PandoraPartyProject

シナリオ詳細

爛漫を待つ、その前に

完了

参加者 : 53 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●春
 寒さもやがて和らぐもの。そう、時が止まることでもない限り。
 新芽が芽吹き、眠っていた動物たちも起き上がる。……もしかしたらまだ寝坊助さんがいるかもしれないが。
 そんな時期に花が咲くのは、小さな桃色花弁を溢れんばかりに枝の先へつける木。人はそれを時に『桜』と呼ぶそうだ。
 これは桜の花が咲く、ほんの少し前の話。


●内緒だよ。
「……あっねえちょっと」
 声をかけられた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はキョロキョロと辺りを見回した。聞き覚えのある声だ、と思っているとカウンターの影に見覚えのある白髪が見えて。
「シャルルさん、何をしているのですか?」
 ユリーカを手招きしていた『Blue Rose』シャルル(p3n000032)はしぃ、と人差し指を口元へ当てた。
「静かに。……気づかれたら台無しなんだ」
「台無し?」
 ユリーカがキョトンと目を瞬かせると、シャルルは至極真面目に頷いた。絶対に内緒だという彼女にユリーカは悪巧みの予感を感じ、ちょっとばかり悪い笑みを浮かべてカウンターの影へ入っていく。
 だが。
「え、フレイムタンさんも一緒なのです? 2人ともないないがしたいのですか?」
 カウンターの影にはシャルルだけでなく、『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)が狭そうに身を隠しているではないか。2人ともそんなに悪事がしたかったとは、と驚くユリーカに「何言ってんの?」とシャルルが怪訝そうな声をあげた。
「内緒って別に悪いことじゃないよ。ほら、ええと……誕生日? だよね。近いじゃん」
 ブラウが。
 最後の言葉は吐息のようにひそめられる。何が何でも本人──ブラウ(p3n000090)に気づかれたくないらしい。
「そういうことだったのですか……」
 なぁんだと肩の力を抜いたユリーカ。フレイムタンが計画書をこっそりユリーカへ見せてくる。
「考えてはいるのだが……我もシャルルも、あまり縁がない。どのようなことをすれば喜ぶのか、考えあぐねていたのだ」
 それで誰か誕生日に関して知っていそうな者を、と探している最中にユリーカは通りかかったのである。
「喜ぶこと、ですか」
 そりゃ普通に喜ぶことをすれば良いだろう、と思うのだが。しかし2人の様子からすると『こっそりサプライズで』喜ばせたいのだろう。
「お誕生日会とかしないのです?」
「何それ」
「会……ということは催しか」
 ユリーカの言葉に顔を見合わせるシャルルとフレイムタン。ユリーカは小さく首を傾げた。
「ええと、皆さんに祝ってもらう会なのです。親しい仲の人とでも、とにかく大勢でも良いのですよ。
 ボクはイレギュラーズの皆さんと流星群とかお祭りを楽しんだのです!」
 ふふん、と胸を張るユリーカ。けれども流石に流星群が見られるような話は近頃出ていない。同じものではなくても、近いようなものであっと驚かせたいところだ。
「春ももうすぐ……とは言っても寒いかもしれないし、外じゃない方がいいかな。でもローレットの中だとブラウがうっかり働き出しそう」
「ああ。いっそ、どこかへ遠出してみても良いかもしれん」
 泊りがけであれば、いつもちょこちょこ走り回って大忙しなひよこものんびりするしかないだろう。年末年始も慌ただしく帰省していたようだから、あまり休めていないかもしれない。
「……! フレイムタンさん、それなのです!」
 ユリーカがパッと表情を輝かせ、カウンターの影から飛び出すと1枚の羊皮紙を掴んで戻ってくる。それは温泉宿への招待状らしかった。
「この温泉宿はプレオープンということで、イレギュラーズの皆さんにゆっくり過ごしてほしいそうなんです。ここへブラウさんを連れて行って皆でのんびりまったり、ついでにお祝いしちゃいましょう!」
「ふむ……悪くなさそうだ」
 羊皮紙を眺めるフレイムタン。でも、とシャルルが首を傾げてユリーカへ視線をあげる。
「普通に楽しみたい人もいるんじゃない?」
「それはそれで良いのです。大部屋を貸し切って仕切りをつけることもできるそうですから、女性のお部屋、男性のお部屋、遊んだり祝ったりするお部屋、という感じでどうでしょう?」
 ブラウを祝ったり、ボードゲームなどで遊んだりするなら最後に挙げた部屋。就寝なら男女分かれて。そちらでもこそこそ恋バナなんて良いかもしれない。
「……それなら決まり、かな」
「はい! 私はブラウさんの参加手続きをしておきますね。おふたりはブラウさんを上手く誘っておいて下さい!」
 もちろん誕生日の話はナイショ。3人は頷きあい、それぞれの役目を果たしに行った。

GMコメント

●すること
 温泉宿でのんびり過ごす

●できること【大部屋編】
 和室の大部屋を襖で仕切った部屋となります。襖は動かさないようにロックされていますので、万が一とか起こらないです。穏便にね。

・女性部屋
 男子禁制! というわけで女性用のお部屋です。布団で雑魚寝です。寝るためのお部屋なのであまり騒げません。
 仲の良い友達とひそひそ恋バナするくらいは大丈夫です。

・男性部屋
 女子禁制! というわけで男性用のお部屋です。布団で雑魚寝です。寝るためのお部屋なのであまり騒げません。
 ……と言いながら枕投げしたりするんですよね。寝る人と住み分けできればOKです!

・遊び部屋
 遊ぶための部屋です。
 ボードゲームをしたり、友人と話しをして盛り上がったり。夜食も食べて構いません。お酒は20歳からでお願いします。
 枕をクッション代わりにしてのんびりまったりしても良きかな。

●できること【温泉編】
 美肌になる他、外傷の治りが早まるという噂のある温泉です(真偽のほどは定かでありません)。
 飲食物持ち込みOK、騒いでOK。ただし他の人の迷惑にならないように!

・女風呂、男風呂
 肉体的な性別で選んでください。
 露天風呂です。夜は少し肌寒いですが温泉でしっかり温まれば問題ないでしょう。夜空が綺麗に見えます。

・貸切風呂
 少人数(あるいは1人で)のんびり入りたい方はこちら。必ず水着を着用して下さい。混浴可。
 こちらも露天となっており、夜は少し肌寒いので温泉でしっかり温まりましょう。夜空が綺麗に見えます。

●NPC
・ブラウ(p3n000090)
 30cm程度のブルーブラッド。今回は誕生日のことを何も知らされず付いてきています。なんで僕ここにいるんでしょう。
 男性OKな場所には行けます。

・『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
 元精霊の旅人。いつ誕生日を祝おうかと機会を伺っています。皆さんからサプライズお祝いに関して提案があれば乗ります。
 女性OKな場所には行けます。

・『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)
 精霊種の青年。シャルル同様、祝う機会を伺っています。提案があれば乗ります。
 男性OKな場所には行けます。

●注意事項
 本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
 アドリブの可否に関して、プレイングにアドリブ不可と明記がなければアドリブが入るものと思ってください。
 同行者、あるいはグループタグは忘れずにお願い致します。

●ご挨拶
 愁と申します。
 ブラウを祝おう、というOPではありますが、全く関係なしに温泉宿でまったりして頂いて構いません。ご宿泊される方全員、パジャマか浴衣を選べます。ご自由にどうぞ。
 ブラウの誕生日をサプライズで祝って頂ける場合は相談掲示板をご利用下さい。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • 爛漫を待つ、その前に完了
  • GM名
  • 種別イベントシナリオ
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年03月25日 22時05分
  • 参加人数53/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 53 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(53人)

アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
亘理 義弘(p3p000398)
“侠”の一念
アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)
Red Like Roses
カイト・シャルラハ(p3p000684)
鳥種勇者
エト・ケトラ(p3p000814)
アルラ・テッラの魔女
リトル・リリー(p3p000955)
マスターファミリアー
ヨハン=レーム(p3p001117)
閃電の勇者
クィニー・ザルファー(p3p001779)
QZ
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)
紅炎の勇者
カレン=エマ=コンスタンティナ(p3p001996)
妖艶なる半妖
アリス(p3p002021)
オーラムレジーナ
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
月香るウィスタリア
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
激情の踊り子
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
紅獣
霧小町 まろう(p3p002709)
その声のままに
ティスタ・ルーンベルグ(p3p002926)
白の書
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日の魔法少女
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
秋空 輪廻(p3p004212)
かっこ(´・ω・`)いい
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
メイメイ・ルー(p3p004460)
ひつじぱわー
悪鬼・鈴鹿(p3p004538)
ぱんつコレクター
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
宮峰 死聖(p3p005112)
同人勇者
ミラーカ・マギノ(p3p005124)
森よりの刺客
美咲・マクスウェル(p3p005192)
あの虹を見よ
木津田・由奈(p3p006406)
闇妹
Silk=Tofu(p3p006673)
(自称)史上最強の絹ごし豆腐
宮里・聖奈(p3p006739)
パンツハンターの血を継ぐ者
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の巫女見習い
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
秋の約束
ソア(p3p007025)
雷虎
エストレーリャ=セルバ(p3p007114)
賦活
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
わもきち
カイト・C・ロストレイン(p3p007200)
天空の騎士
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
汚い魔法少女
シルフィナ(p3p007508)
はじまりはメイドから
カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者
ゼファー(p3p007625)
律の風
惑(p3p007702)
かげらう
月羽 紡(p3p007862)
二天一流
太井 数子(p3p007907)
不撓の刃
黒影 鬼灯(p3p007949)
零れぬ希望
ソロア・ズヌシェカ(p3p008060)
豊穣の空
八雲 千尋(p3p008100)
メノウ&
松元 聖霊(p3p008208)
特効薬の名は『献身』

リプレイ

●パジャマパーティ
 ぬくぬくつやつやになったソアは、出てきたところで合流したエストレーリャを遊び部屋の片隅へ引っ張る。
 彼との約束を今か今かと楽しみにしていたのだ。
「ソアの髪、柔らかくて綺麗だね。それに、いい匂い」
 シャンプーかな、とエストレーリャは優しく櫛を通していく。いい匂い? とソアは彼の頬に頭を当ててすりすりすり。櫛を通すたびに耳がぺたんとなりそうな様がエストレーリャからよく見える。
 香るこれは、シャンプーじゃなくて。
「うん。ソアの匂い。好きな香り」
 櫛を通し終わり、ぎゅっと抱きしめるエストレーリャ。仕上げに若葉色リボンの髪飾りをプレゼントする。
「それじゃ今度はボクの番ね!」
 嬉しくて、自分もしてあげたくて。
 滑り込むように背へ回り、ソアはエストレーリャの髪をブラッシングする。
「エストの匂いもとっても好きだよ!」
「じゃあ、お揃いだね。ソアに褒められるとボクもとっても嬉しい!」
 彼が少し振り返る。視線が合って、2人は同時に笑みを浮かべた。

『お茶会みたいで素敵ね!』
 鬼灯の腕の中にいる嫁が楽しそうにしている。それ即ち、鬼灯も楽しいし嬉しいし嫁可愛い。
 そんな彼が持ってきたのは母(母じゃない)特製の和菓子。随分と多いが美味しそう。
「わあ、母上さんお菓子も作れるんだね!」
 母上じゃありませんよー! と聞こえそうだがさておいて。
「私は乾燥苺にチョコをコーティングした苺チョコを持ってきました!」
「俺は動物さんクッキーとねぇ、練達製の保温水筒も買っちゃった!」
 暖かい飲み物を皆で、と水筒を小さく揺らすイーハトーヴ。お嫁さんの分もあると言えば『まあ!』と嫁が両手を合わせた。
『紅茶かしら、いい香り! 職人さん、私達にもいただけるかしら?』
「ふふ、勿論だよ」
 部屋にふわりと紅茶が香る。ノースポールはカップを受け取り幸せそうに微笑んだ。
 大好きな和菓子に可愛いクッキー。暖かい紅茶。お疲れ様会がこんなにハッピーだなんて!
「俺ね、こうやってお友達と楽しくお喋りする時間も同じくらい好きだなぁ」
 それは可愛いものにも負けないくらい。ふと聞こえてきた声に視線を向けると、イーハトーヴはくすりと笑って。
「ふふ。オフィーリアもだって!」
 幸せなお疲れ様会はまだまだ続く。イーハトーヴとノースポール、嫁は持ってきたものをじゃん! と見せた。
「俺から皆へのプレゼントは、うさぎさんの髪飾り!」
「私から皆さんへは、シマエナガのお手玉を。遊んで良し、飾っても良し、ですよ!」
 ノースポールは髪飾りを受け取ると早速つけて、似合いますか? と嫁は見せる。
『ええ、とても!
 可愛いうさぎさんも、小鳥さんも嬉しいわ!大切にするわ! ありがとう!』
 髪飾りとお手玉を嫁は大切そうに抱きしめる。ああ嫁可愛い。
『私からの贈り物は似顔絵よ! 上手に描けたと思うの!』
 どうぞ! と差し出された2人は目を丸くする。まさか似顔絵だなんて!
「凄く嬉しいです! ありがとうございます、大事にしますね♪」
 笑顔で受け取るノースポール。イーハトーヴは大切に、宝物のようにそれを受け取って。
「似顔絵、とっても素敵! ポーのお手玉も可愛くて……2つとも、どこに置こうかな?
 俺も大切にするね!」
 ふふふ、と笑い合う3人。それを和やかに見ていた鬼灯が、嫁へ髪飾りをつけてあげたりして──お疲れ様会は、まだ続く。


●温かな湯と夜の空
「さぁさ、お嬢様。湯舟に入る前にお背中を流させて頂きますよ」
 久々に2人での外出。エトの世話をするティスタも、世話をされるエトも嬉しそうに口を綻ばせる。互いの好きな時間なのだから当たり前だ。
 湯の流れるエトの肌は綺麗で羨ましい。ふとティスタは自分の体を見下ろした。
「お嬢様の使用人として、もう少し私も整えるべきでしょうか?」
 その言葉にエトは振り返り、ティスタを頭から爪先まで見下ろして。
「あ、爪が痛んでいるじゃない。代わりにわたくしはティスの指先を整えてあげる!」
 エトは遠慮はなしよ、と彼女の手を取る。仕事柄、ネイルは良くないだろう。勿体ないと思ってしまうが仕方がない。
 爪を整えてもらったティスタは中断したエトの世話を終え、不足がないかと問うた。
「大丈夫よ、貴女の仕事に満足しない事なんて1回もないもの!」
「それは重畳でございます」
 自らも体を流し、2人は湯船に浸かる。空を見上げれば美しい夜空が2人を見下ろしていた。

「わぁぁぁ綺麗な星空!」
 万歳して空を仰ぐヒィロの横で、美咲も大きく伸びをする。良い風呂に良い夜空、ヒィロがいるとなれば休みとしては上々だ。
 ヒィロがスラムにいた頃は『貧者の宝石箱だ』などと言われていた夜空。けれど今最も綺麗だと思うのは──隣にいる美咲で。
「貧者の宝石箱、ね……星座のお話や星占い、聞いたことある?」
 ふと知識を引っ張り出した美咲。その内容は、より簡潔に告げるなら『星を見上げる者の想いは、大いなる力の源になる』ということだ。それはまさに宝石箱の如く、莫大な財産となる。
「あの頃星に託してた願い事がたくさん叶っちゃったのも、きっとそれだね!
 美咲さんと出会えて、こうして一緒にいーっぱい楽しんでることとか!」
「あはは、お湯跳ねちゃうよ」
 抱きつくヒィロに美咲は笑って空を見上げる。生憎と、混沌の星には詳しくないから──ヒィロに教えてもらおうか。

 ──おかしい。
「風巻、大丈夫ですか?」
「あ、いや、はい、」
 ブラウを祝うのは後でと話した。先に風呂へ行こうかとも話した。
「風巻?」
「だだだだ大丈夫ですっ!!」
 なぜ隣で、紡が共に入っているのか。
 嬉しいけど目のやり場がない。露出の少ない水着なのにどうしてこんなにやり場がないのか!!
「それにしても、私の世界ではこういう温泉では裸か湯着でしたが……水着なのですね」
「え、ああ。そうですね……俺の所も裸か湯着でした」
 頷く威降は少しばかりほっとする。実は自分が意識しすぎなのかもしれない。
 と思っていたら。
「あ、そうです。お背中流しましょうか。それなら私の方を見なくて済むでしょう?」
 紡からの爆弾発言。彼女としては威降を気遣って故のものだが──。
「──オ願イシマス」
 彼の心臓は、果たしてもつのか。

 部屋に戻ったら賑やかなようだから、せめて温泉は2人でしっぽりと。
「折角の星見酒だ、これがぴったりだと思うぞ」
 ルナールチョイスのお酒は日本酒と呼ばれるもの。贅沢なひと時を楽しみながら、ルーキスは湯を片手ですくう。
「そういえば此処は外傷と美肌にいいらしいよ」
 ルナールにはうってつけの温泉だ。元より前衛で怪我も多い。
「おまけにイケメンだし?」
 視線を向ければルナールが肩を竦める。外傷に関してそこまで気にしていないらしい。だが美肌にも良いらしいと告げれば彼は少しばかり考えて。
「……美肌に良いなら通うか、ルーキスに丁度いい」
「お、じゃあ格好いい恋人にさらに磨きがかかるのかー」
「俺を格好いいとかいうのはルーキスだけだけどなー?」
 苦笑を零したルナール。ともあれ──次来るときは2人きりが良い。

「へへ、少しだけオトナ気分!」
「ふふ、とても様になっていらっしゃいます」
 嬉しそうに笑うQZとそれを見て微笑むまろう。見た目はQZが年上なのだけれど、実際は逆。だからQZが飲んでいるのは甘さの控えめなぶどうジュースだ。
 2人の肩が触れ合いそうで、触れ合わない。遠くはないけれど、近くもなくて──相手の素肌に、ドキドキしてる。
「……まろうさんや」
「はい、QZさま」
 意を決したQZはほんの少し寄って、肩同士が触れ合う。けれど今はこれが限界。
(お酒が飲めるようになるまで……それまでこうやって、少しずつ近寄っていけたらいいな)
 顔を真っ赤にしたQZをちらりと見て、まろうは微笑む。
 きっと私は『大人でいる』ことが少し怖い。けれど彼女とゆっくり、1歩ずつなら──取り戻せる気がした。

「ひゃあ! こんな貸切風呂を用意できるなんて……さすが師匠なのです!」
 目をキラキラさせて死聖を見る聖奈。鈴鹿も大はしゃぎだ。
「合法的に輪廻姉様と温泉に入れる機会を作ってくれて感謝するの!」
「ふふ、皆と一緒に温泉に入れるんだから僕もとても嬉しいよ」
 バスタオルを体に巻き、にっこりと笑う死聖。身体は少女であるはずだが、魂は男性のそれ。その性別は一体どちらというべきか。
「これで他に泥棒猫たちが居なければ言うことないのだけれど……」
「と、とりあえず殺気を飛ばすのはやめてほしいかな、由奈ちゃん……」
 由奈の視線にびくつく聖奈。対する由奈はころりと態度を変え、可愛らしい笑顔で死聖の背を流してあげると洗い場へ連れていく。
「輪廻姉様、一緒に洗いっこするの!」
「ふふふ、いいわよん。誰かと一緒にお風呂なんてちょっと懐かしいわねん♪」
 輪廻は思い出話をしながら鈴鹿に洗われる。鈴鹿の手はちょっとばかり──やらしい。
「ムフフ~♪ いつかこうしたいってずっと思ってたから叶ってうれしいの♪」
 洗いっこしながらイチャイチャとする2人。対して死聖と由奈と、聖奈の3人は。
「聖奈だって! 師匠! 師匠の前の方は聖奈が洗うよ!」
「じゃぁ……お言葉に甘えてお願いするね♪」
 由奈に触発されてか積極的な聖奈に頷く死聖。
「前のお兄ちゃんの姿も勿論好きだけど、今のお兄ちゃんの体はこれはこれで好きだよ♪」
 もちろんそれは「死聖お兄ちゃん」だから。そう後ろで由奈が告げ、前からは聖奈が照れながらも不安そうに死聖を見上げる。
「どう……かな? ちゃんと洗えてる……?」
 こちらの3人も3人で甘~い雰囲気全開である。貸し切りでよかった。
「ほらほら! 次は露天風呂でゆっくり過ごそうよ! ……まあ、泥棒猫さん達も一緒に入っても良いよ」
 ツン、と顔を背けながらも許可を出す由奈。鈴鹿が星見酒だと言ってお酒を持ち込み、輪廻が隣で酌をする。聖奈は体の芯を温めるような湯に小さく息をついた。
「ふぅ……良いお湯だね……ふふふ、こうまったりできるのは良いよね」
「湯につかりながら輪廻姉様と一緒にお酒飲めるなんて幸せなの♪」
 くすくすと笑う鈴鹿は輪廻に抱き着く。本当は飲める歳の輪廻も、諸事情により飲めないが──その分サービス、と鈴鹿の頭を撫でる。
「わぁ、綺麗な星空!」
 聖奈が顔を上げると、由奈もつられて空を見る。きらきらと瞬くそれらはまるで宝石を散りばめたかのようだ。
「ねぇ、お兄ちゃん……」
「うん?」
 死聖が視線を向ける。星空を眺めていたはずの瞳はいつものように、熱く死聖を見つめていて。
「またこんな感じで温泉入りたいね」
「そうだね。……ここに来てから全てが満たされている。本当に、ありがとう」
 死聖のそれは、ほんの少しばかりの本心。けれどすぐにいつもの笑顔を取り戻し、死聖は皆の腰を抱き寄せるように腕を伸ばした。

 身を包む温かさに義弘は深く息をついた。
(水着を着るとはいえ、温泉に浸かるなんざ久しぶりだ)
 刺青を背負ったこの体でも、入れる風呂があるとは。しかも熱燗持ち込みOKときた。
 外からも内からも温まって、見上げれば星空に月。
(こっちに着てからしばらく経つが、こんな風に気を抜くのは久しぶりかもな)
 火照るれば出て、冷えれば入る。誰かと酒を交わしても良い、と義弘は小さく笑みを浮かべた。

「以前にカレンさんと一緒に入ったところは普通に裸だったんですけど、規則だから仕方ないですね」
「温泉に水着というのも不思議じゃのぅ」
 水着を着たリディアとカレンは不思議そうに湯は浸かる。それにしても、とカレンはリディアの胸元へ視線を注いだ。
「それにしても……少し胸元がキツそうじゃのぅ?」
 彼女のサイズに見合わぬ水着。それでも投げにくいからとリディアが着用した理由は──今さりげなく寄ってきている、カレンの如何わしい手。揉まれた拍子に水着が脱げたりしたら大変だ。
 空を見上げれば満天の星。宝箱を開けたようなそれも綺麗だけれど。
「……カレンさんはそれ以上に綺麗ですよ」
「くっくっく、嬉しいのぅ。リディアも夜空の星に負けないぐらい可愛らしいのぅ」
 ぎゅうとしがみついてきたリディアにカレンはくすくすと意地悪く笑う。顔は見えなくても真っ赤な耳が丸見えだ。
(温泉から出て帰る時には館にお持ち帰りしようかのぅ)
 もちろん彼女が頷けば、だけれど。

 最近は大きな仕事が多い、と珠緒は湯に浸かって小さく息をつく。元来丈夫な体ではないのに。
「仕事続きでやりがいはあるけど、しっかり休んで英気を養う時間も必要よね」
 蛍は苦笑してそう返すと、癒しの源をほんわか眺めて。──と、珠緒がこちらを向いた。
「蛍さん、お行儀が悪い……かもしれないこと、よろしいでしょうか?」
「? ええ」
 首を傾げながら頷くと、珠緒は体を湯に浮かせる。確かに行儀は悪いかもしれないが、随分と気持ち良さそうだ。レアな珠緒を見た蛍は、浮かぶ体をそっと引き寄せる。
「肌の触れ合う感触と、暖かさ……ちょっとどきどきします」
 蛍の胸に頭を預けた珠緒は蛍と夜空を視界に入れた。星より遠くにいたはずの人が、これだけ近くにいる。なんて不思議なことだろう、と。
 珠緒がこの体勢を取ったのには訳がある。記録でのみの知識だが、ある治癒法には呼吸器をつけ、このように薬湯へ全身浸かる方法があったのだ。もしかしたらより早く癒されるかも、なんて。
「薬湯のような効果まではわからないけど……」
 未来へ進むための前向きな気持ちは、それこそ今しがた蛍の中へチャージされている。温泉と、星空と──珠緒によって。

 温泉の隅っこに座ったブーケはすまなそうに惑へ謝る。けれど彼は気にしないと笑った。
「色男と一緒やもんね、ふふふ!」
 お湯に浸かりながら酒を上げれば、気分も体も早々に酔ってしまって。星も月もなおさら綺麗に見えてくる──などと思っていると、惑がくしゃみを1つ。
「なぁに、寒いん」
「ん、もうちょっと寄ってもええかな?」
「なら、うん……近くに。しゃあないもん、ね」
 そう、仕方ない。寒いから温めてなんて言い訳でもないと甘えられない。
 ブーケの肩に頭を乗せる惑。その目の前にブーケは盃を差し出した。
 満たされた酒に浮かぶ月影は、ゆらゆらと小さく揺れて。
「わてにくれる、んぐ」
 言い切る前に口元へ当てられ、惑は慌てて口を開ける。一言くらい欲しかった。
(でも、行動で示す所は嫌いやない)
 次々と口元に持ってこられる酒をただただ飲む。正体なんてなくしてしまって、体が熱くなっても離れぬままで。
「ふふ、」
 2人で顔を合わせて、笑うのだ。

 この温泉は外傷が治りやすくなる湯だという。けれどきっと、メリーの傷跡は消えないだろう。
(この傷が皮膚ごと吹き飛ぶ怪我をして、パンドラを消費して復活したけど、その時の怪我は治ってもこの傷跡はそのままだったもの)
 おそらく召喚時の状態を保持しているのだろう、と肌から零れる湯を眺め──。
「女湯覗こうとするおバカさんは威嚇術の刑ね」
 いかがわしい視線を感じた彼女は威嚇術を放った。

「ふひひ……まっこと良い眺めですなぁミラーカ氏……」
 良 い な が め。
「っ良い眺めってどこ見てるのよ!? そーゆーのは凄い失礼にあたる──」
「ん? なに、星空のことだよ? ほら、そらきれい」
 夜空を指し示すウィズィにミラーカが撃沈する。なんとも紛らわしい。互いに百合友だからなおさら。
「こういうハダカの付き合いってのは初めてだねぇ」
 見て良いよ? と言わんばかりのウィズィがセクシーポーズを決める。ミラーカの視線は腹筋に釘付けだ。決して変な意味では。ない。
「腹筋気になる? 触ってもいいぜ?」
「じゃあお言葉に甘えて……あら、想像してたより柔らかいわね」
 ふにふにと触るミラーカの反応にウィズィはにやり。力を込めるとバキバキのシックスパックだ!
「硬くなった!?」
 ミラーカが触って押してみるもののびくともしない。これが先ほどと同じ腹か。なかなかに得難い感触である。
「ははっ、また触りたくなったらいつでもどーぞ♪
 なんたってミラーカちゃんは、気の置けないマブダチですから!」
「マブダチ、ね」
 ミラーカは思う。恋愛抜きの友情も──うん、悪くないかも。

 やましい気持ちはないんです。
 更衣室でぱんつの味見ができるとかそんなこと思ってないです。本当に?
「ほんとダヨ?」
 というわけでいざ! ダイブ!
(ふふん、癒されるのです)
 秋奈は湯の暖かさにご満悦。暫くぶりの温泉はやはり良い。もちろん子供じゃないんだから広くても泳ぎはしない。浸かっているだけで十分だ。
 しかし。
「こういう時は! こういう時こそ! みずでっぽうするけど!」
 ばびゅんと飛ばされる水鉄砲。子供じゃないんだか、ら??

「カ、カイトさん……?」
「……嫌だったら跳ね除けていいんだ。少しだけ、このままでいさせてくれないか」
 湯の中、カイトに後ろから抱きしめられたリースリットはその体温を一段上げる。その温度を感じながら、カイトは視線を伏せた。
(また聖女が1人死んだ)
 何故彼女らは死んでいくのか。
 全くもって、聖女という生き物は度し難い──。
「……あ、ごめんな! 妹にやると怒りながら跳ね除けられるからさ!」
 人肌が恋しかったのだと苦笑してみせるカイト。リースリットは彼の様子に目を瞬かせ、良いですよと背中を預ける。
 先ほど何を考えていたのか察することは叶わない。それでも力に、癒しになるのなら。
「どうか、貴方の気が落ち着くまで……このままで」
「む……じゃあ、お言葉に甘えてもうすこしだけこのまま」
 カイトはリースリットの体に腕を回す。どうしてか彼女はそばにいると落ち着けて──触れたいと思う女性だった。

「お、温泉か。いいじゃねぇか、最近疲れ溜まってたんだよなぁ」
 行こうぜと促す聖霊について行きながら千尋は肩の方へと視線を向ける。それを受けたメノウは「ぱきゅ?」と首を傾げてみせて。
 果たしてこの生き物は温泉に入れるのか。そんな疑問は些末なことで、本人(?)も嫌がらなければ誰かに咎められることもなく。
 メノウは聖霊が持ち込んだナッツが気になるらしく、目をキラキラさせてそちらを凝視している。──かと思えば犬掻きし始めて。
「こらお湯を跳ねさせんな! アッやばい目に入ったガチめに痛いアアア目がアアアア!!」
 お湯が目に入り悶絶する千尋。それを笑う聖霊もまた犬掻きによって顔面から湯をかぶる。
 悶絶する男2人の間でメノウは「ぱきゅ?」と目を瞬かせた。
 ちなみに、聖霊の持ち込んだナッツはたいそう美味しそうに食べたとか。

 お風呂に入っていないなら会えたし話したいし一緒に入りましょう! 善は急げそれゆけレッツGO!
 ──と言わんばかりの勢いでミーティアこと数子に風呂へ連れていかれたヨハン。水着とは言え気恥ずかしく、何よりそれを示すのはブンブン揺れる尻尾である。
「この私が背中を洗ってあげるわ! 痒い所はありませんか~?」
 彼の背中を見たミーティアは「やっぱり男の子の体よね」なんてドギマギして。それを隠すように尻尾もごしごし擦るとヨハンから猫の如き鳴き声が上がる。
 そんな2人も、湯に浸かれば落ち着くもの。外傷を癒すという湯を肩からかけながら、ヨハンはミーティアを見た。
「ミーちゃんはお仕事で傷とか負ったりしてませんか?」
 ヨハンの心配に触れた彼女は、けれど小さく口を尖らせて。
「ヨハンくんこそ怪我して帰ってきて。私も心配してるんだからね?」
「ありがとうございます。でも男の子ですから!」
 危険なモンスターからはヨハンが守ると告げる彼に、じゃあとミーティアが真っ直ぐな瞳を向ける。
「守ることは出来ないけど、一緒に戦えるよう、私も強くなるから!」
 一緒に頑張ろうね、と笑い合う2人を静かに月が見下ろしていた。

 好きな子の前だから、尚更気を使って。カイトはかけ湯をして羽根に引っかかった羽毛などを落とし、リリーを抱える。湯に入れば羽毛がゆらゆらと揺れた。
 彼女にこの温泉は少しばかり、深い。けれどリリーとしては彼の体温も心地よくて。
(カイトさんもあったかいや、ぎゅっとしちゃおっ)
 羽根を広げて湯に浸かったカイトへリリーはよじ登る。彼の手が届かぬ場所まで行けそうだ。
 とってもとっても幸せだけれど、出来るだけ楽しんだら出ないといけない。2人で緋色の、揃いの浴衣を纏うのだ。
 でも、何だか──何だろう。何かを忘れているような?
「「……あっ!」」
 2人は同時に思い出し、異口同音に声を上げる。見つめあった2人はどうしよう、と呟いた。
 今日は──ブラウの誕生日だ!


●3/22
「温泉行きましょ、ブラウちゃん!」
「ぴよ!」
 ブラウはジルーシャに連れられ男湯へ。途中で何かを言い含められたらしいフレイムタンも合流する。その手にはなぜか豆腐。
 ジルーシャの見立て通りひよこ姿で温泉に入るらしいブラウの頭へ、ちょこんとタオルを乗せて。
「背中も流してあげるわ♪」
「わ、本当ですか!」
 わーい、と可愛らしいお尻を見せるブラウ。そんな彼らの様子を見てカンベエは思い出した。
(なるほど、誕生日)
 ひよことはズッ友というほど親しくもないが、敢えてばらすほど嫌っているわけでもない。
「お三方とも、こちらへ如何ですか!」
 呼べば3人はカンベエのほうへやってきて。のんびり使って時間を潰す間に、カンベエはこっそりとふわもこの羽根へ手を伸ばした。
 温泉から上がったジルーシャは、しっとりしたひよこをふわふわに乾かしてやる。頬ずりしたくなるふわもこ加減だ。
(そろそろかしら?)
(ああ、良いのではないか)
 視線で会話するジルーシャとフレイムタン。ジルーシャはブラウを部屋へ誘った。
「さ、今日くらいはたっぷり遊びましょ。夜はまだまだこれからなんだから♪」

 一方──遊び部屋では。
「部屋を思いっきり飾り付けておきましょう!」
 ぴよ祝い隊長、アーリアの掛け声に皆がおおーっと拳を振り上げる。レッツサプライズ。断じて以前投げた詫びではない。
「ボードはこの辺り、で……」
 メイメイが飾り付けるのは『Happy Birthday』のボード。カラフルモールとリボンでも飾り付ける。
「豆腐料理をじゃんじゃか並べるんだっっ!! 冷ややっこのケーキとかも素敵だよね~!」
 Silkがテーブルへ次々と豆腐料理を並べる。ちなみに来ようとしたブラウを温泉へ遠ざけ、アーリアにブラウの見張り係として風呂へ行ってほしい、と頼まれたフレイムタンに「温泉で豆腐食べさせてきて!」と豆腐を押し付けたのもこのSilkである。
(絶対! バレないようにするんだっっ!! どんな手(豆腐)を使っても!!!)
 その思いに燃えるSilkは次々とテーブルを豆腐料理で埋めていった。
「私は等身大のブラウケーキを作ろう」
 ポテトはドーム状のケーキへホイップとカスタード、イチゴを詰めていく。味はバッチリだ。
(……なんかちょっとこれじゃない感あるな)
 ぱっと見は似ているケーキにしょんぼりしながらも、これが限界。けれど気持ちは一杯込めたと気を取り直して。

「グルルル……」
 なんだか黄色い毛玉の匂いがする、とアルペストゥスは首をもたげる。そこへぽいぽいと座布団を乗せていたソロアはうん? と見上げた。そこへシャルルが顔を覗かせる。
「そろそろくるみたい」
「ああ、わかった」
 頷いたソロアはアルペストゥスの運んだ座布団を下ろし、高く積み上げ、腕置きも作ってお誕生日席を準備。
「ブラウ君を捕まえるのは任せたぞ、アルペストゥス君!」
 グゥ、と返事をするように喉を鳴らし、廊下へ歩いていくアルペストゥス。直後、ひよこの悲痛な叫びが木霊した。
「ブラウちゃん、大丈夫よ」
「グルル、」
 背後に隠れてしまったひよこをなだめるジルーシャ。アルペストゥスがふわふわの羽毛の翼を差し出し、目で訴える。
 ──大丈夫。怯えなくていいよ。
 ──食べないよ。びっくりしないで。
 そんな思いが伝わったのか、ブラウは目をぱちぱちさせるとひょっこり出てきた。
 その首根っこを優しくつかみ、アルペストゥスは遊び部屋へ連れていく。ふすまが開けられて──。

「誕生日、おめでとう!」

 パンパンパーンと鳴らされるクラッカーに星夜ボンバー。ソロアなどは目いっぱい楽しい思い出になるように! とクラッカーを鳴らしたが、目をまん丸にするブラウにアーリアがあら、と目を瞬かせる。
「ちょーっと音大きすぎたかも? びっくりさせちゃったらごめんなさいねぇ」
「え、え? えっ??」
「ブラウさま、これを……プレゼント、です」
 メイメイがそっと差し出したのはひよこサイズの小さな帽子。ワモンもひょっこりやってきて、
「なんだよー、黙ってるなんていそくせーじゃねーか! オイラもプレゼントだぜ!」
 どん、と出されたのは角刈りヘアのカツラ。『えすぴー』の格好もできるらしい。
「ってわけで早速被ってみてくれ! みんなにお披露目だぜ!」
 でん、とカツラを被るワモン。ででん、とカツラを被るブラウ。格好良いと思うか可愛いと思うかは人次第。
 誰もが笑顔で見てくれる、生まれた日。
 ひよこの目の前に広がるのは豆腐料理──と、温泉へジルーシャと共に追い出したSilk。そういえばこの前のグラクロで、と思い出したブラウはじりじりとSilkに近づく。
「えっっ?? つつくなよ、絶対つつくなよ!?!?」
 じりじりと交代するSilk。しかしその戦いはアルペストゥスがひよこを摘まんだことで終結した。
「ぴー!?」
 ぽすん、と乗せられたのはふかふかのお誕生日席。さあさあと料理を進めるのはヴァレーリヤだ。


「これで立派な唐揚げ……じゃなかった、成鳥にまた一歩近付きましたわね!」
「言い切ってるんですがっ!?」
 思いっきり引いたブラウにヴァレーリヤはちぇ、と口を尖らせて仕切り直し。祝いたい気持ちは本物である。
「ほらほら、ろうそくをふーってして下さいまし! 一生懸命作りましたのよ!」
 尚、作ったのはポテトたちであり、自分は食器を用意しただけ──と言うのは内緒である。
 彼もあともう少しで酒を窘める年齢。そうなったら一緒に酒を楽しめますように。
「お年は幾つになったの、……15歳?」
 まあ、とアリスは目を瞬かせる。もしかしたらお兄さんかも。
「男の子としては、気になる子の1人でも出て来るお年頃よねえ」
「えっ!? そ、そんな! そんなことは!」
 ニマニマするゼファーにうろたえるブラウ。そこへ賑やかな声につられたアリシアがやってきて、ブラウの姿を認める。彼の誕生日と知ってそっと参加していたのだ。
「お誕生日おめでとうございます。私からもプレゼントを」
 小さな箱の中には黄と白のハンカチとタオルが背っとで納められている。町の裁縫屋へ依頼した品だ。
「わぁ……! 大切に使います!」
 嬉し気に飛び跳ねるブラウ。アリシアは小さく微笑むと、他に風呂へ向かうという者たちと共に女風呂へ向かっていった。
 気づけばアルペストゥスはうとうとと。それでも座布団が崩れてしまわぬようにとその体で支えている。
「ブラウ、いつもふわふわ癒しをありがとう」
 食べてみてくれ、と渡されたケーキにかじりつくブラウは、嘴周りにクリームをたっぷりつけて一同の笑いを誘う。
(今後も見舞われるかもしれない、いついかなる時、でも……すこやかに、過ごせますように)
 メイメイが微笑みながら祈る。こんな楽しい時間を健康に、彼が過ごせるようにと。
 ブラウを祝った後は部屋の端で枕を抱え、喧噪を聞くアリス。ぴったりとゼファーに張り付いたその姿はまるで親鳥と雛のよう。
 ボードゲームやカードゲームもちょこちょこ遊ぶけれど、ゼファーとしてはこんな賑やかな場所にいるのは久々でほんの少しばかり、気恥ずかしい。
(でも、偶にはこんな賑やかな夜も悪くないわね)
 小さく微笑んで、ふとアリスを見れば。こっくり、こっくりと船をこぎ始めて、はっとゼファーを見ると「だっこ」と手を伸ばす。
 暖かい人の声は、ついつい眠気を誘ってしまって。
「お先に失礼しますね」
 アリスを抱きかかえたゼファーは良い夜を、と告げて女子部屋へ。
 宴もたけなわと言うべきか、時間なんてあっという間。そろそろお開きかな、なんて雰囲気になった中、シルフィナがブラウへ声をかける。
「一緒にお風呂へ入りませんか?」
 すでに仕事疲れを癒すため入ってきたが、折角だから今宵の主役と。
「行きます! 他の方も一緒にどうですか?」
 ブラウが声をかければ寝る前に、とぽつぽつ手が上がって。

 風呂から空を見上げれば、月はもう天頂に。日付もすっかり変わってしまっているだろうが──今宵の出来事は絶対に忘れないだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お待たせいたしました!
 想像以上にブラウを祝ってくれる方がいらして、嬉しい悲鳴でした。彼も15歳です。今年もブラウをよろしくね。

 またのご縁をお待ちしております。

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