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シナリオ詳細

<漆黒のAspire>Les Misérables

完了

参加者 : 10 人

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オープニング

●伝説そのもの
「懐かしい風景だわ」
 集まった強い敵愾心を全身に浴びても微動だにしていない。
 他のそれとは異なり、敢えてこの状況を作り出した一人の女はどうあれ余裕めいていた。
「一体何時振りなのかしら。
 光景(おもいで)は色鮮やかで、その全部が焼き付いているのだけれど。
 凍える風に吹かれた私達の街は――時代はもう何処にもありはしない。
 ……ねぇ、御存知? この場所には街があったのよ。私はそこで『彼』と出会ったの」
「こんな時まで思い出語りって訳かい?
 笑えねぇ冗談だ。真冬の鉄帝(ここ)よりお寒いぜ」
 肌に突き刺さるような魔性の気配にルカ・ガンビーノ(p3p007268)はその獰猛さを隠せなかった。
 女性に優しいのは砂漠の王の薫陶か、それとも持って生まれた気質故か――
 たおやかな女を前にしては実に珍しいルカの反応が今日この瞬間の意味を物語っている。

 ――親愛なるローレットの皆様へ。
   Bad End 8より新しいダンスのお誘いをするわね。
   ええ、冠位より何より――きっとすごい事が起きるわよ!

『犯行声明』は終焉の加速と共に訪れた。
 世界各国に生じたバグ・ホールと魔種の大暴れ。
 終末に向けた猛攻を紙一重で凌ぎ続けるイレギュラーズと各国を新たな凶報が襲ったのは少し前の時間である。
 世界各地、世界各国に生じたワームホールは魔種達の本拠地――ラスト・ラストは『影の領域』に繋がる通路であった。
 ただでさえ強力な魔種陣営の兵力がシームレスに各地に出現すれば防御の崩壊は時間の問題である。
 イレギュラーズはBad End 8を名乗りワームホールをこじ開けた魔種達に乾坤一擲の対策を余儀なくされている。
「御機嫌麗しくも無けりゃ、呼んでもいねぇよ。
 そっちは皮肉に満足して――どうやら俺『達』に用があったみたいだけどな」
 吐き捨てるように言ったルカに死牡丹・梅泉(p3n000087)が含み笑う。
「そっちの旦那は兎も角だが」
「まぁ、な。ローレットの小娘めも面白い手を遣いよる。
 つくづく大魔種という連中には縁無きものと思うておったが、成る程。
『金庫を破って報酬を積みあげた上、強敵と戦わせる』と云う話なら乗らぬ理由も無かったのでなあ――」
 ギルドマスターであるレオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)の失踪から済し崩しに後を引き継ぐ事になったユリーカ・ユリカ(p3n000003)であったが、この緊急事態に助っ人を用意したのは彼女のファインプレーと言えたかも知れない。方法は何とも言えず彼女らしく、半ば自棄さえも感じる胡乱なものだったがこれは当のレオンも叱れまい。

 ――華蓮さんを参考にしたです!

 そう宣うた彼女に華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は誤魔化し笑いをせずにはいられなかったのだが――
「『私から特別な招待をするわ。
 是非出席して欲しいのは砂漠の王子様と、可愛い幻想種のお弟子さん、案外思い切りのいい天使のようなお嬢さん。
 シャイネン・ナハトの伝説で待っているからきっと来てね』でしたっけ」
 ドラマ・ゲツク(p3p000172)の可憐な美貌が硬く冷たく強張っている。
「『随分と舐められたものですね』」
「レオンさんの事で話があるなんて……私達にはそんなもんねぇのだわ!」
 幻想種らしからぬ苛立ちと怒気をドラマが滲ませるのは。
 そして、穏やかな華蓮が柳眉を吊り上げて声を張るのは――これまた実に例外的なシーンと言わない訳にはゆくまい。
「こっちは忙しいのです。今更『骨董品』の相手をしてる暇はないのですよ」
「聖夜は……ちょっと、大分、滅茶苦茶大事なイベントだけど……!
 こんなのが出て来るとかそういう話は聞いてないのだわ!
 いいからとっととレオンさんを返して、すっこんで帰るといいのだわ!!!」
 やや感情めいた抗議をするドラマや華蓮だが、それは当然の話である。
 レオン失踪の後から、彼女等には心休まる時間等無かったに違いない。
(……生きているって信じていましたけど)
 ドラマが小さな胸に抱く『一途(どすぐろさ)』はそれを疑わせるものではなかったけれど。
(絶対に取り戻すのだわ……!)
 冷たく暗いグラオ・クローネに打ちのめされても華蓮はそれを一秒たりとも諦めてはいなかったけれど。
 いざ目の前に『下手人』らしき女(ぽっとで)が現れれば言ってやりたい事は山のようにあるというものだ。大体だ。人の心配を他所に知らない女と何を宜しくしているのか。あの男というやつは!
「……何だか人聞きの悪い話だわ」
『黒聖女』を名乗ったマリアベルという女は軽く溜息めいてそう零した。
「蒼剣さんを連れてきたのはルクレツィアだし――私は直接関係ないのだけれど。
 ……まぁ、でも恋ってそんなものよね? とっても分かるわ。だって、私だって似たようなものなのだし」
 諦念交じりのマリアベルの背後には蠢き歪む亜空間が広がっている。
 シャイネン・ナハトの伝説、鉄帝国と幻想の国境、北部戦線の外れを選んだのはノスタルジーなのだろうが――『外れ』と言えどこの場所を捨て置けば両国に更なる危機が及ぶのは間違いない。
 ローレットの為すべきはワームホールの制圧・破壊とユリーカのオーダー、レオンを取り返す事である。
 後者の方は現状全く皆目もつかない状態だが、わざわざドラマや華蓮を呼びつけたのだ。マリアベルが何らかの情報を持っている事は間違いないと言えるだろう。
「まぁ、こうして来てくれた事だし。少し位はサービスしましょうか?」
「言葉通りの意味なら歓迎するけどな」
「良く出来たら――イノリの話も、妹(ざんげ)さんの事も聞かせてあげる。
 蒼剣さんの事もね。ワームホールだって失くしてあげてもいい」
 肩を竦めるルカにマリアベルは凄絶に嗤う。
 気付けば数多の呪言の刻まれた大鎌を背負い、言葉の最中にも圧倒的と称する他ないその気配を増大させている。
「――ええ、ええ。嘘偽り等何もなく!
『私に勝てたら、知りたい事、何だって教えてあげるわよ』!」

GMコメント

 YAMIDEITEIっす。
 本シナリオは過去最大級のNightmareです。
 総ゆる尽力を想定して下さい。

●依頼達成条件
・『黒聖女』マリアベル・スノウの撃破

●ロケーション
 鉄帝国と幻想の国境(のはずれ)。
 シャイネン・ナハトの伝説に語られる戦いが終結した地の跡地です。
 マリアベル曰く大昔はここに『彼と出会った街』があったとのこと。
 現状は見晴らしの良い荒野で、辺りには雪が降り積もっています。

●『黒聖女』マリアベル・スノウ
 シャイネン・ナハトの伝説に語られる混沌最強の聖女です。
 終わらない戦いを終わらせる為に、友人以上恋人未満だった原罪(イノリ)に頼み、反転。その力で夥しい犠牲を出した戦争を終結させました。聖女だった彼女は反転後の自分が危険な存在になる事を知っていたのでイノリに封印を頼みましたが、数年前イノリの封印をも破りこの混沌に復活しました。
 本シナリオについては『犯行声明』でBad End 8のリーダーを名乗り、ルカ君、ドラマちゃん、華蓮ちゃんを煽り散らかしています。マリアベルについての一般情報は全て本人が皆さんに伝えています。(そういう前提でプレイングをおかけ下さい)
 周囲に魔種の配下等の姿は見えませんが、背にはワームホールを背負っています。
 その上彼女の能力は未知数ですので『何をしてくるか分かりません』。
 くれぐれも油断はしないよう。
 メタ情報ではありますが、マリアベルは手負いとは言えあのルクレツィアを瞬殺しているのですから……

●死牡丹梅泉
 ユリーカが金庫をこじ開けて依頼をした模様。(華蓮ちゃんの真似をしたらしい……)
 極めて強力な友軍ですが、NPCである事に変わりはない。
 運命はPCのみが切り開けるものなのです。

●『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ
 四十路のお姫様。現状不明。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はEです。
 無いよりはマシな情報です。グッドラック。

 何かを願うなら極めて頑張って戦い、素晴らしく会話劇を成立させ、引き出せる情報や状況を執拗に追って下さい。
 以上、健闘を祈ります。

  • <漆黒のAspire>Les MisérablesLv:95以上完了
  • 愛よ。無情よ。
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別EX
  • 難易度NIGHTMARE
  • 冒険終了日時2024年03月06日 23時50分
  • 参加人数10/10人
  • 相談5日
  • 参加費250RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
一条 夢心地(p3p008344)
殿
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

サポートNPC一覧(2人)

ディルク・レイス・エッフェンベルグ(p3n000071)
赤犬
死牡丹・梅泉(p3n000087)
一菱流

リプレイ

●『聖女』I
「ついに、御伽話の聖女のお出ましか」
 自然に乾いた言葉を漏らした『蒼光双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)はその実力故に『見たくないものまで良く見える』。
「――ええ、ええ。嘘偽り等何もなく!
『私に勝てたら、知りたい事、何だって教えてあげるわよ』!」
 嫌という程に良く分かる。知ってしまう。
 目の前の相手が最悪という言葉で表現して尚生温い『本当の最悪』である事を。
「……ああ、でもそれにしちゃあ。なかなかどうして。
『恋』だの『愛』だのと、随分と人間臭い所もあるんだな?」
「それはそうでしょう。この世界に愛より大切なものなんてないじゃない?
 それが神の愛(アガペー)だって、人の愛(エロス)だって同じ事だわ。
 別に性愛じゃなくたっていいのよ、そんなもの。『聖女』の説法としてはこれって中々上等じゃない?」
「今回の招待に乗ることができたのは僥倖でしたよ。
 私は、ずっと貴女に会いたかったのだから。
 私は死血の魔女、マリエッタ。貴女という存在に……焦がれる者です」
「説教臭いのは年寄りの証拠だぜ?
 シャイネンナハトには随分出遅れちまってるんじゃねえか? 見た目に拠らないってのはこの事かい」
 病的に熱っぽく爛々とその瞳を輝かせた『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)と『老練老獪』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)の瀟洒で強烈な皮肉にマリアベルは鈴の音を鳴らすような笑い声を上げていた。
「言うわね、お嬢さんに……ンん、素敵なおじさま?
 女性に年齢の話をするものではないけれど――産まれ歳を言うなら貴方だって確かに私からすれば赤ちゃんのようなものね。
 でも、言っておくけれど! 私は正真正銘二十と少しなのよ。殆ど寝ていたんだから間違いなくそうなのよ!」
 態々訂正をした辺りを『乙女心』だとでも言う心算だろうか?
 マリアベルは気分を害した様子も無く、恐らくは短い出来事になるこのお喋りの時間を愉しんでいる。
 饒舌で、華やかで、毒々しい――初対面の自称・シャイネンナハトの聖女は出迎えたイレギュラーズに対してあくまで余裕めいていた。
 だが、まぁ――それは決してイレギュラーズのお気に召すものではないだろう。
「聖女(あなた)の偉業も献身も認めるけれど。
 それでも今は……恋する乙女の邪魔をする、馬に蹴られた方が良い女でしかないわね」
「全くだぜ。勝てたら何でも教えてやる? 笑わせるぜ。そんな負ける事なんて万に一つもありえねえってツラしてよ!」
 溜息交じりにそう言った『剣の麗姫』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)と『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)のやり取りは恐らく仲間全ての代弁になっただろう。
「『聖夜(シャイネン・ナハト)の聖女はとんでもねぇいい女だって信じてたんだけどな』」
『聖女』じみた女を愛しているが故にかルカの言葉には実感がある。
 彼に知る由も無いが、余談を言うならこのマリアベルは実の兄から妹に似ている、とのお墨付きである。
「……酷い裏切りだぜ。ルカ少年の期待と夢を返しやがれってンだ」
 半ば冗句で半ば本気か――嘆息したルカはその視線を小首を傾げるマリアベルから外す事は無い。
 会話はキャッチボールであるという表現は『ありがち』ではあるが――
 言いたい事だけを言ったマリアベルが何かを伝えたいと思っているとは思えない。無造作な立ち姿から肌が粟立ち、怖気立つような悪意の圧力を噴出させた特別過ぎる存在感は筆舌尽くし難い位に――そして言葉よりも雄弁に今の彼女の在り様を伝えている。
「折角だから伝えておくけど」
 だが、この敵に真向かうアンナの強かさもやはり特筆せずにはいられない重要項と言えるだろう。
「始める前に言っておくわね。もし隠し玉があるのなら遠慮せずにさっさと出すのをお勧めするわよ。
 だって、そんな自分が負ける道理がありません、なんて顔しておいて。いざ追い詰められてから出したりしたら、失笑必然なダサさでしょう?」
 そして敵がどうあれ今更退けない、退く気が無いのは別に彼や彼女だけではない。
「まずは挨拶させて貰おうかの。Happy End 8の首領、一条夢心地。
 そしてHappy End 8のメンバー、梅泉くんとディルクくんじゃ。
 突然のお誘いじゃったので今回は3人のみじゃが……いずれ残りの面々も紹介しようぞ」
「……おい、聞いてねぇぞ」
「わしも初耳じゃが?」
 ディルクと梅泉が口を揃えた胡乱なやり取りに「何それ」と笑うマリアベルに『雨は止まない』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が続ける。
「誰にも死んでほしくないんだ。
 何かを望むのであれば、それだけで――
 それが子供じみた願いでも、夢も見れない大人になんかなれなくていい!
 この手を伸ばして、私の全力で。誰も死なない未来を迎えにきただけなんだから!」
 目前で微笑うこの世界の終焉を形にしたかのような女にシキは必死で声を張った。
 元より猛々しいタイプではない。目前の戦いに恐れを感じないような人種でもない。
 だが、そんな少女がここに居る事そのものが――彼女の願いの所在を告げていた。

 ――ハッピーエンドなんて何処にもない――

 そんな嘲り笑う冷笑主義をシキはもう認めない。
 思い切り喧嘩を売ってやろうと思ってここに居るのだから。
「別に笑わないわよ。いいじゃない、そういうの嫌いじゃないわ」
 目を閉じたマリアベルは予想外にもシキの言葉を肯定するようにそう言った。
「やりたいだけ試してみればいいのよ。
『別に私は私に従えなんて思っていないし』。
 ……それにね。誰でもハッピーエンドを目指したいのは同じなのよ。
 昔の私だってそう思っていたし――まぁ、それはいいんだけど。
 私の場合はちょっと――うん、大好きな人が『ああ』ならそれも仕方ないじゃない?」
「その物分かりついでに退いて貰えれば話は早いのですが」
 肩を竦めた『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)はそれが絶対に有り得ない事を重々に承知していた。
 マリアベルはむしろ友好さえ感じさせる調子だったが、増大する気配は希望的観測を余りに綺麗に破壊している。
 彼女の背後のワーム・ホールはまだ動き出しの気配を見せてはいないが、混沌を――人類圏を守ろうとするのならこの破壊は必須であろう。
「あれもこれもとは実に忙しいオーダーの話なのです。
 わざわざ煽る為に呼び出すとは、なかなか暇な方もいたものだと思いますが……
 手掛かりであるなら面倒ですが付き合うしかないのでせうね。やはり、実に面倒ですが」

 ――面倒だが、友人甲斐の為でもある。

「事態が決着を見せるまではまぁ――引き続き気張って参らせて頂きますよ」
 冷笑的で時に(素を覗く事が出来ればの話だが)露悪的な事もあるヘイゼルだが当人比でこれは『好奇心のみならず』の仕事である。
 彼女が視線もやらずに僅かに確認した先はこの物語の主役にして――最も深い事情を抱える数年来の仲間の顔だった。
(私は怒っています)
 その、端正な顔の上には『薄っぺら』な感情の皮一枚が載っていた。
 ドス黒くぐちゃぐちゃに乱れた情緒を『自分らしさ』というペルソナだけで覆い隠している。
(怒っているんですよ、ねえ。分かっていますか?)
『分からないであろう男』と『それでも止まらない自分自身』の双方に怒っている。
 頭に来て仕方ない。
 最後の瞬間まで身勝手な彼も、その勝手を止める事も出来ない無力な自分も。
 だが、どれ程に心の中で罵ってやろうとも、どれだけ理性が「もう辞めろ」と囁いたとしても最早『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は是非も無い。
「やっと目の前に現れた鍵(ヒント)だと思ったら、随分とお喋りなのですね」
 言外に「頼んでも居ないのに」と滲むあたり、幻想種仕草は健在という事だろう。
 だが、それも必死で精神力をかき集め、冷静さを保とうと努力している結果に過ぎまい。
「レオンさんへのヒントが現れた! レオンさんへの道が現れた!
 これ程の敵を前にして、恐怖を感じている暇もない――恋とは本当に、盲目になるものなのだわね!」
 ドラマよりは随分とドストレートにそう言って指を差した『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)にマリアベルは大笑した。
 彼女には「どちらをどう弄っても愉快極まりない」という迷惑な厚意でもあるのかも知れない。
「……華蓮さん」
「はいなのだわ?」
「……」
「……………」
 ド直球を間近で観測するのは複雑さを禁じ得ない。
 ひょっとして案外自分もそんな顔をしていたのだろうかと思わずに居られないから。
 少しの間、『珍しい』絡みがあり――やがて視線を解いたドラマは頷いた。
「取り敢えずアレを何とかする結論は同じなのです」
「やってやるのだわ!」
 腕をぶす華蓮も思えば随分と強くなったものである。元々他人と競ったり争う事を徹底して嫌っていた彼女でも――塔に引きこもるお姫様(ラプンツェル)が相手ではそうも言っていられないのかも知れなかった。
「ま、お前さん達はそうでないとな」
 バクルドが少しだけ意地の悪い顔をする。
「別段俺は『世界の命運だ』と救う勇者様って柄でもねぇが――
 レオンがいなきゃどうにも締まりが無いしローレットには多少の恩はあるんだ。
 だからまぁ、あんたが自分に勝てたならって言うなら」

 ――勝たせて貰うぜ、遠慮無く!

●『聖女』 II
「――ああ、一応言っておくけど。
 使い魔の類で先を探るなんて『面白くない』事認めないわよ。
 皆ワーム・ホールの先には興味津々かも知れないけど、それは自分の目で確かめなさいな。
 その先に何があるのかも、彼氏がいるのかどうかもね。飛び込むなら止めやしないわよ。
 生きて帰った人間がいるとは聞いた事はないけれど――」
 先刻承知とばかりに放たれた使い魔を握り潰し、マリアベルは当然のように笑っている。
 かくてイレギュラーズは『やや長め』のお喋りの先に彼女との対決を開始する事になっていた。
 パーティの狙いは主に二点である。
(まず、ワーム・ホールは絶対に捨て置けねえ)
 ルーキスの考える通り、混沌中に現れたこの次元の通路は魔種陣営の本丸である影の領域と各地を繋ぐハブとなっている。
 これまでの戦いでイレギュラーズ側が空中神殿を経由する事で異常な機動力を発揮して展開を優位に進めた事を考えても、魔種陣営の物量が不明な事を考えても――そして、Bad End 8の攻勢を考えれば物量は尋常でない事は確実だろう――破壊は必須だ。マリアベルの背後のワーム・ホールはまだ稼働らしき挙動を見せてはいないが、この先人類圏を守り抜こうと考えるならばここは正念場の一つである。目の前に立ちはだかる『神話の怪物(シャイネン・ナハト)』を押しのけてでもイレギュラーズはこれをやり切らない訳にはいかないのだ!
(それに、或る意味ではそれ以上に……じゃ)
 ドラマや華蓮は言うに及ばず、ギルドマスターの未帰還はローレットに纏わる人間の中では決して小さな事件とは言えない。
 取り分け、親同然で長らくを接してきたユリーカ等は……
(……痛恨じゃ)
 決してそれを口にするようなタイプでは無いが、夢心地は心底よりの悔恨を禁じ得ない。
 現場に在りながら力及ばなかった事はとても責められるような話ではないだろう。
 冠位魔種(ルクレツィア)との対決は並の余人に叶う事ではなく、むしろやり遂げて生存した事は褒められて良い成果だったに違いない。
 だが、他人がどう言おうと彼は自身の中にある結論を変える事は出来なかった。
(――あんな顔をさせてしまうとは)
 何時も天真爛漫でいい加減な少女が見せた深刻な影は年長者としては捨て置けるものではなかった。
 そしてそれはこの現場に一同を送り出した彼女が助っ人(ばいせん)をつけた事からも理解出来よう。
 レオンの帰還は夢心地にとって最大の行動動機であると言わざるを得ない。
「自分に勝てば情報を出す」と宣うマリアベルが信用出来るかはまた別の問題だが、やるしかないのなら是非は無い。
「黒聖女。雰囲気だけは噂通りじゃが、兎にも角にも殺り合わずして真価は分からぬ。
 何とかの考え、休みに似たり、じゃな」
 夢心地はシン・東村山と長介。
 大脇差と優美にして勇壮、転禍為福の銘刀を居住まい正しく抜き放つ。
「聞いてたキャラと結構違うわねえ」
 余裕を見せるマリアベルは「いつでもどうぞ?」と言わんばかりで、パーティとしてはその言葉に大いに甘えるのが最良である。
「フィールドワークが優先される事も確かに時にはあるのです」
『同意』したヘイゼルが誰より先にその一歩を動き出した。
「『宜しくお願いいたします』」
 何をとは言わず振り返らずに言ったヘイゼルにドラマとアンナが頷いた。
 パーティの基本的な作戦は防御面に優れたこの三人がローテーションを組む事でマリアベルの正面を抑えるというものである。無論、正面を阻んだ程度でどうにかなる相手であるかどうかは知れないし、ローテーションレベルのインターバルを許してくれる相手であるかは分からないが、作戦としては合理的であろう。
「まずは私からお相手を願います」
 抜群の身のこなしが速力を帯び、動き出したヘイゼルに応えるように不可視の魔力糸がマリアベルの周囲に展開されていた。
『赤い糸』なる洒落た冗句はヘイゼルらしく、同時に彼女らしくはない矛盾を孕むが、それは初期(むかし)の自作の魔術を現在(いま)の力で再構築した文字通り彼女の究極点の一つと言えよう。
「嫌な気配を感じるわね。中々『御上手』みたい」
『視えない』事など、何でもない事のように言ったマリアベルは動作の一つも伴わず辺りの『糸』をズタズタに引き裂いていた。
「手品はそれだけ?」
「――これから、ですが」
 連なった言葉と共に千切れた糸が修復され、たわんだ空間を締め付けた。
 立て続けの追撃で『捉えた』マリアベルの注意がヘイゼルに向く。
(……今の内に)
 飄々としたヘイゼルに通常、悲壮感らしきものはない。
 今回の事とて、それは確かに悲壮感ではない。だが、願いではある。

 ――今の内に何とか攻撃を束ねて欲しい――

 ルーキス然り、このヘイゼル然り実力があるからこそ相手の実力を理解してしまう。
『彼女が遊んでいる間に有効打を取る事が出来なければ、先に待つのが全滅以外では有り得ない事を知っている』。
「まぁ――俺は攻撃の方が得意だからなあ。サムライの旦那もそうだろ?」
「まあな、赤毛の。雇われた程度は働かねばこの名の恥というものよ。それが300万なら尚更であろう」
「……言っとけ。この野郎」
「梅泉さんにディルクさん…お二人と肩を並べて戦えるのは光栄ですね。
 こんな死地でなければ、尚最高だったんですが!」
 ルーキスの言うのは『卵が先か鶏が先か』の問題か。
「さァて、行くぞ!」
 雇い主(かれん)のディルクオーダーも前衛での攻撃役である。
 梅泉については……『馬なり』で丁度良いといった所だろう。
 ヘイゼルが注意を逸らした隙を突き、超一流の攻め手二人が猛然とマリアベルに肉薄した。
 これをそのまま受けるのは嫌らしく、マリアベルの周囲を旋回する大鎌が極技の剣士二人を迎撃した。
「悪趣味な冗談じゃねえか」
 苦笑いでルカが零したのも無理は無かろう。
 マリアベルはディルクと梅泉の二人を相手取る剣戟を、ヘイゼルの相手をしたまま展開している。
「冠位でもあるまいし、いや冠位でもこんな事しねぇだろ」
 これが彼女の『お遊び』だとするなら、その力は確かに冠位のそれを凌駕さえしていよう。
「あら? 冠位レベルと思って私と戦う心算だったの?
 さっき、アンナさんが私に言った通りだけど――貴方達こそ出し惜しみしないでやった方がいいわよ。
 あの、ルクレツィアだけどね。私が殺しておいたから」
「――――」
 真偽は知らないが、あっさりと吐かれた情報に戦慄が走った。
 何故魔種が魔種同士で争ったのかは不明だが、マリアベルの言が本当だとするならば――そして彼女はこの嘘を吐く意味がないだろう――成る程ルクレツィアから感じた『変な焦り』の正体も見えてくる。
 それはさて置き。
「私は本当に貴女に出会て良かったと思ってるんです!
 さあ、今はこのダンスを愉しみましょう! マリアベル!」
 個人的興味と愉悦を隠せないマリエッタが何時になく声高に言って魔術を繰る。
 強化(バフ)を帯びた彼女は魔術砲台であり、重要な支援の要でもある。
「シャイネン・ナハトの伝説。御伽噺の伝説そのものと対話出来るとは、光栄の至りです。
 平和を願った貴女の愛したイノリとやらは余程魅力的なのでしょうか?
 その悪魔は我々にとって最大の敵ではあるのですが……ハッキリ言って『興味』は湧きますよ」
 強烈に皮肉ったドラマは実に彼女らしく続けるだけだ。
「アレを倒してくれたコトにはお礼を言うべきでしょうか?
 それとも直接ブン殴るチャンスを横取りした事を怒るべきでしょうか。
 ですが、何の意味もない話です」
 ピシャリとやり返したドラマにとってルクレツィアを倒したという話等、なんの示威にもなるまい。
 采配を持ちて怒涛と攻め、森羅活彩のままに死印を刻む。
 その幻蒼の剣を持ちて。ドラマ・ゲツクの結論は何一つブレはしない。
(絶対に――『逃がさない』)
 強く唱えたその言葉を向いた先は果たしてマリアベルだっただろうか。それとも――
 ヘイゼルとは別角からフロントに飛び込んだのはこのドラマと、
「ドラマさんや華蓮さん、ルカさんで遊びたいみたいだったけどね。
 こっちにも振り向いてもらうわよ、聖女様!」
 先程、『やり返された』アンナである。
『師匠仕込みの』細かいステップでフェイントをかけたドラマが左から飛び込み死印の魔術を叩き込む。
 ほぼ同時に言葉でコンタクトするまでもなく見事に逆側を取ったアンナが舞うように鋭い閃光(ざんげき)を打ち放っている。
 攻勢は彼女の目の前で何かの障壁に阻まれ、光を散らすものの連携攻撃にマリアベルの態勢が幾分か乱されている。
(当たらない可能性はゼロ。となれば当たったが阻まれた!)
 先程のヘイゼルの糸が通った以上は少なくとも『確実』ではない。
 相手の認識を利用して小細工をするのはクソ鴉の専売特許だが、マリアベルは恐らく障壁を張るのに『意識』が居る。
 戦い慣れたドラマは常識の埒外にある連中が時折見せるこの手の芸を嫌という程知っていた。
「ドラマさん!」
 深淵を見知るマリエッタも同じ結論に到達したか、声を張る。
 弾かれたのはマリエッタの魔術も同じであり、それを彼女は空間か何かへの干渉であると位置付けていた。
 そう。埒外は埒外だが、彼女等は同時にその弱味も理解している。
「――この世界の法則! 絶対と永遠は有り得ない!」
 魔術師が鼻で笑いそうな結論だが、多くの魔術は結局は『物理に弱い』。
 一度で通じぬのなら、この世界の神がそう望み給うた通りに飽和攻撃をしてやるまでである!
「こちらも中々やるわね。ところで貴女、『蒼剣の弟子』は辞めたのかしら?」
 ドラマに笑うマリアベルの言葉は彼女が仕掛けに魔術を選んだ事を揶揄しているのだろう。
「戻って欲しいなら本人がそう言えばいいのです」
 堪えないドラマは連撃で思い切りマリアベルにやり返した。
「『本人がそう言ったら聞いてあげないでもありません』」
「あら。じゃあ『彼がそう言ってくれると良いわね』」
 含んで言ったマリアベルの一言にドラマの歯がギリ、と軋んだ。
 と、同時に。
「――他人の男に、匂わせしてんじゃねぇのだわ!!!」
 胸をすくような華蓮の一喝が赤の女王の嫉妬(レッド・クイーン・クエスターII)と共にマリアベルを撃ち抜いた。
 やはり文字通りの『不意打ち』には障壁は働かないと見るべきか。
 ドラマを弄りにかかった彼女はもう一人の『主役(ヒロイン)』の手痛い平手打ちを受けたという訳である。
「貴方はきっと哀れまれる事を嫌うのでしょうね」
 大人しい調子は今は何処か。すっかりたくましくなった華蓮がマリアベルを真っ直ぐに見据えている。
「でも、私達はそんな要望を聞いてやる筋合いは無いのだわ。
 あれほど高潔な望みが、これほどまでに汚染される……哀れね。
 好きな人と共に居る為に反転に頼るしかなかった……哀れね。
 理由をつけないと自分の恋すら肯定出来ないなんて――聖女なんて哀れで仕方ないのだわ!」
「……知ったような事を言ってくれるわね?」
「知らねえのだわ!」
 面白がりのマリアベルがこの言葉には幾分か苛立った顔を見せていた。
 状況は混沌としている。彼女の怒りを買う事は過大なリスクに他ならない。
 だが、彼女の琴線に触れずして成し遂げられる何かがあるとも思えないのが現実だった。
 勝つや負けるやだけではない。勝つ事は文字通りの悪夢(ナイトメア)だ。
 敗れて何を残せるか、その先に何を掴めるか。
 この戦いが『記録』される以上はイレギュラーズの意地そのものと言っても過言では無かろう。
「ヒュウ」とバクルドが口笛を吹いた。
「いいねぇ、若いってのはよ!」
「ああ、良く言った。まあ、アイツには勿体ねえけど――ルカ!」
「はい、兄貴!」
「『俺のクライアントでとびきりいい女』だ。傷付けさせんじゃねーぞ?」
 マリアベルの意識の半分を無理矢理引き剥がすディルクと梅泉の両名は彼女からしても一定の脅威なのだろう。
「何であれ、ここで世界を終わらせる訳にはいかないからな――推して参る!」
 そこに纏わる無数のドラマが無かったとしても、目の前の敵は不倶戴天の魔種なのだ。
 ルーキスとしてもその背に背負うものを考えれば、ここを退く訳にはいかなかった。
「というか。好きな相手の気を引く為に反転後の自分の面倒を見させるとか、男の立場からすると大分『重い』でしょ」
「……」
「恋人同士ならまだしも、そうじゃなかったとしたら余計に……相手も、かなり呆れてるんじゃ?
 その上、復活した途端に他の男にちょっかいかけるとか、流石の原罪もドン引きじゃない?
 そういう事ばっかして嫌われても知らないよ?」
「……………」
 鬼百合、そして裏竜胆。
 強かに練り上げられた武技、凶技の冴えは彼の気合を映すかのように見事なものだった。
 だが、真にマリアベルをピリつかせたのは或いは立て続けに口をついて出たルーキスの口撃の方だったかも知れない。
「結局はっ、何より――テメェの恋愛事情に世界巻き込んでんじゃねーよ、ばーーか!」
 或いはレオンにも刺さるかも知れないその一言と強烈な一撃にマリアベルの柳眉が歪んだ。
 多くの冠位はこの可能性の獣達を見誤り、マリアベルは見定めようとこの場にある。
 だが、見切って見切れる程簡単な連中であるのなら、この物語は何年も前に幕を閉じていたに違いない!
「命令されなくたって分かってらぁ」
「……でも、ちったあ嬉しいだろ」
「勘がいいおっさんには弱るぜ」
 ニヤつくバクルドにルカが笑う。
「『お先』」
 ルカを揶揄したバクルドが両手に備えた剣と銃でマリアベルの空隙を狙い撃った。
「乙女心に多少のヒビでも入ったかい。さっきまでに比べて随分防御が甘くなってるように見えるなあ?」
「サービス期間をそろそろ終わりにしようかとは思い始めてるわ」
「おお、怖。まァ、若い連中の言う事だ。図星でもなけりゃ真に受けるのも程々になあ――?」
 老練老獪なバクルドも実に生き生きと苛立つ女に油を注いでいる。
 元よりディルクに言われるまでもないのだ。
 ルーキスやバクルドに負けじとルカもマリアベルに肉薄する。
「そっちも用があるのかも知れねぇけどよ――」
 目を見開き、犬歯を剥いたルカが『黒犬』を片手で振り上げる。
 本来両手用に作られたディルクの魔剣――そのレプリカをぶん回す獰猛過ぎる戦いは今日この場においても変わらない。
「――こっちにだって言いたい事も聞きたい事も山とあるんだよ!」
 ドラマと華蓮が『呼ばれた』のはマリアベルがルクレツィアと共に消えたレオンと何らかの接触を持ったからであろうと推測出来る。そしてその推測は先程マリアベル自身が「ルクレツィアを殺した」と発言した事からも可能性として濃厚であるとも言える。
 しかしてルカが呼ばれた理由はそれとはまた別なのである。
 逸脱した怒りが轟音を立ててマリアベルの障壁を揺らしに揺らした。
 彼女が僅かながら後退したように見えたのは恐らく気のせいでは無かっただろう。
「子供じみた執念だって、案外馬鹿には出来ないだろ?」
 その証拠にシキの放った識の殺・業式――悪食の鴉の嘴を鬱陶しそうに払い除けている。
『子供じみている』と言いながら『随分と大人になったシキ』は何を守れて、何を守れないかを知っている。
(リアとココロの大切な友達を、私の仲間を! みすみす死なせるなんて私が私に許さない……!)
 それはドラマであり、華蓮であり、別の誰かの心である。
 この戦いに敗れた先に待つ『予測可能な悲劇』をシキが聞き分ける事だけはきっと永遠に無いだろう!
「イノリの目的はざんげの解放だろう?」
「そうね」
「ざんげはずっと『神託』に囚われていた――」
「……ええ。それからイノリもね。妹さんに囚われていたわ、彼はずっと」
 勝てば情報をやると言ったマリアベルは訥々とそう言った。
 或いはそれは誰かに吐き出したい話だったからも知れない。
「自分が投げだした役割と、それを代替させられる妹の事にね。
 罪悪感なんて言葉だけじゃあ語れない。原罪はそもそもが人間の持ち物よ。
 彼は魔種の長かも知れないけれど、或る意味で誰よりも人間らしい――」
 マリアベルから噴き出した黒色のオーラがルカの体を十数メートルも吹き飛ばした。
 守りに強い意識を向けていたヘイゼル等は兎も角、攻めかかってこれに耐えたのはディルクと梅泉位のものである。
「――だから、愛した。そんな風に言ったら信じるかしら?
 私以外の誰が彼を理解してあげられる筈も無かったの。
 自ら産み出した七罪も、魔種達も同じ。彼等は人間ではないから。
『人間上がり』で妹さんの事を理解出来る女が必要だったんだわ」
 地面に叩きつけられても堪えない。「そうかよ」と唸ったルカの口元からは血が零れ落ちていたが彼はそんな事には頓着しない。
「それで、テメェはどうなんだよ。
 折角もう一度恋人と過ごせる時間があるってのに、ざんげの為に世界を終わらせて構わねえのかよ。
 それとも歪んだ自分のまま側にいるのは耐えられねえか?
 ……お前もイノリも馬鹿野郎だ。中途半端の馬鹿野郎だぜ。強欲に見えて、半端だ。なんで欲しい物を全部得ようとしねえんだ!」
「貴女が集める敵意も、世界を滅ぼす意志も……相当なものなのはわかっている。
 けれど、それでも私は貴女を知りたい…否定する敵で終わらせたくないとも思う。
 こんな事を思うのも、『言ってしまう』のも。マリアベル。貴女のようになりたい、なんて考えがあるからなんでしょうね」
「――――」
 叫ぶように言ったルカと奇妙なシンパシーを隠さないマリエッタにマリアベルは珍しい苦笑を浮かべた。
「子供の理屈ね。でも……案外、嫌いじゃないわよ。貴方達みたいな変な人達。
 でもそうね。強いて言うなら、彼が『原罪だから』かしら」
「……?」
「この世界には絶対も永遠も無いのよ。さっきドラマちゃんが言った通りね。
 あれば良かったのに、無いのよ。たかだか二十年少ししか生きていない私は彼との先を夢見られても。
 永遠にも等しい時間を過ごした原罪はそうはいかないの。
 ……いい? どんなに長くを生きる種族でも、存在でも永遠から逃れられる者なんていないのよ」
「成る程」
 マリエッタは不思議とその言葉に心底から合点してしまった。
 鴉との交わりで得た本質的理解はマリアベルの言葉を驚く程素直に彼女に浸透させていた。
 精神摩耗。
 それは長命種にさえ存在する事実上の寿命のようなものだ。
 人間は精神が壊れる前に肉体が壊れる。
 では幻想種は? 或いは竜種は? 魔種は?
 成る程、長大な時を生きたあの『蒼穹』は確かに生き飽いていたようにも見えた。
 大魔術使いのパウルの魂は腐って爛れ切っている。
「……………」
 ドラマは自分にちらりと視線をやったマリアベルが不愉快だった。
 不愉快だったが――何も言わない。永遠の呪いなんて上等だ。ずっと昔に覚悟している。
 しかし、この想いさえ擦り切れると言うのなら――恐らく『経験者』の原罪とやらは余りに業が深くて羨ましくはならない。
「ねぇ、マリアベル。街が雪の下に眠るように、全て巡り廻っていく。
 きっと人が生きていくのと同じくらい自然なことで。それもきっと悪くはないんだよ」
「……」
「もし、知りたいこと教えてくれるっていうなら、もっと君の事も知りたいな!
 私はお伽噺に語られる君のことしか知らないから……だから教えてよ、『聖女様』。
 ううん、マリアベル・スノウ。君の想いを、意志を、恋を。
 魔種とは友達になれないなんて、まさか君が言わないでしょう?」
「可愛い顔をして、意外と差し合いに強いじゃないの。
 本当に今の一言だけでも、ルクレツィアの何倍も手強いわ」
 シキの言葉には流石に何を言い返す事も出来ず、マリアベルは苦笑を深めた。
「……アンタ、どうしてイノリと別れてまで世界中の争いを止めようとしたんだ」
「……さあ」
 その先には何も無かったのに。
 一人の少女が恋した相手は永遠の行き止まりに違いなかったのに。
 否。『行き止まりだと知ってそれを為したのならば、ルーキスの言葉が刺さったのも当然』か。
「今のアンタの事は嫌いだが、これだけは言っておかねえとって思ってる。
『シャイネンナハトの奇跡を起こしてくれて、ありがとう』」
「どうしたまして?」と惚けたマリアベルは余り楽しそうな顔をしていない――

●聖女?
「もし、私が投げ出してしまいたいと云ったら」
「言うのかい?」
「茶化さないで聞いてよ。投げ出してしまいたいと云ったら、悪魔は何て言うかしら?」
「仮定の話をするのに意味はないと思うけれど」
「……」
「仮定の話としないなら、聖女(きみ)はそんな事言えないだろうから理解はするよ」
「……ありがとう、って素直に言いたくならないわ」
「こういう性分なんだよ。分かっているだろう?」
「男の人って何時もそうね」
「……何処かの貴族だの王様だの宗教関係者だの。君の周りの『男の人』ってのは大概過ぎるな」
「貴方も含まれているのよ」
「……それで? 僕が何て言うかだっけ」
「『悪魔』ね。自意識過剰なのは感心しないわ。
 ……それに、何の意味もない質問よ。直感的に答えて頂戴な」
「そうだな。止めはしないな」
「……」
「梃子でも動かない、物凄い努力家で頑固な君が辞めたいのだ。
 それを繋ぎとめようなんて恐れ多い話、この世界じゃあクソ爺(かみさま)位しか望まないさ」
「……そう」
「少なくとも悪魔は理解のある存在なんだよ。
 指で数える程しかいない『友人』の門出を祝福してあげられる程度にはね。
 ……ところで、――。どうしてそんな事を尋ねるんだい?」
「戦争がきっと終わらないからよ」
「ああ、そうだ。始めた理由も続ける理由も知れない戦争だからね。
 ……人間らしいと言えば人間らしいけど、それが故に度し難い。それがどうかしたかな?」
「『戦争を止めろ』とオーダーされたのよ」
「……君が? 幾ら人心集める聖女だってそんな事は不可能さ」
「そうね」
「……………まさか、本気で?」
「政治的に私を支えてくれた方が亡くなったの。
 それで、今は主流派が変わって――出来なかったら『保証はしない』そうよ。
 これまでは何とか食い止めてきたけど、それでこの街の人達も戦いに駆り出される」
「……」
「ねぇ、イノリ。投げ出したくなったって云ったら貴方は私を軽蔑する?
 妹さんはもっと、もっと大変なのに――私が『人間の為の聖女』すら全う出来ないって云ったら」
「まさか。君も人間だったのだと安心したぜ」
「……慰めてる心算なのかしら」
「半分位はね。それで、どうする? ――。
 人間に掬いきれない運命だってあるさ。君が気に病む必要はない」
「……」
「いっそ、逃げてしまえばいいじゃないか。
 僕が何処にだって送ってやるよ。何ならその後、ほっつき回るのに付き合ったっていい。
 いいかい? 『戦争なんてのは誰も居なくなれば止まるんだ』」
「……………」
「穏やかじゃない顔だな。美人が台無しだ。それからどうしてかな、僕はこの先の台詞を今物凄く聞きたくないよ」
「甘えてもいい? イノリ」
「そらきた」
「いい? イノリ。貴方の敗因はね。『僕がさらってやる』って言わなかった事だわ。
 私は聖女だから、それを望んだりは出来ないのよ。
 ……やっぱり、男の人はたまには強引じゃないといけないものよね?」

●『聖女』III
「マリアベルよ、そんな病んだような恰好でモテないからって他人を憎んでも始まらぬ。
 仕方あるまい、どうしてもと言うなら麿が付き合ってやっても良いぞ?」
 冗句めいた言葉と共に夢心地の両刀が軌跡を刻む。
 攻撃に出たマリアベルは障壁による防御を半ば、回避を半ばに戦い方を切り替えていた。
「紳士は口説くのと攻撃を同時にしないものだと思うわよ」
「一石二鳥かと思ったのじゃが」
「その石は兎か鳥でも獲るのに使って下さいな」
「『次から』の参考にはしておく故、許せ!」
 裂帛の気合と共に放たれた鋭い切っ先は彼女の一張羅(ドレス)を切り裂いた。

 ――大丈夫かい?

 再生(リピート・サウンド)が何処かで聞いたような『イノリ』の声を被せれば。
「あら、はしたない」と誰に向けてか嘯いた言葉と共に宙空に生えた茨は怒りを帯び、倍返しでは済まぬ程にパーティを滅茶苦茶に傷付けていた。
「成る程、『こういう面子』でなければ戦いにもならないのは本当だったようです……!」
 マリエッタが直感的に理解した『空間魔術』は或る意味で正解で、或る意味で完全な間違いだった。
 攻撃を開始したマリアベルの攻勢は文字通り圧倒的だった。ヘイゼル、ドラマ、アンナ共十分に戦い慣れた前衛だったが元より冠位『以上』の想定される相手を寡兵で止めるには無理がある。
(……せめてもの救いはワーム・ホールを機能させていない事……!)
 シキは常に気を張り、エネミーサーチで周辺の敵の感知を続けていた。
 そんな彼女だから分かった事は、どうやらマリアベルはあくまで余計な手を使う心算は無い様子という事実だった。
(……そもそも、マリアベルは『何故』招待をした……?)
 最短距離でこの混沌で滅ぼすのなら、イレギュラーズを呼ぶ必要はなかった筈である。
 無力なイレギュラーズを嘲笑う目的と言えばそれまでだが、それにしては彼女は随分と感傷的に見えなくもない。
「……気を付けて!」
 一瞬の沈思黙考を鋭い警告の声に変えたシキが見たのは吹き飛ばされ、何とか着地したものの消耗の隠せないヘイゼルである。
「大丈夫!?」
「ええ、お陰様で……後、ハッキリ言えば多少は『慣れ』てきましたので」
 クールなヘイゼルは頬を叩いた編み髪を鬱陶しそうに指で払い、
「御喋りばかりに夢中で正直……
 この間の冠位色欲さんの方が強かったのではないでせうか?」
 そんな風に惚けてみせる。

 ――私はか弱い乙女ですので。
   戦いでは踊りの相手ぐらいしか出来ませんが……
   相手がゴブリンでも、竜でも、冠位であっても踊り切って来たのです
   御喋りの片手間で抜けるとは思わないで下さいね?

 言葉は果たして有言実行の様子を見せていた。
 マリアベルが何処まで本気かは分からず、その攻撃性能は勝手に戦う怪物共のお陰で随分と抑えられている状態だ。
 されど、見えてきたものもなくはない。
(まず、不可視の攻撃については『空気の振動』の痕跡があったのは幸いでした。
 音なのか空気なのか空間なのか……はてさて。
 初見殺しもいい所ですが、見えなくとも音で探れば、完全に避けられないという程でもないようです。
 マリアベルの位置とワーム・ホールの位置関係は連動しない確認も出来ましたし……
 となると、壊すにせよ、無茶をしそうな誰かさん達の援護をするにせよ……マリアベルを引き剥がせば有効でせうね。
 まぁ、それが問題と言えば問題ですが――問題が切り分けられている以上、何処かに目の一つ位はあるでせう)
 ヘイゼルのように聡明でクールなタイプにしては楽観的な考え方だが、『可能性あらば喰らい尽くすのが獣である』。
 消耗は隠せず、既に酷く傷ついてもいるがこの位の事を内心では考えている女らしいと言えるだろう。
 ローレットの中でも奇妙な位に『こういう鉄火場』への縁が深い彼女はそれで平常運転そのものであった。
「情熱的なダンスに招待してくれたのだもの。貴女もそれなりに踊ってくれないと嘘というものだわ!」
 一方で相変わらずに超強気なアンナがヘイゼルに代わってマリアベルに仕掛けを見せた。
(……とは言ったものの、どうする? 正直文字通り人間辞めてる相手だわ)
 氷華舞踏と終華舞閃、天衣無縫のスタイルから柔軟にマリアベルをいなすアンナだったが余裕は既に根こそぎまでに削り取られている。
 一目見ただけで理解は出来、僅か数合打ち合えばそれは確信に変わる程。
 アンナ自身、自身の耐久力はローレットのイレギュラーズでも抜けているという自信はあるがどれ位に持たせられるかは不透明で、それを顔にも態度にも出さない事には相応の努力を余儀なくされていた。
 その上でモノを言うのなら、『恐らくはマリアベルの必殺を担保する大鎌の方を怪物二人が抑えつけているからこそ戦いになっている』とも言える。
 マリエッタ、華蓮等が傷付いた前衛のフォローに尽力を果たしていたが、黒聖女はどの条件が欠けても即座に一同を飲み込もう。
 即ちそればバランスが崩れたならば一瞬で終わりかねないという、前衛(タンク)が抱えるプレッシャーそのものである。
 一方でマリエッタはそれでもマリエッタらしいまま。
「本当に良い時間ですね!
 ……本当は時間があればじっくりお茶でも交えながら貴女の事を聞きたい位だったんです。
 きっと、気が合いますよ私達。似た者同士の匂いがしますから」
 しかし、だからこそ――
(奇跡を願えばより可能性はあるかも知れない。
 けれど……私は願えない、願わない。
 奇跡が好きとか嫌いとかじゃない。
 人として貴女を超えるなら。何より、本気で貴女を打ち負かす為なら。
 再現性の無い奇跡に頼る訳にはいかないでしょう?)
 奇跡はこの戦いに必須だが、自分自身には不要であると――マリエッタは不敵に笑う。
「……ここからは作戦もクソもないですね。意志が続く限り粘って見せますとも!」
 更に言いたい事を言って、文字通りの死力を尽くすのはバクルドも同じであった。
「冠位其々が各々の権能で世界を滅ぼしに来た。
 カロンは眠りでルストは世界改竄で、バルナバスは物理的な力と太陽で。
 ルクレツィアだって、黄金劇場を使って魔種を増やしていくって腹積もりだったと聞くけどな。
 バグホールだのなんだのの在り物を上手く使えてもよ。
 どれだけ大言吐こうが結局のところお前さんらは自分の力で滅ぼすことも出来ねぇんだなぁ?」
「でも、失敗したじゃない」
 マリアベルは肩を竦めてそう言った。
「『私は冠位ではないから権能は無いけれど』。
 まぁ、権能とまでは言えないまでも普通に使える力はあるわよ。
 貴方達が権能と誤認する程度の誤魔化しでしたら幾らでも。
 それに――バグ・ホールは自然発生だけど、このワーム・ホールは私の作ったものなのよ。
 原資はイノリの軍勢かも知れないけれど、まさに今が混沌の危機じゃない」
「――はん!」
 マリアベルの言葉をバクルドは鼻で笑った。
「『それを言うなら俺達は今生きてる』だろ。
 せめてデカい口は俺を黙らせてからにするんだな!」
「そうするわ」と応じたマリアベルの黒いオーラが強くなった。
 バクルドが挑発めいているのは冷静なままの彼女が相手ではノーチャンスである事が既に分かっているからだ。
(少しでも注意を引けば……)
『何か』が起きる可能性はその分だけ強くなる。
 馬鹿馬鹿しい位の些細を積み上げ続けた結果が『今』ならば。
 この戦いも雨垂れで石を穿とうと思うのさえ、『当たり前』。
「――妹を解放する為に妹ごと世界を消すなんて馬鹿をさせてたまるかよ!
 その女、愛してる俺(ものずき)が言うんだから――誰が言うより説得力抜群だろうがよ!」
 或る意味で誰よりも必死に、感情的にマリアベルに突っかけるのはルカであった。
 感情を押し殺すドラマとは対照的に、華蓮と同じ位に分かり易い。
「それ、レオン君だって同じじゃない。彼は貴方とは随分違う『動機と結論』だったみたいだけど」
 地雷を見事に踏み抜いたマリアベルの言葉に瞬時にドラマの一閃が瞬いた。
 元はと言えば『蒼剣』レオンが気まぐれに教えた剣の技に、教わりたくなかった執着が加わっている。
「ほう、いい太刀筋だ。盆栽にでもしたい位じゃな」
 梅泉がピントのずれた調子で評論する。
 かつてのドラマでは放ちようもなかった一撃は毒々しくも鮮やかに彼女の七年の軌跡を愛しい青色に染めていた。
「……生意気ね」
「分かっているとは思いますが、私の関心事はルクレツィアと一緒に消えた問題児の方なのです」
 頬に一筋ついたごく浅い刀傷をなぞったマリアベルに「首を落とされずに済んで幸運と思え」と嘯いている。
「レオンの彼女ってどいつもこいつもこええなあ! 愛の戦士のルカ君よ!」
「答えませんからね!
 ……兎に角だ! 好きな女のアニキを殺して良しとなんてしてたまるか! その恋人のテメェだって同じ事だろ!
 だから約束しろよ。俺がテメェらに勝ったら、全部を得る為に俺の仲間になりやがれ!」
 きょとんとしたマリアベルがルカの啖呵に一瞬遅れて笑い出す。
「そうね、勝ったら考えてあげるわ。あくまで私に勝てたらね!」
「勝つさ。その為に来たんだ」
 ルーキスの滾る闘志は最高潮に達していた。
 如何な荒唐無稽とて、運命に届く一手は道理を踏み倒した無理の先にある事を知っていた。
 笑いたければ笑えばいい。だが、最後に勝つのは魔種ではないと信じている――

 ――果たして。

 奇跡は純粋過ぎる想いにばかり輝くものなのかも知れない。
(レオンさんの所へ行きたい、会いたい、助けたい……)
 世界が大変な事になっているのは分かっているのだ。
 守らなければならない人達が自分の背後に沢山居るのは百も千も承知なのだ。
 だが、『自他共に認めるいい子の華蓮』はこの時、人生で一番といっていい程に『悪い子』だったに違いない。
 頭の中の冷静な部分が自分の行動を止めている。
 理性は他にも大事な事が沢山あると訴えかけている。
 だが、それでも止まらなかった。止まらないからきっと――一生に一度の恋なのだった。
 運命の丁半博打はこんな五割を間違わない。
 世界がそのエゴイズムを肯定するかのように、運命は華蓮の望む先を指し示した。
「――ワーム・ホール!」
 その直感は全知であり、全能である。
 奇跡を代価に『分かってしまった』華蓮は何処に繋がるとも知れないその穴を指し示した。
 彼女が願ったのはレオン・ドナーツ・バルトロメイに再会する一事であり、その為の手段であった。
 限定的な神託めいた奇跡が華蓮に降りたのは彼女が『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀であったからに他なるまい!
「ドラマさん!」
「……っ……、はい!」
 ドラマの一瞬の躊躇いは恐怖でもそれ以外でもない。
 そこに『未来』があるのなら――迷う筈等はないのだから。
「パンドラの奇跡ね。私を倒す方向に使わないのがとっても貴女らしいわ」
 皮肉に目を細めたマリアベルは「その先にはイノリも居るのよ。私が自由に行かせると思う?」と華蓮の覚悟を軽侮する。
 だが、軽やかにバクルドは笑う。
「そういう事なら話は早ぇや。
 華蓮や、お前さんのアイデアに賛同はしねぇがやるなら行ってこい。ドラマ、お前さんもだ」
 そして彼らしからず、言い切った。
「――マリアベルは俺らで食い止める」
「うむ、ドキドキ☆Hadesめもりあるのエキスパートによって、更に高みに至った麿の神格位。
 シン・シャイニング・夢心地を見せてやろうぞ!」
「それいいわね」
 夢心地とアンナがそれに同調した。
「ダンス中に余所見なんてあんまりつれないじゃない?
 自分がそんなだから……好きな人のことだけ見れなかったから、一途な子達に嫉妬でもしているの?」
 これまでのお返しとばかりに強烈に皮肉って言ってやる。
「閉幕にはまだ早いでしょう。マリアベル!」
「精神論で私に――」
「――勝とうなんて思いませんよ」
 蒼く強く運命の炎を燃やしたのは華蓮だけでは無かった。
「これ程に冥利な戦いもないじゃありませんか。
 友軍には名にしおう大剣士、そして尊敬すべき傭兵王。
 乙女は美しい一念を貫き通し、仲間は敵わずと知っても大いなる勇気を謳い上げる。
 ここを食い止める以上の――貴女を退ける以上の見せ場が、結末を吟遊詩人は書けるでしょうか?」
 ルーキスの覚悟と想いが華蓮のそれにレイズした。
「これが『今』を生きる人間の力だ――!」
「――今度こそ、私目掛けて、ね。それでいいわ、面白いから!」
 黒い気配を倍にも膨れ上がらせたマリアベルの姿をルーキスの放った指向性のある奇跡の光が呑み込んだ。
 それは彼女に、彼女の人に訴えかける声である。力である。
「今の内に――絶対に『ローレット』を取り戻して下さいね!」
「……頑張って!!!」
 ルーキスの、そしてシキの言葉は全く素直に華蓮の心に更なる勇気を灯していた。
「はい! ありがとうなのだわ!」
 駆け出した華蓮が手を差し伸べる。
「上等ですよ。『負けません』からね」
 くすりと笑ったドラマはその手を取って――二人は動けないマリアベルを他所にワーム・ホールへと飛び込んだ。
「こ、の……ッ!?」
 躊躇なく。誰も戻らないその深淵の穴へと。
 魔種達の跋扈する影の領域そのものへと――
(――『視えない!?』)
 マリアベルは苛立ちの声を上げたが、消え失せた彼女達は道筋の奇跡に護られて彼女の感知にすらも掛からない。
 物語はまさに最終局面を迎えている。
 未来を見通せないのはマリアベルだけではない。
 無明混沌の運命は激流となり、大いなる物語の最終章を作るだろう。
 全てを決める最後の幕が間もなく上がろうとしている――

成否

失敗

MVP

ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃

状態異常

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)[重傷]
旅人自称者
ドラマ・ゲツク(p3p000172)[不明]
蒼剣の弟子
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)[重傷]
優しき咆哮
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)[重傷]
老練老獪
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)[重傷]
無限円舞
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)[不明]
ココロの大好きな人
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)[重傷]
運命砕き
一条 夢心地(p3p008344)[重傷]
殿
ルーキス・ファウン(p3p008870)[重傷]
蒼光双閃
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)[重傷]
死血の魔女

あとがき

 YAMIDEITEIっす。
 つ、疲れた。19000位あります……
 マリアベルがお喋りな分を差っ引いても描写量としては最大級でのお届けです。
 失敗ですが名声は成功ベースで加算しています。

 この後の顛末を言うとマリアベルはルーキスさんのPPPの直撃で機能制限を食らい、尚且つ華蓮ちゃんとドラマちゃんが影の領域に到った為、彼女等をどうにかする為に撤退という流れとなります。ワーム・ホールの破壊は行われていません(むしろ壊すと華蓮ちゃん達の退路を塞ぎかねないですし、痛み分けです)
 ちなみにドラマちゃんの称号は『弟子やってる場合じゃねえ』的なニュアンスで書いています。
 劇中で本人が言えって言ってますが、システム的にもエンド・オブ・トリガーに最適化しているので蒼剣の弟子をやめています。いとエモし。
 特にバクルドさんが顕著ですが、アドリブの量が過去最大級です。
 MVPのルーキスさんも大体アドリブです。
 台詞の大半はプレイングをほぼ全部使った上で私が作ったものなのでまあ、そんな感じです。

 華蓮ちゃんとドラマちゃんは不明ですがPPPはもうほぼエンディングまでノンストップです。
 TOPを含め今後特殊判定とか飛ぶ予定なのでお楽しみに。
 シナリオ、お疲れ様でした。

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