!!」
故にエルはパルスの援護をしながら只管に攻撃を。
今はまだ見えねど、この海の先に新天地があるのか。あるのならば行ける様にしてやりたい。
射撃。射撃――繰り返される射撃。
「然り。海の果て、未だ見ぬ夢に思いを馳せて、死力を尽くせるのは――
それこそ正に人の特権にございましょう?」
そこへ援護するのはグランツァーだ。精霊との疎通によって周囲の魔物の情報をある程度得ていた彼は疑似生命体をけしかけさせ、味方の脱出の隙を作る。ああ夢に邁進するは人のみ。なればこそ、人の歩みに力添えすることこそ。
「我が本懐なれば」
狂王種の群れ如きに邪魔させるものか。
熱砂の精にて焼き払う。海に広がりし敵を。
仇名す魔を其処に縫い留めましょうや……!
「……全く。妙に厳しそうな戦場になりそうだ。うまくできれば良いんだが」
「なーに! 砂漠だろうと海だろうとどこであろうと僕のやることは変わらないッス!」
更にアルクと鹿ノ子も往く。接近してきた狂王種をアルクは掌底で吹き飛ばしつつ。
「……精霊達もあまり良い感情を持ち合わせて無さそうだ、こんな海も世界にはあるのか」
対象の頭上より大量の氷柱を繰り出した。
動きを拘束する氷の魔術。檻が如く形成し、敵を束縛して。
「船って結構揺れるッスね……でも!!」
鹿ノ子は跳躍。動きが鈍った狂王種、その背後から繰り出すは無数。
繰り返し、繰り返し、灯火を削り取り、断ち切る。一撃で死ななければ幾度でも。
一発が軽いからって甘く見ていれば――痛い目をみるのだと。
しかし奮戦をもってしても尚敵の突破を防ぎ切れていない。やはり数の差か――鉄帝国の海軍兵、パルスの俊敏なる動きをもってしても優勢とは言えず。
「凄い軍勢……よし、その波濤……超えさせてもらうわ!」
だというのにイナリはむしろ奮起していた。
大波の如く押し寄せてくる狂王種。そこへ叩き込むは異界の神――迦具土神の熱量。
光帯が如くの一撃、いや一撃にして無数の帯が一点に。
炸裂。破砕。戦場に穴を穿つが、恐るべきはこれを彼女は連射可能と言う事か。
「天・孫・降・臨……主の輝きを知りなさい!」
放つ。放つ。放つ――爆ぜる熱量が海諸共消し飛ばしていく。
無論狂王種達も馬鹿に非ず。熱量を放つ源へ殺到し、彼女の息の根を止めんとして。
「させません――これより先に進みたくば命を賭しなさい!」
だがそれをミィが止めた。鋼が如き彼女の耐久性が、先行艦の船上に立てば正に『壁』だ。
死力を尽くし狂王種の群れを押し留めんとする。傷を負おうと、後ろには退かぬ。
――私は旅人。本来であればこの世界となんら関係も関わりも無かった人間。
けれど祈ったのです。
あの日あの場所で、命を賭して戦う彼らの為に。
「今こそ成長を見せる時……! 大装甲、鉄腕形態!」
決死の盾となりて全てを庇う。祈りの手を拳として。
「あらあら随分と頑張るわねぇ――うふふ。そういう気迫は嫌いじゃないわよ」
されば瞬間。ミィらに群がっていた狂王種の一部が星屑の様に流れ飛んだ。
「ま、アタシも多少真面目にしとかないとイイ男に怒られちゃうかもしれないからねぇ♪」
――声の主はビッツ・ビネガー。ラドバウS級闘士が一角。
それは純粋な戦力としてはパルスすら大きく凌ぐ。飄々とした態度から、一体どこまで真剣にこの戦場にやってきたのか不安要素は大きかったが、一度動けばご覧の有り様。
道を開くように狂王種共を打ち払う。激突する度に点が穿たれ。
「見えやがった。アレが……堕ちた女神像か」
やがて味方の治癒行動を行っていたウィリアムの目に『奴』が映り始めた。
堕ちた女神像――この海域の魔物どもを統括しているモノ――
奴はゆっくりとこちらに近付いてきている。その体の節々からは黒き闇の様なモノが零れており。
「ハッ。アレが狂王種共を治癒してやがるのか……面倒だな。
恨みはないが、早いとこくたばってもらわねえといけねぇ」
「ううむ、しかし中々厳しいな! あちらもこちらも魔物の対処に精一杯だ……!!」
ウィリアムの言に乗せる様に言葉を繋いだのは、アルケイデス・スティランス。
長槍を振るい魔物を叩きのめしているが――周囲の鉄帝兵と共に押し寄せる連中への攻撃だけで手一杯な状態。ワルキューレ全艦戦闘状態。余力なく、では後は頼めるとすれば。
「――よっ、アルケイデス。頑張ってんな!」
「ぬ、ぉ、おお!? 風牙か!!? すまないが今、本当に忙し――うぉ敵が!」
「ははは。安心しろって。今からオレが敵の大将首落としてくるからさ。任せろ」
やはりイレギュラーズなのだろうと、アルケイデスは知古の風牙を見て思い。
「……良いんだな? じゃあ任せた!」
「おう任せてろ! ――帰ったら一緒にピクニックにでも行こうぜ!」
短き言葉。しかしそれだけで全ては通じ合い――そして。
見据える。全ては一点、魔を統率する首魁。
戦場の絆を結んだ者達と共に――堕ちた女神像を、討つッ!
飛行状態から水面を駆け抜ける様に。魔物とのすれ違いざま、風牙は斬撃を叩き込めば。
「突如作った突貫チーム! しかし仲間が出来れば怖くない! それが戦い……
アイヤー……S級の闘技者とかも居るアル! ちょっと、一緒に来ないアルか!!」
「うっふっふ。いやよぉ、今ちょっと忙しいか・ら♪」
残念無念と虎は言う。ビッツは忙しいなどと言っているが――流石に女神像の直近まで行くのは手間も面倒も掛かるから嫌なだけか? 可能であればS級の動きを、その技をこの目にもっともっと焼き付けたい所だったが。
「いつか必ずウチの力に昇華しちゃうヨ! でも今は――女神像アルネ!」
「よぉおおし! ひよっこの火事場力、見せるよ!!」
全ては大勝利の為に! と、ミルファは虎と共に女神像を目指すのだ。
虎が放つは爆砕の華。敵を打ちより破壊する秘儀と共に、敵が纏まっていれば右手に力を集中させ――炸裂。纏めて吹き飛ばさんとする一撃を放って。その直後にミルファの支援が後方より。
「引っ込んでちゃ、ここに居る意味がない……今出せる全力を! 少しでも皆を先へ!」
海にも空にも敵が多い。攻撃を回避できるか――? いや、やるのだ!
寸で躱せば頭の上を死の臭いが通過する。冷や汗をかく間も無く次の手が。それも集中を切らさず見て、見て、見て――続く限り己が支援を皆へと渡す。治癒の手を、負の要素を打ち払う分析の声を飛ばし続けるのだ。
「あの女神像がある限り、敵に治癒の加護があるんだよね。
ならやっぱりアレを真っ先にぶっ壊さないとだね! 行こう、リディアちゃん!!」
「朋子さん!? あんまり一人で突っ込んだら危ないですよ!? こ、こんな凄い規模の軍勢の真っただ中に行くならちょっと作戦を練ってから……朋子さん!? 朋子さ――ん!?」
そして続く形で朋子とリディアもまた往くのだ。互い、初陣なれど気迫は達人にも劣らぬ。
目指すはやはり女神像。潰さねば結局どうしようもないのならば、そうだ、潰せばいい!
「思い立ったが吉日! この瞬間こそ強襲日和だよ! いっくぞ――!!」
「ああもう! レオンハートの名に賭けて――行きます!」
相方に引っ張られる形だが、時間を掛ければ不利になるだけかとリディアも覚悟を。なにより朋子は此方に召喚されてから出来た、初めての友達だ――見捨てる理由などどこにもなく、何があっても絶対に守ってみせる!
振るう武具。狂王種の顔面に一撃、殴り続ける朋子の攻勢。迷い無き彼女の一撃は強烈無比。
振るう刃。狂王種が群れる一点に一撃。雷が如き騎士の一撃は悪意の塊共を穿つ洗練なる一閃。
進む。進む――互いの背を護る様に。魔物の群れにも一切の恐れを抱かぬ程に。
『――――』
されば女神像の眼が開く。
次の瞬間に放たれるのは――波動だ。女神像の胸元辺りから前線へ。
強大なる魔力の渦が皆を襲いて。
「くっ――ッ! しかし、まだです! この程度で倒れるなど、決して……!」
それでもと、ヴァージニアの支援が即座に。治癒と分析の声が素早く効果を打ち消しにかかるのだ。折角敵の懐へともう少しなのだ。この勢いを――途切れさせる訳にはいかない!
「ええ全く。如何に転ぶかはともかくとして、大物が現れたのならもはや佳境」
今少し踏み止まるべきでしょうと、紡ぐのはチェレンチィだ。
海洋やら鉄帝の事情――それぞれの思惑、今少しよく分からぬ点がある、が。
「仕事はキッチリやり遂げるのがボクのポリシーです」
出来る限りは頑張りますよ、ええ。と、呟きながら跳躍し。
空舞う狂王種の一体に刃を。確実なる傷を与えて、味方の道を切り開かんとする。
「全く、船上での戦は長年生きた某でも初めてであるな。まあ海洋と無縁の山育ちの猫だ――」
お手柔らかに頼むよと、呟きながら紅華禰は前へ。
回復や支援? かような技術は持ち合わせておらぬ。ただ己に出来る事は。
「唯々斬って穿つのみ」
ニャ、と小さく鳴いて。不意打つ一撃に対処しながら彼女も狙うは空の狂王。
跳躍し。低空を飛行せし魔物へと一閃。進め、進め女神像の下へ――と思考しながら。
「亡者も、魔物も。もう、おやすみの時間よ」
されば『その』時間だと。ラヴ イズ …… 彼女の声が戦場へ響き渡る。
――夜を召しませ。
天蓋覆う夜の空が諸共逆しまに落ちてくる錯覚。そう、それはあくまでも錯覚だが――ほんの一瞬でも不安や焦りを抱いたのならば、その隙間から重圧は各々の内へと入り込む。彼女を倒さねば解放されぬと引き寄せて。
「……ここから先は、お願いね」
ならばと頼むは味方へと。この子達は、私が引き付けるから――
女神像を。あの首魁に終わりをと。
往く。往く。たった一筋の隙でもいい。
奴に――女神像へ届かせる機会があるのならば。
「往かぬ理由はないでしょう、ええ。一枚かませろと元々申したのは我々なのですから」
エッダが踏み込んだ。グレイス・ヌレ海戦の発生から鉄帝と大号令の関係が出来て。
それに対して一番の危地を寄こした海洋王国。
勝てば名声と地位は我らに。絶海の踏破は彼奴らに。負けて失うは命くらいのもの――
「はは、最高でありますな」
奴らもほとほと戦い好きかと。女神像の迎撃の魔力を受けながら。
しかしエッダは一切止まらぬ。
確実な進路を切り開くべく踏み込んだ一歩と城塞の如き構えが、崩れぬ壁としてここにあり――直後。そのエッダの周囲を銃撃の雨が襲い掛かった。
「ハッハッハ。冠位魔種を倒すのも重要っちゃ重要だが……
先々今後の事も考えると、ここで鉄帝に恩をしこたま売っておくのは悪くない話だ」
プラチラムインベルタ。敵味方を視、敵のみを逃さぬ銃撃。
シルヴィアの支援射撃である。敵の数を減らすに有効で、進み込んだエッダの周りには敵が殺到しており良い的があちらこちらに。次いで射線があれば、女神像をその目に捉え。
「相手も数だけは多いがなぁ、結局。戦いなんてのは生き残った方が勝ちだ」
分かりやすいだろ?
言うなり狙い定めて穿つ一閃。空を切り裂き直撃し、仕込まれた特殊抗体弾頭が身を蝕む。
されば咆哮。女神像が、歪なる声を響かせている。それでもこれ一発で倒れぬ事は無いか。むしろ反撃の為の一撃をこちらに送り込んでくる。距離を保ち、なんとか回避出来ぬかと動き続け。
その時。陰より伺うは黒衣の者。
忍びはソコに生きる者――鬼灯。
「さぁ舞台の幕を挙げようか。尤も乙女にとってはこれが幕やもしれぬ話だが」
女神像を指して乙女とし。ならば己は影より『役者』を支えようと。
顕現させしは虚無の剣。乙女を呪わんとする一撃を加えれば。
『――――!!』
痛みに女神が明らかなる絶叫を。明らかなる咆哮を。
貴様――何をする――かような感情の視線が鬼灯を捉えて。
「『暦の頭領』にしても、『ローレットの一員』にしても決して失敗はできんのだ!」
『未来の為に立ち止まれないのだわ!』
己が『嫁殿』と共に乙女へと啖呵を。
怒りの波動が周囲に放たれるも、嫁殿が言ったろう。未来の為に我々は――
「立ち止まれぬ、か。成程いい言葉だ。
信念持ちし者は強い。己も、己に恥じぬ戦いを最後までやり遂げよう」
同意し、更に突き進むのはアカツキだ。狂王種を押しのけ、射程圏内に捉えた彼は。
「ここが間違いなく決戦の舞台だ。晴れやかに、派手に行こう」
己が全霊を賭して、一撃の膂力を女神像へと叩き込み、そして。
「ここは鉄の大地に非ず。海の果てでありますが――鉄帝国の軍艦、名だたる闘士達と肩を並べる事が出来るのならば、誇らしき戦場に違いはないでしョウ」
逃さずリュカシスもまた直近へ。統率の技能を用い、全体の指示を行っていた彼だが――
今こそ。今この場面でこそは、己もまた指示ではなく前へと進む場であると感じ取り。
「堕ちた神はただ沈めて越えるのみ。武勲を挙げて、力を尽くせ……!」
――鉄の名を刻みましょう。
足に力を。腰を回し、捻りを得て。
繰り出すは全身全霊――火炎の戦槌に一閃の力を。
轟音。女神像の全身にヒビが入る。蓄積された痛みが堕ちた女神像を震わせて、さすれば。
女神像が落ちる。
身が砕け、
破砕していく。
ォォォォォ、ォオオオオオオオ……
大気が泣き。この絶望の青の魔力に犯された女神像が啼けば。
狂王種達は統制を欠いて離散していく様子が見て取れた。
黒き波はまるで蜘蛛の子の様に。
そして――
「空、が……」
誰かが呟いた。混沌としていたこの海域の、空。
雨雲が掛かり、嵐が吹き荒れていた筈の戦場の天は――
とても晴れやかな色を、皆に見せていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
女神像は砕け、鉄の船団は前へ。果たしてその道の行く先には――?
ご参加どうもありがとうございました。
GMコメント
●同時参加につきまして
決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どちらか一つの参加となりますのでご注意下さい。
●重要な備考
<鎖海に刻むヒストリア>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。
■プレイング書式
一行目:どこの戦場へ行くか(1、もしくは2をご記入下さい)
二行目:グループタグ(または空白行)
三行目:実際のプレイング内容
可能であれば上記の様にご記入いただけますと幸いです。
■勝利条件
1:『堕ちた女神像』の撃破。
2:『旗艦ニーベルング』が破壊されない。
3:『レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルク』『ルドルフ・オルグレン』の両名共に戦闘不能状態とならない。
上記全てを達成してください。
■戦場
この海域では二つの戦場に別れます。まずどちらの戦場へ往くかご選択ください。
1:先行艦での戦闘
2:旗艦ニーベルングで防衛戦
1の戦場ではアルケイデス、パルス、ビッツ
2の戦場ではレオンハルト、ルドルフと共に戦います。
どちらも船上(もしくはその周囲)での戦いとなります。
戦闘が激しいのは「1」の戦場ですが、防衛網を突破した戦力も存在し「2」も決して安全な状況とは言えません。また「2」が陥落した場合当然その時点で「1」の趨勢に関わらず失敗となりますのでご注意ください。
■敵戦力
■堕ちた女神像
狂王種。船よりも一際巨大で、その姿はなんらかの女神像を思わせます。
この海域の魔物達を率いている首魁だと思われます。撃破してください!
健在である限り、1・2戦場全域の魔物のHPを常時少量回復し続けます。
更に攻撃状態に入っていない場合このHP回復効果量が増加します。
また2ターンに1度自身と、周囲R4内にいる魔物に対しBS解除判定を行います。
攻撃状態時は神秘の広範囲攻撃を使用してきます。
【猛毒・ショック・流血・致命・不運】の攻撃が一つ。
【魅了・狂気・恍惚】の攻撃が一つあるようです。
その他の攻撃方法があるかは不明です。
現状、具体的な攻撃力などの能力値は分かっていない事が多いですが、ゆっくりと移動してくる様子しかない事から機動力の類は低いかもしれません。防御能力、命中性は実際に攻撃段階に入ると分かって来る事でしょう。
1の戦場で戦闘が可能です。
■狂王種(海)×??
鮫、イカ、タコなど海の魔物達が狂王種となり果てたモノ達の大群です。
船体を攻撃したり、もしくは甲板へ這い上がって来る個体達で形成されています。
鉄帝の船は鋼鉄艦ですのでそうやすやすとは沈みませんが、攻撃を重ねられれば沈む事もあるかもしれません。甲板上の敵だけでなく、海の中の敵も可能であれば撃破していく必要がある事でしょう。
1・2の戦場両方に襲い掛かってきます。
■狂王種(空)×??
カモメなどを思わせる姿の狂王種達です。
上記の海の連中とは異なり、空を舞い襲撃してきます。
個体数としては海よりは少ないようですが先述した通り空を舞い、また範囲攻撃などを所持しているようです。毒の類や体を痺れさせる類のBSの保持が確認されています。
1・2の戦場両方に襲い掛かってきます。
■鉄帝側(味方側)戦力
■先行艦『ワルキューレ』
鋼鉄で包まれた鉄帝国の軍艦。それなりに硬い。
1の戦場での場所です。アルケイデス、パルス、ビッツはそれぞれ別の船に一人ずつ乗っています。
複数艦隊が存在し、ニーベルングを中心として防御陣を敷いています。
積極的に敵の波に対応することになるでしょう。
下記NPC以外にも鉄帝兵が1隻につき10~15名程存在しています。
■戦艦『ニーベルング』
鋼鉄で包まれた鉄帝国の軍艦。かなり硬い。
2の戦場での場所です。かなり広いので甲板での戦闘は大人数でも問題ありません。
鋼鉄で包まれている為魔物の攻撃でもそうやすやすとは落ちないでしょう。
下記NPC以外にも鉄帝兵が20名程存在しています。
■レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルク
鉄帝の軍人。骨格が機械で形成されている鉄騎種。本作戦の指揮官。
鉄帝人らしい気質を奥底に持ちますが、基本的には冷静な人物です。
通常時は軍式格闘術による戦闘。本気の際は剣を用いての戦闘に移行します。
周囲の味方陣営の戦闘能力を向上させる指揮能力を有します。
これはイレギュラーズも範囲内に居れば有効となります。
本作戦の指揮を執っている人物であり、戦闘不能状態になった場合鉄帝兵全体の動きが鈍くなります。
■ルドルフ・オルグレン
鉄帝の技術部門の軍人。皇帝の命により指揮の副官として参戦。
本来は学者肌の人物であり、古代遺跡の管理・研究などを行う分野こそが専攻。ただし最近は魔種の特性や能力の研究なども行っている様だ。戦闘時は、付与魔術を併用した魔術による近接戦闘を主体とする模様。
本作戦の副官の地位にいる人物であり、戦闘不能状態となった場合鉄帝兵全体の動きが鈍くなります。
■アルケイデス・スティランス
鉄帝でも有名な武闘派一族『スティランス家』の長子。
前衛型の人物。恵まれた肉体から繰り出される一撃は激しく、彼の武力は周囲の鉄帝兵を沸き立たせる……が、それは表の顔。実際は争い事が嫌いな温和な性格をしており、度々このような前線活躍は辞めたがっている。お家に帰って白いわんこもふもふしたい。
それでも頼られればNOとは言えない。
彼は今日もスティランス家の跡取りとして望まぬ活躍を演じ続ける。
■パルス・パッション
ぱっるすちゃーん! 鉄帝のB級ラド・バウファイターだよ!
前衛型のファイターだよ! イレギュラーズの皆と一緒に戦うから、よろしくね!
先行艦にて押し寄せる魔物達と戦闘中。
■ビッツ・ビネガー
ラド・バウのS級ファイター。自称『Sクラスの最も華麗で美しく残酷な番人』。
暗器遣いで嫌らしい戦い方を好みます。徹底的に他人を甚振り、命乞いをさせる事こそが彼のスタイル――ですが今回のビッツは味方ですので恐れる必要はないでしょう。多分。
非常に強力な戦力なのは確かですが、同時にこの戦いに対してどれだけ真剣であるのかは未知数です。
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