PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

魔女のまじない

 ――ただ目的を共にしただけだろう。其処に何ら感慨を示してはならない。我らは然うして歩みを進めてきたからだ。
 死を悼むという事は、即ち、此れまでの歩みを鈍らせるという事だ。無駄な感傷は戦の場には必要あるまい。
 そうであるべきであった。永く、閉ざされた大樹の根元で世界のあらましを眺めて居る間は悲嘆に暮れる事も無かったのに。
 超然とした樹木であったならば其れ等全てを受け止めることも出来よう。しかし、今は人の身だ。ただの、人なのだ。
「……ああ」
「ファルカウさま」
 呼び掛けるエヴァンズに魔女ファルカウは眼を伏せった。どうやら、暴力に訴え掛け野蛮に程があった男が死んだらしい。
 精霊達の囁きは時間稼ぎも無駄であったと嘲笑うかのようだ。熱砂の海に膝を付いたベヒーモスを立て直すならば利用価値もあったと言うのに。
「仕方が無い子。まるで幼子のように癇癪ばかり。地団駄を踏んでいては、ワルツの作法もなって居ないと爪弾きにあいますわ。
 わたくしは、あの男をまるで理解などしていませんでしたけれど、死したと聞けば悼む気持ちも湧きましょう」
「……ファルカウさま」
「分かって居ますわ。わたくし達は、すべてが終るその時を目指して生きてきた。こういうこともありましょう。
 星(ステラ)は煌めき、紫苑の冠は未だ玉座に。咎の壺より溢れた毒は地へ滴れど、憤怒の炎は未だ鮮やかさを潰えません。
 ええ、神たる存在を羨む男も、わたくし達を率いる『聖夜の女王』とて、完璧などありはしない」
 ファルカウという女はそう知っている。人間という存在は必ずしも欠けがあるように作られているのだ。
 己も、死したというドゥマも、Bad End8の何れも、そして相対するイレギュラーズも。欠けを補うのが人であるというならば、手を取り合うさいわいにだけ溺れていれば良かったものを。
 ――この戦いが切欠で世界が手を取り合った。
 皮肉なものだ。そうあって欲しいと願って滅ぼさんとした世界が、抗うが為に手を取り合ったというのだから。
「……わたくしは魔女ファルカウ。この滅びの獣ベヒーモスと共に世界を無へと還す者。
 お分かりになって、可愛い子ども達。わたくしは聖夜の女王ほど狭量ではございませんわ。恋情に溺れることもなく、ただ、1人だけで生きてきた」
 ざわりとぬばたまの髪が揺らいだ。焔の色を宿す髪先に、神秘のまじないを讃えた眸は釣られるように紅に染まり上がる。
「きっと、何時かは分かるはずですわ、可愛い子達。
 わたくしは、ただ――ただ、この審判を信じているだけ。この子は、あなた方を滅ぼすが為にやってきた。
 世界は滅び、そして新たに産声を上げる。わたくしは、それを見守るだけですもの。……少し、お話をいたしましょう?」

 戦況は、と飛び交う声音を響かせてユリーカは駆け回っていた。
 幻想王国に存在するギルド・ローレットに流れ込んでくる情報は濁流のようだ。
 全剣王ドゥマが撃破されたという旨を聞き安堵し、ベヒーモスが捕縛魔法の只中で居る事に緊張が解れた。
「でも、よいとは言えない状況……ですよね」
 ユリーカは呟いた。報告は受けている。これまでの冒険で培われた『空繰パンドラ』は減少している。影の領域で何が起こっているのかをユリーカは掴めては居ない。
「全剣王を倒せたのは僥倖。けれど、まだ、『アークロード』も古代の魔女も残っているわ。それに――」
 魔の居城と呼ぶべきか。終焉(ラスト・ラスト)の奥底には未だ燻り続ける『滅び』が存在して居る。
 覇竜集落アスタより帰還したルチア・アフラニア・水月(p3p006865)は嘆息する。死の香りは己に張付いて剥がれない。
「かーさんとの約束――いーや、遺言をきちんと護れたことは良かったぜ。
 でもよ……ステラの事がある。悠長に事を構えてはいれねえな」
 呟く紅花 牡丹(p3p010983)にユリーカは重く頷いた。
「はい。覇竜領域が平和になって行く事は一安心ですが……このままではダメです」
「ええ。まだまだ、世界は救われたとは言えないの。いつ転がって仕舞うか分からないダイスはファンブルしてしまうかもしれないもの」
 ユーフォニー(p3p010323)胡桃・ツァンフオ(p3p008299)にこくりと頷いた。
 覇竜に存在した御伽噺ヨミジノシルベヒメを無事に解決したユーフォニーではあるが、覇竜領域を脅かすものはまだ多い。
 自らにとって同じ『焔』を宿した精霊を打倒した胡桃も、炎とは死の象徴だと告げる魔女に対して思う事があった。
「一先ずはお疲れさ――」
 そこまで言おうとしたユリーカの言葉を遮るように牡丹は指先をやった。
「言いたいこと、言って良いぜ」
「……はい。みなさん、まだまだです。世界を救うだなんて御伽噺みたいで、なんだか荒唐無稽です。
 ですが、皆さんなら屹度出来る筈なのです。だから、どうか――どうか――」
 レオンと一緒に帰ってきて欲しい、とは言わなかった。帰ってきたらあの男をビンタして「バカー!」と叫んでやろうとは思って居た。
 ユリーカにとってのレオンは今は家族だ。大切な家族。父も、母も、早くに別れた少女にとって唯一の家族であったその人は、どうやら家族なんて顧みない男なのだ。
「ボクに、みなさんにおかえりなさいを言わせて欲しいのです」
 続々と届く戦況報告を耳に為ながらユリーカはそう言った。
「ええ。待っていてね」
「必ず良い報告をお持ちしますから!」
 そう告げる彼女達にユリーカはもう一度『いってらっしゃい』をした。


 魔女ファルカウの戦況に変化がありました――!
 ※最終決戦の戦況報告が続々と届いています!


 ※最終決戦が進行中です!
 ※各国首脳が集結し、一時的に因縁と思惑を捨て、ローレットと共に決戦に臨む事で一致しました!
 ※Bad end 8首魁と見られるマリアベルとの戦いの報告が上がっています……!
 ※世界各国にて発生した戦いの、結果報告があがっています……!


 ※幻想各地にダンジョンが発見されたようです。


 これはそう、全て終わりから始まる物語――

 Re:version第二作『Lost Arcadia』、開幕!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)Bad End 8(終焉編)

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM