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シナリオ詳細

<夏祭り2019>天まで昇れ、願いの灯
<夏祭り2019>天まで昇れ、願いの灯

完了

参加者 : 31 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 海洋の片隅に、その風習はある。
 どんどんと太鼓の音、提灯が赤く輝く独特の雰囲気の中、「灯篭屋」がそっと渡してくる灯篭。
 その灯篭に願いを込めた紙を燃やし入れ、火がともったころにそっと手を離すと……
 作りが特殊なのだろうか、灯篭はそっと浮き上がるのだ。
 浮き上がり、空へ漂い、いつか燃え尽きる灯篭だけれど。其の行く先に思いを馳せ、願いよ届けと天に願うことはできる。
 願いよ届け、高く、天まで。そうして辿れ、海への道を。
 そうして人々は、天に願いを託し、日常へ戻っていくのだ。


「君たちは灯篭が空に流れるのを見たことはあるかな」
 グレモリー・グレモリー(p3n000074)はさらさらと、いつも通りにスケッチブックに絵を書きながら、イレギュラーズに告げる。
「ウォーカーの皆は、故郷で見たことがあるかも知れないね。空を飛ぶ灯篭に、願いを込めるんだ」
 描きあがったのだろう、くるりとスケッチブックを裏返すと――そこには宙を舞う、四角い何か――これが灯篭だろう――が幾つも描かれていた。見上げるようなアングルのそれは、直接見ればきっと感動する場面なのだろうと伺わせる。
「まあ、絵で表現するには限度がある。実際に見てもらった方が早いと思うんだけど……今度海洋で夏祭りがあるんだ。時期を合わせて、この灯篭祭りも開かれるらしい。屋台の端っこに「灯篭屋さん」があってね。紙と灯篭を受け取ったら紙に願いを書いて、灯篭の火にくべるんだ。そして灯篭を空に流す。……これがなかなか難しくて、灯篭が先に流れてしまう人も少なくないんだけど……まあ、その時は灯篭屋さんにもう一度貰いに行くと良いよ。願いは一度しか願っちゃいけない、なんてルールはないからね」
 地図だと此処、とグレモリーは示す。成程、海洋にしては陸地。海から離れた個所である。
「だからこそ、海まで願いよ届け、って流すんだろうね。海を重んじる海洋らしいといえばらしいね。……最近はとても忙しかったよね。だから、たまには息抜きも良いと思うんだ」
 ぜひいってらっしゃい。と、グレモリーは手を振った。しかしその無表情はどうにかならないものだろうか。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 さて、精霊流し……というと想像しやすいでしょうか。

●今回の依頼
 <夏祭り2019>参加シナリオです。
 是非他の素敵なシナリオも見てみて下さいね。

●目的
 願いを流して、夏を祝おう!

●立地
 海洋の僻地です。少し海から離れた、陸続きの場所になります。
 此処では願いを灯篭に込めて、空に流す風習があります。
 時期を合わせて夏祭りが開かれており、屋台を広げる者も少なくはありません。
(綿あめ、お面、チョコバナナetc。一通りお祭りにありそうな屋台は揃っています)
 ちなみに、願いの紙は見られても構わないことになっています。

●出来ること
1)屋台をめぐる・または屋台を開く
2)灯篭に願いを込め、空へと流す

 どちらか1つに絞ることをお勧めします。

●NPC
 グレモリーが似顔絵屋さんの屋台を開いています。1枚100G。
 似ているはずなのに全員無表情だと評判です。

●注意事項
 迷子・描写漏れ防止のため、冒頭に希望する場面(数字)と同行者様がいればその方のお名前(ID)を添えて下さい。
 やりたいことを一つに絞って頂いた方が描写量は多くなります。


 イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
 皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守ってお花見を楽しみましょう。
 では、いってらっしゃい。

  • <夏祭り2019>天まで昇れ、願いの灯完了
  • GM名奇古譚
  • 種別イベントシナリオ
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2019年07月28日 23時15分
  • 参加人数 31/50人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 31 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(31人)

十夜 縁(p3p000099)
黄昏き蒼の底
クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
朝を呼ぶ剱
ラダ・ジグリ(p3p000271)
剣砕きの
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
守護の勇者
サンディ・カルタ(p3p000438)
アニキ!
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
守護する獣
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
猫さんと宝探し
リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩
シクリッド・プレコ(p3p001510)
海往く幻捜種
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈る暴走特急
秋宮・史之(p3p002233)
女王忠節
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
藤野 蛍(p3p003861)
学級委員の方
秋空 輪廻(p3p004212)
ナインライヴス
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
繋手
桜咲 珠緒(p3p004426)
吐血の方
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
さいわいの魔法
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)
煌めきの王子
宮峰 死聖(p3p005112)
異美転の架け橋
村昌 美弥妃(p3p005148)
不運な幸運
美咲・マクスウェル(p3p005192)
見敵必殺
リアム・マクスウェル(p3p005406)
エメラルドマジック
シャラ・シュヴァイツァー(p3p006981)
深い緑の蒼
ネーヴェ(p3p007199)
うさぎのながみみ
ミドリ(p3p007237)
雑草
ファレル(p3p007300)
修行中

リプレイ


 どん、どん、どん。太鼓に笛、祭囃子が聞こえる。
 赤い提灯に照らされて、祭りは海洋の夜を照らしていた。

「いやー、食べても食べても次から次に屋台を見つけちまうな!」
 ファレルの手には焼きそば、タコ焼き、かき氷。食べかけのトウモロコシに冷やしパイン、様々な食べ物が両手いっぱい。けれど彼はまだ屋台を見回っている様子だ。
「どうせなら全部回ってみたいな……ええと、灯篭だっけか? あれは最後がいいな。先に食べ物から回って……其れから、屋台を出してる人がいたら挨拶を……」
 がり、と豪快にトウモロコシを齧る。食べ物以外の屋台を回るには、まずこれをお腹に収めねばならないだろう。
 一先ず座るところはないかと、ファレルは人波の中できょろきょろ、見回していた。

「グレモリー様!」
 シャラは身を乗り出すように、グレモリーの金の瞳を見つめた。
「あの、私にも、何かお手伝いを……!」
「……手伝い。なぜ? 君も祭りを楽しんで来たら良いのに」
 首をかしげるグレモリー。何も自分のしけた屋台の手伝いなど、と、本気で思っている様子である。
「あの、私、絵のお勉強をしてて……似顔絵屋さんというものはどのようなものかと……その。お店側の視点から、参考にさせて頂けたらって……!」
 しどろもどろになりながらも、なんとか思いを言葉にするシャラ。ふむ、と頷くグレモリーは、店――というよりスペースの奥に入ると、椅子を一脚持ってきた。
「手伝いといっても、ペンのメンテや絵の具の混合だけど……他にも何かあったら言うから、此処に座っててくれるかな。勿論、席を外すのは自由」
「ほ、本当ですか!? わあ……! 嬉しいです! 私、頑張ります!」
 鉛筆を研いだり、絵の具を混ぜたり。意外と手伝いの仕事はめまぐるしく大変だけれど、シャラにとって勉強になっただろうか。

 青を基調に、白いラインを入れて。帯には朝顔の描かれたうちわ。
 クリスティアンは祭り特有の高揚した空気を楽しみながら、出店を見て回っていた。客寄せの声は人波に負けぬよう張り上げられて。其れがまた、風情を誘う。
 この熱気が好きだ、と歩いていた彼だったが――妙に静かな一角を見つけた。見れば、見たことのある顔がにこりともせず座っている。
「おや、グレモリー君」
「おや、クリスティアン君。どうも、久しぶりだね」
「そうだね。依頼の時に説明を受けてから……かな。君の友人との出会いのおかげで、僕は少し……強くなれた気がするんだ」
 ところで何をしているんだい? と聞くと、グレモリーは傍に突き立てた看板を指さした。“似顔絵、描きマス”
「似顔絵! 成程、君らしいね! じゃあ僕も一枚お願いできるかな?」
「どうぞ。じゃあ、其処に座って」
「とびきりハンサムに描いておくれよッ☆」
 ――数分後。無表情の似顔絵を受け取ったクリスティアンは、これもまたハンサムだ……と感慨深く呟くことになる。

「お祭りは幾つになっても心躍るのデス♪ 綿あめも食べたし、林檎飴は転んだら嫌だから最後で、あとはえーと……」
 そうだ、と美弥妃は屋台を探す。ほかでもない、グレモリー・グレモリーの「似顔絵屋」を。そしてすぐに見つかった。何故かそこだけ空気が重いのだ。
「あ! グレモリーさんみっけ! デス!」
「見付かってしまった。似顔絵をご所望かな」
「はいデス! 似顔絵、描いてもらったことないから新鮮そうなのデス!」
「うん、じゃあ其処に座って。あと、無表情になるけどいいかな」
 無表情。美弥妃は少し首を傾げたのち、いいデスよと頷いた。
「ワタシはいつも笑顔の事が多いデスから、そっちの方が新鮮デス! でも、なんで無表情になるんデスか?」
「想像できない表情を描こうとすると、自然と無表情になってしまうんだよね」
「へえ~。あ! 夏祭りだし、背景に灯篭とか書いてもらってもいいデスか?」
「うん、それは勿論いいよ。お祭り、楽しいよね」
「はい! とっても楽しいデス!」

 ミディーセラとアーリアは二人、手を繋いで屋台を巡る。お面屋さんで買った狐面に、さっき買った林檎飴。アーリアは祭りを全力で楽しんでいるようで、ミディ―セラの頬に自然と笑みが浮かぶ。
「幾つになっても、こういう場所ってわくわくしちゃうのよねぇ」
 ミディーくんは? そう聞きかけたアーリアだけれど、思い出して少し慌ててしまった。そうだった、ミディーくんは長い時を生きていて……もしかして、お祭りなんて飽きてるんじゃないかしら?
「私も同じですよ。幾つになろうとも……です」
 けれど彼女のそれは杞憂、ミディーセラは笑みを浮かべたまま答えた。幾つになっても、何年たっても、祭りの高揚感は飽きることはない。貴女が隣にいるなら、尚更。
「ああ、其れとも」
 刺激的な何かをご所望だったりするのかしら。
 ぱちぱち、ソーダ飴みたいな蠱惑的な言葉に、アーリアは赤い頬を隠すように林檎飴を頬張って。違うの、違うのよ。純粋に楽しいかどうか、聞きたかっただけなの。
 何かを考えるよな沈黙。其の後に、アーリアはミディーセラのふわふわの耳にひそりと言葉を囁く。
「灯篭飛ばしを見られる、とっておきの場所を見つけたの」
 こっちよ、と引っ張る手は、何故だか少し熱くも感じて。かわいいひと、とミディーセラは笑い、手を引かれるままに歩みを進める。

「グレモリーくん!」
 似顔絵屋を訪れたのは、ルアナと焔の二人。あとで遊ぶのだろう、ルアナの片手には花火がある。
 2人一緒に描いてほしいと椅子に座る2人。此処で普通なら、おすまししてじっとしているのだろうが……彼女らは無表情に描かれる気などさらさらなかった。
「さあグレモリーさん、似顔絵書いて書いて!」
 鼻をぶたさんよろしく持ち上げるルアナに。
「遠慮せずに! さあさあ!」
 両頬を限界まで引っ張る焔。グレモリーはさらさらと、にこりともせず絵を書きあげていく。
「君たち、すごく面白い顔をしてるよ」
 そういわれて、二人はお互いの顔が気になった。ちらり、横に視線をやって――
「…ぷ、あははははっ! 焔ちゃん、お顔が酷いことになってるよ!」
「そういうルアナちゃんこそ! 変な顔ー!」
「はい、出来たよ」
 やはりにこりともせず似顔絵を渡すグレモリー。その出来栄えは……
「あー!!! 変顔の似顔絵だ! レアだけど…なんか恥ずかしい……!」
「グレモリーくんの意地悪!」
「だって、君たちがそういう顔をするから」

「流石海洋のお祭り、なかなか盛り上がってんな」
「りんご飴、綿あめ、お酒! これだけ屋台があると壮観ですわね! サンディ、こっちに珍しいお菓子がありますわよ!」
 テンションの上がるままに通りへ飛び出して、無邪気に手を振るヴァレーリヤ。人込みは波のようで、これははぐれないように注意しなければならないと、サンディは足早に彼女を追う。
 異国のお菓子は色鮮やかで、幻想とはまた違った趣がある。味も塩辛かったり甘かったり、2人は目を白黒させながらも笑いあって、屋台をめぐる。
「ふふー、これだけ買えば一先ずは満足……あら! 射的屋さんがありますわ。そういえばサンディはこういうの、得意ではなかったかしら」
 お菓子を両手に抱えたヴァレーリヤが、ちらりと期待のまなざしでサンディを見る。
 ――来たぜ、俺のアピールタイム!
 百発百中のサンディ様にお任せあれ、と代金を払っておもちゃの銃を構えるサンディ。
 ぱしん。ぱしん。小手調べに小さな景品を二つ落とせば、きゃあとヴァレーリヤが上げる歓声。この調子で、と大物狙い、連射気味にサンディはぬいぐるみを狙ったが……
「ん、あれ、落ちねぇ。外してねーよな」
「ええ! ちょっと店主さん! これ、固定されているのではなくて?」
 さて、クレームに負けた店主が追加の弾をサービスするか否かは、彼らの話術にかかっている。

 【花鳶】の2人は両手に戦利品を抱え、決戦の場に向かっていた。綿あめ、たこ焼き、お面。チョコバナナにりんご飴、其れだけ買ってまだやるの? ええ、まだやるんです。
 そう、金魚すくいをね!
「シラス君は得意なんだよね? 私は後ろで見てようかな」
 綿あめをちぎって頬張りながら、アレクシアが言う。良いぜ、とシラスは頷いて、店主に代金を支払い、ポイを受け取る。
 そして慎重に獲物を見定めると――最小の動きでもって、狙った金魚をあっという間に椀に移した。
「まずは一匹。どう?」
「わあ、凄い! なんで破けないの?」
「コツがあるんだよな。なるべく水平にして、水を切るように…」
 見本を見せるように何匹かすくった後、アレクシアもやってみよう、と誘うシラス。アレクシアは一も二もなく頷くしかない。だって、すごかったんだもの!
「水平に、水を切るように……」
 むむむ、と金魚たちとにらめっこするアレクシア。その右手がぎこちなく動くと、一匹の金魚をすいっと掬った。
「――わあ! 取れた! 取れたよ、シラス君!」
「おー! やったじゃん!」
 シラスは全員を連れて帰れないので、一番きれいな一匹だけを選び。アレクシアは初めての一匹を、それぞれ水袋に入れて、再び人波に紛れる。
「俺さ、射的も巧いんだぜ!」
「ほんと!? ぬいぐるみとか落とせる?」



「死聖おにーさん、出店がたくさん出ていますよ♪ どれから回ろうかしら!」
「はは、フルールちゃんは出店が好きなんだね」
 いいよ、今日は僕が何でも買ってあげる。そう言う死聖に、フルールは車椅子の彼を案じて傍に寄り添いながらも、じゃありんご飴が食べたいわ、と注文する。
「でもね、綿菓子、イカ焼き……食べたいものがいっぱいなの。どれからいきましょう。本当に、全部買ってくれるの?」
「ああ、いいとも。其れに応じたコストはもちろん頂くけどね」
 するり、悪戯な死聖の手がフルールの浴衣をめくる。…けれどそこには、あるべきものがなかった。
「……。フルールちゃん、何故はいてないのかな?」
 死聖よ、それは写真を撮りながら言う事ではない。連写している場合ではない。
「おにーさん、お尻が好きなの? ふふ、ふふ♪ なんでかしらね、なぜかしら♪」
 ざわざわ、ざわざわ。周囲が二人の雰囲気にざわつき始める。
「……おっと、少しはしゃぎすぎたかな……フルールちゃん、膝に乗って。ちょっと飛ばすよ♪」
「ちょっとってどれくらい? ふふ、お祭り、楽しみましょうね♪」
 フルールを膝に乗せた死聖は、車椅子にあるまじき速度で其の場を離脱する。見事に人並みの間をかき分けて、目当ての出店までかっとばす。

「……あら…今のは……死聖君?」
 其れを見ていた人物がいた。輪廻だ。勿論はいてるとかはいてないのやりとりまでばっちり見ていたのだが……瞳に浮かんだのは、喜色だった。
「私やあの子以外にも将来有望な子がいるなんて……ふふ、今度紹介して貰わなくちゃ。でも、今日はお祭りを楽しみましょ」
 たまには誰もつれず、一人でぶらり楽しむ祭りも悪くない。客寄せの声を心地よく聞きながら、輪廻はたこ焼きの店に立ち寄った。
「おじさん、10人前」
「あいよ……ッンン!? 10人前え!? お嬢ちゃん、ツレがいるのかい」
「嫌ね、私は一人よ? ちょっとお腹が減ってるの」
「そうかそうか! ま、それくらい食べたくなるときもあらあな! おっちゃんの店で嬉しいぜ! お代が結構かかるけど大丈夫かい?」
「……ちょっとまけてくれない? サービス、するわよ?」
 するり、浴衣の肩を少しおろして、素肌を見せる輪廻。彼女の素肌には異性を魅了するギフトがある。さて、其れが効力を奏したかどうかは――



 ひとつ、ふたつ。
 エリザベスがふと視線をやると、灯篭が昇り始めるのが判った。
 ふわりと灯篭は風に乗り、祈りを載せて海を目指し揺蕩う。

「とはいっても――」
 灯篭に託すような大層な願いはないのだと。縁は白いままの紙を揺らして苦笑する。
 表、裏。ひっくり返して見てみても、そこに答えがある訳ではない。痛いくらいに、苦しいくらいに願っても、叶わない願いなんて幾らでもある。叶わない願いがあるからこそ、こうして人は灯篭に願いを込めるのだ。
 けれど。一生の願いが叶わずに、次の機会を永遠に失う事だって――
 ……おっさんはそれをよく知ってる。
 だからな。最初から何も願わなけりゃあ、後悔する事もねぇのさ。
 縁は結局、白紙を灯篭にくべて空に流した。其れでも灯篭を空へ向けたのは、一抹の寂しさ故か、それとも。

 ウェールは絵の具を筆にとり、灯篭の薄い紙に慎重に乗せた。
 ――絵の具が欲しい? うん、好きに取って行って良いよ。別にお代もいらない。
 そう言ってくれた似顔絵屋に心中で感謝しながら、浴衣にさしたうちわの梅柄を、慎重に描き移す。
 梅の花言葉は“約束を守る”だそうだ。息子に約束だとすら言っていない、一方的な約束だけれど。
 絶対にあいつのところへ帰る、その強い願いを込めて、梅を描いた灯篭を空に放つ。
 俺は最高のパパじゃない。うっかり腹を刺されたり、其れでも言葉を、思いを届けようとしてしまうような男だ。
 けれど、この約束は破らない。梨尾、絶対にお前のところに帰るから。こんな駄目な父さんだけど、待っていてくれ。

「綺麗……」
 ネーヴェは空を流れる灯篭の数々を、ぽうっと見上げていた。大きな星のように輝く灯篭が、風に流れて飛んでいく。あの先は海だろうか、其れとも――
「……わたくしの、願いは」
 そうだ、自分の手元にも灯篭はあるのだった。ネーヴェは兎耳を揺らして、願いを紙にしたためる。其れは至極シンプルな願い。
 “強くなる”。なりたい、ではない。なる。
 身に着けているのは護身程度。イレギュラーズとしてもまだ未熟。でも、其れに甘えてはいられない。他の皆と肩を並べて戦えるように。怖いけれど、其の恐怖にすら克てるように。
 灯篭の火がゆっくりと紙を焼く。じっとネーヴェは其れを見つめ、燃やし終えた灯篭を、空へ流した。灯篭はすぐに他の灯篭に交じって、どれが自分のものか判らなくなったけれど――きっと、海へ行くだろう。ネーヴェはそう、確信していた。

 PiPiPi! Pi!
 ミドリはお祭りの雰囲気に、心がわくわくするのを感じる。あの空を流れているものは何? 灯篭っていうの? 空を飛べるの? すごいね!
 人波の中を踏まれないように慎重に進んでいく。どん、どん、どん。太鼓の音がミドリの双葉をゆらゆら揺らす。
「あんたもお願いを書いてみないかい? ほれ、タダだから持っていきな!」
 PiPi!
 おじさんから灯篭と紙をもらったよ! 何て書いたらいいだろう? おいしいものをたくさん? 一日中寝ていたい? ううん、どうせなら、どうせなら――
「PiPiPi~PiPi~!」
 本当の優しさの意味がわかりますように!
 ミドリは大切なアミュレットにそっと触れた。其処には天義の市民の願いがこもっている。理解できる日が来るかしら。きっと来るよ、君は優しい精霊だから。

 天義での大騒動は、不可解な終わり方をしたものの――概ね天義側、ローレット側の勝利と相成った。
 アクセルはそれを思い起こしながら、紙に願いをしたためる。
 いろんな国があって。いろんな問題があるから。だから。
 ――“世界が平和でありますように”
 其れは書いてみるとちょっと恥ずかしい願いだけれど、国一つを巻き込んだ騒動の後だと願わずにいられない事。
 願わくば、誰もの心が安らかでありますようにと、アクセルは灯篭を空へ流す。あの灯篭は、どこまで飛んでいくだろう。空の上まで届くと良いな。

 遠くで流れる灯篭なら見たことあるッス。其の時に話もざっくり聞いたッス。でも、こんな間近で見るのは初めてッスね!
 シクリッドが願うのは勿論、“不調の原因を解き明かし、魔法使いの道に戻る事”。自分をさいなむ謎の不調を取り除けるなら、何回だって願おう、というものだ。
 同じ海洋に住む身ではあるが、海への憧れを祭りに昇華した此処の住人と違って、シクリッドは海との合一を目指している者の一人だ。だから、同門の者にこの話をしたところで、海に願い事なんてばからしい、と言われるかもしれない。
 でも、それでもいいッスよね。あっけらかんとシクリッドは思う。不調で合一から遠ざかっている自分が、海へ近付くための方法として。灯篭が風に揺られて流れていくのを、じっと眺めていた。

「はあ」
 史之は溜息で願いの紙を揺らした。
 今年の夏はついてない。女王陛下への謁見の機会を逃し、海洋の脅威に立ち向かう機会も逃し、更には夏の衣装も時機を逃してしまったときた。
 もうこうなったら、いつもの姿で夏を楽しむしかない。作務衣をまとって灯篭を見上げる史之が其処にいた。
「兄ちゃんもどうだい。悩みがある顔だ」
 灯篭屋が明るく声をかけてきて、灯篭と紙、筆記用具を渡してくる。史之には断る理由はない。しかし、何を書こう。
 女王陛下に会えますように? ……違うな。会えても、あの方が表情を曇らせていたらなんの意味もない。これから来る夏空のように、花咲く向日葵のように、笑っていて貰いたい。
 “女王陛下が幸せでありますように”
 例えそこに俺が関与していなくても、其れは俺の幸せだ。
 切なる願いを載せた灯篭は、果たして乙姫に届くのか。

 書いては、流し。書いては、流し。
 シフォリィは幾つもの灯篭に願いを込めて、空へと流していた。
「……あれ、シフォリィ? さっきから何してるんだ」
「あ、クロバさん。見ての通り、灯篭に願いを込めていました!」
 ふふん、と胸を張る。失敗しているわけではなく、願うことが多すぎるのだとシフォリィは言う。これで最後なのです、と手の中にある灯篭に視線を移した。
「いつか来る滅びを超えて――こんな人がいたって、語り継ぐ事を」
 願おうかと思っているんです。伏し目がちにいう彼女に、クロバはほうと息を吐く。
「素敵な願いじゃないか。じゃあ俺は、そうだな……」
 灯篭屋に押し付けられた灯篭。しばし考えて、さらりと一筆書き終えると、クロバはさっさと灯篭の火に紙をくべて空へ流してしまう。
「あー! クロバさんのお願い、まだ聞いてないのに! 教えてください!」
「それはまあ……内緒という事で」
「ずるいです! 私はちゃんと言ったのに!」
 君を含めた近しい人の旅路が、これからも続いていきますように。
 ――そんな願い、恥ずかしくて俺は口に出来ないよ。

 リノとラダは二人、浴衣を着て灯篭にくべる願いに唸っていた。
「こう…改めて言われると思いつかないな」
「そうねェ。可愛いお願いって思いつかないわね…まあ、そうね。良い仕事の縁に巡り合えますように……でいいかしら。でも一つって決められてないし、これも書いちゃおう。「来年も友人とお祭り巡りが出来ますように」……」
 決まればさらりと書いてしまうリノに対し、こういう時サラっとかけると格好いいんだがな、と唸るラダ。悩みぬいて彼女が紙に記したのは、「来年までの無事」。なんとも二人して、可愛くないお願い事だと笑いあう。
「うまく上がるかな」
「上がるわよ。上がらなかったらまた取ってくれば良いわ」
「そうだな。……この風景、遠くから見たらどうなんだろう」
「遠く、ねェ……空中庭園なんかだったら、とてもきれいに見えるんじゃない?」
 まあ、そうそう足を踏み入れられる場所ではないけれどね。
 そうだな。溜まり場にしたらざんげに怒られそうだけど、……綺麗に見えると良いな。

「ふむ。趣旨は理解いたしました」
 珠緒は蛍の説明を受けて、うんうんと頷く。世界は違えど、似た行事はあるのですね、と付け足して。
「そうよ。きっと素晴らしい眺めだわ! 珠緒さん、一緒に其の風景の一部になりましょ!」
 蛍はやる気満々だ。珠緒も断る理由はなく、灯篭屋で2つ灯篭をもらって、一つずつ持つ。まずは願い事を書くのだが――
「いざ書こうとすると、なかなか難しいわね。……健康祈願……珠緒さんは、不健康って訳じゃないのよね?」
「ええ、今時点で不具合は発生していませんね。……吐血等は、お役目で調整された結果ですので」
「調整、か」
「……不具合、では、ないのですが……こういうのでも、よいでしょうか」
 珠緒がしずしずと差し出した紙には、流れるような字で“体の傷跡が消えたら嬉しいです”と書かれていた。
「……珠緒さん……」
「その、誇れる自身たろうと心掛けてはいるのですが、……この時期、綺麗な方々を見ると、つい」
 ぐっ、と胸にこみ上げたものを、蛍は必死に飲み込んだ。消えない傷跡、きれいな肌にあこがれる気持ち。同じ女の子として、痛いほどに苦しいほどに判る。だから。
「その願い事、とっても大切だと思うわ。ぜひ、ボクにもお手伝いさせて」
 さらさらり。蛍は迷わずに“珠緒さんの願い事が叶いますように”と書く。連れてきたロボットに灯篭を抑えさせて、願いの紙を火にくべ――
「ボク達の気持ち、海まで届けー!」

 美咲とリアムは2人、灯篭屋で灯篭を受け取っていた。
「すまないな、美咲。こんなことに付き合わせてしまって」
「いいよ。観光みたいなものだしね、付き合ってあげる」
 リアムには、どうしても願いたいことがあった。それは決戦で散った、一人の聖女を悼む事。たった一度だけの出会いだったが、恋人を思う姿がまぶしかったのをよく覚えている。
 対して美咲はその聖女の事を知らない。けれど、他者の死を悼む彼の心は、尊重してあげたいと思うのだ。
「……あのような者にこそ、幸せを掴んで欲しかった。良い人間ほど生き急ぐのは、何処の世界でも同じなのかもな」
 其処までいって、愚痴になってしまった、と謝るリアム。構わない、と美咲は灯篭の明かりに視線を落として言う。
「真剣に悲しんでいるひとを茶化すほど、腐ってはいないつもり。いいよ、愚痴でも。たまにはね」
 そうして美咲は願う。戦没者がどうか、天上への道を迷わぬようにと。其の聖女に限らず、あの戦いで斃れたすべての魂が迷わぬように、安らかに眠れるように。
 灯篭の優しい輝きは、天へ昇っていく。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
皆さんの願いを載せた灯篭は、果たして海へ届くでしょうか。
きっと届くと私は信じています。
グレモリーの似顔絵屋も繁盛して嬉しいです。来てくださった方に感謝を。
お疲れさまでした!

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