＜終焉のクロニクル＞黄泉への導きを

オープニング

●最終決戦へ
「遂に、その時が来るでごぜーます」
　空中神殿のざんげから遂に確実かつ最悪の『凶報』が届く。
　混沌の滅びを確信的に決定づけてきた『神託』が遂に姿を現すというのだ。
　Case-Dと称されたその滅びの概念がこの世界に完全顕現すれば、混沌は勿論の事、混沌に連なる全ての世界も破壊されてしまうという。それは先刻承知の話だが、誰にも衝撃を与える事実に他ならない。
「最悪な事に、顕現先は『影の領域』と確定しているです。
　……溜めてきた空繰パンドラで顕現までの時間は稼げているようでごぜーますが。
　向こうさんの『滅びのアーク』が顕現先を引き寄せたのかもしれねーですね」
　結論から言えば、Case-Dの顕現先は魔種の勢力圏のど真ん中という事になる。
『顕現』をどうすれば世界が救われるのかはイレギュラーズにも誰にも答えは無かったが、敵陣の真ん中では何をするにしても多大な妨害がある事は確実だ。また、そこに辿り着く事も容易ではあるまい。
「ですが、『ワーム・ホール』が複数生きているのは僥倖でごぜーました」
　マリアベル・スノウが生じさせたというワーム・ホールは影の領域へと直結している。
　魔種陣営はワーム・ホールを通じて自陣の兵力を混沌各地に送り込んでいたが当然その逆も成り立つ。生身でまともに飛び込めば辿り着く前に狂ってしまうかも知れないというその通路の安全はざんげがパンドラで確保するという。
「出たとこ勝負は否めねーですが、もうやるべき事はシンプルでごぜーます」
　即ちそれは乾坤一擲の大勝負、そして決戦である。
「……影の領域、影の城のイノリ達を倒し、Case-Dの顕現を回避して下せーでごぜーます」
　イレギュラーズを慮るざんげの顔を見ればどれだけ無理な事を言っているのかは知れていた。
　しかし、イレギュラーズは座して死を待つような真似はすまい。
　そう、決戦のときだ……！

●ヨミジノシルベヒメ
「決戦よー！」
「はい、決戦です！」
　カエデ・コウサカがそう叫ぶのに『相賀の弟子』ユーフォニー（p3p010323）も同調するが……そう、決戦である。
　覇竜の亜竜集落『アスタ』に開いたワームホールから突入した先にあるという影の領域。
　隕石の降り注ぐ中でワームホールを確保してくれる仲間たちのためにも、影の領域にある「影の城」へ突入する仲間たちのための道を切り開かなければならない。
　魔種の本拠地であり、イノリの本拠である影の領域には、非常に薄暗く滅びのアークの気配が蔓延している。
　この場所にパンドラの加護を受けて補強されたワームホールを経てダイレクトアタックを始めることとなるが……そこで１つ問題が出てくる。
「しかしながら、１つの問題があってのう」
　『フリアノンの酒職人』黒鉄・相賀（p3n000250）は、深刻な表情でそう告げる。
「ヨミジノシルベヒメ。そう呼ばれる存在がいるかもしれんのじゃよ」
　それはフリアノン３人娘の１人、静李の読んだ本にも載っている存在だった。
　ヨミジノシルベヒメ。通称『ヨミ』。
　しかし「ヨミジノシルベヒメ」も他称であって本名ではない。
　かつて「そう呼ばれた」ということで使っているだけの名前であるらしい。
　名前の意味はそのままで「黄泉路の標姫」。
　実際に姫というわけではないだろうが、力ある女性を「姫」と呼んだ文化は各地に残っているので、その類であると思われる。
　ヨミジノシルベヒメ自体も覇竜に伝わるお伽噺の１つであり「月のない夜に１人で歩く者が行方不明になり、代わりに本人そっくりの石像が見つかる」といった……まあ、「怖い話」として伝えられている。
　しかし実のところこの石像は本人であり「祟り石」と呼ばれる治癒不能の災いであることが分かっている。
　恐らくヨミジノシルベヒメ本人を倒せば解けるのだろうが、それとて長い時間が経ち過ぎればどうなるかは分からない。
　そんな、恐ろしいお伽噺だ。だが……それは恐らく「魔種」であり、ワームホールの先にいると予想されているのだ。
「いるとすれば、恐らくは何らかの拠点を有しているじゃろう。しかし倒さねば影の城へと向かうことは出来ん……儂らも協力しよう。ヨミジノシルベヒメを倒し、道を切り開くのじゃ……！」

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●影の村へ向かえ
　覇竜のワームホールを抜け辿り着いた影の領域。しかしそこにはただでは進ませまいとする強烈な悪意が潜んでいた。
　まあ、当然ではあるのだろう。当然ではあるかもしれないが……だからといって長く足止めされているわけにもいかない。
　こうしている間にもワームホールを維持するために戦っている仲間たちがいる。そのことを思えば、自然と焦りの気持ちも出てくるというものだが……それで事を仕損じるような者は此処には居ない。
「ヨミジノシルベヒメ……厄介な相手だけど影の城に向かう為にも倒させてもらうよ……！　黒鉄さん達もよろしくね……一緒に戦ってくれるのも嬉しい！」
「うん、よろしくね！」
　『【星空の友達】／不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン（p3p000916）に『鉄心竜』黒鉄・奏音（p3n000248） たちも頷く。そう、今日は奏音たちフリアノン３人娘や『フリアノンの酒職人』黒鉄・相賀（p3n000250）、『おてんば娘』カエデ・コウサカといった面々もいる。
　ヨミジノシルベヒメ。ヨゾラの出したその名前が、この先にいる敵である。今まさに目の前にある影の村は、それ自体が彼女たちのフィールドなのだ。
　ヨゾラもハイセンスや広域俯瞰、温度視覚で周囲警戒しているが今のところそれらしき相手は見つかっていない。
「ぶはははッ、お伽噺（でんせつ）が相手たぁ随分と光栄な話じゃねぇか！」
　『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン（p3p002081）もそう叫ぶが、その言葉通りヨミジノシルベヒメは覇竜に伝わるお伽噺だ。
「石化の力を持った怪物ねえ……私の元居た所じゃ、メドゥーサなんかに近しい存在なのでしょうね」
「祟り石のおとぎ話ね。なんか練達あたりの創作とかでもありそうな石化して永遠に解けない存在達……でもそういうのに相対しないといけない、倒したら石化解けるかもってなれば……やらないわけには、いかないよね？　みんな助けを求めてるだろうしさ！」
「ハルペーを手にしたペルセウスのように上手くは行かないでしょうけれど、これ以上石化の被害に遭う人を出さないためにも、ここで討たせて貰うわよ」
　『高貴な責務』ルチア・アフラニア・水月（p3p006865）と『少女融解』結月 沙耶（p3p009126）もしう頷き合えば、『相賀の弟子』ユーフォニー（p3p010323）も気合をいれる。
「奏音さん、棕梠さん、静李さん、カエデちゃん、相賀さん。そして、みんなと……後ろには大切で大好きな覇竜の地。守りたいものを背にしたならば負けるわけには行かないし、負ける気もしません。家が終焉獣？　召喚されたばかりの頃なら驚いたけど、覇竜で鍛えられましたから。覇竜のワームホールの先に立ち塞がるものとして、なんだか「らしい」ですね相賀さん」
「ほっほっほ、そうじゃのう」
「しかし家が敵っていうのも随分とまあ規模がでかい」
　『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ（p3p002535）も影の村の家たちを眺める。
「放置しておいても良いことは無いだろうし。魔種とあれば倒さないとね。影の城の侵攻ルートにいるキミたちが悪いってことで！」
「流石にこの盤面で相手取る敵は容易く勝たせてくれそうにはないな。だが、俺達とて負ける心算で臨む訳では無い」
　『戦輝刃』ベネディクト＝レベンディス＝マナガルム（p3p008160）もまた影の村を見据えていた。
「御伽噺が相手であろうと、俺達はこれまで数々の物語に出て来た存在達と戦って来た。であれば、今更臆する理由もあるまい」
「……そうだね」
「これまで幾度も共に戦場を駆けたな静李。長い人生だ、友人は幾ら居ても困らんからな」
　そんなベネディクトの言葉に静李も頷く。そう、この戦いを超えれば人生は続く。そして……ベネディクトはその明るい未来への道筋をしっかりと見据えていたのだ。そしてそれは『メカモスカ』ビスコッティ＝CON＝MOS（p3p010556）も同じであった。
「覇竜にはうまいものがいっぱいあった。そしてそこな三人娘は地元の人間。後でいっぱいまた食わせてもらうから覚悟せよ！　ゆくぞーー！！　影の城への道、切り開かせてもらう！」
　バイザーを下ろしたビスコッティもそう叫べば、影の村へ突入のときである。
「そういやそういや黒鉄の爺さんとは覇竜の食材関係で長い付き合いだよなぁ。ぶはははッ、長生きしろよ爺さん！　まだまだ教えてもらいてぇことは山ほどあるんだからよぉ！」
「ほっほっほ。まだまだ生きるつもりじゃよ」
　そんなゴリョウと相賀のギャグも飛び、余裕も充分だ……！

●黄泉への導きを
「負けないくらいド派手で鮮やかな万華鏡にしましょう今井さん！　奏音さん、どっちが多く壊せるか修行しましょ」
「いいよ！」
「襲ってくる家、住みたくないなぁ……シルベヒメこの中で寝れてるの？」
　ユーフォニーと奏音の気楽そうな声が響くが、状況はあんまり気楽ではない。
　村に着くなり襲ってくる家型終焉獣に向かってヨゾラは星空の泥を放つ。
「そもそも住めるようなものかも分からんがな！　ぶはははッ！」
　ゴリョウの金銀蓮花の炯眼が発動し、ルーキスのソトースの銀鍵からのケイオスタイドが発動する。
「面制圧は得意技ってね。まあ今回は相手さんが大きいからちょっと大変かも知れないけど」
　ヨミジノシルベヒメ。彼女がこの村の何処にいるのかはまだ掴めていないが……そうだとしても、この瞬間も捜索中だ。
　月のない夜に１人で歩く者が行方不明になる。そのお伽噺から推測できる内容を警戒して全員で行動中でもあるが……どうやら正解だ。
「長期戦？　構わないよ、ただし体力が持つ限り！　どんな攻撃だろうが、失敗すれば意味がないってね」
　そう、こうしている最中にも各自様々な方法でヨミジノシルベヒメを探索している。
　たとえばベネディクトはファミリアーの小鳥で空からの敵の位置の把握を行いつつも、透視の効果でヨミジノシルベヒメを探していた。万が一ヨミジノシルベヒメが家型終焉獣の中にいた場合の対策だが……上手くいくかどうかは、あまり関係はない。
　俺は可能性の薄い穴を埋めて、万全の状態で戦いに臨めたらと思う、と。そうベネディクトが言っていた通り全ての可能性を潰すことで最善の結果を導きだせればそれでいいのだ。
　そうしてベネディクトが黒牙天墜を放てば、沙耶も状況は超視力と広域俯瞰で随時把握しながらヨミジノシルベヒメを捜索して……そして、それを見る。
「見つけた！　こっちに来る！」
　その言葉通りに、１人の女が場に姿を現す。赤い着物を纏い、亜竜種にも竜種にも似たその姿。しかし……感じる気配は、明らかに魔種。その女は、沙耶たちを見ると「ふう」と溜息をつく。
「何か騒がしいと思えば、斯様な者どもが入り込んでいるとはな。さてさて、如何にしてくれようか」
「ヨミジノシルベヒメ……」
「我を知っておるか。覇竜の者とも思えんが、まあ……そういうこともあるか」
　沙耶に気だるそうに言うヨミジノシルベヒメへと、ユーフォニーは最大限の警戒を向けながら問いかける。
「聞きたいことがあります。その名前は本名ではないと聞きました。ヨミさんの本当の名前は？　どうして魔種に？　……もう、覚えてないですか？」
「何を聞くかと思えば。そんなものに何の意味がある？　我が何であったかなど、何の意味もないこと。ただ貴様等は、此処で石となって果てるがいい」
「そうですか……お話は意味がない、ということなんですね」
「そうなるな」
「分かりました……では！」
　パンドラの加護を発動し、ユーフォニーはまるで透けるような身体を持つ……竜域の娘の姿へと変化する。それは勿論ノーリスクの力ではないが……この場を制するには必要な力だ。
「覇竜も世界も譲りません。お伽話はお伽話のままに。これから紡ぐのは未来へ繋ぐ希望のお話……！」
　その姿のまま放つ一撃に、ヨミジノシルベヒメが感嘆の声をあげる。
「はははははは！　なんという！　そんな力を隠し持っていたか！　覇竜の者では無き身でありながらその姿！　面白い！」
「それで終わりではないぞ！」
　ビスコッティがユーフォニーの攻撃に合わせるように飛び出していく。
「ヨミジノシルベヒメ……月を嫌うか？　それともずっと一人ぼっちなのか？　攫った人と仲良くできなんだか？　我等を「どういう目」で見ておる。超越個体として少し観察してやろう。お互いを知る事は悪いことではない。こうやって殴り合いの最中であってもな！」
「どうもこうもない。我にとっては貴様等などどれも同じよ。思い上がるな！」
　死海を放つビスコッティにヨミジノシルベヒメはそう返す。
「そうか。しかし我はユーフォニーが守りたいと思う気持ちに応えよう！」
　そう叫び、ビスコッティはパンドラの加護を発動し関節から蒸気を噴出させる。
「誰かのために戦うやつがおるのなら、我はそれを手伝うこと、躊躇せぬ！　我の全力を見よー！」
「ええ、まさにその通りね」
　ルチアもまた、祈るようにパンドラの加護を発動させる。
「いと高き座にまします我らが主よ、我らをお護りください――」
　無穢のアガペーにより仲間を回復させながらも、ルチアはヨミジノシルベヒメを睨みつける。
「夜のしじまに潜む恐怖は人の根源的なものでしょう。けれども、それも今日で終わりよ」
「いいや、終わるさ。人全てがな」
「させないわ……！」
「その通りだよ！」
　ヨゾラもまたパンドラの加護でその姿を華やかなものへと変えていく。それは絶望を否定するような、そんな夢に満ちたものだ。
「かくれんぼもおにごっこも、石化も終わりだよ……ここで倒させてもらう！」
　家型終焉獣ごと巻き込む勢いで放つ星空の泥も、いつもよりも遥かに威力が上がって発動していく。
「この手のお伽噺に語られる「怖さ」とは、姿を見せず、正体を悟らせず、誰も知らない所で結果を残すという“神秘性”にこそある。つまり……『見つけた』時点でその脅威は形骸化してるし、何より『見られる』事自体に慣れてねぇと俺は思ってる！　どうだヨミジノシルベヒメ！　金銀蓮花の炯眼の『見られている』違和感と不快感に果たしてオメェさんは耐えられるかなぁ！　「黄泉への導き」は今日、ここで終わらせて覇竜の奴らが夜道で怖がらずに済むようにしてやらぁ！」
「なに、そう心配するな！　どうせ皆夜道など歩かずに済むようになる！　全員死ぬのだからな！」
　ゴリョウの金銀蓮花の炯眼が発動する中、ルーキスもパンドラの加護を発動させていく。
「出し惜しみはしないさ、多少削れようが問題無いね。むしろ此処で使わないでいつ使うのって感じ！」
　そうしてルーキスはいずれ至る果ての形……人の殻を脱ぎ捨て、完全な羽化を果たした魔としての完成系へとその姿を変える。
「キミ野放しにしておくと面倒だから、あっさり倒れてくれると嬉しいな！」
「それはこちらの台詞ではあるなあ。次から次へと姿を変えおって！」
　禍剣エダークスを叩きつけるルーキスに続き、ベネディクトがヨミジノシルベヒメの眼前へと身を躍らせる。
「生憎と此方にも然程余裕はないのでな、見敵必殺──短期で終わらさせて貰うぞ！」
「前座扱いか？　言ってくれる！」
「そうだ。俺達はこの先に用がある。御伽噺では無い、俺達は本物の英雄としてこの世界へ凱旋しよう！」
　コードレッド・オーバーゾーンによるベネディクトの乱舞が炸裂し、沙耶もまたパンドラの加護を発動させる。
「私は戦う。相手が終焉だろうと何だろうと！」
　残った家型終焉獣たちの相手をしていた沙耶はYs-G・L・Bを発動させ、パンドラの加護によって得たその強力な力を見せつけていく。
　ヨミジノシルベヒメは強い。家型終焉獣と合わせ、平時であれば相当な強敵だっただろう。しかし今、複数の切り札を切り……綿密な作戦をたてたこの状況では、こちらが圧倒的に有利で。だからこそ、その最後の一撃をユーフォニーは放つ。
「相賀さん、カエデちゃん、一緒に！　超絶スペシャル最終奥義！　師弟と友情の絶対勝利アタック！！」
　そんな最後の一撃が、ヨミジノシルベヒメに叩き込まれて。その身体が砂のようにザラリと崩れ始める。
「……よもや、こんな一撃が我が終わりとは。くくく、お伽噺といったか。まさにそんな終わり方のようではないか」
　それでもいい、と。そうヨミジノシルベヒメは呟く。それもまた、上等な終わり方なのだろうと。
「おやすみ、ヨミジノシルベヒメ」
　ヨゾラの追悼の言葉が響いて。そうして、そこには何も残らない。
「さてこれで前哨戦か。厄介極まりないけど、魔種相手だからねぇ。警戒は緩めずにいこう」
「これで……みんな石化から救われた、のかな？」
　お伽噺の被害者を思い沙耶も呟くが……それは分からない。今はただ、この先へと進み世界を守るしかないのだから。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

ヨミジノシルベヒメ、撃破。
覇竜の恐ろしいお伽噺は幕を閉じました……

ご参加ありがとうございました！