シナリオ詳細
Dear.
オープニング
●Letter
手紙を書きたいと、思った。
誰に?
誰かに。
何を?
何かを。
どこへ届ける?
どこかへ届けるんだ。
書くなら今だと、思ったのだ。
さあ、手紙を──。
●Paper airplane
「何してるんです?」
「ん? ……ああ、これ。紙ヒコーキ、ってやつ折ってるんだ」
ブラウ(p3n000090)の眼前で1枚の羊皮紙が形を変えていく。あっという間にできたそれを、『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は紙飛行機と称した。
それを見たブラウ、つぶらな瞳を瞬かせて。
「不器用ですね?」
「……」
「えっあっシャルルさん待っぴぃぃぃぃぃ!!」
瞳を眇めたシャルルはおもむろにそのモフモフを鷲掴み──わしゃわしゃわしゃわしゃ。素直すぎたひよこはあっという間にその毛並みを乱される。
「ぴぃ……」
悲しげな鳴き声をあげたブラウを膝の上に置き、シャルルは「なんかさ」と呟く。
「深緑に不思議な湖があるんだって」
見た目はただの湖なのだという。飛び込んでみても何も変化はない。濾過して煮沸すれば飲める。ただの湖で、ただの水だ。
「そこに、紙ヒコーキにした手紙を投げ入れると……何故か、それだけは消えるらしいよ」
「ホラーですか??」
「いや、違うと思うけど」
ふるりと震えたブラウにひどく冷静な眼差しが向けられる。しかしひよこは「本当ですかぁ???」と言わんばかりに豊かな表情を浮かべてみせた。
「万が一にも人が消えることは」
「ない」
断言して首を振ると、なら大丈夫かとブラウが安堵の息をつく。そして視線をシャルルの手元──不恰好な紙飛行機に向けた。
「じゃあ、シャルルさんは手紙を書いたんですね。どなたに?」
「さあ」
「……えっ?」
目を丸くして振り返ったブラウに、シャルルはなんとも複雑そうな表情を浮かべて。わからないけど書いたんだ、と言う。
「……あ、ボトルメッセージみたいなものだからってことですか?」
海に瓶詰めメッセージを流す、そのようなものなのかと納得しかけたブラウ。けれどそれはシャルルによって否定された。
手紙を飲み込む湖は、不思議なことに相手へ届けてくれるのだと言う。最も全員が全員届いたと言う確証を持たないので、あくまで『そういう話もある』という程度だ。
「相手がわからなくても、どこにいるかわからなくても、自分が行けない場所でも届く……かもってユリーカが言ってた」
「それは、」
その先を続けようとして、けれどブラウはやめた。きっと彼女は「さあ」と肩を竦めるに違いないから。
戻る術がなければ誰にもわからないのだ──手紙が他世界にも届くのか、なんて。
- Dear.完了
- GM名愁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年12月21日 22時35分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●世界を越えた”あなた”へ飛ばす
──拝啓、っておかしいかな。
それがクロバの書き出しだった。誰へ宛てるか悩んだ内容も、決まればすらすらと出てきて。
元気でやっていること。色々な話をしたいこと。昔読んでいた漫画のような世界にいること。この世界では悲しい事件もあって、命をかけながら多くの人と交流をしていること。
(それに、お前に紹介したい人もできたんだ)
紹介できるだろうか。紹介したい。報告できるようにするから──だから、待っていてくれ。
書き上げたクロバは内容を見て小さく、けれど満足そうに笑みを浮かべた。そして湖へ──元の世界の妹”雪雫”へ、届くことを祈って。
(他の世界に届くかもしれない手紙、か……)
ならば母へ書いてみよう、とポテトはペンを握る。
急にいなくなって心配をかけているだろう。居場所ができて、元気に過ごしていることを伝えたい。それに──大切な彼のことも。
(彼が私の居場所で、帰る場所だ)
いつか紹介出来たら歓迎してほしい旨も記す。最も、ポテトの記憶にある母なら大歓迎だろうが。
「受け取ったら、どんな顔するのかな……」
母に届いて──大喜びしてくれますように。ポテトは想いを込めて紙飛行機を飛ばした。
誰に宛てようかと考えても、それは届くはずのない場所で、時間で、相手。
(そんなのばっかり浮かんでしまうわね)
口元に手を当てて考え込んでいたヴァイスは、でも、と小さく呟いて紙に字を走らせる。
『貴女の言うオトモダチにはなれないわ』
これを彼女へ伝えなければならない。言わねばならない。
──オトモダチになってくれないの?
(ええ、ならないわ)
聞こえたような気がした声に、心の中で返事をする。決してあの頃に戻れなくても、手を繋げないとしても。彼女とは友人だと思っているから──どうか、届いて。
(……なんて。私の弱さかしらね?)
メリーが手紙を送るのは、元の世界のあの人。
彼女の運命を変えた、町の治安を守るために一生懸命だったあの人。このハートを射止めた人だ。
手紙は大部分が真っ白で、なんと2文字しか書いていない。それ以上の言葉なんて不要だったから。
──死ね、と。
ヒィロから「手紙送ったことある?」と問われた美咲はちょっとだけ考えた。
「……お仕事用のを機械で作った事なら、あるかな」
気持ちを込めて書くと呪符になってしまうのだ。だから機械でだけ。
「そっか。ボクね、贈る相手もいなかったから、この紙ヒコーキは初めてのお手紙なんだ!」
記憶にない両親へ──スラムという場所柄、生きているかもわからないが──生んでくれたことに感謝を伝えたいのだという。元気に、人生を楽しんでいることも。美咲という素敵な友人ができたことも。
「だから、今も元気にしてるなら……ボクのことは気にせず、二人も人生を精一杯楽しんでねって」
少しだけ寂しそうに呟くヒィロへ、美咲は頷いて見せた。
「うん、ヒィロのあったかいお手紙、届くといいね」
暖かくて、真っすぐで。ここまで真っすぐに育てられる親もそうそういないと思ってしまう。スラム育ちと聞いていたが、その反動だろうか。
届けと紙飛行機を飛ばしたヒィロは、当分出す機会がないだろうと笑う。
「どうして?」
「だって今一番気持ちを伝えたい人は、隣にいるんだもん」
えへ、と笑うヒィロにつられて微笑む美咲。こうして共にいる間は手紙じゃなくても口にしてくれるから、確かに不要かもしれない。
(……そうだ)
美咲がふと思い立って書いたのは、以前どこの誰とも知れぬ者から届いた手紙と同様の内容。
──周囲の愛と、いずれ来る出会いを疑うな。
もらった当時は意味不明な代物だった。けれど世界を越えて届ける湖なら、もしかしたら。
湖の話を聞き、死んだ人間にも届くのだろうかとシラスはペンを握る。
宛てるのは母と兄。もういないけれど、何かが伝わるのならと湖までやってきた。紙とペンを借りて──手がそこで止まる。
(想いは確かにあるのに)
言葉にしようとすると、嘘になってしまいそうだ。
書きたい。書けない。俺は何を書くんだ?
苛立ちに紙をくしゃくしゃと潰す。けれど次の瞬間にはやっぱり、何かを伝えたくなっている。
シラスは紙を伸ばし、白紙のまま紙飛行機にした。胸につかえて、何も書けなくて、けれど何かを書こうとした紙飛行機。
それを飛ばすと、ほんの少しだけ心が晴れた気がした。
(『想いのこもった紙飛行機を飛ばせばきっと誰かの元に辿り着く』らしいネ? ははぁこれは何とも不思議だ、おじいちゃんも聞いたことがすくない類の噂さネ)
ジュルナットは感心しながら、しかし書く内容には特に困らないらしい。何故かと問うても答えてはくれないだろうが。長きを生きる者には秘密の1つや2つがつきものである。
『一度二度、外に駆り出るも一興』
その短い一言が書かれた普通の紙飛行機は、いつかの自身へ向けて。
「言わんとする意味は分かるのですが、今一つ馴染みのない語なのです」
できました、と紙飛行機を見せる珠緒。蛍はそれを見てにっこり笑う。
「真っ直ぐ飛ばすことに定評のあったボク直伝の折りだから、きっと真っ直ぐ届くわ!」
「はい。蛍さん式の珠緒号、いざ出発なのです」
手を繋いで、共に湖へ飛ばす。珠緒は元居た場所──邪摩都へ。
そしてあそこで果てなかった『桜咲』は、珠緒という名を得た。大切な人ができ、手を取って歩んでいる。
──ここに至るまで、珠緒の命を繋いでくださったこと、感謝いたします。
過程はどうあれど、結果は今だ。今、ここに珠緒の全てが詰まっている。だからこれからも故郷を支えた誇りと共に、前へ──と。
蛍もまた、これまで言えていなかった気持ちを故郷の──日本の家族へ送る。
元気だよと。辛いことも悲しいこともあるけれど、それ以上に幸せな出会いがあったよと。
(ありがとう。ボクを生んで、育ててくれて、ボクをボクにしてくれて)
きっと蛍は蛍のまま、珠緒と一緒に歩いていける。今感じているのと同じくらい、家族が幸せになれるようにと蛍は祈った。
もともと家出娘ではあったけれど、手紙を出すつもりはあったのだ。だからこそ召喚されて、連絡も取れなくなるなんて思いもしなかった。
(異世界に召喚された、なんてびっくりさせちゃうかな?)
元の世界の家族を、そしてこの世界での冒険を思い出したシャルレィスはくすりと笑う。
たくさんの冒険に溢れた世界だ。ここで友人ができて、昔よりは強くもなれた。だからこの先も、より多くの冒険へ。
(今とっても楽しくて、幸せだから……だから、心配しないで!)
シャルレィスの想いを込めた手紙は、湖に飲み込まれた。
ずっとぼんやり湖を眺める影。マカライトだ。
(手紙の紙飛行機を投げ込むとその人に届く湖、ねぇ)
訪れてしまっている身としては、眉唾物と言うわけにもいくまい。実際、手には紙飛行機がある。
寒いというのにかなりの時間をおいて、ようやくマカライトは『物は試し』と紙飛行機を投げ込んだ。
いなくなって、どれだけの時間が経ったかもわからない。それでもマカライトは傭兵業を元気に続けていると。再開を楽しみにしていてくれと綴った手紙だ。
──もし逢えたら。酒を飲んで、好きなもの食って、喧しいほど笑って……騒ごう。
ウィリアムは──シャハル・ケシェットは『ウィリアム』の名を借りた古い友人へ手紙を飛ばす。
かの友人との出会いはつい昨日のようなこともするし、遠い昔だった気もする。リュミエへ戦いを挑みに訪れ、母から返り討ちにされたのだ。それからは、母へ再戦を挑みながら兄妹の相手をしてくれた。
(僕も、妹もまだ幼かったね)
今ではすっかり大きくなったけれど、今の自分があるのは友人のおかげだ。だから叶わずとも願わずにはいられない──亡き友に、会いたいと。
『大好きなお父様とお母様へ』
焔は心配させているだろう両親へ手紙を書いていた。今、なんと自分は異世界にいるのだと。
帰る方法はまだ見つかっていない。けれど元気にはしているから、心配しないでほしいと。
(あとはどんなことを書こうかな。こっちに来てから色んな事があったもんなぁ)
書くことが沢山だ──なんて、思わず口元を緩めて。焔は手紙の続きをこう書きだす。
──それからね、伝えたい事がいっぱいあるんだ!
●いつか、また
「紙が飛ぶようになるのです?」
目を瞬かせるソフィリアに、誠吾が折り紙ってなかったか? と問いながら折り方を教え始める。
できました、とソフィリアが見せると、誠吾は小さく頷いた。
「そうそう。できたなら湖に向けて飛ばしてみるといい。こんな風に」
「えっと、こんな風に……」
誠吾に続き、ソフィリアが紙飛行機から手を放す。ふわりと風にのった紙飛行機は飛んで──湖へ吸い込まれていった。
目を細めてそれを見届けた誠吾は、くるりと踵を返す。
「綺麗に飛んだな。じゃあ帰るか」
その言葉に『寂しい』と感じてしまったソフィリア。その口からはぽろりと言葉が零れ落ちた。
「誠吾さんはお手紙、誰に書いたのです?」
「あぁ?」
足を止めた誠吾が振り返り、小さくため息をつく。
(あえて話題にしなかったのに、直球投げてきやがって)
「……謂れが本当なら、『そのうち分かるだろう』さ」
──妹ができたみたいで楽しいよ、と。
しきりに目を瞬かせたソフィリアは、やがてその答えがわかって満面の笑みをこぼす。
「なら、うちの手紙の行き先も『そのうち分かるだろう』ですね!」
──いつもありがとうなのです。色々うちに教えて欲しいのです!
彼女の言葉に誠吾は小さく目を見張って、ふっと口角を上げた。
家族へ宛てるため、ドラマは今までのことを思い返す。
深緑の地より幻想へ。そして様々な外界の知識を目にした。そしてある男に弟子入りして体を鍛え始めて、恋を──。
「……ってこんなコト送れる訳ないじゃないですか!」
はっと我に返ったドラマ。途中だが、下手に書き進めれば墓穴を掘りかねない。実際に届ける訳でもないしこのままでよかろうと、ドラマは紙飛行機にして投げてしまった。
(この想いは、いつか届く日が来るのでしょうか)
──想い続ければ、もしかしたら。
ソアとエストレーリャは並んで湖のほとりに座る。文字のお手本を見せて、とソアに乞われたエストレーリャは、彼女が言うままの字を綺麗に書いた。
ソア、すき、だいすき──そんな言葉を彼が書いてくれると思うと、ソアの頬が必然的に緩んだ。決して器用ではないが、エストレーリャが教えてくれると思えば楽しくなる。
「ソアの文字も、お手本を綺麗に……、」
エストレーリャは彼女が書いた文字を見て目をぱちぱち。そんな彼へソアは得意げだ。
「ふっふー、上手でしょう?」
エスト、と書かれた文字。なんだか気恥ずかしいけれど嬉しくて、エストレーリャはソアの頭をよしよしと撫でる。
(ずっとこんな日が続いたらいいな)
ソアは目を細めながらそう願って。最後に2人で紙飛行機を飛ばした。
「エストはたくさんだね」
「うん。出したい人はいっぱい、だね」
いくつもの飛行機を飛ばすエストレーリャ。その中にはもちろん、ソアへ宛てた手紙も入っている。
来年も──もちろん今年の残り少ない期間も──彼女と遊べますように。
アリスは飛ばす。アリスブルーの恋心を。
男女ともに魅了するあの人。誰かが振り返ってしまうたびに誇らしくて──不安になる。
可愛いと言われると嬉しくて死んでしまいそうなくらい。可愛いを独り占めしたくて仕方がない。
歩幅が違うから、共に歩く時は少し息の弾むスキップで。そんな時間がとても好き。あの人は忘れられない心と──忘れたくない心をくれた人。
──その時、こつんとアリスの頭に何かがぶつかった。そこに綴られているのはあの人──ゼファーからの。
「まあ、まあ!」
頬が熱いのは、字を練習中だからだけではない。
そんな件のゼファーもまた、傍らで顔を抑えていた。その手にあるのはアリスの飛ばした紙飛行機。
まさか互いに贈られるなんて、想いもしなかったのだ。
「……いやいや、ちょっと今の顔は見せられないわ……!」
そんな彼女だって、アリスへ甘い手紙を送っている。
彼女は背丈が小さくて、手も小さくて。髪は陽光に煌めく蜂蜜色。声は鈴を転がしたよう。
ゼファーの持っていない沢山を持っている彼女は羨ましくて、可愛らしい。その姿はきっと、成りたかった理想だ。
人形のようだった彼女は、だんだんとそこに色を帯びて。変化して可愛らしさを増す彼女に楽しみを覚えると同時、不安だって抱く。
私は、貴女を彩る色のひとつになれているでしょうか。
──双方の様子を見れば。互いの不安は杞憂なのだろうけれど。
込めるものは違えど、同じようなことをした気がする──ウィリアムはそんなデジャヴと共に文字を綴っていた。
いつかの時、紙飛行機に込めた願いは今も変わらない。けれど今の在り方はソレに相反するもの。
(俺は流れ星。翔けて、流れて、輝き……いつか燃え尽きる存在)
すぐでなくとも、いつかは否定しきれない。遺すことも共に戦って欠けてしまうことも耐え難く、されど戦いから逃げたくはなかった。
──2つの星は、どこかでそれぞれ輝き続ける。それだけのこと。
──だからどうか、お前も変わらぬままで。
書き終えたウィリアムは静かに目を閉じる。これでいい。そして──想いも手紙も、届かなくったっていい。
「~~♪ あっパンくず零れた! ソースも! まあいっか!」
サンドイッチを頬張りながら手紙の内容を考えるフラン。両親へ宛てる手紙からは美味しい匂いがするかもしれない。
深緑から召喚され、そろそろ1年。回復しているだけだったフランも、皆を回復しながら守ることができるようになっていた。
だから、これからもっと強くなって。いつか両親や村の皆を守れるようになるのだ。
「見ててね、と……よしっ終わり! ブラウさんありがと、お礼にサンドイッチあげるね」
「ぴよっ、本当ですか、」
「これ、照り焼きチキンが美味しんだよ!」
……あっ。
ちょっとばかり気まずい沈黙が流れる。わざとじゃなかったのだ。決して。
「これ、湖に投げたら消えるみたいやけど……ほんまに消えるんやろか?」
「やってみないことにはわかりませんが……誰が、届けているのでしょうか」
不思議そうに湖を覗き込む蜻蛉と雪之丞。ただの湖にしか見えない。
「投げてみましょうか」
「せやね。雪ちゃん、準備ええ?」
雪之丞は桜の描かれた手紙を。蜻蛉は六花の描かれた和紙の便箋を紙飛行機にした。
──実は互いに宛てているのだ。
雪之丞からは文字を教わり居場所をもらい、蜻蛉にとても甘えてしまっていること。それに感謝していて、来年も共に過ごせたら嬉しいこと。彼女と共にする時間がとても好きなことを。
蜻蛉からは初めて逢った時から懐かしいような、前から知っているような思いだったこと。雪之丞の存在が大きな支えになっていること。沢山の感謝を込めて。
せーので飛行機を飛ばし──消えた、と目を丸くする。マジックか何かのようにぱっと姿が見えなくなってしまった。
「ほんまやったね」
「ええ。……届くんでしょうか」
顔を見合わせた2人。帰宅後、互いに見たことのある紙飛行機が家の前に転がっている、かもしれない。
ブラウから筆記具を借り──ついでにモフモフ撫でて──メイメイは故郷の家族へ手紙を書き始めた。
──お元気ですか?
彼女らしく、相手を案じる言葉から始まる。受け取った家族たちはさぞ驚くことだろう。沢山のことがあって、沢山のものを見て。彼らへ聞かせたいことをいくつもいくつも書くと、紙に文字がびっしり詰め込まれてしまう。
(最後に……わたしの名前、と……)
読み返して内容を確認し、紙飛行機の形に折る。裏には目印に羊の絵を描き入れて、メイメイは手紙を飛ばした。
(いつか、そういうこともあったね、と……笑いあえたら、いいな……)
祈りをささげる彼女。そんな未来をいつの日かと夢に見て。
(……全然まとまらないわ)
ブラウから借りた紙から視線を放し、アルメリアは湖の水面を眺めた。
先日の、ザントマンの1件。実の姉であるリュミエは相当心を痛めただろう。本当ならば、直接会って励ましの言葉もかけたいところだが──。
(会ったことなんてほとんどないし。謁見してまで言うなんて恐れ多いし)
湖にそっと、気持ちだけ記して沈めてしまうのが1番いい。届いたとしても匿名の手紙だ。
(とはいえ、リュミエ様相手と考えるとかなり堅苦しい手紙になっちゃうわね)
これでよかっただろうか、なんて心配しているうちに日が傾きかけてくる。アルメリアは誰にも見られないように、とそっと紙飛行機を飛ばした。
アルテミアはカンテラ片手に湖を見下ろした。
(流石にかなり冷えるわね……)
その手には忘れることなどできない、双子の妹へ宛てた手紙が握られている。
妹は数年前に攫われ、行方知れず。諦めても良い年月が経ち、けれど双子故か『あの子は今も生きている』と確信めいた予感があった。
(私は行けないけれど、想いは届きますように……)
風に小さく髪が靡く。夜の湖へと人知れず、1通の手紙が飲み込まれていった。
淡い星のような明かりに照らされ、ふらりふらりとアーリアは湖のほとりを歩く。そして適当な場所で立ち止まると、紙飛行機に愛用の香水を吹きかけて飛ばした。
(……小さな頃、朝ご飯だって起こされていたのは私の方なのにね)
眠ったままの妹、メディカ。彼女はきっと寂しかったのだろう。父が死に、母が海洋の人間に恋をした。アーリアはその寂しさに気づけず天義から逃げたのだ。
密告され、バラバラになった後もかの国の騒動でぶつかりあって──貴女が目を覚まさない。
いつか、大好物の甘いクッキーを共に食べて、話ができますように。どうか──彼女の夢まで、届け。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
誰かへ手紙は、想いは送れましたか?
恋文か!? と思わせるプレイングの最後で思わず笑ってしまいました。MVPをお贈りします。
またのご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
GMコメント
●すること
湖のほとりで過ごす
●ロケーション
深緑の森にある湖。お昼は天気が良いです。夜は真っ暗です。落ちたら危ないので灯り必須。
湖に落ちたら確実に寒中水泳です。冬ですから。
●紙飛行機
ただの手紙では届きません。紙飛行機にしましょう。不恰好でも格好良くても、『想いのこもった紙飛行機』なら湖は呑み込んでくれます。
●NPC
私の所有するNPCはお呼び頂ければリプレイに登場する可能性があります。
尚、ブラウは湖のほとりで羊皮紙とペンを用意しているようです。その場で書きたい方はどうぞ。
●注意事項
本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
アドリブの可否に関して、プレイングにアドリブ不可と明記がなければアドリブが入るものと思ってください。
同行者、あるいはグループタグは忘れずにお願い致します。
●ご挨拶
12月ですね。愁と申します。
確実に届くとは限りません……が、年の開ける前に、伝えたいことを発信しておきませんか。
こちらの手紙に関して、PC様同士で了承が取れるのであれば『湖へ飛ばした紙飛行機が、いつのまにか相手の手元にあった』として構いません。ロールプレイのきっかけにもお使い下さい。
それではご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
Tweet