PandoraPartyProject

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人と竜と

 ――ここヘスペリデスは、冠位暴食が産み出した出来損ないの楽園だ。
 名も知らぬ花の咲く美しき最果ての地には、不器用な竜達が作り上げた歪な建物が点在している。
 それはベルゼーが作り上げた人と竜とを繋ぐ架け橋となるはずだった。
 けれどそんな夢物語を他所に、人と竜とは争いを始めたのである。
 皮肉にも、理想を目指した当事者であるベルゼーを巡って。

 冠位魔種とは世界の敵である。
 存在するだけで魂の本質を歪め、世界を滅びへと導く悪である。
 確かにベルゼーは竜種を愛している。
 亜竜種を愛している。
 無論のこと家族(オールドセブンや原罪)もまた。
「暴食の冠位魔種だから、ひとを、世界を愛してしまうんだ」
 ジェック・アーロン(p3p004755)が述べたのは真理だった。
「――だって嫌いなものは美味しくないでしょう?」
 冠位魔種は、必ずや打倒されねばならない。
 それはこの世界における変えようのない真理であり、イレギュラーズの役目でもあった。

 夕刻、一行が集まっていたのはそんな楽園にある歪な建物の一つだった。
 亜竜との戦いで焼けてしまった花冠を新しく作り直し、頭へ乗せている。
「なんていうかさ、暖かいんだよな。温度的な意味じゃなくて」
 新道 風牙(p3p005012)が捻れた柱に手のひらをあてた。
 床板の高さや角度はあっておらず、天井は傾き、無闇やたらと広い。
 幼子が粘土で一生懸命にこしらえたようにも見えるそれは、『光暁竜』パラスラディエと呼ばれた竜が、ベルゼーの願いを叶えてやるために、戯れにこしらえた居住空間だった。
「この目線から見ると、我ながら傾きとかやばいですね……」
「竜のお姿で、土を捏ねられて、焼かれたのですか?」
 ぴんと閃いたメイメイ・ルー(p3p004460)が尋ねる。
「あたりです! 捏ねてブレスでぼーって!」
 一行は当の制作者であるパラスラディエ――人の姿ではリーティアと名乗る女性と居た。
 彼女は先代の六竜であり、現六竜たる『金嶺竜』アウラスカルト(p3n000256)の母である。
 ここに居るのは魔術投影した幻影で、本体はベルゼーの腹の中だという話だ。
 実のところリーティアは、ベルゼーを父のように慕っている。
 かつてのアウラスカルトがそうであったように。
 権能の暴走を止めるため、その身を食わせたほどに。
 けれど今はベルゼー討伐のため、イレギュラーズへたびたび協力してくれていた。
 冠位魔種を倒して世界の滅びを止めるため、そして優しいベルゼーを永劫の苦しみから解放するためだ。

「お料理出来たよ! スペシャルサイズ!」
「……わ」
 スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が、傾いだテーブルに山盛りの料理を並べ始めた。
 木の実や野草にジビエなどを利用した素朴な焼き物とスープが、美味しそうな香りを立たせている。
「すごい量ですね」
 泣きはらしたケーヤの目元はまだ赤いが、表情は無邪気な笑顔に彩られていた。
 一行は女神の欠片の入手とケーヤの救出に成功したが、この場所を入手出来たのも大きい。
 広い上に獣避けの結界があり、簡単な拠点にもなるだろう。
「良かった、ケーヤは帰って来ることが出来たんだ」
「すーちゃん……そうね」
 アーリア・スピリッツ(p3p004400)が隣に座る友人スフェーンの表情をちらりと伺う。
 スフェーン達亜竜種は帰らずの森への関所を守る一族を中心に行方不明となっている。
 救出したケーヤもまた行方不明者の一人だった。
 だがスフェーンの家族であるフォスの消息は未だ知れない。報告書によると『怪竜』ジャバーウォックと行動を共にしていたらしく、ベルゼーの陣営へ合流していると思われた。
 スフェーンの笑みは若干の複雑さを滲ませている。
 ケーヤが救出出来たのは喜ばしいが、やはり家族の状況が心配なのだろう。
「こんなこともあろうかと、そっちの、そう、そのへんですね」
 リーティアが示した棚にあったのは数本の酒瓶だった。
「めちゃくちゃ古いですけど封印術かけてありますので大丈夫だとは思うんですが」
「けどりーちゃん」
 リーティアは幻影であり触れることは叶わない。当然ながら飲むことも。
「私どうせザルですし、無限にテンアゲでお付き合いできますので、いぇー!」
 スフェーンとアーリアが目配せしあい、頂くことにする。
 多分飲んで欲しいのだ、リーティアは。イレギュラーズが楽しそうにする姿が見たいから。
 だから少しだけ付き合ってやろう。
 数百年前に手に入れたという酒は、現代ほど洗練されてはいなかったが、素朴で優しい味がした。

 夜は更け――
「そろそろ寝ようか」
「明日は引き返すから、ちゃんと休んでおいたほうがいいもんね」
 セララ(p3p000273)笹木 花丸(p3p008689)の提案に若年組が賛同する。
 ケーヤをフリアノンへ無事に送り届けるため、引き返すのは明日ということになっていた。
「アウラちゃんも一緒に寝ましょう!」
「そ、そうです!」
 しにゃこ(p3p008456)とケーヤがアウラスカルトの手を引っ張る。
「不要だ、我は休眠期にはない」
 困惑するアウラスカルトを囲み、頬をつまんだりつついたり。
 アウラスカルトは面倒くさそうになすがままにされている。
「大丈夫か、アウラスカルト困ってないか、というかいつもこうなのか?」
 風牙が頭を悩ませる。

 月明かりに照らされた窓辺に立つリーティアは、そんな光景を眩しげに眺めていた。
「もう少し触れ合わなくていいのか?」
 ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が静かに問うと、リーティアは首を横に振った。
「見ていると嬉しいんですよね。人が竜の心の在り方を変えて行く様には驚かされてばかりです」
「……」
「あるいはそれは成長と呼ぶべきなのかもしれません」
 リーティアが続ける。自身は好奇心の怪物であり、全てのことを試したがると。
 太古における暴虐の悪竜は、その性質ゆえに、人の伝承における聖竜と呼ばれる存在へと移ろった。
 卵を産んでみたのも、そんな些細な気まぐれのはずでもあった。
「私、薄情なんですよね。卵を産んだら産みっぱなしで食べられちゃったんですから」
「……」
 リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は思う。
 リーティアは自身を『好奇心の怪物』だと断じていた。
 好奇心の強さそのものは娘であるアウラスカルトも同じく、そう考えればいかにも血縁らしい。
 だが表情を見れば、明らかにそれだけではあるまいに。
「私は幸運です。あなた方と出会うことが出来て、夢みたいな光景まで沢山見られちゃって」

(父祖(ベルゼー)……あなたの願い、もう叶っちゃってるんですよ)

 人と竜とが共に手を取り合う姿が、そこにはあったから。
 これこそイレギュラーズがつかみ取った結果だ。

 ――アウラスカルト、あなたを産んで本当に良かった

「あれ。なんだか私、人間みたいですね」
 アーリアがふと視線を向けると、リーティアの瞳から涙が零れ宙空へ溶け消えていた。
「……りーちゃん」
 そんな時、ふとリーティアの身体が一瞬だけ透き通ったように見えた。
「リーティアさま……先程のは、やはり」
 メイメイが心配そうな表情を向ける。
「維持出来ませんでしたね……幻影」
 いつか訪れるであろう時が、近付いていた。
 ベルゼーの権能に飲まれたリーティアが消滅したとき、全てを飲み込む暴走が始まる。
「大丈夫ですよ、なんとかなります」

 ――してみせます。

 夜半、窓辺に立ち月を眺めていたリーティアの元に、リースリットとジェックが現われた。
 隣にはアウラスカルトを伴っている。
「やはり竜は寝ないのですね」
「竜によるとは思いますが、私は休眠期以外には滅多に。この子もそうなんですね」
「居てあげるから、沢山話すといいよ」
 ジェックの後ろから姿を見せたアウラスカルトが、おずおずと頷く。
 一時間ほどの他愛ない世間話の後で、アウラスカルトが切り出した。
「母よ、策はあるのか」
「そんな風に呼んでくれるんですね。策は……うーん、どうでしょうね、考えてみます!」
 だがその瞳に灯る光は強く――

 この身すでに朽ち果てし骸、魂の残滓とて。
 されど天帝(バシレウス)が古竜(エンシェントドラゴン)なれば、冠位魔種風情が何するものぞ。

(――成し遂げます。必ずや。この子と、この英雄達が未来をつかみ取れるように)

 ※覇竜領域のヘスペリデスでは調査が続いている様です――
 ※覇竜領域のヘスペリデスに、ちょっとした拠点を確保しました。
 ヘスペリデスでの時が着実に過ぎていっています――
 ※『光暁竜』パラスラディエの滅びが近付いています……。

 ※海洋王国方面にも『帳』が降り始めたようです! 神の国に渡り対抗しましょう――!
 ※天義騎士団が『黒衣』を纏い、神の代理人として活動を開始するようです――!
 (特設ページ内で騎士団制服が公開されました。イレギュラーズも『黒衣』を着用してみましょう!)

これまでの覇竜編ラサ(紅血晶)編シビュラの託宣(天義編)

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