シナリオ詳細
瓶詰め屋『エアインネルング』
オープニング
●あなたの望む世界を
1年に1度、大切なヒトへ自分の特別を贈ってみませんか?
瓶の中に広がる世界があなたを、そしてあなたの大切なヒトを引きつけます。
朝焼けも、黄昏も、満点の夜空だって思いのままに。あなたを表すモチーフも瓶に込めて、たった1つの世界を創りましょう。
瓶の大きさは小さなものから、両手で抱えるような大きいものまで。持ち込みも歓迎します。
依頼は瓶詰め屋『エアインネルング』へ──。
●イレギュラーズご招待!
「皆さん! 瓶詰め屋さんから皆さんにご招待のお手紙が届いたのです!」
瞳をキラキラと輝かせて『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000032)が1枚の手紙を掲げている。パサっとテーブルの上に出すものの、皆が覗き込めば誰かしら読めぬ者がいるもので。
「ああっと、ごめんなさいなのです。ボクが読みますね。
『先日はお世話になったねー。お陰で材料足りました。ホントにありがとー。
手の空く時期になったから、お礼も兼ねて皆さんに瓶詰めを贈りたいなーって。ウチで作れる、世界にたった1つの世界。
でもさ、自分で作りたいって人もいるかなーと思って。簡単なものならワークショップみたいに出来るから、良かったら作りに来ない?
私に任せるのも大歓迎。ただ、その他諸々を含めたりするとちょーっと大人数は難しいかなー。30人ってとこ?
そんな感じで良かったら、ユリーカに渡した名簿に記入をよろしくねー』
…………結構長かったのです」
はふ、と息をついたユリーカ。周囲にいる面々を順に見渡す。
「先日のっていうのはある依頼のことなのです。瓶詰め屋さんの材料が足らなくなりそうで、イレギュラーズに採取を頼んできたことがあったのですよ」
とは言っても、関与したのは多くいるイレギュラーズのうち8人。ここにいる面々には詳しく知らない者もいるだろう。しかしそれは過ぎたことであるし、わざわざ報告書を確認しに行く必要もないのだ。
それよりもイレギュラーズが気になるのは『瓶詰め屋』という存在だろう。
「瓶詰め屋さんはプレゼントを作るお店なのです。自分でも良いですし、誰かに上げるためでも構いません。あっ勿論ボクでも良いのですよ!
早い者勝ちになりますけれど、良かったらどうでしょうか?」
- 瓶詰め屋『エアインネルング』完了
- GM名愁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年04月06日 22時40分
- 参加人数30/30人
- 相談6日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
リプレイ
●eins
自分で作っていいの、と焔は目を丸くした。
(作って貰った方が綺麗に出来そうだけど──)
──楽しそうだしやってみたい!
色は赤。ここは好きな色で迷わない。モチーフはどうしよう、と焔は首を傾げてみせた。
「そうだ! 赤いビー玉と……カラスのミニチュアを入れたいな」
思い浮かんだのは茜色の夕焼け空。綺麗で、切なくて。それでも好きな空の色。
出来上がった瓶を光にかざすと、より鮮やかな橙色が焔の瞳に映った。
「深緑の大樹をお願いしたいんだ」
故郷の景色を注文したウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ。いつでも帰ることはできるが、叶うなら傍に在ってほしい。
待つこと暫し。出来上がった瓶詰めをウィリアムはしげしげと眺めた。
「行った事ないけどさー、緑って言っても色々かなって」
若葉色や、深みのある緑。散らされたラメは木漏れ日のようにも見えて。
(盛り過ぎたかな、とも思ったけど──)
「僕の為に作ってくれた物だもの。とても嬉しいよ!」
どう? という問いかけにウィリアムははにかみながら、瓶詰めをそっと受け取った。
続いて見たことのある姿に店主は「おや」と言葉を漏らして。アクセルは小さく目礼した。
「……世話になる。私の故郷を作ってほしい」
帰る目途の立たない故郷。表現に関しては店主の方がセンスがあるだろう。
「いいよいいよー。これも入れるの?」
「ああ。……私の妻が、好きだった花だから」
会うことの叶わないその姿を、紫苑の花に重ね想う。
街のミニチュアを収めて、液体を注ぎ込む店主。
(あの採取物がこれらの材料になっているというのか……)
そんな作業を眺めながら、アクセルは不思議な気持ちにも囚われていた。
「これが上手く完成したらワタシも幸せになったりしませんかねぇ?」
美弥妃はかくり、と首を傾げながら薄紅藤色の液を瓶に流し込む。その傍らにあるのは四つ葉のクローバー。
(物を入れるだけならば、よっぽどな失敗はありませんよねぇ、多分!)
そりゃあもう、運悪くなければ。
そんな美弥妃、うっかり瓶を倒しかけるも運良くキャッチ。液も重たいものであるからか、中が崩れた様子もない。
ほっと息をついた美弥妃はドライフラワーの白い花も入れ、確り栓をした。
幸運をいっぱい詰め込んだ、美弥妃のお守りだ。
「瓶詰め作り、楽しみだな!」
「ハイ! いっとうお気に入りの瓶詰めを作りましょうネ」
イーハトーヴとリュカシスは顔を見合わせてニッコリ。
イーハトーヴが込めるのは、夜明け前の空。曙の赤みを帯びる前の、薄らと白み始めた薄紫。ラメも少しだけ散らせて星空に。
「見てくれ、リュカシス! 魔法みたいに、すごく綺麗だ!」
「ほんとうだ、綺麗な魔法の色!」
丸みを帯びた瓶を見て瞳を輝かせたリュカシス。彼が夜明けを詰めたのなら、自分は夕焼けを詰めようと橙色を瓶へ流した。
さあ、あとはモチーフを入れるだけ。2人は各々が入れるモチーフを手にした。それをよく磨いて、或いはピンセットで慎重に入れる。
「完成だ!」「完成! デス!」
同時に完成した2人。先にさっとイーハトーヴが瓶を差し出すと、リュカシスは目を丸くした。
「貰っていいの? とてもとても! 嬉しいデス!」
先ほどイーハトーヴが良く磨いていた、小さな歯車。明けの明星のような彼のモチーフを夜明けに封じ込めたのだ。
「それでは、おやすみの瓶をイーハトーヴさんに。ファミリアのように小さな仲間がいれば、怖いものなしですからね」
「わ……ありがとう」
夕焼けの中、小さな兎や猫がこちらを見ている。それもまた、道標のようで。
──嗚呼。とてもとても、大切にしよう。
●zwei
──オーッホッホッホッ!
室内に高らかな笑いが響く。仕方ない。だってこの人がいる。
「あの依頼を終えてから! この日を待ち侘びておりましたわー!」
「世界にたった1つの世界、ってすごく素敵な響きだもんね!」
タントとシャルレィスは自分たちをイメージした瓶詰めを一緒に作る。まずはシャルレィスから。ベースは勿論青色だ。
「モチーフはどんな風に入れたら良いかな……?」
守る剣を目指すシャルレィスにとって剣は外せない。猫も好きだから外せない。けれど、入れ方は大変難しい。
「そうですわね……いっそ、」
とタントと1匹の猫を手に取って。
「剣にじゃれつくようなお猫は如何ですかしら? 平和の剣ですもの!」
「わ、流石タント様!」
シャルレィスは笑顔を浮かべる。次はタント、こちらは『御天道きらめく世界』であるが──。
「太陽とは何を入れれば良いですかしら……」
空色の液を広口瓶に流し込んだタント。シャルレィスの「ビー玉は?」という言葉にぽんっと手を叩く。
「成程っ、ビー玉ですわね!」
透明なそれを瓶に浮かべれば──お日様のように明るくなった。周囲にはキラキラと反射するラメ。どことなくタントのように暖かい気さえする。
「やったー! お日様だ!」
「うんっ、光にきらめくお日様の如しですわー!」
出来上がった瓶詰めに2人はハイタッチをして。
(……こういうインテリア的な小物……前からちょっと……欲しいと思っていたんだよね……)
壁の棚をしげしげと眺めてグレイルは思う。店主に作って貰ってもいいが、折角だから自分で作ってみたい。幸い、完成品もあるから参考に出来る。
底へブルースターの花を敷いたグレイルは空色の液をゆっくりと流し込む。そして完成品をよく確認し、瓶の外でモチーフを当ててこれまた確認して。慎重に入れたのは雪の結晶だ。
(雪の結晶が……花に包まれるように……)
真剣な瞳が瓶を写し、キラキラとした瓶詰めを作り出す。
「材料集めのお仕事した時から、作ってみたかったんだ!」
「へえ、ユリーカが言ってたやつか」
アレクシアの言葉にシラスが反応するが──その件は割愛しよう。
自作してみようぜ、というシラスの言葉に2人はそれぞれで瓶詰めを作り始める。その姿はいつぞやの南瓜灯籠をほうふつとさせて。
けれどシラスがイメージするのは2人で潜った海洋の城。見上げた水面はキラキラと輝いていて、海底には貝殻の城があったのだ。
それを表現するように貝へ夜光塗料を塗って封じ込める。暗がりでも光る、水底に光を届かせる城だ。
黙々と器用に進めるシラスの一方、アレクシアは得意でないながら一生懸命に手を進めていた。
下に引くのは草原のような緑。快晴の青を流し、小鳥のモチーフが草原へ舞い降りる。
「ふふ、今度は上手にできた?」
「勿論! はい、シラス君にプレゼントだよ!」
ずい、と差し出されるアレクシアの小瓶。
それは例え落ち込んでも、気分が晴れやかになるような自然の景色だった。
「落ち込んだりすることがあってもさ、これを見て、少しでも気分が晴れやかになるようにって! どうかな?」
上手くできた? とアレクシアはシラスへ首を傾げて見せて。
ポテトが作るのは満天の星空と、それを見上げるような大樹。
「こんな感じで、作れるだろうか」
「んー、いいんじゃない? 問題ないないー」
店長のお墨付きも貰い、ポテトは若干手順を変更する。
液体は少しずつ。ドライフラワーを崩してしまわぬように、交互に入れて大樹を表現していく。
「……ふぅ」
時間と集中力を要する作業。目元が疲れたような気がするが、あともう少しだ。
深みのある青を流し、ラメが星々を描く。栓をしたポテトは瓶を様々な角度から見て、口元に小さく笑みを浮かべた。
──喜んでくれるといいな。
●drei
「ちゃんと作り終わったのか?」
「ふふん、ちょっかいをかけてたって進んでたんだから!」
得意げなサンティールにウィリアム・M・アステリズムはならいいけど、なんて肩を竦めて。2にはせーので同時に瓶を差し出す。
真昼の色と夜空の色。その色彩はまるで2人そのものだ。
「よろこびを、しあわせを、ウィルに届けてくれますようにって」
なんか照れくさくなってきちゃうな、とサンティール。
クローバーの敷き詰められた上から幸せを運ぶ小鳥が舞い降りる。四つ葉も1つだけ入っているけれどナイショ。気づくかな?
「俺は……そう。これからも一緒に居たい、って気持ちを込めたんだ」
ウィリアムが作った双星の瓶詰めは、朱と緑が触れあう事はない。けれど決して離れもしない。
「そ、そんなにかしこまらなくても! いっしょに遊んであげます!」
改めて言うと照れくさい、なんて思っているウィリアムよりよほど顔を真っ赤にしたサンティールがそっぽを向く。けれど怒っているわけでないことをウィリアムは理解しているし、されているだろうとサンティールも思っているのだ。
そうして交換した瓶に──青の小鳥にウィリアムはふっと小さく微笑んだ。
「瓶詰め……か」
周囲を見渡しながらクロバは呟いた。スノードームなどを見た事はあれど、作る機会はどそうそう来ない。
材料を用意したクロバは店主の言葉に確りと耳を傾け、慎重に手を進めていく。
手先が器用というわけではなく──しかし菓子作りと同様で、拘りたくなってしまう性分なのだ。
他の皆より時間をかけて完成させる。その手元では誰もいない野に、ぽっかりと白銀のそれだけが浮かんでいた。
(こういうの、好きなんだよな)
無音で、幻想的なそれは──まるで、時間が止まってしまったかのようにも見えた。
見た事も無い器具や既に出来上がっている瓶が、眼鏡越しの視界に映る。シリルは店主が近づいてきたことに気付くと椅子から立ち上がった。
「えっと……この花弁と若葉を入れられますか……?」
シリルが差し出したのはパステルピンクの花弁と小さな若葉。受け取った店主は「勿論」と頷いて作業を始める。
透き通った水色、その中に浮かぶ花弁と若葉。
「わぁ……綺麗……!」
はい、と渡された瓶をそっと受け取った。シリルは瞳を輝かせ、顔の高さまで持ち上げた瓶をしげしげと眺める。
これが僕の、この世でたった1つの世界。
「見た事はあっても、実際に作るような場所には初めて足を運んだな」
「風情のある手芸品ですね」
千歳と冬佳は周りに飾ってある作品と、先ほど瓶詰めを作っていた店主に感嘆の息を漏らして。その作業が終わったのを見ると、2人は店主に作ってもらうべく声をかけた。
「俺は……そうだな、夜空と星をイメージする感じで作ってもらおうかな」
冬佳さんは? と問われ、冬佳は暫し考え込む。
彼は夜空と星。それらがあるならば──月も輝いているものだろう。
「私は夜空と月のイメージで」
「了解ー。ちょっと待ってねー」
彼らの世界には同じ夜空。煌めくそこへ、それぞれ星と月を封じ込めて。
(職人技、っていうのかな)
工程を眺めていた千歳はそんなことを思う。そこに宿るのは感心と喜び、だろう。
こんな事が出来る人がいる。だからこそ、作ってもらってこその──そんな思いを冬佳も宿していて。
(自分で作ると言うのも、思い出作りとしては良いのだろうけれど)
出来上がった瓶詰めを大事そうに手にして、2人は視線を交わしあった。
「良いね、とても綺麗だ。家に帰ったら、早速良く見える場所に飾らせてもらおうか」
「……そうですね。帰ったら、必ず」
●vier
「これはミニチュアのようで可愛らしいですね」
幻は作品を見て顔を綻ばせ、自分はどんなものを作ろうかと頭に思い描く。
「……思いつきました! 宇宙の中の奇術!」
「宇宙の中の奇術ー?」
ふわりと首を傾げる店主に「出来上がってからのお楽しみです」と幻は笑ってみせて。
球体に近い瓶へ、深い紺色の液を少しだけ流す。今度は少し透明な液も混ぜて。そうして繰り返していけば、出来上がるのは濃淡混じった──まさに宇宙。
小さなシルクハットのモチーフと、青薔薇の花束をそこへ添えて。
「成程ー……」
感心した店主の声。持ち上げて見れば、宇宙の中で星々が煌めくようだった。
「アールーちゃん! 一緒に作ろ!」
「まさか同じ村から、同じような時期に召喚されてるとはね……運命的な偶然、って感じ」
同郷のフランに小さく息をつくアルメリア。彼女の運命という言葉にフランは「もしかしてあたしたちで世界を救っちゃったり? なーんて!」とクスクス笑ってみせて。
「それにしてもネオフォボスとかロリババアとか、森の外ってすごい世界だったんだねー」
「そうね、外の世界って本当におかしいことだらけだわ」
ちなみにアルメリアの元には3頭いる。本日は工房の外だ。
「えっそうなの!? イレギュラーズはロリババアを飼えるようになって1人前って聞いたよ! 凄いね!」
深緑出身の2人だって、どこかの誰かから聞いた話。真偽のほどは定かでない。
そんなフランが作っているのは故郷の光景。そこに葉と橙の花を入れる。
「アルちゃんのもかわいいね!」
「これはね、私の名前と同じ花。かわいいでしょ」
ドライフラワーを2輪入れた瓶を見せ、アルメリアはぽつりと告げる。
「これ、出来たらフランにあげるわ」
プレゼントを作ってるんだからね、と言うアルメリアにフランは嬉しそうに笑って。
「えへへ、じゃああたしのもアルちゃんにあげる!」
皆が幸せになるように。そんな小瓶を作ろうと思ったアニーは小首を傾げた。
(幸せの色って何色? 幸せのカタチってどんなもの?)
それは千差万別。なら──自分の大好きなものを沢山詰め込もう。
片手で持てる縦長の瓶に、無色透明な液を流し込む。封じ込めるのは花弁。柔らかな優しい色をらせん状に浮かせて、その周囲に星屑のラメを散らして。
(これは皆。そして、皆の幸せ)
決して大きな空間ではない。けれどアニーの瓶は、溢れんばかりの希望や幸福で満たされるのだ。
「自分の世界を表現……か」
ヨルムンガンドが思い浮かべるのはその目にいつまでも焼き付いた──夜空と、海。
瑠璃色の液を流し、魚を模した人形を底の方へ。上にはラメと綺麗な石で星空を。
(不思議な感覚だなぁ)
今、この手は永い間見続けていた景色を再現しようとしている。それは美しく、独りきりの寂しい世界で──それでもやっぱり、目に焼き付いて忘れられなくらい綺麗だった。
(……宝物にしよう)
ヨルムンガンドの瞳が優しく細まる。
記憶を大切に、そしていつか──この場以外の誰かに見せて、共有できることを願って。
「海も同じぐらい好きだけど、飛ぶのがやっぱり楽しいんだ」
そう告げたカイトは店主に空の色を注文した。
それは晴天の空。透き通った、鮮やかな青。そこにカイトの羽根を模した紅の小さな羽根を沈ませて、真珠の太陽とsの周囲にだけラメを散らせる。
店主曰く『太陽ってキラキラしてるでしょ?』とのことで。
完成した瓶を机に置き、天板と水平に眺めるカイト。他の作品も併せて見れば、同じものは1つとしてなく、キラキラしているが──。
(……流石に食べられそうにはないよなー)
その脳内は所謂、花より団子な状態であった。
●fünf
「世界でたった1つの世界、か」
──ああ、とってもロマンチック!
クリスティアンは自分をイメージした瓶詰めを考えてみる。
「そうだな、赤で綺麗なグラデーションを入れて……」
ラメもたっぷり、忘れてはいけない。クリスティアンはキラッキラな王子なのである。
そこへ煌めく鉱石の欠片と、薔薇のドライフラワーを入れて──。
「ふふふ、とてもキラキラしていて綺麗だね! まるで僕の分身のようだよ!」
満足げなクリスティアン。誰かにプレゼントしても良いかも、なんて考えて小さく笑みを漏らした。
「そうだな……んー、この歯車に……あと小ネジとか浮かべてみるのも良さそうだな」
アオイは瓶の中に入れたモチーフを見て、材料と見比べっこ──いや、睨めっこ?
それは瓶に入れてからも変わらない。
「ここ……いや、もう少し左……」
ピンセットで何度も角度と位置を調整する。その表情は慎重で、真剣で、けれど楽しそうで。
そうして満足のいくまで作業していたアオイは、出来上がった瓶詰めを証明にかざして眺めた。
ラメに彩られた世界。普段触れている歯車やネジが違うものにすら見えてくる。それは違う世界にあるようで──面白い。
(手のひらサイズで世界を、とは……なかなかに冒涜的と思ったのですが)
出来上がっている作品に珠緒は認識を改める。これは良い世界だ。
「……ね、ねぇ珠緒さん」
やや緊張したように蛍は瓶詰めから視線を移す。互いのイメージで贈りあわないか、という提案に珠緒は小さく頷いた。
「では、桜咲も良く考えて、蛍さんを写し取ってみます」
2人は店主に希望を告げ、互いに見えないよう作ってもらって受け取る。
「おお、みごとなものなのです」
珠緒はそれを両手で持ってしげしげと眺めた。器用でなく、そして慣れぬ作業に自分ならこうはいかなかっただろう。
蛍も同じく、専門家に頼んで良かったと微笑みを浮かべて。
「いつぞや共に手を伸ばした星空、それが、桜咲のなかの蛍さんです」
蛍が差し出した手の中には、深い青。煌めく夜空に、蛍が大切なものだと言っていたレンズを封じ込めて。
「これが……ありがとう。ボクからはこれを」
蛍から珠緒に送るのは、癒しと平穏、そして確かな存在感を宿す春の瓶詰め。
「桜咲は、このように見えているのですね」
桜とピンクパールの散らばる瓶詰めを珠緒が受け取り、蛍はそっと微笑む。
ピンクは愛の色。けれど、この淡い色の瓶詰めは──。
「そうだ。1つ、コルザさんに作ってプレゼントしましょう」
「じゃあ僕も1つ、お返しを作ってみるとするのだよ」
そう交わし、ロズウェルは真剣な眼差しで材料を見下ろした。
(私もなかなか不器用ですからね……)
失敗しないでほしい、と思いながら手を動かし始める。自分用だったらまだしも、これは贈答用──しかも、彼女をイメージした作品であるのだから。
(慈愛の輝きが──青の光が、辛い旅路でも失われないように)
コルザは薄く濁った白の中、歯車と青い硝子の破片を封じ込める。
「良し、完成しました! どうです? 私が作ってみたにしては良い出来栄えかと思うのですが!」
ロズウェルが差し出したの小瓶には、葉と花弁が封じ込められていた。
それはまるで、温泉で流れて来てしまったかのよう。ふぅわりと包み込むような形をしたそれにコルザは小さく笑みを浮かべる。
「うん、とても素敵だと思うのだよ。──じゃあ、僕は旅路のお守りを」
出来上がったコルザの小瓶は、彼女から湯煙の癒しがあるようにと願われた──ある意味正真正銘のお守りかもしれない。
「訪れた出来事ごとにつくってみてもいいかもしれないね。これも大切に飾らせてもらうのだよ──ロズ君」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
30人の、誰もが異なる唯一無二の世界。お楽しみ頂けたでしょうか。
6人テーブル×5つだったため、リプレイもそういった感じで章を区切っております。同じテーブルの人はこんなもの作っているんだな、と読んで頂ければ幸いです。
今回同じお名前の方がいらっしゃったため、初回の名出しをフルネーム&別の章で描写させて頂きました。
それではまたのご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
GMコメント
●できること
瓶詰め屋で瓶詰めを作る or 作ってもらう
●瓶詰めの作り方
1.瓶を選びます。
2.ベースの色をした液体を瓶に流し込みます。どの色でも透明感があり、反対側が透けます。ラメっぽいものも入れられます。
3.モチーフをピンセットで入れます。液体がドロッとしており、中で離しても倒れたりしません。逆に言えばゆらゆら動いたりはしません。底の方から入れていくのがベター。
4.コルクで栓をして、抜けないように接着剤的なもので固めます。完成。
※当シナリオでは基本的に2と3の工程を描写します。
●選択肢A(作る or 作ってもらう)
・自分で作る→自
・店主に作ってもらう→店
●選択肢B(ベースの色、ラメの有無)
1つの色を選択し、略さず書いてください。
また、ラメの有無をお書き下さい。(後述『●プレイングの書き方』参照)
●選択肢C(モチーフ)
2つまで瓶に入れるモチーフを決められます。ドライフラワーであったり、壊れた時計の分解パーツであったりします。
※手芸用品の範囲になると思います。用意できないものは他で代用する可能性がありますので、何卒ご了承下さい。
●プレイングの書き方
上記のABCを続けて1行目にお書き下さい。
同行者等は2行目以降にお願い致します。
例1:自赤無歯車時計
→【意味】自分で作ります。ベースは赤でラメ無し。モチーフに歯車と時計を入れます。
例2:店ピンク有花弁
→【意味】店主に作ってもらいます。ラメ有りでピンク色をベースに、花弁を封入します。
●ロケーション
瓶詰め屋『エアインネルング』工房です。
長テーブルとイス6つ、のセットが5つあります。多少イスを動かす程度は構いません。
少し離れた場所には不気味な大鍋が、そして壁の棚には出荷前の完成品が並んでいます。触らないで下さい。店主が阻止します。
●NPC
店主以外の登場はありません。
瓶詰め屋の店主はのんびりした口調の女性です。
●注意事項
本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
アドリブの可否に関して、プレイングにアドリブ不可と明記がなければアドリブが入るものと思ってください。
同行者、あるいはグループタグは忘れずにお願い致します。
●ご挨拶
愁と申します。既に文字数と戦う予感がします。
前述したプレイングの書き方を守って頂けましたら幸いです。
ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
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