PandoraPartyProject
喪失者たちの挽歌
誰しも、大切なものをもっている。
歩いても足音のしないほど高級な絨緞よりも、壁に掛かる数々の絵画よりも、美しい彫像たちよりも。
技術館の如きその館の通路を進む聖騎士グラキエスはひとつの部屋の前で立ち止まった。
ネクタイを直し、前髪を指で整え、そしてゆっくりと部屋の扉を開く。
「あら、おかえりなさい――■■■■」
テーブルの前に立つ、若い女性の姿が部屋にはあった。
グラキエスはほっと息をつき、部屋へと入る。
「ああ、ただいま……母上」
グラキエスの母は善人だった。善人であったが故に人にばかり分け与え、自分は早くして死んでしまった。置いていかれたグラキエスが感じたのはまごうことなき『寂しさ』で、抱いた欲望は母への再会であった。
それが……この『理想郷』では叶う。
自分だけではない。
妻と娘を失った者。親友を亡くした者。恋人に選ばれなかった者。
こうなればよかったのにという理想の形が、この世界には存在しているのだ。
そして彼らは、この理想郷の中では死ぬことがない。
「けれど、腕の中で息絶える姿を見せられるのは……辛かったよ」
寂しげに呟くグラキエスに、女性はゆっくりと歩み寄り頭を撫でる。
子供の頃にしてもらったそれと、全く同じように。しかし背丈は、グラキエスが追い越してしまったけれど。
「大丈夫よ。ルスト様のお創りになられたこの世界と身体は、消えることはないわ」
「そうだね。母上……」
それでも、この理想郷を壊そうとする者たちがいる。
イレギュラーズ。
イレギュラーズだ。
彼らさえいなければ、この世界は永遠に壊れることなくあり続けるのに。乱されることも、一切無かったはずなのに。
排除しなければならない。
消し去らなければならない。
この理想郷から、追い出さなければ……。
「母上。行ってくるよ。役目を果たさなくては」
この理想郷には、グラキエスと同じ気持ちを抱えた者が大勢いる。
そんな者たちを、救わなければ。
自分は、そのために立ち上がったのだから。
「ええ、行ってらっしゃい。どうか無事で」
手を離す母に微笑みかけ、グラキエスは更に進む。
部屋を出ると、そこは花咲く庭園であった。
庭園には、『星灯聖典』の幹部たちが集まっている。
グラキエスの作り上げた新興宗教、『星灯聖典』。それは失った者たちの集いであり、再会を望む者たちの、理想郷を求める者たちの集いであった。
「聖騎士たちは集まっているかな?」
グラキエスの問いかけに初めに答えたのは『博愛聖女』マリーンだった。いかにも聖女といった様相の女である。
「はい、確かに。星灯聖典正騎士団。総勢揃って御座います」
続いて声を上げたのは『飛空騎士』ナジュドだった。僧服を身に纏った飛行種の男だ。
「死んだ『仲間たち』と共にいられるんです。そんな空間、壊されてたまるか」
「ああ、オイラの仲間たちも作ってくれた。だから、不満はねぇよ。ここがオイラたちのゴールなんだ」
『永遠の探索者』ズィールが力無く笑えば、一方で『回帰悲願』イルハンがキッと睨むように言った。
「それを……イレギュラーズの連中は壊していったんだ。『みんな』は戻ってきたけれど、村は一度壊された。あいつらが、この完璧な世界を乱すんだ」
「そう、ねえ……」
複雑そうな表情で同意を示す『身代形代』黒羊。
ちらりと見れば、『真異端審問』トゥールーンが爪を噛みながらずっと「おねえちゃん」とつぶやき続けていた。
「グラキエス様」
そんな中で声をあげる『心臓教会』クローム。
「あなた様の『聖骸布』によって、私達はこの理想郷に居場所を得ることが出来ました。その感謝を、主への忠誠を、今こそ示しましょう」
彼女たちが手に入れたのは。
かつてあった理想の世界。
過去にあった、素晴らしき世界。
それがずっとずっと、永遠に続くことを望む世界。
もう絶対に壊させない。もう、絶対に……。
※天義にて、星灯聖典の軍団が理想郷に集合しているようです……。
※シーズンテーマノベル『蒼雪の舞う空へ』が開催されました。
※プーレルジールの諸氏族連合軍が、魔王軍主力部隊と激突を始めました。
※イレギュラーズは『魔王城サハイェル』攻略戦にて、敵特記戦力を撃破してください。
※ハロウィン2023の入賞が発表されています!
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