シナリオ詳細
<終焉のクロニクル>承認欲求と天秤
オープニング
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本来生身で通れば狂ってしまうと言われているワーム・ホール。いくらパンドラの加護があるとはいえ、本来ならまともに通れる道ではないと言う。
『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は、幻想の巨大な渓谷に残されたそれの前に立つ。
(なーんか、嫌な予感がするな……)
事実、ワーム・ホールの行き先は、影の領域(ラスト・ラスト)である。そして、そこに影の城もある。
影の領域は魔種たちの本拠地なので、強い敵の気配がするのは当然である。だが、今アルヴァが感じているそれは、そういった気配だけではない。
袖振り合うも多生の縁、というやつだろうか。細い糸の様な何かで導かれている様な感覚。
それが、どこかで噂されているような運命の赤い糸だったならどんなに良かったことか。今、アルヴァが感じるものは、そんな単純に喜べるようなものではなかった。
(こういう時の嫌な予感ってのは、大抵、当たることの方が多い。……より警戒しておくか)
アルヴァはパチンッと両頬を叩き気合いを入れると、仲間たちと共に思い切ってワーム・ホールへと身を投じた。
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魔界という物があるならば、きっとここのことを言うのだろう。
ワーム・ホールを抜け、イレギュラーズたちの目の前に広がるのはひたすら薄暗い大地。目を細めてよくよく見れば、遠くに影の城が見える……気がする。
既に先に幻想にあるワーム・ホールを抜けてこの場に到着した者たちや、他の地域からワーム・ホールを抜けてやって来た者たちがいるだろう。そう思っていたところで、同じことを考えていたのだろう。
「先に到着したイレギュラーズたちは、もうあの影の城へと向かっているはずです。私たちも早く向かいましょう」
「ああ、そうだな」
アルヴァは隣に立っていた仲間の言葉に頷く。
早くCase-Dの顕現を阻止しなくてはならない。そのためにも、影の城に居るであろうイノリたちを倒さなくては。
とはいえ、ここは影の領域。はやる気持ちを抑えつつ、一歩足を踏み出した。
――瞬間、ぐわん、と何かに引き寄せられそうな感覚が脳内を支配する。
しかし、アルヴァはどうにかその謎の感覚を振り払う。もしかしたら、他の仲間たちも同じような感覚に襲われているかもしれない。
「大丈夫か?」
念の為に声をかける。だが、返事はない。周りは頭を抱え、項垂れている。
明らかに異常だ。アルヴァは一番近くにいた仲間の肩を揺さぶる。だが、その手はあっさりと本人の手によって引き離された。
ああ、良かった。無事か。
アルヴァはそう言おうとしたが、それは言葉にならなかった。
「……っ!」
目の前を銀の一閃が通る。アルヴァは反射的に後ろへと飛び退き、難を逃れる。
「わ、私は……」
「なんだ? どうしたんだ?」
今まで隣で話していた仲間が、ぎこちない動作で手に持った刀を構える。その切先は、アルヴァに向けられている。
それだけではない。離れた場所から、他の仲間たちがアルヴァに向けて銃口を向けている。
(寄生型終焉獣か?)
そう思ったが、すぐにそれは違うと気づく。
手元が僅かにかたかたと震えている。必死に抵抗しているのだろう。
(だとすると、別の何かで操られている?)
操られているであろう仲間たちからの攻撃をかわしつつ、周りを観察する。すると、遠くから見覚えのある女性の姿が。
「あんたは……確か、豊穣の……」
「なんや、また迷い込んだん? 仕方のない子やねぇ」
ゆらり、と彼女の持つ尻尾が揺れる。アルヴァには、そんな彼女の姿に見覚えがあった。
いつぞやのこと、豊穣の歓楽街に迷い込んだアルヴァを外まで送り届けてくれた優しい女性、狐月・美福。そんな彼女が、何故か魔種の本拠地でもある影の領域にいる。それがどういう意味なのか、理解できないアルヴァではない。
「あんたもうっかり迷い込んだ一般人、ってわけじゃなさそうだ」
「それはうちの台詞やわぁ。まぁ、そっちが普通の人じゃないっていうんは、初めて会った時から知ってたけどねぇ。
悪いけど、今日はあの時みたいに帰されへんのよ」
「別に問題ないさ。俺たちは帰るつもりはない。その先に行きたいからな」
アルヴァは武器を手に取り構える。狙う先は妖艶な笑みを浮かべる美福。
「あぁ、怖いわぁ。皆、《《うちに力を貸して》》」
その言葉を聞いた瞬間、再び脳内が何かに引き寄せられそうになる。
アルヴァはどうにか耐えつつ引き金を引くが、それは美福には届かなかった。同時に、操られているであろう仲間たちが、美福の前に立ち被弾した。
「同士討ちなんて……可哀想に」
「全くそう思ってないだろ」
「せやねぇ。だって、そちらさんはうちに必要とされたから、それに応じてくれただけやから」
美福はくすくすと笑う。それとは逆に、少しだけ焦りの表情を見せるアルヴァ。
今、美福を庇っているのは、自分と同じ様様々な任務をこなしてきたイレギュラーズである。そんな仲間たちと一人で対峙するのはまずい。しかし希望が無いという訳ではない。
(後から他のイレギュラーズたちも来るはず。それまで、どうにか耐えきれば……)
最終戦目前、戦える仲間たちの数は減らしたくない。援軍が来れば、操られている仲間を助けることもできるかもしれない。
「そっちも、うちに力を貸してくれても良いんよ?」
「断る。何に使うか分からないが……少なくとも良いことじゃなさそうだ」
「そうやねぇ。それじゃあ、どこまで耐えられるか試してみよか」
- <終焉のクロニクル>承認欲求と天秤完了
- GM名萩野千鳥
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2024年04月03日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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狐月・美福に操られたイレギュラーズたちが、彼女の盾になるかのように前へ出る。
じりじりと『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)との距離を詰めると、女性が刀を振るった。避けるようにアルヴァは飛び上がると、それを予測したかのように銃弾が頬を掠める。
「っと、流石の連携だな」
「ここまで来れる人たちやからねぇ。一人じゃ耐えきれんのやない? うちに惚れて貰っても良いんよ?」
「一度助けて貰ったくらいで惚れる程、俺もチョロくはねえよ」
「……残念やわぁ」
美福の細い指がすっ、とアルヴァを指す。操られた仲間たちの視線が、改めて一斉にアルヴァへと集められる。
「アルヴァさん!」
だが、アルヴァの背後から『死澱』瀬能・詩織(p3p010861)の声が聞こえて来た。
「あいつらは……操られているみたいだな。この後を考えると倒しにくい……厄介なものだな」
その後から『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)たちの姿も見えてきた。
これで、ほぼ人数は対等。だが、美福には、例のイレギュラーズたちを操る力がある。
「厄介やと思うんやったら、そちらさん方も《うちに力を貸して》」
「ぐっ……っ!」
「アルヴァさん、無理をしないでください……!」
頭を抑えて空から降りてくるアルヴァの元に、詩織が駆け寄った。
「なるほどなぁ? 『力を貸して』か」
「誰かを助けてあげたい、誰かの役に立ちたいってのがトリガーかなぁ? 『力を貸して』って事だものね、これは面倒くさいなぁ」
『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)と『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)の二人は冷静に相手を見極めようとしている。
今回は誰も操られなかったらしい。自身の術が効かなかった美福は、それでも余裕のある笑みを浮かべたままだ。
「あらぁ、そちらさんも効かへんの。自分ら、承認欲求とかないん?」
「残念だけどね、不特定多数には求めてないんだよ。今の俺は自分の使命も、願いも……大切な人も見つけたんだ」
「ふぅん、不特定多数より自分らに天秤が傾くんやねぇ」
「ええ、そうですよ。私も、私のために誰かを救いたい……私は我儘の極みのような魔女ですからね。そう簡単には効きませんよ」
美福の言葉に、『昴星』アルム・カンフローレル(p3p007874)と『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が返した。
確かに、大半のイレギュラーズは誰かの力になりたいと願う者が多いだろう。だが、今この場にいる者たちは、長い時をかけて自らの使命を、願いを、大切な人たちを見つけている。或いは、自らの業を受け入れ、そのために行動している。
「アルムの言う通りだ。オレは|無償の愛《かーさん》を知っている。それだけで十分だ」
「そちらさんを操るのは骨が折れそうやわぁ……
でも、良いわ。皆が皆、そんな風に生きられるわけないんやから」
「そうかもしれない……だから、操られたそいつらはオレたちが助ける!」
操られている彼らに、『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)が武器を構える。彼女に続いて、皆は対立するように構える。
「あーあー、勢いづいちゃって……このままやり合えば、どっちかが倒れるしかないんよ?」
「はっ! それはどうかな」
ゴリョウはスッと息を吸い込むと、大声で言い放った。
「俺は死なねぇ! だから……『全力』でかかってこいッ!」
その声は、その場にいた誰の耳にも届く。先程までアルヴァに視線を向けていた者たちが、ゴリョウの声に惹かれて振り向いた。
操られているとはいえ、ここまで来ているイレギュラーズたちだ。ゴリョウの怒りを誘発させる挑発のような声を振り払うことはできなかったが、上手く連携してゴリョウに近づき攻撃を一点集中させる。
「流石にそれはきついんちゃうの?」
美福は操られているイレギュラーズたちを援護するかのように、風の刃をゴリョウに向けて飛ばす。ゴリョウはそれでも避けることなく、その身に受ける。
「っ、だが、まだまだよ! アルム!」
「勿論だよ、ゴリョウ君」
事前に身体能力を上げ、シールドも張っていたが、まとめて攻撃を受けるときつい。だが、すぐさま、アルムが回復して事なきを得る。
とはいえ、後から来た美福の攻撃が思いの外痛い。このままでは、回復し続けたとしても徐々にこちらが擦り減ってしまう。
「ゴリョウさんは強いですが、任せきりにはできません」
「そうだね。さっさと操られた人をどうにかしたいところだね」
マリエッタとЯ・E・Dはできるだけ多くを巻き込みながら、操られたイレギュラーズたちをどうにか無力化しようとする。しかし、あちら側にも回復役がいるらしい。負傷した傷が治っていく。
「このままでは埒が明かないですね」
「一人だけならまだしも、全員で美福の元へは行けそうにないな。どうにか敵陣を崩せたなら、或いは……」
「そんな簡単にはいかへんよ?」
操られたイレギュラーズたちの気はゴリョウが引いている。だが、盾のように美福の前方を陣取る彼らの後ろに回り込んで、主犯である美福の元へはそう簡単には行けそうにない。
詩織も昴も、もどかしそうにしている。そんなこちら側の様子とは裏腹に、余裕そうな美福。
しかし、そんな状況を断ち切るかのように、美福の目の前にアルヴァが降り立った。
「――それは、美福。テメエもだ」
ゴリョウへと視線が集中している間に、アルヴァは空から一気に美福との距離を詰めていたのだ。
アルヴァは残像が生じるほどのスピードで、圧倒的な手数で攻める。流石の美福も、ほぼ不意打ちのようなそれに被弾してしまう。
美福の白い肌に無数の傷が入る。だが、それでも、妖艶な笑みを絶やすことがない。
「嫌やわぁ……対立なんてせんと、大人しくこちら側につけば良いのに」
「テメエに利用されるくらいなら、舌嚙み切って死んだ方がマシだ」
「そんなこと言いはるなんて、寂しいわぁ……しくしく」
「そんな風に思ってなんかいねぇだろ」
「そうやねぇ」
美福は相変わらず、くすくす、と笑いながら話す。
「でも……どうしても《力を貸してくれんの?》」
「っ……! どうし、ても……っ!」
アルヴァの頭の中がぐわんと回る。
――本当は操られるつもりなど、微塵も無かった。しかし、自身の願いが書き変わるような感覚に侵される。
自分の願いは、本来、承認欲求という一単語で片付くようなものではない。
(俺は……確かに、誰かの力になりたい。誰かの――美、福の……っ)
「おい、アルヴァ!」
意識が暗転しそうになっているアルヴァの耳に、牡丹の声が届いた。
「『自分を、愛してね』 ――かーさんの遺言なんだろ。忘れるんじゃねぇよ、ばーか!
誰かじゃねえ。勿論、美福でもねえ。てめえがてめえを必要としろ!」
「俺が、俺を……」
「その通りですよ! 勿論、心の内の願望はそう簡単には変えられない……それで良いんです! 存在意義を、他人に求めなければそれで……!」
誰かの力になりたい、という想いは変わらない。その願いは必ずしも悪いものではないのだから。
だが、今、この場で必要なのは何か。――牡丹とマリエッタはそれを思い出させてくれた。
アルヴァは頭を振り、支配されそうになっていた思考を霧散させる。
「悪い、助かった!」
「仲間だからな! 当然だろ」
牡丹は冗談めいて「次は殴ってでも止めようかと思った」と笑う。それは他の仲間たちも同じだったようだ。
そんな皆の顔を見て、アルヴァは一つ心に決めた。アルヴァは一度退がると、一番近くにいた牡丹に耳打ちする
「牡丹、ちょっと良いか――」
「――ん、そうか。分かった」
美福の耳に入らないように小声で話すと、アルヴァは改めて、美福と対峙した。
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先に美福の元にいるアルヴァと牡丹のおかげか、ゴリョウへの追撃が減り、どうにかギリギリのところを保っている。
「美福さんの特殊能力……それのせいで、ゴリョウさんへのヘイトが上書きされてはいますが……」
詩織は、先程の様子を少しだけ離れて観察していた。
推測通り、美福の特殊能力でゴリョウへ向けられていた感情が上書きされているように見えた。しかし、ゴリョウも自分へのヘイトが切れたことに気付いたようで、すぐに自分の存在を気づかせることで攻撃を一手に引き受けている。
「ぶははははッ!! 心配するな、ヘイト管理は任せろ!」
「ええ。向こうも、頻繁には使えないようですし……お願いしますね」
「おう! だが、早めに頼むぞ。アルムの回復が間に合わなくなるかもしれんからな!」
「そうならないよう、善処するけどね」
「その時は私も手伝いますよ」
「助かるよ、マリエッタ君」
今は美福の攻撃が来ないといえ、いつ攻撃が来るかは分からない。相手は魔種なのだ。
「とにかく、まずはある程度無力化だな」
「そうだね。だとするなら仕方がないね、自分勝手に動こうか」
Я・E・Dは昴にそう言うと、自身の都合の良さそうな場所へと移動する。
「痛くても我慢してね、自業自得だよ」
操られたイレギュラーズたちの中で、一番距離のある回復役が射程内に入るように術式を発動する。相手は慌てて回復しようとするが、昴がそれを許さない。
距離を詰め、回復を阻止するかのように純粋な力で殴る。ただただ殴っただけなのは、この先の戦力を減らす訳にはいかないからだ。とはいえ、それだけでは無力化するには至らない。
「あとは任せてください!」
もう少し、といった相手に対し、詩織は慈悲の一撃を喰らわせる。すると、回復を担っていた者は糸が切れたかのようにその場に倒れた。
「回復役が倒れた。なら、あとは押し切ってしまえば良いね」
「今なら余裕もあるし……一気に決めてきて!」
アルムはЯ・E・Dに向けて、光輪を授けるかのように傷を癒す。Я・E・Dが軽く礼を言うと、様子を見ながら攻撃を仕掛けていく。それに続くように、マリエッタも、昴も、詩織も、今までの分を巻き返すかの勢いで押していく。
回復役が倒れたからか、勢いに負けたからか、操られたイレギュラーズたちは疲弊し、一人また一人倒れていく。
「後は任せて、昴さんは先に!」
「ああ。近づくなら今しかないな」
昴はひと足先に美福の元へ向かう。その勢いで、美福に一撃を決めたようだ。
「うちのことを庇ってくれる子たちに、なんてことするの」
「操っている奴がよく言う……」
「操ってる? うちに力を貸してくれてるだけ」
そんな美福の言葉を聞き昴はイラッとしながらも、冷静さを保った。
この苛立ちは、攻撃することで発散すれば良い。昴は牡丹とアルヴァの二人と合流すると、今まで加減していた力を美福に向けて解放する。
「ふぅ……これでようやく本気で戦える」
牡丹は美福の攻撃を受けとめ、アルヴァと昴が美福を狙う。
美福は表情にこそ現れないが、盾にしていた操られたイレギュラーズたちの数が減ったこともあり、徐々に追い詰められている。
このままでは押し切られる。そう感じたのだろう。
「意地悪せんといて。ねぇ? そちらさん方も、早よ《うちに力を貸して》」
「っ、――」
効かない可能性の方が高いと分かっていても、再び放たれる美福の術。その声に応じるかのように、アルヴァがふらふらと美福の元へ向かう。
その様子に、美福はニンマリと笑った。
「ようやっと、操れたみたいやわぁ……」
マリエッタは「アルヴァさん!」と声を上げるが、Я・E・Dが諦めたかのように続けた。
「もうここまで来たら、アルヴァのことは無視して彼女を倒すのが一番早く無いかなぁ?」
「ですが!」
丁度、操られたイレギュラーズたち全員を気絶させたところで、やってきた仲間たち。攻撃しようとする仲間をマリエッタが止めようとするが、それを牡丹が制止する。その間に、Я・E・Dがアルヴァを巻き込む位置で、美福に狙いを定めた。
「怖いわぁ。うちのことを守って」
美福の盾になるために、アルヴァは彼女に近づいた。――盾になるはずだった。
「――えっ?」
数多の武器の残像が、美福に狙いを定め、放つ。
「わりぃな、アンタより仲間に必要とされる方が俺は嬉しいぜ」
「っ、奇襲なんて、汚い手を……!」
「汚い手を先に使ってきたのはお前だろ?」
アルヴァは、わざと操られるふりをしていたのだ。それを知っていたのは、先に耳打ちで聞かされていた牡丹のみ。
アルヴァの奇襲に、美福は今までの余裕のある表情が完全に崩れた。
「ああもう……せっかく、使えそうな子たちがここに来そうやから、わざわざ協力しに来たんに……」
戦意を失くしたらしい美福は、はぁ、とため息を吐く。
美福は自身の黒い羽根を大きく羽ばたかせれば、その羽ばたきが風の刃となって襲いかかる。それは、今まで操っていたイレギュラーズたちにも。
「っ! このままじゃ、彼らが死んでしまう!」
アルムが叫ぶように告げる。ギリギリまで削り気絶させたため、このまま美福の攻撃をまともに受ければ命を奪われてしまう。
勿論、美福に命を尊ぶような情は無い。攻撃をし続けながら、逃げようとしていた。
「このまま逃げられるとでも?」
「このままこの場に止まった方が良いん? 別にうちは良いけど……」
詩織の問いに答えた美福は、チラリと気絶しているイレギュラーズたちを見やる。
そちらでは、アルムとマリエッタが必死に回復をしようとしている。だが、回復すればまた美福に良いように操られる可能性は高い。
「うちだけの理想郷を作りたかったんやけど……終末が来るんやったら、それはそれで、楽しそうやからね。
自分もその理想郷のために利用したかったんやけど……まぁ、良いわ。それじゃあ、生き残ってたら、またね」
「逃すか!」
アルヴァが空を飛び、追いかける。
美福の羽根を狙って一撃喰らわせようとしたが、最後の最後で大きな旋風に邪魔をされる。
風が収まったところで目を開ければ、その場には美福の姿は居なかった。
「――くそっ!」
悔しがって地上に戻ってくるアルヴァに、昴が肩を叩く。
「逃したのは確かに惜しい。けど、今はもっと大事なことがあるだろ?」
そう言って、指し示されたのは、先ほどまで美福に操られていたイレギュラーズたちだった。
アルムとマリエッタの回復のおかげで、皆、どうにか動けるようになっている。どうやら、美福がこの場にいなくなったことで、意識も戻っているようだ。
「ごめんなさい……こんな時に、本当に……!」
「まぁ、俺は全然気にしてないけどな!
今回の手が使えたのは、オメェさんらが色んな任務をこなして高い実力持ってたからこそだ。俺に謝るくらいならむしろ誇りな!
このオークを危うく仕留めるところだったってな! ぶはははッ!」
ゴリョウがバンバンと背中を叩きながら、励ます。
「そうそう。ほら、辛気臭い顔してるんじゃねえよ。今から世界、救いに行こうぜ!」
「さっきのは前哨戦ってことで。今、こうして生きているんだ。この先も、全員で生きて、この世界を救って! みんなで一緒に帰ろうよ!」
牡丹とアルムが、手を差し伸べながら言う。
「こう言っている間も、時は刻一刻と迫っているよ」
「あの人の魂を食べられなかったのは、ざんね――こほん。猶予はあまりないですからね」
「そうですね。向かいましょう、影の城へ」
Я・E・Dと詩織がそう告げ、マリエッタは遠くに見える影の城を指す。
「……そうだな、早く行こう」
全員生き残れたのだ。今回はそれで良しとしよう。
我々の目的は『Case-Dの顕現を阻止』すること。今、立ち止まっている暇など無いのだから――。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
美福は逃してしまいましたが、無事、操られたイレギュラーズたちを無力化・正気に戻しました。
ご参加頂き、ありがとうございました!
GMコメント
●目的
『操られたイレギュラーズたち』の無力化
魔種『狐月・美福』の撃破or撤退
●地形
ワーム・ホールから程近い開けた場所です。
全体的に薄暗く、障害物もありません。
●敵など
『操られたイレギュラーズたち』×?
刀を持った者、狙撃銃を持った者、神秘による攻撃をする者、状態異常や回復等に徹する者……様々です。
総じてそれなりに任務をこなしてきた、実力のあるイレギュラーズたちです。
『魔種『狐月・美福』』
アルヴァ=ラドスラフさんの関係者です。
何かを企んでいる、妖艶な女性です。
中・遠メインの神秘による攻撃を行います。その全てに、『魅了』を付与する可能性があります。
また、何ターンかに一度、特定の願望を持っている者を操ろうとしてきます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
以上です。どうぞ宜しくお願いします!
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