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シナリオ詳細

<黄昏の園>百月のクピディタース

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング



「人間共がこのヘスペリデスの地を踏み荒らすとは。
 これもラドネスチタの無能振りの証左だな」

 ――月が浮かんでいた。綺麗な綺麗な、月が浮かんでいた。
 此処はピュニシオンの森の果てに存在していた地、ヘスペリデス。
 風光明媚な光景が広がるその地を……月の光が照らしている。
 淡い光に包まれたヘスペリデスは昼間よりも一層美しく見えようか――
 その世界を眺めているは『叛逆竜』ホドだ。将星種の一角にして、天帝種を嫌っている存在。
 尊大なりし魂は例え幾千年の時を経ても変わるまい――そんな彼は内に憤怒の心を携えていた。人間共がヘスペリデスへ侵入しているが故に。
 なぜ下等な連中が此処に来ている? ラドンの罪域を超えて。
 ――守護者たるラドネスチタを嫌悪しよう。奴の無能がこんな醜態を導いたのだと。
「ほっほ。お主は相変わらずよの。もう少し落ち着きと言うモノを覚えてはどうか」
「黙れ。貴様も無能の象徴だろうが」
 同時。そんなホドへと語り掛けたのは……別の竜であった。
 その者は灰色の身体を持つ老竜、エチェディ。
 『薄明竜』クワルバルツに仕えているかのような存在であり、先日のラドンの罪域の攻防戦ではホドとも敵対していた――の、だが。
 ヘスペリデスの一角にて、そのホドと出会っている。
 ホドの傲慢な口ぶりもあってあまり友好的には見えないが、しかし過度に敵対的にも見えぬ。むしろ最低限会話が成り立つ程度には近しいように感じられようか……一体どういう事か。曲がりなりにも同族であれば年がら年中必ず殺し合うとも限らぬが。
 何か違和感がある。
 上手く言語化出来ぬが、しかし。この二体はずっと前から――
「次はないぞ、エチェディ。クワルバルツには死んでもらう。
 ――この前の戦いでかなりの傷を負っているだろう。
 奴の傲慢が、人間からの傷を許したのだ。
 あのような無様を晒す竜は、そろそろ天帝種の座からは降りてもらわねばな。
 アユアの小娘も纏めて消し潰してやる」
「傲慢振りはお主の方が上な気がするのがの。
 ……ま、よい。それより夏雲(シアユン)」
「はぁ~い?」
「お主はもう暫くホドに付いておれ。人間共が来た以上、ベルゼーもその内なにがしか動き出す事であろう……大きな動きはきっとそう遠くはないが故な」
 と、その時だ。ホドとエチェディが語らう、その隅で様子を窺っていたのは夏雲(シアユン)という、亜竜種だ。いや厳密には彼女は滅びの因子を身に宿した……魔種の者であるのだが。
 しかし竜は魔種など恐れない。
 竜は混沌世界最強の種族だ。例え魔種であろうとも、容易く打ち破れる存在ではない。
 むしろ返り討ちにしてしまえるほどの力を持っている――が故に。
 夏雲は小間使いのように扱われていた。逆らうのならば喰らってしまうぞ、と。
 しかし夏雲も現状に不満はない。彼女に欲望はただ一つ『食欲』にのみあるのだから。
 その欲望が果たされるのならば――竜の下であろうと何の異があろうか。
 それぞれが、それぞれの意思によって此処にいる。
 夏雲は己が食の欲望の為。
 ホドは己が野心の為。
 エチェディは――
「むっ?」
「――どうした」
「いや、今なにがしか気配を感じたような……気のせいかの?」
 刹那。エチェディがまるで匂いを嗅ぐかのような仕草を見せようか。
 このヘスペリデスの地に普段感じえない……『何か』が来た気がしたのだ。
 もしや、人間か? ラドンを突破してから幾つか姿を見ているとは聞くが。
「フン――虫けらが近寄って来るなら潰すまでよ」
「ほっほ。頼もしいのぉ」
「それよりも、だ。エチェディ。一つ聞いておきたい事があるのだが」
「ん?」
「――クワルバルツの先代。ゲルダシビラをどうした?」
「いきなり何を問うか? 我は知らぬ」
「ほざくな老竜如きが」
「まさか。我が何かしたと? 我が天帝種に勝てるとでも? 『老竜如き』ぞ?」
 エチェディは竜だ。かなり老いている様子であり覇気は見受けられないが、それでも竜だ。
 人間など歯牙にも掛けない力を宿しているのは確かだろう。
 ――が。竜と竜の戦いだと想定した場合はどうだろうか。
 エチェディは老いている。老人が若人に勝てる道理が、何処にある?
 もしもホドとエチェディが戦えばホドが勝つ自信がある――
 ではそのホドが勝てなかったゲルダシビラがエチェディに後れを取るとは思えない。
 思えないのだ、が。
「……まぁいい。邪魔になるのならばお前もいつか始末するだけだ」
「本人の前で言うかの、それ?」
「エチェディ様ボケてるから聞こえてないと思ってるんじゃないですか~?」
「聞こえとるんじゃが?? お前も本人の前で言うかの、それ???」
 ホドは訝しんでいる。この老竜には『何か』あるのではないか、と。
 竜も千差万別だ。流動の力を操るホド、重力を操るクワルバルツ、堅牢な硬さを持つ竜など……ならばこのエチェディにも何かあっても不思議ではないのでは――?
 何か探っておきたい所だが、しかし藪を突いて蛇を出す事もない。
 利用できる範囲で利用するだけだと、ホドは彼方を見据えようか。
 ――あぁ、空には月が浮かんでいた。

 とてもとても綺麗な月だった。


 ヘスペリデスをイレギュラーズ達は進んでいた。
 これも依頼である。前人未踏のピュニシオンの森、その奥地にあるヘスペリデスは情報が極めて少ないのだ。どんな生物が存在していて、どんな地理があるのかも分からない。
 故に調査の依頼が出されていた――そして。
「おっ。見ろよ、あそこ……なんか遺跡っぽいのがねーか?」
「ホントだね! なんか建物、かな? すっごい大きいサイズだけど」
 カイト・シャルラハ(p3p000684)にリリー・シャルラハ(p3p000955)は、ヘスペリデスの一角で『遺跡』の様な地を見つけた。外観はリリーが述べた通り、非常に大きな――『家』のような遺跡だ。
 内部を覗いてみれば、これまた通路も巨大である。
 色々と作りは甘い所がある。ぶっちゃけ石を適当に積み上げただけではないか、これ?
 ともあれこれだけ広ければ竜が入って動けそうな程のスペースがあろうか。
 何の目的があってこんなのを作り上げたのか。
 分からぬが、しかし此処は調査のやりがいがありそうだ。
 上手く危険が無い事が確認出来れば――此処を活動の拠点にする事も出来るのではないか?
「ううん、でもなんか……嫌な予感もするね。
 ヘスペリデスにはさ、あちこちに竜がいるんだろうし……
 奥まで見たら、すぐ退散した方がいいかも?」
「……ま。そうだな。此処にはまだまだ、何がいるかも分からねぇ。
 特に骨の髄まで食ってきそうな『奴』がいたりするかも――しれねぇし、な」
 が。スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)にファニー(p3p010255)は警戒を解かぬ。以前の戦いで出会った竜や魔種――夏雲がいるのではと。
 油断はできない。一見すると穏やかな地でこそある、が。
 此処は竜の住処なのだと――分かっているから。

GMコメント

 本シナリオはノーマルですが、竜と戦闘が生じた場合の難易度は不明です。
 ご縁があればよろしくお願いします!

●依頼達成条件
 ヘスペリデスの遺跡調査

●フィールド
 ピュニシオンの森の奥には『ヘスペリデス』なる地が存在していました。
 風光明媚な地で、とても穏やかな大地が広がっています――
 その一角に、まるで遺跡のような場所が発見されました。サイズこそ巨大ですが人間の建物にもどこか似ている様な……この地に魔物などの危険な生物がいないか、拠点に出来そうか皆さんには調査してもらうのが今回の依頼です。

 時刻は夜。綺麗な月が出ています。
 建造物の造りが甘い事もあり、外からの光が内部に零れても来ていますので、必ずしも光源対策は必要ではありません。ただ何がしかあると便利かもしれませんね。
 それと周囲は天候も穏やかですが――『竜』の気配をどこかに感じます。
 シナリオ開始時に竜の姿は見えませんが、途中からやってくる可能性がありますね。

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●敵性生物
●ミラッド×??匹
 遺跡に住まう大きな兎型の個体です。もふもふです。
 しかし頭頂部に角が生えており、その角を活かした突進はそれなりの威力があります。なお、もふもふです。
 人間にはやや敵対的ですが死ぬまで戦う程の狂暴性はありません。ある程度ダメージを与えれば逃げて行くでしょう。そして、もふもふです。

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●登場NPC
●エチェディ
 分類は不明ですが竜種の一角です。どうも老竜と言える程長命な存在であるらしく、あまり動きが機敏ではないように見られます。言動にもやや呆けた所が見られる事も。
 クワルバルツに仕えている存在なのか彼女に忠実である様に見えます……が?

●『叛逆竜』ホド
 将星種『レグルス』に位置する竜です。
 天帝種嫌いの竜であり過去にクワルバルツや、クワルバルツの『先代』に戦いを挑んでいた野心的な存在でもあります。過去に『何か』あったらしく人間の事は滅茶苦茶嫌ってるレベルです。
 『流動』を操る権能を有しており、例えば風や雨、雷と言った事象を自在に操る事が出来ます。ただ今宵の天候は穏やかなので、彼の力は十全には出せない事でしょう。

 見つかると問答――ぐらいはするかもしれませんが。
 しかし最終的に殺しにかかってくる事が想定されます。ご注意を。

●夏雲(シアユン)
 亜竜種の魔種です。非常に食欲に貪欲な人物です。
 竜の『小間使い』にされているのか、竜の指示には忠実です。
 シナリオ開始時は遺跡にはいません。
 もしも竜が出てきたら……その傍にいたりするかもしれませんね。

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●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <黄昏の園>百月のクピディタース完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月10日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
ファニー(p3p010255)
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
ライオリット・ベンダバール(p3p010380)
青の疾風譚

リプレイ


「竜の住まう地にこんな遺跡があるとは……遠くから見ると人間の住居に似てるでありますけど、まさか竜が立てた……んでありますか? 一体どうやって、いや『どうして』と言うべきでしょうか……ちょっと気になるでありますね」
 ヘスペリデス。かの地への踏み込んだ『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は遺跡の近くにまで至りて感嘆の吐息を零していた。人間の住居に似ている気がするのは……恐らく偶然ではないのだろう。どういった意図があるのかはまだ読めぬ、が。
「ひとまず調査せねばならないでありますね」
「一時的な拠点にでも出来そうでしょうか? しっかりと隅々まで確認せねば」
「ふーむ。竜が関わってるだけあって随分と広そうな場所っスね……天井も幅も凄いっス」
 なんにせよこの地の状況を調査すべく行動を開始するものだ。ムサシは暗き場所があらば自らを光源とするべく発光の力をもって照らしつつ『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)はムサシの力が及ばぬ箇所へと視線を向けよう。
 さすれば彼女の暗きを見通す目がカバーする、という訳である。
 今日は月明かりがあると言っても内部に入れば光が無い場所もあろうと……
 更には『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)は優れた感覚をもってして周囲の警戒と構造調査にあたろうか。遺跡の状態や動物による利用の痕跡など……微かな手がかりも集めんとする。足跡の一つでもあればそこから解析できる事もあるものだ。
 同時。彼は手に抱くコンパスの針も見よう――
 どこかに隠し通路や部屋でもあるのではないか、と。此処は人の建物に見えて、そうではない代物。不可思議な構造がどこにあってもおかしくないが故に……
「ヘスペリデスって竜の住処だからあちこち竜がいる筈だよね……
 だからこそ安全な拠点が作れればいいんだけど。調査頑張ろー!」
 続けて『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は周囲の精霊と意志を交わせて調査の一端を担ってもらおうか。ただ……彼女が頼むのはこの場所を調べる、というよりも『近くに竜がいないか』の確認だ。
 いつどこから竜種の介入があるとも知れないが故に。
 ここは彼らの住処の真っただ中。危険だなんて――溢れれておかしくないのだから。
「『竜』って言うと『巣』のイメージなんだけどな、家かぁ。人の生活を真似して人を知りたかったのかね? ま、此処に常に住んでる……って訳でもねーのか。今の所、竜の姿見えねーし。てかもしかしてこれってベルゼーの奴の影響か?」
「ベルゼーさんは人っぽいしね。でも竜基準だからか……
 でっかい建物……建物……? 石を積み上げただけみたいな……」
 色々歪だなぁ、と『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)は『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)と行動を共にしながら周囲を窺おうか。リリーはファミリアーを先行させつつ前方の安全を確認。視覚、嗅覚、聴覚全ても活用しつつ往こうか。
 カイトは先のチェレンチィと同様に暗視の力をもってして隅々まで調べ尽くさんとする――鳥さんは夜の闇も見通せる鳥さんであれば、万能の鳥さんだ。
 まぁ『巣』でないのには、想像していた光景と違う所もあるが――
「家探しってだけだな! 竜の巣、いや家ならお宝があるのが相場ってもんだろ!」
「むむっ。しかしなんとなし……嫌な予感もするでござるな。
 竜の住処……勝手に入って良いか解らぬし、なるべく要件は早めに済ませたいでござる」
「前にめんどくさそうなヤツも見かけた事だしな――何事もなけりゃ、それに越したことはねぇが」
 次いで姿が見えたのは『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)に『特異運命座標』ファニー(p3p010255)か。それぞれ共に胸中に一抹の不安……とも言うべき『予感』がしているのだ。
 なんぞや、このままではいかぬと。
 カイトにしろ咲耶にしろファニーにしろ――竜との戦いの真っただ中にあった事がある。
 故の勘、であろうか。
 ……とはいえそれでも臆す訳にはいかぬと歩みを続けようか。ファニーはファミリアーの使い魔を二体使役し、各地へと飛ばそうか。遺跡の内部と外部をそれぞれ順繰りに――咲耶は音の反響を耳で聞き取りて、周囲に妙な構造や敵性生物がいないかに注意を払っていく。さすれば……
「……むっ。何か感じるな、この先に……少し大きめの生物、か?」
 同様に耳を澄ませていた『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)も勘付こうか。遺跡の内部に……己ら以外の生命体を感じたのである。
 壁ではない。無機質なモノでもない――生物だと。
 慎重に歩みを進めてみれば……おお、やはりなんぞやの影が見えた。
 もふもふの塊。現地の兎型の生物、ミラッドだ。
「……ふむ。中々の毛並みのようだな。しかしそれでも茶太郎の方がもふもふだな」
「わふ! わふわふ♪」
 遠目から見ても、ふんわかもふもふであると感じ得る――見事な球体だ。
 が、ベネディクトの傍に控えている飛べるわんこたる茶太郎には及ばぬと飼い主馬鹿発動。茶太郎も喜んでベネディクトにすりすり発動。落ち着け落ち着けと首を撫ぜてやり……って違う違う。ほんわかわんこタイムは微笑ましいが、今はそれ所ではないのだ!
「どうも追い払わないと、この先の調査は難しそうですね……
 仕方ありません。動くとしましょうか。
 ……この地を戦う為の拠点ではなく、竜種の方とも手を取り合える場所になったら」
 素敵なんですけどね――そう紡ぐのは『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)か。
 優れた三感と共に周囲を観察してみるのだが、どうにもミラッドが重要な位置に陣取っているらしい。ドラネコのリーちゃんも首を振って迂回路が見つからぬ事を伝えてくる……ならばやむを得ないか、と。
 周囲を探索する為に照らしていた発光の力を弱め、気配を薄める。
 皆と息を整え――そして往こうか。
 ヘスペリデス探索の一端を成す為に。


『ミッ、ミュ!?』
 独特な声を鳴らすミラッド。慌てふためくような声の原因は、イレギュラーズの介入が故に。
「鷹は兎ぐらい狩るんだぜ? 怪我したくなけりゃ、さっさと逃げるんだな!」
 言を放ちながら駆け抜けるのはカイトだ。彼はまず遺跡を傷付けぬ様に保護なる結界を張りながら、同時に先陣を切る。遺跡の巨大さが為にか、建物の内部で在ろうとも緋色の翼が全力で移動しうるだけの余裕もあらば彼を阻むものは何もない――
 ミラッド達の注意を引き付けつつ、更に全霊たる速度を武器としミラッドらを襲おうか。
 慌てながらミラッド達が角で反撃せんとしてくる、が。
「退いてもらうよ。まだまだこの遺跡は調べないといけないんだから……!」
「みなさんの場所に侵入してごめんなさい……! でも、通らせてもらいます……!」
 その反撃を横から穿つように至るのはリリーやユーフォニーである。
 リリーはカイトが攪乱したミラッド達の中枢へと堕天の輝きを堕とそう。敵陣が書き乱れる所へ間髪入れずユーフォニーは勇気を胸に――課長たる今井さんアタック。彼方まで届かせる課長の真髄がミラッド達を染め上げようか――今井さんすごい!
『ミュ~~!!』
「混乱して突撃してくるぞ! 追い払うだけで構わない、足の機動力は奪わぬ様にな!」
「うっ。もふもふの大群が来るであります……逃げるなら追わぬのですが……!」
「マジでもふもふだな……かわいい。ちょっとぐらい触る余裕あるか? ないか?
 狂暴性がなければ割とちょっとくらい触りたいんだが……だめか?」
 さればミラッド達は球体に近しいもふもふを活かして突撃。が、先らの攻勢によるのだろうか……統制は取れていない。故にベネディクトは槍を一閃。不殺の意志と共にミラッド達を薙ぎ払わんとする――後方では茶太郎が『ご主人様、がんばれ~!』と応援してようか。
 更にムサシやファニーもミラッドに相対。
 可愛らしいもふもふがやってくれば、やや戦意が削がれそうだが……しかし手を抜く訳にもいかぬと断腸の想いで迎撃しよう。ファニーは敵意を感知する術を張りつつ、遠方に指先一閃。星屑落として迎撃し――それでも至らんとするミラッドにムサシは至近から裁きを与える宣告を一撃。あ、毛並みに触れればもふもふの感触が……!
「やれやれ、元より無益な殺生は好まぬが……その造型が愛らしいと、つい手心を加えてしまう。拙者も精進が足りぬな。見てくれによって戦いの意思を変えるなど、あってはならぬであろうに」
「ささっと追い払うしかなさそうっスね。調査もまだ途中っス!」
 直後。ミラッドの愛らしい外見と声色に咲耶は思わず吐息零そうか。
 現地の生物にして罪なき者を害するは気がのらぬ――
 それでも、と。ライオリットも続けてミラッドに攻勢を仕掛けておくのだ。さすればミラッド達は段々と戦いの余力がなくなっていこうか……彼らは竜でも亜竜でもない。穏やかなヘスペリデスの地に住まう、ただの生物なのだから。
 イレギュラーズの攻勢が掛かれば散発的なもふもふの抵抗が精々だ――
「やはりというか、随分もふもふしてますね……あぁ逃げられました!」
『ミュ~~!!』
「まぁ無暗な殺生をしたい訳じゃないしね。逃げてくれるならそのまま逃がそうか」
「一、二の三……これで全部逃げた、かね」
 であれば隙を突いてモフモフを堪能していたチェレンチィ……だったが、ミラッドが暴れて振り落とさんとする。チェレンチィ自体は跳躍し安全に着地するが――その一瞬と共にミラッド達は散り散りに奥へと逃げ込むものだ。
 ミラッド達が退いていく――ぴょんぴょん飛び跳ね彼方へと。
 だが狙い通りであれば追う必要はない、とスティアは魔力の一弾を放ちつつも周囲の様子を再確認。残っているミラッド達がいないかファニーも確認するが、とくに潜んではいなさそうだ。
 イレギュラーズ達の地力が高かった事もあって治癒術自体もほぼ必要なかった。
 ここまでは順調。故に調査を――再開する。
「リーちゃん、また周囲を見てきてくださいね。そうしたら周囲もお願いします。
 水場とか、他に魔物とかが潜みやすい場所がないかとか……
 そういうのも分かるといいのですけど」
「後は図も作っておきましょうか随分と広いですし、道も幾つも枝分かれしていそうです」
 マリエッタは再度ドラネコのリーちゃんを走らせ周囲を知覚。どんな竜が何を思って造ったものなのか……その一端を調べるべく、事細かに遺跡を調べんとするのだ。そしてチェレンチィも飛行しつつ空から眺めるようにあちらこちらに視線を巡らせよう。
 ミラッド達が立ち塞がっていて観察できなかった場所を調査していくのだ。
「ううむ、しかしこのサイズ感……己が小人になった気分でござる。
 流石竜の住処に作られたもの、と言えるでござるな……」
「壁もすげー分厚いな。分厚いってか、でけぇ岩しか使われてないというか」
 次いで咲耶も音の反響を頼りに内部の構造を把握せんとする。生活の跡が微かにでもないかと……さすればカイトも透視の術を用いて周囲に隠し部屋などが存在していないか確認しようか。
 それ自体が発見できずとも問題はない。いきなり壁際から何かが『コンニチワ』するのを防げればそれでいいのだ――先程保護結界を巡らせた事もあり、周囲の破損は最小限に抑えられている。さぁどこかに何かないかと――
 皆が皆、再度の調査に集中せんとしていた……正にその時。

「……! 皆、気を付けて! 竜が――来るよ!」

 スティアが声を張り上げた。
 彼女の耳元に精霊がやって来てくれたのだ。
 恐ろしいモノが来る。今すぐ逃げるべきだと――
 であれば声とほぼ同時に、まるで地響きのような足音が響き渡った。
 巨大なる質量をもった『何か』が近付いてくる証左だ。いや……最早『何か』ではないか。
「――おやおや。なんぞや、騒がしいと思っていれば。
 人間がこんな所にまで入り込んでいるとは、のう」
 それは先程スティアが述べた様に、竜が近付いてきていたが故にこそ。
 そしてその者とは――エチェディであった。


 近付いてくる足音、と同時に何か『咀嚼音』も聞こえた。
 エチェディの口端に何かついている。血のような……まさか。
「先程の、ミラッド……! 喰らったのでござるか……!」
「……あの子らに戦意はなかった筈なのだが、な」
 勘付いたのは咲耶やベネディクトか。ベネディクトの背後では茶太郎が警戒の唸り声をあげている――竜からすれば動物など餌も同然と言う事かもしれない、が。先程まで可愛らし気な声を出していた存在が今や声すら発せぬとは……
 だが竜が近付いてきた以上、ここからの行動には慎重にならねばならぬ。
 しかも竜の気配は一体だけではないのだ。これは――
「虫けらどもめ……どこから入った。やはり踏みつぶされねば分からぬか」
「ホド、か……竜が二体もいるとはな。
 この場所はそちらにとって大切な場所なのか?」
「――これは思わぬことを聞くな。大事か、大事でないかに関わらず……
 お前は例えば、自分の部屋に害虫が出現しても顔をしかめないのか?」
 『叛逆竜』ホド、だ。今宵は人型の姿でベネディクトらの前に姿を現わそうか。
 此処はホドにとって住処の一端である様に窺える。そして人間達は家の中の一角の部屋に侵入した害虫だと――そうなら竜種の怒りを買ってまで拠点にまでするメリットはないのではとベネディクトは思考をしようか。
 今すぐにでも撤退するのも一つの道だ、が。
「――なんだか意外な組み合わせだね。
 前回は敵対していたように見えるけど竜種の人達も色々とあるんだねぇ」
「……そう、確かに。貴方の方は先日の戦いではクワルバルツの方についていたはずでは?」
「ほっほっほ。人間の間でも、そういう事はあるであろう?
 嫌い合っているのは薄明殿とホドの両名よ。我はそうと言う訳でもない」
「ふぅん。確かに、その辺りは人間とも変わらないね」
「しかし、それでも黙って敵対してた奴と接触するのは――クワルバルツに対する裏切り行為と言えるのではないっスかね。少なくとも好印象は抱かれない行いだと思うんスけど」
「人間が心配してくれているのかの? 無用よ。我は我の事情があるし――
 それにそもそもお前らが此処から生きて帰れるとも限らぬしな」
「おぉうそれは……口封じってヤツっスかね?」
 スティアやチェレンチィはあえて言を紡いでみよう。特に不思議たるはエチェディの姿が此処に見える事か……何か『意図』を感じ得る、と。ライオリットも追及してみるが――向こうは何か『はぐらかして』いる気がする。
 決して竜だからと全て仲が良く一枚岩……とは限らぬとは分かっていましたが。
(何か思惑があるんでしょうか。しかし……迂闊な言は即座な戦闘になりそうですね)
 チェレンチィはなんとか探らんと思考を巡らせる、が。同時に危険が水面下に潜んでいるとも感じていた。竜……特にホドから人間に敵対心を感じようか。今の所は問答無用で襲い掛かって来る気配はないが……それは恐らく向こうも機を窺っているからかと。
 ここを住処の一部――人間で言う所の家の一部――ならば、なるべくならば壊したくない心算があるのではないだろか。故、この一時にしか聞けぬ事を聞いてみよう、と。
「でもさ。どうしてそこまで人間を嫌ってるのかな――?
 昔に痛い目にでも合わされたりしたのかな? 人間に」
「黙れ小娘。貴様のような、どこぞの聖職者面をした女など……」
「あれ。なにか図星だったのかな?」
「うむ。そこの若造はの、大昔にゲルダシビラ様と仲の良かった人間の小娘に痛い目に合わせられているのよ。あれはどこぞの神職の者だったのかのぅ……『人間なんぞ~』とか普段ぬかしておきながら奴の放つ撃全てを治癒され、あまつさえ足元救われたあの戦いは――おっと殺気が」
 スティアはホドの人間嫌いの事に触れてみる。ホド自身は苛立ちながらも流す……つもりが、エチェディによる言でなんぞやを掴めた。どうも聖職者の女性が介入していた事が――ホドの恨みの根源に当たるのか?
「てか、晴天でも出るのかよ……!? 晴天だよな? ん、だよな?
 リリーもおまじないまでしたもんな……!!」
「竜を舐めるな小鳥が。私は嵐の日でなければ生きていけない程、脆弱ではないぞ」
「あれ……もしかしてだけど、あの時の竜だよね……!
 この辺りを縄張りにしてるのかな……?」
 次いでカイトも以前見かけたホドの事に言を零す……ホドと言えば流動の力を振るう竜であった。故に天候が穏やかであった此処に出でるかは分からなかったが、ホドも自身に竜としての膂力が宿っている。
 天候が穏やかであろうとも彼にも彼の強さがあるのだ。
 ――故にリリーは最大限の警戒を巡らせておこうか。
 竜がいつ暴れ出すとも限らない。が、貴重な機会でもあれば……何か情報を引き出しておこうと思案を巡らせるものだ。ただ、やはりと言うかホドは随分敵対的。
 人間など虫だと何度となく見下してくる。
 では情報を得ることが出来るとすれば……
「初めまして、ユーフォニーです」
 エチェディの方ではないかとユーフォニーは、そちらへ視線を向けようか。
「みなさんの場所に侵入してごめんなさい……!
 ですが竜の方と争うつもりはないんです。むしろ手を取り合えたらと――思っています。
 ……お腹が空いていらっしゃるんですか? ミラッドを食べる程に……」
「こんなのは食事の内にも入らぬがな。
 お前達とて、霞を食べても満たされぬであろう? そう言う事よ」
「霞。では貴方は……一体なにを食べれば満たされる、と?」
「さてさて――少なくとも人間ではないのぅ。
 我らの寿命からすればお主らなどすぐさまに成熟が過ぎ去る程度にすぎぬが故に」
 同時に彼女はエチェディの様子を探り続けようか。はぐらかされても、言い回しに隙がないか――何の意図が込められているか――悟らんとするのである。基本的に竜はベルゼーに好意的な存在も多いが……しかし竜種にもそれぞれあり、思惑は異なっている。
 では、エチェディの思惑はなんだろうかと。
 ホドはクワルバルツを倒したい。ではエチェディは――?
 そも、竜は一体、その巨体や威を賄うために……どんな食事を取っているのだろうかと、彼女は疑問に思っている面もあるのだ。少なくとも眼前にいるエチェディはミラッドを食べた程度では満足していないように見える――
「エチェディさん。お久しぶりです。
 ……これを作ったのは……もしかして、貴方でありますか?」
「ちょっと質問いいかな。この遺跡、誰が何の目的で建てて誰が使っていたか知ってるか?
 あぁそっちの所有物だってんならすぐにでも退散させてもらうさ――だからの確認だ」
「ほほ。さてさてのう。ヘスペリデスにある遺跡は、ベルゼーの想いが故のもの。
 あ奴か、あ奴の想いを察した者が作り上げたのではないかの。
 少なくとも我ではない。いつか崩れ果ててしまうものなど我は作らぬ」
 と、その時。ムサシやファニーもエチェディへと語り掛けてみようか。
 ムサシはどうしても不思議だった――なぜ人間の住処を模して造られたモノがあるのか、と。ベルゼーは……やはり亜竜種の事を忘れられないのではないだろうか。竜種は人を見下す者も多いが、しかし亜竜種と接する事の多いベルゼーはやはり……どこか想いが異なる。
 しかし同時にエチェディは、なんぞや無機質な所も感じえようか。
 エチェディはあらゆる事に無関心である様な――そんな印象をムサシは受けていた。
(人間はおろか……ベルゼーが成す事や、隣にいる竜にすら左程の心を宿していない様な……)
 何故だろうか。老竜に見え得る雰囲気が、何か彼に悟りのようなモノを開かせているのだろうか。それとももっと何か『別』の事情があり、他者に何か想いを抱くなど無意味と考えているのか――
 が。それよりもファニーは、言を紡ぎながら感じる気配があった。
 エチェディ、ホドの他にも……もう一つ己らに向けられている『敵意』がある事を。どこかに潜んでいる存在があるのだろう。そしてそれは……きっとあの『悪食娘』ではないかと推測するものだ。
 姿を現わしていないのは、背後に回っているからか?
 こうして言葉を交わせているのは――時間稼ぎ?
(まずいかもな。あんまり話を続けてると……逃げ道を潰されるかもしれねぇ)
(ホドも大分ピリピリしている様に感じられます――そろそろ動きましょうか)
(では拙者が隙を作るでござる)
 敵の意図に気付き始めたファニーが小声で仲間と連携を取らんとしようか。さすれば広き視点を持つチェレンチィが逃走口に適している方面を見据え……同時に咲耶が意を決して一歩前に出で、て。
「エチェディ殿、先日の森では世話になり申した。もっともお主は拙者を覚えてはおらぬかもしれぬでござろうが――お主は薄明殿に仕える竜だったのでござるな。かなりの高齢とお見受けするが先代の時から仕えておられるという事で宜しいでござろうか」
「うむ? お主は……誰だったかのぅ。見た事があるような、ないような……」
「おいおいおいおい、またか? 俺のことはどうだ、覚えてるよな?
 竜にとっては一瞬前のことだぞ? 俺より鳥あたまか?」
「はて。そっちも誰だったかのぅ……人も鳥も同じ顔にしか見えぬでな……」
「何言ってんだ。俺が知ってる水竜様はそんな事なかったぜ?」
 エチェディらの注意を引かんとするものだ。更にはカイトも言を紡ごうか。
 エチェディが両名の顔を忘れている……というのは本当か、それとも嘘か。呆けた様子を見せているが、なんとも臭さを感じえる。わざとらしいというか、なんというか……
「ともあれ、うむ。薄明殿の先代様と言えば我にとっても馴染み深い御方よ――
 あぁお美しい方であった。気高く崇高にして命に富んだ御方だった。うむうむうむ――」
「しかしそれならば、尚に目的が解らぬな。何故お主が薄明殿に敵対する竜と共におられる。以前申していた若く芳醇なる実とやらの為でござるか? それがそちらの竜と共にあれば――手に入れられるのでござるか?」
「はてはてはて――実? そんな事を言ったかの?」
 やはり、わざとらしい口ぶりだ。
 故にこそほとんど確信しうる。エチェディの目的とは『実』だ。
 しかし『実』とは。そのままの意味での果実を指している訳では――ないのでは?
 例えば実とは比喩でありエチェディが求めているモノとは……
 若く……芳醇……? 生命力があるモノと言う事か……?
「それって、ベルゼーさんも同じなのかな?
 ベルゼーさんっていつもお腹空かせてるもんね――」
「ベルゼー……あぁ、あ奴は根源の暴食であればな。あ奴はなんでも喰らう。
 それこそ竜であろうとも喰らってしまおうぞ。その気になればな」
「じゃあベルゼーさんの影響を受けた人……いや竜がいたら大変だね」
 刹那。エチェディの様子を窺いながら――スティアは再度、問う。
 クワルバルツにも深い関わりのある『先代』その者が行方不明になったという点に、大いに引っ掛かっているのだから。流石に、如何な冠位魔種であろうとベルゼーが竜を簡単に食べたりする訳はない、と思うが……
 しかし別の者であればどうだろうか。ベルゼーの影響――つまり。
 魔種に至っている竜などがいたら。
 ……エチェディからは魔種としての圧は感じえないが、しかし。
「ほっほっほ――成程」
 ……竜はそれぞれ強大な能力を宿している場合がある。
 例えばクワルバルツは重力の能力を宿し。他にも流動、堅牢といった力を宿す者もいる。
 ではエチェディにも何かあるのではないか――?
 或いはエチェディでなくても、特定の条件で使える『何か』を持っているとか――

「お主は何か我から探ろうとしているな? ――夏雲。殺せ」
「はいはい~♪」

 が、その時。エチェディはどこぞへと命を下したかと思えば――
 岩場の影に潜んでいた者が一気に跳躍して姿を現わした。
 それは明確なる魔種。ラドンの罪域で敵対した夏雲なる亜竜種だ。
「出たな悪食娘! 悪いがそう簡単に食わせてやらねぇぜ!」
「撤退だ! 行くぞ、走れッ! 振り返るな――竜に追いつかれたら終わるぞッ!
 直接やり合うには拙い状況だ。仕切り直すより他はないッ!」
 が、警戒を常に怠らなかったイレギュラーズ達にとってその襲来は予想外ではなかった。故にこそ行動は早く――ファニーは即座に指先を夏雲へと。ついでにホドも巻き込んでやれば、一気に魔力が襲来しようか。
 指先が死をなぞり圧を加える――更にベネディクトも声を張り上げ、剣撃三閃。
 夏雲が立ち塞がらんとしていた所へと一気に攻勢を加え道を抉じ開けんとする。
 あぁ、相手の数は少ないとはいえ……此処の実力ではあちらが上であればやむなし。
 今は生き残る事を――優先する!
「おのれ人間がッ。逃げれると思うのかッ!!」
「逃がしてもらうでありますよ……! 此処は幸い、逃げ道も多いですが故に!」
「あー、ったくもう!! 遺跡壊れないように結界貼ってたのに!
 俺もう知らん! 俺もう逃げるからな!! 鳥さん帰るからな――!!」
 然らばホドが怒るものだ、が。前に遺跡を可能な限り調査していた事が功を奏した。
 脱出路までのルートを把握できているのである。更に人工物の様に見えて人工物ではない巨大な遺跡であればこそ内部は複雑怪奇な造り。つまり、ここは竜が人を追い立てやすい様な地ではないのだ。むしろ竜の身では通りにくいルートも幾つかあった。
 それらを駆使すればここから逃げる事は決して難しくない……!
 更に今回はラドンの罪域での戦いと異なって天候も穏やかだ。
 ホドの能力は十全には扱えない。彼は彼自身に宿る膂力しか使えないのであれば。
 ムサシが剣撃一閃。渾身の焔を振り絞り剣に纏わせれば強烈たる一撃が襲い掛かろう。
 そしてカイトも神速たる身を活かしながら敵の撃を攪乱し。
「私が殿を務めるよ。皆は先に行って!!」
「ほほ――そう簡単に逃がすと思うかの?」
「逃がさせてもらうっスよ。それより最後に……
 今まで、覇竜において食べた中で一番おいしかったもの何っスかね?」
 直後にはスティアが殿を務めようか。あらゆる撃を遮断しうる術を己に巡らせ、耐えんとする――さればエチェディが追ってくるものだ。術など関係ない、踏みつぶすとばかりに……そんなエチェディへとライオリットは言葉を放ちながら――同時に心を読む能を発動させる。
 『実』の正体を探るのだと――が。
(んなっ……? なんすか、今。『弾かれた』――? でも、今一瞬見えたのは……)
「甘い。甘いのぅ。我とて竜よ。人の術など効かぬ効かぬ」
 何かに弾かれた。それは何らかの加護、能力か?
 『ソレ』がエチェディの能力の一端なのだろうか――しかし。
 ライオリットは微かに感じた。心を読む術を『弾いた能力』が発動した瞬間……エチェディではない竜の存在を、エチェディの中に。ソレがライオリットの力を弾いたのだが……なんだ? 奴の中に……何がいる? しかも一体ではなく『複数体』の様な。
「皆さん、この先です! 竜ならば簡単には入ってこれない筈……!」
「待てぇ~そう簡単には逃がさないよ」
「あっ! あの時の……魔種! こんな所にまでやっぱり来たんだね……!」
「しつこいですね……夏雲。貴方の目的はなんですか」
 ともあれ、と。ユーフォニーも撤退を支援する為に応戦。
 彼女より放たれる光が竜らに放たれる――その隙に、竜が入ってこれない様な細い道へと入るのだ。ミラッドの足跡も幾つか見えれば……竜の様な巨体のままでは追ってこれまい。一方で亜竜種たる姿の夏雲であれば話は別な訳である、が。
 如何に魔種とはいえ覇竜領域にも至る事が出来る強者のイレギュラーズ達であれば即殺出来るような状況ではない。リリーは襲って来た夏雲へと即座に応戦。撃破よりもその足を止める事を主眼とし、一撃紡ごうか。続けざまにはチェレンチィは、自らに戦いの加護を宿しつつ――速度を武器に彼女を迎撃。
 夏雲の振るう骨の一撃を食い止め言の葉も投げかける。
「竜の肉を食べられるかも――そんな事を言っていましたね?
 それは一体どの竜の事ですか? そしてどういう意味ですか?
 竜は……そう簡単に倒せるようなモノではないでしょう」
「ふっふ~さぁね? でもきっと来る。こんな穏やかな天候の日なんて吹き飛ぶような出来事が、近い内に絶対来る。その時私は食べれるんだ。『おこぼれ』だけでもね♪」
「おこぼれ……? となると……エチェディかホドが狙う個体……」
 夏雲自体がなんぞやの竜を倒す、という訳ではないのか。
 やはり――この場における竜のいずれかが『誰か』を倒すつもりで――
「エチェディにホドが来るでござる! お急ぎを!!」
「チッ。あまり派手に暴れれば、本当に壊れるな……! エチェディ、あまり爪を振るうな! お前の一撃は竜――」
「ほっほ。普段はあれそれ調子に乗っているのであるから、意地を見せてみせよ」
 されど思考している暇も惜しいと咲耶は、周囲の状況を『耳』で捉えるものだ。
 エチェディやホドと言った竜が暴れれば、それだけで不安定な石造りの遺跡は瓦解する様子を見せ始める。だからこそホド達は全力を投じる事が出来ず、細かな動きを行う事が出来るイレギュラーズ達は暗闇から暗闇へと移動し続け……その姿を晦ませようか。
 されば夏雲も深追いはせぬ。イレギュラーズ達が退いているのは、竜の戦力があってこそ。
 一対十で仮に戦闘となればどうなるか分かりはしないのだから――
「はぁ、はぁ……ここまで逃げれば、もう大丈夫でしょうか?」
「息は潜めておく必要はありそうですが……そうですね、大丈夫でしょう」
 されば遺跡の片隅から脱出したイレギュラーズ達は、近場の森へと逃げ込んだ。
 ホドらは遺跡に気を使っているからか、強引にブチ破って出てくる様子もない――今の内に、この闇夜と木々を利用して離れれば流石に向こうも追ってこれないだろう。
 しかしなんともはや、竜と仲良くなるのは難しい様だ……
 エチェディは何か企んでいるようだし、ホドはそれ以前に人間を毛嫌いしている。
「……竜、かぁ。いつか、リリーも竜達と仲良くなりたいな……」
 だけど、それでも。
 いつの日か手を取り合える竜もどこかにはいるのではないかと――
 リリーは月を見据えながら想うものだ。きっと。きっと――と。
「あぁ。希望は、なくはねぇさ」
 であればカイトは……かつて出逢った水竜様の事を、やはり思い浮かべようか。
 人と竜は共には生きられない、そりゃ、きっと普通はそうなんだろう。
 でもだから俺は――水竜さまを信仰して語り継いでいくんだ。
 尊敬できる長生きな隣人として、会えないとしても。
 いつかまた水竜様に出会えた時、胸を張って逢えるような者である為に。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 竜にも数多の思惑があるようです。ヘスペリデスを愛する者、同族でも敵視する者、そして……
 ともあれ、ありがとうございました――

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