PandoraPartyProject

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兄弟

 かつん、かつんと一定のリズムを奏でる石床に慌ただしい気配が駆けてくる。
 至極冷静に城内を進む金冠の男は幾分か面倒臭そうに追いかけてくる『彼』を振り返る――
「城内ではお静かに。それが『お客様側のマナー』というものでしょう?」
 ――明らかな皮肉と軽侮を交えたその薄笑いにシラス(p3p004421)の表情は否が応無しに強張った。
ミロシュを殺ったのはアンタなのか? 答えろよ……兄貴!」
 用意してきた文言も、展開される筈だった腹芸も台無しの言葉だった。
「無様だな」
「何を……!?」
「それで『はい』とか頷く奴はいねぇだろ。
 何かを知りたいなら、多少の分別位は身につけろよ、ガキ」
 結局、シラスはシラスのままだったという事なのだろう。
 レイガルテに師事しても、幻想という国で英雄のステータスを駆け上がったとしても。
 余所行きの姿をシラスと同じく放り投げたカラスはシラスの生き別れの実兄である。
「何も変わらねぇな。
『見たくないものは目を塞いで見ない』。
『聞きたくない事は聞こえない』。
 嬉しくなるね。お貴族様にどれだけ持ち上げられたってお前はお前のままだよ。
 身の程を知らない、分別も無い。『愛されてるって勘違いしてるガキのままさ』」
「テメェ……ッ!」
「シラス君」
 見るかに頭に血を登らせたシラスをアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の静かな声が制止した。
 この兄弟間には見て分かる程度には強烈な事情が横たわっている。
 愛欲と叶いもしない妄想に狂った母に『愛され、憎んだ兄』と『愛されず、想った弟』だ。
 カラスはどうあれシラスにとって母の仇であり、シラスはカラスにとって守られながらに自分を刺した弟である。
 理はカラスに、情はシラスに。言い分は双方に存在するが、到底歩み寄れるような話ではあるまい。
「今のはシラス君も悪かったと思うけど……お兄さんもあんまり苛めるのは辞めて欲しいかな」
「へえ」
 先の謁見で面通しだけは済んでいたのだが、カラスはしみじみとアレクシアを見直した。
(彼が『そう』かは分からないけど……
 前回(リュクレース)の件を考慮すれば黒幕はそういう激情的な部分につけ込むのが得意そうでもあるからね)
 圧倒的な暴力と威圧の気配を纏う相手にもまるで怯む様子はない。
「女傑じゃねえか」
「そんな事はないよ」
 可憐な姿とは裏腹に確かな芯の強さを見せた彼女はその場を一歩も辞する心算は無いようだった。
「そっちの言う通り、聞いてどうなるものでも無いと思うけど。私達は犯人を探してる。本気で『次』を食い止めたいんだ」
「ふぅん?」
「この事件で危険が及ぶのは公子達だけに留まらないでしょう。
 貴方の雇い人のフィゾルテ侯も例外じゃない。だから――」
「――結局、有り触れた『被害者』さ」
 アレクシアのアプローチは至極真っ当だったが、芝居がかった調子で両手を左右に広げたカラスは実に楽しそうに笑っていた。
「女癖と評判の悪いお貴族様が、頭の弱い見てくれだけの女に手を出すなんて、な。
 女は貴族の浮いた嘘を盲目的に信じ、貴族はそんな事夜が明ける頃には忘れちまう。
 フィゾルテ侯がターゲットねえ。そりゃあそうだろうよ、あんな生き方しててまともにベッドで死ねるもんかよ?」
「――――」
 頭が良すぎるというのは時に仇になる。
 何となく『察して』しまったアレクシアはその瞬間、思わず言葉を失っていた。
 それは言い換えれば彼女の隙であり、態勢を低く沈め獣のような姿勢を取ったカラスは彼女目掛けて、
「……ッ……!?」
 飛び掛かるような姿を見せたと思えば、咄嗟に庇いに入ったシラスの首をねじ上げていた。
「優しいお兄ちゃんがレクチャーしてやるけどさ。
 まず、隙を作っての救援は悪手だ。
 それにお前のガールフレンドはそんなに弱いタマじゃあないだろう?
 やっぱり何も見えてねえじゃねえか。俺がその気ならお前は死んで、ガールフレンドはぞっとしない目に遭うんだぜ」
 怒気を発したシラスをアレクシアはもう一度「シラス君」と制止した。
「お兄さんの言葉を額面通りに受け取らないで」
「ふぅん?」
「不自由な選択。二者択一話法、会話のマジシャンズ・セレクト。何でもいいけどね。
 今のは仮にシラス君が庇いに入ってくれなかったらお兄さんは例えばこんな風に言うに決まってる。
『結局自分が大事だな。それとも反応も出来ない位のぼんくらか? こんなに可愛いガールフレンドなのにな!』」
 アレクシアの空色の瞳に珍しい怒りの色が燃えていた。
 事情は分かる。分かってしまう。だが、一本気で直情で――いい所が沢山あるシラスをこんなに追い詰めていい訳がない!
「シラス!? 大丈夫でして!?」
「……やれやれ」
 アレクシアと向こうから駆け付けてきたヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の姿にカラスは大袈裟に降伏のポーズを取った。
「なかなかどうして。ちょっと頼りない位の方がモテるってやつかね?」
 冗句を嗜み、くっくっと笑う。
 元より本気で殺す心算等無かったのだろう。
 シラスを解放し、両手を上げた彼は相変わらず人を喰った様子で言った。
「『俺は殺してねえけどな』」
「……っ……!」
「お前の聞いた事だろ、シラス。
 お前にゃ勿体ないガールフレンド達だ。精々大事にしとけよ」
 カラスは一方的に言って踵を返す。
 後ろ手にひらひらと手を振って。
「――尻尾巻いて逃げ帰って。
 布団に丸まって震えてりゃ、怖いお兄ちゃんは取って食ったりしねえから、よ?」
 
 双竜宝冠事件が進展しています!
 豊穣で動きがあるようです!


 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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